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天野先生を送る

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Academic year: 2021

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神戸市外国語大学 学術情報リポジトリ

天野先生を送る

著者

井上 幸和

雑誌名

神戸外大論叢

49

2

ページ

1-2

発行年

1998-09-30

URL

http://id.nii.ac.jp/1085/00001533/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

天野先生を送る

井 上 幸 和

 当時、というのは今から四半世紀以上も前、現在も継続している「日本古 代ロシア研究会」が京都大学教養部ロシア語教室を中心に定期的に開催され ていたころ、小生も新入会員として末席を汚していたが、10人足らずの会員 の中に、大先輩格として天野先生がおられた。と言っても、親しくお話をす る機会はほとんどなかったように記憶している。見るからに学究肌で、一言 で言えば、他の研究会メンバーのなかでも、最も取っつきにくい先生の代表 であった。  親しく、それもきわめて親しくお付き合いをさせていただくようになった のは、1983年、教授として本学にお迎えしてからである。・爾来、本年3月に 退官されるまでの15年間のお付き合いで得た知見から、天野先生の学問と人 となりを、記させていただ㍍  本学にお迎えしてまだ日も浅い頃、京都大学教養部から本学ロシア学科へ の転任を決意された理由を、おうかがいしたことがある。一教養部という ところは、新入生を学部に送り出すまでのしばらくの受け皿に過ぎず、学生 を育てて卒業させるという実感はほとんどなく、「気象な」ところではある が、拾年一日のごとく教室だけでの学生との接触であることが、物足りなかっ た。1年から4年まで学生と接触し、しかる後に社会に送り出すという本学 のような専攻学科で教鞭を執ることが、長年の夢であった。一小生からす れば煩わしいだけの教育者としての側面を、天野先生は、大きい魅力と感じ られていた。事実、赴任されて以来、教室では折に触れてご自身の人生観を        (1)

(3)

吐露されつつ熱弁をふるい・.また・介気ゼミの一つ干して・ゼミ学生と文学 論を闘わせておられた天野先生のお姿を見ると、まさに「水を得た魚」の比 喩がぴったりであるように思えた。退官を間近に控えた昨年度の1年間、先 生は何度となく、「これが最後の1年」と感慨をもらしておられた。  天野先生のご専門は、「文学」という狭い定義を越えて「言葉を介しての 人間学」とでも言えるような、あるいは人間性を露にした<記号論>であっ たような気がする。その表現の最大の場が、生身の学生を相手にしての教室 であったようである。「言語」を切り刻むという分析だけでなく、再び紡ぎ 直すことに大きい労力を費やされ、結果としてそれが、ロシア文学の文体論 的研究に結実したことがわかる。  1990年度には在タ岬研究員としてパリ第4大学において研鍍を積まれ、先生 のライフ・ワークとも言える、「19−20世紀ロシア・フランスの文化・文学 的影響関係の研究」を進められた。ご退官後は、ご自身の宣言どおり、全く の自由の身になられて、日本と海外との半々の生活を実行されている。つい 先日も久しぶりにお電話をいただいたが、それはパリからで、しかもこれか らハンガリーに向かわれるとのことであった。  普段は平静この上ない先生が、ひとたび決心されるやまっしぐらに実行さ れるそのエネルギーは、先生よりは若いはずの小生がすでに持ち合わせない ところであり、精神の若々しさで言えば、小生の方が先に退官して然るべき 程である。しかし、通算すれば40年以上になろうかという先生の「勤続年数」 から推し量れば、まさにこれからが先生にとっての、何ものにも束縛されな い真の「第2の人生」、先生の長年夢見られてきた本当の旅、言葉を紡ぐ 「文学の旅」の始まりなのかも知れない。  ありきたりの文句になってしまうが、先生に対しては特別な意味を込めて、 ご健康に気をつけて、思う存分、理想の「第2の人生」を実行していただき たい。長年のお勤め、本当にお疲れさまでした。 (2)

参照

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