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主観性を表す形容詞と 語彙的モダリティ

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Academic year: 2021

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(1)

主観性を表す形容詞と

語彙的モダリティ

長谷部郁子(筑波大学非常勤講師) 2013/9/7 MLF 2013 於慶応義塾大学日吉キャンパス 1

(2)

1.はじめに

• なんらかの話者の「主観性」を表す形容詞 (渡辺(1991)、澤田(1993)) (1) a. 悲しい、寂しい、暑い、寒い、(遊び)たい、(本 が)欲しい b. 明るい、大きい、赤い、分厚い、重い(cf. 重たい) • 渡辺(1991)の2分類 (2) a. 「わがこと」性形容詞:嬉しい、悲しい、楽しい、寂 しい、など (1人称主語のみ: (1a)) b. 「ひとごと」性形容詞:分厚い、明るい、静かだ、

(3)

1.はじめに(続き)

• 「主観性」を表す形容詞の主語制約と省略 (渡辺(1991)、長谷部(2008)) (3) a. (私は) {悲しい/暑い/外で遊びたい/本が欲しい} 。 b.??/*彼は {悲しい/暑い/外で遊びたい/本が欲しい} 。 (3a):省略可能な1人称主語 (3b):1人称以外の主語は不可 • 過去形による改善(澤田(1993)) (4) 彼は {悲しかった/暑かった/外で遊びたかった/本が欲 しかった} 。 3

(4)

1.はじめに(続き)

• 「主観性」を表す形容詞の主語制約と省略 (長谷部(2008) cf. 長谷川(2007)) (5) a. そのプレゼントをもらって、(私は)嬉しかった。 b. (昨日は私の住むところは気温が高かったの で、)(私は)暑かった。 (6) a. (昨日は彼の誕生日だった)皆からプレゼントを もらって、*(彼は)嬉しかった。 b. (昨日は彼の住むところは気温が高かったので、) *(彼は)暑かった。

(5)

1.はじめに(続き)

• 接辞「-がる」による動詞化 (7) a. 悲しがる、寂しがる、暑がる、寒がる、(遊び) たがる、(本を)欲しがる b. *明るがる、*大きがる、*赤がる、*分厚が る、??重がる(cf. 重たがる) → 「-がる」は「わがこと」性形容詞のみを動詞化 5

(6)

問題の所在

(8) a. なぜ、(1a)の形容詞は1人称主語のみを許す のか。 b. なぜ、(1a)の形容詞は過去形になると1人称 以外の主語も許容するようになるのか。 c. なぜ、(1a)の形容詞は(6)のように1人称以外 の主語の出現が許される場合でも省略は許さ れないのか

(7)

問題の所在(続き)

(9) a. (8)に挙げた問題にはどのような統語理論的道具 立てを用いて説明が与えられるか。 b. 渡辺(1991)や澤田(1993)による意味的な一般 化は、どのようにより一般的な制約に帰すことが できるか。 c. 「主観性」のような、形容詞が語彙的に持つ意味 と形態論はどのように統語構造と関連するのか。 d. 話者の心的態度(モダリティ)は形態論やアスペ クトなどとどのように関わるのか。 e. このように考えることで、影山(1993)以来の「モ ジュール形態論」の枠組みをどのように再構築す ることができるか。 7

(8)

本発表の主張

(10) a. 「主観性」を表す形容詞は「語彙的モダリティ表現」 であり、統語構造上でAL(exical)-Modalとして実現する。 b. 長谷川(2007)で分析されている、間接目的語に 人称や省略に関する制限が存在する授与動詞「く れる」も「語彙的モダリティ表現」であり、統語構造 上でVL-Modalとして実現する。 c. 「語彙的モダリティ表現」は、CPシステム内のモダリ ティを表す機能範疇ModalPの主要部との素性の 「照合」により、その指定部に1人称を表す要素の 生起が要求され、その要素の省略が許されるよう になる。ただし、ModalPと「語彙的モダリティ表現」 の間に「照合」を妨げる要素が介在する場合はこ の限りではない。

(9)

本発表の構成

2. 人称制限と省略のメカニズム(長谷川(2007)) 3. 語彙的モダリティ表現としての形容詞や動詞 4. 理論的帰結 5. 結論と今後の課題 9

(10)

2.長谷川(2007)

• 授与動詞「くれる」「もらう」: 省略する受益者=必ず話者 → 話者指向モダリティ表現 (11) a. 彼女は(私に)手紙をくれた。 b. 彼女は(私を)助けてくれた。 c. 彼女は*(彼を)助けてくれた。 (12) a. (私は)手紙をもらった。 b. (私は)宿題を手伝ってもらった。 c. *(彼女は)宿題を手伝ってもらった。

(11)

2.長谷川(2007)(続き)

• 「くれる」:vに基底生成 [+ Speaker] → CPシステム内のModPの主要部と素性一致 • Mod:[+ Speaker] → この範疇に移動してくる要素は[+ Speaker]を有して いなければならない

(13) [ModP [Spec [+ Speaker]] [[vP [DP 受益者[± Speaker]] [v くれる [+ Speaker]]] Mod [+ Speaker]]]

(14) 省略の条件:CPシステム(TopPまたはModP)の指 定部の要素(もしくはその主要部と「一致」した要 素)は省略の対象となる。(長谷川 (2007: 337))

(12)

2.長谷川(2007)(続き)

• (13) & (14):(11)の人称制限や省略を説明

← (12)の「もらう」の主語も同じ(長谷部(2008)) • CPシステムについて

(15) a. [ForceP Force [TopP* Top0 [FocP Foc0 [TopP* Top0 [FinP Fin0 [

IP … ]]]]]] (Rizzi (1997))

b. [ModP [[TopP [[TP …… ] Top [- Speaker]]] Mod [+ Speaker]]] (長谷川 (2007))

• 主題省略は常に可能:TopPとの一致

(16)私の弟は困っていた。(私の弟は)彼が助けて くれた。

(13)

3.語彙的モダリティ表現

• 形容詞主語の人称制限と主語省略 (2) a. 「わがこと」性形容詞:嬉しい、悲しい、楽しい、 寂しい、など b. 「ひとごと」性形容詞:分厚い、明るい、静か だ、大人しい、素直だ、など (17) a. 私は今、 {*ずいぶん/とても} 悔しい。 b. この本は、 {ずいぶん/とても} 分厚い。 13

(14)

3.語彙的モダリティ表現(続き)

• 形容詞主語の人称制限と主語省略(続き) (3) a. (私は) {悲しい/暑い/外で遊びたい/本が 欲しい} 。 b.??/*彼は {悲しい/暑い/外で遊びたい/本が欲 しい} 。 (18) 私は今、 {??ずいぶん/とても} 暑い。

(15)

3.語彙的モダリティ表現(続き)

• 澤田 (1993:250):渡辺 (1991) の規則はそのまま では強すぎる。 (19) a.彼は {悲しかった/暑かった/外で遊びたかっ た/本が欲しかった} 。 (= (4)) cf. (3b) b. 私はその時ずいぶん{悔しかった/暑かった}。 cf. (18) (20) 感情表現における過去時制の原則:感情表 現においては、現在形よりも過去形の方が客観 性が高い。 (澤田 (1993: 249)) 15

(16)

ここまでのまとめ

(21) a. 「主観性」を表す形容詞は現在時制の場合、 [+ Speaker] の主語のみを許す。(話者指向 モダリティ b. 「主観性」を表す形容詞は過去時制により 客観性が高まる → (21a): 「主観性」を表す形容詞は、「くれる」同様、 CPシステム内のModと関係するモダリティ 表現である。 (21b): TPに現れると考えられる過去時制がモ ダリティ表現の指定部に[- Speaker]を許 す原因となっている。

(17)

提案

• 長谷部 (2008) の2分類:機能的モダリティ(=統 語的モダリティ)と語彙的モダリティ (22) a. 統語的モダリティ:真正モーダル表現 (井上 (2007) cf. 上田 (2007)) e.g.「だろう/そう」 Mod 井上(2007)、上田(2007):Mod(al)の細分化 「主観的表現」(金田一 (1953))、「第3類の助動 詞」(渡辺 (1971))、「態度層」(澤田 (1993)) b. 語彙的モダリティ:授与動詞、「主観性」を表 す形容詞 17

(18)

提案(続き)

• 語彙的モダリティ表現(L(exical)-Modal)の統語

構造上の基底生成位置:XL-Modal [+ Modal]

• 準機能範疇=機能範疇と語彙範疇の中間的な

性質を有する範疇 (長谷部(to appear))

(23) a. AL-ModalP b. VL-ModalP c. ModalP

指定部 ModalP’

[+ Speaker]

ANP AL-Modal VP VL-Modal TP Modal

悲し い [+ Modal] くれる [+ Modal] [+ Modal]

(19)

提案(続き)

• CPシステム内のModal:語彙的モダリティ表現の指

定部に[+ Speaker]要求 (長谷部 (2008:308-309))

(24) a.機能範疇Modalは、素性 [+ Modal] を有し、その

指定部には [+ Speaker] の素性が存在する。

b. Modalの 素性[+ Modal] がprobeとなり、同じく

[+ Modal] を有し、XL-Modalに基底生成される、 goalである語彙的モダリティ表現を探し、素性を 「照合」することにより、照合された語彙的モダ リティ表現の [+ Modal] が、その指定部に素性 [+ Speaker] を要求するようになる。 c. [+ Modal] は常に [+ V] を有するgoalを探す。 (25) a. [+ V] :V, A b. [- V] :N, P 19

(20)

提案(続き)

• 省略について:長谷川(2007)の(14) → (26) (26) CPシステム(TopPまたはModalP)の指定部と 同じ素性を持つ要素は、省略の対象となる。 •人称制約と省略 (3) a. (私は) {悲しい/暑い/外で遊びたい/本が欲しい} 。 これら全ての形容詞の生起位置:AL-Modal [+ V]

→ CPシステム内のModal:probe AL-Modal:goal

→ 素性照合、 AL-Modalの指定部に[+ Speaker]要求

→ 指定部に1人称要素 ([+ Speaker])のみ生起可、

(21)

提案のまとめ

(27) 統語的モダリティ ModalP 真正モーダル TP Modal 語彙的モダリティ

授与V、主観的A VL-ModalP/AL-ModalP T

非モーダル表現 VP/ANP VL-Modal/AL-Modal

(1b)など

(22)

提案のまとめ(続き)

(28) ModalP Spec Modal’ [+ Speaker] TP Modal [+ Modal]

VL-ModalP/AL-ModalP

Spec VL-ModalP’/AL-ModalP’ [+ Speaker]

VL-Modal/AL-Modal

(23)

「-がる」による動詞化について

(7) a. 悲しがる、寂しがる、暑がる、寒がる、(遊び)た がる、(本を)欲しがる b. *明るがる、*大きがる、*赤がる、*分厚がる、?? 重がる(cf. 重たがる) (29) 心的態度を表す接辞「-がる」は、[+ Modal]を持つ AL-Modalのみを選択して動詞化することができる。 •非モダリティ表現の形容詞:(1b) (30) AP ANP A 「-がる」 明る い [- Modal] 23

(24)

「照合」が許されない場合

1. XL-ModalとModalの間に他の[+ V]要素が介在 • 形容詞の過去時制:V「ある」([+ V])の出現 (31)美しい utsukushi-i / 美しかった utsukushi-ku-at-ta cf. Aの統語構造:Urushibara (1993), Nishiyama (1999) → 「ある」が照合を阻害、[+ Modal] は [+ Speaker] を要求せず。[- Speaker]の3人称主語が可能に。 (4) 彼は {悲しかった/暑かった/外で遊びたかった/ 本が欲しかった} 。

(25)

「照合」が許されない場合(続き)

(32) ModalP Spec Modal’ [+ Speaker] TP Modal [+ Modal] VP T た AL-ModalP V ある [+ V] Spec AL-ModalP’ [±Speaker] AL-Modal [+ Modal] 25

(26)

「照合」が許されない場合(続き)

• [+ Modal] について(長谷部 (2008)) [+ Modal] :解釈可能な意味素性 ← 素性の「照合」は本来、φ素性のような解釈不能な 形式素性に対して行われる。 ← [+ Modal] それ自体は解釈可能な意味素性であっ ても、形式素性(人称の素性)に関わり、「照合」 の対象となる。 ← 「照合」により [+ Speaker] の導入という [+ Modal] の統語派生による操作が収束 ← [+ Modal] の意味解釈は「照合」により操作が収束 しなくてもLFで行われ派生自体は破綻せず。

(27)

「照合」が許されない場合(続き)

• 形容詞の否定形について:否定表現「ない」(形式 上はA)の出現 (cf. 長谷部 (2008)) (33) a.*(誕生日にそんなに素敵なプレゼントを貰った ら、)彼は嬉しい。(cf. 彼は喜ぶ) b.?(誕生日に心のこもらないプレゼントを貰って も、)彼は嬉しくない。 (34) 美しくない utsukuhiku-nai 否定辞「ない」:機能範疇NegPに基底生成し、語彙範 疇に与えられる[+ V] を持たない 形容詞否定形「ない」:Aだが、VP((32)の「ある」と同じ 位置)に基底生成する語彙範疇で[+ V] を与えられる。 → 過去形の「ある」と同様、[+ Modal] による「照合」の 妨げとなり、[- Speaker] の出現を許す。 27

(28)

「照合」が許されない場合(続き)

• 「主観性」を表す形容詞主語の省略について (5) a. そのプレゼントをもらって、(私は)嬉しかった。 b. (昨日は私の住むところは気温が高かったの で、)(私は)暑かった。 (6) a. (昨日は彼の誕生日だった)皆からプレゼントを もらって、*(彼は)嬉しかった。 b. (昨日は彼の住むところは気温が高かったの で、) *(彼は)暑かった。 (26) CPシステム(TopPまたはModalP)の指定部と同じ 素性を持つ要素は、省略の対象となる。 (5):「ある」が[+ Speaker]の照合を妨げるが(26)は満 たす。

(29)

「照合」が許されない場合(続き)

2. XL-Modalより上位に他の[+ Modal]要素が出現 •真正モーダル表現:「だろう」、「そう」、「まい」 [+ Modal]を持ち、ModalPの主要部に基底生成 (35) 彼は悲しい だろう。 L-Modal 統語的モダリティ (36) ModalPの主要部が音形を伴う[+ Modal]要素 に占められる場合は、probeとはならない。 → XL-Modalとの素性照合は起こらず3人称主語OK。 29

(30)

「照合」が許されない場合(続き)

•疑似モーダル表現:「はずだ」、「ようだ」、「かもしれな い」(述語:井上(2007))[+ Modal] (37) 彼は悲しいはずだ。 基底生成位置:XL-ModalPよりは上、ModalPよりは下 (38) a. [ModalP[FP [AL-ModalP 彼は悲しい]はず]だろう]

b. [ModalP[FP [AL-ModalP 彼は悲しい]はずだ]Modal]

→ [+ Modal]を持つ「はず」がModalのgoalになる。

FP:機能範疇MoodP(CPシステム外) 他に仮定法

(39) 彼は合格したはずだった。(cf. 澤田(1993:165))

(31)

「照合」が許されない場合(続き)

• 「主観性」を表す形容詞主語の省略について (40) (話者と花子は二人とも受験勉強を非常に頑 張っている受験生である) a. 不合格なら、{(私(達)は)/??(花子は)} とっても悔しいだろう。 b. 不合格なら、 {(私(達)は)/??(花子は)} とっても悔しいはずだ。 c. 不合格なら、 {(私(達)は)/*(花子は)}とっ ても悔しいはずだろう。 3人称が許されてもModalPの[+ Speaker]と不一致 31

(32)

この提案の意義

• 「主観性」を表す形容詞主語の人称制約や省略: (3), (5), (6) • 授与動詞主語・間接目的語の人称制約や省略: (11), (12) • 過去形や否定辞、他のModal表現の出現による、 「主観性」を表す形容詞の3人称主語の許容: (4), (33), (35), (37)

一貫した説明

を与える。

(33)

この提案の意義(続き)

• AやVが語彙的に持つ「主観性」:XL-ModalPとCPシ ステム(ModalP)との関係に還元 • 接辞付加による動詞化などの形態規則:基体形 容詞の統語的な特性に還元

→ AやVが語彙的特性として持つ意味と

形態規則、統語構造の有機的な関係

をとらえることができる。

33

(34)

4.理論的帰結

1. モダリティとアスペクト • 澤田(1993:140)の重層モデル(英) *一部改変 (41) S 主観的 Modality NP Modal VP have/be V’ Aspect V0 Event 客観的

(35)

4.理論的帰結(続き)

• 影山(2013):語彙的アスペクト(L(exical)-Asp(ect)) 日本語の一部のV+V複合動詞のV2:L-Asp (42) 呆れ果てる、走り込む、絡み付く、沸き立つ 「見上げる」、「申し上げる」:物理的・社会的視点 • 長谷部(to appear):V2のアスペクトの2分類 (43) a. 統語的アスペクト:始める、過ぎる Asp b. 語彙的アスペクト:込む、果てる VL-Asp

機能範疇Asp:アスペクト素性 e.g., [+ Inchoative] cf. Modal:[+ Modal] & [+ Speaker](指定部)

Asp階層: Fukuda(2012) cf. Borer(1994)

• 非Asp・Modal表現:語彙範疇(VPやAP)に生起

(36)

アスペクトの階層:長谷部(to appear)

(44) 統語的アスペクト H-AspP 統語的複合動詞 LCSからは独立、素性 L(ow)-AspP H-Asp 語彙的アスペクト VL-AspP L-Asp 語彙的アスペクト複合動詞 LCSの焦点化、脱使役化 語彙的複合動詞 V VL-Asp LCSの補充、脱・反使役化 他動性調和の原則(項構造)

(37)

語彙的アスペクトの多様性:X

L-Asp • 複合動詞V2、「擬態語+付く」の「付く」:VL-Asp V1, 擬態語LCSの焦点化(長谷部(2012, to appear)) • 一部の複合形容詞(「心細い」等)の基体A:AL-Asp 語彙の百科事典的情報の利用(長谷部(2007)) • 一部の名詞化接辞(「-中」、「-方」など):NL-Asp LCS焦点化など(長谷部・神谷(2010)) → 全て準機能範疇、LCSや語彙の百科事典的情 報など、語彙意味的な情報を利用 37

(38)

語彙的モダリティの多様性:X

L-Modal • 授与動詞:VL-Modal 話者指向モダリティ(長谷川(2007)) • 「主観性」を表す形容詞:AL-Modal • 「~感」表現(cf. 「感じ」、「事実」=N):NL-Modal (45) すごく「やった」感があります。/ 早く秋になって欲 しい感満載の私です。(例はインターネットより) (46) a.*彼は、私が {早く秋になって欲しい/ 仕事をやっ た} 感がすると言った。 b. 彼は、私が {早く秋になって欲しい/ 仕事をやっ た} 感じがすると言った。

(39)

語彙的モダリティの多様性(続き)

(47)主観性:「感」表現 >「感じ」を伴う名詞句 (48) a. (昨日は)12時間仕事をしたので、(私は)仕事 をやった感があった。 b. (昨日、彼は忙しかった)12時間仕事をしたので、 */??(彼は)仕事をやった感があった。 c. (昨日、{私/彼}は忙しかった)12時間仕事をした ので、(私は/彼は)仕事をやった感じがした。 d. (昨日、{私/彼}は忙しかった)12時間仕事をした ので、(私は/彼は)疲れた事実は否定できない。 → 「~感」表現:1人称主語(のみ)省略が可能。 → 全て準機能範疇、「主観性」や「話者指向性」など、 語彙に特有なモダリティ情報を利用 39

(40)

4.理論的帰結(続き)

2. 影山(1993)以降の「モジュール形態論」再考 (49) 影山(1993:356) 形態理論 語彙部門(語彙的な語形成)+辞書 接辞リスト D構造 形態規則 統語部門(統語的な語形成) その他一般原理 S構造 PF LF 形態理論:独立したモジュール、各部門に適用 例:語彙的 vs.統語的複合動詞の生産性の差

(41)

本発表が想定するモジュール形態論

• モジュールを成す形態理論が統語構造の様々 な階層に適用される。(cf. 長谷部(2012)) 例:「-がる」付加による動詞化 2つの部門 → 「語彙意味表示・統語派生部門」 • 統語派生部門における基底生成位置により、語 彙意味表示部門との関わり方が異なる。

例: XL-Asp(LCS焦点化) XL-Modal(「主観性」[+ Modal]

• 談話機能(CPシステム)、モダリティ、アスペクト は互いに関連して精緻な階層を成し、その階層 性には語彙意味表示部門の情報も関わる。

(42)

5.結論と今後の課題

(50) a. 渡辺 (1991) や澤田 (1993) などの一般化 → 統語的な制約 b. CPシステムと語彙的モダリティ表現の関係 c. モダリティとアスペクトの並行性と精緻化 d.(語彙的)アスペクトとヴォイス(自他交替を

含む)の関連性:Kageyama (to appear)

→ (語彙的・統語的)アスペクト・モダリティ・

ヴォイスの関係、階層のさらなる精緻化

(43)

ご静聴ありがとうございました。

ikukolcs@yahoo.co.jp

(44)

参照文献(日本語)

井上和子 (2007) 「日本語のモーダルの特徴再考」 長谷川信子編『日本語の主 文現象』 227-260. ひつじ書房./ 上田由紀子 (2007) 「日本語のモダリティの統語 構造と人称制限」長谷川信子編『日本語の主文現象』 261-294./影山太郎 (1993) 『文法と語形成』ひつじ書房./ 影山太郎 (2013) 「レキシコンと文法・意味 -複合動詞研究のこれから-」KLS 33: 268-273./ 金田一春彦 (1953) 「不変化助 動詞の本質 –主観的表現と客観的表現の別について-」(上/下)『国語国文』22-2, 3. pp1-18, 15-35./ 澤田治美 (1993) 『視点と主観性 –日英語助動詞の分析-』ひ つじ書房./ 長谷川信子 (2007) 「1人称の省略:モダリティとクレル」 長谷川信子 編『日本語の主文現象』 331-369. ひつじ書房./ 長谷部郁子(2007)「複合形容詞 の意味と統語」『日本語文法学会第8回大会発表予稿集』: pp. 194 -201. 日本 語文法学会./ 長谷部郁子 (2008) 「日本語の形容詞のテンスとモダリティ」平成 19~21年度 日本学術振興会 科学研究費補助金(基盤研究(B)) 研究成果報告 書『文の語用的機能と統語論 日本語の主文現象からの提言』(代表研究者 長 谷川信子), 303-316. / 長谷部郁子 (2012) 「日本語における「擬態語+つく」タイ プの動詞の形成について」第144回日本言語学会における口頭発表(於東京外 国語大学)/ 長谷部郁子 (to appear)「複合動詞と2種類のアスペクト」影山太郎 編『複合動詞の謎に迫る』ひつじ書房./ 長谷部郁子・神谷昇 (2010) 「「-方」表現 の形成について」Scientific Approaches to Language 9, 25-47./ 渡辺実 (1971) 『国 語構文論』塙書房./ 渡辺実 (1991) 「『わがごと・ひとごと』の観点と文法論」『国語 学』165, 1-14

(45)

参照文献(英語)

Borer, H. (1994) “The Projection of Arguments,” in Functional

Projections: University of Massachusetts Occasional Papers 17, eds. E. Benedicto and J. Runner, 19–48. GLSA./ Fukuda, S.

(2012) ‘Aspectual Verbs as Functional Heads: Evidence from Japanese Aspectual Verbs’ NLLT 30: 965-1026./ Kageyama, T. (to appear) “Agents in anticausative and de-causative

compound verbs,” in Transitivity and Valency Alternations:

Studies on Japanese and Beyond, eds. T. Kageyama and W. M.

Jacobsen./ Martin, S. (1975) A Reference Grammar of

Japanese, Yale University Press./ Nishiyama, K. (1999)

“Adjectives and the Copulas in Japanese”, JEAL 8: 183-222./ Rizzi, L. (1997) “The Fine Structure of Left Periphery,”

Elements of Grammar: Handbook in Generative Syntax, ed.

by Liliane Haegeman, 281-337, Kluwer./ Urushibara, S. (1993)

Syntactic Categories and Extended Projections in Japanese,

Ph.D. dissertation, Brandeis University.

参照

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