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密教文化 Vol. 1987 No. 160 008八田 幸雄「密教経軌における真言文について PL144-L123」

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全文

(1)

密教 経 軌 にお け る真 言文 につ い て

1.

は じ め に

密 教 の原 点 は 広 く世 界 宗 教 の根 底 をな す もの で あ って、 宇 宙 の神 秘 に畏

敬 の 念 を も って 関 わ り、

除 災招 福 を願 い地 上 の 幸 せ を求 め る とこ ろ に あ る。

しか し地 上 の 幸 せ は 単 に物 資 的 な もの に留 らず に精 神 的 な もの を求 め、 深

い 観 想 を通 して 個 人 の幸 せ か ら人 類 の幸 せ へ、 そ して個 人 の 救 済 は普 く人

々の救 済 へ と拡 め られ て い く。特 に大乗 仏 教 の哲 学 の導 入 と と も に、 密 教

の底 辺 に あ る究 術 性、 民 族 宗 教 の土 着性 は 高度 に普 遍 的 な 精 神 の 領 域 に 高

め られ て い く。

例 え ば水 は万 物 育成 の根 源 の 力 で あ る こ とを通 して、 大 悲 慈潤 の 水 に 高

め られ て人 間形 成 の大 き な力 と され る。 水 を象 徴 す る竜 蛇 は仏 法 を擁 護 す

る神 と して示 され、 更 に は暗 黒 の 嵐 の 中 に竜 王 が稲 妻 を閃 か せ 雷 鳴 を轟 か

せ る こ と を も って、 正 法 に眼 を開 か せ る仏 陀 の覚 醒 とと る。 こ こに個 人 は

仏陀 の世 界 へ、 そ して 普 遍 的 な如 来、 即 ち一 切 如 来 の世 界 へ と高 め られ、

宗教 の体 験 は深 め られ て い く。

こ の よ うに宗 教 の世 界 を高 い 次 元 に導 き、個 人 を して 深 い如 来 の心 に 結

ばせ る もの が、 密 教 の 経 軌 で あ り、秘 密 事 相 で あ る。 この 事 相 で は 自己 の

罪 障 に 気 づ か せ、 罪 を俄 悔 させ、 誘惑 の心 に毅 然 と して 立 ち 向 わ せ、 宇 宙

の限 りな い大 きな 力 を体 得 させ、 人 は仏 陀 に近 づ き、 や が て 如 来 の世 界 を

体 得 して い こ うとす る ので あ る。 特 に これ らの実 修 に あた っ て、 口に真 言

を諦 し、 そ の真 言 の 意 を体 して い くこ とは速 や か に如 来 の 世 界 を証 得 して

い く重 要 な 手 だ て とな る ので あ る。 した が って密 教 の事 相 は真 言 諦 持 が 必

(2)

-144-須 の も の とな り、正 に真 言 文 は 密教 経 軌 の核 心 とな って い る の で あ る。

実 際 に密 教 経 軌 を繕 い て み て真 言 文 の無 い経 軌 は 見当 らな い。 大 正 蔵 経

密教 部 の経 軌 は何 れ も真 言 文 が 中心 的 な位 置 を 占 め て い る。 こ の 真 言 文 は

一 見、 複 雑 に交 錯 して 配 備 され て い る よ うに 見 え る が、 経 軌 に示 され た 真

言 文 を熟 視 し、整 理 して み る と意 外 に もい くつ か の グル ー プ に分 類 され、

そ の特 性 を知 る こ とが 出 来 るの で あ る。 而 も同 一 系 統 の 儀 軌 の真 言 文 を 見

る と僅 か な 異 同 が あ る だ けで、 共 通 の 真 言 文 で 構成 され て い る こ と も分 る

ので あ る。

これ は、 い うま で もな く真 言 文 は三 密 の 行 法 の 手 だ て の 一 つ で あ っ て、

真 言 行 者 は儀 軌 次 第 に よ っ て体 験 を深 め て い くの に、 伝 統 的 な 真 言 文 を盛

り込 ん だ 儀 軌 を中 心 に修 法 を行 な うが、 自己 の体 験、 そ して そ れ に 基 づ い

て教 理 を発 展 解 釈 し、新 に真 言 文 を増 広、 改 変 し、異 系 統 の真 言 文 を組 み

入 れ、 更 に は類 似 の 真 言 文 を創 作 して 新 しい 儀 軌 を作 成 した か らで あ る。

した が っ て 同 系 統 の 儀 軌 の真 言 文 を通 覧 し、異 同 の部 分 を摘 出 して 考 察

を進 め る な らば、 膨 大 な量 の儀 軌 類 は 極 めて 縮 少 され た 量 で 考 察 す る こ と

が 出 来 る。 ま た異 系統 の儀 軌 の 真 言 文 の移 入 を検 討 して い く とき、 経 軌 の

成 立 と特 色 が 明 らか とな る。 この意 味 で真 言文 の比 較 対 照 は 重 要 な意 味 を

持 つ の で あ る。

真 言 密教 で 常 用 の 『胎 蔵法 』 「金 剛 界 法 』 の経 軌 類 の 真 言文 の比 較 対 照

に つ い て は既 に 発 表 した ので、今 回 は そ れ ぞ れ の経 軌 の中 か ら類 似 の 真 言、

共 通 の 語 を持 つ 真 言 を抽 出 して、 比 較 対 照 し、各 真 言 の持 つ意 義 を 明 らか

に して い き た い。

そ こ で、2. 真 言文 の種 々相 で は、(1)鳥王 の鳴 き声 を も とに した も の、

(2)天候 と関 わ る真 言、(3)bhuhkham(大

地 と空)、(4)gagana(空)、(5)

locana, netra(仏

眼)、(6)ha ha ha ha(ハ

ハ ハ ハ)の 笑 声 を持 つ 真 言、

(7)jah humvamhoh(救

済 引 入)の 真 言、(8)梵字 の 組 み 合 わせ た真 言 を

明 らか に し、3. 教 理 の 展 開 と真 言 文 に お い て は(1)valra-sattva(金 剛 薩 垣)

(2)四仏 加 持、(3)五 仏 灌 頂、(4)四仏 繋 量、(5)『初 会 金 剛 頂 経 』 三 十 巻 本 の真

密 教 経 軌 に お け る 真 言 文 に つ い て

(3)

密 教 文 化

言 の概 要 を示 して、 そ の特 色 を明 か に して い きた い。

2.

真 言 文 の 種 々 相

(1)鳥 王 の 鳴 き声

金 翅 鳥Garudaを

も とに した真 言 をみ て み よ う。 こ こで は カ、 カ、カー、

カ ー とい う鳴 き声 が真 言 の 中心 に な って い る。 当 初 は この 鳴 き声 に神 秘 的

な霊 力 を み た もの と思 わ れ る。 しか し、そ れ だ けで は もの 足 らず 教 義づ け

が な され、 真 言 文 は増 広 され る の で あ る。 この 例 を不空 訳 の 「消 災 吉 祥 陀

羅 尼 』 と、『玄法 寺 儀 軌 』 の 金翅 鳥王Garudaの

真 言 と、「大 日如 来 剣 印』

に あ る光 聚 仏 頂 の 真 言 を取 り上 げて、 そ の 特性 と共 通 点 を み て み た い。

『消災吉祥陀羅尼』の真言は次の通りである。

(N-S-B) apratihata-Sasananamtad yatha om kha kha kkahi kkahi hum hum jvala jvala prajvala prajvala tistha tistha stri stri sphut sphut santika sriye svaha/(真 言 事 典29-c大 正19-338 b)

(帰命、 普 き諸 仏 に、 無 悩 害 な る諸法 教 に。 別 して は オ ー ム、 カ、 カ、 カ

ー、 カー、 ブー ム、 ブー ム、 光 よ、光 よ、す べ て を照 らせ、 発 起 せ よ、 諸

星 よ、 現 わ れ 出 で よ、 息 災 の吉 祥 の光 よ、 ス ヴ ァー ハ ー)、 次 に 金 翅 鳥 王

の 真言 をみ て み よ う。

(N-S-B)apratihata-sasananarn tad yatha om sakuna maha-sakna vitanta paksa sarva-pannaga-nakha kha kha khahi khaki samayam an-usmara hum tiltha bodhi-satvam jnapayate svaha/(真 言 事 典29-d大 正18-122b)

(帰 命、 普 き諸 仏 に、 何 もの に も害 され る こ との な い 殺 害 者 に、 即 ちオ ー

ム、 偉 大 な大 鳥王 よ、拡 げ掩 う大 き な翼 よ、 竜 蛇 を支 配 す る徳 あ る も の

よ、 カ、 カ、 カ ー、 カ ー、 本 誓 を憶 念 す る も の よ、 ブー ム、 奮 起 せ よ、 人

よ 目覚 め よ、 智 恵 よ働 け よ、 ス ヴ ァーハ ー)。 光 聚 仏 頂 の真 言 は 次 の 通 り

で あ る。

om kha kha khaki khaki hum hum jvala pra. jvala pravala

tistha, tistha

(4)

-142-krsta sphota svaha/(真 言 事 典164、 大 正18-196 c) (オ ー ム、 カ、 カ、 カ ー、 カ ー、 ブ ー ム、 ブ ー ム、 光 焔 よ、 火 焔 よ、 火 焔 よ、 起 れ、 起 れ、 除 去 せ よ、 破 壊 せ よ、 ス ヴ ァ ー ハ ー) 上 の 三 真 言 は と も に 金 翅 鳥 の 鳴 き 声 を も と に し な が ら、 三 真 言 は そ れ ぞ か る ら

れ の教 理 を も って発 展 的 に示 され て い る。 金 翅 鳥 は迦 楼 羅Garudaと

呼 ば

れ る。 八 部 衆 の一 と して、あ る種 の 鳥 の 名 と して、火 焔 の神 格 と もされ る。

イ ン ド神 話 に よれ ば こ の神 の生 まれ た とき、 諸 神 は彼 の熾 光 赫 灼 と して い

る の を見 て 火 神. Agniと

想 像 した。 しか し単 な る火 神 で は な く、火 焔 燃 え

さか る迦 楼 羅 と知 っ た とき、 諸 神 は最 尊 の もの と して 称 讃 した。 竜 蛇 を支

配 す るpannaga-nakhaの

語 が あ る の は、 赫 熱 の太 陽 は河 川 を澗 渇 させ、水

中 の 竜 魚 を死 に至 らせ る こ とか ら、 天候 を支 配 す る大 き な力、 更 には 太 陽

に比 す智 恵 が 煩 悩 を擢 破 す る 力 を示 そ うとす る ので あ る。

消 災吉 祥 陀 羅 尼 は、 大 自然 を支 配 す る大 きな 力 は太 陽 を始 め、 七 曜、 九

執、 十 二 宮、 二 十 八 宿 な どの 様 々 な 霊 力 に あ りと し、天 変 地 変 の 起 った と

き の消 除法 と して諦 持 され る。

金 翅 鳥 王 の真 言 は 鳥王 の偉 大 な徳 を讃 え、 天候 を支 配 す る力 と、 煩 悩 を

焼 尽 して い く智 徳 を讃 え て諦 持 され る。

光 聚 仏 頂 の真 言 は如 来 の智 徳 は恰 も火 焔 が燃 え さか る よ うに、 煩 悩 に 立

ち 向 う強 い意 志 と、迷 い を克 服 せ ず に は お か ぬ 堅 い 決 意 を示 そ うと して い

るの で あ る。

以 上、 三 つ の真 言 は異 な っ た経 軌 に説 か れ た もの で、 そ れ ぞ れ の真 言 は

異 種 の も の の よ うに見 られ て い た。 し か し三 真 言 を対 照 す る こ とに よ り、

意 外 に もル ー ツ は一 つ で あ って、 教 理 の展 開 に よ って性 格 を異 に して い っ

た もの で あ る こ と が分 る。

同 じ金翅 鳥 王 の真 言 で も、 カー、 カ ー とい う鳴 き声 に対 して大 き な 翼 に

神 秘 的 な 霊 力 を認 め る立 場 の も の が あ る。 『迦 楼 羅 王 及 諸 天 密言 経 』 の 真

言 が そ うで あ る。 そ れ は

om ksipa svaha om paksi svaha. (真 言事 典163、 大 正21-332a)

密 教 経 軌 に お け る 真 言 文 に つ い て

(5)

(オ ー ン、 搏 撃 す る も の よ、 オ ー ム、 翼 あ る も の よ)で あ る。 『玄 法 寺 儀 軌 』 の 真 言 のmaha-sakuna vitanta-paksa(大 鳥 王 よ 拡 げ 掩 う大 き な 翼 よ)と 類 似 す る。 (2)天 候 と関 わ る 真 言 金 翅 鳥 が 竜 蛇(水)を 支 配 す る(『 玄 法 寺 軌 』)こ と か ら、 こ の 真 言 は 請 雨 法 と 関 係 を 持 つ の で あ る が、 同 じ よ うな 性 格 の 真 言 に 孔 雀 王 の 真 言 が あ る。 孔 雀 は 蛇 を 食 べ る と こ ろ か ら 蛇 毒 を 除 く 呪 法 と 関 わ る と と も に、 蛇 は 水 の 精 を 示 す か ら 金 翅 鳥 王 と 同 様 に 請 雨 法 と関 わ る。 『玲 祇 経 』 に はom mayura-karme svaha. (真 言 事 典739、 大 正18-196 a、200 b)

(オ ー ム、 孔 雀 の 救 済 の 霊 力 よ、 ス ヴ ァ ー ハ ー)の 真 言 を 出 す。 こ の よ う に 金 翅 鳥 王 の 勝 れ た 力 は 天 候 を支 配 す る 力 に 高 め られ て い く。 天 候 支 配 と い う こ と に な れ ば 太 陽、 星、 雨 雲 へ の 信 仰 とい う こ と に な る。 太 陽 は 自 然 万 物 を 支 配 す る と と も に、 太 陽 に 喩 え ら れ る 智 恵 が 如 来 の 世 界 を 支 配 し、 天 体 の 運 行 が 順 調 で あ る こ と に よ っ て 温 和 な 気 候 が 約 束 さ れ、 個 人 に と っ て は 幸 せ な 運 を 把 む こ と に な り、 恵 み の 雨 は や が て 潤 い あ る 心 の 宝 を 得 る こ と に な る。 こ れ ら の こ と は 一 字 金 輪、 七 曜、 宝 雨 の 真 言 と な っ て 示 さ れ る。 bhrum(真 言 事 典651、 大 正18-196 b、200 a)

(ブ フ ル ー ム)一 字 金 輪 の 一 字 真 言 で あ る。 教 義 的 解 釈 で はbha, ra, u、 maの 四 字 合 成 の 意 と さ れ、 有 を 否 定 し、 塵 垢 を 除 き、 真 実 の 大 我 を 生 ず と解 さ れ て い る。 恰 も 太 陽 が 輝 く よ う に、 如 来 の 智 恵 の 働 き に よ っ て 速 か に大 日 如 来 の 世 界 に 引 き 入 れ る と い う。 こ れ 大 日 の 徳 を 太 陽 の 熾 盛 の 働 き に た と え た も の で、 本 来 金 輪 は 太 陽 そ の も の を 神 格 化 し た も の で あ る。 そ れ 故bhrumブ フ ル ー ム の 働 き は 天 候 と 関 わ り、 や が て 祈 雨 の 真 言 と な る。 『大 日剣 印 』 に 出 る 「祈 雨 助 頂 輪 加 持 真 言 」 は 次 の 通 りで あ る。 om bhrum om adityahgarakabhyam hum phat(真 言 事 典652、 大 正18-197b)

(6)

-140-(オ ー ン、 ブ フ ル ー ム、(金 輪 よ)オ ー ム、 日輪 と火 星 の た め に、 ブ ー ム、 プ ハ ッ ト)

更 に 太 陽 は 七 曜 と と も に 天 体 を 巡 り、 天 候 を 支 配 す る と こ ろ か ら、 『喩 祇 経 』 で は 次 の よ うな 諸 曜 の 吉 祥 の 真 言 を説 く。

om vajrasri mahasri adityasri somasri angarakasri budhasri brhas-patisri sukasri saniscara-scetesrl maha-samayesri svaha. (真 言 事 典 1317、 大 正18-263a)

(オ ー ン、 金 剛 吉 祥、 大 吉 祥、 日曜 吉祥、 月 曜 吉 祥、 火 曜 吉 祥、水 曜 吉 祥、

木 曜 吉祥、 金 曜 吉 祥、 土 曜 吉 祥、 大三 昧 耶 吉 祥、 ス ヴ ァー ハ ー)と あ る。

こ こ に は太 陽、 宿 星 の 王 の 月、 諸 曜 を天 候 を支 配 す る もの とみ て い る の で

あ る。 そ して 順 調 な 運 行 が また 個 人 の 幸 せ を約 束 す る も の と して い る の で

あ る。

ま た 雨 雲 の もた らす 自然 の 恵 み は、 精 神 の 世 界 に も恵 み を与 え る もの と

して竜 金 剛、 雲 金 剛、 宝 雨 と崇 め られ る よ うに な る。

理 趣 経 法 の 「

諭 伽 念踊 儀 軌 』 の 雲 金 剛 の 真 言 は 次 の 通 りで あ る。

om megha-vajri

ruro ruro(guru

guru. 五 秘 密 軌)(真

言 事 典799、 大

正20-534a)

(オ ー ム、 雲 金 剛 よ、 ル ロー、 ル ロー、 五 秘 密 軌 は ゴ ロ、 ゴ ロ)こ こで は

雷 雲 は 金 剛 の 名 が 与 え られ て い る。 い うま で もな く、理 趣 経 の立 場 は現 世

を言

区歌 し、 現 実世 界 そ の もの の 中 に如 来 の世 界 をみ よ う とす る立 場 に あ る

か ら、春 夏秋 冬 の 自然 も如 来 の世 界 の 現 わ れ とみ て、 夏 の季 節 を雲 金 剛 と

して よ し と し、併 せ て この よ うに観 る 心 を如 来 の 心 と して 金 剛 の名 が冠 せ

られ て い る とみ て よい。

初 会 金 剛頂 経 』 三 十 巻 本 で は、 降三 世 品 にお い て 水 天 の教 化 とマ ン ダ

ラへ の編 入 が説 か れ て い る。 竜 金 剛 の真 言 が そ れ で あ る。

om naga-vajr'anaya

sarva-dhana-dhanaya-hiranya-suvarna-mani-muktalamkar'adini sarvopakaranani valra-dhara-samayaln anusmar akaddha grhna bandha hara hara pranan maha-seta hum phat. (真 言

密 教 経 軌 に お け る 真 言 文 に つ い て

(7)

密 教 文 化 事 典439、 大 正18-391a) (オ ー ム、 竜 金 剛 よ、 一 切 の 財 宝 を 捉 え 来 れ、 穀 物 が 黄 金 に 輝 き、 あ た か も 宝 珠 や 真 珠 の 如 き 財 宝 の 荘 厳 に 比 す べ き、 本 源 の 一 切 の 生 活 の 資 料 を 与 え る も の よ、 持 金 剛 の 三 昧 耶 を 憶 念 せ よ、(一 切 の 害 毒 を)破 壊 せ よ、 捉 え よ、 縛 れ よ、 除 去 せ よ、 除 去 せ よ、 生 命 を(与 え よ)、 大 僕 使 よ、 フ ム フ。ハ ッ ト)と あ り、 教 勅 マ ン ダ ラ に 入 る 真 言 は 次 の 通 りで あ る。 om vajra-harana hum(真 言 事 典1395、 大 正18-392b) (オ ー ム、 金 剛 を運 び 来 る も の よ、 ブ ー ム) こ の よ うに 水 の 神、 水 天 は 地 上 に富 を 育 く む と と も に、 雨 雲 を 運 ぶ 竜 王 は、 金 剛 と い う真 実 智 想 を 運 ぶ も の と し て 尊 信 され、 外 金 剛 部 の 位 置 に あ っ た 水 天 は マ ン ダ ラ の 主 尊 へ と高 め られ て い くの で あ る。 『初 会 金 剛 頂 経 』 三 十 巻 品 は 第4章 に 一 切 義 成 就 品 を 説 く。 こ れ は 金 剛 界 マ ン ダ ラ は 虚 空 蔵 菩 薩 の 示 す 富 の 世 界 に あ り、 す べ て は 宝Ratna、 宝 珠 Maniに 他 な ら な い と し、 こ の 大 き な 恵 み を 宝 雨、 或 は 雨 宝 の 真 言 で 示 さ れ る。 こ の 立 場 の 三 真 言 を 示 して み よ う。 om vajra-ratna-varsa hum. (真 言 事 典1228、 大 正18-413 a) (オ ー ム、 金 剛 宝 雨 尊 よ、 ブ ー ム)

om ratna-vrsti pravarsaya sarvartha-sampado bhagavan mani-hasta hum. (真 言 事 典855、 大 正18-413b)

(オ ー ム、 宝 雨 尊 よ、 宝 雨 を 降 ら し給 え、 一 切 の 利 楽 を 成 就 し給 え、 世 尊 よ、 宝 珠 を 持 て る 尊 よ、 ブ ー ム)

om ratna-vrsti sadhaya maha-mapi hum. (真 言 事 典856、 大 正18-417b) (オ ー ム、 宝 雨 尊 よ、 大 宝 珠 を成 就 せ よ、 ブ ー ム) こ の よ うに 天 候 を 支 配 し、 雨 雲 を 呼 ぶ 真 言 は、 素 朴 な 鳥 王 の 鳴 き 声、 或 は 翼、 蛇 を 喰 う鳥 王 の 力 を も と に した 真 言 が、 太 陽、 宿 星 の 働 き と 結 び、 天 候 支 配 を 願 う請 雨 の 祈 願 か ら、 仏 智 の 輝 く智 恵 の 主 体、 煩 悩 を 克 服 す る 大 き な 力 と して 真 言 文 は 発 展 し て い く。 そ して 『初 会 金 剛 頂 経 』 の よ うに

(8)

-138-竜 王 の運 ぶ 雨 雲 は 金 剛 叡智 へ と高 め られ、 や が て は人 格 の 宝、 宝 珠 の 実 現

を期 す 真 言 とな って い く。

(3)bhuh

kham(大

地 と空)

大 地 は あ らゆ る生 の基 盤 で あ り、

天 空 は す べ て の世 界 を包 む もの で あ る。

そ して ま た 精 神 的 には 大 地 は 浄 菩 提 心 の 心地 と して人 格 形 成 の 基 盤 と な

り、空 は一 切 の 障 害 を克 服 して 無 限 の 開 か れ た如 来 の 心 を意 味 す る よ うに

な る。 先 づ大 地 を示 すbhuhに

つ い て み て み た い。

om bhuh kham. (真 言 事 典640、 大 正18-110 a『 玄 軌 』 他)

(オ ー ム、 大 地 よ、 虚 空 よ)

この真 言 は 道場 観 の真 言 と して よ く出 る もの で あ る。 如 来拳 印 を結 び、

「自己の心地よ、虚空の如くなれ」と観ずるのである。この心地が空とな

れ ば、 そ れ は 光 明 で あ る と み る こ と が 出 来 る。 そ の 立 場 を 示 す 真 言 は 「金 輪 王 仏 頂 要 略 念 諦 法 』 の 毘 盧 遮 那 三 字 密 語 の 真 言 に 見 ら れ る。

om bhih kham jvala hum. (真 言 事 典641、 大 正19-189a)

(オ ー ム、 大 地 よ、 空 よ、 光 明 よ、 ブ ー ム)で あ る。 光 明 は 智 恵 の こ と で あ り、 浄 菩 提 心 の 心 地 は 智 恵 の 主 体 で も あ る か ら護 摩 法 の 護 身 の 真 言 と も な る。 om bhuhjvala. (真 言 事 典 ・642、大 正18-936 a) (オ ー ム、 大 地 よ、 光 明 よ)と あ り、 智 恵 の 火 を も っ て 一 切 煩 悩 を 焼 尽 す る こ と を示 し て い る。 ま た こ の 心 地 は そ の ま ま 大 日如 来 に 他 な ら な い と し て 大 日如 来 五 字 剣 印 の 真 言 の 組 み 合 わ せ が 出 来 上 る。 om bhuh a vi ra humkham(真 言 事 典639、 大 正18-196c) (オ ー ム、 大 地 よ、 ア ビ ラ フ ー ム、 ク ハ ム)で あ る。 (4)gagana(空)

空 に つ い て はkhaの 他 にgaganaの 語 が あ る。 gaganaを も と に し た 真 言 を み て み た い。 (N-S-B)gagana-samasama svaha. (真 言 事 典178、 大 正18-13 a) (帰 命、 普 き 諸 仏 に、 虚 空 に 等 し き 無 等 比 な る も の よ、 ス ヴ ァ ー ハ ー)こ 密 教 経 軌 に お け る 真 言 文 に つ い て

(9)

密 教 文 化 の 真 言 は 空 の世 界 が 一 切 の 障 害 を 越 え て 永 遠 無 限 な も の と い う意 で あ る。 こ の 真 言 を も っ て 閲 伽 香 水(浄 水)の 真 言 とす る の は、 真 の 浄 水 は 空 の 心 で あ ら ね ば な ら ぬ と し て こ の 真 言 を諦 す の で あ る。 こ れ と同 じ 内 容 の 真 言 は 如 来 頂 相 に み られ る。

gaganananta-sPharana visuddha-dharma-nirjata svaha. (真 言 事 典181、 大 正18-13a) (帰 命、 普 き 諸 仏 に、 無 辺 の 虚 空 に 広 ま る も の よ、 清 浄 の 法 を生 ず る も の よ、 ス ヴ ァ ー ハ ー)ま た 虚 空 無 垢 の 真 言 も 同 じ 立 場 に あ る。 (N-S-B)gaganananta-gocara svaha. (真 言 事 典180、 大 正18-28 a) (帰 命、 普 き 諸 仏 に、 虚 空 の 如 く 無 量 無 辺 の 境 界 に あ る も の よ、 ス ヴ ァ ー ハ ー) 次 に 空 は 金 剛 を 生 ず る も の と し て 普 供 養 大 虚 空 蔵 の 真 言 が み ら れ る。 om gagana-sambhava vajra hoh(真 言 事 典179、 大 正18-197 a)

(オ ー ム、 虚 空 よ り生 ず る 金 剛 よ、 ホ ー フ)

十 八 道 法 の 大 虚 空 蔵 の 真 言 で あ る。 こ れ は 虚 空 の 庫 蔵 よ り無 量 の 供 具、 飲 食、 宮 殿、 衣 服 等 あ ら ゆ る 宝 が 生 ず る こ と を 願 う真 言 で あ る。 丁 度 竜 金 剛 の 真 言"om vajra-harapa hum"(オ ー ム、 金 剛 運 載 尊 よ、 フ ー ム)と 類 似 し て 興 味 深 い。

空 は 真 理 の 世 界 に 眼 を 開 か せ る こ と か ら、 虚 空 眼 明 妃 と、 悲 生 眼 の 真 言 が 示 さ れ る。

(N-S-B)gagana-vara-laksane gagana same sarvatodgatabhih Sara sambhave jvala namo'moghanam svaha(真 言 事 典177、 大 正18-15 b)

(帰 命、 普 き 諸 仏 に、 虚 空 の 如 き 勝 相 を 持 つ も の よ、虚 空 に 等 し き も の よ、 一 切 処 に 超 出 す る も の よ、 堅 固 な る も の よ り生 じ た る も の よ、 光 明 あ る も の よ、 不 空 な る も の に 帰 命 し奉 る)

(N-S-B) gagana vara-laksana karuna-maya tathagata cakusuh sva ha(真 言 事 典176、 大 正18-25 b)

(帰 命、 普 き諸 仏 に、 虚 空 の 勝 願 の 相 あ る も の よ、 悲 に よ っ て 形 成 さ れ る

(10)

-136-も の よ、 如 来 の 眼 よ、 ス ヴ ァ ー ハ ー)空 は 如 来 の 眼 を 開 か せ る。 そ こ で 眼 Locana, Netraに つ い て み て み た い。 (5)Locana, Netra(仏 眼) locana, netraは と も に 空 を 体 得 した も の は 如 来 の 智 恵 を 得 て、 恰 も 眼 が 開 か れ る よ うに 真 理 の 世 界 を 見 開 い て い く こ と が 出 来 る。 そ れ 故 こ の 眼 は"仏 眼"或 は 覚 者 を 生 ず る も と と な る か ら仏 母 と も 呼 ば れ る よ う に な る。 『初 会 金 剛 頂 経 』 で は 煩 悩 を 擢 破 す る こ と に よ り真 実 世 界 を 見 開 く こ と が 出 来 る と して、netraの 語 を も と に し た 真 言 が 示 さ れ る。

olp buddha-locani svaha. (真 言 事 典613)

(オ ー ム、 仏 眼 尊 よ、 ス ヴ ァ ー ハ ー)仏 眼 の 真 言 で あ る。 仏 眼 に つ い て

『大品般若経』仏母品に「諸仏は常に仏眼をもって是の 深 般 若 波 羅 蜜 を 視

る 」(大 正8-323a)と 説 く。 密 教 で は 般 若 の 空 を 体 した 甚 深 智 恵 を 神 格 化 し て 仏 眼 仏 母Buddha-locaniと い う。 こ の 立 場 が 発 展 して 『摂 大 軌 」

で は 増 広 さ れ た 仏 眼 尊 の 真 言 が 示 さ れ る。

(N-S-B)

buddha-locani

van u-rama-dharma-sambhava

vikana

sam

sam svaha. (真 言 事 典612、 大 正18-76 c) (帰 命、 普 き 諸 仏 に、 仏 眼 母 尊 よ、 希 望、 喜 悦 の 法 を よ く生 じ る 尊 よ、 光 輝 し給 え、 サ ム、 サ ム、 ス ヴ ァ ー ハ ー)で、 空 → 仏 眼 → 輝 か しい 世 界 とい う意 の 仏 果 の 立 場 を よ く示 し て い る。 空 は 一 方 自 己 の せ ま さ を 打 ち 開 い て い く も の で あ り、 そ れ は 金 剛 の 働 き に よ る も の で あ る とす る の が 金 剛 頂 経 の 立 場 で あ る。 そ の 真 言 を み て み よ う。

vajra-netra sarva-dharman maraya hum phat. (真 言 事 典1104、 大 正18 -361) (金 剛 眼 よ、 一 切 法 を擢 破 せ し め る も の よ、 ブ ー ム、 プ ハ ッ ト)こ れ は 金 剛 秘 密 心 印 智 の 真 言 の 一 つ で、 自 己 自 身 を あ り の ま ま に 観 想 して い け ば 金 剛 眼 を 得、 正 法 を 見 抜 い て 魔 を催 く。 真 実 智 恵 は 存 在 の 仮 象 を 棄 捨 し て 実 相 を 論 観 さ せ る 観 法 の 真 言 で あ る。 hum vajra-netrathah. (真 言 事 典1856、 大 正18-383 a) 密 教 経 軌 に お け る 真 言 文 に つ い て

(11)

密 教 文 化 (フ ム、 金 剛 眼 よ、 トハ フ)こ れ は 念 怒 金 剛 印 智 の 真 言 の 一 つ で、 金 剛 念 怒 の 眼 を も っ て 観 想 す る な ら ば、 自 ら の 狭 い 観 方 を 破 壊 す る と い う真 言 で あ る。 同 様 の 立 場 で 説 か れ た も の に 次 の 金 剛 眼 の 真 言 が あ る。 om vajra-padma-netra hum phat. (真 言 事 典1108、 大 正18-394 a)

(オ ー ム、 金 剛 蓮 華 眼 よ、 ブ ー ム、 プ ハ ッ ト)。 (7)hahahaha(ハ ハ ハ ハ)の 笑 声 を も つ 真 言 ハ、 ハ、 ハ、 ハ は 笑 声 を も と に し た も の で 喜 び の 心 を 表 わ した も の で あ る が、 一 方 こ の 笑 声 に は 神 秘 的 な 霊 力 が あ る と して、 偉 大 な 力 に 祈 願 す る と い う立 場 で の 真 言 が 示 さ れ る。 こ の こ と は や が て 浄 菩 提 心 の 徳、 仏 果 の 体 得 の 喜 び と し て 笑 声 が 示 さ れ、 一 方 菩 提 心 の 勇 往 精 進、 煩 悩 擢 破 の 働 き と し て の 大 き な 力、 調 伏 の 力 と して も示 さ れ る。 先 づ 前 者 の 立 場 の 真 言 か ら示 し て み よ う。

(N-S-B)ha ha ha sutanu svaha. (真 言 事 典1828、 大 正18-14 b) (帰 命、 普 き 諸 仏 に、 ハ ハ ハ、 美 し い 身 体 に あ る も の よ)地 蔵 の 真 言 で あ る。 こ こ で は 万 物 を 産 み 出 す 大 地 を神 格 化 し、 そ れ を も と に 浄 菩 提 心 の 勝 れ た 内 容 を 示 そ う と し て い る の で あ る。 類 似 の 真 言 と して 地 蔵 旗 の 真 言 が あ る。 ha ha ha vismaye svaha. (真 言 事 典1827大 正18-27c) (ハ ハ ハ、 偉 大 な 力 を 持 つ 尊 よ、 ス ヴ ァ ー ハ ー)こ ち ら の 方 は む し ろ 菩 提 心 よ り生 ず る 大 き な 力 に 力 点 を置 い た も の で あ る。 次 に 満 意 天 子、 金 剛 笑、 金 剛 解 脱、 秘 密 印 の 真 言 を 示 し て み よ う。 み な 喜 び、 満 足、 宝 の 体 得 を 味 わ っ た も の で あ る。 a om ha ha nidhibhyah svaha. (真 言 事 典6、 大 正18-776他) (ア、 オ ー ム、 ハ ハ、 諸 の 宝 蔵 あ る も の の た め に、 ス ヴ ァ ー ハ ー)満 意 天 子 の 真 言 で 喜 び の 世 界 に あ る こ と を示 した 真 言 で あ る。 ha ha hum ha. (真 言 事 典1829大 正18-357b) (ハ ハ フ ー ム ハ)金 剛 笑 の 真 言 で あ る。 金 剛 の 世 界 の 体 得 の 喜 び を示 す。

(12)

-134-om tistha vajra drdho me bhava sasavato me bhava hrdayam me 'dhitistha sarva -siddhim ca me prayaccha hum ha ha ha ha hoh. (真

事 典321大

正18-354a)

(オ ー ム、 金 剛 の心 に住 せ よ、 堅 固 が我 が た め に あ れ、 永劫 が 我 が た め に

あ れ、 心 を我 が た め に加 持 せ よ、 一 切 の悉 地 を我 が た め に授 与 せ よ、 フ ー

ム ハ ハ ハ ハ、 ホ ー フ)こ の 真 言 は 加 持 護 念、 金 剛 解 脱 の真 言 で あ り、 ま

た灌 項 の 時 に投 花 をな した 受 者 に 唱 え させ る真 言 で あ る。 こ の真 言 は如 来

の心 を体 得 した喜 び と と もに、 併 せ て如 来 の 大 きな 力 を受 け る こ とを祈 念

す る真 言 で、 ハ ハ ハ ハ は 自己 の満 足 と、偉 大 な 力 の 霊 力 の 双 方 の 働 き を示

して い る。 これ と同 じ形 に属 す る も の に秘 密 印 の真 言 が あ る。

om vajra-ratna sakhi-vidyadhara-team prayaccha sighram abhisincahi ha ha ha ha trah. (真 言 事 典1230大 正18-422c)

(オ ー ム、 金 剛 宝 よ、 汝 は 親 交 あ る 持 明 者 な り、速 か に授 与 し給 え、 灌 頂

し給 え、 ハ ハ ハ ハ、 トラー フ)

こ こに は 金 剛 宝(浄 菩 提 心)の 体 得 と、

そ れ を速 か に与 え て い くた め に神 秘 の 力、 ハ ハ ハ ハ を唱 え よ う とす る の で

あ る。

こ の よ うな立 場 で更 に語 句 を増 広 した もの に 關 伽(百 字)と 大 三 昧 耶 の

真 言 が あ る。

om vajra-sattva-samayam anupalaya vajra-sattva-tvenopatistha drdho me bhava sutosyo me bhavanurakto me bhava su-posyo me bhava sarva-siddhim ca me prayaccha sarva-karmasu ca me citta-sreyah kuru hum ha ha ha ha bhagavan sarva-tathagata-vajra ma me munca vajra-bha-va maha-samaya-sattva ah. (真 言 事 典1338大 正18-358c)

(オ ー ム、 金 剛 薩埋 の三 昧 耶 に、 保 護 者 とな れ、 金 剛 薩 垣 の 強 い 力 を出 現

せ よ、 堅 固 性 が わ が た め に あれ、 我 が た め に喜 ば しき もの で あ れ、 我 が た

め に栄 え る もの で あ れ、 而 して一 切 の成 就 を我 に授 与 せ よ、一 切 業 に お い

て、 而 して我 が た めに 心 の吉 祥 をな し給 え、 ブー ム、 ハ ハ ハ ハ、 ホ ー フ、

世 尊、 一 切 如 来、 金 剛 よ、我 が た め に捨 て去 る こ と な かれ、 金 剛 を有 す る

密 教 経 軌 に お け る 真 言 文 に つ い て

(13)

密 教 文 化

もの で あれ、 大 三 昧 耶 の薩 埋 よ、 ア ー フ。)こ の真 言 は一 切 印、關 伽、 百 字

真 言 と呼 ばれ て い る もの で、 一 切 所 願 を速 疾 に成 就 せ しめ る真 言 で あ る。

それ 故 一 切 印 の真 言 と呼 ば れ、 浄 水(關 伽)に 託 して す べ て の仏 果 を体 得

させ よ う とす る真 言 で あ る か ら開 伽、 百 字 真 言 とい うの で あ る。 で は大 三

昧 の真 言 につ い て み て み た い。

om vajra-samaya grhna bandha samayam vajra-sattva-samayam anus-mara sarva-tathagata-samayas tvam drdho me bhava sthiro me bhava aharyo me bhava apratiharyo me bbava sarva-karmasu ca me citta-sr-eyah kuru ha ha ha ha hum. (真 言 事 典1358. 大 正18-382c)

(オ ー ム、 金 剛三 昧 耶 よ、 捉 え よ、 縛 せ よ、三 昧 耶 を、 金 剛 薩唾 の三 昧 を

憶念 せ よ、 汝 は一 切 の 三 昧 耶 な り。堅 固 な る もの が我 に生 ぜ よ、 不動 な る

もの が我 に生 ぜ よ、(煩 悩)侵 奪 す る こ とが 我 に生 ぜ よ、 抵 抗 せ られ ざ る も

の が我 に生 ぜ よ、 一 切 の妙 業 が ま た 我 れ の心 に最 勝 とな れ、 ハ ハ ハ ハ、 フ

ー ム)こ こ で は金 剛 の 究 極 の 心 を体 得 して い くこ と、そ の勝 れ た世 界 を讃

美 す る と と もに、 笑 声 の 神秘 的 力 に よ って速 か に金 剛 の真 髄 を体 得す る こ

とを願 った 真 言 で あ る。

次 に特 にハ ハ ハ の笑 声 を も って積 極 的 に煩 悩 を克 服 して い く大 き な 力 と

して 示 され た 真 言 をみ て い き た い。

(N-S-V)ha ha ha vismaye sarva-tathagata-visaya-sambhava-trailoky-a-vijaya hum jah svaha. (真 言 事 典1826大 正18-15b)

(帰 命、 普 き 諸 金 剛 に、 ハ ハ ハ、 偉 大 な 力 を持 つ も の は、 一 切 如 来 の 境 界 よ り生 じ、 三 界 に 打 ち 勝 つ も の よ、 ブ ー ム、 ジ ャ フ、 ス ヴ ァ ー ハ ー)こ れ は 『大 日経 』 に 説 く勝 三 世 の 真 言 で あ る。 ハ ハ ハ の 笑 声 に 偉 大 な 力 を 認 め て い る。 同 様 の 形 の も の は 大 青 面 金 剛 の 真 言 に も 見 られ る。

om deva yaksa vandha vand ha ha ha ha ha svaha. (真 言 事 典356-b 大 正18-868a)

(オ ー ム、 天 な る 薬 叉 等 よ、 鎮 め よ、 ハ ハ ハ ハ、 ス ヴ ァ ー ハ ー)こ の 真 言 は 『陀 羅 尼 集 経 』 に 出 る も の で 薬 叉 尊 の 一 つ 青 面 金 剛 の 真 言 で あ る。 悪 獣

(14)

-132-病 魔 風 雷 の 難 を 除 く真 言 で あ り、 ハ ハ ハ に 特 別 な 偉 力 を 認 め て い る。 こ れ と 同 じ よ うに み ら れ る の は 念 怒 金 剛 微 細 笑 の 真 言 で あ る。

om vatra-suksma-hasa-krodha ha ha ha ha hum phat. (真 言 事 典1382 大 正18-372c)

(オ ー ム、 念 怒 金 剛 微 細 笑 よ、 ハ ハ ハ ハ、 フ ー ム プ ハ ツ ト)こ の よ う に 笑 声 は 念 怒 の 神 秘 の 力 と し て 示 さ れ る よ うに な る、 ハ は 一 転 してhamハ ー ム(不 動 の 聖 な る 怒 り)hahハ ブ 怒 りの 語 と転 ず る。 そ の 例 は 十 一 面 蓮 華 笑 の 真 言 に み ら れ る。

om padmatta-hasaikadasa-mukha hah hah hah hah hum. (真 言 事 典552 大 正18-400b)、

(オ ー ム、 十 一 面 蓮 華 笑 よ、 バ ッハ ッ バ ッ ハ ッ フ ー ム)如 来 の 真 の 喜 び で あ る 笑 い の 世 界 は 煩 悩 具 足 の 立 場 で は 葱 怒 と な る 例 で あ る。

(7)jah hum vam hoh(救 済 引 入)の 真 言

jah hum vam hohは 四 摂 の 真 言、 四 明 と も 呼 ば れ 鉤 召、 索 引、 鎖 縛、 遍 入 を 意 味 す る 種 子 で、 金 剛 界 マ ン ダ ラ で は、 マ ン ダ ラ に 入 っ て い く 四 方 の 尊 で 鉤 索 鎖 鈴 の 四 尊 で 示 さ れ る。 こ の こ と か ら如 来 の 世 界 を 体 得 し得 た と 確 信 され る 真 言 に は こ のjah hum vam hohが 附 加 さ れ て く る の で あ る。 金 剛 界 法 の 真 言 の 立 場 は も と よ り、 特 に 『理 趣 経 法 』 『玲 祇 経 』な ど金 剛 界 系 の 真 言 に は こ の 四 摂 の 真 言 が 附 加 さ れ る の で あ る。 先 づP理 趣 経 法 』 関 係 の 真 言 か らみ て み た い。

om maha-sukha-vajra-sattva bah hum vam hoh suratas tvam. (真 言 事 典785. 大 正20-535a. 537 b)

(オ ー ム、 大 楽 金 剛 薩 垣 よ、 ジ ャ フ、 ブ ー ム、ヴ ァ ン、ホ ー フ)こ れ は 五 秘 密 の 真 言 で あ る。 五 秘 密 は 金 剛 薩 垣 と そ れ を と り ま く欲 触 愛 慢 の 四 明 妃 を さ し、 す べ て は 慈 悲 の 中 に 包 ま れ て 救 わ れ た 世 界(大 楽)を い う か ら、 四 摂 の 真 言 を つ け る の は 最 も ふ さ わ しい。 同 種 の 真 言 に 大 楽 不 空 身 が あ る。 om maha-sukha-vajram sadhaya sarva-sattvebhyo bah hum vam hoh.

(真 言 事 典786. 大 正18-313a、301 b 20-525 b) 密 教 経 軌 に お け る 真 言 文 に つ い て

(15)

密 教 文 化

(オ ー ム、 大 楽 金 剛 を成 就 せ しめ よ、一 切 有 情 のた め に、 ジ ャ フ、 フ ー ム

ヴ ァン、 ホ ー プ)

om maha-sukha-vajramogha samayodaka-siddhy abhisinca sarva-su kha saumayasya me tvam daya kuru kuru bah hum vam hoh. (真 言 事 典 787 大 正8-80(1a)

(オ ー ム、 大 楽 金 剛 不 空 な る三 昧 耶水 の悉 地 の灌 頂 よ、 我 にす べ て の 歓 喜

を汝 与 え よ、 作 せ、 作 せ、 ジ ャフ、 ブ ー ム、 ヴ ァン、 ホ ー フ)こ れ は 加 持

香 水 の真 言 と して説 か れ た もの で あ る。 こ こで加 持 と か灌頂 とか の持 つ 意

味 は単 な る外 的 な水 で は な くて、 大 楽 金 剛 の究 極 の世 界 を与 え る こ とで あ

り、そ れ は そ の ま ま救 済 せ れ た世 界 で あ り、マ ンダ ラ に生 か され た 世 界 で

あ る とみ る こ とが 出来 る の で あ る。

次 に大 楽 金 剛 の妙 適 の 世 界 を示 した真 言 を み てみ よ う。

he maha-sukha-vajra-sattvaya hi sighram maha-sukha vajramogha-samayam anupalaya prabuddhaya prabuddhaya suratas team anurakto me bhava sutosyo me bhava sudrs me bhava suposyo me bhava

bhaga-vam nanadi nidhanah sattva-sarva-siddhi me prayaccha esa tva nakrsa ya pravesaya samaye rematva vasi-karomi mila-mudra-mantra padai jah hum vam hoh. (真 言 事 典1931-b. 大 正20-510a. 514a. 533b)

(オ ー、 大 楽 金 剛 薩 垣 の た めに、速 や か に大 楽 不 空三 昧耶 を擁 護 せ よ、目覚

め させ よ、 目覚 め させ よ、汝 は妙 適 で あ る こ とに、 我 に歓 喜 が生 ぜ よ、 我

に満 足 が生 ぜ よ、我 に美 人 が生 ぜ よ、我 に満 足 が生 ぜ よ、 幸 福 を もた らす

母 よ、 宝 蔵 を与 え よ、衆 生 の 一切 の悉 地 を我 に授 与 せ よ、 愛 の女 神 の 能 入

よ、 冥 合 の歓 喜 を 自在 な ら しめ よ、交 合 の 印 の密究 を獲 さ しめ よ、 ジ ャ フ

フ ー ム、 ヴ ァム、 ホ ー フ)こ の真 言 は金 剛 薩 垣 が 永 遠 の 真 理 と交 わ り、歓

喜の中 に あ る こ とを 男女 の交 会 に喩 え て示 そ う と した 真 言 で、 一 如 の 境 は

そ の ま ま曼 茶 羅 の世 界 に 入 って救 わ れ て い る こ とを示 して い る の で あ る。

次 に端 的 に救 わ れ た世 界 にあ る こ とを示 す た め に四 摂 の 真 言 を前 に した 例

を示 して み よ う。

(16)

-130-jah hum vam hoh maha-sukha vajra-sattvabhisekanuttma-abhisisincami

sarva-vajradhipate tvam drdha me bhava siddhi namo'stu to bhaga-van maha-vajra-dhara-suratas team maha-vajra-sattva om prp vasa. (真

言 事 典235. 大 正8-801a) (ジ ャ フ、 ブ ー ム、 ヴ ァ ム、 ホ ー フ、 大 楽 金 剛 薩 唾 の 無 上 の 灌 頂 を 我 れ は な す。 一 切 金 剛 主 よ、 汝 は 我 が た め に 堅 固 を 生 ぜ し め よ、 悉 地 が か く あ る ご と く、 世 尊 大 持 金 剛 は 汝 な り。 偉 大 な 金 剛 薩 唾 よ、 オ ー ム(満 た せ、 自 在 な れ?)。 次 に 金 剛 頂 経 の 教 理 を 発 展 さ せ た 『愉 祇 経 』 に つ い て、 特 に 金 剛 薬 叉、 八 供 四 摂 に つ い て み て み た い。

om maha-yaksa-vajra-sattva bah hum vain hole pravesa hum(真 言 事 典762. 大 正18-268c)

(オ ー ム、 大 薬 叉 金 剛 大 士 よ、 ジ ャ フ、 ブ ー ム、 ヴ ァ ム、 ホ ー フ、 引 き 入 れ よ、 ブ ー ム)

om maha-raga-vajrosnisa jah hum vam hoh. (真 言 事 典770. 大 正18-255 c)

(オ ー ム、 大 愛 染 金 剛 頂 髪 金 剛 薩 唾 よ、 ジ ャ フ、 ブ ー ム、 ヴ ァ ム、ホ ー フ) om sarva-pupa jjah hum vam hoh. (真 言 事 典1724. 大 正18-256 b)

(オ ー ム、 一 切 供 養 よ、 ジ ジ ャ フ、 ブ ー ム、 ヴ ァ ム、 ホ ー フ)と あ る。 三 真 言 と も、 す べ て は 金 剛 界 曼 茶 羅 の 世 界 に 入 る こ と を 示 して い る の で あ る。 事 相 の 何 れ の 観 法、 真 言 もす べ て は 大 日 の 世 界 に 入 る こ と に 他 な らず、 そ れ は ま た 金 剛 界 に 引 入 さ れ る と い う こ と に な れ ば、 何 れ の 真 言 も、 ま た 無 意 味 な 語 を 羅 列 した も の もす べ て 救 済 の 真 言 に 他 な ら な い。 こ の 立 場 の 真 言 で は 『大 日 如 来 剣 印 』 に 示 さ れ た 虚 空 蔵 満 願 と、 『玲 祇 経 』に 示 さ れ た 大 勝 金 剛 の 真 言 を み て み よ う。

om sarva-tathagatabhiseka vajra-ratna-sarvaso-paripuraka jah hum vam hoh tram. (真 言 事 典1698. 大 正18-197a)

密 教 経 軌 に お け る 真 言 文 に つ い て

(17)

(オ ー ム、 一 切 如 来 の 灌 頂 受 者 よ、 金 剛 宝 一 切 処 能 満 願 尊 よ、 ジ ヤ フ、 フ ー ム、 ヴ ァ ム、 ホ ー フ、 トラ ー ム)

ta ta tu ti ti ti ti tu tu tu vajra-sattva jjah hum hoh hrih. hah hump hat hum(真 言 事 典292、 大 正18-264a)

(オ ー ム、 タ タ トテ ィ テ ィ ー、 テ ィ テ ィー、 ト ト ト ト、 金 剛 薩 垣 よ、 ジ ジ ャ フ、 ブ ー ム、 ヴ ァ ム、 ホ ー フ、 フ リー フ、 ハ ブ、 ブ ー ム、 プ ハ ッ ト、 フ ー ム)こ れ は 『愉 祇 経 』 の 成 就 一 切 明 の 真 言 で あ る。 真 言 の 意 味 は 分 ら な い が、 経 典 の 記 述 に よ る と 「百 千 道 の 雑 色 光 明 を 放 ち、 光 の 中 に 無 量 の 金 剛 杵 を 出 生 す 」(大 正18-264a)と あ る。 (8)梵 字 を組 み 合 わ せ た 真 言 梵 字 一 字 一 字 の も つ 象 徴 的 な 意 味 を 組 み 合 わ せ て 真 言 と し た も の が あ る。 代 表 的 な も の と し て 文 殊 の 真 言、 三 部 字 輪 観 の 真 言、 十 二 真 言 王 の 真 言 に つ い て み て い き た い。 a ra pa ca na(真 言 事 典58. 大 正20-716a、723b)(ア ラ パ チ ャ ナ) 文 殊 の 智 の 働 き を 示 す 真 言 で あ る。 こ れ は 悉 曇 四 十 二 字 門 の 冒 頭 の 五 字 で あ る。 四 十 二 の 各 梵 字 に そ れ ぞ れ の 字 義 を 示 し、 字 を 通 して 深 い 意 義 を 知 らせ よ う とす る も の で あ る。ア 「一 切 法 本 不 生 」、ラ 「一 切 法 離塵 垢 」、パ 「一 切 法 勝 義 諦 不 可 得 」、チ ャ 「一 切 法 無 諸 行 」、ナ 「一 切 法 相 不 可 得 」 と 観 察 し 真 実 世 界 を 開 見 さ せ よ う とす る 真 言 で あ る。

(N-S-B)nirvama ah nah nah nah nah mah svaha/(真 言 事 典445. 大 正 18-151b)

こ れ は 寂 静 浬 藥 の 真 言 で あ り、 三 部 字 輪 観 に 修 せ ら れ る 真 言 の 一 つ で、 鼻 音 の 五 字 を も っ て す る の で あ る。 無 擬 自在 の 説 法 を示 し た も の も の と さ れ て い る。

(N-S-B)asalnapta-dharma-dhatu-gatim gatanam sarvatha am kharyn am ah sam 8ah ham hah ram rah vam vah svaha hug?2 ram rah k乙ra hah svaha ram rah svaha/(真 言 事 典72. 大 正18-31b)

こ の真 言 は大 真 言 王、 十 二 真 言 王、 法 界 平 等観 の真 言 と呼 ばれ る。 文 頭

(18)

-128-は 「無 尽 の 法 界 を 超 越 した る も の に 、 一 切 の も の に つ い て 、 … … 」 と あ り あ と は 梵 字 を 羅 列 し た も の に な っ て い る 。 法 界 平 等 観 と は 大 日如 来 の 身 口 意 三 法 界 の 平 等 を観 ず る も の で 、 そ の た め に 十 二 字 を 身 体 に 配 し て 観 想 を 深 め て い く。 ア ム(頂)、 ク ハ ム(右 耳)、 ア ム(左 耳)、 ア ブ(額)、 サ ム(右 肩)、 サ ブ(左 肩)、 ハ ム(心)、 ハ ブ(背)、 ラ ム(膀)、 ラ フ(腰 後)、 ヴ ァ ム (左 右 の 股)、 ヴ ァ フ(左 右 の 足)と 観 ず る 。 こ の 十 二 真 言 を 身 体 に 観 ず る こ と に よ り、 自 己 は 即 ち 大 日 と な る 。 こ の こ と か ら発 展 し て 自 己 は 胎 蔵 曼 茶 羅 中 台 八 葉 の 大 日 に 他 な ら ぬ と して 、『秘 密 曼 茶 羅 品 図 尊 分 附 図 』 の 大 日別 壇 の 口 中 台 八 葉 の 曼 茶 羅 図(大 正 図 ユー 624以 下 の 図)に は 五 輪 塔 の ま わ り四 方 にam-khalp-am-ahと あ り、 更 に 四 方 四 仏 にram-rah, vam-vah,sam-sah, ham-hahの 種 子 が 配 さ れ 、法 界 平 等 即 大 日 の 立 場 が よ く示 さ れ て い る 。 3. 教 理 の 展 開 と 真 言 文 真 言 文 は 単 純 な 語 を も と に し な が ら、 真 言 文 の 特 性 を 示 す よ うに な り、 加 え て 教 理 の 展 開 の も と に そ の 内 容 を よ く示 す 真 言 文 へ と 発 展 す る 。 特 に 金 剛 頂 経 に お い て は こ の こ と が 顕 著 で 、 整 然 と し た 体 系 の も と に 真 言 文 が 出 来 上 る の で あ る 。 こ の こ と を 金 剛 薩 垣vajra-satvaの 立 場 か ら 眺 め 、 ひ い て 四 仏 加 持 、 五 仏 灌 頂 、 四 仏 繋 量 の 真 言 文 、 更 に は 『初 会 金 剛 頂 経 」 三 十 巻 本 の 真 言 文 の 特 性 に つ い て み て い き た い 。 (1)vajra-satva(金 剛 薩 垣)の 真 言(梵 本 はsattvaをsatvaと 記 す) vajra-satva(真 言 事 典1319)施 護 本(大 正18-342 c)の 他 金 剛 頂 経 に 示 され る真 言 で 金 剛 薩 垣 の 名 の み の 最 も 単 純 な 形 で あ る 。

om vajra-satva/『 諸 仏 境 界 摂 真 実 経 』(大 正18-277 a)に 出 る 真 言 でom の 字 が 冠 せ ら れ て い る 。 om Vajra-Satva ah「 蓮 華 部 心 念 諦 儀 軌 』 不 空 「二 巻 本 』 に 出 る形 で 、 om(尊 名)ahと 種 子 が 附 加 す る 。 「玲 祇 経 』 で は 金 剛 薩 垣 は 行 者 自 身 の 体 得 で あ る と し て 次 の 真 言 を 出 す 。 密 教 経 軌 に お け る 真 言 文 に つ い て

(19)

vajra-satva namo'stu te. (真 言 事 典1330大 正18-261 a) 四 仏 加 持、 五 仏 灌 頂、 四 仏 繋 髭 の真 言

(2)四 仏 加 持

om vajra-sateddhisthasva mam hum om vajra-ratnadhisthasva mam trah

om vajra-padma(dharma)adhisthasva mam hril om vajra-karma dhisthasva mam ah/

(3)五 仏 灌 頂

om larva-tathagataisvaryabhiseka vam om vajra-satvabhisinca mam hum/ om vajra-ratnabhisinca mam trah om vajra-padmabhisinca mam hrih om vajra-karmabhisifica mam ah/ (4)四 仏 繋 量

om vatra-satva-malabhisinca mam vam/ om vajra-ratna-malabhisinca mam vam/

om vajra-padma-malabhisinca mam vam/ om vajra-harma-malabhisifiea mam vam

上 の 真 言 文 を熟 視 す る と 四 仏 の 尊 名 と種 子 が 異 な る だ け で、 あ と は 全 く 同 一 の 文 型 に よ る 真 言 で あ る。 四 仏 は 阿 閾、 室 生、 無 量 寿、 不 空 成 就 を さ す が、 こ の 真 言 文 で は 四 仏 を 示 す の に 菩 薩 名 で な して い る。 つ ま り金 剛 薩 唾valra-satva, 金 剛 宝vajra-ratna, 金 剛

dharma), 金 剛 業vajra-karmaで 示 さ れ て い る。 菩 薩 で 示 す の は 実 践 実 修 を重 視 す る か ら で あ る。 次 に 四 仏 の 特 色 を示 す の に 大 日 を 入 れ る と vam hulp trah hrih ahの 種 子 と な る。 こ の 種 子 は 教 理 的 な 解 釈 が な さ れ、 金 剛 の 知 恵 の 完 成、 煩 悩 の 克 服、 塵 垢 を 除 き 本 来 の の 顕 示、 本 性 清 浄 を 悟 り浬 葉 の 証 得、 究 極 の 浬 葉 の 証 得 を 意 味 す る。 四 仏 繋 髭 の 種 示 が す べ てvamと あ る の は、す べ て の 行 法 は っ づ ま る と こ ろ 大 日 の 体 得 に 他 な ら ぬ

(20)

-126-こ と を 示 し て い る。 -126-こ の よ うに み る と加 持 の 真 言、 灌 頂 の 真 言、 繋 量 の 真 言 はadhisthasva, abhisiica, malabhisincaの 語 が 入 れ 替 る だ け で あ る。

さ て 教 理 の 発 展 か らす べ て は 金 剛 界 の 証 得 と あ る 立 場 は 『諭 祇 経 』 の 大 勝 金 剛 の 真 言 に 見 られ る。

om maha-vajrosnisa hum trah hrih ah hum. (真 言 事 典777. 18-258b)

(5) 『初 会 金 剛 頂 経 』 三 十 巻 本 の 真 言

『初 会 金 剛 頂 経 』 は 大 き く 分 け てI金 剛 界 品、II降 三 世 品、III遍調 伏 品、 IV一 切 義 就 品 の 四 品 か ら な る。 金 剛 界 品 は(1)金 剛 界 の 全 体 を 示 す 金 剛 界 大 曼 茶 羅、(2)大 曼 茶 羅 を 開 く金 剛 秘 密 曼 茶 羅vajraguhya, (3)大曼 茶 羅 を 開 く 金 剛 微 細 智vajra-suksma, (4)大曼 茶 羅 の 世 界 を 実 践 して い く掲 磨, karma そ して こ の 四 種 の 曼 茶 羅 を 統 括 す る(5)四 印、(6)一 印 の 計 六 種 の 曼 茶 羅 が 示 さ れ て い る。 降 三 世 品 以 下 の 各 品 も そ の 内 容 はI金 剛 界 品 と 異 らな い。 た だII降 三 世 品 は こ れ ら の 曼 茶 羅 を 煩 悩 克 服 を 強 く出 す 愈 怒 智Krodhaの 立 場 で 示 し、 皿 遍 調 伏 品 は 蓮 華 部padmaの 調 伏 の 働 き を 強 く出 して す べ て を 清 浄 世 界 に 導 く こ と を 示 し、IV一 切 義 成 就 品 は 虚 空 蔵 菩 薩 の 示 す 宝 の 心Ratna, 宝 珠Mapi、 を も と に し て、 行 者 の 宝 性 を顕 わ に す る 立 場 で 示 さ れ る の で あ る。し た が っ て こ の 各 品 に示 さ れ た 真 言 文 に はkrodha(葱 怒)、padma(蓮 華)mapi, ratna(宝 珠)の 語 が 真 言 文 に 附 加 され る。 こ れ ら の こ と を よ く 理 解 して お れ ば 膨 大 な 『初 会 金 剛 頂 経 』 を 読 み と る こ と が 出 来 る の で あ る。 今 各 品 に 出 る 真 言 文 の 基 本 型 を 示 して み よ う。 1 金 剛 界 品 (1) 金 剛 界 大 曼 茶 羅(尊 名) (2) 金 剛 秘 密 曼 茶 羅

(a)四 仏(vajra, ratna, dharma, karlna)valripi (b)他 の 尊vajra-guhya-(尊 名)(種 子) (3) 金 剛 智 法 曼 茶 羅 密 教 経 軌 に お け る 真 言 文 に つ い て

(21)

(a)四 仏om(尊 名)(suksma-jnana-samaya)hum

(b)他 の 尊(尊 名)(atmaka, hrd, tistha, hrdaya) (4) 金 剛 事 業 掲 磨 曼 茶 羅

(a)四 仏om(sarva-tathagata-vajra)-(尊 名)anuttara-puja, rana samaye-hum.

(b)他 の 尊om sarva-tathagata-sarva-atma-niryatana puja-spharana karma(尊 名)

以 上 の よ う に 大 曼 茶 羅 は 尊 名 の み、(2)金 剛 秘 密 曼 茶 羅 で はgubya, (3)金 剛 智 法 曼 茶 羅 で はsuksma-jnana, 或 はatmaka, hrd, tistha hrdayaの 語 が 附 し、(4)金 剛 事 業 掲 羅 曼 茶 羅 で はkarmaの 語 が つ く。 次 の 降 三 世 品 以 下 で は 原 則 と してkrodha, padma, mani又 はratnaが 更 に 附 加 さ れ る か 或 は 単 独 に 示 さ れ る か と い うこ と に な る。 金 剛 界 大 曼 茶 羅 の 例 に 準 じて み て い き た い。

II 降 三 世 品

(1)krodha(尊 名), or(尊 名)krodha (2)(krodha, rosa, mara)(尊 名)-(krodhe等)

(3)(a)omsukSma-vajra-(各 尊 の 特 色)-krodh'akrama burn phat/ (b) (尊 名)-suksma-krodha/suksma-vajra-krodha/suksma-tivra/

(4)(a)om sarva-tathagata(四 尊 の 特 vidhi-vistara-samaye huzn

(b)(各 尊 の 特 色)一karma-jnana-samaye huln jjab/ III 遍 調 伏 品

(1)(尊 名)一padma, or padma-(尊 名), と こ ろ に よ っ て は 個 性 あ る 尊 名 が み ら れ る(bhrkuti, tara, padma, kumara, nilakantha)

(2)padma-(尊 名)

(3)padma-jnana-(尊 名)hum (4)om padma-karma-(尊 名)

(22)

-124-IV 一 切 義 成 就 品 (1)vajra-mani-(尊 名)

(2)(a)(vatra, vajra-ratna, vajra-dharma, sarva)-abhiseka… (b)mani-ratna-(尊 名) (3)mapi-pana-(尊 名), Or jnana-mapi-(尊 名) (4)(a)mani-ratna-(尊 名)-karma: (b) … … … puje samaye:

4.

以 上 われ わ れ は事 相 の領 域 で の真 言 文 を、 ほ ん の 一 部 で は あ る が相 互 に

比 較 検 討 して み た。 そ の こ とに よ り経 軌 の成 立、 前 後 の 関 係 は 一 部 が 明 ら

か とな り、 ま た異 な っ た真 言 と考 え られ て い た もの で あ っ て も、 類 似 の文、

共 通 の単 語 を も と に対 象 して み る と、 意 外 に も様 々 な 関連 が 分 り経 軌 の特

性 が把 握 され るの で あ る。 今 迄 事 相 の秘 密 性 を遵 守 す る あ ま り、 こ の種 の

研 究 が等 閑 に付 せ られ た よ うで あ る が、 今 後 真 言 密 教 を学 問 的 に 解 明 し、

新 しい教 学 を うちた る に は避 けて 通 れ ぬ道 で あ ろ う。真 言 文 が そ れ ぞ れ の

立 場 で 明 らか に な って くれ ば密 教 経 軌 へ の 関 心 が 高 ま って くる で あ ろ う。

そ の こ と が密 教 を宗 派 を越 え て現 代 に生 かす 重 要 な鍵 とな って い くも の と

確 信 す る次 第 で あ る。

密 教 経 軌 に お け る 真 言 文 に つ い て

参照

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