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酒気帯び免責条項に関する一考察

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酒気帯び免責条項に関する一考察

山 下 典 孝

■アブストラクト

本稿は,酒気帯び免責条項の適用を巡り異なった解釈をとった大阪地判平 成21年5月18日判時2085号152頁と東京地判平成23年3月16日自保ジャーナ ル1851号110頁,金判1377号49頁とを素材として,酒気帯び免責条項に関す る法的問題を検討するものである。

酒気帯び免責条項を置き,飲酒運転を抑止するために,一律に免責を認め ることは合理的根拠を持ち得ることである。様々な方向から,飲酒運転を撲 滅することの一環として,酒気帯び免責条項が置かれているとする考え方も 十分に妥当性を有するものと考え,私見の立場は,酒気帯び免責条項につい ては,制限的解釈をすべきではないと考える。

■キーワード

酒気帯び運転,危険増加,保険者免責

1.本稿の目的

任意自動車保険契約に適用される自動車普通保険約款における搭乗者傷害 条項,人身傷害条項,車両条項,自損事故傷害特約等においては,道路交通 法第65条第1項に定める酒気帯び運転もしくはこれに相当する状態で被保険 自動車を運転している場合に生じた損害(傷害)に対しては,保険金を支払

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*平成23年9月24日の日本保険学会関西部会報告による。

/平成24年5月28日原稿受領。

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わない旨の,いわゆる酒気帯び免責条項が設けられている 。

この酒気帯び免責条項は,従来, 酒に酔って正常な運転ができないおそ れがある状態で被保険自動車を運転している場合 または 酒に酔った状態

(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいいま す。)で被保険自動車を運転している場合 を免責事由としていたものを,

飲酒運転に関する刑法上の厳罰化に伴い,平成16年の約款改訂に伴い現行の 免責条項が設けられることとなった。

この酒気帯び免責条項の適用を巡り,近時,2つの異なる解釈を行った裁 判例が現れた。本稿は,この2つの裁判例を素材に,酒気帯び免責条項に関 する法的問題を検討することを目的とするものである。

2.2つの裁判例の紹介

⑴ 大阪地判平成21年5月18日判時2085号152頁

〔事実の概要〕

X(原告)は,平成14年12月,Y損害保険株式会社(被告,以下, Y社 という。)との間で,本件被保険自動車(以下,本件車両という)につき個 人総合自動車保険契約を締結した。以後,保険期間満了の都度,契約を更新 し,平成17年12月頃,本件保険契約を締結し,年間保険料を支払った。平成 18年4月23日午前6時10分頃,大阪市中央区の路上で,Xが本件車両を運転 し,時速40㎞で東から西に向かって走行中,片側4車線の道路(以下,本件 道路という)の第3車線において交差点の対面赤信号表示に従って停止して

1) これに対して,対人賠償責任条項,対物賠償責任条項においては,酒気帯び 免責条項は,被害者救済の観点から,昭和47年(1972年)の任意自動車保険の 約款改定により削除されている(鴻常夫編 註解自動車保険約款 (有斐閣,

1995年)225頁〔西嶋梅治執筆〕)。

2) 本件の判例研究等については, 岐孝宏 判批 法学セミナー670号(2010 年)137頁,市川典継 判批 保険と共済53巻4号(2011年)28頁以下,桜沢 隆哉 判批 法律のひろば64巻9号(2011年)64頁以下,竹濵修 判批 損害 保険研究73巻3号(2011年)239頁以下がある。

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いたP運転の普通乗用自動車の後部に追突し,本件車両が損傷した。

Xは,本件事故発生後,飲酒検知を受け,呼気1リットル中に0.1ミリグ ラムのアルコールを保有していることが判明した。

Xは,Y社に対し,平成18年4月23日頃,本件事故の発生を通知し,遅く とも同年5月22日に本件保険契約に基づく車両保険金を支払うよう請求した が,Y社は酒気帯び免責条項(判決文では, 本件免責条項〔2〕と表記さ れている。)を主張し支払を拒否した。

これに対し,Xは,①道交法65条1項に定める 酒気帯び は,呼気1リ ットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコール保有であることから,同条項 に定める酒気帯び運転には該当しない,②平成16年の約款改定は,一方的に 消費者に著しく不利益な変更をしたものであるうえ,免責条項について告知 説明を一切していないから,当該酒気帯び免責条項は,消費者契約法1,3 条の趣旨に反し,同法10条により無効である等と,主張した。

〔判旨〕

⑴本件免責条項〔2〕について

本件免責条項〔2〕は, 道交法第65条第1項に定める酒気帯び運転違反 もしくはこれに相当する状態で被保険自動車を運転している場合 に生じた 損害に対しては,保険金を支払わないことを定めるところ,同法65条1項に 定める 酒気を帯びて とは,およそ社会通念上酒気を帯びているといわれ る状態,具体的には,その者が,通常の状態で身体に保有する程度以上にア ルコールを保有している状態にあり,このことが顔色,呼気等の外観上認知 できる状態にあることをいうものと通常解釈されている。そして,同条項,

道交法117条の2第1号及び117条の4第2号の各文言,規定方法等からすれ ば,同法65条1項は,罰則の対象となる場合に当たらない程度の酒気帯び運 転も含めて禁止する趣旨であることが認められる。

そうすると,本件免責条項〔2〕は,その文言自体からは,道交法上の罰 則の対象とならない場合も含めて,酒気を帯びての運転を免責の対象とする ものとも解しうるところであり,少なくとも,原告が主張するような,政令

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で定める数値以上の酒気を帯びていることを要件とするものと解すべき理由 はない。したがって,本件免責条項〔2〕の解釈に関する原告の主張は採用 できない。

もっとも,本件免責条項〔2〕が,損害との因果関係を要せずに本件免責 条項にあたる状態であることをもっておよそ保険者を免責するという効果を 有する条項であること,本件免責条項が,同条項〔2〕と併記して,無免許 運転及び麻薬,覚せい剤やシンナー等の薬物ないし毒物の影響により正常な 運転ができないおそれがある状態での運転(本件免責条項〔1〕。なお,同 条項は,道交法66条において禁止された過労運転等のうち,一定の薬物の影 響による場合について罰則が定められた同法117条の2第1号の2の規定と ほぼ同様の文言を定める条項である。)という,社会的非難の対象となる理 由により正常な運転ができないおそれがある状態での運転として道交法上罰 則が定められた場合を免責の対象としていることとの整合性などを考慮すれ ば,本件免責条項〔2〕が,無免許運転及び同条項〔1〕の場合よりも厳格 に,およそ運転行動にアルコールの影響が現れるおそれがないような場合も 含めて,酒気を帯びているといわれる状態での運転を当然に免責とする趣旨 とみることも困難である。

上記のような本件免責条項全体の趣旨及び効果との整合性等をも考慮すれ ば,本件免責条項〔2〕は,その形式的文言にかかわらず,酒気を帯びた状 態での運転のうち,アルコールの影響により正常な運転ができないおそれが ある状態での運転を免責事由とする趣旨であると制限的に解釈することが,

当事者の合理的意思にかない,相当であると解する。

なお,以上のような解釈に基づけば,本件免責条項〔2〕が,消費者契約 法10条等に違反する旨の原告の主張は,理由がないことが明らかである。

⑵そうすると,本件免責条項〔2〕は,道交法施行令44条の3に定められた 程度のアルコールを身体に保有した状態であることを要するものではないが,

アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転を 免責事由とするものと解すべきこととなる。

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そして, アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状 態 にあたる場合とは,当該運転者の飲酒行動,当該事故の当時身体に保有 したアルコール量,アルコール耐性や事故当時の肉体的及び精神的状態,事 故当時の運転状態ないし事故態様及び原因等も総合的に考慮して,当該運転 者が,事故の当時,アルコールの影響により運転者としての通常の注意力,

判断能力等を明らかに低下した状態であったと評価される場合であると解す ることが相当である。

なお,原告は,原告のアルコール保有量が,抽象的・一般的危険性がない と推定される程度であり,可罰的違法性のない運転状態であったことが明ら かであると主張する。しかしながら,そもそも,道交法65条1項,117条の 2第1号及び117条の4第2号の規定からしても,道交法施行令44条の3に 定められた数値に達しない場合のアルコール保有状態をもって,直ちに抽象 的・一般的危険性がないと推定されているとはいえないし,およそ可罰的違 法性がないとされているものともいえない。

⑵ 東京地判平成23年3月16日自保ジャーナル1851号110頁,金判1377号49

〔事実の概要〕

Aは,Y損害保険株式会社(以下, Y社 という。)との間で,自損事故 傷害条項及び搭乗者傷害特約が付された家庭用総合自動車保険契約と,年金 払交通傷害保険契約を締結していた。Aは自損事故を起こし負傷し後遺障害 を負ったとして主張し,Aの破産管財人であるXがY社に対して,各保険契 約に基づく保険金等の支払いを求めて訴えを提起した。

Y社は,本件事故直後の飲酒検査において,呼気1リットルにつき0.05ミ リグラムのアルコールが検知されるなどしたから,Aは酒気を帯びた状態で 二輪車を運転して本件事故を発生されたものであり,本件自動車保険契約の

3) 本件の判例研究等については, 岐孝宏 判批 法学セミナー686号125頁

(2012年),山野嘉朗 判批 金判1386号(2012年)26頁以下,がある。

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酒気帯び免責条項が定める免責事由に該当すると主張した。

これに対し,Xは,①酒気帯び免責条項は,酒気を帯びた状態での運転の うちアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある場合に限定 して解釈されるべきであること,②約款上免責事由として,酒気帯びのほか,

無免許運転や 麻薬,大麻,あへん,覚せい剤,シンナー等の影響により正 常な運転ができないおそれがある状態 等を挙げており,これらの免責事由 との整合性から,およそ運転行動にアルコールの影響が現れるおそれがない ような場合を含めて,酒気帯び運転を当然に免責とする趣旨とみるのは困難 であり,酒気帯び免責条項を①のとおり限定的に解釈すべきであって,それ が当事者の合理的意思や消費者契約法10条等の趣旨にも合致すると主張した。

〔判旨〕

酒気帯び免責条項は, 被保険者が,道路交通法第65条第1項に定める酒気 帯び運転またはこれに相当する状態でご契約のお車を運転している場合に生 じた傷害 とのみ規定しており, アルコールの影響により正常な運転がで きないおそれがある状態 という文言は入っていない。酒気帯び免責条項は,

道路交通法第第65条第1項が酒気を帯びて自動車を運転する行為を禁止して いることに対応しており,酒気を帯びた状態で自動車を運転してはならない のに運転している場合に生じた事故は自招損害であり,運転者が自己責任を 負うべきであるとして保険金の支払を免責する趣旨のものと解される。この ような酒気帯び免責条項の文言及び趣旨に照らせば,同条項は,道路交通法 第65条第1項の酒気帯びの状態で自動車を運転している場合に生じた傷害で あれば,アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で あるか否かにかかわらず,免責事由に該当すると解するのが相当である。

酒気帯び免責条項は,酒気帯びの状態での運転中の事故は自招損害であり 運転者が自己責任を負うべきであるとして免責事由とするものと解され,こ のような条項は合理性があって,これを限定的に解釈すべき理由は見いだし 難い。

他方,約款は,免責事由とされる無免許運転について, 被保険者が,法令

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により定められた運転資格を持たないで…車を運転している場合に生じた傷 害 と規定するにとどまり, …の影響により正常な運転ができないおそれ がある状態 という文言は存しない。この規定は,道路交通法第64条が無免 許運転を禁止していることに対応しており,無免許者はおよそ自動車を運転 してはならないのに運転している場合に生じた事故は無免許者の自招損害で あり,運転者が自己責任を負うべきであるとして免責事由とする趣旨のもの と解される。また,約款が列挙する免責事由で …の影響により正常な運転 ができないおそれがある状態 と規定しているのは,麻薬,大麻,あへん,

覚せい剤,シンナー等(以下,これらを合わせて 麻薬等 という。)の影 響による場合のみである。この規定は,道路交通法が,麻薬等を服用して自 動車を運転すること自体を禁止せず,その第66条で, 何人も,…薬物の影 響その他の理由により,正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を 運転してはならない。 と規定しているのに対応しており,麻薬等の影響に より正常な運転ができないおそれがある状態で自動車を運転している場合に 生じた傷害に限って免責事由とする趣旨のものと解される。

このように,約款における免責事由の規定ぶり全体をみても,約款は,免 責事由を規定するに当たり,それぞれの免責事由ごとにふさわしい要件を記 述していると解されるのであって,他の免責事由の規定ぶりから酒気帯び運 転免責事由の限定的解釈を正当化することはできないし,限定的解釈が当事 者の合理的意思や消費者契約法10条等の趣旨に合致するともいえない。

3.検討すべき問題

道路交通法65条1項は 何人も,酒気を帯びて車両等を運転してはならな い。 とし,同条違反として同法117条の2第1号で刑事罰の対処となる飲酒 運転に関しては,平成19年改正前の道路交通法施行令44条の3は, 法第117 条の2の2第1号の政令で定める身体に保有するアルコールの程度は,血液 1ミリリットルにつき0.3ミリグラム又は呼気1リットルにつき0.15ミリグ ラムとする。 とする。

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道路交通法65条1項での 酒気を帯び とは,およそ社会通念上酒気を帯 びているといわれる状態を指し,その者が,通常の状態で身体に保有する程 度以上にアルコールを保有している状態にある場合がこれに該当すると解さ れている 。

そのことから,刑事罰の対象とならない酒気帯び運転であっても一律に酒 気帯び免責条項を適用することに合理性があるのか,を巡って裁判で争われ るケースが散見されるようになっている。

裁判での請求者側の主張としては,道路交通法65条1項での酒気帯びに該 当すれば一律に免責を認めるとする当該条項が公序良俗の観点から制限的に 解釈されるべきであるとか,他の免責条項との関係においても広範囲な免責 を定めるものであり不当条項として消費者契約法10条に反するものである,

等が示されている。本稿ではこれらの点について検討を行うこととしたい 。

4.酒気帯び免責条項の設定趣旨と一律免責の可否

旧約款における下級審裁判例において,飲酒運転中の事故を保険者の免責 とする趣旨に関し,①飲酒運転が事故を起こす蓋然性の高い行為であり,飲 酒運転自体が法令により禁止されている反社会性の高い行為であること,② 飲酒運転について保険保護を与えることが飲酒運転を奨励,助長することに なって公序良俗に反する結果になること,等が挙げられている 。

4) 道路交通法研究会編 最新注解道路交通法〔全訂版〕 (立花書房 2010年)

373頁。

5) なお,酒気帯び運転免責条項は,保険法における危険増加に関する片面的強 行規定(同法33条1項・29条1項)の適用は問題とはならない。そもそも告知 事項には該当しない事項であることと,酒気帯びという客観的状況が継続する 間は,保険者の引受範囲外と捉え,保険者免責とされているものと考えられる。

6) 札幌高判昭和57年10月21日交通民集15巻5号1163頁。生命保険における災害 割増特約においても 酒気帯び運転 中の事故を免責事由としているが,その 設定趣旨については,公序良俗・信義則違反の考え方によるとされている(日 本生命保険生命保険研究会編著 生命保険の法務と実務改訂版 (金融財政事 情研究会,2011年)261頁。

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現行の約款における酒気帯び免責条項の趣旨に関して,通常の状態で身体 に保有する程度以上にアルコールを保有していることが外観上認知できるよ うな状態にあれば,道交法65条1項の酒気帯びであり,罰則適用の有無にか かわらず,運転が禁止されているものであるから,この状態での運転中の事 故について免責を定めたものであるとする見解がある 。また現行の酒気帯 び免責条項の適用が争われた下級審裁判例においても, 酒気帯び運転の場 合,たとえば飲酒量が微量であっても認知力,情報処理能力,注意力,判断 力が低下し,反応速度が遅くなって交通事故を起こす可能性が著しく高まる ことから…,本件免責条項は,酒気帯びの程度を問わず,その運転を一律免 責事由としたものであると解される。 とするものがある 。

さらに,酒気帯び免責条項の性質から,これが原因免責であるとすれば,

保険事故の発生の原因ないし事由による免責の問題を定めたもの(危険の発 生的制限)であると解されることから因果関係が必要となるが,他方,状態 免責であるとすれば,保険事故発生時におけるある客観的な状態にある間の 事故については一律に免責とする趣旨であると解することになるので,因果 関係は不要になるとする見解も示されている 。

これに対して,飲酒免責条項が本来異常危険除外の趣旨を含んでおりそれ ゆえに正当化される点や,違法行為の抑止は主に刑事法の役割である点,を 見過ごして,安易に飲酒運転厳罰化に迎合する解釈を支持すべきでないとし て,前掲・大阪地判平成21年5月18日の立場に好意的な見解も示されてい

7) 塩崎勤ほか編 専門訴訟講座3 保険関係訴訟 (民事法研究会 2009年)

358頁〔牧元大介執筆〕,市川・前掲注2)33頁,桜沢・前掲注2)70頁。

8) 和歌山地判平成20年3月19日

LEX/ DB

文献番号25472512。控訴審である大 阪高判平成20年8月29日

LEX/ DB

文献番号25472511も原審を引用して原審判 決の立場を維持している。

9) 桜沢・前掲注2)69頁。山下友信 保険法 (有斐閣,2005年)362頁は,酒気 帯び免責条項を状態免責事由の例として示した上で,酒酔い運転と因果関係に ある損害についてのみ免責とするものではなく,ある客観的な状態にある間の 事故については一律に免責とするものであると説明される。

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る 。

加えて,前掲・東京地判平成23年3月16日で示された解釈では, 常識的な 睡眠時間をとり,本人の認識なく翌日にアルコールが残ってしまっている場 合や,祭事等で,社会的儀礼の範囲でアルコールを少量口にした場合でも免 責となる。警察や法律家でない一般人(契約者)は(刑事・民事を問わず)

刑事罰の対象となるものを 酒気帯び運転 と考えているものであって,上 記の結論は,保険保護に対する契約者の合理的な期待を裏切り,保険に加入 する意味を大きく減じる事態…をもたらす。 という批判もなされている 。

この酒気帯び免責条項につき制限的な解釈に好意的な見解が拠り所として いる考え方は,酒気帯び免責条項は,飲酒運転が保険事故を発生させる危険 を著しく増加させるものであるため,被保険者がその状態にある間を保険保 護の範囲から除外している趣旨であり,飲酒運転の場合に保険保護のないこ とが,ひいては飲酒運転行為の抑止にも役立っていると解し,飲酒運転行為 の抑止は付随的なものに過ぎないとする見解 によるものと考えられる。

この見解によれば,反社会的行為に対する制裁ないし抑止は,主として刑 事法の役割であり,飲酒運転免責条項を公序良俗維持の観点から根拠付ける ことに疑問を呈し,その理由として,自動車保険普通保険約款の賠償責任条 項において,被害者保護の見地から酒酔い運転免責条項が削除されており,

合理的理由があれば,飲酒運転免責条項が変更もしくは削除されることを示 唆するばかりか,同規定が絶対的に変更しえない公序良俗の維持のみを根拠 にしているものではないことを示すものであるとされる 。

10) 岐・前掲注2)137頁。

11) 岐・前掲注3)125頁。

12) 竹濵修 判批 商事法務1193号(1193年)38頁。

13) 竹濵・前掲注12)38頁。もっとも,竹濵・前掲注2)251頁では,社会状況の変 化を踏まえ現行の酒気帯び免責条項に関して, 政令数値以上の酒気帯び運転 は保険者免責になると解すべきであり,アルコールの影響により正常な運転が できないおそれがある状態,つまり従来, 酒酔い運転 といわれていた状態 にまで達する必要はないと解すべきであろう とされている。

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さらに,生命保険契約に付加された災害割増特約及び傷害特約において 被保険者の飲酒運転中の事故 により被保険者が死亡したときは災害割増 特約保険金及び傷害特約保険金を支払わない旨の定めがあり,当該免責事由 にいう 飲酒運転 の解釈が争われた案件である大阪地判昭和60年2月28日 判タ553号240頁においては, 飲酒運転は,その文理上の解釈からすればお よそ酒気を帯びた状態での運転すべてを包含するように読めないでもないが,

保険支払の免責事由としての 飲酒運転 である以上無限定的に酒気帯び運 転全般を含むと解するのは相当でなく,他の免責事由との権衡をも顧慮した 上で,かつ 疑わしきは保険者の不利益に という解釈原理に立つて目的的 かつ合理的に解釈されなければならない。 として, 本件の免責事由として,

災害割増特約(52)では第一条中に 被保険者の無免許運転中または飲酒運転 中の事故 と,傷害特約(52)第一条では その被保険者の無免許運転中また は飲酒運転中の事故 といずれも無免許運転と同じ条項に並記されているこ とが認められ,このことから右約款にいう飲酒運転の程度は無免許運転と同 程度又はそれ以上のものであることを要すると解されるところ,各違反行為 に対する道路交通法の罰則に照らすと,単なる酒気帯び運転では足りずアル コールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態での運転を指し,

本件免責事由である 飲酒運転 は危険の発生又は危険の増加の蓋然性が極 めて大きいため自動車の使用又は運転それ自体が強く禁止されている酒酔運 転をいうものと解するのが相当である。 と判示するものもある

14) 本判決と同様な立場の裁判例として大阪地判昭和59年11月8日判タ548号244 頁がある。しかし,その控訴審判決である大阪高判昭和60年10月16日高民集38 巻2号139頁は, 酒に酔つて正常な運転ができない状態での運転を原因として 事故が発生したときの意味に限定して解釈すべき合理的な理由はない として,

当時の 道路交通法119条1項7号の2が刑罰をもつて運転を禁止している血 液1ミリリツトルにつき0.5ミリグラム又は呼気一リツトルにつき0.25ミリグ ラム以上のアルコールを身体に保有する状態で運転をしたときを意味する と した。なお,当該裁判例は生命保険会社の災害保険金支払いに関する事案であ る。生命保険会社の生命保険契約の特約である災害割増特約に適用される約款 での酒気帯び運転中の事故を免責とする条項は人身傷害補償保険契約に適用さ 11 保険学雑誌 第 618号

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加えて,学説の中には,災害割増特約及び傷害特約における飲酒運転特約 に関する上記裁判例は,そもそも免責事由が文言上広きに失する事例であり,

実質的には不当条項規制の適用事例というべきであるとする見解も見受けら れる 。

この見解によれば,現行の酒気帯び免責条項が刑事罰に関係なく一律に保 険者の免責を認めていることが,不当条項規制の対象となり,消費者契約法 10条等の違反を主張する請求者側の見解の根拠をなしていると考えられなく もない。

確かに,反社会的行為に対する制裁ないし抑止は,主として刑事法の役割 である。実際に,飲酒運転により幼き命が失われるなどの悲惨な交通事故等 を発端として,飲酒運転の抑止という世論を受け,刑法改正による危険運転 致死傷罪の新設,道路交通法117条の2の改正による刑事罰の強化等がなさ れてきた。しかし,それにもかかわらず,飲酒運転による同様な事件が発生 している事実をどう受け止めるべきかということが重要である。

刑事法のみにその役割を担わせるだけで不十分であることは現実社会に起 きている様々な事象を見れば明白である。公益的な事業である保険事業にお いても,酒気帯び免責条項を置き,飲酒運転を抑止するために,一律に免責 を認めることは合理的根拠を持ち得ることである。様々な方向から,飲酒運 転を撲滅することの一環として,酒気帯び免責条項が置かれているとする考 え方も十分に妥当性を有するものと考えられる。

法令を遵守し,適法な運転を行っている運転手との公正性や,一般社会の 認識にも合致した免責条項として,これが不当条項とまではいうことはでき ないと考える。今日の一般的な契約者の認識として,刑事罰の対象となる酒 気帯び運転のみが保険者免責となると考えるのは,飲酒運転撲滅に対する

れる約款とは異なり,刑事罰の対象となる飲酒運転を免責の対象としている

(日本生命保険生命保険研究会編著 生命保険の法務と実務 (金融財政事情研 究会,2011年)261頁参照)。

15) 山下(友)・前掲注9)書121頁注67)。

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様々な動きと逆行する考え方と思われる 。

なお,被害者保護の見地から賠償責任保険において酒酔い運転免責条項が 削除されて数十年経つが,これは先述の通り,交通事故の被害者によって加 害車両の運転手が,飲酒運転を行っているか否かで賠償責任保険金を原資と する賠償金の支払資力が左右されることに対する問題を政策的に解決したも のに過ぎなく,飲酒運転自体を肯定するものではない。交通事故の被害者は 加害者を選べないため,被害者救済という政策的な目的で,免責条項を削除 したものである。これに対して,酒気帯び免責条項は,飲酒運転を行った者 自身に保険保護を認めるか否かの問題で,次元が全く異なるものであり,同 じ次元で公序良俗の根拠を捉えること自体矛盾すると考える。加えて,酒気 帯び運転は,二日酔いであるか否か関係なく,一定量の飲酒が検出されれば,

対象となるものである。

5.他の免責条項との関係

シンナー等の違法な薬物の影響による保険事故については 正常な運転が できないおそれがある状態 にあることを免責要件としているのに,それ自 体合法であるアルコールについては 正常な運転ができないおそれがある状 態 の有無を問題とせず,一律免責事由にしていること,に対して批判的な 見解 や,均衡の問題が残る点を指摘する見解 が見受けられる。また前 掲・大阪地判平成21年5月18日は,上記免責事由との関係で,酒気帯び免責 条項について制限的な解釈をとる。

これに対して,前掲・東京地判平成23年3月16日は,個々の免責条項の設 定趣旨やその文理解釈から制限的な解釈に関して否定的な見解を示す。

通常,シンナー等の違法な薬物中毒者が自動車を運転する確率は,極めて

16) 山野・前掲注3)30頁も,政令数値以上の酒気帯び運転中の事故に限り免責と されると解することに否定的な立場を示されている。

17) 岐・前掲注2)137頁。

18) 竹濵・前掲注2)252頁。

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低い。シンナーは別として他の違法な薬物を所持していること自体が違法で あり,その入手も極めて難しい。一般人が違法な薬物を入手すること自体,

困難であり,かつそれに加えて,薬物の影響による保険事故の発生自体,極 めて少ないとも考えられる。

これに対して,アルコールを所持していること自体は,合法であり,未成 年者でなければその入手も用意である。そうすると合法でかつ入手しやすい アルコールを飲酒し,自動車を運転する可能性というのは,薬物の影響を受 けて自動車を運転する極めて例外的な場合とでは対比にはならない。飲酒運 転についてこれを免責としなければ,警察に見つからなければ大丈夫という 安易な気持ちで,飲酒運転を行う確率は極めて高くなる可能性がある。その ような対比から考えて,飲酒運転の場合に関して,一律免責事由とすること にも合理性があることは先述の通りである。違法な薬物の場合についても,

本来ならば一律免責事由とすべきであるが,確率の点などを考慮して,十分 な約款改定がなされていないとも考えられる。その点を考えれば,薬物につ いても同様に,これを一律免責事由としていない保険者の態度を批判するの ならばともかく,飲酒運転について一律免責事由とすることを批判すること は合理性を持ち得ないと考える。

6.むすび

私見の立場は,酒気帯び免責条項については,制限的解釈をすべきではな いと考える。ただし,形式的に酒気帯び免責条項を適用することが合理性を 持ち得ない,特段の事情が認められる場合には,例外的に免責条項の適用が 否定されることも考えられなくはない 。

もっとも,このような特段の事情が認められるのは極めて例外的なものと 考えられる。極めて例外的な事例を持ち出し,酒気帯び免責条項の適用を制 限的に解釈する見解を支持することはできない。

19) 山野・前掲注3)31頁参照。

(15)

【追記】

本稿脱稿後,岡山地判平成24年5月31日ウエストロー・ジャパン文献番号 2012WLJPCA05316001に接した。前掲・岡山地判平成24年5月31日は,酒 気帯び免責条項に関して 本件免責条項は,酒気帯び運転につき,道路交通 法上,それ自体が禁止されていることにかんがみ,罰則の適用を受けるか否 かあるいは正常な運転ができないおそれがある状態であったか否かを問わず,

免責事由とすることを定めたものと解するのが相当である。 として制限的 解釈を否定する。

(筆者は大阪大学教授)

15 保険学雑誌 第 618号

参照

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