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リ トル トン-チ ェ ンバ 「ス論争 の現代 的意義

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リ トル トン‑チ ェ ンバ 「ス論争 の現代 的意義

1 ま え か

リトル トン(1886‑1974)の会計理論 とチェンバース (1917 )の会計 理論 とはきわめて異質 な側面 を もっている。 リトル トンの会計理論 は取得原価 主義会計 に属す るものであるのに対 し, チ ェンバ ースの会計理論 は売却時価会 計 に属 して いる。 リ トル トンが経営成績 の測定 を重視 す るのに対 し, チ ェ ン バ ースは財政状態 の表示 に重点 をおいて いる。一方が会計実務 との緊密 な関係 を維持 す る立場 を とるのた対 し,他方 は現行 の会計実務 の改革 を目指 してい る。 こうした異質性 はアメ リカとオース トラ リアとい う経済環境 の違 いによる のか もしれない。 きわめて対照的な会計理論だけに双方を比較す ることは興味 深 い。

二人の会計論争 は1950年代の中頃に展開 された。今か ら30年 はど前 の こと である。リトル トンの方 は当時 70歳前後 であ り,みずか らの会計理論を ほぼ完 成 した晩年 の時期 になる。また,チ ェンバースの方 は30歳代 の後半であ り,こ れか ら自己の会計理論 を築 こうとしていた時期である。 そのための方法論 が提 示 されていた. その後, チiンバースが独 自の会計理論を展開 した ことはよ く 知 られている

会計論争 は2つの面か らとらえ られ るよ うに思われ る。 ひとっ はチ ェンバー スの提示 した方法論 をめ ぐる論争 という面 である。二人の方法論が どのように 相違 しているのかを明 らか に したいと思 う もうひとっ は リトル トン理論 に対 す るチ ェンバ ースの批判 とい う面 である。 チ ェンバ ースは伝統的な会計理論 に 対す る不満 を もっていた。 その不満が どんなところにあるのかを明 らかに した いと思 うO.これ らの検討 を通 して二人 の会計論争の現代的な意義 を探 ることが

111

(2)

本稿 の目的である

2.論 争 の 概 要

リトル トン ェンバースの会計論争は上述 した2つの面に集約できるに し て も, まず 全体の概要を明らかにしておく必要があると思われる。論争に 直接関連 のある7つの文献を発表順に示せばつぎのとおりである。

[1] リトルトン『会計理の構造』(1953年)(1)

[2] チェンバース「会計理構想」‑(1955年 1月)(2)

[3] チェンバース「会計理科学的様式」(1955年 10月)(3)

[4] リ トルトン1会計の理解の仕方」(1956年 2月)(4)

[5] リ トトン 「代替案 の選択」 (1956年 7月)(51

[6] ェンバース 「『会計理論 の構造』 に関す る若干 の考察」 (1956年 10 月)(6)

[7] ェ ンバース 「構想 に蘭す る詳論」 (1957年 4月)(7)

なお,[2] [3] [7]の文献 はチェ ンバースの論文集 (8)に, [4] [5] の文

(1)A.C.Littleton,StructureofAccounting Theoyy,AmericanAccountingAssl ociation,1953.大塚俊郎訳 『会計理論の構造』東洋経済新報社,昭和30年。

(2).R.J.Chambers,"BlueprintforaTheory ofAccounting:'TheAccpuniing Resewch,January1955,pp.17‑25.Reprint,TheAustrlalian Accountant,

September1955,pp.379‑386.

(3) R.J.Chambers,"A ScientはcPattern forAccounting Theory,"TheAu‑

stylalianAccountant,October1955,pp.428‑434.

t4) A.C.Littleton,"TowardsUnderstanding Accountancy,''TheAustralian Accountant,February1956,pp.8li84.

(5) A.C.Littleton,"ChoiceAmongAlternatives:'TheAccountingReview,July

1956,pp.363‑370.

(6) .∫.Chambers,"SomeObservationsoǹStructureofAccountingTheory','' TheAccountingReview,October1956,pp.584I592.

(7) R.J.Chambers.''DetailforaBlueprint:'TheAccountingReview,April1957, pp.206‑215.

(8)R.J.Chambers,Accounting,FinanceandManagement,Butterworth& Com‑

(3)

リトル トン‑チェンバース論争の現代的意義 113

献 についでは リトル トンの論文集(9)に,それぞれ再録 されている

[1]の文献 は リトル トンの主著のひとっであり,会計の本質 と理論の本質 と いう2つの観点か ら会計理論の構造を探究 した ものである。 その冒頭部分 は理 論 と実務 の関係 についての リトル トンの考 えを最 もよ く表現 している。「会計 の理論.と実務 は不可分 に結 びつ いているため, どち らも独立 には存立 しえな い。実務を十分 に理解す るためには,理論 も同様 に理解す る必要がある(10)

理論 と実務 の相互依存性 を強調 す るのが リトル トンの立場 である(ll)。 この 点,[2]の文献 はまった く異 なる考えを表明 している。●会計の実務 を参照す ることな しに会計の痩論を構成す ることが可能である。 この ことは理論が現実 との結 びっ さをまった くもたないとい う意味ではない(12)。」 チェシバースは会 計の実務 に関す るル丁ルの体系 と会計の理論 とを区別す る必要があると説 いて いる。従来 「会計理論」 と称 されているものは会計の実務 に関す るルールの体 系 にす ぎず,それ らは本来の会計理論 とはいえないというわけである リトル トンの主著 もそれ らの中に含 め られてお り,批判の対象 とされている チェン バースは独 自の考えとして4つの命題を提示 しているけれども,それについて の考察 は次節 にゆず りたいと思 う

[3]の文献 は [2]の文献を拡張 したものであ り,科学的理論の必要性 に焦 点を合わせた ものである これまでの会計の文献 は科学的な厳密 さを欠 いてい 仮説 と認め られる多 くの定言的言明や帰納的および演得的推論の例 はある に して も,仮説を検証 または支持す るために両方を体系的に用 いた例 はほとん どない。推論 に もとづ く結論 で あ るかの ごとき価値判 断 の例 がた くさんあ

pany,1969,pp.347‑371.

(9)A.C.Littleton,EsaysonAccountancy,UniversityofIllinoisPress,1961,pp.

346‑360.

(10) A.C.Littleton,StructurleOfAccountingTheory,p.r.大塚俊郎 『前掲訳書』3

ページ参照。

(ll) 渡辺和夫稿 「リトル トンにおける理論 と実務産業経理』第424号,昭和 57

5月,参照。

(12)R.J.Chambers,"BlueprintforaTheoryofAccounting:Pop.cit,p.19.'

(4)

る(13)。 チェンバースは命題 の体系 としての理論 を求 めたのである。

「リトル トン教授 はかれのモノグラフを 『会計理論 の構造』 と名づ けている。

しか し,検討 してみ ると, それは発生主義 に もとづ く,営利企業 のための,複 式記入会計のみを扱 ってお り, 3っの明確 な限定を設 けてい ることは普遍的な 用語を不適切 に使用 していることになる(14)。」現金主義会計,非営利事業会計, 単式記入会計 も会計 のはずである。会計理論 とい う言葉を限定 した領域 に適用 す ることは適切 でないと論 じている。

さて,文献 [4] [5]は リトル トンの反論である。[4]の文献ではまず

最初 に会計の理解 の仕方 について2つの見方があげ られそいる ひとっ は演縛 の途 (road ofdeduction)であ り, もうひとっ は経験 の途 (road ofexperi ence)である。前者 は教育的でやや楽 しいルー トであるのに対 し,後者 は長 く 困難 な道 であ り,複雑 な技術 を完全 に専門的に理解す る途である。第二 の′アプ ローチにとって有益 な補足 となるのは会計史の研究である。 それ は会計が長 い 間に日常的な記録以上 に大 き く成長 し,現代企業を理解す る言語 にな った,方 法や理 由につ いての見方を提供 しうる(15)。 リトル トンが第二 のアプ ローチを選 択 した ことはい うまで もない。

「この企業言語 は モ論理的な思考体系''の助 けをまった く借 りずに現在 の幅広 い有用性 を もっ水準 にまで成長 した。明 らかにこの言語 は,同 じ方法 によ̲り, すなわち実践的な使用経験 な らびに知的な反復 による試行錯誤 によ り, その成 長 を続 け られ る し, また続 けるであろう(16)

[5]の文献 で も [4]の文献 と同 じよ うに会計理論 に関す る2っの考 え方が まず示 されている すなわち, ひとつ は理論 を多数 の説明,理 由,正当化 とみ なす ものであ り,それはあるがままの会計 を理解す るのに役立 もうひとっ

(13)R.J.Chambers,"A ScientificPattern forAccounting Theory,"op.cit.,p.

429.

(14) Ibid.,p.430.

(15)A.C.Littleton,"TowardsUnderstandingAccountancy,Hop.cit.,p.81.

(16) Ibid.,p‑83.

(5)

リトル トン‑チェンバース論争の現代的意義 115

はあ らゆるものを包括す るひとっの会計理論 を目指す ものであ り, それは新 し い情況 に会計 を広 く適用 させようとす るものである(17)

しか し,論文 の中心 はチ ェンバ ースの提示 した4つの命題 に向 け られて い る。 それぞれの命題 について代替案を示 し,両者 を比較検討す る形式で議論が 進 め られ る したが って, チ ェ ンバ ース と リトル トンの考 えの違 いが鮮 明 に なって くる。 なかで も物価指数 による会計数値修正 の是否 をめ ぐる問題 が中心 に位置づ けられているようである。 この問題 は [4]で もかな り詳 しく論 じら れていた。 チェンバースの肯定論 に対 して, リトル トンは否定論 を展開す る。

[6]の文献 は 『会計理論 の構造』全体 に対す る批判 といえ るものである。注 目され る点 と して,利益概念,客観性,および価値論 に関す る批判 があげ られ リトル トンのように利益概念 を会計 の中心概念 にすえ ることは,貸借対照 表の役割 を軽視す ることにつなが る。 しか し,貸借対照表 は本来有用な もので あるとチェンバースは論 じる。 また, リトル トンの考 え る客観性 の概念 は取引 に基礎 をおいた ものであ り,襖証可能性が重視 されている。 しか し,そのよう な狭 い考えでは不十分であ るとい うのがチ ェンバースの見解である。 さ らに,

リトル トンを価格論者 とすれば, チ ェンバースは価値論者 といえ る。会計 は価 値 の測定 に もっと積極的に取 り組 む必要 があるとチ ェンバ ースは主張す る。

最後 の文献 [7]2つの部分か ら構成 されている 前半 は科学的研究 の意 義 を論 じた ものであ り,文献 [2]および [3]の補足的説明を試 みている 後半 は リトル トンの批判 [5]に対す る反論 を述べた ものである。 とくに最後 の部分で は, リトル トンのアプローチをプ ラグマチズムと規定 した うえで,そ の限界を指摘 している。

以上 の関係 を整理す ると図1のよ うになる 矢印 は批判 の対象 になっている 文献を示 した ものである。太線 で示 した関係 はとくに重要 な ものであ り,次節 以降における考察 の中心 になるものである

(17)A.C.Littleton,"Choice AmongAltern ativ es," op .cit.,p.363.

(6)

1 リトル トン‑チェンバース論争の関係

.3 チ ェンバースの理論構想 と リ トル トンの批判

,1955 1月 に公表 された 「会計理論 の構想」は,チ ェンバースの会計理論研 究 の出発点をなす ものであ った。 それは先人の業績 を踏襲 しよ うとす るもので 峠な く, まった く新 しい観点か ら会計理論 を構築 しーよ うとす る試 みであ った。

それだ けに, それは当時 として はきわめて大胆 な提案だ ったにちがいないd 理論 とはそ もそ も若干 の基本的な仮定 または公理か ら出発 し,一連 の関連 あ る命題 を構築す ることによって形成 され る(18), とチェンバ ースは考 え るム した が って,会計理論 について も基本的な前提か.6出発す ることが必要 とされ るO チェンバ ースはそのための基本的命題 と してつ ぎの4つを提示 している(19)

(a) 一定 の組織 的活動 は意志 また は拠 出者 の協力 によ り存在 す る実体 に よって行 なわれ る

(b) これ らの実体 は合理的に,つま り拠 出者 の要求 に合わせて有効 に管理 され る。

(C) 実体 の取引 と関係 を貨幣額 で示 した計算書 は合理的な管理 を容易 にす るひとつの手段である

(d) そのよ うな計算書 の作成 はサー ビス機能 である。

(18) R.J.Chambers,"BlueprintforaTheory ofAccounting,''op.cit.,p.19.

(19) Jbid.,p.19.

(7)

リトルトン‑チェンバース論争の現代的意義 117

これ らの命題 は 「実体」 と 「合理性」 と 「計算書」 とい うキー ・ワー ドで相 互 に関連づけられてお り, ひとっのまとまりを形成 している ここにいう実体 は営利企業だけをさす ものではな く,非営利団体や政府を も含んでいる それ は会計が必要 とされるあ らゆる組織を包括す るきわめて一般的な概念なのであ る。 そこで時継続企業か清算企業かの区別 さえ も存在 しない。 もちろん, どち らの企業を仮定す るかによって,会計 システムに取 り入れ られ る情報 の種類 は 異 な って くる。 しか し,そ うした可能性を検討す ることはここでの課題ではな

いとされている

第二 の基本命題 は合理的な管理 であるけれども,それを行な うためには情報 嘩供 システムが必要である. その システムは意思決定の基礎 な‑らびに意思決定 の結果を再検討す る基礎 として必要 とさ中る。会計 システムはその一部 にはか な らない。

ところで,会計 システムで使われる貨幣単位の性質 に関 しては代替的な仮定 が存在す る。すなわち,.貨幣単位 は安定 .した実質価値を もっのか,それ とも不 安定 な実質価値を もつのかである。 いずれを採用す るかによって会計 システム

は違 って くる チェンバースによれば,現在の会計実務 は貨幣的安定性 の仮定 にもとづいて行 なわれているけれども,それは明 らかに非現実的であると主張 されている(20)。 このチェンバースの主張 は, 2つの代替的な仮定の うちどち ら が現実の会計実務 に適合す るのかについて意見を述べた ものである したが っ て, それ昼基本命題か ら派生 した別個の問題 に対する見解 にはかな らないので ある。

複雑 な実体 においては3種類の会計計算書が有用であるという指摘 もある。

3種類 とは貸借対照奉 損益計算書,および資金計算書を意味 している̀21' か し, この点 につ いて もどのよ うな仮定 を設定す るか によ っで内容 は変化す

る。要す るに, チェンバースは会計理論の骨組を示 したにすぎないのである。

(20)Ibid.,p.22.

( Ibid.,p.23.

(8)

チ ェンバ ースの理論構想 に対 して リトル トンはどのよ うな批判 を加 えたので あろ うか。会計 の理解 の仕方 や会計理論 に繭す る考 え方 はひ とつで はない, と い うのが リ トル トンの強調 したい点 であ った。 きれにつ いて はす ぐに前節 でふ れた。 ここで は4つの命題 に関す る論評 に焦点 を合わせて考察 を進 め ることに す る 各命題 に対す る リトル トンの代替案 とコメ ン トをまず掲 げてみ ることに

しよ う(22)

第‑命題 に関 して,会計資料 を使用す る各種企業 は基本的 に類似 していると 仮定す ることも, また相違 していると仮定す ることもで きる。相違 しているが

ゆえに, それぞれに適 した会計資料 を必要 とす るのであろ うか。

第二命題 に関 して,企業管理者 の行動 は合理的であ ると仮定す ることも, ま た直観的かつ模倣的であ ると仮定す ることもで きる 管理者 の行動 が直観的 ま た は模倣 的で あ るが ゆえ に,意思決定 のための援助 を必要 とす ̲るので あ ろ う か。

第三命題 に関 して,会計記号 は安定 した価値 を表わす と仮定す ることも, ま た不安定 な価値 を表 わす と仮定す ることもで きる。不安定 な価値 を表わすがゆ えに,会計技術 の変更が必要 なのであろ うか。

第四命題 に関 して,会計資料および財務諸表 は確立 された慣習 と伝統 に した が って作成 され ると仮定す ることも, また利用者 が必要 とす る資料 を提供す る のに適 した方法 で作成 され ると仮定す ることもで きる。会計 はサー ビス技術 で あるがゆえに,利用者 が必要 とす る資料 を提供すべ きなのか。

リ トル トンはそれぞれの命題 につ いて別 の見方 もあ ることを指摘 した もの と 思 われ る。 しか し,第三命題 のケースを除 き, リトル トンの批判 は必 ず しも的

を射 た ものではないよ うであ る とい うよ りも, チ ェンバ ースの見方 を一方的 に解釈 して いるよ うな面 があ る た とえば,第二命題 における管理者 の行動 を 直観的かつ模倣的 と解釈 した り,第四命題 におけるサー ttl;スの意味 を拡大解釈

(22) A.C.Littleton,"ChoiceAmong Alternatives,"op.cit.,p.364.

ただし,要点のみを意訳 して示 した。

(9)

リ トル トン‑チ ェ ンバ ース論争 の●現代的意義 119

しているなどである また,第一命題 に関 して は, チ ェンバ ース自身の反論を あげた方がよさそ うである

類似性 と相違性 はともに重要であるけれ ども,異質 な面 においてである。類 似性 は一般理論 の基礎.を提供す るのに対 し,相違性 は特定 の付加的理論 を必要

とす る(23)

第三命題のケ⊥スはチェンバースが明確 な解釈 を示 しているとい う意味で論 争点 にな っている。 もっとも,基本命題 その ものが論点 なのではな く, それか ら派生 した問題 について見解 が分かれているのである。論点 は,会計記号 が不 安定 な価噂を表わす場合,会計技術 の変更 を必要 とす るか否か とい うことであ 具体的にいえば,物価水準の変動 を会計数値 に取 り入れ るか どうかの問題 である チ ェンバースは肯定論を とり, リトル トンは否定論 を とる

リトル トンによれば,物価水準 の変動 を会計数値 に導入す ることは会計 に固 有 の自然的な限界をゆがめることになると理解す る(24)。 会計 には固有 の構造が あ り, それをゆがめるよ うな修正 は望 ま しくないとい う考えである。会計情報 の有用性 は伝統 的 な会計構造 を維持す ることによ って保 たれ る 物価指数 に よって修正 した数値 よ りも,修正す る前 の元の数値 の方が有用だ とい うのが リ

トル トンの考 えである。 もっとも,物価水準 の変動 を修正 した資料 は無意味だ と主張 しているわけで はない。そのよ うな資料 は補足的な解釈 に役立っ にす ぎ ない。

他方,チェンバ ースの見方 はま った く異 なる。物価水準 が変動 しているか ぎ り,それを修正す るのが当然 である。そ うしなければ適切 な測定 を行 な うことは 不可能 になる。購買力の異 なる時点 に測定 した数値 を同一 に扱 うことは不適当 である。現行の会計実務 に対する不満がそ七には含 まれているといえよう。なお, チ ェンバースは物価水準 の修正 をすればそれで十分だ と考えているわけではな い。チェンバースが提唱す るのは売却時価会計 にはかな らないか らである

(23)R.J.Chambers,"DetailforaBlueprint:Top.cit.,p.213.

(24) A.C.Littleton,"ChoiceAmong Alternatives,"op・cit,pp・366,369.

(10)

4 リ トル トンの理論構造 とチ ェンバースの批判

会計理論の構造』で扱われている内容 は企業会計である。チェンバースのよ うにあ らゆる会計領域 を網羅的に考えたものではない。 その意味では リトル ト ンの主著 は限定的な会計理論の構造を扱 った ものといえよう しか し,それは 最 も重要な会計領域で もある.同書 の第一部 は会計の本質を究明 した部分であ り,その中心 に位置づけているのが利益概念である。それは法律学 における正 義,政治学 における公平,経済学 における価値,等 に相当す る会計学の中心概 念セ あるといわれている(25)。利益概念を会計の中心概念 とす ることは,利益の 決定が会計の中心 目的になることを意味 している その結果,収益 と費用 との 期間的な対応が強調 されることになる。

さらに,利益概念をとりま く要素 として,取引,記帳,勘定,配分,財希渚 義,および監査 という6つの会計領域が設定 される(26) これ らの領域 は,容易 に理解 しうるように,複式簿記の過程 と密接 に結びっいている。 リトル トンに とって複式簿記 と会計 とは不可分な関係 になっているのである。チェンバース のように単式簿記を も含めた会計の一般化 を試みようとしなか ったのは, この ようなところに理由があったのか もしれない。

いずれに して も, リトル トンの損益計算重視の思考 に対 して,チェンバース は貸借対照表 の重要性 に着 目す る。 リトル トン流 の考えによると,損益勘定 (revenueaccount)が主産物 とな り,貸借対照表 は単 なる副産物 とみなされる

ことになろう。 しか し,支払能力の表示 も利益 の表示 と同様 に重要なのではな いだろ うか。貸借対照表 は負債 を返済 し配当を支払 うための資産 の有用性 を まった く表示で きないのであろうか(27)。チェンバースの疑問 は広が って行 く

(25) A.C.Littleton,StructureofAccountingTheory,p.18.大塚俊郎 『前掲訳書』26

ペー ジ参照

(26)Ibid.,p.116.『同訳書』169ペー ジ参照。

(27) R.J.Chambers,"SomeObservationsoǹStructureofAccountingTheory',"

op.cit.,p.586.

(11)

リトルトン‑チェンバース論争の現代的意義 121

貸借対照表 は財政状態を表示す るといわれ るけれ ども, それには限界があ る。取得原価主義会計の もとにおける貸借対照表 は,支払能力を適切 に示すよ うな構造 にな っていない。資産 は取得原価 にもとづいて測定 されているか らで ある チェンバースの望むような機能を貸借対照表に期待す るためには,従来 の会計構造では不十分なのである。貸借対照表が真の財政状態を示すよ うにす るには,伝統的な会計構造 を修正す る必要があるO チェンバース理論が革新的 なゆえんである。

会計の内容 に関 して も二人の意見 は相当に食い違 っている。 リトル ト̀ンが企 業 と外部者 との取引を重視す るのに対 し, チェンバースはもっと広 くとらえる べ きだ と主張す る。 ここでいう取引 というのは会計記録の対象 となる経済的事 実をさ してお り′,会計取引あるいは簿記上の取引 と呼びうるものである 外部

I

者 との間で決定 された価格 にもとづいて勘定への記帳が行なわれ る。それによ り客観的で検証可能 な会計数値が求 め られ るわけである。 リトル トンの取引畢 視主義 に対 して,チェンバースは,期待および外部事象を勘定に記入す ること が認め られる必要がある(28)。」と述べている。現 に低価法の使用 は外部事象にも とづ く記入の一例 になっている きわめて単純な事業を除 き,会計にはなん ら かの見積 りの使用が不可欠である。 また,外部者 との取引価格であって も公正 な市場価格を反映 しないこともある。 チェンバースは,企業が経験 した取引価 格 よりも,市場で成立 した価格の方を重視 しているのである。

問題 は外部事象や期待 を積極的 に会計 に導入す ることの得失 にかか ってい る。 リトル トンのよ うに会計構造 に固有の自然的な限界内にとどまる方がよい のか,それ ともその限界を超えて会計 の有用性を高 める方がよいかである。 ど ち らの選択 の方が会計 の発展 につながるかである。

会計理論 の構造』の第二部では理論の本質が論 じられている。理論 と実務 は 相互依存関係 にあるという観点か ら, リトル トンは,定義,理 由,原則,概念

(28)Ibid.,p.587.

(12)

4つを理論 の構成要素 と して と らえ る(29)。 これ らを用 いて説明す ることが理 論 の本質であ る。その うえで,会計理論 の中核 にな る23の会計原則が導 き出 さ れて いる(30)

同書 の目的 につ いてチ ェ ンバ ースはつ ぎのよ うに述べている。「会計理論 の 構造』 の一般 目的 は慣習的 な企業会計方法 の妥当性 を論証す ることにあ る。 し

●●●●

たが ってそれ は, ひ とっの会計理論 であ って,唯一可能 な会計理論 で もなけれ ば, い くつかの可能 な理論 を包摂 す る論説 で もない(31)」 (傍点 は原文 イ タ リッ クを示す。)チ ェ ンバ ースが 目指 して いるのは,会計 の一部分 のみを扱 うひ とっ の会計理論 で はな く,一般的な会計理論 なのであ る

別 の と ころで はつ ぎの よ うな指摘 もな されて い る科学 的命題 と実務 の ルール との区別 はそれぞれが記述 され る形式 か ら明 らかであ る。科学 的命題, すなわち観察と推論か ら生 じる結論 は,直説法 (indicativemood)で記述 され る。他方,実務 のルール,基準, および コンベ ンシ ョンは,指令 きたは命令 の 形式 で記述 され る。 ‑‑科学的命題 の妥 当性 はその前提 および推論 に照 らして 検証 され るのに対 し, ルールの妥 当性 は同 じよ うに検証 されない。 なぜ な ら, ル‑ルは価値判断,つま り意見 または信念 を含 んでお り, いずれ も,科学 的 に検 証 で きないか らであ る(32)。」

リトル トンの理論 は科学 的 に検証 で きない実務 のルー)Vに属す るもの と解釈 されて いる。 チ ェ ンバースの考 え る会計理論 は,科学的命題 を積 み重 ね ること によ って形成 され る。 しか し,会計学 において,価値判断を含 まない科学的命 題 を作成 す る ことは可能 なので あろ うか。 きわ めてむずか しいよ うに思 われ

(29) A.C.Littleton,StructurleOfAccountingTheoyy,pp.144‑148.大塚俊郎 『前掲 訳書』215‑219ペ ー ジ。

(30)Ibid.,pp.185‑208.『同訳書』274‑308 ジ O

(31)R.J.Chambers,"SomeObservationson'StructureofAccountingTheory':' op.cit,p.590.

(32) R.J.Chambers,"DetailforaBlueprint,"op.cit.,p.207.

(13)

リトル トン‑チェンバース論争の現代的意義 123

5

チ ェンバース理論 のその後 の展開 はめざま しいものがあ った。会計理論 を命

題 の体系 として とらえ る見方 は,1966年の著書(33)で詳細 に明 らか にされた。

チェンバースの理論 は, 「継続的に現在性 を もっ情報 を提供す る会計(Con‑

tinuously Contemporary Accounting:CoCoA)と して体系化 された(34'。 そ の内容 は売却時価会計 に属す るものである。 また, 自説 を裏づ ける無数 の証拠 資料 を収集 した著書(35)も公刊 されている会計理論 の構想」は見事 に花 を闘 い たといってよい。 一

しか し,会計理論家 の反応 はきわめて消極的である ユニークな考 えだけに いろいろな角度か ら批判 の対象 にされて はいるものの, その結論 を積極的に支 持す る者 は少 ない。伝統的な会計実務 を変革す る力 をチ ェンバ ース理論 に求 め

ることはむずか しそ うである。理論 のどこかに欠陥があるのか もしれない。

リトル トンとチ ェンバースの会計論争 は会計理論 について2っの見方 がある ことをわれわれに示 して くれた。 どち らのアプ ローチを とるか は各 自の選択 の 問題 にす ぎない。 しか し,会計学 のよ うな きわめて実践的な学問 にあ っては,

リトル トンのようなアプローチの方が有効 のよ うに思われ る。

今 日の方法論 はきわめて多数かつ複雑 にな っている それだけに原点 ともい うべ き二人の会計論争 を再検討 し,基本点 を明 らかにす ることが必要 であろう

原稿提 出日 昭和62 122

Hall,1966.塩原一郎訳 『現代会計学原理 一思考 と行動 における会計の役割‑』

(上 ・下),創成社,昭和59年。

その骨子はつぎの小冊子に要約されている。

R.J.Chambers,AnAutobibliograPhy,InternationalCentreforResearchin Accounting,UniversityofLancaster,1977,pp.59‑62.

(35) R.J.Chambers,Securitiesand Obscurities,acaseforrejTorm ofthelaw of companyaccounts,CowerPress,1973.塩原一郎訳 『現代会社会計論』創成社,昭 52年。

参照

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