学苑 総合教育 セ ンタ一 ・国際学科特 集 No. 8 3 5 8 9 ‑1 0 2( 2 0 ] 0・5 )
モ ダ リテ ィと焦点化 ・話題化 の関連 につ いての 認知言語学 的考察
田 林 洋 ‑
1.序
本稿では, モ ダ リティと談話の焦点化 ・話題化 と、 の意味的な関連 について認知言語学的な考察を行 うことを 目的 とす る。 まず, モダ リテ ィの概念 として中 右 ( 1 99 4) の階層意味論 モデル
(Hierarchical semanticModel )を概観 し,若干 の考察を加える。次 に,否定を中心 とした焦点化 と話題化について, モ ダ リテ ィと絡 めて論ず る。
2.
認知 言 語 学 の歴史 的背 景
認知言語学 とは
,Chafe( ユ 9 7 0 ) の概念主義 に始ま り
,Lakoff&Johnson( 1 980 ) で爆発的に増加 した当時の伝統的生成文法 と対立す る理論であるo Lか し
,Chomsky( 1 9 6 5,1 98 1 )等を始め とす る 確 固たる説明的枠組 みというよ りも,生成文法では解決 し切れなか った言語 の諸相 を独 自の理論で体 系的 に説明付 けよ うとした結果, その潮流が徐々に出来上が って きた とい う点で,強力な‑理論 の推 進派 とい うよ りも複数の理論 の統合的な流れ と見たほうが実情 に即 している。その中で も中心的な役 割 を担 っているのが
,Lakoffらが 目指 した生成意味論 の流れであるが,説明原理 の破綻か ら, 自然 消滅 したo生成意味論 の破綻 は二つの点で重要な意味を持 っている.一つ は統語的説明原理 をそのま ま意味 に用 いて もうま くいかないということが示 されたことで,意味 には統語 とは違 った別の方法論 的 アプローチが必要であるとい う点である。 もう一つ は生成意味論 の研究の成果が,そのまま現在の 認知言語学 に応用 されているとい う点である。
本稿では, メタファーやメ トニ ミーを中心 とした
Lakof fや
Langacker( 1 98 7,1 9 9 1 )の認知意味論, 認知文法 とは対極 をなす,生成文法 の枠組みか ら意味の問題 を捉 えた
Jackendoff( 1 9 9 0) などの研究, 特 i こ中右 ( 1 9 9 4 ) の立場か ら, モ ダ リテ ィと認知言語学の関連 について若干の考察を加えてみたい。
3.
モ ダ リテ ィの先行 研 究 と階層 意 味論 で の位 置 づ け
中右 ( 1 9 9 4 ) は生成文法の枠組みを大幅 に見直 し,同 じ次元 なが らも全 く独 自の理論 を発展 させた,
Jackendoff ( 1 9 9 0 ) の概 念 意 味 論
(Conceptual Semanties)に も近 い位 置 を 占 め る階 層 意 味 論
(HierarchicalSemalltics)と呼ばれ る言語 モデルを作 り上 げた。 中右 の前提 は以下 のよ うな認知主義 の立場 を取 る。
人間言語の文法体系
(grammaticalsystem)は基本的に自律的な認知領域をなすとしても,他の認知体 系から完全に独立 したものではないOわけても文法体系の一部をなす意味体系
(semanticsystem)は概念 体系
(conceptualsystem)と内在的な連関性を持っ。ただし,言語記号化できるかぎりの概念だけが言語
‑8 9 ‑
の意味体系のなかに反映される。
中右
(1994:4)その上で音韻構造,統語構造 に意味構造 を結 び付 けるものは何か, とい う問題提起 を している。
Jackendoff(1997)
はこの間題 に対応規則
(CorrespondenceRule)とい う説明を与えているが, 中右 は この点 に明解な回答 を与えてはお らず,統語論,音韻論,意味論及 び概念体系 ( 語用論的側面を含む 広義の意味論)はそれぞれ概念体系 とイ ンターフェイスを持っ文法体系内で関連性 を持っ とい う生成 論 と認知論 の統合 を図 っているのみである。 中右 の理論 は
Chomsky (1981 )に代表 され る統語論中 心 主 義
(Syntactocentrisln)とは噛み合 わないが, \中右が
Chomskyの理論 をたた き台 と している点 か ら,生成文法の影響が根強 く残 った理論 とい う意味合 いにおいて
,Jackendof fの概念意味論 に似 る。
こうした前提 に先立 ち,申右 は意味構造 に自律性 を提唱す る。つまり,文の意味 はそれ独 自の意味 要 素 の階層的配列型か らなり,それ故必然的 に文の蕃 味 も一定不変の骨格構造を形作 り,意味構造 は 統 語構造 と独立 して存在す る, という立場 を取 る。 中右の理論 の骨格 となるのが 「 意味構造 は階層構 造 をなす」 というものであ り, これは今 まで
Bloomfield(1933)らに始 まる直接構成要素分析 の主張 す る 「 文 は構造 を持っ」 とい う基本概念 に,更 に生成文法 の枠組みの視点か ら
Kajita (1968)の統語 論 における階層構造 を意味論 に応用 した もの と解釈 で きる。 だが
,Kajitaが純粋 に統語的問題 を扱 い,統語論中心主義を念頭 に置いているのに対 し,中右 は統語構造 とは全 く別の意味構造を規定 し, 意 味構造 それ 自体が文 を生成 してい くという点で,生成意味論や認知 言語学 に近 いアプローチを取 る。
さて, 文 の意味 は命題的 な成分 だ け とす る考 え方 は
, Chomskyの 「理想化 され た言語 体 系
」(IdealizedLanguageSystem)
の中でのみ 可能 な考 え方 であ り, 自然言語 にはそ ぐわないとい う面が あ った。つま り,生成文法では文の意味 は知 的意味
(CognitiveMeaning)だけに限定 され,情的意味
(EmotiveMeaning)はことごとく排除 されたo即 ち,初期の変形文法 は 「 受動態 と能動態 は同一 の意 味 を持 っ
」「 二重否定 は肯定である」 とい うよ うに完全 に様相論理学的な言語研究 しか して来 なか っ た 。命題内容 は文の成分の中で も中核 を成す存在ではあるが,例えば,蓋然性や可能性を表す表現や 図 と地の逆転現象 における語用論的 ・意味的側面 は命題内容 のみでの考察では捉え きれない。従 って, 命 題内容 とモダ リテ ィを二極化 して考察す るのは自然言語研究 においては必要条件 とな りうる。 この 場 合の二極化 とは,命題態度が内在的な義務的成分であるのに対 し,発話態度 は外在的な非義務的成 分 である, ということである。即 ち,文全体の意味 は発話的意味領域であるのに対 し,そ こか ら発話 態 度 を除いた命題成分 は文の構文的意味領域 を占める。
Kajita
にせ よ山田
(1908)の陳述論や時枝
(1941 )の言語過程説 にせ よ,古典的 ・伝統的言語観で は文及 びその発話の意味 は命題内容 +モダ リテ ィとい う立場 を取 っている。つまり, ある命題 に対 し て ,話者が どういう態度で述べているか とい う語用論的な要素 を文の意味構造 に求めている。時枝の 主 張す る文の入子型構造では,以下 の例文 を比較 し,文を 「モダリテ ィ+命題内容」 と,単 に陳述の
み を表す 「 命題内容」 の発話 の二つに分 けているO
(1)匝 麺 ∃左 ‑命題内容+モダリティ
(2)匝 麺 司‑命題内容のみ
‑
90‑[ = ]で示 した箇所 は命琴 内容 を表 し, で示 した箇所 はモ ダ リテ ィ,つま り発話態度 を表す。
即 ち,命題内容が完全 に文の中心であ り, モダ リテ ィ表現 はその命題内容 を語用論的に補完す る.一 方,渡辺 ( 1 971 ) は構文的職能 を基盤 に し,文 とは素材表示 の職能 と陳述 の職能 に分 け られ,命題 と
モダ リティは対等であるとす る,意味論的統語論 とも呼べ る観点を採用 している。
だが,先 に挙げた陳述論 を含 めた先行研究では以下 のよ うな文を分析できない。
( 3) ‑命題内容+モダリティ+?
(3)
の命題 内容 は一律 に規定で きるが, モダ リテ ィは暖味である 。 「 左」 と は陳述論 に よれば両方 とも話者 の態度 を表すモダ リテ ィ表現であるが,それが二分割 されている.一方,以下 の よ うな解釈 もあ りうる。
( 4) l 雨 が 降ったl 旦上土
「た」 が過去 とい う客観的事象 を想定 した表現 の指標であるな らば , 「た」 を命題 内容 と して扱 う
(4)
の解釈の方が 自然である。だが, ( 1 ) と比較す ると,上記 の解釈では命題内容及 びモダ リテ ィの 境界線が唆味になる。従 って,以下 のよ うな解釈 も考慮 に入れ る必要がある。
( 5)
匝 垂 ∃ 董卓上土(5)
は ( 1 ) とパ ラレルの関係 にあるが, モダ リテ ィが明確 に特定 されていない。即 ち, ( 1 ) では
「た」
, (5)では 「た らしい」とい う,異 なる表現が存在す るあに対 して,その構造 は同一 (モダリティ) であると説明されることになる。 よって,陳述論では文構造 の命題内容 とモダ リテ ィを区別す るため の最終的な解決を得 ることはで きない。
構造的聴能 に も同様の問題がある。即 ち, 命題内容 に相当す る素材表示の職能 と, モダ リテ ィに相 当す る陳述 の職能 の区別,更 には陳述 の職能内における統述 と断定 の境界線 も暖味である。従 って, 両理論 とも命題内容 とモダ リテ ィの明確 な区別がで きないとい う欠点がある
。Kajita
( 1 96 8) は命題内容 とモ ダ リティを明確 に区別 している
。Kajitaは文,即 ち
S(entence)に 四段階の階層構造 を想定 し, その うち
Slは
Sadvlに相当す るモダ リテ ィ,以下 S2は
Sadv2,S3は
Tense, そ して文 の骨格 を成す
S4は
NPと
VPにそれぞれ相 当す る命題 内容
(NPと
VP)と区分 け
している。 これを図式化す ると,以下 のようになる。
SI S2 S3 S4
SadvI Sadv2 Tense NP VP
I i
モダ リティ 命題内容
中右 は前述 のよ うに
Kajitaの統語的階層構造 を意味部門に当てはめた形 を取 っているが, そのま まの形 を踏襲 したわけではな く,文には統語構造 とは別 に,一定不変の骨格的意味構造があるとした。
中右 の階層意味論 モデルにおいて特徴的なのは,モダ リテ ィを談話モダ リテ ィ
(Discourse‑Modality, 以
FD‑MOD)と文内モダ リテ ィ
(Sentence‑Modality,以
下S‑MOD)の二つに分 けて命題内容 との差異 を明 らかに した こと ( つまりモダリティと命題内容の区別をより明確にしたこと) , そ して命題内容 の最 も
‑91‑
高 次 の位 置 に極 性 (POL)を置 いて 中 立 命題 と同列 に した こ とに あ る1。 これ は以 下 の よ うな スキ ー マで表 示 され る。
意味展開規則
M(S)2 .‑ D‑MOD(M(S)1 M(S)1 ‑ S‑MOD(pROPヰ pROP4 ‑す POL(PROPi PROP3 ‑ TNS(pROP'z PROP2 ‑‑ ASP(pROP】
PROPl ‑ PRED(ARG・‑(n≧1)
M(S) ‑ MeanlngOfSentence D‑MOD ‑ Discourse‑Modality S‑MOD ‑ Sentence‑Modality PROP ‑ Proposition POL ‑ Polarity TNS ‑ Tense ASp ‑ Aspect PRED ‑ Predicate ARG ‑ Argument
文の意味 談話モダ リテ ィ 文内モダリティ
命 題
極性, ボラリティ
時
制, テンス 柏,アスペク ト 述語項
中右
( 1 99 4:1 5
‑部改)」二記 の スキ ーマで は,KajitaのSadvlがD‑MODに,Sadv2がS‑MODにそれぞれ対応 す る。
階層意 味論 モデ ルの顕著 な特 徴 と して, 前述 したよ うに命題 内容 の最 も高 次 な もの と して極性 を設 け, そ して肯 定 も否 定 も表 さない中立 命 題 を設 定 した とい う点 が 挙 げ られ る。伝 統 的生 成文 法 (例え
ば
Ch()msky( 1 9 5 7 )など)で は否定表現 の付与 はいわ ゆ る変 形 で あ り,極 性 を決定 す るの は統語部 門 で
あ る と して いた。 だが, 中右 は中立 命題 と極 性 を同列 の位 置 に扱 うこ とによ って,統語構造 で はテ ン ス が極性 よ りも高次 の ものだ ったの に対 し, 意味構造 で は極性 が テ ンス よ りも高次 に来 るとい うこと を証 明 した。 まず,統語 構造 は以下 の よ うに説 明 され る。(6)a.[[[[太郎 は]来]なか っ]た〕
b.Tarodidnotcome. C.Taronovino.
統 語 的 に は 日本語 の (6a)で は 「なか っ」 とい う極性 表現 が,「た」 とい うテ ンス表現 よ りも低 い 1 中右は,話者の心的態度を発話態度及び談話モダ リテ ィ(Discourse‑Modality),命題に対する態度を命題 態度及び文内モダ リティ(Sentence‑Modality)と呼んでいるが,そ もそ も談話 とは文の集合体を表す もの であるため 「心的モダリテ ィ(MentaトModality)」 とで も名づけた方がいいように思われる。 なお 「発話 態度」 という用語に問題 はない。発話 (Utterance)は文でも単語単位で も行われるか らである。
これに対 して 「文内モダリティ」 という術語 も問題がある。通常,文 とは命題 とモダリティの組み合わせで あ り, 中右が主張す るのはその うちの命題 に対 する態度だ けだか らであ る。従 って,「命題 モダ リテ ィ (PropositionaトModality)」 とで も名づけた方がよい。 なお,命題態度 という術語に問題 はない。
‑ 9 2 ‑
位 置 に来 てい る。英語
(6b)では否定要素 を導入す る際 にDo‑Supportが必要 とされ るが, 階層的 位置 はテ ンスよ りも低 い。 スペイ ン語
(6C)ではテ ンスは動詞 に組み込 まれてお り,動詞 の方が否定 辞noよ りも階層的 に高 いo意味的な扱いについては以 卜を参照 の こと。(7) Doyouthink ‑L[theycancometonight?]]
(8) a.Ibelieve [[so.]] S
O
‑ theycaIICOrnetonight b.I
believe [110t.[¢]]¢ ‑ SO‑ theycanCometonight c.Idonotbelieve [[so.]](7)
及 び
(8)の各文か ら, (8C)のsoはPROP3を, そ して否定語である
(8b)のnotは
PROP4を衰 していることが分か る。従 って,意味的には極性表現の方がテ ンス表現 よ りも高次の位置 に来て い るとい うことになる。
4.D‑MODとSIMODの意味的側面
中右のモダ リテ ィの概念 は 「 話 し手の発話時点 における心的態度」 と定義付 け られ る。そ して,命 題 内容が客観的磁場 を形作 るのに対 し, モダ リテ ィは主観的磁場 を形作 る。つまり,命題内容 は現実 の現 象その ものを表記す るのに対 して,モダ リテ ィはその時の発話者の主観的側面 を重視す る。 この 区分 けで重要 なのは
S‑MODの扱 いである。即 ち,DI
MODは主観的磁場 を持っが,S‑
MODは主観 と客観 のどち らに も ( あるいは中間に)位置す ることで,両者 の解釈が可能 なケースが生 じることが あ る。 まず,両者の区分 けが明確な例を検討す る
。(9) FranklylbelieveIhavetoldalie,
(9)
の
Franklyは発話行為への限定的な主観的態度,即 ち命題内容への留保条件であ り,D‑MODと解 釈 され る。 そ して,主観的に見える
Ibelieveは発話者の主観を示 した ものであるが , 「 私が信 じ るJ とい う事象 は既 に生 じた絶対的事実であるか ら,S‑
MODは命題内容 における客観的態度,即 ち 哀理 値 についての査定を意味 し,命題態度 と規定す ることがで きる。 このモダ リテ ィの二極化構造が な い と,陳述論を始めとす るモダ リティの‑極化構造 と同様, こうした文が解釈不可能 になる。 この 分析 の根幹 とな っているのが主観 と客観の区別であ り,同 じモダ リティ表現内において も主観的モダ
リテ ィと客観的モダ リテ ィ ( 命題内容のモダリティ)がそれぞれ存在するとい うことになる
2。この客観的モダ リテ ィ表現 は時にその役割が唆味になることがある。即 ち,ある対象物 ない し表現 方 法 が一 見客体 と解釈 されて も, それを話 し手 の意識 と融 合す ると主体 と解釈 され る
。 (9)で は
Franklyの存在 によ ってIbelieveが客体 と解釈 されたが,以下 の文ではその区別が暖味になる
。(10)
I
believeI
havetoldalie.2 西村 (2000:160)は以下の例を挙げて,Lyons(1983)
や
Langacker(1990)らが主張する主観性と客観 性の区別を行っている。
(i)Ifindherargumentconvincing.
Langacker
らの主張によると
,(i)は思考の主体的な話 し手と比較して客観性が強い0‑万,中右の主張ではIf
indが 「 主観的」となる。
‑93‑
(10)
の
Ibelieveは
(9)と比較す る限 りにおいて
S‑MODと規定で きるが
,「 私が信 じているか ど うか」が客観的な事実であるか どうかは
(10)では発話者 に しか判断で きず,いわば表現者 の主体化 が されているかどうかが暖味である
.Langacker(1991 )の論 を借 りると,客観的話 し手 と主体化 さ れ た表現 が
(10)において は融合 しうる。従 って,Ibe
lieveを完全 なる主観的表現,即 ち
D‑MODと解釈す ることも不可能ではない。つま り,主体化は語単位ではな く節,あるいは文単位で も起 こり うる。主体化 に対 して,階層意味論で は当該文の嘩味性 という観点か ら説明を与えている。
(ll) ⅠthinkthatTom isaspy.
(12) a.わたしは
トムが スパイだと 思う。
b.わたしは トムが スパイだと 思っている。
(ll)のthinkには潜在的に二通 りの解釈が 可能 とされ, (12a)の 「
思 う」 が瞬間的現在時の思考 作用 を指 し示 しているのに対 し,
(12b)の 「 思 っている」 は持続的現在時の思考作用を指 し示 して い る。 そ して , 「テイル」型の現在進行形 による表現 の存在か ら
, (12a)は統語的 ・意味的 に無標で あ り
, (12b)は有標的である。即 ち, (
ll)が有標的か どうか は談話 としての文脈 に依存 して決定 され る。一方,以下 の文では談話的文脈 に依存せずに自律的に有標性が決定 され る。
( 1 3)
ialwaysもhinkthatTom isaspy.( 1 4) わたしは つねづね/いっも トムを スパイだと 思っている。
(13)ではalways
という副詞 によ り,
(14)の持続的現在時の思考作周の解釈 しかない。 よ って, この文 は有標的な表現であ り, コンテクス トによる意 味の限定,Hor n
(1984)による話者指向に基 づ いた
Q原理
(Q‑principle)の解釈 を取 る。 そ して,持続的現在時を指 し示す とい う指向主体 は,請す主体 とは切 り離 された客観的表現 のため,命題内容成分,即 ち
S‑MODと解釈で きる。 この点 につ いて は
Leech (1974)もⅠ
'm supposing thatは
Ⅰ'm making thetemporary asslユmption thatの 意 味であると述べているよ うに,持続的現在時は
S‑MODであると分析 され うる。
階層意味論 は主体化の概念を取 り入れず, あ くまで も階層意味論 モデル内において一つのテーゼを 土台 に して瞬間的現在時の解釈 を分析す る。
瞬間的現在時における接触可能性の原理 (
Principle()fAccessibilityintheinstantaneousPresent)発話時点と瞬間同時的に発現する心的態度のうちで,話 し手にとって接触可能な情報となりうるのは,た だひとつ,話 し手白身の心的態度だけである。
中右 (1994:5
1 ) つ ま り,
(12a)の 「思 う」 のよ うに瞬間的現在時 と解釈 された発話 の場合, 発話時点 と瞬間同時 的 な現在時の思考作用 しか指 し示せないため,その思考作用が話 し手以外の入物 に帰属す るとい う可 能性 はあ らか じめ原理的に締 め出される, とい う解釈を取 る。だが,以下 の例文を観察す るとこの原 理 に多少問題がある。
(15) HethinksthatTom isaspy.
( 1 6 )
a.彼は トムが スパイだと 思っている。( 持続的現在時の思考作用)
‑94‑
同一節内で否定要素が複数 出現 し,結果 として二重否定 ( 真漸 直は肯定) となる文 は,以下 のよ う な例である。
(21) a.1hauen'tdonenothing.
b
,I
havedonesomething.(22) Noonehasnothingtooffertosociety.
(21a)
と
(21b)の真理値 は等価であるが, その合意 され る意味 は異 なるO いわゆる語用論 的含意 の違 いを明確 にす るために,二重否定 を複文で表す とい う方法がある
。 (21a)は
(23)に
, (22)は
(24)にそれぞれ対応す る。
(23) Itisnotthecasethat1havedoneTIOthing.
(24) ThereisTW OneWhohasnothingtooffertosociety.
(23)
及 び
(24)は,それぞれ以下 のような‑般的スキ‑マに還元できる.
(25) [S.‑空重‑ [tl
l a t ・
(26) [S‑聖 ‑
[who・・(25)
の
旦些 及 び
(26)の
聖は埋 め込 み文 の外 にあ るか ら外部否定 であ り
, (25)及 び
(26)の ま埋 め込み文 の中であるか ら内部否定である。従 って
, (21a)の
haven'tは外部否定 に対応 し
,nothingは内部否定 に対応す る。 よ って,外部否定 は命題内容 よ りも高次の位置にあるためモダ リティ内否定であ り,内部否定 は客観的な命題 内否定である。
さて
, (23)は否定辞
notが外部否定 にな っている時 には, それは原則的 に真理構文 と関係づ け ら れるのに対 し
,N‑wordが外部否定 にな っている
(24)では,それは存在構文 と関係づ け られ る。 こ れは
(23)の
Itisnotthecasethatが真理述語である
(be)thecaseを否定 して否認 の意味を表 すのに対 し
, (24)の
Thereisno (one/thing)thatは存在述語 を否定 し,非存在 の意味を表す か らである。 この区別 は
n、otが述語否定辞 なのに対 し
,N‑wordが存在限量詞であることか らも導 き 出される
。モダ リテ ィ内否定 は常 に心的態度 を否認す るわ けではない
。 (21a)の否定要素 は心的態度 を否定 しているわけではな く, あ くまで命題内容 に関わるモダ リテ ィを否定 しているに過 ぎない。従 って, モダ リテ ィ内否定 は否定表現 を含んだモダ リテ ィを否定す る可能性を持 ち,真理 値に影響 を与え るた めに
S‑MODに対応す る.一方,命題 内否定 は客観的命題 を否認す るので, 階層意味論 モデルで は
POL (PROP3)に対応す る。従 って
, (21a)の
nothingは
POLの否定値 であ る。 つま り
,Po‡ .が 中立命題の極性 を決定す る要素 となる。伝統的生成文法 の 「 最初 に肯定 あ りき」 という観点及 び 「 肯 定が無標,否定が有標 にそれぞれ対応す る」 とい う原理的な立場 を取 るわけではな く,肯定 も否定 も 両者 とも有標的な存在であ り,それが中立命題 に適用 されて表 出された際 に, より無様的な方が肯定 表現であ り, よ り有榛 らしい方が否定表現 となる。即 ち,肯定 と否定 に代表 され る極性表現 はどち ら
も有標的な表現であ り,違 いはその程度差 に起因す る。
階層意味論 モデルで は,統語的にこっの否定要素が出現 した場合,一方 は必ず意味的にモダ リティ 否定 に相当す る 8 。
‑ 9 7‑
二 重否定 の意味構造 を図式化す ると,以下のよ うになる。 なお
, (27a)と
(27b)は等価であるが, それぞれ
DENYと
REJECTの存在 により,語用論的 に違 いがある。
(27) a.[IDENY][NOT [PROP3]](‑S‑MOD
否定)
b,[ⅠREJECTITASNOTTRUE][NOT [PROP3]](21
a) を
(27a)の概念的スキーマに当てはめてみると,以下 のようになる。
(28) [IDENY][NOT [ⅠHAVEDONEANYTHING]]
また, モダ リテ ィ内否定 は平叙文,即 ちモダ リテ ィに関 して無標 の表現 に断定の陳述態度 と外部否 定 が適用 され,否認 とい う複合的 モダ リデ ィが構築 され るため,繰 り返 し否定
(EchoNegation)と
して も解釈可能 である。繰 り返 し否定 は先行発話 を全て否定す るメタ言語否定 と同義である。
(29) a.Ofcourse,youtwodon'tdrink,doyou?
b,Well,wedon'tTWtdrink.
(29a)
に対す る繰 り返 し否定の返答
(29b)は 「 飲 まないわ けではない」 と解釈 される。先行発話 を否定す る二重否定文
(29も)において
, (29a)を否認 しているのは
notである。 よって
(29b)で は
notが外部否定
,即 ちモ ダリテ ィ内否定 に
,don'tが内部否定,即 ち命題内否定 にそれぞれ相当す
る。5.2
焦点化 と話題化
本稿で もうーっ区別 しておかなければな らないのが, モ ダ リテ ィ表現での話題化 と焦点化の問題で あ る。階層意味論 における焦点化 では,焦点因子,即 ち焦点 を引 き起 こす要素 は
D‑
MODであ り, 一 方,焦点部位,即 ち焦点 となる要素 は命題 内容である。
(30) a.
グラスに 水が半分も はいっている。
も.グラスに 水が半分 しか はいっていない。
( 3 1 ) グラスに 水が半分 はいっているO
(30a)
と
(30b)において,それぞれ取 り立て助詞の 「も」 と 「しか」 は 「 半分」 を焦点化 し,請 者 の心的態度 ( モダリティ)を変化 させている 9 。だが,話者 の心的態度 にかかわ らず,客観的事象 は
(31)で表す ことがで き
, (30a)と
(30b)の真理値 は等価であ る。従 って焦点助詞 や取 り立て助詞 な どの語蓑項 目は命題内容ではな く,発話態度 の表現 に貢献す る。 しか し,取 り立て助詞その ものは
S‑MODではない。何故 な ら
,S‑MODは命題態度 を表 し, この場合 「 平叙文であ り,肯定内容 を表 し, そ して断定 を表す」 とい う性質 を持っためである。 よ って焦点因子 は
D‑MODに相当 し, そ し
8
統語構造と意味構造を結び付けているものが
Jackendofど(1997)の主張する
CorrespolldenceRuleである が,その対応規則そのものは階層意味論では未だに説明付けられておらず,今後の課題となるO
更に,外部否定と内部否定はそのまま否認態度と否認内容という言葉に置き換えられる。否認
(Denial )と は否認内容と否認態度の統合であり,否定の対象は
S‑MODである。
9 (30)
はモダリティに関する焦点化のはかに,図と地の関係でも表されうる。詳 しくは
Langacker(1987)他を参照。
‑ 9 8
‑て 「グラスに水が半分 ある」 とい う事象 は
(So且
), (30b)ともに変化せず,焦点因子 を除 いた
(31)が示 す ように,焦点部位である 「 半分」 は命題内容である
。以上 の論述 は,焦点助詞や取 り立て助詞のみな らず,分裂構文や真理条件 ・非真理条件を左右す る 副詞 に も適用す ることがで きる
。(32) a.ItwasJohnwhodied.
b.Whodied
?
C.JOHN died.これは以下 のようなスキーマで表す ことがで きるo
(33) a.[ISTATE][POS [IT WASJOHN][WHO DIED]] b.lIASK]lPOS lWHO DIED]]
C.lISTATE]lPOS lJOHN DIED]]
(32)で焦点化が起 こる場所 は語義項 目JOIIN
であるが,以下の
YeS/No文ではやや異 なる
10。(34) IsBobmarried?
(35) a.No,Ithinknot.
( ‑否定命題を肯定的に判断)
b.No,Idon'tthinks(
).( ‑肯定命題を否定的に判断) 上 の例文 も同 じように以下のスキーマで表す ことができる。
(36) [IASK][POS [BOBISMARRIED]] (37) a.lITHINK]lNOT lBOB ISMARRIED]]
b.lIDON'TTHINK]lPOS lBOB ISMARRIED]]
(36)
において,焦点因子 は
ASK,焦点部位 は
POSである。 同様 に, (37a)と
(37b)において 焦 点 因子 はそれぞれ
TliINKと
DON'T,焦点部位 はそれぞれ
NOTとPOSであ り,語嚢項 目ではな
く極性値が焦点部位 となる。以上を踏 まえた上で,以下 の文を参照の こと。
(38) a.Heisnotcomi ngtoclassbecauseheissick, b.HeisnotcomlngtOClassbecausehiswifetoldme.
(38a)
の
because以下 は因果関係 を表す客観的事象 のため, 命題内容である。一方, (
38b)の副 詞 節 は伝聞内容 を叙述 しているため, それが客観的事実であるかどうかは判断がつかず,話者 の心的 態 度 による
D‑MODであると規定 で きる。副詞節がD‑MODか命題内容かの区別 は,当該文 を分裂構 文 に変換 す る とい うテス ト方 法 で判 明す る。 分裂文 に変換 させ た結 果不適格 にな った場 合 は
D‑MODである。(39) a.Itisbecauseheissickthatheisnotcomingtoclass.
10 (35)は焦点化以外にも,否定語が主節から従属節に移動する否定の移動 (NegativeTransp()rtation)の
解釈の他,否定語
notと話し
手Ⅰの心理的距離がそのまま語の隔たりにシフトされる認知的な解釈がある。前者については田林
(toappear),後者については山梨
(1995)を参照のこと0‑99‑
b.#ItisbecausehiswifetoldmethatheisnotcomlngtOClass.
以 上か ら
,「 焦点因子 は
D‑MODに相当 し,命題内容 は焦点部位にな りうるが
,D‑MODは焦点部 位 にはな りえない」 とい う定理を導 き出す ことがで きる。
さて,真理条件 ・非真理条件を左右す る副詞 において,Spe
rber&Wilson (1986)が主張す る関連 性 理論で も以下 のよ うに階層意味論 と同 じ説明が適用 され る
11。(40)IfJohnisunfortunatelyill,weshouldcancelthelecture. (4
1
) a.IfJohnisill,weshollldcancelthelecture.b.
#
IfitisunfortunatethatJohnisill,weshouldcancelthelecture. (42) IfJohnisallegedlyill,weshouldcancelLhelecture.(43) a.
#
IfJohnisil
l,weshouldcancelthelecture.b.IfitisallegedthatJohnisill,weshouldcancelthelecture.
(40)
の発話者 は
(41a)を意図 した ものである ( 即ち,(
40)の命題は(40)から副詞unfortunatelyを除いた
(41a)である)。講演 を中止 にす るのは 「ジョンが病気だか ら」 であ り
,「ジョンが病気であ る のが残念だか ら」 で はない。つ ま り真理値 には無関係 とい う意味で非真理条 件的である。一方,
(42)の発話者 は
(43b)を意図 した ものであ り
, (43a)は不適格である。即 ち, (
42)において講演を 中止 にす るのは 「 病気だ とい う話 な ら」であ って , 「 本当に病気だか ら」 とい う論拠が成 り立っ と い う保証 はどこに もない ( 例えば, ジョンが仮病を使っていることもありうる) 。従 って真理値 に貢献 し て お り,真理条件的である。
この点で, (
40)の
unfortunatelyと (42)の
allegedlyは同 じ副詞 とい う文法範峰であ りなが ら,機 能 が違 うことになる。 また,i
f節での証明のみな らず,原因 ・理由を表す
because節で も同 じよう な テス トが可能である。
(44) BecauseJohnisunfortunatelydrunk,thelectureiscancelled.
(45) a.ThelecttlreiscancelledbecauseJohnisdrunk.
b.#ThelectureisCancelledbecauseitisunfortunatethat,Johnisdrunk.
(46) BecauseJohnisallegedlydrunk,thelectureiscancelled.
(47) a
.
#ThelectureiscancelledbecauseJohnisdrunk.
b.ThelectureiscancelledbecauseitisallegedthatJohnisdrunk.
よって,関連性理論 の立場か らも,文副詞 の うち,発話内的副詞 と態度の副詞 は非真理条件的,那 ち D
‑MODであるが,証拠的副詞 と伝聞副詞 は発話内行為理論 の主張 とは異な り真理条件的,即 ち
S‑MOD
であると説明 され る。
話題化 は焦点化 と リンク して考察 され る。取 り立ては話 し手が特定 のコ ンテクス トを前提 としで情 報 をどのように呈示す るか とい う機能を持っ という点で,焦点化 と話題化 は相互補完的である。だが,
こ の二つの相対立 は,話題化が話題 と陳述か らなる文を作 り上 げるのに対 して,焦点化 は焦点 と前提 か らなる文を作 り上 げるとい う点で異 なる。
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