鳴り砂の発音機構 (第1報)¥
高 原 光
Sounding Mcchanism of Slnging S]nd Hikaru Takahara
Abstract
Severa! decades have pas:ed since studys of singing sand wfl. s made, but the final cause is not known yet; so vve collectedi the sin ging F anf ls on Kotogahama in Sbimane Prefceture and Kotobikihama in Kyoto 1 refecture and mafle an experirr}ent.
SingiDg sand has a peculiar qua工ity that the sound dies down when we repeat the friction. ID order to fincl the eftu e of singlng sanfl, we tried an experiment of reviving from clying sand to singing 唐≠獅пh and sueeeeded in it. [1)he way of tbis e) perimei]t ig to put xvater on the shinging sand and boil it.
As the result of this ei.cperime−fit, we came to a conclusion that souncling of singiug sand hft. s elose relation to the air−film held among grains of sand.
[Fhe most stably ac・一 uinula. ted sand has the sma/lest volume and the air−film among these grains of sand also is the smallest. Exposed to the wave and the wind, the air−filni grows larger. XVhen the outside pressure aets i:pOn this kind of sand, it mak es a squeaking sound by the elastie eusl]ion of the air−film.
1. 緒 言
鳴り砂は,外国では,singing sand, mugicftl sand, barking sand等とよばれ,日本では, 鳴り砂,歌い砂,音楽砂等とよ ばれて,世界各地に存在し,数十年来,研究されている。日 本では,島根県油壷郡仁摩町馬路のi琴ケ浜,京都府竹野郡網 野町掛津の画引浜,福岡県福岡市奈多の白浜等,十ケ所近 く,鳴り砂の所在地が発見されている。鳴り砂の上を歩く と,きゆ一,きゆ一一一,と,新しい皮靴をはいて歩く時のよう な楽音を発する。鳴り砂の発音機構については,非常に多く の議論がなされ,色々な学説が,唱えられているが,未だ,
はっきりとした原因は,解明されていない。それは,鳴り砂 が,非常に微妙な所を宿しているからに他ならない。同じ鳴 り砂であっても,楽音の大小は,天候に非常に左右され,例 えば,数日来,晴天が続いた日の午後などは,特に,大きい 音を発する。砂が濡れているか,もしくは,非常に湿ってい る時等は,全く音を発しない。鳴り砂を移動した時等は,殆 んどか,又は,僅かしか音を発しなくなる。私達が,鳴り砂
を,研究室にもち帰って,磁器性の半球形の滑らかな器,又 はロートに入れて,先の滑らかな棒でっくと,始めのうち楽 音を発していたが,次第に楽音を減衰していった。叉,鳴り 砂を,布の袋に入れて,その袋を,かたい台の上におとす
と,最初のうち,瞬聞,きゅっという楽音を発していたが,
数回も続けていくうちに,全く発しなくなった。この鳴らな
くなつtこ鳴り砂を,鳴るように復元する事は,鳴り砂の発音 機構をも究明する手段となるので,その復元方法を試みた。
そして,この復元手段より,鳴り砂の砂の粒子の配置のモデ ルを考察して,発音機構を究朋した。
2. 本 論
鳴り砂の発音機構については,色々な学説が唱えられてい るが,大別して,次の二種類に分類できる。即ち,
摩 擦 診色 (Friction theory)
クッション説 (()ushioユtheo「y)
9。1 摩擦説
摩擦説をとる代表的な人は,C.Carus−wilsonで,雑誌
Natureに,1890年より1915年迄,9回に亘って,発
表している。彼によると,楽音の発生する原因は,一様な大 (1)
ききで,きれいな砂の粒子が,摩擦する為である。単に,二 つの粒子を,すり合わせただけでは,耳に聞えるような振動 を生じないが,無数の粒子の表面から発する振動が,積み重 ねられる時は,耳に,十分聞くことができる楽音を生ずるの であると説明している。
彼は,叉,鳴り砂の条件として,次のようにあげている。
く ラ
q)砂の粒子がまるく,こすりみがかれていて,その上,
粒子の細かい断片がない。
② 一方の粒子が,他方の粒子に対して,滑るために十分
☆ :本論文の一部は,1963年11月24日,日本物理学会・応用物理学会・中国四国支部例会において講演し,
他の一部は,1964年看季第!1回応用物理学連合講演会において,講演予定である 一39一
高原光 な砂の量をもっている。
③ 粒子が,完全に純粋であって,シルト(沈泥)や,ち りがない。
㈲ 粒子の大きさが揃っている。
W.D.Richardsonは,米国のミシガン湖の鳴り砂について,
(3)
砂の粒子は,CaやMgの炭酸塩を含む水によって,周期的 に洗われている。この水が,砂の粒子の上で乾燥し,粒子の 表面に,極端に薄い塩のフイルムをつくる。このフイルム が,すり合わされる時,かなりの摩擦力をもち,それによっ て,楽音を発するのであると,説明している。
日本では,橋本が,摩擦説をとり・,京都府の琴引浜,太鼓 (4)
浜,島根県の琴ケ浜,宮城県の十八鳴浜の鳴り砂について,
砂の粒子の大きさ,形を調べ,鳴り砂の表面の摩擦力は,鳴 らない砂の摩擦力より幾分か大きい。そして棒等によって,
砂を打つ時,鳴り砂の砂の粒子は,回転するのではなく,滑 るのであると説明している。
2.2 クッション説
クッション説をとる代表的な入は,H. Carrington l=01ton (5)
である。彼によると,鳴り響きの原因は,砂の粒子が,海水 や,湖水や,雨等によって濡らされて後,だんだんと水分が 蒸発していくうちに,砂の粒子と粒子との間に呑きた空気の 薄膜が関係している。そして,砂に圧力を加える時,粒子聞 に存在している空気層が,圧縮されて,その弾性的クッショ ンによって,楽音を発するのであると説明している。
日本では,土橋.藤田が,クッション説をとっている。彼 く ラ
等は,京都府の臣子浜の鳴り砂について,砂の粒子の大き さ,砂の化学的組成を調べている、それによると,鳴り砂の 粒子の大きさは,鳴らない砂に比して,非常によく揃って居
り,粒子の直径が,0.36〜0.6禰の物が,全体の70%を[・1め ている。その化学的組成は,SiO2, A1203, Na20, Fe203,
CaO, MgO, K:20, MnO,で,特に, SiO2が90.1%oで,大 部分を占めている。鳴り響きの原因は,砂の粒子が揃ってい る為に,砂の粒子と粒子との間に,相当量の空気が含まれて いて,外部から圧縮される事により,空気が吹き出す時の音 であると説明している。又,電磁オッシログラフを使用し て,鳴り砂の音の波形を撮影している。
2.3 その他の説
E.0.Fipp美nは,鳴り砂の条件として,次のものをあげて も7ノ
いる。
(1)砂は・まるい・滑らかな粒子よりなっている。
鳴り砂の発音機構(第1報)
(2)湿気の適当な量による。
2.4 実 験
島根県の琴ケ浜,京都府の琴引浜の鳴り砂を採集して,磁 器性の半球形の滑らかな容器,Nは, n一トの中に,鳴り砂 を入れて,先の滑らかな棒で,ついta。始めのうち,きゆ一 きゆ一,という楽音を発していたが,しばらく続けている と,楽音はなくなって,鳴らない砂と同じような,がさつ,
がさつ,という音に変っていった。鳴り砂を,布の袋に入れ て,かたい台の上におとすと,一一tw,きゅっ,という楽音を 発するが,数回も続けているうち,楽音はなくなった。この 鳴らなくなつt鳴り砂の復元方法を試みる事は,鳴り砂の発 音機構を究明する事になると考えて,その復元方法を試み た。先づ,鳴らなくなった鳴り砂を,フライパン,又は,鍋の 上に,数cmの厚さにひろげ,砂が十分浸る迄,水を加えた。
次に,火にかけ,砂全体から,ぶつぶつと,泡がたつように して,数十分,煮沸を続ける。その後,静かに,上水をすて て,乾燥さす。この時,砂を振動させないよう,特に気をつ ける。更に,ガス,電熱等によって,乾燥さす時は,急熱し て,容器の,鉄の赤きびがでて,砂に混ぜらないように注意 する。このような方法によって,鳴らなくなった鳴り砂の復 元に成功した。
別の復元方法として,砂を袋に入れて・蒸気を通して・砂 を蒸しt。この方法によっては,砂を煮沸しtc航程ではない が,復元する事ができiこ。
鳴り砂を,ふるいにかけて,砂の粒子の細片を除くと,楽 音を発する効果は,一層よくなった。
3. 考 察
鳴り砂の粒子が揃っている事は,C.C.Wilson,土橋。藤田 (2) (a)
によって発表されている。これは,鳴り砂が,風の強くあた る海岸の,波うち際に,多く発見されている事からも,推察 できる。即ち,Stekesの法則を用い,次のように考察する
と,砂の粒子の半径は,流体の速度の平方根に比例している 筈である。
Stokesの法則より,
F=6npaav一・・… (1)
但し,F:粒子が受ける抵抗の大きさ μ:流体の粘性係数
a:粒子の半径
V:粒子に対する流体の速度 NewtOnの第二法則より
一40一
F=mct…t・一(2)
m:質 量 α:加速度
今,粒子を球形と仮定すると,
m=一CI一 za3p・・・…(3)
3 P:粒子の密度
(1),(2),(3), より
4 e
6πμαび=怎ホ岬α
上式を変形して,
2−negT pa
aN2 万v
今,μ,ρ,α,を一定と考えると,
a2 C)〈 v
. .aOくV/V
津山高専紀要(第1巻)
故に,海岸の波うち際での海水に浸っている部分では,海 水中で,砂の粒子は,大体,同じ流体速度を受けるので,粒 子の大きさの揃ったものが,波うち際に集められることにな
る。又,波うち際で,空気にさらされている部分でも,同様 に,風の力によって,粒子が揃うということが云える。
鳴り砂が,鳴らない砂の粒子に比べて,粒子がまるくて,
角がなく,滑らかである事が,c.c.Wilson,橋本,によって く ラ く ラ
発表きれている。これも風雨によって,強 、・力を受ける為 に,粒子が互に摩擦きれる結果であると,推察できる。
シルト(沈泥)や,ちり等が混ぜっていない純粋の砂の粒 子の集まりである事は,鳴り砂の,各研究者によって,云わ れている。
次に,私達の実験より,次の事が,考察できる。即ち,嶋 り砂の復元手段として,フライパン,又は,鍋の上に,砂の 粒子を,比較的薄く,おし拡げて,水を加えて,長時間,煮 沸した事は,粒子聞に,空気層を作って,粒子間の聞隙を大
きくした事になる。
別の復元方法として,砂を蒸した事は,粒子聞に空気層を 作って,粒子間の間隙を,大きくしたことになる事を,一層 よく裏づけることができる。
以上の事項より,楽音を発する状態にある鳴り砂の,粒子 の配列を考究した。その為に,先づ,粒子の一番安定な,積 み重ねのモデルを考えた。その時,砂の各粒子間の間隙は最 小となり,従って,閥隙内にある空気層は最小となる。
Fig.1は,最も安定な,砂の粒子の積み重ねのモデルを,横 から眺めたものを,二次元的に画いたものである。
(一一一一.
ノ
ノ
Fig. 1
Fi∫.2は,最も安定な,砂の粒子の積み重ねのモデルを,
真上からみたものを,三次元的に画いたものである。
Fig. 2
粒子の積み重ねは,粒子の配列が,不安定な状態の時,外 部から,力が加えられると,遂には,このような安定な状態 に,もどろうとする性質をもっている。しかし,これらの粒 子の配列は,強い波浪や,強風等によって,外部から,非常 に強い力を受ける時,安定な配列が,寧ろ,不安定な配列に 変る。即ち,粒子は,乱雑な積み重ねとなるのである。
之のような乱雑な粒子配列の状態の時,外部から,圧力が 加えられると,粒子間に含まれている空気層のクッションに よって,楽音を発するようになる。そして,圧力を加えてい るうちに,遂には,Fig.1, Fig.2, に示したような安定な 積み重ねとなって,粒子問の空気層は最小となる。その時,
鳴り砂は,楽音を発しなくなるのである。そして,私達の実 験で,砂の粒子を,ふるいにかけて,細片を除いた時,効果 がよくなったのは,粒子の大きさが,揃った為,粒子閥の空 気層が,大きくなつだ為であると考察できる。
砂の粒子の大ききが揃って居り,角がなく滑らかで,シル 一41一
高原光 鳴り砂の発音幾構(第1報)
ト等がない事が,鳴り砂の前提条件と考えられているのも,
この粒子間の空気層を大きくする事に,他ならないと考えら
れる。
C.C.Wilsonは,鳴り砂の鳴らなくなる原因として,砂の (1)
粒子を摩擦しているうちに,その摩擦によって,粒子の細片 ができ,それが,粒子蘭の摩擦を妨げる為であると唱えてい るが,私達の,鳴り砂の復元の実験の際,砂を水洗いして も,その水が,殆んど,濁るような事はないという事実か ら推察して,少々の摩擦で,砂の粒子が,こわれるとは考え られない。事実,砂の粒子は,非常に固く,木の棒でついた 位では,到底,つぶれそうもないように思われる。
W.D.:Richadrsonは,楽音を発する原因として,粒子の表 (3)
面に附着している塩の薄膜を考えているが,私達の行った,
真水を加えて煮沸した復元方法より考えて,塩には関係がな いと思われる。
4. 結 語 ・
鳴り砂の発音機構としては,大別して,摩擦説と,クッシ ョン説があるが,私達の行っts鳴らなくなった鳴り砂の復元 方法より,粒子の積み重ねの配列モデルを老究して,クッシ
ョン説を支持する結果となつt。
本研究に,十数年,精魂を傾けられtc本校校長,山下敬治 博士には,終始,御懇切なる御指導を仰いだ。ここに,深甚 の謝意を表する。
交 献
(1) Cecll Carus−Wilson ; Nature, 42, 568 (1890)
(2) Ceell Carus−Wilson ;. Nature, 44, 30 (1890)
(3) W.D. Riehardson ; Science, 51, 493−495 (1919)
(4)橋本万平;Proc・1st Japan N aちGon9・for・ApP・
.Meeh. 261−265 (1951)
(s) }1. Carrington Bolton; Nature, 42, (1890)
(6)土橋正二。藤田尚;応用物理,21,361−363(1952)
(7) 1 ].O. Fippin; Seience, 51, 64 (1929)
(8)山下敬治;音響科学(八木秀次編)P:P125 一129
一42一