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橿原遺跡の石器の石質について
著者 梅田 甲子郎
雑誌名 古文化財教育研究報告
巻 2
ページ 9‑12
発行年 1973‑03
URL http://hdl.handle.net/10105/359
橿原遺跡の石器の石質について
梅 田 甲 子 郎
(奈良教育大学 地学教室)
ま え が き
橿原遺跡は奈良県における縄文時代晩籾の代表的遺跡であって、橿原考古学研究所により、昭 和13年から3ケ年間調査され、末永雅雄所長の努力によって、昭和33年にその調査の全成果 を収めた「橿原」が刊行された。
筆者は今から20年近く前に、末永所長の御依頼により、この檀原遺跡より出土した石器の岩 石鑑定を行ったことがある。末永先生としては、石器の石質が判れば、それから何らかの考古学 的推論に役立つものがでてくるのではないかと考えられていたことであろうが、結果は岩石名の
羅列に終り、とうてい先生の御期待には添い得なかったことと思う。
20年近くたった今日、「橿原」に掲載してある橿原遺跡出土石器材質分腰表を改めて見直し、
二番煎じかも知れないが、もう一度橿原遺跡の石器の石質の特徴を考察してみた。なお、本文中 の石器に関する記述は、末永雅雄博士の記載から弓伸した。
石器の分類
橿原遺跡の石器は作製技法により、打製のものと磨製のものに分けられる。また、自然石に何 らかの加工を施したものもある。
石 斧
皮 剥
石 鉄 石 錐
石 斧 石 錘
石 刀 打製石器 石 剣
石 棒
冠 石 蔽 石 砥 石 凹 石 その他 自然石加工
磨製石器
橿原遺跡の石器の特徴は、石庖丁・磨製石槍がないこと、石棒・石刀が多いことである0
石 質一覧表
以前の鑑定は、今にして思えば、何分にも若き日のことでもあり、随分大胆なものであって、
誤認も多少あったと思われる。また、あまりにも細分し過ぎ、石質の全般的傾向をつかむのに不
ー9一
橿原遺跡出土石器の石質一覧表
磨 製 石 器 打 製 石 器 自 然 石 加 工 類 雑
計 不詳 石斧 石鍾 石刀 石剣 石棒 石斧 皮剥 石鉄 石錐 冠石 蔽石 砥石 凹石
花 こ う 岩 嬢
6
12
1919 1 1 1 31結 晶 庁 岩 類 4 9
2
7 4 7 9 1 1 1 4 148砂 岩 9 1 45 4 59
粘板岩 5 2 6
7
4 2 4 48中古生層
チャート 1 2
3
輝線岩 2
2
新生代
6
8 8 156 149 10 17 8 362火山岩煩
3
1 4 1 14145
2 9 39めのう・石
1
2
2英・玉髄 2
7
その 他 珪化木 1 1
不 明 16 22 1 3939
計 8 9 5 13 26 4 2 99 157 151 12 1 106
7
7 2 4 739便とも考えられる。それ故、今回は、前回の石器材質分類表の岩種のうち、石英閃線岩・半花こ う岩・鹿塩片麻岩・かんらん岩などの深成火成岩頼を一括して花こう岩頼とし、絹雲母片岩・砂 岩片岩・緑色片岩などを一括して結晶片岩頼にするなど、撞く大まかに分類し直して、簡単な表 を作ってみた。この方が、石器の石質の憤向が、かえって判り易い場合もある。
石器に利用されている岩石は、739の石器のうち、花こう岩猿31、結晶片岩148、中古
生膚の岩石122(うち砂岩59、粘板岩48)、新生代火山岩401(うち讃岐岩サスカイト 362)、不明その他47である。最も多いのはサスカイトであって、まさに 石器の有′であ る。次が結晶片岩・砂岩・粘板岩の腑となる。
各石器に利用されている岩石種
(1)石斧 石斧は偏平形をしているものが多い。天然のままで偏平な岩石としては、片理を有す る結晶片岩にまさるものはない。表で見ても判るように、磨製石斧では86のうち49が、打製 石斧では99のうち79が結晶片岩であって、圧倒的に多い。結晶片岩は石斧の石ということ ができる。それ以外ではサヌカイトの14、砂岩の9、花こう岩頼の8が目につく程度である。
(2)石錘 みぞがあり、それにひもをつけて使用していた石器であるが、どんな石でも良かった のであろうか、使用されている岩石の種類に特徴はない。
(3)石刀・石剣 形式的には片刃を石刀、双刃を石剣とよぶが、刀より剣が尊称らしい。石剣 は26がすべて粘板岩である。粘板岩は片状に割れ、加工するのに適当な硬さであり、磨けば 黒光りして美しいので使用されたものであろう。あるいは、石剣の材石は粘板岩と決めていた
かも知れない。
石刀は13のうち、粘板岩5、結晶片岩7、珪化木1となっている。結晶片岩の片理・珪化 木の木目が、双刃の石刀としては細工し易いため、粘板岩とともに利用されたのであろう。
(4)石棒 武器または原始信仰の対象らしい。42のうち、サヌカイト8、粘板岩7、結晶片岩 4の比率は妥当な所であろう。岩種不明が22もある。恐らく、割らずに鑑定したため不明で あったのだろうと推定されるが、岩種の比率は上述のものと大差がないであろうと考えられる。
(5)皮剥 皮剥は釦利性をもつ実用品であるが、サスカイトはガラス質であって、割ると鋭い破 面を作るので、その最適品である。皮剥157のうち156がサスカイトである。残る1も輝 石安山岩となっているが、サスカイトである可能性もあり、皮剥はすべてサスカイトであると
いっても差支えない。
(6)石鉄 やじりも鋭利でなければならない。これもサヌカイトが最適品であって、151のや じりのうち149がサスカイトで、あとの2がめのうである。サヌカイトが石器の石である以
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所は、皮剥とやじりに最適であるからである。
(7)石錐 穴をあける道具であるから、鋭いことを必要とする。12のうち10がサヌカイトで あるのは当然であるが、残りの2が粘板岩であるのは意外である。恐らく珪質の硬い粘板岩で
あろう。
(8)板石・冠石 円形ないし楕円形で打痕のあるものを蔽石といい、打痕のない冠型のものを 冠石と称す。冠石は結晶片岩製のもの1のみである。板石は106であるが、その特徴は特定 の岩石を使っていないことである。どちらかといえば花こう岩頼・砂岩のような均質塊状の岩 石が多く、石斧・石刀などで盛んに利用されている片状の結晶片岩は例外的に1だけ利用され
ているにすぎない。
あ と が き
グアム島の横井さんやルパング島の元日本兵の行動半径が5キロだとか10キロだとか云われ ているが、結晶片岩の斧をもち、サヌカイトのやじりの矢を放って獲物を追い、大和の原野を駆 け廻っていた石器時代の人間の生活圏も大差はなかったであろう。しかし、部落単位の生活圏は もう少し広かったであろうし、いわゆる交易圏はかなり広大であったと考えられる。当時は石器 は最も重要な武器であり、道具であるから、その生活簡・交易圏内における最も適切な石材を利
用していたことであろう。
橿原遺跡から出土する石器の特徴はサスカイトと結晶片岩が豊富に利用されていることである
が、サヌカイトは橿原の西方僅か10キロあまりの所に位置する二上山に産し、結晶片岩は、南 方15キロ足らずの吉野川畔に多産する。中古生層の岩石も吉野川の転石に多い。橿原遺跡の石 器にこれらの岩石が多いのは当然のことである。しかし、他の遺跡の石器の石質の貿と量は必ず 変化する筈である。それらの変イL例えば、サヌカイトのやじりや結晶片岩の斧が、それぞれの 産地である二上山や吉野川畔からどの程度離れた所までにあって、どの程度使用されていたかな
どを知ることにより、石器時代の生活圏・交易圏の範囲を推定し得るかも知れない。しかしそれ
にはもっと多数の遺跡の石蕃の石質の調査が必要である。
参 考 引 用 文 献
末永雅雄編 橿原 奈良県教育委貞会(1961)
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