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SDGs の視点から見た地域づくりの在り方

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SDGs の視点から見た地域づくりの在り方

~梼原町における持続可能な地域づくり~

1200520 松木 宏司朗

高知工科大学 経済・マネジメント学群

はじめに

近年日本は、人口減少が進む中、東京の一極集中が加速し、

過密問題や東京圏以外の地域の衰退が懸念されている。その ような中、東京の一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止 めをかけ日本全体の活力を上げることを目的とした地方創生 が注目を集めている。2014 年から始まった地方創生の活動だ が、移住者の増加で人口減少に歯止めをかけるなど、大きな 成果をあげている自治体もみられる一方、多くの自治体は改 善できずに苦しんでいる。多くの自治体で活動がなかなか成 果をあげられない理由の一つを筧裕介氏は、「様々な分断が地 域に存在していることが考えられる」という。代表的なもの で言うと、自分たちの役割を限定してしまいがちになる[行政 と民間]や、女性の社会的地位に対する偏見がいまだに顕在し ていることから[男と女]などに関する分断が挙げられる。本 来、地域づくりは、その地域で暮らす人々が自力で、だれ一 人取り残すことなくみんなで取り組むべきことである。

また、地域づくりは一過性のものであっては意味がない。

持続可能な地域づくりに取り組むことで、経済的・環境的・

社会的な効果をより大きくすることができる。そのため地域 には、一過性で終わらない、長期にわたる持続可能な地域づ くりが求められる。

地域に存在する多数の分断を超えて、みんなで活力のある 持続可能な地域づくりを目指すうえで『SDGs(持続可能な開発 目標)』という言葉がキーワードになる。詳しくは第一章で取 り上げるが、SDGs を用いたアプローチを行うことで、住民、

事業者、農家、行政、NPO、自治会、商工会、農協、学校など の個別の立場や組織、産業・環境・教育・医療・福祉・防災・

まちづくりなどの領域を超えて 10 年、20 年先の地域の未来 像を描き取り組むことが出来る。

私が住む高知県にある梼原町も持続可能な地域づくりを目 指す地域の一つである。詳しくは第二章で取り上げるが、梼 原町は平成 20 年から平成 30 年まで日本政府から環境モデル

都市に選定されており、木質ペレットをはじめとした再生可 能エネルギーを利用した低炭素なまちづくりにおける取り組 みは、全国から注目を集めるようになってきている。また、

次世代育成や医療・福祉にも力を入れている。さらにそれら を基盤とした地域コミュニティも充実し、組織や領域を超え て人々が交流できていることから、梼原町は世界的に SDGs が 注目される前から、先進的に SDGs の考えを取り入れ、持続可 能な地域づくりに取り組んでいると言える。

そこで本研究では、先進的に SDGs の考え方をもって、持続 可能な地域づくりを行っている梼原町を対象に、なぜ梼原町 が SDGs の先駆けになることが出来たのかを、取り組みの背景 にある地域に潜む見えないメカニズムを明らかにし、持続可 能な地域づくりの在り方を論証していく。

以下に本論文の構成を述べる。

第 1 章では SDGs についての概要を紹介し、持続可能な地域 づくりにおける SDGs という考え方の必要性を明らかにする。

次いで第 2 章では梼原町の持続可能な地域づくりの取り組み を、SDGs を切り口にして紹介していく。第 3 章では、第 1 章、

第 2 章を踏まえたうえで、梼原町がなぜ先進的に SDGs の考え 方を取り入れることができたのかを梼原町に存在する見えな いメカニズムを明らかにしながら、自分なりの見解を示して いく。そして最後には、地域における SDGs の必要性を踏まえ ながら、これからの展望を述べていきたいと思う。

第1章 SDGs の概要 第1節 SDGs とは

2015 年 9 月にニューヨークの国連本部において、「国連持 続可能な開発サミット」が開催され、「我々の世界を変革する:

持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」が採択された。こ の目標が 17 のゴールと 169 のターゲットからなる、『SDGs

(持続可能な開発目標)』である。これは、国際社会全体が人 間活動に伴い引き起こされる諸問題を緊急的に解決しなけれ

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ばいけない課題だと認識し、人類全体で協働して取り組んで いく決意を表明したものであり、これまでと異なる決意をも って先進国や途上国が隔てなく取り組むべき国際社会全体の 普遍的な目標として 2030 年のあるべき姿に向けての道筋を 示したものである。

以下に SDGs の軸となる 17 の目標を紹介する。

1.貧困をなくそう 2.飢餓をゼロに

3.すべての人に健康と福祉を 4.質の高い教育をみんなに 5.ジェンダー平等を実現しよう 6.安全な水とトイレを世界中に

7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに 8.働きがいも経済成長も

9.産業と技術革新の基盤をつくろう 10. 人や国の不平等をなくそう 11. 住み続けられるまちづくりを 12. つくる責任つかう責任 13. 気候変動に具体的な対策を 14. 海の豊かさを守ろう 15. 陸の豊かさも守ろう 16. 平和と公正をすべての人に

17. パートナーシップで目標を達成しよう 図1:SDGsの 17 目標

出所:https://miraimedia.asahi.com/sdgs-description/

これらの 17 の目標は便宜的に分かれているものの、17 ゴ ールはそれぞれ独立して存在しているわけではなく互いに密 接に関連している。それぞれのゴール同士が互いに関連しあ っていることを理解するのにわかりやすいエピソードとし て、アフリカ大陸中央部に位置するチャド湖の例がある。チ

ャド湖は過去 30 年間温暖化(13.気候変動)による砂漠化の影 響で湖の水位が下がり、急激に小さくなってしまった。湖の 豊かな水の恩恵を受け農業や漁業に従事していた多くの住民 が、水不足に悩まされ(6.水とトイレ)、仕事を失い(2.食 料・8.仕事と経済)、水を運ぶために教育機会を失い(4.教 育)、その土地を離れ、大都市に移り住んだ。大都市には貧 困層が増え(1.貧困)、街がスラム化し(11.まちづくり)、治 安も悪化した(16.平和と公正)。その結果、都市でのつなが りが希薄で貧しい生活の中で、多くの若者がイスラム過激派 の勧誘を受け、テロ活動へと加わった。そして、各地でテロ 行為が急激する一因となった。【筧氏の国谷裕子氏へのイン タビューより】このように、温暖化と世界平和、一見全く関 係がないようなこの二つでもその原因をたどっていくとその 根底は、つながっているということがわかる。そのため、あ るゴールの達成のための行動が他のゴールを阻害することも あれば、逆に他のゴールに好影響を与えることもある。これ は、地域でも言える話であるため、地域を構成する各プレイ ヤーは地域全体のゴールを意識しながら、自分のゴール達成 を目指していくことが必要になるのである。

第2節 日本の取り組み

SDGsでは 17 の目標をさらにそれぞれ 10 個程度に細分化 した 169 のターゲットが設定されている。このように多くの ターゲットが設定されているのは、SDGs における重要な理 念の一つが「誰一人取り残さない(no one will be left

behind)」であるためである。先進国の犠牲になりがちな途

上国、環境への配慮の陰で見過ごされがちな貧困層、画一的 なルールや社会常識の犠牲になりがちな社会的弱者を重視す ることを明言しているのだ。もちろんこれは、我々が住んで いる日本でも言える話であり、経済や人口が集中する大都市 圏だけではなく、小規模な人口の町村、集落、そこで暮らす 人々を誰一人取り残さないことを意味する。このことを受け て日本政府は、平成 30 年から『SDGs 未来都市・自治体 SDGs モデル事業』に取り組んでいる。その概要は、『中長期を見 通した持続可能なまちづくりのため、地方創生に資する、地 方自治体による持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた 取組を推進していくことが重要。

地方創生分野における日本の「SDGs モデル」の構築に向

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け、引き続き、自治体による SDGs の達成に向けた優れた取 組を提案する都市を「SDGs 未来都市」として 31 都市を選 定。また、特に先導的な取組を「自治体 SDGs モデル事業」

として 10 事業を選定する。これらの取り組みを支援すると ともに、成功事例の普及展開等を行い、地方創生の深化につ なげていく。(首相官邸ホームページより)』とされており、

成功事例の普及を通して地域における SDGs の達成を促し、

中長期を見通した持続可能なまちづくりに取り組んでいる。

日本でも地域における SDGs の考え方が重要視されるように なってきているのだ。

では、具体的に地域でどのような取り組みが行われている のかを 2018 年に「自治体 SDGs モデル事業」に選定された富 山市を例に挙げてみていく。富山市は、SDGs の推進に向け たポイントと富山市の将来のビジョンを踏まえ 2030 年の将 来像を、「コンパクトシティ戦略による持続可能な付加価値 創造都市の実現」と設定している。そして、自治体 SDGs の 推進に資する取り組みのポイントを次のように定義してい る。

1. 公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりの実現 2. ヘルシー&交流シティの形成と質の高いライフ・ワーク

スタイルの確立

3. セーフ&環境スマートシティの実現と地域エネルギーマ ネジメントの確立

4. 産業活力の向上による技術・社会イノベーションの創造 5. 多様なステークホルダーとの連携による都市ブランド力

の向上

これらに基づいた取り組みの中で代表的なものが、

LRT(Light Rail Transit・次世代型路面電車)の導入であ る。車で来る人より電車で来る人の方が、滞在時間が長いた め街中での消費額が増えるという狙いだ。さらに、65 歳以 上を対象にどこから乗車しても、中心市街地で降りれば運賃 が 100 円になる「おでかけ定期券」を取り入れたことで、昼 の時間帯に中高年女性が郊外から都心部へ遊びに来るという 習慣が生まれ、LRT の利用客は初年度の 2 倍になった。この ようなスタイルが定着することで、ガソリンの消費量も減 り、温室効果ガスの排出量も減る。また、歩く機会が増える ことから、健康増進にもつながるのだ。

地域包括ケア拠点「まちなか総合ケアセンター」を活用し

た取り組みでは、官民が連携して市民が気軽に健康・医療・

福祉・子育て・教育に関するサービスを享受できるように体 制を整えている。また、再生可能エネルギーを活用した農業 活性化の取り組みにおいては、農業研修施設に、小水力発電 や太陽光発電設備、地中熱ヒートポンプ等を一体的に導入 し、その電力を農業機械や農業施設等に活用することでエネ ルギー効率の改善やコストダウン等の有効性の「見える化」

を図るとともに低炭素モデルの確立に力を入れている。さら に、そこで収穫された作物を市内小学校や福祉施設などの給 食として提供することで、環境や教育など様々な副次効果を もたらす仕組みを確立している。これらの技術・ノウハウを 活用して東南アジアを中心とした都市・地域での国際展開を 図り、現地のまちづくり支援や生活水準の向上にも力を入れ ることで、地域の課題を解決・普及するための地方都市モデ ルとして大きな役割を果たしている。

富山市は、このような都市の総合力を高めるための多方面 の取り組みを行っている。その成果もあり、現在では転入超 過により人口減少を緩やかに進めることができているとい う。これら取り組みの根底には、「どれか一領域だけでなく 様々な領域を加味した包括的な取り組みを 10 年以上のスパ ンで実現していく」という SDGs に基づいた理念が存在して いる。地域が目指す持続可能な地域づくりには、SDGs を用 いたアプローチが有効だということがわかる。

第3節 地域の現状と SDGs

第 2 節で紹介した富山市のように成果を上げる自治体があ る一方、ほとんどの自治体が成果をあげられないというのが 現状である。では、日本の地域における現状はどのようにな っていて、何が妨げになっているのだろうか。現在日本は、

ほとんどの地域で急激に人口減少が進み、地域経済が縮小 し、様々な課題が引き起こされるという負の連鎖が起こって いる。筧氏は、これらの負の連鎖は次の 5 つに分類すること ができると言う。

1.経済衰退ループ 2.生活困難ループ 3.孤立無援ループ 4.教育水準低下ループ 5.環境破壊ループ

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さらに筧氏は、これらの 5 つの連鎖の多くに関わり地域課 題の深刻化・悪化を引き起こす 2 つのレバレッジポイント (注①)が「コミュニティの弱体化」と「若者の流出・地場産 業の衰退」だと主張している。内閣府が、日本、アメリカ、

ドイツ、スウェーデンを対象に取った、コミュニティに関す る統計で『高齢者の生活と意識に関する国際比較調査』とい うものがある。その統計の中で、「近所の人たちと病気の時 に助け合う」と答えた割合は、日本 5.9%、アメリカ 27.0%、ドイツ 31.9%、スウェーデン 16.9%。「近所の人た ちに相談したりされたりする」と答えた割合は、日本 18.6%、アメリカ 28.3%、ドイツ 48.3%、スウェーデン 31.2%であった。このように他の先進国に目を向けてみると 日本では、地域コミュニティが諸外国と比べて劣っていると 考えることができる。コミュニティの弱体化は、5 つ全ての 負の連鎖の一部になっているが、いずれもその連鎖を決定づ ける最大要因ではない。そのため、放置されがちな課題であ るが、日本の地域に存在する 5 つの負の連鎖を打開するため に改善すべき最優先課題だといっても過言ではない。SDGs の 17 番目のゴールが「パートナーシップで目標を達成しよ う」で、他の 16 のゴールをパートナーシップの力で達成し ようとしているように、地域に豊かなコミュニティが生ま れ、住民がつながり、協働することで地域課題解決の大きな 力を生むことができるのである。

若者の流出・地場産業の衰退は、経済衰退・孤立無縁化・

教育水準低下・生活困難の 4 つの連鎖に関係する。若者が地 域を離れる理由は、「魅力的な仕事がない」や「東京にはい い仕事がありそうだ」などの偏見や思い込み、大人からの刷 り込みが、大都市圏への流出を後押ししている。しかし、地 域にも魅力的な仕事はたくさんある。負の連鎖を解消し、地 域に人と経済の流れを生み出し、持続可能な地域を実現する ことで、東京の一極集中に歯止めをかけ、日本の地域の多様 性を取り戻していかなければならない。

この 2 つのレバレッジポイントには、地域に存在する様々 な「分断」が背景にある。これらの「分断」を超え、持続可 能な地域を実現していくためには SDGs を用いたアプローチ が必要なのである。

第2章 活気あふれるまち梼原町 第1節 梼原町の概要

高知県梼原町は、周囲を標高 1455mにもなる雄大な四国カ ルストに抱かれた山間の小さな町だ。町面積の 91%を森林が 占め、四万十川の源流域としても知られた、とても自然豊か な町である。高知県西部の愛媛県との県境に位置しており、

高知市からも松山市からも車で1時間半程度かかる。町は、6 つの地区から構成されており、「松原区」、「初瀬区」、「四万川 区」「越知面区」、「西区」、「東区」と別れている。中には、中 心街である東区から約 18~24km 離れており、車で 40~50 分 かかる場所もある。またそのような地区はバスなどの公共交 通機関の便数も少なく、とても交通の便がいいとは言い難い 状況である。

そういった経緯もあり、やはり梼原町は中山間地域の例に もれず高齢化と人口減少の問題は深刻である。ピーク時には、

9,850 人(S35)いた人口は 3,470 人(R 元.12 末)まで減少し ており、2045 年には 2,000 人まで減少すると考えられている。

(国立社会保障・人口問題研究所より)高齢化率においては、

1980 年には 16.7%だったものが現在では 44.1%にまで膨れ 上がっている。また、高齢化率町内トップの松原地区は 65%

(H31.1)と住民の半数を超える値まで達している。

だが、このようなマイナスなデータと裏腹に町の雰囲気は とても明るい。一歩町に踏み入ると、中心街が意外に都会的 なことに気が付く。住民たちが自主組織を作り、電柱を地中 化するなど 10 年がかりでまちづくりに取り組んだ成果であ る。電柱の地中化だけではない。町には梼原産の木材をふん だんに使った建築物が目立っている。世界的建築家、隈研吾 氏が手掛けたものだ。それらの建物を紹介すると、「梼原町総 合庁舎」「マルシェ・ユスハラ」「YURURI ゆすはら」「雲の 上の図書館」「雲の上のギャラリー」「雲の上のホテル」の 6 つである。どの建物も隈氏の独創的なアイデアと梼原町の茶 道や手漉き和紙などの伝統・文化が融合した、とても魅力的 なものばかりである。また、これらの場は、地域における福 祉・教育・交流・情報発信などの面において大きな役割を担 っている。

住民たちもとても活発で元気である。6 つの区にはそれぞ れ集落活動センターが設置されており、区ごとに特徴を生か した魅力あふれる地域づくりに住民自ら取り組んでいる。ま

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た、積極的に国際交流も行っており他国の文化を取り入れた 施設は、梼原町の観光名所になっている。

様々な魅力があふれる梼原町であるが、近年、全国から注 目を集めている所以は、「再生可能エネルギーを活用した低炭 素のまちづくり」にとても特化しているためである。また、

医療・福祉・介護・くらし・つながり・次世代教育など、多岐 にわたる取り組みは、全国的に先駆けた取り組みだといって も過言ではないだろう。次節では、これらの取り組みに焦点 を当て、具体的な取り組みとその意義について理解を深めて いく。

第2節 具体的な取り組み

梼原町が行っている取り組みを 5 つのポイントにまとめて 紹介していく(注②)。

1. 助け合い・支え合うまち

第 1 節でも紹介したように梼原町は、6 つの区から構成さ れており、それぞれの区に集落活動センターが設置されてい る。集落活動センターとは、地域住民が主体となって、地域 内外のステークホルダーと協働し、集会所などを拠点に、そ れぞれの地域の課題やニーズに応じて、様々な活動に総合的 に取り組む仕組みのことである。

梼原町では、時代の流れに沿って高齢化が進行するに伴い 人口が減少していくことで、地域のガソリンスタンドがなく なったり JA の購買所がなくなったりと地域の衰退が明らか であったのにもかかわらず、住民は、「何をやっても同じ」、

「自分のせいではない」などの悲観的な意見が多かった。そ こで地域における、技術と知識を持っている住民が地域の課 題解決と魅力の向上に向けて、主体的に協議する場所として 設けられたのが集落活動センターなのである。そこでは、住 民と町内外の官・民・学が協議を重ねたうえで、様々な取り 組みを行っている。そのかいもあり、韓国との交流を活かし 韓国の文化を取り入れた施設は観光地となっているし、交通 手段が不十分な地区には NPO 法人を設立し有償運送を行うこ とで高齢者の移動手段を確保し、交通の不便を解消できてい る。

つまり、集落活動センターが設けられたことで、自分たち の住む地域の課題を主観的になって考え、対話し、様々なス テークホルダーと協働しながら改善に向けて取り組めるよう

になったのである。まさにこれは、SDGs の根底を支える 17 番 目のゴールである「パートナーシップで目標を達成しよう」

を担う重要な場所にもなりえるし、これによって、筧氏の言 う地域の「分断」を解消し、「コミュニティの弱体化」を改善 するきっかけになるのではないだろうか。

2. 保険・医療・福祉・介護の充実したまち

梼原町では、町の中心街である東区にある梼原病院を中心 に特別老人ホームやデイサービス、他の区の診療所などと連 携し電子カルテなどの情報を共有できる仕組みを確立してい る。また、予防型社会への転換に向けて温水プールやセラピ ーロードを活用した高齢者の健康づくりにも力を入れている。

さらに、有事の際には 15 分で高知市の医療センターに向かえ るよう、町内にヘリポート基地を 3 か所配置させるなどして、

地域包括ケアを充実させ、町内で安心して暮らし続けられる まちづくりを行っている。

3. 生きものにやさしい低炭素なまち

はじめにでも述べたように、梼原町は平成 20 年に環境モデ ル都市に指定されており、低炭素社会に向けての取り組みは 日本全国から注目されている。町は、再生可能エネルギー自 給率 100%を目指しており、自然に恵まれた土地の利を生か した風力発電・小水力発電・地熱利用・太陽光発電・木質ペレ ットに力を入れている。低炭素なまちづくりに向けてこれほ ど多岐にわたる取り組みを行っている地域は全国を探しても 少ないのではないだろうか。

主に 5 つある取り組みのうち木質ペレットは少し聞きなじ みのない言葉かもしれない。木質ペレットとは、乾燥させた 木材を細粉し圧力をかけて成型した木質燃料のことで、主に ストーブやボイラーなどの燃料として使われることが多いも のだ。使用される原料には、健全な森林を維持するために必 ず出る間伐材などが使用されており、また、化石燃料のよう に大気中の二酸化炭素を増加させることがないことから近年 普及が進んでいる。環境と共生した循環型社会を目指す梼原 町でも普及が進んでおり、生ごみを使用したペレットなども 開発されている。それらの燃料は町にある温水プールや梼原 中学校などに活用されており町民の健康や教育にも影響を与 えている。他にも小水力発電で得た電力を中学校や街路灯に

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利用したり、風力発電の売電益の一部を太陽光発電設備やペ レットストーブの設置の補助に利用したりと、これらの事業 は、住民の生活を支え、発展させるための基盤になっている のだ。

4. 自信あふれる梼原人を育てるまち

未来の梼原町を支える梼原人とは、「勇気をもって行動がで き、他人の痛みのわかる優しさを持っている」、「進取の気性 に富み、未知の世界に臆することなく挑戦する」と定義して いる。そのため、梼原人を育てるための妊娠から出産、子育 てまで 18 年間にわたる教育体制や支援は独創的でかつ手厚 い。町は切れ目のない支援を行うことで、子育て世帯の安心 感を高めるのが狙いだ。そのための教育体制として「保幼小 中高一貫教育」を掲げているのだが、その中で珍しいのが 4・

3・2 制の小中一貫校を導入しているところだ。まず、小中一 貫校にすることで独自のカリキュラムを組むことができ、梼 原町が力を入れている英語教育に加え留学などの国際交流活 動を通じた生徒のコミュニケーション能力の向上も期待でき る。また、中学校の授業に抵抗なく取り組めるよう、小学生 の授業に中学校の教員が乗り入れ授業を行ったり、小・中学 校の教員同士に交流が生まれることで生徒や授業のことに関 して相互理解することができるなどのメリットがある。充実 した学習内容や、多くのコミュニケーションを通じて梼原人 としての人間形成を行うことができるだけでなく、世代間の 交流を通じて世代間の「分断」の解消にもつながる。

他にも保育費・幼稚園費・給食費無料や医療費 0 歳~15 歳 まで無料、中学生、高校生の海外留学など、子育てを安心し て行い、かつ未来の梼原を担う梼原人を育成するための独自 の支援体制が整備されている。

5. 選ばれるまち(移住・定住対策)

せっかく地域に魅力を感じ移住したいと考える人がいても その人たちを受け入れるための土地や住宅、金銭面での支援 がなければその機会を逃してしまうことになる。そのため、

梼原町では移住・定住の対策も行っている。空き家を改修し て使用してもらうための支援や持ち家に町産材を活用すると 補助が出るなどの金銭支援、固定資産免除などがある。また、

移住をお試しできる一軒家も準備されており、移住した際の 具体的なイメージを持つことができるようになっている。さ

らに、毎年東京や大阪で町単独の PR 活動を実施し情報発信に も力を入れたことで、転入者は増加傾向にあるようだ。

以上まで梼原町の持続可能なまちづくりにおける取り組み を紹介してきた。人口減少や高齢化などの下押し圧力に屈し ない、持続可能なまちをつくるための取り組みが梼原町には あるのだ。これらの取り組みを見ていくと様々な「分断」を 超え、地域内外のステークホルダーを巻き込みながら梼原町 全体で、誰一人取り残さず町を盛り上げていこうという SDGs に基づいた姿勢がうかがえる。

第3章 見えないメカニズム

第 2 章では、梼原町の持続可能なまちづくりにおける取り 組みを SDGs の観点から紹介した。はじめにでも紹介したよう に梼原町は、世界的に SDGs が注目されるようになる前からこ れらの取り組みを行っていた。では、なぜ先進的に取り組む ことができたのか。私は、その理由を梼原町に存在する 3 つ のメカニズム「明確な未来のビジョンを示すリーダー」、「住 民が主観的に参加できるコミュニティ」、「梼原町の風土」が 要因だと考える。以下にその 3 つについてまとめる。

第1節 明確な未来のビジョンを示すリーダー 梼原町には、明確な未来のビジョンがある。例えば、「再生 可能エネルギー自給率 100%を目指す」などだ。このような明 確なビジョンを描けていることで、その実現に向けてやるべ き活動を大胆に考えることができる。つまり、長期的な視点 を持つことで優先順位や今やるべきことがはっきりし、困難 な目標を達成できる可能性が広がるということだ。また、明 確で魅力的なビジョンは住民の気持ちを前向きにし、行動を 後押しする。地域のビジョンを実現するための様々な取り組 みに参加することで気持ちが高まり、その活動が地域の未来 につながっていると実感できれば、住民は地域への愛を深め、

自分たちの町だという帰属意識が高まる。さらに、そのビジ ョンやそれを実現させるための活動は、地域全体の魅力につ ながり地域外の人を惹きつける求心力になるのだ。このよう な好循環を生み出しさらに地域を盛り上げていくための力が

「未来のビジョン」にはあるということだ。

梼原町において、未来の地域のビジョンを実現するために

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やるべきことを企画し実行していくのはもちろん行政であり 住民であるのだが、その裏には、ビジョンのきっかけを考え る、梼原町をもっと良くしたいという強い意志を持った、行 動力のあるリーダー(町長)の存在があるのだ。梼原町全世帯 に生きる思いを聞き取り調査し、地域外の知識を取り入れな がら梼原町のビジョンを描き、その達成に向け先頭に立って 取り組んできた。長期的な取り組みを行っていく中で、町長 が代わることもあったが、役場全体として町長の意思が浸透 されており、さらには、同じく地域を良くしたいと考える地 域のミニリーダーのような存在である 6 つの区の区長などと 連携することで、梼原町の在り方をぶれることなく統一でき ている。梼原町を良くしていきたいという強い意志を持った リーダーが存在し、また、その意思を受け継ぎ、次につなげ ていく体制が梼原町にはある。

第2節 住民が主観的に参加できるコミュニティ これまでにも述べてきたように、持続可能な地域をつくる うえでコミュニティはとても重要な役割を担う。地域が抱え る経済・環境・社会・生活上の様々な課題を解決するために、

地域で暮らす様々なプレイヤーがつながり、対話し、協働し、

お互いの力を高めるような、コミュニティが必要なのである。

梼原町における代表的なコミュニティといえば、やはり集 落活動センターだろう。住民同士が協議し協働する場所がで きたことで、今まで客観的に考えていた地域の問題を主体的 に考え行動するようになり、梼原町をより良くするための活 動を効率的、効果的に行うことができるようになった。また、

第 1 節で述べた町長や行政の考えた地域のビジョンを、住民 がたたき台にすることができる場でもあるから、住民と町長・

行政をつなぐ場所だと考えることもできるだろう。さらに、

梼原町の 6 つの集落活動センターを統括する「集落活動セン ターゆすはら連絡協議会」を設立したことで、町としてのネ ットワークが深まり、波及効果をより大きくすることができ る仕組みを確立している。梼原町にあるコミュニティは集落 活動センターだけではない。他にも、住民が設立した NPO 法 人や株式会社などのコミュニティが多数存在し、「パートナー シップで目標を達成する」ための環境が整備されていると言 えるのだ。

第3節 梼原町の風土

最後に梼原町の風土だ。これは、梼原町の住民が「勇気を もって行動ができ、他人の痛みのわかる優しさを持っている」

「進取の気性に富み、未知の世界に臆することなく挑戦する」

梼原人としての資質を有していたからだということが考えら れる。地域の課題に対して客観的ではあったものの地域をも っと良くしたいという思いはあり、新しいことに勇気をもっ て挑戦できるモチベーションがあったからこそ、住民一人ひ とりが様々な取り組みに対して主体性をもって意見し、活動 できるようになったのだと思う。もちろん持続可能な地域を つくっていくためには、住民の参加が必要不可欠である。梼 原町に住む梼原人がそれを可能にしていたのだ。また、現在 の梼原町の生活・産業を支えている「低炭素なまちづくり」

は、自然が豊かで環境モデル都市としてのポテンシャルを秘 めた梼原町だからこそ実現できたのだと思う。

梼原町に住む人や周りの環境が一つひとつの取り組みの土 台をなしているのだ。

おわりに

本論文では、SDGs について理解を深めたうえで、梼原町の 取り組みの背景にある見えないメカニズムがどのようなもの なのかを考察しながら、持続可能な地域づくりの在り方を論 証してきた。持続可能な地域づくりには、地域の課題や目標 に対して包括的な視点をもち、誰一人取り残すことなく地域 全体で取り組むことが重要であり、またそのためには SDGs を 用いたアプローチが有効だということを確認できた。

何度も述べているように今まで梼原町は、先進的に SDGs の 考えをもって持続可能な地域づくりに取り組んできた。だが、

これはまだ自然にできている状態であると言える。一つの取 り組みが他の取り組みに与える影響がどのようなものなのか、

地域の住民を誰一人取り残さずに取り組めているか、今より もっと視野を広げて包括的な視点を持つことで SDGs を意識 した考え方を発展させることができるだろう。そしてそれが できれば、梼原町の持続可能な地域づくりはもっと深まるの ではないかと考える。

その際に有効なのが子供たちへの教育だと考える。教育分 野は将来的に他の分野に深く関わるものが多いからである。

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これからの教育課程において経済・環境・社会における体験 の機会を増やし、地域課題に関して多方面からの視点を持て る人材を育てていくことが求められる。もちろん今はまだ、

長期的な取り組みの途中に過ぎない。SDGs の可能性とこれか らのさらなる梼原町の発展に注目していきたい。

謝辞

今回の研究を進めていくにあたって、ご指導いただいた生 島淳准教授や互いに切磋琢磨しあいながら高め合った研究室 の仲間たち、本学に入学し学習することを快く支援してくれ た両親にこの場を借りて御礼申し上げます。

注①

課題に関係する大きな障害、状況の改善を握る大きな出来事

『持続可能な地域のつくり方』より 注②

梼原前町長 矢野富夫氏講義資料のまとめに従って作成

参考文献

・筧祐介[2019 年]『持続可能な地域のつくり方』英治出版

・沖大幹、小野田真二、黒田かをり、笹谷秀光、佐藤真久、吉 田哲郎[2018 年]『SDGs の基礎』事業構想大学院大学出版部

・日本経済新聞社編[2015 年]『もう東京はいらない』日本経 済新聞出版社

・『内閣府 SDGs 未来都市等の選定について』2020 年 1 月 16 日

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/teian/2 019sdgs_pdf/sdgsfuturecitypress0701.pdf

・『内閣府 第 8 回高齢者の生活と意識に関する国際比較調 査』2020 年 1 月 20 日

https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h27/zentai/pdf/ko urei_h27_2-7.pdf

・『富山市 SDGs 未来都市計画(令和元年度 10 月第一版改 定)』2020 年 1 月 21 日

https://www.city.toyama.toyama.jp/data/open/cnt/3/1885 1/1/191107r_SDGsmiraitosikeikaku.pdf?20200114123328

・『国立社会保障・人口問題研究所』2020 年 1 月 22 日 http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/t-

page.asp

・『雲の上の町ゆすはら』2020 年 1 月 22 日 http://www.town.yusuhara.kochi.jp/

・『矢野富夫氏作成パワポ』2020 年 1 月 22 日

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/about/chiisan akyoten/pdf/06_yano_koen.pdf

参照

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