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コケ植物を用いた宇宙実験に向けて:ヒメツリガネゴケの過重力応答

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Academic year: 2021

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コケ植物を用いた宇宙実験に向けて:ヒメツリガネゴケの過重力応答

久米 篤(九大・院・農),蒲池浩之(富山大・院・理工),半場祐子(京工繊大・院),竹 村香里(京工繊大・院),唐原一郎(富山大・院・理工),長嶋寿江(東北大・生命科学),

矢野幸子(JAXA),藤田知道(北大・理)

Toward microgravity experiments in moss: the response of hyper gravity environment of Physcomitrella patens

Atsushi Kume1, Hiroyuki Kamachi2, Yuko T Hanba3, Kaori Takemura3, Ichirou Karahara2, Hisae Nagashima4, Sachiko Yano5, Tomomichi Fujita6

1Faculty of Agriculture, Kyushu University, Ashoro, Hokkaido, 089-3705 Japan

2University of Toyama, 3Kyoto Inst Tech, 4Tohoku University, 5Japan Aerospace Exploration Agency, 6 Hokkaido University

E-Mail: [email protected]

Abstract: Several space experiments have been performed to understand the effects of Earth's gravity on the life cycle of plants using Arabidopsis plants and other flowering plants. However, phylogenetically comparative methods must be applied to understand and generalize these results and the researches of representative plants from distinct group of land plants under microgravity conditions in space are needed. Nevertheless, chances of space experiments are very limited. Therefore, it is practically important to perform ground-based experiments, such as hypergravity experiments. In this study, we have designed a centrifuge equipped with lighting system, which supports long-term plant growth under hypergravity conditions, and examined effects of hypergravity on the development of both the gametophores and rhizoids of Physcomitrella patens. We found that the hypergravity treatments increased the growth rates of colonies. Physcomitrella patens responded to the slight change of gravity, even at 2.1 G, and seemed to recognize the magnitude of gravity and develop to keep the suitable mechanical stability for gravity.

Key words; Buckling safety factor, Hypergravity, International space station, Microgravity, Photosynthesis Plant, Space experiment, Stable isotope

1. はじめに

地球の生物にとって,重力は最も変動しにくい環境 要因の 1 つである.さらに,陸上では浮力の直接的な 影響は非常に小さいため,立体構造の構築において は,一定の重力環境を前提とした形態形成が行われ ている.たとえば,植物の形態形成では,シュートある いは個体成長においてアロメトリー則の一定性が幅広 く成 立 していることが知 られており,支 持 組 織 では葉 量に応じた一定の通導コンダクタンスが維持され,曲 げモメントに応じた一定の断面強度を維持されている.

結果として,水通導と機械的強度の両方を満たすよう に,植物体全体で伸長成長と肥大成長が調節されて いる.このような関係は 1G 環境に特化しており,重力 環境が変化すれば,地中からの給水システム,あるい は強 度 と曲 げモメントの関係は大きく変化してしまう.

また,植物体に及ぼす対流や浮力の影響も重力と密 接に関係していることが予想される.

植物の進化環境における地球の重力影響を評価す ることは,植物の陸上進出に必要な適応過程を理解 する上 で重 要であると同時に,宇宙や地球以外の天

体上における異なった重力環境下における植物の成 長 を予 測 する上 でも重 要 であると考 えられる.そのた めには,異なった重力環境下での栽培比較実験が効 果的であると考えられたが,これまで適当な実験装置 が無かった.

通 常 の植 物 培 養 装 置 においては,温 度 ,湿 度 ,光 環境を調節することが可能であるが,重力を調節する ことはできない.遠心力を利用して重力の調節が可能 であるものの,通 常 の遠心装置では連続的に光を照 射することは考慮されていないため,植物を長期間栽 培することは難しかった.3 次元クリノスタットは,培養 しながらゆっくり全方向に回転させることで重力ベクト ルの積算がゼロとなるような擬似微小重力環境を作出 するが,重力ベクトルの分散が目的の装置であり,重 力の大きさを変化させることは想定されていない.

そこで,我 々は低 速 回 転 型 の遠 心 装 置 と光源を適 切に組み合わせることによって,安定した遠心力を加 えながら植 物 の上 方 (重 力 ベクトルの延 長線上)から 光 を照 射 し,長 期 間 植物を培養できる装置の試作を 2005 年から開始し,栽培実験を試みてきた.これは,

Space Utiliz Res, 29 (2015) © ISAS/JAXA 2015

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短 時 間 の強 い過重力刺激を与えることは目的とせず,

光合成可能な光照射下で,1.1~10G 程度の比較的 弱 い過 重 力 を長 期 間 かけ続 けることが,植 物 の成 長 過程にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするこ とを目的としている.

2. シロイヌナズナとヒメツリガネゴケ

国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」において シロイヌナズナを用いた「微小重力下における高等植 物 の生 活 環 」(通 称 Space Seed)が行 われ,微小重 力実験区(µG 区),宇宙 1G 対照区,地上対照区に おける比較栽培実験がなされた.しかし,実験スペー スが極 めて限 られた宇 宙 ステーションにおいては,シ ロイヌナズナの栽 培 に必 要 なスペースすら十 分 に確 保できず,その後の解析にも様々な困難が生じた.そ こで,我々は過重力反応や宇宙栽培実験を行うモデ ル植 物 とし て新 たにヒメツリ ガネゴケ(Physcomitrella patens subsp. patens)を加えて実験を進め,様々な重 力応答反応を評価する上で数多くの優れた特徴を持 っていることを確認した.また,コケを加えて実験を行 うことは系統間比較を行う上でも大きなメリットがあると 考 えられた.そこで,宇 宙 環 境 利 用 科 学 委 員 会 ワー キンググループ(WG) スペース・モス(Space Moss)を 立ち上げ,宇宙実験を視野に入れた研究活動を行っ ている.

3. 長 期 間 の 過重力環境がヒメツリガネゴケの成 長に及ぼす影響

長 期 間 のヒメツリガネゴケの過 重 力 栽 培を試み,地 上部(茎葉体)と地下部(仮根)の組織成長に及ぼす 影響を検証した.

ヒメツリガネゴケの茎葉体をBCD寒天培地の上に置 き,3 日後に過重力栽培装置に移し,その後 26日間 栽培した.過重力は2.110Gの条件に設定し,25℃,

HID 灯による白色光連続照射条件とした.対照として 同 じ室 内 で,同 温 度 ・光 環 境 下 で通 常 栽 培 (1G 条 件 )を行 った.期 間終了後,1つの茎葉体から増殖し たコロニーの生質量,個々の茎葉体の茎の長さと幅,

仮根の長さ,コロニーあたりの茎葉体の数を測定した.

その結 果 ,コロニーの生 質 量 や茎 葉 体 の数 は,いず れの過重力環境でも対照よりも大きく,6.5Gで最大値 を示した.また,茎の長さは 3.6G 以上の過重力環境 でより短く太くなる傾向があった.さらに,過重力環境 では,倒伏安全率も増大した.これらの結果は,2G程 度 の過 重 力 環 境 下 でも,かなり大 きな形態変化が生 じ,より機械的な安定性が増加するように地上部や地 下部の形態が変化することが明らかになった.一方,

個 体 レベルとコロニー(群 落 )レベルでは,過 重 力 環 境 が物 質 生 産 過 程 に及 ぼす影 響 が異なる可能性が 示され,個体間相互作用の重要性が示唆された.

4. 過 重 力 環 境下におけるヒメツリガネゴケの光 合成能力と形態変化

長 期 間 のヒメツリガネゴケの過 重 力 栽 培を試み,茎 葉体と仮根の成長評価を行うと同時に光合成特性や 葉緑体の形態に及ぼす影響を検証した.

ヒメツリガネゴケの茎葉体をBCD寒天培地の上に置 き,3日後に過重力栽培装置に移し,その後 56日間 栽培した.過重力は10Gに設定し,24℃,HID灯によ る白色光連続照射条件とした.対照として同じ室内で,

同 温 度 ・光 環 境下で通常栽培(1G 条件)を行った.

期間終了後,茎葉体と仮根の生育状況を比較した結 果,10G 条件では対照と比較して,茎葉体の乾燥質 量 や伸張が小さくなり,仮根の発達が著しく促進され ていることが明らかになった.また,10G 条件ではコロ ニー当たりの茎葉体数および乾燥質量の増加量が 2 倍近く促進された.このような成長促進がどのような理 由で生じるのかを確かめるために光合成特性を測定・

比較したところ,10G 条件では単位面積当たりの光合 成速度が高く,炭素安定同位体の分析結果も10Gの 方が植物体内の CO2コンダクタンスが高いことを示唆 した.細 胞 及 び葉 緑 体 形 態 について比較した結果,

10G 条件では茎葉体の表皮細胞が小さくなる一方で,

葉緑体は大きくなっていた.これらの結果は,10G 条 件では,細胞が小さくなり葉緑体の長辺・短辺が大き くなった結果,細胞壁面に接する葉緑体の表面積が 増大し,植物体内の CO2 コンダクタンスが増加し,結 果 として単 位 面 積 当 たりの光 合 成 速 度 が高 まった可 能性が考えられた.

5. 今後の展望

ヒメツリガネゴケが植物への重力影響を評価する上 で非常に優れた実験系であることが明らかになった.

また,これまで行われてきた 10G 以上の過重力環境 は,長期栽培における影響を評価するには重力応答 が飽和している可能性があり,6G 以下の応答変化を 検証する必要性が示唆された.特に,2G以下の環境 における詳細な応答解析はこれからの課題である.こ のような状況で,宇宙環境における µG 実験,さらに 0.5G程度のパーシャルG実験が,重力応答を理解す る上で非常に重要であることが予想される.今後は遺 伝子発現の変化も含めて,コケの重力応答機構の解 明を進めていく予定である.

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