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小学校音楽科の学習事項の配列に関する教育工学上の課題

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(1)

第39号 2017年

59

はじめに

 吉富他(2008)は子どもの実態調査から,「階名 聴唱と階名視唱において,悲惨な結果」とし,「聴 唱・視唱の能力と音符・休符・記号と和音記号の理 解に関して,学習指導要領・音楽科に示された水準 を達成していない」と結論づけている.さらに吉富 他(2009)は.音楽科の小学校学習指導要領が「従 来のものと同様に,目標と内容が曖昧であり,不明 確のままである.それらのほとんどは定量的に測定 することが困難なものであり,そのことが,小学校 音楽科の学力を漠然としたものにとどめている」と 述べ,学習指導要領の「曖昧」さと児童の学力との 因果関係を指摘している.

 小学校音楽科の学習指導要領が「曖昧」である旨 指摘している例は戦後間もない時期からあり,時系

列にいくつか挙げると,魚野(1947)は「第 1 章の 大目標が極めて簡単に出来ているのに反して第 2 章 以下にはあいまいなところが多々目につく」と批評 し,八木(1978)は「何をどのように教えるかとい うことが,誰にでもわかる形で一貫して不明瞭」と 分析.その他,「指導方法が十分にしめされていな かった」(吉田1989),「曖昧で具体性に欠けるため に,この『内容』をねらいとして実際に授業を展開 しにくい」(伊野1994)など,数十年にも渡って学 校現場に関わる教育工学的問題が存在し続けている ようである.この「曖昧」であるという点は,育て たい学力が教師の音楽観等によって異なり得るわけ で(田中2005),また,「名人芸や教師の音楽的力量 が不必要に要求され」,一般的には「子どもが,教 師の力量によって“わかる”というその権利を保障 されていない現実」を招いているようである(八木 1978).

 さて,以上の曖昧さのために教科書は学校現場の 実用に供するに際して「独自の系統基準を設定し,

それに従った編集をしている」と伊野(1994)は分 析しており,さらにその結果,「せっかく系統立て

小学校音楽科の学習事項の配列に関する教育工学上の課題

-教科書に掲載された初出時期の比較から-

石原 慎司 *  秋田大学教育文化学部   音楽科の学習指導要領は戦後の〈試案〉から今日に至るまで,記載内容が「曖昧」であり,

その結果,学校現場への影響として,読譜力が身に付かないことへの因果関係も指摘され ている.さらに,当然この曖昧さは教科書にも影響を及ぼすことにもなるのだが,各社教 科書間でどのような違いが生じ,また,そこからどのような課題が発生しているのかにつ いては明らかではなかった.そこで,様々な学習事項の初出が表れる学年を教科書間で比 較・検証した.その結果,初出の学年が各教科書で異なったり,一方でしか扱われない事 項が散見された.また,系統的・段階的な学習が停滞していたり,学習深度や到達地点が 大きく異なるといった事象もあった.学習内容をどの学年で教えるのか,各教科書間で不 一致である現状は,教師の責任の所在を不明確にするような教育工学的作用が働き,結果 的に学習内容の指導の不徹底な分野を生み出し続ける素地となっている可能性がある.

キーワード:小学校音楽科,教育工学,教科書,初出事項

 2017年 1 月10日受理

 †

Problem related to the educational technology about learning matters arrangemant of the primary school music department: From the comparison to the first appearance timing in the school textbook

 *

Shinji I SHIHARA , Faculty of Education and Human

Studies, Akita University

(2)

秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要

60

られた教科書の構成も,学習指導要領の内容の系統 と重ね合わせることにより,その趣旨が生かされず,

授業の展開は結果として曖昧模糊とした指導目標の 中に埋没することになる」とも述べて不十分な教育 効果に至る過程を指摘している.そうであれば,各 社の教科書毎に「独自の系統基準」が存在し,同学 年の学習内容にも差が生じているものと筆者は予想 する.そこで筆者は各教科書の学習内容にどの程度 の相違が生じているのかについて検証し,問題点を 考察していく.なお,この問題点は系統的な学習の

「独自性」に起因しているので,単発的に扱い得る 学習分野よりは,長期的に学習段階を積み上げる性 質の強い分野の方が比較し得る事象が表れやすいと 考えた.そこで筆者は各社教科書における「西洋音 楽の知識・理論面に関する学習内容」を検証の対象 とした.この学習事項の初出が学年順にどのように 配列されているのかを比較しつつ,教育工学上の問 題点を含めて考察を進めていく.なお検証の対象は 次の 5 分野に細分化した.「1.楽譜に関する事項-

音符・記号,楽譜上の用語」「2.その他の音楽用語・

概念」「3.音高の表記位置」「4.音階・調性・階名・

移動ド唱法」「5.和音・和声法」.対象の小学校音 楽科の教科書は平成28年度現在使用中のもので(平 成26年 3 月検定済),教育芸術社の『小学生の音楽』

と教育出版の『音楽のおくりもの』.以後,順不同 で「教科書A」「教科書B」と記載する.

1 楽譜に関する事項-音符・記号・楽譜上の用語 1.1 各学年教科書間の初出事項一致率

 楽譜に関する初出事項(音符・記号・楽譜上の音 楽用語)の抽出は次の要領で行い,表 1 にまとめた.

 説明等(図説や演習含む)が同一学年教科書内に 全く付された箇所がなければ,説明等がないもので も抽出するが,上の学年で説明等が付されたものが 出てくればその学年で再度抽出する.説明等がある ものは表内の該当事項に「○」を付け,ないものと 区別する.また,下の学年で説明等が付されている にも関わらず,上の学年で「新しく覚えること」と 補足が付されたものがある.この場合は,厳密には 初出事項とは言えないのであるが,それに準じる扱 いを作成者が意図していることは明白であるので,

該当事項に「◎」を付けて再度抽出する.なお,上 級学年で習う事項を資料的に掲載している教科書の 最後のページあたりに掲載しているものが一部にあ

るが,これはその学年の教科書内で全く扱われてい ない場合は表に抽出しないことにする.そして,教 科書にはひらがなで記載されている語でも,表内で は漢字に変換する.

 では先ず楽譜に関する初出事項がどの程度教科書 間で一致しているのか,表 1 をもとにして教科書A,

B間の一致率を算出したものが表 2 である.なお,

算出の方法であるが,説明が付された初出事項同士 の一致率は100%,または,説明が付されていない もの同士の一致率は100%とみなし,説明の付され たものと付されていないもの同士の一致率は双方共 に50%として計算した.この「一致率」についてだ が,両教科書間で一致した割合であるから,表内の 各教科書の曲線は基本的には大きくは乖離しないは ずである.しかし,いくらかの乖離があり,その部 分は各教科書の独自性による差だといえる.つまり,

第 1 学年の教科書Aの一致率は92.3%なので独自の 初出事項が7.8%あったということであり,教科書 Bの一致率は77.4%なので独自の初出事項は22.6%

あったという見方ができる.

表 1 楽譜に関する初出事項

教科書A 教科書B

速度記号(メトロノーム記号)

8

速度記号(メトロノーム記号)

6

ト音記号 ト音記号

2/4拍子 4/4拍子

縦線 ヘ長調の調号

終止線 縦線

ブレス記号 終止線

4分音符 8分音符

8分音符 4分音符

16分音符 4分休符

付点4分音符

2/4拍子 10

8分休符 16分音符

4分休符 8分休符

付点8分音符

14

ブレス記号

11

リピート記号

16

スラー

ヘ長調の調号

20

付点8分音符

14

スタッカート ○ fine

16

○ fine ○ D.C.

17

シャープ *楽譜内の臨時記号 シャープ *楽譜内の臨時記号

20

ナチュラル *楽譜内の臨時記号 ナチュラル *楽譜内の臨時記号

○ D.C.

21

スタッカート

ト長調の調号 タイ

21

3/4拍子

リピート記号

23

4/4拍子 26

ト長調の調号

24

付点2分音符

3/4拍子

タイ

34 1番かっこ,2番かっこ 29

スラー

70

フラット *楽譜内の臨時記号

61

2/2拍子 63

ビーデ記号とCoda

休止区間の略記法

64

三連符 付点8分休符

教科書A 教科書B

○ 4分音符

27

○ 全音符

15

○ 4分休符 ○ 2分音符

○ 8分音符

30

○ 4分音符

○ 連桁  *8分音符2つ分を図示,名称の記載  はなし

○ 8分音符

○ 4分休符

17

○ 8分休符 ○ 8分休符

○ 2分音符

36

グリッサンド *記号

57

全休符 *「やすみ」とのみ注記はあり

39

○ 2分休符

59

○ 付点2分音符

71

教科書A 教科書B

○ ト音記号

9

○ ブレス記号

3

○ 下第1線~第5線 ○ 付点2分音符

9

○ 下第1間~第4間 ○ 付点4分音符

○ 小節 ○ ト音記号

○ 縦線 ○ 五線

○ 終止線 ○ 加線

○ ブレス記号

◎ 付点2分音符 *新しく覚えること,の注記あり

○ 4/4拍子

12 19

○ 下第1線~上第1線 *「上第1線」は教  科書Bでのみ扱われている事項であるが,

 ここは上記「加線」に含まれることと見な

表1

Akita University

Akita University

(3)

第39号 2017年

61

 次に初出事項の教科書間一致率であるが,表 2 の 通り,平均的には第 1 学年が最も高く,第 6 学年が 0 %となっているのが特徴で,別の言い方をすれば 不一致率が学年進行に比例して高まっていく状態で あるとも言える.このことは,ある教科書が他の教 科書よりも早く,あるいは,遅く初出事項を配列し ているので,それが学年進行に比例して不一致率が 高まっていく,つまり,一致率が低下していくとい う現象だといえる.

 次に不一致だった例の特徴的なものを観察する.

「共通事項」にある「スタッカート」であるが,こ れは教科書Bでは第 3 学年に出てくるが,教科書A では第 4 学年となっており,教科書採択地域によっ ては既習になるまでに 1 年の差が生じていることが わかる.この他「スラー」(共通事項)は教科書A が第 3 学年,教科書Bが第 5 学年に説明付きの初出 となっており,2 年以上の差が生じている.さらに,

「2 分休符」については教科書Aの第 3 学年でのみ 説明付きで掲載されていて,教科書Bにはどの学年 にも出てこない.もっとも,2 分休符は中学校の共 通事項なので,小学校段階で教えなければならない 義務はないが,仮に低学年の教材曲であっても,2 拍の休みがある曲はあり得るわけで,それを上級学 校に進まないと教えてはならず,2 拍の休みがある 曲は教材として採用することが憚られるべきではな いであろう.しかし,要点は上級学年や上級学校で 教えるものが下の学年で説明まで付されて掲載され ている例(「D.C.」や「D.S.」等)が他にいくつもあ るということである.各教科書で計画された学習段 階や学習系統が異なるために,初出事項の学年毎の 配列は教科書間でかなりの差が生じ,教科書採択地 域毎に学習内容や学習時期の差を広げている状況が 発生しているということになる.

1.2 初出事項の数の変化

 次に,学年毎の初出事項の数の推移として表 3 を 参照する.先ず低学年,中学年,高学年毎に,奇数 学年と偶数学年を比較する.全ての偶数学年の初出 事項数は,1 学年下の奇数学年時よりも大きく減少 していることが教科書A,Bで共通している点であ る.これは 2 学年単位で記載された学習指導要領の もたらした結果現象かもしれない.知識面の学習内 容が 1 学年毎に均等な量を積み上げられていくよう な,いわば「均等提示型」が適切なのか,あるいは,

表 2 楽譜に関する初出事項の教科書間一致率

8分音符 4分音符

16分音符 4分休符

付点4分音符

2/4拍子 10

8分休符 16分音符

4分休符 8分休符

付点8分音符

14

ブレス記号

11

リピート記号

16

スラー

ヘ長調の調号

20

付点8分音符

14

スタッカート ○ fine

16

○ fine ○ D.C.

17

シャープ *楽譜内の臨時記号 シャープ *楽譜内の臨時記号

20

ナチュラル *楽譜内の臨時記号 ナチュラル *楽譜内の臨時記号

○ D.C.

21

スタッカート

ト長調の調号 タイ

21

3/4拍子

リピート記号

23

4/4拍子 26

ト長調の調号

24

付点2分音符

3/4拍子

タイ

34 1番かっこ,2番かっこ 29

スラー

70

フラット *楽譜内の臨時記号

61

2/2拍子 63

ビーデ記号とCoda

休止区間の略記法

64

三連符 付点8分休符

教科書A 教科書B

○ 4分音符

27

○ 全音符

15

○ 4分休符 ○ 2分音符

○ 8分音符

30

○ 4分音符

○ 連桁  *8分音符2つ分を図示,名称の記載  はなし

○ 8分音符

○ 4分休符

17

○ 8分休符 ○ 8分休符

○ 2分音符

36

グリッサンド *記号

57

全休符 *「やすみ」とのみ注記はあり

39

○ 2分休符

59

○ 付点2分音符

71

教科書A 教科書B

○ ト音記号

9

○ ブレス記号

3

○ 下第1線~第5線 ○ 付点2分音符

9

○ 下第1間~第4間 ○ 付点4分音符

○ 小節 ○ ト音記号

○ 縦線 ○ 五線

○ 終止線 ○ 加線

○ ブレス記号

◎ 付点2分音符 *新しく覚えること,の注記あり

○ 4/4拍子

○ 付点4分音符

12 19 21

○ 下第1線~上第1線 *「上第1線」は教  科書Bでのみ扱われている事項であるが,

 ここは上記「加線」に含まれることと見な  し別途の事項としては抽出しなかった.

○ 2/4拍子

25

○ 小節

○ 3/4拍子

31

○ 縦線

○ タイ

40

○ 終止線

ビーデ記号とCoda

57

○ タイ *奏法のみ説明

10

○ 3連符

58

○ ナチュラル

51

休止区間の略記法

62 3連符(4分音符+8分音符の型) 52

○ D.S.とセーニョ記号

64

○ シャープ

58

○ 全休符

70

○ ナチュラル

○ 2分休符 ○ テヌート

○ 付点8分音符 ○ 3連符

○ 16分音符 ○ D.S.とセーニョ記号

○ シャープ

71

○ スタッカート

61

○ フラット ○ フラット

63

○ ナチュラル

○ スラー

○ 速度記号(メトロノーム記号)

○ リピート記号

○ 1番かっこ,2番かっこ

教科書A 教科書B

◎ 付点8分音符 *新しく覚えること,の注記あり

9

○ 付点8分音符

13

◎ 付点16分音符 *新しく覚えること,の注記   あり

○ 16分音符

○ 2/4拍子 18

◎「リピート記号」 *(くり返し記号)との   補足,新しく覚えること,の注記あり

15

○ 4/4拍子

○ 3/4拍子

20

21

○ 6/8拍子

20

○ 複付点4分音符

28

○ 強弱記号( p )

21

○ 強弱記号(クレシェンド)

29

○ 強弱記号( mp )

22

○ 強弱記号(デクレシェンド)

○ 強弱記号( mf ) ○ 全休符

35

○ 強弱記号(クレシェンド)

○ タンギング ○「くり返し記号」 *カッコ内で(リピー   ト)とも表示し,演奏順序を説明

42

○スタッカート 変ホ長調の調号

56

◎ 1番かっこ,2番かっこ

 *新しく覚えること,の注記あり

23 6/8拍子

○ 休止区間の略記法

64

○ 強弱記号( f )

24

○ フェルマータ

65

◎ シャープ *新しく覚えること,の注記あり

43

○ トレモロ *32分音符の略記法で記譜された   ものの奏法を説明

教科書A 教科書B

○ アクセント

○ ヘ音記号

17

○ 速度記号 *説明に加え,メトロノーム   (機器)を紹介。

6

○ 全音符

23

○ 強弱記号( p )

7

◎ フラット *新しく覚えること,の注記あり

27

○ 強弱器具( mp )

◎ ナチュラル *新しく覚えること,の注記あり ○ 強弱記号( mf )

○ 強弱記号( ff )

38

○ 強弱記号( f )

○ スラー

49

○ アクセント

ホ短調の調号

53

○ ヘ音記号

13

ニ長調の調号

56

○ スラー

25

○ フェルマータ ○ 6/8拍子

変ホ長調の調号

61 3/2拍子 66

3番かっこ 68

○ 2/2拍子

69

教科書A 教科書B

変ロ長調の調号

6

○ 強弱記号( ff )

18

◎ 速度記号(メトロノーム記号)*新しく覚えるこ

 と, の注記とメトロノーム(機器)の提示

12

○ 2拍3連符

○ 短前打音

32 36

ハ短調の調号

56

○ テヌート

61

ニ短調の調号

64

Akita University

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(4)

2 学年かけて学ぶべき内容を最初の学年で多めに示 し,それをその後の 2 学年かけて消化,あるいは深 化させていくような「先行提示型」が適切なのかと いう問題が見いだせる.もっとも,この点に関する 明確な答えがあるわけでもなく,また,その是非を ここで論ずるつもりもないのであるが,少なくとも 現行の学習指導要領では「どちらの提示型でも可能」

な仕組みであるのに教科書A,Bは揃って後者の型 であったという点は注目できる.

 2 学年単位では両教科書共に「先行提示型」であっ たわけだが,これは適切な教育効果を見込んだ上で 意図的に配列されたものであればよいのであるが,

教育以外の観点が入り込む余地はなかったであろう か.つまり,ある教科書が「均等提示型」を選択す れば,「先行提示型」教科書が存在した場合はその 教科書採択地域の児童よりも,奇数学年のうちは 学習内容が遅れてしまう部分が生じることになる.

従って,どちらの型でも教科書作成が許されている のであれば,「先行提示型」にベクトルが向きやす い素地はあったということにはなるであろう.

 もっとも,前節で表 2 を検証したように,音楽,

特に楽譜や読譜に関わる事項の学習は,「先行提示 型」になっても当然な部分はある.それゆえ,2 学 年毎ではなく 6 学年通して見た場合,第 1 学年が最 も多く,第 6 学年が最も少なくなっていることは,

初期に多くの情報が提示されて 6 年間かけて学びを 深め広げていくという方法が採られているのであれ ばおかしい状態とは言えないであろう.例えば,第 1 学年の最初の方のページでは,各社共に音符の読 み方,書き方,ドレミさえ習っていない段階である にも関わらず,16分音符や付点音符などが含まれた

楽譜付きの共通教材が掲載されているのであるが,

それをきちんと説明していない段階であっても,最 初から載せて少しずつ教え,慣れさせていくという メソッドだとすれば教育方法論としてはあり得るの である.

 しかしながら,表 3 では第 2 学年がV字の谷底に なっており,第 3 学年では再び激増するというのは いささか不自然な様態であり,それが適切かどうな のかについては検証の余地がありそうである.また,

第 6 学年では最小限まで初出事項が両教科書ともに 減っているが,中学 1 年に入ればそれよりもさらに 減るのであろうか.本研究の検証外ではあるが決し てそうではないであろう.中学校に入ればそちらの 学習指導要領に基いた初出事項もあり,小学 6 年か ら中学 1 年をクローズアップしてみれば,決して先 行提示型になってはいないと思われる.もし「小・

中・高」の学校種毎に初出事項が「W字型」で増 減を繰り返しているとすれば,それは系統的で段階 的な学習過程としては不自然であろう.

 この他の点として,教科書Aでは「リピート記 号」,教科書Bでは「くり返し記号」という用語の 異なる例がある.音楽用語の不統一は様々な小学校 から入学してくる上級学校や,その後の生涯学習の 場にとっては不適当なはずである.学習指導要領に は「反復記号」とあり(1 番かっこ・2 番かっこ型 含む),用語が合計 3 種類も存在し,一致していない.

2 その他の音楽用語・概念

 この節では「楽譜に関すること以外の西洋音楽の 用語や概念」の初出事項を抽出し考察する.なお,

個別の楽器名や曲種名は抽出する事項から除いた.

抽出の要領は表 1 と同じである.

2.1 用語の不一致

 共通事項に関わる用語等であっても,表 4 を見る と教科書間で異なる場合等があり,学習内容に関す る話が教科書採択地域間の児童・教師の間で通じな い,という不適切な状況が生じているように思われ る.具体的には,学習指導要領とは異なる用語等が 使用されていたり,全く使用していないといった例 である.例えば,共通事項で示された「音楽を形づ くっている要素」の中の「問いと答え」「反復」「フ レーズ」「音楽の縦と横の関係」「旋律」の単語等が 教科書Aに一切出てこないというものである.こ 表 3 楽譜に関する初出事項の数

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第39号 2017年

63

れに対応して用いられている語としては,前者 2 つ は「呼びかけと答え」「繰り返し」である.「フレーズ」

は,この語と同義である旨の説明がないので同じも のを指すとは言えないのであるが,「小さなまとま り,大きなまとまり」という,用語とは言えない「説 明文」でこれを表現しているように見える.また,「音 楽の縦と横の関係」は,この語と同義ではないと思 われるが,音の「重ね方」,「旋律の重なり」等,複 数の言葉を別単元に分けてカバーしているようであ る.「旋律」はこれに対応する言葉さえ全学年通し て用いられていない.「旋律」は教師が目にするか もしれない教科書A発行者作成の資料注)「〔共通 事項〕の一覧および関連する学習活動例」や「指導 計画案」等の中でのみ,ある教材で「旋律」の学習 も可能な旨示しているだけであった.この他「音色」

は最初に示された学年ではこの語が用いられておら ず,教科書のキャプション的な言葉として「いろい ろなおと~」という,用語(単語)とはいえない言 葉を用いており,言葉を定義し,概念化することを 先送りにしていた.このことから,各教科書発行者 が発達段階に関する判断をそれぞれ独自に行ってい る,または,行わざるを得ない状況に置かれている,

ということなのである.

 なお,教科書Aの用語使用方針の是非をここで 論ずるものではないが,「共通事項」の関連用語で あるにも関わらず,両教科書で用語が大幅に異なっ ていたり,用語自体が用いられていないといった事 実は確認できた.このことは,学習指導要領の記載 内容が「曖昧」であるゆえに生じていることは間違 いない.学習指導要領にはこのような表現で書かれ ているからである.「音楽を形づくっている要素」 (以 下「要素」)を「聴き取り」「美しさを感じ取ること」

としているからである.つまり,いくつかの「要素」

の出現やその違いを最低限聴き取れたり,感じ取れ たらいいだけで,用語を覚えさせる必要性までは明 記されていないし目標ともされていないのである.

しかも,「要素」を列挙して記載してはいても,そ れらの直後に「など」という語が付され,これが曖 昧さを助長しているようなのである.つまり,「~

など」と記載すれば,それは見方によっては列挙さ れたものの中からいくつかを選べばよい,全てを扱 わなくてもよいとも読み取れるし,記載外の他の要 素でもよいと解釈することも可能なのである.

2.2 初出事項の学年毎の表れ方

 はじめに各学年の教科書間でどの程度の割合で初 出事項が一致しているのか,表 5 から確認する.グ ラフの曲線の形は学年毎に増減を繰り返すジグザグ 型で,前節の表 2「楽譜に関する事項」のように 6 年間かけたスムーズな下降曲線ではない.例えば,

教科書Aは,第 1 学年が50%で第 2 学年では 0%と なっているように,増減の差が激しいのがわかる.

このことの主な要因は,第1 学年および第 3 学年で

「共通事項」(楽譜関係除く)のいくつかが一致して いたことによるもので,一方,その間の第 2 学年で は一致するものがなかっただけでなく,教科書Bで は何一つ初出事項がなかったためである.また,表 6 の通り,各学年の「初出事項の数」を見ると,大 体においては奇数学年の方が数が多い.これらの点 から,ここで抽出した初出事項は 2 学年単位で見れ ば「先行提示型」である.奇数学年での一致率が高

表 4 その他の音楽用語・概念に関する初出事項

教科書A 教科書B

○ 長短

29

○ リズム

16

○ 高低

36

○ 速度

23

「色々な音」*左記の言葉が文中にあるのみ

44

○ 高低

32

 で,右記の「音色」と同一とはいえない ○ 強弱

42

速度  *「速さ」とのみ文中に記載

54

○ 旋律

36

○ 拍

72

○ 音色(ねいろ,おんしょく)

41

○ リズム ○ 拍(の流れ)

68

○ 強弱 ○ フレーズ

○「組み合わせ」*作曲上の概念の図説 ○ 反復

○「繰り返し」 *作曲法上の概念の図説, ○「問いと答え」 *作曲法上の概念

 教科書Bの「反復」と同じ ○ 打楽器

70

○ 2拍子の概念

10

○ 3拍子の概念

14

○ 旋律

25

「呼びかけと答え」*作曲法上の概念

37

○ 速度

73

○ タンギング

17

○ タンギング

19

○ 変化 *作曲法上の概念

26

○ 変化 *作曲法上の概念

31

○「小さいまとまり、大きいまとまり」

27

○「音の重なり」*教科書A「重ね方」

45

*作曲法上の概念 掛け合い *「せんりつがかけ合う」と記載

51

○ 音色 *擬音語による概念説明

40

 (下線は原文通り)

音の「重ね方」*教科書B「音の重なり」

41

○ 木管楽器

72 72

○ 金管楽器

66

○ 弦楽器

○ 旋律の特徴:上昇下降の方向性

72

○「旋律の特徴」:「歯切れよさ」

22

○ 2拍子の指揮法の図形

18

○「旋律の特徴」:「なめらかさ」

22

○ 4拍子の指揮法の図形

20

○ サミング

32

○ 3拍子の指揮法の図形

21

輪奏

33

○ サミング

24

○ 打楽器

40

○ 金管楽器

30

輪唱

61

○ 掛け合い *作曲法上の概念

31

○ 木管楽器

62

○「旋律の重なり」

73

○ 弦楽合奏

19

○ ハンドクラップ

7

○ 吹奏楽

26

○ 女声二部合唱,男声四部合唱,混声四部合唱, 16

○ 曲想 児童合唱 *「いろいろな合唱」として

○ ソプラノ,メッゾソプラノ,アルト,テノール,バリトン,バス

34

  提示

*「声の種類」として提示 ○ ソプラノ,メッゾソプラノ,アルト,テノール,バリトン,バス

17

○ 独唱,斉唱,重唱,合唱

35

 *「声の種類」として紹介

*「歌声による演奏の形」として紹介 「縦と横の関係」 *作曲上の概念

19

○ 弦楽器

68

○ オーケストラ

20

○ 6/8拍子の指揮法

25

○ ふしまわし

29

○ インターロッキング

50

○ 吹奏楽

76

○ 弦楽合奏

77

○ ビッグバンド

○ 独唱,斉唱.重唱,合唱

14

 *「歌の色々な演奏の形」として提示

○ カノン *作曲法上の概念

17

○ 循環コード *作曲法上の概念

34

○ ドローン *作曲法上の概念

46

表4

16

○ オーケストラ

(6)

い分,上の偶数学年では一致率が低下している姿と 思われる.

 しかし,抽出した「音楽用語や概念」の事項の中 には,「先行提示型」である必要性が必ずしもない ものも多数含まれていた.例えば,教科書A,Bと もに「タンギング」という用語が第 3 学年で出てく るが,リコーダー等をこの学年で扱わない限りにお いてはどの学年で扱っても構わないわけである.例 えば「打楽器」などであれば,教科書によっては第 1 学年と第 4 学年で説明しており,どの学年で扱っ ても問題ないようなものがある.このように,本節 で抽出した事項は,前節の「楽譜に関する事項」よ りは「均等提示型」で示してもおかしくない事項が 多く含まれていると考えられるが,前節以上に「先 行提示型」の様相を呈していたのである.表 4 で特 に教科書Bを見ると(教科書Aも大体は同じだが),

共通事項の「音楽を形づくっている要素」の初出は 見事に奇数学年にしかなく,偶数学年に初出はな かったことがその点をよく示しているのではない

か.このように,何らかの要因が働いて「先行提示 型」になった可能性がある.

3 音高表記

 読譜に関わる内容だが,各音高が 5 線譜上のどの 位置に該当するのかに関して説明された初出の各音 を表 7 に抽出した.抽出の条件は,初出の音で,音 高表記の説明・演習課題があるもの,説明等は付さ れていないが器楽の楽譜教材内に出てくるもの,と した.説明が付されていなくても後者を含めた理由 は,表記されている音符の音高表記がわからないと 演奏もできないわけで,理解できるよう指導される ことが前提となっている教材だからである.表 8 は 表 7 で抽出した初出の音の数が学年毎にどう変化し ているかを表したものである.

 さて,基本的には低学年から徐々に学んでいくわ けだが,表 8 の通り,両教科書ともに第 4 学年では 新たな音の表記をひとつも教えておらず,積み上げ 学習が停滞している.そして,次の第 5 学年ではそ れまでにない数の多さの音高表記を学ぶことになっ ており,進度的なバランスを欠くように見える.ま た,教科書Aの第 3 学年ではト音譜表の下第 1 線 以下のト~ロ音が出てきているのに対し,教科書B ではその音が第 5 学年になるまで扱われないなど,

学習内容が教科書間で一致するまでに 2 年もの開き がある.さらに,ヘ音譜表の上第 2 線の 1 点ホ音が 扱われるのは教科書Bの第 5 学年のみ,ヘ音譜表下 第 1 線ほ音,および,第 2 線ろ音は教科書Aのみ であるなど,全学年通しても学習内容に差が生じて いる.

表 5 その他の用語・概念に関する初出事項の 教科書間一致率

表 6 その他の用語・概念に関する初出事項の数 表 7 各音の音高表記の初出

教科書A 教科書B

ト音譜表:一点ハ~一点ト

31

ト音譜表:一点ハ~一点ホ

34

*36頁の演習課題と合せて説明 ト音譜表:一点ヘ~一点ト

36

ト音譜表:一点イ

46

ト音譜表:一点イ

39

ト音譜表:二点ハ

48

ト音譜表:一点ロ~二点ハ

23

ト音譜表:一点ロ

58

ト音譜表:二点ニ~二点ホ

51

ト音譜表:二点ニ

ト音譜表:ト

24

ト音譜表:イ,ロ

42

ト音譜表:二点ホ~二点イ

70

ト音譜表とヘ音譜表の対比説明 ト音譜表:ヘ~ロ

ト音譜表:ヘ ヘ音譜表:ハ~一点ホ

ヘ音譜表:ハ~一点ハ

ヘ音譜表:一点ニ

14

ヘ音譜表:ほ~い

24

ヘ音譜表:ろ

32

教科書A 教科書B

「ドレミファソラシド」

 *鍵盤上でドレミを図説

30

「ドレミファソラシド」

 *階段上にドレミを配置した図説

26

調  *用語の表示のみで説明なし

9

○音階  *上記1学年26頁と同様のドレミの   階段を「音階」と図示

70

「長調の音階」 *ハ長調の場合,として説明

9

「短調の音階」 *イ短調の場合,として説明

13

ハ長調の音階・階名・音名 イ短調の音階・階名・音名 ヘ長調の音階・階名・音名 ニ短調の音階・階名・音名

教科書A 教科書B

ハ長調の階名唱:ド~ソ

36

ハ長調の階名唱:ド~ラ

60

ハ長調の階名唱:ミ~ド

31

ハ長調の階名唱:ド~ド

48

ハ長調の階名唱:ド~レ

60 8

*第4学年以降はどちらの教科書も関連事項の掲載なし

15

13

ハ長調の音階・階名・主音

ヘ音譜表:と,い

35

71

イ短調の音階・階名・主音

13

「階名」 *ドレミのことを「階名」と説明  し,ト音譜表上で図説

ハ長調の階名唱:ド~ド

10

*第2学年はどちらの教科書にも関連事項の掲載なし

ト音譜表:二点ヘ~二点イ

9

表7

表9

表10

16

Akita University

Akita University

(7)

第39号 2017年

65

4 音階・調性・階名・移動ド唱法(階名唱)

 「音階・階名・調性」に関する説明や演習の初出 を表 9 に,「移動ド唱法(階名唱)」に関する説明・

演習で初出の音を含むものを表10に記した.なお,

「読譜」の内容に絞って教科書を検証した研究が既 にあり,学習上の問題点に関しては既に指摘されて いる(池上2014).しかし,現在においては現行学 習指導要領の途中時点でありながらも教科書発行者 が 3 社から 2 社に減り,その際に教科書内容や構成 が大きく改訂された.筆者はこの改訂後の教科書を 対象としていることに加え,学習内容の配列順序の 違いに注目して以下に考察を進める.

 では先ず,表 9 の「音階・調性・階名」に関して だが,第 1 学年で「ドレミファソラシド」,そして,

第 6 学年で「イ短調の音階・階名」,これだけが両 教科書が同一学年で一致して提示したものであり,

その他は扱う学年が全て異なる.また,特に教科 書Aは教科書Bにはない内容をいくつか提示してい た.「音名」や「ヘ長調の音階・階名」 「ニ短調の音階・

階名」などである.その際,教科書Aでのみ「音名」

が扱われ,それを日本式で記載していることには議 論の余地があろう.日本式表記の調性名とリンクさ せるためとはいえ,音名は日本式以外のものが多用 されており,現に器楽授業ではイタリア式を使用し ているからである.次に,教科書Aでは複数の長 調と短調の学習も扱っているが,これに先立って下 の学年では「長調の音階」,「短調の音階」という概 念を伴って長音階と短音階を扱ったのに対し,教科 書Bではハ長調とイ短調以外は扱わず,ダイレクト に「ハ長調の音階」「イ短調の音階」を記載してい た.他の調性が絡んでくると「長音階・短音階」の

説明だけでは済まなくなることへの配慮かもしれな いが,学習指導要領はハ長調・イ短調以外の他の調 性に対応できる「移動ド唱法」を行うことを指示し ており,その説明が欠落すると相互に理解が深まら ず,説明の割愛以外の何物でもなくなるのである.

 次に表10の「移動ド唱法」についてだが,両教科 書ともハ長調でしか扱っておらず,「音名唱」と同 じなので,実際には全く「移動ド」していない.学 習指導要領が敢えて指示した「移動ド唱法」の意味 するところが形骸化しているようである.また,教 科書Aでは第 1 学年から第3 学年までの各学年で説 明・演習等があるのに対し,教科書Bでは第 3 学年 になるまでそれがなく,さらに,その後は一切扱わ ない.

 以上のように,各教科書では程度の差こそあるも のの,特に「調性」が関わる部分の扱いが避けられ ているように見える.「名人芸」の域にはいない多 数の教師への「配慮」なのかもしれないが,これは そのことによって教科書の採択される確率が増え る,という商業的利益への「配慮」と同義とも捉え 得るものなのである.いずれにせよ取扱い方針や掲 載分量が異なるのは,学習指導要領で「適宜」とい う不徹底な言葉を付けながら「移動ド唱法を用いる こと」と記載していることや,どの学年で教えるの か,指導方法など具体的な記載がなされていないこ とに起因しているように思われる.

表 8 音高表記説明・演習の初出の音の数

表 9 音階・階名・調性の初出の説明・演習

表10 初出の音を含む移動ド唱法の説明・演習

ト音譜表:一点イ

46

ト音譜表:一点イ

39

ト音譜表:二点ハ

48

ト音譜表:一点ロ~二点ハ

23

ト音譜表:一点ロ

58

ト音譜表:二点ニ~二点ホ

51

ト音譜表:二点ニ

ト音譜表:ト

24

ト音譜表:イ,ロ

42

ト音譜表:二点ホ~二点イ

70

ト音譜表とヘ音譜表の対比説明 ト音譜表:ヘ~ロ

ト音譜表:ヘ ヘ音譜表:ハ~一点ホ

ヘ音譜表:ハ~一点ハ

ヘ音譜表:一点ニ

14

ヘ音譜表:ほ~い

24

ヘ音譜表:ろ

32

教科書A 教科書B

「ドレミファソラシド」

 *鍵盤上でドレミを図説

30

「ドレミファソラシド」

 *階段上にドレミを配置した図説

26

調  *用語の表示のみで説明なし

9

○音階  *上記1学年26頁と同様のドレミの   階段を「音階」と図示

70

「長調の音階」 *ハ長調の場合,として説明

9

「短調の音階」 *イ短調の場合,として説明

13

ハ長調の音階・階名・音名 イ短調の音階・階名・音名 ヘ長調の音階・階名・音名 ニ短調の音階・階名・音名

教科書A 教科書B

ハ長調の階名唱:ド~ソ

36

ハ長調の階名唱:ド~ラ

60

ハ長調の階名唱:ミ~ド

31

ハ長調の階名唱:ド~ド

48

ハ長調の階名唱:ド~レ

60 8

*第4学年以降はどちらの教科書も関連事項の掲載なし

15

13

ハ長調の音階・階名・主音

ヘ音譜表:と,い

35

71

イ短調の音階・階名・主音

13

「階名」 *ドレミのことを「階名」と説明  し,ト音譜表上で図説

ハ長調の階名唱:ド~ド

10

*第2学年はどちらの教科書にも関連事項の掲載なし

ト音譜表:二点ヘ~二点イ

9

表9

表10

16

ト音譜表:一点ハ~一点ト

31

ト音譜表:一点ハ~一点ホ

34

*36頁の演習課題と合せて説明 ト音譜表:一点ヘ~一点ト

36

ト音譜表:一点イ

46

ト音譜表:一点イ

39

ト音譜表:二点ハ

48

ト音譜表:一点ロ~二点ハ

23

ト音譜表:一点ロ

58

ト音譜表:二点ニ~二点ホ

51

ト音譜表:二点ニ

ト音譜表:ト

24

ト音譜表:イ,ロ

42

ト音譜表:二点ホ~二点イ

70

ト音譜表とヘ音譜表の対比説明 ト音譜表:ヘ~ロ

ト音譜表:ヘ ヘ音譜表:ハ~一点ホ

ヘ音譜表:ハ~一点ハ

ヘ音譜表:一点ニ

14

ヘ音譜表:ほ~い

24

ヘ音譜表:ろ

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教科書A 教科書B

「ドレミファソラシド」

 *鍵盤上でドレミを図説

30

「ドレミファソラシド」

 *階段上にドレミを配置した図説

26

調  *用語の表示のみで説明なし

9

○音階  *上記1学年26頁と同様のドレミの   階段を「音階」と図示

70

「長調の音階」 *ハ長調の場合,として説明

9

「短調の音階」 *イ短調の場合,として説明

13

ハ長調の音階・階名・音名 イ短調の音階・階名・音名 ヘ長調の音階・階名・音名 ニ短調の音階・階名・音名

教科書A 教科書B

ハ長調の階名唱:ド~ソ

36

ハ長調の階名唱:ド~ラ

60

ハ長調の階名唱:ミ~ド

31

ハ長調の階名唱:ド~ド

48

ハ長調の階名唱:ド~レ

60 8

*第4学年以降はどちらの教科書も関連事項の掲載なし

15

13

ハ長調の音階・階名・主音

ヘ音譜表:と,い

35

71

イ短調の音階・階名・主音

13

「階名」 *ドレミのことを「階名」と説明  し,ト音譜表上で図説

ハ長調の階名唱:ド~ド

10

*第2学年はどちらの教科書にも関連事項の掲載なし

ト音譜表:二点ヘ~二点イ

9

表9

表10

16

(8)

5 和音・和声法に関する内容

 「和音・和声に関する内容」を表11に抽出した.

第 1 学年ではⅤ 7 -Ⅰの音を利用した旋律づくりが 両教科書でほぼ一致して扱われている.しかし,そ の後は教科書Aでは第 4 学年になるまで扱われず,

教科書Bは第 2,第 4 の偶数学年で扱われないなど,

両教科書ともかなり断続的な示し方になっている.

加えて,第 1 学年以降の旋律づくり演習では,Ⅱ-

Ⅴ-Ⅰを利用したものは教科書Aのみ,Ⅳ-Ⅴ-

Ⅵは教科書Bのみで内容が異なる.また,Ⅰ,Ⅳ,

Ⅴ,Ⅴ 7 の和音が第 5 学年ではハ長調,第 6 学年で はイ短調のものが両教科書で提示されているが,教 科書Aは「長調の和音,ハ長調の場合」「短調の和 音,イ短調の場合」という説明が付され,他の調性 にも理解を広げようとの意図が読み取れる.しかし,

教科書Bでは単に「ハ長調の主な和音」「イ短調で よく使われる和音」という説明で,他の調性には意 識がほとんど向けられていないようである.この他,

カデンツの「和声」進行例を楽譜で示しているのは 第 6 学年の教科書Aのみであった.

 さて,調性への理解に関しては教科書Aが比較 的系統だった内容ではあったが,この部分の活用に ついては教師の音楽分野の高い専門性が必要である ように思われる.従って,教科書の違いだけでなく,

例え同じ教科書を使っていても,教師によっては学 習内容,到達内容に大きな差が生じているものと思 われる.教科書Aが教科書Bよりも調性への対応が なされていたとはいえ,それは比較上の問題であり,

どちらの教科書であっても記載内容だけで学習が十 分成り立つような説明量はないように思われる.

 このことは「和音のもつ表情を感じ取る」や「Ⅰ,

Ⅳ,Ⅴ及びⅤ 7 などの和音を中心に指導すること」

という学習指導要領の曖昧な記述がなされているこ とに要因があるかもしれない.『学習指導要領解説』

(文部科学省2008 pp.71-72)によれば,前者は「児 童の音楽的な感覚に訴える」とあり,このこと自体,

何をするのか「曖昧」であることに加え,さらに,

指導方法をいくつか提示してはいるものの,どれも

「~が考えられる」と結ばれており,不徹底な表現 なのである.つまり,学習指導要領本文に対する解 釈と指導方法の全てが各教師に委ねられており,裁 量範囲があまりにも広すぎる状態といえる.これは 教科書発行者の裁量範囲が極めて広い,ということ と同じであるともいえよう.

まとめ

 各教科書の初出事項を比較した結果,分野によっ ては初出事項が「先行提示型」で扱われており,系 統的で段階的な学習内容であるにも関わらず,ある 学年では全く初出事項のない空白期間があるなど,

不自然な形になっている部分があった.また,検証 した全ての分野で多少の差はあるものの,初出の時 期が異なるものが散見された.このことは同一学年 の教科書同士であるにも関わらず,ある教科書では 教え,別の教科書では教えない,という状況が存在 するということなのである.この事象には「共通事 項」など重要な内容も含まれていたが,学習指導要 領が教える内容を 2 学年毎,または,全学年を通し て扱うといった大括りな示し方をしていることが主 要な要因と考えることができる.それでも学習指導 要領の記載内容全てが小学校全期間の中で概ね教え られていれば問題ないのであるが,そうでないこと は冒頭で示した先行研究で確認した通りであり,教 育工学上の問題が生じていることは間違いない.

 ある学習内容に学年単位で時期的ずれがあれば

(多数あったが),教師は意識的・無意識的に関わら ず,その内容を自分の担当学年で確実に教えなけれ ばならないという意識が低下し得る状況が生じるの である.なぜなら,移動ド唱法や和音などは教える 学年が明記されていないからである.つまり,卒業 時において児童が指定された学習内容の理解に至っ ていない場合,誰が責任者なのかを特定できない仕 組みなのである.特に移動ド唱法や和音・和声に関 しては比較的高い専門性が必要であり,多くの教師 にとっては敬遠されがちな内容で,読譜力が育って いないという結果事象はこの点を物語っている.教 師が担当するクラスや学年は年度毎に校長から任命 されるので,最低限,担当学年の学習指導要領で「具

表11 和音・和声に関する初出の説明・演習

―Ⅰ *「せんりつあそび」の音選びの演  習としてのみの提示,和音記号はなし

25 19

三 学 年

Ⅵ―Ⅴ―Ⅵ  *「せんりつ」をつくる音選び  の演習,和音記号はなし

28 四

学 年

Ⅰ―Ⅴ

―Ⅰ―Ⅱ―Ⅴ

―Ⅰ  *「せんりつづ  くり」の音選び演習,和音記号はなし

13

「長調の和音」:Ⅰ,Ⅳ,Ⅴ,Ⅴ

22 「ハ長調の主な和音」:Ⅰ,Ⅳ,Ⅴ,Ⅴ

14

 *ハ長調の例として提示 主音(ハ長調) 15

和声進行:Ⅰ―Ⅳ―Ⅰ―Ⅴ~ *和音記号なし 23 「和声 」 *用語の使用のみ 17

「短調の和音」:Ⅰ,Ⅳ,Ⅴ,Ⅴ

25 主音(イ短調) 13  *イ短調の例として和音の種類を提示

和声進行例:Ⅰ―Ⅳ―Ⅰ

―Ⅴ

―Ⅰ 26 「イ短調でよく使われる和音」:

 Ⅰ,Ⅳ,Ⅴ,Ⅴ

 *例示に基づき旋律をつくる方法を図示,

  和音記号はなし

五 学 年

六 学 年

Ⅰ―Ⅴ

(不完全形)―Ⅰ *「せんりつ」を  つくる音選びの演習,和音記号はなし,左  記と同様の教材とみなせる

教科書A 頁 教科書B 頁

表11

Akita University

Akita University

(9)

第39号 2017年

67

体的」に指示されていることのみ行っていれば問題 が発覚しにくい制度だといえよう.

 次の点として,これも複数分野で確認できたが,

教科書によってその学習段階,時期,内容,分量,

深度等に差があった.特に音高表記の説明や移動ド 唱法,和音・和声法の分野については,両教科書に よって学習到達地点が大きく異なっているように見 受けられた.これらを 6 年間トータルに見れば,学 習深度や量にかなりの差が生じ得ると思われる.加 えて,教師の力量によってもさらに差を広げている であろう.なぜなら,移動ド唱法の場合を例にする が,両教科書ともに説明や演習の分量が十分である とは到底言い難く,教科書教材だけではそう多くを 学べないからである.特に一方の教科書には全学年 通して 1 ページ,そして,1 オクターブ以内の演習 のみしか掲載されていないのである.もしこれで学 習指導要領が示している「相対的な音感を育てる」

ことが十全に出来るのであれば,その教師はかなり の「名人芸」の持ち主と言わざるを得ない.勿論,

そういった教師が中にはいるからこそ,教科書間の 表面的な結果以上に大幅な学習上の差が生じている と考えられるのである.

 昭和22年の音楽科・学習指導要領(試案)の第 1 章「教育の目標」本文には,「教師がまず十分な知 識や技術を持つことが必要で,教師自身が十分努力 をしなければならない」と記されている。これを逆 説的に捉えれば,教員の個人的な努力によって「十 分な知識と技術」が獲得できなければ学習指導要領 は十分機能しない,という制度設計になっていたと いうことでもある.勿論,昭和24年の教育公務員特 例法第21条で「研究と修養」に教員が努めるべきこ とが規定され,今日に至るまで教科内容の研究は必 要である.しかし,教員の能力を過度に期待し,制 度内に織り込むようなことが今日まで内在していた とすれば,それは教育工学上の問題として常に表出 していたはずであり,現にそうだったのである.

 児童の「楽譜を読む力」が10年以上前(調査当時)

に比べて「低下」していると教師が観察していると いう調査・報告がある(杉江2009).授業時数の減 少という問題等もあって一概に要因の特定は出来な いが,時期的に考えるとこれは平成10年の学習指導 要領の改訂の際,教科の目標や内容が 2 学年毎とい う,それまでよりも「曖昧」な学習時期の設定がな されたことの影響とも考えられる.表 3 のように楽

譜関連の事項において,2 学年単位では奇数学年に 初出事項が「先行提示型」で表れており,特に第 2 学年で急減するといった不自然さは本文中で確認し た通りである.このような中,中央教育審議会初等 中等教育分科会教育課程部会(2016)では,「『知 識』に関しては・・・(中略)・・・発達の段階に応じ て整理していくことが必要である」という反省を含 めた経過報告を行っている.吉富他(2010)が読譜 分野については,「少なくとも,この内容・記号は,

この教材(楽曲)で教授・学習する,といった掲載 の方法が必要である」と指摘しているが,本研究の 結果からしても,このことは検証したその他の分野 についても同様のことが言えるのではないかと思わ れる.表し方が非常に難しいことながらも,今後の 学習指導要領においてはより一層の教育工学的な配 慮,つまり,一般的な教師の力量でも本文を理解し て授業が行え,責任の所在も明確となるような, 「具 体的」な学習内容・指導方法・学習時期等の提示の 仕方を検討していくことが望まれる.

 発行者を特定することは適当ではないので,出典 は明記しないが,指摘の資料は発行者のホームペー ジから閲覧して確認したものである。[2017年 1 月

6 日閲覧]

文献表

伊野義博(1994)「音楽科指導計画における系統性 に関する問題」『教育実践研究指導センター研究 紀要』13 新潟大学 pp.33-41.

魚野越山(1947)「学習指導要領と教科書について」

『教育音楽』(10月号)音楽之友社 p.2.

杉江淑子(2009)「子どもや若者の『聴く力』と読 譜の役割」『音楽教育実践ジャーナル』7:1 日 本音楽教育学会 pp.6-15.

田中龍三(2005)「音楽科で育てたい『学力』」『教 科教育論集』4 大阪教育大学教科教育学研究会  pp.7-14.

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会

(2016)「次期学習指導要領等に向けたこれまでの 審議のまとめ(第 2 部)」 (平成28年 8 月26日公表)

文部科学省ホームページ内:

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/

category_list/1218148_1463.html[2016年12月15

参照

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