台湾における燃料税の導入による貨物車
CO2排出削減効果
Impact Analysis of Fuel Tax on Truck CO2 Reduction in Taiwan土木工学専攻
27号 施毓珉
YuminShih1.はじめに
台湾行政院(日本の内閣)は
CO2削減に関する政策目 標として「2016~2020 年の間で
2008年の排出量,
2025年は
2000年の排出量まで削減する」を掲げている
1). 台湾における
CO2排出量のうち運輸部門(国際航空を含 め)が占める割合は
2008年において約
15%であるが,排出
CO2排出量は
1990年から
2008年まで約
2.5倍に 増加しており, 今後も増加が見込まれている. そのうち,
道路自動車は約
9割を占め,乗用車は約
5割,貨物車は 約
3割,バイクは約
1割となっているが,特に乗用車お よび貨物車の増加が大きく, その削減が求められている.
本研究ではその削減対策として,自動車関連税に注目 する.現在の台湾の自動車関連税制は,表-1 のようにな っている. 「燃料税」はなく,ガソリンや軽油の燃料価格 は他のアジア諸国と比較すると安い.代わりに,車種・
排出量別に年間燃料消費量に基づく「燃料使用料」が保 有税として導入されている.しかし,これは実際の使用 距離や燃料消費量とは関係ない一律の税額であり,かつ 営業用車の走行量が実際よりも小さく設定されている.
燃料使用料を廃止し,燃料税に置き換えることで,より 効果的に
CO2排出量を削減できると考える.
自動車関連税が乗用車の保有や使用に及ぼす影響の分 析は台湾でも尐なからず行われている.例えば,燃料価
格が
150%になると,乗用車の走行量が約10%削減されるなどの研究成果
2)が得られている.しかしながら,乗 用車に次いで
CO2を排出している貨物車についてはほ とんど研究されていない.
そこで本研究は貨物車の保有・走行を明示して税制の 影響を分析するモデルを構築することを目的とする. 「取 得税」 , 「保有税」 , 「燃料税」の税率,また「燃料使用料」
を「燃料税」に変更することによる燃料消費量の削減効 果を評価する.
表-1 台湾の自動車関連税制
図1:モデルの全体構造 2.モデル
図
1に示すように,GDP と税などから決まるトンキ ロ当たりの費用から貨物車の保有・使用が決まるという 構造となっており,以下の3つのサブモデルから構成さ れる.
①輸送トン・キロ:毎年の
GDPと各車種のトン・キロ 当たり費用から全体の輸送トン・キロが決まる.
②自営および車種選択:全体輸送トン・キロからまず自 家用車・営業用車に分配し,次は大型車と小型車に選択 する.
③保有台数・走行台キロ:各車種の輸送トン・キロから 各車種の台数・走行台キロを推定する.
走行台キロに燃料消費率を乗じて燃料消費量を得る.
以下これらのサブモデルについて述べる.
段階 税目 税率
営業税(消費税相当) 5%
貨物税(物品税相当) 15%
牌照稅(自動車税相当) 1080-16200(NT/year)
自家用2880-54000(NT/year)
営業用1050-18900(NT/quarter)
自家用1728-32400(NT/year)
営業用630-11340(NT/quarter)
貨物税(物品税) G:6.83 D:3.99(NT/L)
土壌と地下水汚染の改善費 22(NT/T)
石油基金 G:216 D:184(NT/KL)
空気汚染防止費 0.2(NT/L)
燃料使用料(ディーゼル)
取得
保有
使用
燃料使用料(ガソリン)
GDP
走行 台キロ 輸送
トンキロ トン・キロ当
たり費用
全体 各車種
保有 台数 保有
牌照税
燃費消費率
燃料 消費量 保有
燃料 使用料
使用 燃料 関係税
車両 価額 燃料 価額(税
抜き)
図2:自営・車種選択構造図 2.1 輸送トン・キロモデル
貨物車の輸送トン・キロは国の
GDPと輸送費用から 決まると仮定する.台湾の場合は内航海運と鉄道の輸送 量は全体の
3~4%しか占めないので,内航海運と鉄道は代替効果の影響が小さく,鉄道・海運の輸送は本研究で 無視する.はトンキロ当たりは,以下の選択,走行台キ ロモデルから計算される.
c t h
t h t
t Y
aGDP C
Y b( )
,
,
・・・(1)
Yt:全体の輸送トン・キロ
GDPt
:台湾の GDP(NT)
t t
Y
C
:トンキロ当たり費用(NT/台 km)
c b
a, ,
:パラメータ
2.2 自営および車種選択モデル
車種別のトン・キロ当たり費用差およびトレンド
(year)により車種が選択されると仮定する.図2に示 すように,まずは自家用車と営業車を選択し,次に小型 車と大型車に選択する構造を仮定した.ロジットモデル を用いてパラメータを推定する.
) exp (
1
1 exp
exp Pr exp
, 1 , 2 ,
2 ,
1 , 1 ,
1
t t t
t t
t V V V V
V
・・・ (2)
t t
t t t t
t c year
Y C Y b C a V
V ( )
, 1
, 1 , 2
, 2 ,
1 ,
2
・・・ (3)
t ,
Pr1
:自家用および小型車選択確率
t
t V
V1,, 2,
:自営別あるいは車種別の効用
t t t t
Y C Y C
, 2
, 2 , 1 ,
1 ,
:自営別あるいは車種別の輸送トンキロあたり の費用(NT/台キロ)
yeart
:西暦 t 年
c b
a, ,
:パラメータ
2.3 保有台数・走行台キロモデル
車種別業態別に費用最小化行動をとっていると仮定し,
決定した輸送トン・キロに最適な保有台数と走行台・キ ロを決定する問題として定式化を行う.技術制約として コブダグラス型の生産関数(ここでは輸送トンキロ)を 仮定している.
t j i t j i t j i t j i t j
i D N B K
C, , , , , , , , , ,
min
・・・ (4)
. . t
s
Yi,j,t i,j,tNi,j,ti,j,tKi,j,t1i,j,t・・・ (5)
t j
Ci,,
:総コスト(NT)
t j
Di,,
:保有一般化費用(NT/台)
t j
Ni,,
:保有台数(台)
t j
Bi,,
:走行一般化費用(NT/台 km)
t j
Ki,,
:走行台キロ(台 km)
t j
Yi,,
:輸送トンキロ(t-km)
t j i,,
:技術水準パラメータ
t j i,,
:分配パラメータ
i:車種
j
:業態
これを解いて,以下の関係をえる.非線形最小二乗問題 として定式化し,Excel のソルバーを用いて車種別にパ ラメータを推定する.
t j i t j i t j i
t j i t j i t j i t j
i Y
D N B
t j i
, , ) 1 (
, , , ,
, , , , 1 , , , ,
, ,
) 1 (
・・・ (6)
t j i t j i t j i
t j i t j i t j i t j
i Y
B K D
t j i
, , , , , ,
, , , , 1 , , , ,
,
) ,
1
(
・・・ (7)
t t j i
t j i t
j i
t j i t j i t j i
t j
i D ijt B ij
Y
C 1 ,
, , , , ,
, , , , , , ,
,
, ,, ,
1 ) ( ) 1 )(
(
・・・ (8)
ここから決まる車種別トンキロ当たり費用および選 択確率から式(1)のトンキロ当たり費用が決まる.
2.4 燃費消費率,油種,車齢に関する仮定
燃費消費率は先行研究
6)から車種別の燃費を参考し,
油種は一般用のガソリン(95 無鉛汽油 )と軽油(高級柴
自家用 営業用
大型車 小型車 大型車 小型車
全体の輸送 トン・キロ
油)の
2種類にする.環境署の戦略報告
7)で燃料消費量 を参考し,小型自家用車と営業車が消費された軽油の消 費量はガソリンの約
2割と設定した.大型車はすべて軽 油車と設定した.
3.データ
本研究で使われる車両の保有台数と走行台・キロは 「交 通統計」
8)2004年~2009 年である.
貨物車の輸送トンと輸送トン・キロは「汽車貨運調查 結果摘要分析」
3)2000年~2009 年を用いた.
燃料価格については「能源統計手冊」
9)から
1990年~
2009
年のデータを使い,車両の保有税・使用税は「財政 部稅務入口網」をもとに設定した.
ガソリンおよび軽油を燃焼したときの
CO2排出原単 位としては,それぞれ
2.38,2.65(kg-CO2/L)を用いた.4.結果
4.1 モデルのパラメータ推定
2
章のモデルの
2.1輸送トンキロモデルの推定結果を 表2,
2.2自営車選択モデルの推定結果を表3の左半分,
自家用車の小型車選択モデルを表3の真中,営業用車の 小型車選択モデルを表3の右半分に示す.2.3 の保有台 数走行台キロの推定結果を表4に示す.
表2:輸送トン・キロモデルの推定結果
表3:自営および車種選択モデルの推定結果
表4:保有台数・走行台キロモデルの推定結果
4.2 再現性
すべてのモデルを組み合わせた全体の輸送トン・キロ の再現性は図3のようになっている.全体燃料消費量は 誤差が
10%以内である(図4).CO
2排出量は最初の
3年間のずれが大きいが,そのあとの誤差は
1-10%の間に収まっている.
図3:全体輸送トン・キロ
図4:全体燃料消費量
図5:全体
CO2排出量
係数 t値
ln(a) 4.94 2.00
b 0.68 4.33
c -0.42 -3.66
係数 t値 係数 t値 係数 t値
ln(a) 1.62 4.02 -126.50 -5.98 50.88 1.07 b -0.01 -0.55 -0.03 -2.45 -0.99 -3.10
c 0.06 5.90 -0.02 -1.01
自営選択モデル 自家用車小型車選択モデル 営業用車小型車選択モデル
小型自家用 小型営業用 大型自家用 大型営業用
α 0.63 0.57 0.47 0.33
γ (平均値) 231.23 3629.75 62.04 352.80
0 1000000 2000000 3000000 4000000 5000000 6000000 7000000 8000000
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
一万トン・キロ
輸送トン・キロ
Yt 実測値 Yt 推定値
0 500000 1000000 1500000 2000000 2500000 3000000 3500000 4000000 4500000 5000000
KL
燃料消費量
KL 実測値 KL 推定値
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000 20000
千トン
CO2 排出量
実測値 推定値
4.3 感度分析
取得価額,保有価額,燃料価額を
10%増加すると,短期的に,どれだけ車種別の
CO2排出量および輸送トン キロ当たり費用がどの程度変化するかを示したのが表5 である.これより,燃料価額の増加により
CO2削減の 効果が一番よいということがわかる.
表5
CO2の変化率
4.4 シミュレーション
2008
年に税制変更が行われるものとし,2016 年の将 来予測を行った.外生変数については以下の仮定を行っ た.将来の燃費燃料消費率は緩やかかつ微小な成長する と仮定する.GDP はアメリカの
IFM予測を参考した.
燃料価格は,アメリカ
EIAと「台灣中油股份有限公司」
の価格をもとに,設定した.
まず現行の税制を変更しない
BAU(Business As Usual)を求めた.2008年と比較して,2016 年は
30%増加すると推定された.
次に,政府が掲げる
CO2削減目標に対応し,貨物車は
2016年の燃料消費量を
27%削減する施策について検討した.まず保有税である「燃料使用料」を廃止し,燃料 税を導入し,ガソリン税額を燃料使用料が設計された
2.5NT/L,軽油税額を1.5NT/Lに燃料価額に加えた.そ れでは目標を達成することができず,かつ税収が減尐す ると予測された.そして燃料税額をこの
6倍(ガソリン:
15NT/L,軽油:9NT/L)にすることで目標が達成可能
であるとわかった(図6) .
表6 2016年シミュレーション結果
図6
2016年
CO2排出量と税収の変化 5.おわりに
以上本研究では,台湾の貨物車を対象に燃料税の導入 による
CO2排出量の削減効果を検証した.燃費改善がな されず, また税制変更がなされなければ,
BAUでは
2016年に
2008年の約
1.3倍になること,そして保有税であ る燃料使用料を廃止し,燃料税をガソリン
15NT/L,軽油
9NT/Lにすることで,政府の目標が達成可能である
ことを示した.
しかしながら,本研究では燃費の良い新車の普及や積 載効率の改善による燃料消費率の変化を考慮していない.
また貨物車がもたらす課題には
NOxや
PM排出による 大気汚染や騒音などもある.これらについても分析を行 う必要がある.
参考文献
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年
5月能源減碳政策與作法
2)
運輸技化季刊:汽機車能源消耗與污染排放管理策略之 決策支援系統,2009 年
3)汽車貨運調查結果摘要分析と國內水上及航空貨運部分
(2000 年~2010 年)交通部
4)鹿島茂,谷下雅義ほか:地球環境世紀の自動車税制,
勁草出版,2003 年
5)小川貴浩:貨物車のCO2
排出量削減対策の評価,中央
大学修士論文 2008 年
6)李秀璇:台灣地區歷年車輛燃油效率推估量彙整,台湾
成功大学修理論文
2007年
7)台灣地區移動汙染源CO2排放量清查暨講量策略評析,
2007
年
8)
交通統計要覽(2004 年~2009 年)交通部
9)能源統計手冊(2000 年~2009 年)經濟部能源局 自家用 営業 自家用 営業
取得価額10%アップ 0.15% 0.36% -0.12% -0.08% 0.05%
保有価額10%アップ 0.12% 1.04% -0.21% 0.14% 0.12%
燃料価額10%アップ -9.10% -2.45% -10.44% -7.26% -8.46%
CO2排出量(千トン)
小型 大型 合計
燃料税 2.5,1.5 -9.5E+09 2556
燃料税二倍 5,3 -3.6E+09 1949
燃料税四倍 10,6 7.1E+09 913
燃料税五倍 12.5,7.5 1.2E+10 461
燃料税六倍 15,9 1.6E+10 45
燃料税八倍 20,12 2.4E+10 -698
税収の差
(NT,2016BAU)
CO2の差 (KT,2008) 税額(NT/L
ガソリン、軽油)
燃料税二倍 燃料税 燃料税四倍 燃料税五倍 燃料税六倍 燃料税八倍
-1.50E+10 -1.00E+10 -5.00E+09 0.00E+00 5.00E+09 1.00E+10 1.50E+10 2.00E+10 2.50E+10 3.00E+10
-1,000 0 1,000 2,000 3,000
政策後の税収額と2016BAUの差(NT)
CO2(2008年の差)千トン
CO2変化量と税収の相関
CO2変 化量と税 収額の相 関