セラチアのコロニー形態形成
Colony Formation of Serratia marcescens
物理学専攻 田坂 翔
研究目的
先行研究としておこなわれているS.marcescensのバクテリアコロニーについての研究を行った。S.marcescens
のmorphology diagram(図1)はすでにわかっており、これは縦軸に培地の栄養濃度(Cn)、横軸に培地の寒
天濃度(Ca)の逆数をとっている。このダイアグラムによるとバクテリアコロニーは5つのパターンを形成する ことがすでに知られている。そのひとつに、同心円リング状のパターン(写真1)を形成する。この同心円リン グの形成過程について詳しく観察する。
図1 Serratia marcescensのmorphology diagram
写真1 Serratia marcescenの同心円リングパターン
一般に生物系におけるパターン形成は無機系におけるパターン形成と比較して複雑である。しかし、これから 扱うバクテリアコロニーのような、集団としての生物を扱う場合、「増殖と運動」と考えることにする。そして増 殖と運動を制御するパラメータとして、それぞれ栄養濃度、寒天濃度を選ぶことにする。
バクテリアはパターンの構成要素として次のような利点を備えている。
・ 分裂、繁殖を繰り返す比較的単純な単細胞生物である
・ μmオーダーなので顕微鏡を用いたミクロ観察ができ、もちろんマクロな観点からの観察ができる。したが ってさまざまなスケールでの観察が容易である。
先行研究で同心円リング形成についてわかっていることは以下のようである。
・ コロニーが成長したあとに、色素が浮かび上がるようにしてリングが形成される
・ 成長界面には白く濃くみえる帯がある
この2点について、さらに詳しい観察と考察を加えることが本研究での目的である。
内容
この実験ではS. marcescens(NS38株)を用いる。S.marcescensは直径約1.5μm、太さ約0.5μmの短桿菌 であり、比較的どこにでも存在し、人体にも存在する腸内常在菌の一種であるするバクテリアである(写真2)。 鞭毛を持ち自走する。バクテリアには自分に好ましくない環境下や飢餓状態になると形態を変え「芽胞」という ものになる種があるが、このセラチアという種は芽胞をつくらない。加えて、セラチアの特長ともいえるのが、
赤い色素(プロジギオシン)を産出しているということ、界面活性物質(サーファクタント)(serrawettin)も 自ら産出しているということが挙げられる。
写真2 Serratia marcescens(NS38株)
実験寒天培地上にてバクテリアコロニーを培養する。
試料を以下の割合で水に溶かす。
NaCl ・・・・・・・・・・・・ 5g/ℓ K2HPO4 ・・・・・・・・・・・・ 5g/ℓ BACTO-Peptone ・・・・・・・・ パラメータ
BACTO-Agar ・・・・・・・・・ パラメータ
分量はいずれも水1ℓに対する量である。BACTO-Peptone とはバクテリアに与える栄養であり、この濃度が Cnとなる。その後、6Nの塩酸を用いてpH = 7.1に調整する。この混合物にBACTO-Agar(寒天)を加える。
この濃度がCaとなる。この培地に菌液(OD = 0.5)を3μℓ接種し、恒温恒湿器(室温27℃、湿度90%)内 で培養する。
成果、結論
3D共焦点顕微鏡により高さ方向の測定を行ったところ、界面の先端には菌密度の高い集団があることが確認 された。(図2、写真3)
図2 界面付近の高さプロファイル
界面が成長していく過程で、成長界面が後方へ菌集団を落としていくようにみえる箇所があることがわかった
(写真3)。これはおそらく菌密度の高い集団が成長界面においていかれるのではないかと考える。この取り残さ れた菌集団に、後方からくる菌の供給がぶつかるところでリングが形成されているのではないかと予想される。
写真3 成長界面から取り残される菌集団