考察 救急医療における薬剤師の診療支援は、疾患の面でも薬剤の面でも、またそのアプロ ーチの手法も多岐にわたる。その理由として、通常であればそれぞれの専門科が診療を 行うはずの、あらゆる疾患の患者が集まる部門であること、緊急度・重症度 が高いため に対応の早さが求められること、急性中毒や災害医療といった救急独自の特殊性がある こと、などの要因が挙げられる。1-2 や 1-3 で具体例を述べた通り、救急医療における 薬剤師は、状況に応じて臨機応変に対応しなければならない。そのためには他職種との 連携が重要であり、その中で薬剤師としての強みや特色を発揮していく必要がある。 1-2、1-3 では、従来行われてきた薬物治療について、改めて研究的側面から検証する ことの意義が示された。特に前々項では、全身及び局所の炎症制御に関して病態を含め た更なる検討を行う必要性と、更にそのために、Candida属が示す免疫応答や炎症惹起 に関する検証が必要と考えられた。今後の臨床薬剤師には、臨床の問題点と基礎的検討 をスムーズに連携させ、有効な診療支援、ひいては薬物治療の質の向上による治療成績 や生命予後の改善に貢献できる能力が必要である。 第 2 章 真菌症の感染制御に関わる菌種間の特徴に関する検討 2-1 臨床分離 Candida属真菌からの PAMPs の調製と性状 重篤で致死的な感染症の代表例である敗血症は、 起炎微生物に対する防御反応に起因 した強烈な免疫応答によって全身性炎症が 惹起され、「重篤な臓器障害が引き起こされた 状態」、と定義される。病原体は様々な毒素を産生するが、今世紀になり自然免疫活性化 物質 PAMPs (Pathogen-associated molecular patterns) の関与が注目を集めている。 全身性炎症は感染症のみならず 侵襲的な疾患や医学的行為によっても生じうる ため、免 疫学的な機序も含めた病態解析や、自己免疫系に対する影響を検討することが、急性期 疾患の治療の質 の向上のために必要である。 救急医療における真菌感染症はそのほぼ全例が Candida起因である。そこで、Candida 属の臨床分離株が示す免疫応答や炎症惹起に関する検証のために、臨床分離株 52 株を 天然培地(YPD)ならびに合成培地(C-limit)を用いて培養し、菌体成分の熱水抽出物 (Hot Water Extract; HWE) を作成し、その性状を比較するとともに、マウスを用いて急性の 致死活性と緩徐に進行する病態である血管炎について検討した。
血管炎・心肥大については、心筋の肥厚による明確な心肥大が観察された。また、最 終 観 察日 にお い て、 死亡 した 個体 は Candida krusei 100%、 C. albicans 84%、 C. dubliniensis 47%、 Candida parapsilosis 42%、 Candida glabrata 33%、 C. tropicalis
19%、 C. guilliermondii 20%、 となり、菌種間で血管炎の強度または感受性に著しい 差を認めた。
これらの結果から、Candida 属真菌は宿主に対して炎症応答を惹起するが、菌種によ って強度が異なることが明らかとなった。Non-albicans Candidaは抗真菌薬に対する感 受性が異なることから、ガイドライン上菌種同 定が重要であるとされている。本研究に おいても、non-albicans Candida間でも著しい炎症応答の差が認められたことから、速 やかな菌種同定が必要であることがさらに強く示唆された。 結語 救 急 医 療 にお け る 薬剤 師 の 職能 の発 揮と診療支援の質の向上のためには、 臨床と基礎を綿密に繋ぎ合わせた臨床 研究の推進が必要である。 敗 血 症 に 代表 さ れ る重 篤 な 感染 症で は、感染及び炎症の制御ができれば治 癒へとつながり、できなければ収拾困 難 な 全 身 性 の 炎 症 状 態 と な り う る 。 Candidaの菌体成分はそのプロセスに 関与している可能性がある。 【研究結果の掲載誌】 1) Jpn J Burn Inj. 44 (2) 71-79, 2018 2) 日臨救医会誌 22 (4) 559-566, 2019 3) Int J Med Mushrooms. 21 (5) 413-428, 2019
Fig. 2 マ ウ ス 生 存 曲 線 (C. albicans、 200 日 経 過 後 )
Fig. 4 大 動脈 起 始 部 切 片 写 真 ; 上 が 病 変 (+)、 下 が 病 変 (-) CAWS (左 上 )、 C. albicans (No. 3) (右 上 )、
C. albicans (No. 21) (左下 )、 C. albicans (No. 34) (右 下 ) Fig. 3 マ ウス 生 存 ス コ ア (200 日 経 過 後 ) 生存日数 50日未満 100日未満 150日未満 200日未満 200日生存 0 20 40 60 80 100 0 50 100 150 200 250 生存率 (%) day Candida albicans 13Y Candida albicans 14Y Candida albicans 21Y Candida albicans 34Y Candida albicans 37Y CAWS 菌 種 C. k rus ei (1) c ont rol CA W S non-albicans al b i c ans 生 存 ス コア C. al b i c ans (5) C. dub l i ni ens i s (3) C. gl ab rat a (5)
C. gui l l i erm ondi i (2)
C. paraps i l os i s (5)
救急医療における診療支援の充実に向けた基礎と臨床の連携
略語
%TBSA: Total Body Surface Area AED: Anti-Epileptic Drug
AMPHB: Amphotericin B AUC: Area Under the Curve
CAWS: Candida albicans Water Soluble Fraction
ConA: Concanavalin A CPFX: Ciprofloxacin
CRBSI: Catheter Related Blood Stream Infection
DB: Deep Burn
DDB: Deep Dermal Burn FLCZ: Fluconazole
ELISA: Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay
F-FLCZ: Fosfluconazole
FGF: Fibroblast Growth Factors HE: Hematoxylin and Eosin HWE: Hot Water Extract ICU: Intensive Care Unit IPM: Imipenem
KCZ: Ketoconazole
L-AMB: Liposomal Amphotericin B LEV: Levetiracetam
MCFG: Micafungin
MDRP: Multi Drug Resistant Psedomonas
aeruginosa
MEPM: Meropenem
MIC: Minimum Inhibitory Concentration MRSA: Methicillin‐ Resistant
Staphylococcus aureus
PAF: Platelet-Activating Factor
PAMPs: Pathogen-Associated Molecular Patterns PD: Pharmacodynamics PHT: Phenytoin PK: Pharmacokinetics PPHT: Fosphenytoin PPK: Population Pharmacokinetics PRR: Pathogen Recognition Receptor SIRS: Systemic Inflammatory Response
Syndrome
TCC: Trauma and Critical care Center TDM: Therapeutic Drug Monitoring TLRs: Toll-like receptors
VCM: Vancomycin
9 第 2 節 重度熱傷患者の感染症 緒言 熱傷は、外部からの熱・放射線・化学 物質等により皮膚の細胞が変性・壊死し、皮 膚 の 機能 障 害を きた す疾 患 であ る。ヒ ト の皮 膚 は表 皮、 真皮 、 皮下 組織か ら 構成 さ れ る が、 熱 傷患 者で はそ れ らの 細胞が 傷 害・ 欠 損を 受け るこ と によ り体表 面 のバ リ ア 機 能に 破 綻を 生じ る。 そ の結 果、体 液 の漏 出 によ る循 環血 液 量減 尐性シ ョ ック や 低体温等が生じるため、生命維持に支障をきたす。 また同時に、バリア機能の破綻は病原微生物の侵入門戸が常時開かれていることと 同 義 であ る こと から 、受 傷 直後 の不安 定 な全 身 状態 を持 ちこ た えさ せた後 も 、皮 膚 再生完了(上皮化)までの間は常に感染 のリスクにさらされており、もし感染が成立し た 場 合は し ばし ば致 死的 と なる 。実際 に 、重 症 熱傷 患者 では 循 環血 液量減 尐 性シ ョ ックや脱水よりも感染による死亡者が多いことが知られている 12) 。 そこで、重症熱傷患者における感染症に対して、薬学的な専門性の一つである薬物 動 態 的な 観 点か ら感 染及 び 炎症 をコン ト ロー ル すべ く、 新た な ア プ ローチ を 提案 し 試行した。またその支援例を基に、感染症と炎症に関して考察する。 1-2-1 症例と結果 85 歳男性。自宅コンロからの引火により受 傷した。 既往 や薬剤 の投与 歴は特 に ない。熱 傷 の 状 態 は 、 %TBSA: 58.0%、 DB: 38.5%、 DDB:19.5%、Burn Index(BI):48、Prognostic Burn Index(PBI):133、気 道 熱 傷 あ り 。熱 傷 部 位は DB :左上腕、左側胸部~背部、臀部、 両側大腻、両側下 腻、DDB :頭部、 右上腕、 左上腕、左手、胸腹部、陰部であった (Fig.1-2-1)。 本症例の治療経過を Fig.1-2-2 に、手 術の詳 細を Table 1-2-1 に示した。Day1・2・5 にデブ リードマ ンを 実施し 、人工 真皮を 留 置。この 3 回の 手 術 で 、 必 要 な 部 位 の デ ブ リ ー ド マ ン と人工真皮の留置は完了していた。
Day6 の夜から 40℃ の発熱があり、 Day8 の血液培養 3/4 本から C. tropicalis が検出 された。Day10 には右膝関節切離術を 施行。Day16 には分層植皮術 (%TBSA:約 7%) を 施 行し た が、 生着 は不 良 であ った。 ま た、 一 度被 覆し た部 位 の再 デブリ も 行わ れ ていた。抗真菌薬は Micafungin (MCFG) 300mg/day (Day8-17)、Fosfluconazole (F-FLCZ) 400mg/day (Day17-20)を使用し たが、 状態の改善が見 られず、発 熱は悪化し た (Table 1-2-2)。 Catheter related blood stream infection (CRBSI)を考慮し、 Day6・ 12・ 17・ 18・
Fig. 1-2-1: Burn area
DB (black): left upper arm, left side chest to back, buttocks, both side of the thigh and lower leg
10
20・ 21 と中心静脈カテーテルの亣換も行っていたが、その間、血液および表皮から
C. tropicalis の 検 出 は 続 い て い た 。 創 部 の 洗 浄 ・ 包 亣 も 毎 日 実 施 し て い た が 、 C. tropicalis は消失しなかった。
Day21 に抗真菌薬を Liposomal Amphotericin B (L-AMB) 2.5mg/kg へ 変 更 。主 治医 と 相談し、同日より、ケトコナゾールローション(KCZ lotion)を包亣時のボデ ィソープ に 添 加 し て 使 用 開 始 し た (レ シ ピ : KCZ lotion 10mL+ボ デ ィ ソ ー プ 10mL+水 道 水 20mL) 。 L-AMB、 KCZ lotion の 使 用 開 始 後 、 発 熱 に は 改 善 が 見 ら れ た 。 L-AMB は 18 日間 (Day21-38) 投与 、 また KCZ lotion は 25 日間 (Day21-45)使用した。Day17 以 降 、 いず れ の検 体か らも 真 菌の 検出は 認 めな か った 。真 菌性 眼 内炎 は、治 療 開始 か ら一貫して認めなかった。
Day17 の血液培養 4/4 本から Klebsiella oxytoca、Day33 には皮膚から 2 剤 (IPM/CPFX) 耐性緑膿菌、Day38 に皮膚から多剤耐性緑膿菌(MDRP) が検出された。MDRP の検 出 後 は 全 身 状 態 の コ ン ト ロ ー ル が 非 常 に 困 難 と な り 、 Day45 を も っ て 治 療 撤 退 、 Day48 に敗血性ショックのため永眠された。 Day 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30 33 36 39 42 45 48 WBC (/μL) CRP (mg/dL) BT (℃) SCr (mg/dL) P/F ratio (mmHg) In/out (mL) Medicines Anti-fungi Medicines Anti-microbial Operation Culture 1.8 1.4 1.0 0.6 500 400 300 200 4000 2000 0 -2000 15000 10000 5000 0 22.5 15.0 7.5 0 40.5 38.0 35.5 33.0 A B C D E F G ①② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ MCFG MEPM L-AMB LVFX VCM CEZ VCM ABPC/SBT VCM F-FLCZ MEPM AZT TOB CAZ I MCFG H KCZ lotion
Fig. 1-2-2: Summary of test results, drugs used and treatments
11
Table 1-2-1: Details of surgery < (*) means reoperation. >
Day Debridement and/or
artificial dermis grafting %TBSA auto skin grafting %TBSA
① 1 right side of thigh,
both side of lower leg 25 ② 2 left side back, right side of thigh 7
③ 5
left side of chest, left upper arm, abdomen, right side of toe, groin, right side of thigh, and lower leg (anterior) (*)
10
④ 10 (amputation at the right knee joint)
both side of thigh (*), abdomen (*) 16
⑤ 16
both side of thigh (dorsal) (*), left side of lower leg (dorsal) (*), both side of hand
left side back 2
⑥ 18 left hand, right side of thigh (*) 10
⑦ 23 abdomen, groin 7
⑧ 28 right side of buttocks 3
⑨ 36
left side of chest to upper arm,
abdomen (*)
12
Table 1-2-2: Dose of anti-fungi and anti-microbial agents
Agent Dose Administration Concentration
MCFG 300mg q24h Day 8-17 Day 42-45 F-FLCZ 800mg q24h Day 17-18 400mg q24h Day 19-20 L-AMB 2.5mg/kg/day (100mg q24h) Day 21-38 KCZ lotion (Washing) 5mg/mL (0.5%)
Once daily Day 21-45
13 1-2-2 考察 ・ 熱傷の病態と治療 熱傷の治療のゴールの一つは上皮化の完了である。通常、皮膚のターンオーバーは 真 皮 内に 存 在す る線 維芽 細 胞が 新たな 皮 膚を 造 るこ とか ら始 ま り、 これが 徐 々に 表 皮 の 古い 皮 膚と 置き 換わ る こと により 、 新し い 皮膚 へと 変化 し てい く。し か しな が ら 、 線維 芽 細胞 が死 滅す る ほど の深い ダ メー ジ を受 けた 場合 、 その 部分の 皮 膚を 患 者 自 身の 治 癒力 で再 生さ せ るこ とは困 難 であ る 。も しダ メー ジ を受 けた 部 分 の面 積 が 狭 けれ ば 、そ の周 囲の 細 胞が 増殖す る こと に よっ て患 者自 身 での 上皮化 も 可能 で はあるが、4 週間以上の期間が必要となる。それゆえ、熱傷の重症度は熱傷創の面積 と深度で表現される。 熱傷の面積は全体表面積に対するパーセンテージで表す。熱傷面積の算出には、「 9
の法則」「5 の法則」「Lund & Browder の法則」「手掌法」がある。
15 ・ 薬力学的見地から 本症例では、C. tropicalis によると思 われる感染が遷延し、根治療法である植皮に も影響を及ぼしていた。C. tropicalis は血液と創部から検出されており、中心静脈カ テ ー テル 及 び受 傷部 から の 感染 が疑わ れ た。 中 心静 脈カ テー テ ルは 熱傷の 影 響の な い 内 頸静 脈 ある いは 鎖骨 下 静脈 に刺入 さ れた 。 カテ ーテ ルは 定 期的 に亣換 が 行わ れ て い たほ か 、感 染が 疑わ れ た場 合には 随 時刺 入 部が 変更 され て いた 。注射 薬 が多 剤 使 用 され て いる ため 、投 与 経路 を中心 静 脈か ら 末梢 に切 り替 え るこ とは困 難 であ っ た。 本症例で血液およびカテーテルから検出された C. tropicalis の感受性は良好 であり、 使用された注射用抗真菌薬は全て Susceptible であった (Table 1-2-3) 。創部 から検出 された C. tropicalis は感受性試験を実 施していないが、杏林大で 2012 年 1 月1日か ら 2015 年 7 月 31 日までに検出された C. tropicalis の感受性データでは、 MCFG に 90% 、F-FLCZ に 100%の 感 受 性 を 維 持 し て い た 。そ の ため、Pharmacodynamics (PD) の指標である MIC の上では、注射用 抗真菌薬の選択は問題なかったと考えられる。 ・ 薬物動態学的見地から 重症熱傷という特殊病態にお いては、 Pharmacokinetics (PK)に変動が生じ る ことが 知 ら れて い る。 熱傷 患者 で は血 管透過 性 の亢 進 によ る体 液バ ラ ンス の変化 、 欠損 皮 膚 か らの 体 液の 漏出 、血 管 内ボ リュー ム の低 下 や横 紋筋 融解 に よる ミオグ ロ ビン 血 症、溶血によるヘモグロビン血症を起因とする Acute Kidney Injury (AKI)、 侵襲に伴 って放出さ れた炎 症性サイ トカイ ン が全身性に 急性炎 症反応を 生じさ せ る Systemic Inflammatory Response Syndrome (SIRS) 20)、SIRS や血管作動薬、輸液の投与 により腎 機能が通常よりも亢進する Augmented Renal Clearance (ARC) 21)、などとい った要因
16
分 な 血中 濃 度が 保た れて い たか どうか は 不明 で あり 、抗 真菌 薬 につ いても 同 様の 事 が言える。そこで、他の研究の結果を参考に更なる考察を行う。
Day Microbe Sample Susceptabillity
A 6 C. tropicalis catheter [AMPHB: 1, FLCZ: 2, ITCZ: 0.5, VRCZ: 0.13, MCFG: 0.06]
B 8 C. tropicalis blood, wound
K. oxytoca suction sputum
[CEZ: =>16(R), ABPC/SBT: =16(I), MEPM: <=1(S), CPFX: <=0.5(S), LVFX: <=1(S)] P. aeruginosa wound [PIPC: <=4(S), CAZ: <=4(S), IPM: =8(R), MEPM: <=1(S), AMK: 8(S), TOB: <=2(S), CPFX: 0.5(S), LVFX: 1(S)]
C 12 C. tropicalis blood, catheter [AMPHB: 1, FLCZ: 2, ITCZ: 0.25, VRCZ: 0.13, MCFG: 0.13]
D 17 C. tropicalis blood, wound
K. oxytoca blood P. aeruginosa wound [PIPC: <=4(S), CAZ: <=4(S), IPM: =8(R), MEPM: <=1(S), AMK: <=8(S), TOB: <=2(S), CPFX: <=0.5(S), LVFX: <=1(S)] E 20 K. oxytoca blood, catheter
F 24 K. oxytoca blood F 27 K. oxytoca blood G 33 P. aeruginosa (IPM/CPFX R) wound [PIPC: =16(S), CAZ: <=4(S), IPM: =8(R), MEPM: =8(R), AMK: <=8(S), TOB: <=2(S), CPFX: >=4(R), LVFX: >=8(R)] H 38 P. aeruginosa (MDRP) wound [PIPC: >=128(R), CAZ: >=64(R), IPM: >=32(R), MEPM: >=32(R), AMK: >=64(R), TOB: >=64(R), CPFX: =16(R), LVFX: =32(R)] I 39 P. aeruginosa (MDRP) blood
17
本患者が最初に使用した抗真菌薬である MCFG は、効果に相関する PK/PD パラメ ー タ と し て 、 area under the concentration curve / minimum inhibitory concentration (AUC/MIC)が 挙 げ ら れ て い る 23)。こ の観点からは、熱傷患者では他の疾患 と同等、 あ る い は 尐し 低 い AUC が 得 ら れたと い う 研 究結 果 があ り 24) 、 本 症 例で も 若 干 の AUC の低下がみられた可能性がある 。また、投与量の設定が異なる複数の先行研究 があるものの、AUC に関しては記述 がない 25) 26) 。 MCFG の次に使用した F-FLCZ は 、そ の 活 性 体 で あ る FLCZ の PK/PD パ ラ メ ー タ が AUC/MIC とされている 27)。集中治療領域では FLCZ の体内動態に大きな個 体間変動 があり、十分な AUC を得るためには 維持量として添付文書用量を超える 800mg が必 要であ るこ とが示 唆さ れてい る 28 ) 。 熱傷患 者に おける L-AMB の薬 物動 態は、 n=1 の症例報告が一つあるのみで、考察しうる資料が不足している 29) 。 つまり、重症熱傷患者に対する注射用抗真菌薬の使用においても、 PD に問題がな くても PK に不確実性が存在しており、本症例で熱傷創傷部での薬物濃度が保たれて いたかどうかはやはり確実ではないと考えられる。 ・ 外用薬の活用 本症例では、静脈内投与による抗菌・抗真菌化学療法だけでなく、感染の focus で ある熱傷創に直接外用薬を使用する試みを行った。 外 用 抗 真 菌 薬 は 表 在 性 真 菌 感 染 症 の 第 一 選 択 の 治 療 薬 と し て 広 く 使 用 さ れ て い る 30) 。本症例で使用した KCZ lotion も その一つであり、白癬、皮膚カンジダ症等の疾 患 に 対し 、 我が 国で の保 険 適応 を有し て いる 。 外用 抗真 菌薬 は 患部 に直接 高 濃度 の 薬 剤 を塗 布 でき るこ と、 皮 膚構 造 を透 過 して 成 分を 到達 させ る 製剤 設計で あ るこ と か ら 、表 在 性真 菌症 の治 療 にお いて有 用 な剤 形 であ る。 内服 と 外用 の両方 の 剤型 が あるテルビナフィンでは、内服と外用で同等の局所濃度が得られる 31) 32)。また近年、 白 癬 用の 外 用抗 真菌 薬 (5%ル リ コ ナゾ ー ル、 エ フィ ナコ ナゾ ー ル ) が 複 数上 市 さ れ て お り、 そ れら は爪 への 浸 透性 を向上 さ せる 事 によ って 、外 用 薬に よる治 療 成績 を 向上させている 33)。本症例は注射用抗真菌薬の PK が不確実な重度熱傷症例に対し
て、外用抗真菌薬を使用することにより burn wound infection のコントロー ルを図っ たものである。過去に重症熱傷患者における外用真菌薬が使用された報告は尐なく、 Nystatin 34) や Amphotericin B (AMPH-B)35) を使用した報告はあるが、KCZ での報告 はない。そのため、明確な KCZ の濃 度基準は見つからなかった。本症例では洗浄の ための泡立ちを考慮し 0.5%の組成となったが、他剤と同様に KCZ にも感受 性が保た れていると仮定すると、皮膚表面では MIC の数百倍~数千倍程度の濃度が確保され て い た と 考え ら れ る 36)。ま た 、 包亣 時 の 洗 浄に 混 合 して 使 用し た た め、 皮 膚 を 透
18 KCZ lotion の開始後は、全ての培養から C. tropicalis が検出されなくなった 。同じ タイミングで注射用抗真菌薬を F-FLCZ から L-AMB に変更しているため、正確な評 価 は 困 難 で あ る が 、 そ れ 以 前 に 使 用 し て い た 注 射 用 抗 真 菌 薬 で は 皮 膚 表 面 の C. tropicalis の消失が得 られなかったことから、 KCZ lotion の使用により一定 の効果が 得られた可能性がある。 一般的に、アゾール系薬剤は AMPHB に拮抗するとされる 37) 。AMPHB との 相互作 用が尐ない FLCZ は、本邦に外用使 用可能な製剤が存在しないため、実際には使用 が困難である。今回使用した KCZ と AMPHB は in vitro では拮抗すること が多いと す る 報告 が ある が、 本症 例 では 真菌学 的 な効 果 が得 られ た結 果 とな った。 健 常成 人 のデータではあるが、KCZ lotion は血 中にほとんど移行しない 38)。また上記の通り 熱傷患者における L-AMB のデータは 非常に限られており、皮膚への移行性も定かで はない。本症例では、血中の C. tropicalis には L-AMB が、皮膚表面の C. tropicalis には KCZ が、それぞれ効果を発揮し た可能性がある。 本 研 究 で は 、 創 部 に お け る 薬 剤 濃 度 の 測 定 を 行 う こ と が で き な か っ た た め 、 KCZ lotion 使用前後での創部の薬剤濃度を 示せていない。創部における全身用抗真菌薬の 濃度と、KCZ lotion を含む外用抗真菌 薬の濃度、更にその併用による治療や予後への 効果を集積することが今後必要である。 ・ 炎症の関与 重傷熱傷の根治的治療は自家植皮術により皮膚が上皮化し、創傷が治癒することで ある。DDB 以上の熱傷では表皮全層及び真皮への障害により、基底細胞に加えて毛 根、線維芽細胞も減尐もしくは欠損している。諸外国と異なり allograft (死 体皮膚等 より採取した、移植用同種皮膚 ) が十分に確保できない本邦では、自家植皮の前処置 として人工真皮を使用することが一般的である。人工真皮はシリコン層 (上層)とコラ ーゲン層(下層)で構成される。真皮欠 損部に貼付した下層に毛細血管や線維芽細胞が 浸 潤 し、 線 維芽 細胞 由来 の コラ ー ゲン が 真皮 用 肉芽 組織 を形 成 して 人工真 皮 を置 き 換え、自家植皮の母床となる。 創傷治癒の過程において、肉芽形成の前段階として炎症の過程が存在する。感染は こ の 炎 症 を遷 延 さ せ、 創 傷 部の 治 癒を 遅 延 さ せる 。 Candida 感 染 を 例に挙 げ れ ば 、
Candida 属の PAMPs である β-D-glucan は Dectin-1 に、同様に mannan は Dectin-2 や
21 第 3 節 けいれん・てんかん患者の薬剤コントロール 緒言 けいれんやてんかんは、救急医療における代表的な症状・疾患の一つである。けい れんは、全身の筋肉が不随意に持続的もしくは律動的に収縮を繰り返す状態であり、 運 動 ニュ ー ロン の過 剰興 奮 を生 じてい る 。原 因 とし て、 ①脳 の 急性 疾患( 脳 血管 障 害 、 脳炎 、頭 部 外傷 など )、 ② 脳の 慢性 疾 患( てん か ん)、 ③ 脳以 外 の急 性全 身 性 疾 患、④心因性がある 45)。わが国での患者数は、てんかんに関してだけでも人口の約 0.8%にあ た る 約 100 万 人 の 患 者 が い る と さ れ て お り 46 )、 救命救急 センタ ーの日常 診療において直面する機会は多い。 けいれんやてんかんの治療は薬物療法が主である。症候性てんかんやけいれんの治 療、および発作予防のためには、抗てんかん薬(antiepileptic drug; AED) の血中濃 度を有効濃度域で維持することが重要であり、そのために therapeutic drug monitoring (TDM)の活用が推奨されている 47)
23 全体 支援前 支援後 症例数 (例) 125 72 53 平均年齢 (歳) 66.9±21.1 70.9±18.1 61.5±23.8 性別 (例) M: 72 F: 53 M: 43 F: 29 M: 29 F: 24 使用薬剤 (例) PHT: 98 PPHT: 27 PHT: 58 PPHT: 14 PHT: 40 PPHT: 13 平均投与日数 (日) 5.8±8.6 6.5±9.3 4.8±7.5 ・ 統計学的解析 本研究における統計処理は、 F 検定 で分布の正規性を検定したうえで、 Student’s t test もしくは Welch’s t test の う ち 適 切 な も の を 使 用 し た 。
24 濃度コントロールを比較すると、 有効域を逸脱した症例が支援前 15 例 (75.0%) 、 支 援 後 3 例 (33.3% ) と 、 薬 剤 師 に よ る 支 援 後 に 有 意 に 減 尐 し た (p<0.05) (Fig. 1-3-3) 。 投与期間については、支援前 6.5 ± 1.1 (日 ) 、支援後 4.8 ± 1.0 (日 ) と、支援 前後で 有 意 差は な かっ たも のの 、 支援 後に投 与 期間 が 短い 傾向 がみ ら れた 。保険 適 応上 、 長期投与が認められない PPHT は全 例が 5 日以内の使用であった。 ・ 患者背景と PHT 使用状況 PHT 使 用 の 契 機 と な っ た 疾 患 と し て は 、 支 援 前 後 と も 脳 器 質 的 疾 患 、 ま た は そ の 既往を有する患者が多かった (Fig. 1-3-4 a、b) 。また、PHT 投与後の AED 使用状 況 と し て は 、 支 援 前 に 比 べ 支 援 後は PHT を 継 続 し て 使 用 す る 割 合 が 減 尐 し て い た (Fig. 1-3-5 a、 b) 。
Fig. 1-3-2: 濃 度 測定 し た 症 例 と そ の うち 採 血 を 適 切 な タ イ ミ ン グ で実 施 し た 症 例 の 割 合
25
Fig. 1-3-4: PHT 使 用 の 契機 に な っ た 疾 患 の 内 訳
31 第 2 章 真菌症の感染制御に関わる菌種間の特徴に関する検討 緒言 ・ 救急医療における感染症 救急医療において相対する疾患は多種多様であるが、その一角を占めるのが感染症 である。実際に、2017 年度に杏林大学医学部付属病院高度救命救急センターで受け 入れた心肺停止を除く救急患者(1,008 名)のうち 8.3%が重症感染症・敗血症 の患者で あった 63)。また、主病名が感染でない場合でも、感染症の合併例や院内発症の感染 症などの患者がいるため、実際にはさらに多くの患者数が想定される。 臨床上、重篤な感染は難治性であることも尐なくない。その原因として、免疫学的 観 点 から は サイ トカ イン ス トー ムによ る 臓器 障 害な どが 挙げ ら れ、 薬理学 ・ 薬物 動 態 学 ・薬 力 学的 な観 点か ら は、 膿瘍形 成 や濃 度 不足 によ る薬 効 低下 などが 挙 げら れ る。また微生物学的な観点として、薬剤への耐性 (Antimicrobial Resistance; AMR) や スペクトラム外の微生物 (抗菌薬 vs 真菌、など) がある。それらの中で世界的に問 題となっているのが AMR、及び真菌 による日和見感染である。 救急医療領域では抗菌薬の使用密度が高く、また広いスペクトラムを持つ薬剤が使 用 さ れる 傾 向に ある 。広 範 囲な 細菌に 効 力を 有 する 薬剤 は様 々 な細 菌を死 滅 させ 、 時間に猶予のない重症感染症の治療に威力を発揮する一方で、AMR を持っ た細菌や もともと抗菌薬が無効な真菌を患者の体内に残存させてしまう。その結果、AMR を 持 っ た細 菌 や真 菌が 増殖 し 、様 々な経 路 でヒ ト や動 物、 環境 に 伝播 し、難 治 性の 感 染症の原因となる。救急領域の薬剤師に求められることの一つに、それらの AMR を 増 や さな い よう に適 切な 薬 剤選 択をし 、 薬物 動 態学 、薬 力学 の 観点 から過 不 足の な い 用 法用 量 で抗 菌薬 や抗 真 菌薬 が使用 さ れる よ う診 療支 援を 行 って いくこ と が挙 げ られる。 ・ 敗血症と急性炎症 救急医療における代表的な、そして最重症の感染症たる敗血症は、今もなお全世界 で数秒に 1 人の死者を生み出し続けている 64)。敗血症は 1992 年に初めて定義づけ ら れ て以 降 、そ の病 態に 関 する 研究の 進 展と 共 に移 り変 わっ て いる 。最も 古 典的 な 敗血症の概念は、1914 年に Schottmüller らが提唱した「敗血症は微生物が 局所から 血流に侵入した病気」としての「菌血症= 敗血症」の概念である 65)。しかし、1992 年 に は 米 国 集 中 治 療 医 学 会 と 米 国 胸 部 疾 患 学 会 に よ っ て 「 感 染 症 に 伴 う SIRS (Systemic Inflammatory Response Syndrome;全 身 性 炎 症 反 応 症 候 群 )」が 敗 血 症 と 定 義 されるよう変化した 66)。そして現在では、敗血症は感染症によって全身性炎症が引
き起こされた結果として「重篤な臓器障害が引き起こされた状態」、と定義されてい る 64)。
32 に起因した強 烈な免疫 応答であ り、 その結果表れ る臓器障 害によっ て意 識状態 (脳 )、 呼吸状態(肺)、循環動態 (心臓 )、肝機能、腎機能、凝固能、などの生命維持に重要な 臓 器 の機 能 が著 明に 低下 し て い る。そ こ で救 命 救急 セン ター で は、 重症感 染 症患 者 の 感 染に 対 する 化学 療法 だ けで なく、 非 常に 重 篤な 全身 状態 の 管理 も 含め た 集中 治 療を行うこととなる。 一方、SIRS は感染症のみ に関連する ものではなく、外傷、 熱傷、外科手術 などの 侵 襲 的な 疾 患や 医学 的行 為 によ っても 生 じう る 反応 であ り、 救 急医 療全般 に おけ る 免 疫 学的 反 応の 重要 性も 示 唆さ れる。 免 疫学 的 な機 序か らの 病 態解 析や、 逆 に疾 患 や 微 生物 が 患者 の免 疫系 に 対し て与え る 影響 に つい て検 討し て いく ことが 、 急性 期 疾患の治療の質を向上させるために必要である。 ・ 感染に対する免疫応答と炎症性疾患の重篤化 病原微生物は、酵素、外毒素、内毒素など様々な毒性物質を担持するので、ひとた び 宿 主が 微 生物 に感 染す る と、 生体防 御 系は 様 々な 応答 を起 こ す。 その範 囲 は広 範 に 及 び 、 敗血 症 に 至る 過 程で は 、 膨大 な 種 類 の炎 症 、 免疫 応 答が 惹 起 され る 。病 原 微生物による感染が成立し、全身感染症を経て、敗血症、ショック死に至る過程には、 様々な病原体と宿主の様々な要素が関連している。ワクチンによる予防や抗菌薬による 殺菌によって感染症の制御がある程度可能になっているので、感染死に至る病因につい て、詳細な分析が十分に行われているとは言えない。先に示したように、細菌内毒素が 発熱性物質であり、ショックに重要な分子であることが明らかにされてから半世紀を経 ているが、未だに制御できない。医療現場では、最先端の治療を行うことは必須の行為 であるが、その先を見据えた研究が無ければ、治療水準を高めることは困難である。病 原因子の体系的な解析の中で、近年になって明確にされてきたのが、 病原体関連分子パ ターン(Pathogen-associated molecular patterns; PAMPs)である。PAMPs は細菌、ウィルス、 真菌 など、様々な 病原微生物 から見出され ており、 パタ ーン認識受容 体 (PRR) を 介 し て自然免疫を活性化する、感染免疫応答の重要な分子となっている 。病原性真菌からも 多数の PAMPs が見出されており、Candida の PAMPs である β-glucan は PRR である
34 なくとも 2 週間と、一般的な細菌等と比較しても長めの投与が必要である。ガイド ラ イ ン上 に も全 ての 症例 で 治療 期間は 遵 守さ れ るべ きと の記 載 があ り、不 十 分な 投 与期間の症例に対する働きかけも薬剤師の役割の一つとなる。 ・ Candida の菌種差 感染症診療においては、宿主の状態と原因微生物、薬剤について組み合わせて検討 し 、 治療 方 針を 決定 する 、 とい うのが 診 療プ ロ セス であ り、 宿 主の 状態に よ って 原 因 と なる 微 生物 も変 化し う るほ か、適 切 な薬 剤 も異 なっ てく る 。そ のため 、 宿主 と 微生物の関係について十分に検討することが重要である。 臨床感染症学、特に細菌感染症においては、薬剤感受性と疫学データからその起炎 菌 に 対す る 最適 な薬 剤を 決 定す る。一 方 で、 菌 種に よる 病原 性 の違 いによ り 、そ の 治療経過や予後は異なることから、治療期間は菌種によって設定される場合が多い。 代表例としてブドウ球菌による血流感染症 (長期カテーテル留置時) を挙げ ると、黄 色ブドウ球菌 (Staphylococcus aureus) の治療期間は病原性が高いことから 4-6 週間 が推奨されて いるのに対 し、表皮ブ ドウ球菌 (Staphylococcus epidermidis) を始めと したコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の治療期間は 10-14 日間の推奨である 68)。しかし ながら、真菌感染症については状況が異なっている。 一般的に救急医療での Candida 感染症の分離種は C. albicans が約半数を占 め、次い で C. glabrata や C. parapsilosis、C. tropicalis、C. krusei などが分離される 67)。臨床上、
C. albicans 以外の種は non-albicans Candida と総称され、薬剤感受性に差異が認めら
れ る 。そ の ため 、細 菌と 同 じく 最適薬 剤 の選 択 には 菌種 同定 が 必須 であり 、 菌種 判 明 後 は ス ペ ク ト ラ ム が 可 能 な 限 り 狭 く 起 炎 菌 に 特 異 的 な 薬 剤 へ の 変 更 (De-escalation も し く は step down) が 行 わ れ る 。 し か し 、 菌 種 差 が 考 慮 さ れ る の は 多 く の場 合 そこ まで であ り 、病 原性や 治 療期 間 、原 因と なっ た 菌種 による 症 状 や 重 症 度 の差 な どに つい ては 考 慮さ れない 場 合が 多 い。 実際 に各 種 ガイ ドライ ン でも 、 菌種による記載の差は薬剤選択の違い程度で大半が終わってしまう 67) 69)。 しかし、例えば第 1 章第 2 項で提示した症例で問題となった C. tropicalis について 掘 り 下 げ る と 、 Candida 菌 血 症 あ る い は そ の 他 の 侵 襲 性 カ ン ジ ダ 症 に お い て 、 C. tropicalis の死亡率が高かったと報告されており 70)、この報告では C. tropicalis 感染
群の APACHE II スコア(ICU での重 症度) が高かったとされた。また、C. tropicalis はバイオフィルム形成能が高い菌種であり 71)、提示症例における治療の難渋に関与
していた可能性はある。
他の菌種についても同様に様々な特徴があるが、上記のバイオフィルムに関して言 えば、C. albicans の 20%、non-albicans Candida の 40%が形成するとされて おり、ま た C. tropicalis だ け で な く C. parapsilosis も 形 成 能 が 高 い こ と か ら 69 )、 特 に
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第 1 節 臨床分離 Candida 属真菌からの PAMPs の調製と性状 2-1-1 材料及び方法
・ 実験動物
雄性 ICR は日本 SLC より購入し、東 京薬科大学実験動物棟にて Specific Pathogen Free (SPF) 環 境 下 で 飼 育 し た 。 実 験 動 物 の 取 り 扱 い は東 京 薬 科 大学 実 験 動 物取 り 扱 い規約に従った。
・ 菌体及び培地
菌 株 は 杏 林 大 学 医 学 部 付 属 病 院 に て 臨 床 分 離 さ れ た C. albicans (23 株 ) 、 C.
dubliniensis (3 株 )、 C. glabrata (6 株 )、 C. guilliermondii (2 株 )、 C. krusei (1 株 )、 C. parapsilosis (11 株 )、 C. tropicalis (6 株 )、 の 7 菌種、 52 株を用いた。 また、標準 菌株
として C. albicans NBRC1385 を使用した。
C-limiting medium は 1L 中に Sucrose 10g、(NH4)2SO4 2g、KH2PO4 2g、CaCl2・2H2O
0.05g、MgSO4・7H2O 0.05g、ZnSO4・7H2O 1mg、CuSO4・5H2O 1mg、FeSO4・7H2O 0.01g、
biotin 25mg で調製した。
YPD medium は 1L 中に Yeast 10 g、Pepton 20 g、Glucose 20 g、Agar 20 g で 調 製 し た。
・ 熱水抽出物 (Hot Water Extract; HWE) の調製法
C-limiting medium (27℃ ) 及び YPD medium (37℃ )で 2 日間振盪培養後、同 量 の エ タ ノールを加えて一昼夜静置、集菌・蒸留水で洗浄後、蒸留水に再懸濁し、128 ℃ 4 時 間 オー ト クレ ーブ 抽出 し た 。 遠心分 離 し、 沈 殿画 分を 菌体 画 分と して乾 燥 、上 清 は 4 倍量のエタノールで沈殿、エタノール・アセトンで乾燥した。
・ CAWS の調製法
Candida albicans NBRC1385 菌体を C-limiting medium 中で 、pH 5.2 の酸性条件下で
培養を開始し、27℃、400 rpm の撹拌培養器中で 5L/分の通気下に培養した。得られ た培養液のエタノール不溶かつ水溶性画分を分離し、既報 74) に従い CAWS を得た。 本研究に使用したロットの CAWS は 抗 Candida 因子血清との反応性、エンドトキシ ン含量、glucan 含量 、CHN 含量 、マ ウ ス へ の 静 脈 内 投 与 に お け る 急 性 致 死活 性 で 、 既報 74) の CAWS と同等の活性、物性 を示すことを確認した。 ・免疫化学的分析
ELISA による Mannan 含量測定 (詳細 下記 ) 及び Candida 抗原性 (ユ ニメ デ ィ®「カ ンジダ」モノテストでの反応性)について検討した。
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た。洗浄後、結合量をペルオキシダーゼ標識 Con.A (500ng / mL) で測定し た。 非競合 ELISA:段階的に希釈し た HWE を Nunc イムノプレート上にコーテ ィング し、ペルオキシダーゼ標識 Con.A (500ng / mL) で測定した。
・急性致死活性の測定 既報の通り 75)
、各画分を 5 週令の雄性 ICR マウスに 400μ g / head の用量 で静脈内 投与した。30 分後に致死及び即時型のアナフィラキシーショック様ショックを下記 の条件をもとにスコア化した (1; Fault、2; Weakness、3; Carry in or Weak convulsion、 4; Strong convulsion)。
・倫理的配慮
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2-1-2 結果
・臨床分離 Candida 属真菌からの PAMPs の調製と性状
菌 株 は 杏 林 大 学 医 学 部 付 属 病 院 に て 臨 床 分 離 さ れ た C. albicans (23 株 ) 、 C.
dubliniensis (3 株 )、 C. glabrata (6 株 )、 C. guilliermondii (2 株 )、 C. krusei (1 株 )、 C. parapsilosis (11 株 )、 C. tropicalis (6 株 )、 の 7 菌種、 52 株について、 C-limiting 培地
ならびに YPD 培地で培養し、菌体を 調製、さらに熱水抽出物を調製した。さらに、 ConA との反応性、急性致死活性を測 定し、結果を Table 2-1-1 に示した。
HWE の 収量 ならびに 菌体残渣 収量から、全体的に どの菌種についても 発育良 好 で 十分な HWE の収量が得られた。また、多くの菌種で C-limiting medium と YPD medium のいずれの培地においても発育が見られたが、C. glabrata は C-limit で増殖 困難であ った。
Mannan 含量と構造についての情報を 得るために、ConA との反応性につい て、酵母
S. cerevisiae mannan への結合性についての相対比較ならびに HWE のプレートへの吸
着性をもとに比較検討した。ELISA の結果から、CAWS と HWE の各 IC50 値を比較 すると、 IC50 3μ g 未満(かつ非競合 相対 Abs70 以上)で反応性が類似したものが、 C-limit で 8 株 (C. guilliermondii 1 株、C. krusei 1 株、C. parapsilosis 5 株、C. tropicalis 1 株 )、 YPD で 23 株 (C. albicans 10 株、 C. dubliniensis 2 株、 C. glabrata 1 株、 C.
guilliermondii 2 株、 C. krusei 1 株、 C. parapsilosis 7 株 ) 得られ た。
急性致死活性について、マウスの死亡が認められた例なら びに score が 2-3 以上と なったものを合わせて算出すると、C-limit で 31 株 (59.6%; C. albicans 16 株、C. krusei 1 株、 C. parapsilosis 10 株 、 C. tropicalis 4 株 ) 、 YPD で 42 株 (80.8%; C. albicans 21 株、C. dubliniensis 2 株、C. glabrata 4 株、C. krusei 1 株、C. parapsilosis 11 株、C.
tropicalis 3 株 ) に毒性を認めた。菌種間比較では、 C. dubliniensis、 C. guilliermondii
40 Table 2-1-1: HWE の 生 化 学 的 ・免 疫 化 学 的 解 析 、 急 性 致 死 活 性 ※ A:菌体破棄のためデータなし B:菌が生育せず,収量が少ないため測定不能 C:CAWSを100とした場合の相対吸光度 D:コンタミが強く疑われる症例 競合 ELISA 非競合 ELISA 競合 ELISA 非競合 ELISA
No. Isolate HWE収量
(mg) 残渣収量 (mg) IC50 (μg/ml) 相対吸光度 (Abs)※C Dead /Alive score HWE収量 (mg) 残渣収量 (mg) IC50 (μg/ml) 相対吸光度 (Abs)※C Dead /Alive score
1 Candida albicans 323.7 - ※A 6.6 93.6 0/3 326.5 - ※A 2.9 95.8 1/3
3 Candida albicans 350.1 - ※A 3.8 89.7 0/3 336.3 - ※A 1.4 101.7 2/3
4 Candida albicans 296.4 489.0 11.1 79.0 1/3 2-3 285.1 607.3 2.4 74.5 0/3 2-3 6 Candida albicans 390.2 488.6 13.3 62.8 0/3 2-3 257.0 782.6 0.9 85.9 1/3 2-3 8 Candida albicans 272.4 338.0 2.9 59.0 2/3 3-4 327.7 853.5 0.7 100.4 1/2 3-4 10 Candida albicans 310.0 484.0 3.9 52.4 3/3 4 249.6 656.6 2.0 73.7 1/3 2-3 13 Candida albicans 335.2 456.8 4.7 70.0 0/3 2-3 271.5 754.6 1.2 74.3 2/3 3-4 14 Candida albicans 339.0 452.0 5.2 62.4 1/3 3-4 262.0 624.5 0.9 81.1 3/3 4 15 Candida albicans 416.8 431.5 15.8 22.9 0/3 1-2 255.1 750.3 1.9 62.7 1/3 2-3 19 Candida albicans 279.4 638.5 0.0 40.7 0/3 1-2 236.7 638.5 1.3 60.8 2/3 3-4 20 Candida albicans 484.4 503.4 51.7 27.1 0/3 3-4 219.5 610.9 0.9 57.6 0/3 1-2 21 Candida albicans 373.0 429.5 4.2 33.6 1/3 2-3 216.8 538.1 1.5 43.6 0/3 1-2 24 Candida albicans 351.1 630.0 2.7 22.0 1/3 3-4 256.6 565.2 1.1 65.6 1/3 3-4 25 Candida albicans 289.0 451.6 5.7 26.3 0/3 2-3 240.0 732.4 0.4 52.1 1/3 2-3 31 Candida albicans 565.8 453.4 8.6 19.9 1/3 2-3 245.2 756.1 1.9 52.3 2/3 3-4 33 Candida albicans 602.0 542.8 18.6 24.9 0/3 1-2 251.3 770.8 1.4 60.3 1/3 3-4 34 Candida albicans 557.6 565.2 17.0 41.8 0/3 1-2 250.4 691.5 4.2 50.8 3/3 4 36 Candida albicans 467.3 447.3 1.3 59.7 0/3 2-3 212.0 602.2 1.2 69.4 2/3 3-4 37 Candida albicans 434.1 680.0 3.7 82.5 1/3 2-3 380.8 1014.0 0.6 75.8 1/3 1-2 38 Candida albicans 530.8 613.2 2.8 64.5 1/3 3-4 222.8 483.7 3.1 25.0 2/3 3-4 47 Candida albicans 345.3 589.7 11.1 26.9 0/3 2-3 263.8 770.7 1.5 79.6 1/3 3-4 49 Candida albicans 410.4 654.0 15.2 29.0 0/3 1-2 256.0 847.7 7.5 43.4 1/3 3-4 50 Candida albicans 350.3 543.0 15.2 11.3 0/3 2-3 199.5 583.7 4.2 52.7 0/3 2-3 17 Candida dubliniensis 137.6 143.3 9.8 76.0 0/3 1-2 291.1 1012.0 3.0 99.8 0/3 1-2 51 Candida dubliniensis 147.6 150.3 9.7 36.6 0/3 1-2 314.1 758.9 0.7 84.4 2/3 4 52 Candida dubliniensis 160.2 236.7 11.8 74.8 0/3 1-2 211.5 652.6 0.3 78.2 1/3 2-3 9 Candida glabrata 1.9 N.D. - ※B - ※B - ※B - ※B 252.1 623.4 2.0 106.9 1/3 2-3 26 Candida glabrata N.D. N.D. - ※B - ※B - ※B - ※B 361.0 706.0 3.5 58.4 0/3 1-2 28 Candida glabrata N.D. 0.5 - ※B - ※B - ※B - ※B 303.6 611.6 12.0 44.4 0/3 2-3 29 Candida glabrata 3.8 0.6 - ※B - ※B - ※B - ※B 311.8 647.5 18.9 66.0 1/3 2-3 41 Candida glabrata N.D. N.D. - ※B - ※B - ※B - ※B 270.2 782.5 9.3 55.1 0/3 2-3 46 Candida glabrata 3.7 N.D. 27.3 9.1 - ※B - ※B 333.5 880.8 10.2 45.1 0/3 1-2
5 Candida guilliermondii 156.0 - ※A 2.1 73.8 0/3 165.0 - ※A 1.7 85.6 0/3
32 Candida guilliermondii 163.6 187.3 0.6 50.5 0/3 1-2 174.5 390.0 0.6 86.5 0/3 1-2
35 Candida k rusei 134.8 145.1 2.8 82.2 3/3 4 302.3 693.0 1.9 95.8 2/3 3-4
2 Candida parapsilosis 189.6 - ※A 2.1 83.1 0/3 250.4 - ※A 1.4 96.7 1/3
11 Candida parapsilosis 200.4 278.9 2.1 66.5 2/3 3-4 193.3 427.8 1.6 72.3 3/3 4 12 Candida parapsilosis 280.2 246.1 1.7 80.8 2/3 3-4 226.8 588.8 1.5 117.3 2/3 3-4 22 Candida parapsilosis 185.2 161.6 2.4 58.1 3/3 4 156.5 685.1 2.3 71.0 1/3 2-3 23 Candida parapsilosis 177.9 143.4 1.1 76.2 3/3 4 92.6 445.8 8.3 31.2 1/3 3-4 30 Candida parapsilosis 143.8 140.4 0.1 76.5 2/3 3-4 177.5 478.5 0.8 83.4 2/3 3-4 42 Candida parapsilosis 137.0 145.0 2.7 74.7 1/3 2-3 243.3 694.4 0.6 71.1 1/3 2-3 43 Candida parapsilosis 183.6 156.0 1.3 26.8 1/3 3-4 182.8 744.5 5.1 51.8 0/3 2-3 44 Candida parapsilosis 183.8 154.1 3.9 49.0 2/3 2-3 222.4 460.8 2.5 73.1 2/3 3-4 45 Candida parapsilosis 206.5 171.5 5.4 46.6 1/3 3-4 280.0 764.5 1.8 67.6 1/3 3-4 48 Candida parapsilosis 171.4 174.0 2.4 46.6 1/3 2-3 304.5 522.1 5.5 51.9 1/3 2-3 7 Candida tropicalis 337.5 291.4 6.6 82.7 0/3 1-2 224.6 593.0 3.7 96.2 0/3 1-2 16 Candida tropicalis 361.6 344.3 4.9 41.5 0/3 2-3 217.9 656.6 8.7 54.0 0/3 3-4 18 Candida tropicalis 293.7 240.6 3.0 52.3 2/3 4 185.7 561.2 3.2 65.7 3/3 4 27 Candida tropicalis 291.3 283.0 7.0 48.1 0/3 1-2 174.5 471.4 12.2 53.6 0/3 1-2 39 Candida tropicalis 609.9 469.0 16.8 16.6 0/3 2-3 208.9 448.0 8.1 72.6 0/3 1-2 40 Candida tropicalis 302.7 317.2 1.7 88.9 1/3 2-3 201.8 469.3 24.4 93.0 1/3 1-2 C. albicans 1385 574.8 990.0 4.8 81.1 1/3 2-3 495.6 1180.0 2.0 107.6 0/3 2-3 CAWS 0.9 100.0 急性致死活性 (400 μg /mice) 急性致死活性 (400 μg /mice)
41 2-1-3 考察
本節では、Candida 属真菌臨床分離株の HWE を作成し、mannan 構造を ELISA 法で比 較するとともに 、急性致死活性を比較検討した 。その結果、急性致死活性を示す菌株は 、 臨床分離株の中から広く見出されること分かった 。また、ELISA ならびに急性致死活性 測定において、全く陰性となる株は殆ど無く 、ある程度の類似性が認められた 。ELISA の結果から、多くの HWE は ConA に強く反応したことから、mannan を主体とする多糖 画分であると考えられた。ゆえに、HWE 静脈内投与による急性致死活性は CAWS によ る そ れ と 同 様 に 補 体 レ ク チ ン 経 路 の 活 性 化 を 介 し た も の で あ る と 考 え ら れ 、 様 々 な
Candida 臨床 菌株 が強 い致 死活 性 を示す 、 強力 な補 体活 性化 物 質 を 有し ている こ とが明
らかとなった。 さらに、その活性は 、菌種ならびに菌株のいずれによっても差があり、 多様であった。
今回入手できた菌株の約半分を占める C. albicans は、C-limit で 70.0%、YPD で 91.3% の活性を示し、 標準株を使用した報告 75) と同様に高い急性致死活性を示すことが分か った。CAWS による急性致死活性と血管炎惹起活性には同一構造の関与が想定されてお り 76)、その検証のために更なる検討が必要であると考えられた。また、本菌種は 臨床で の分離頻度としても全体の半分を占めることから、臨床への還元を考える上でも本結果 は重要なものと考えられる。
一方、C-limit で 91.0%、YPD で 100%という C. albicans を上回る活性を示した C.
parapsilosis や、入 手で きた のが 1 株だけ ながら C-limit・ YPD と も に 非常 に強い 活性 で
あ っ た C. krusei な ど 、 non-albicans Candida に も 注 目 す べ き 菌 株 が 見 ら れ た 。 C.
parapsilosis は 近縁 種で あ る C. metapsilosis の 標準 株 HWE の強力な活 性が 報告さ れて い
るが 77)、C. krusei については今まで調査が行われていなかった。今回使用した菌種の中 で、この 2 菌種は C-limit 及び YPD の双方で CAWS に類似した ELISA の反応を示し、同 時に高い急性致死活性を示している。CAWS 血管炎との関連性も含め、 致死的血管炎の 惹起活性やそれによる臓器障害等について、更に検討する必要があると考えられた。
その他の菌種については、両群ともに半数程度が致死活性を示した C. tropicalis、YPD でのみ致死活性を示した C. dubliniensis、C. glabrata と、何らかの反応が見られる菌種が 多い中で、 C. guilliermondii は両群とも反応を示さなかった 。C. guilliermondii は ELISA の結果で CAWS との類似性があまり見られなかったが、他の菌種では CAWS と の構造類 似 性 が 低 い 菌 株で も 急 性 致死 活 性 を 示す 場 合 が あ る こと を 考 え ると 、 C. guilliermondii の急性致死活性が低いことが推察される。
42
第 2 節 Candida 属真菌由来の PAMPs による血管炎と慢性炎症 2-2-1 材料及び方法
・ 実験動物
雄性 ICR 及び雄性 DBA/2 は日本 SLC より購入し、東京薬科大学実験動物棟にて Specific Pathogen Free (SPF) 環 境 下 で 飼 育 し た 。実 験 動 物 の 取 り 扱 い は 東 京薬 科 大 学 実験動物取り扱い規約に従った。
・ 菌体及び培地、HWE
第 1 節で用いた杏林大学医学部付属病院にて臨床分離された菌株の中から、血管炎 惹 起 活性 に て菌 種・ 菌株 間 の比 較検討 す るた め に必 要な 菌株 を 選別 した。 菌 株は 残 余検体から得た。C. albicans、C. dubliniensis、C. glabrata、C. guilliermondii、C. krusei、
C. parapsilosis、C. tropicalis の 7 菌種 からバランスよく結果を得るために 、各菌種か ら最大 5 株 (全 26 株) の抽出物をラ ンダムに選別した。また、収量の関係から、YPD 培地で得られた HWE を用いることとした。HWE は第1節に記載の方法で作成し、 標準菌株として C. albicans NBRC1385 を用いた。 ・ 急性致死活性の測定 既報の通り 75)
、5 週令の雄性 ICR マウスに 400μg/head の HWE (3 匹/株 ) を静脈 内投与した。30 分後に致死及びアナフィラキシーショック様ショックを下記の条件 をもとにスコア化した (1; Fault、2; Weakness、3; Carry in or Weak convulsion、4; Strong convulsion)。 本節においては、各菌株ごとに、 acute lethal activity と し て 合 計 し た 。
・ 血管炎惹起活性の測定 既報の通り 75)
44 ・ HWE の血管炎惹起能 HWE4mg を 5 日間連続で腹腔内投与し、血管炎を惹起した。観察期間を 200 日と した。CAWS はその間に全マウスが死亡した。HWE 投与群も一部死亡した。菌種間、 菌株間で比較すると、生存日数に顕著な差があることが明らかとなった (Fig. 2-2-1 ~7)。これについて、全菌株・菌種について生存日数を比較検討するために、 Heat map 表示した(Fig. 2-2-8)。Heat map は生存期間 50 日ごとの色分けで作成した。
200 日後の死亡率は、C. albicans: 84.0%、C. dubliniensis: 46.7%、C. glabrata: 32.0%、C. guilliermondii: 30.0%、C. krusei: 100%、C. parapsilosis: 48.0%、C.
tropicalis: 28.0%であった。群間の差を生存日数から検定したところ、種間で差が 認められた(Table 2-2-3 参照)。 C . d u b li n ie n s is C . g la b ra ta C . g u il li e rm o n d i C . k ru s e i C . p a ra p s il o s is C . tr o p ic a li s C . albicans ** *** *** *** C . dubliniensis ** C . glabrata * *** C . guillierm ondi *** *** ** C . krusei C . parapsilosis ** Table 2-2-2: 菌 種 別 急性致死活性 0 20 40 60 80 100 0 50 100 150 200 250 生存率 (%) day Candida albicans 13Y Candida albicans 14Y Candida albicans 21Y Candida albicans 34Y Candida albicans 37Y CAWS 0 20 40 60 80 100 0 50 100 150 200 250 生存率 (%) day
Candida dubliniensis 17Y Candida dubliniensis 51Y Candida dubliniensis 52Y CAWS
Fig. 2-2-1: 生 存 曲線 と 株 間 差 (C. albicans 投与群)
ログランク法 有意差
C. albicans13Y V.S. C. albicans 14Y p < 0.05
C. albicans 14Y V.S. C. albicans 21Y p < 0.005
C. albicans 14Y V.S. C. albicans 34Y p < 0.05
C. albicans 14Y V.S. C. albicans 37Y p < 0.01
C. albicans 21Y V.S. C. albicans 37Y p < 0.05
ログランク法 有意差
C. dubliniensis 17Y V.S. CAWS p < 0.01
Fig. 2-2-2: 生 存 曲線 と 株 間 差 (C. dubliniensis 投与 群 ) ※ Table 2-2-1 の acute lethal activit y
の数値を 、菌種間で有意差検定し て求めた。
凡例:
45 0 20 40 60 80 100 0 50 100 150 200 250 生存率 (%) day
Candida parapsilosis 11Y Candida parapsilosis 12Y Candida parapsilosis 2Y Candida parapsilosis 43Y Candida parapsilosis 48Y CAWS
C. parapsilosis 11Y V.S. C. parapsilosis 43Y p < 0.05
C. parapsilosis 12Y V.S. CAWS p < 0.05
C. parapsilosis 2Y V.S. CAWS p < 0.05
C. parapsilosis 43Y V.S. CAWS p < 0.005
C. parapsilosis 48Y V.S. CAWS p < 0.05
Fig. 2-2-6: 生 存 曲線 と 株 間 差 (C. parapsilosis 投与群) 0 20 40 60 80 100 0 50 100 150 200 250 生存率 (% ) day
Candida guilliermondii 32Y Candida guilliermondii 5Y
C. guilliermondii32Y V.S. CAWS p < 0.005
C. guilliermondii 5Y V.S. CAWS p < 0.01 Fig. 2-2-4: 生 存 曲線 と 株 間 差 (C. guilliermondii 投与群) 0 20 40 60 80 100 0 50 100 150 200 250 生存率 (%) day
Candida glabrata 26Y Candida glabrata 29Y Candida glabrata 41Y Candida glabrata 46Y Candida glabrata 9Y CAWS
Fig. 2-2-3: 生 存 曲線 と 株 間 差 (C. glabrata 投 与 群)
有意差
C. glabrata 26Y V.S. CAWS p < 0.005
C. glabrata 29Y V.S. CAWS p < 0.05
C. glabrata 41Y V.S. CAWS p < 0.005
C. glabrata 46Y V.S. CAWS p < 0.005
C. glabrata 9Y V.S. CAWS p < 0.05 0 20 40 60 80 100 0 50 100 150 200 生存率 (%) day
Candida krusei 35Y CAWS
Fig. 2-2-5: 生 存 曲線
46 0 20 40 60 80 100 0 50 100 150 200 250 生存率 (%) day
Candida tropicalis 16Y Candida tropicalis 18Y Candida tropicalis 27Y Candida tropicalis 39Y Candida tropicalis 7Y CAWS
C. tropicalis 16Y V.S. C. tropicalis 18Y p < 0.05
C. tropicalis 16Y V.S. C. tropicalis 27Y p < 0.05
Fig. 2-2-7: 生 存 曲線 と 株 間 差 (C. tropicalis 投与群)
Fig. 2-2-8: 菌 株 によ る 生 存 ス コ ア の Heat map
47 ・ HWE 投与マウスの心重量、体重、組織像 観察期間の途中で死亡したマウスならびに 200 日生存したマウスの心重量を比較 し た 。そ の 結果 、途 中で 死 亡し たマウ ス の心 重 量の 方が 重い 傾 向で あ り、 心 肥大 が 示唆された (Fig. 2-2-9)。さらに、200 日生存マウスの体重は減尐傾向を示さなかっ た (Fig. 2-2-10、11)。 また、マウス心切片の HE 染色を行い、血管炎の有無を比較した。その結果、200 日生存した多くのマウスで、血管炎像が観察されなかった (Fig. 2-2-12)。これらのこ とから、Candida 菌 種 の 中 に は 、血 管 炎 惹 起 活 性 を 示す もの と示 さな いも のが あ る こ とが明らかとなった。 C . d u b li n ie n s is C . g la b ra ta C . g u il li e rm o n d i C . k ru s e i C . p a ra p s il o s is C . tr o p ic a li s C . albicans nd *** *** *** *** C . dubliniensis * * C . glabrata *** C . guillierm ondi *** C . krusei *** *** C . parapsilosis Table 2-2-3: 菌種別生存日数 途中死亡マウス 200日生存マウス
50 2-2-3 考察 本節では第 1 節で記した性質を持つ HWE による急性致死活性、血管炎を表現型と した炎症惹起活性について菌種ごとに比較した。 急性致死活性スコアから各菌種の急性致死活性を比較すると、C. albicans、C. krusei、 C. parapsilosis が 総 じ て 高 い 急 性 致 死 活 性 を 示 し た 一 方 で 、 C. glabrata 、 C. guilliermondii の活性は低く、 第 1 節 で 示 さ れ た 結 果 に 類 似 し て い た 。 更に、 血 管 炎 惹起能の結果も含めると、最も活性が高いのは C. krusei であり、次いで高いのが C. albicans であった。急性致死活性が高 かった C. parapsilosis は 、血 管炎 惹起 能 に 関 し ては C. albicans、C. krusei と有意差がつく結果となった。 前述のとおり、臨床菌株から作成された HWE は mannan を主体とする多糖 画分で あると考えられ、NMR 解析においても mannan 構造は菌種ごとに特徴的であ った(data not shown) こ と か ら 、 mannan 構 造 が 活 性 発 現 に 重 要 で あ る も の と 推 定 さ れ る 。 mannan のうちα -mannan は dectin-2 のリガンドであり、dectin-2 を 介し た活 性 化 シ グ ナルが FcRγ分 子との 会合に よって 細胞内に 伝達さ れるこ とで、 多くの 炎症性サイ トカインが生成される 40)
。CAWS に おける dectin-2 との親和性は、mannan 構造中の β-mannosyl 残基の増加とα -mannosyl 残基の減尐によって低下することが確認され ている 79) ことから、 HWE でも同様の構造活性相関があ り、菌種ごとの差異が生じ た と 考え ら れた 。実 際に 、 急性 致死活 性 と血 管 炎惹 起活 性の 構 造活 性相関 は 相関 係 数 0.72 となり、両活性は高い相関性を示した。しかし、これは直線性を示すほどに 明 確 では な く、 また 菌種 だ けで なく菌 株 ごと に 差が 生じ てい る こと 、急性 致 死活 性 と炎症惹起能に乖離が見られた C. parapsilosis 等の状況を鑑みると、単一の 構造の違 い の みで は 説明 でき ず、 複 数の 要因が 関 わっ て いる と考 えら れ た。 他にも 、 今回 得 られた HWE は CAWS と比べ、総じ て糖含量が低く、タンパク質成分を多く含んで い た 74) ほ か 、 構 造 以 外 の 要 素 の 関 与 も 検 討 す る 必 要 が あ る こ と か ら 、 今 回 明 確 な 理由の特定には至らなかった。 他方、200 日生存マウスについて、血管炎の有無を検討したところ (抜き取り検査) 、 多くのマウスで 血管炎なら びに明確な 瘢痕は認められ なかった。 通常、 CAWS を用 いた解析においては、血管炎は血管壁のリモデリングを伴う非可逆的な病変となり、 致 死 的で あ った こと から 、 可逆 的な変 化 が起 き てい る可 能性 に つい ては、 こ れま で 検討されてこなかった。そのため、弱い血管炎惹起能を示した菌種・菌株において、 可逆的な血管炎が生じた可能性は否定できない。
そもそも CAWS による急性致死は H1、H2、PAF (platelet-activating factor;血小板活
性 化 因 子 ) 、 セ ロ ト ニ ン な ど の オ ー タ コ イ ド 受 容 体 の 刺 激 や 、 補 体 レ ク チ ン 経 路 (dectin-2) を 介 し た ア ナ フ ィ ラ ト キ シ ン 受 容 体 の 刺 激 に よ る ア ナ フ ィ ラ キ シ ー 性 シ ョックであると推定されている 73)。これに対して、血管炎は dectin-2 を介 する活性
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論文目録
本研究は、以下の報告を中心にまとめた。
1. Hiroaki Tanaka, Yoshifumi Nishi, Yasuhiko Kaita, Yoshihiro Yamaguchi, Takao Shinohara, Naohito Ohno : Combination Therapy with Topical and Systemic Antifungal Agents for a Patient with Severe Burns . Japanese Journal of Burn Injuries, 22(4): 559-566 (2019) (第 1 章 ) 2. 田中 宏明 、西 圭史 、大野 尚仁、山口 芳裕 、篠原高雄 : 救命救急センター常駐 薬 剤 師 に よ る フ ェ ニ ト イ ン 処 方 支 援 の 効 果 . 日 本 臨 床 救 急 医 学 会 雑 誌 、 44(2): 71-79 (2018) (第 1 章 )
3. Hiroaki Tanaka, Chiho Yanai, Ken-ichi Ishibashi, Daisuke Yamanaka, Yoshiyuki Adachi, Koji Araki, Shota Yonetani, Hiroaki Ohnishi, Takao Shinohara, Naohito Ohno : Immunochemical Similarities in Polysaccharide Components of the Royal Sun Culinary-Medicinal Mushroom, Agaricus brasiliensis (Agaricomycetes), and Clinically Isolated Candida spp. International Journal of Medicinal Mushrooms, 21(5): 413–428 (2019)
57 引用文献 1) 東 京 消 防 庁 : 報 道 発 表 資 料 平 成 30 年 中 の 救 急 出 場 件 数 が 過 去 最 多 を 更 新 (2019.1.7). https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp -kouhouka/pdf/310107.pdf ( 最 終 ア クセス: 2019.12.3) 2) 日 本 病 院 薬 剤 師 会 : ハ イ リ ス ク 薬 に 関 す る 業 務 ガ イ ド ラ イ ン (Ver.2.1) . http://www.jshp.or.jp/cont/13/0327 -1.pdf (最終アクセス :2019.12.3) 3) 中央社会保険医療審議会: ICU におけ る薬剤師配置の効果① 第 310 回中央社 会保険医療審議会総会資料 個別事項 (その 3) . https://www.mhlw.go.jp/file/05 -Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/00001031 19.pdf (最終アクセス :2019.12.3) 4) 厚生労働省 「チーム医療の推進に関する検討会」: 「チーム医療の推進につい て」とりまとめ (2010.3.23). https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/dl/s0319 -9a.pdf (最終アクセス : 2019.12.3) 5) 厚生労働省 医政局通知 医政発 0430 第 1 号 (2010.4.30). https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/05/dl/s0512 -6h.pdf (最終アクセス : 2019.12.3) 6) 日 本 学 術 会 議 薬 学 委 員 会 チー ム 医 療に お け る 薬 剤 師 の 職 能 と キャ リ ア パ ス 分 科会: 提言 薬剤師の職能将来像と社会貢献 (2014.1.20). http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo -22-t184-1.pdf ( 最 終 ア ク セ ス : 2019.12.3) 7) 薬剤師のための救急・集中治療領域標準テキスト改訂版編集委員会 編: 薬剤師 のための救急・集中治療領域標準テキスト第 2 版. へるす出版, 東京, 2018 8) 臨床救急医療薬学研究会: ホームページ 研究会概要. http://rinshokyukyuiryoyakugaku.kenkyuukai.jp/about/ (最終アクセス : 2019.12.3) 9) 日本病院薬剤師会: 薬剤師の病棟業務の進め方 (Ver.1.2). http://www.jshp.or.jp/cont/16/0609 -2.pdf (最終アクセス : 2019.12.3) 10) 公 益 財 団 法 人 日 本 医 療 機 能 評 価 機 構 : 医 療 事 故 情 報 収 集 等 事 業 2018 年 年 報 . http://www.med-safe.jp/pdf/year_report_2018.pdf (最終アクセス : 2019.12.3) 11) 日本看護協会 : ニュースリリース (2019.7.8). https://www.nurse.or.jp/up_pdf/20190708163207_f.pdf ( 最終アクセス : 2019.12.3) 12) Sharma BR : Infection in Patients with Severe Burns : Causes and Prevention Thereof.
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