論 説
制度 的多様性、賃金格差および互恵性
一―先進資本主義経済への比較制度アプローチーー
遠 山 弘 徳
I.はじめ に
Ⅱ.制度 的多様性 と賃金格差
Ⅱ‑1.資本主義経済 の クラス ター化
Ⅱ‑2.資本主義経済 の多様性 と賃金格差
Ⅲ.持続可能 な平等主義 的経済、社会的 ノルムおよび経済的効率性
Ⅲ‑1.社会 的 ノル ム とコーデ ィネー シ ョン
Ⅲ…2.互恵性 と経済的効率性
Ⅳ.終わ りに
I.はじめ に
1960年代 末 以 降、 ア メ リカ経 済 が労 働 生 産 性 上 昇 率 の長 期 的停 滞 に悩 ま され て い た時代 、
Gordon,Bowles,and WeisskOpf[1991]は そ う した現象 を説 明す るために「 労働生産性 の社会 的 モデル」(Gordon,Bowles and WeisskOpf[1991],p.99)を 提示 した。 同モデルで は企業 内部 の労働者・ 使用者 の対立 を前提 に、失業 コス トや監督労働者 といった「社会的」要因が生産性上昇 率 の鈍化 を説 明す るために強調 され た。 このモデルの基礎 にあ ったのはBOwles[1885]に よ って 展 開 された労働抽 出モデルであ る。使用者 は可能 なか ぎり低 い賃金 で労働者 か ら可能 なか ぎり高 い 水準 の労働努力 を引 き出そ うとす る。他方、労働者 は可能 なか ぎ り高水準 の賃金 を望 み、解雇 を回 避す るの に必要 な、可能 なか ぎり低水準 の労働努力 を提供 しよ うとす る。 こうした労働者・ 使用者 の対立 において は、労働者 か ら労働努力 を引 き出 しうる使用者 の能力 は、労働者 を解雇す る使用者 のパ ヮーに依存す る。 したが って、個 々の労働者 に対す る使用者 の威嚇 は、労働者 のさば りが発覚
一‑327‑
する確率、 どの程度簡単にその労働者が使用者によって解雇 されるか、および解雇される結果発生 する期待所得の低下 (失業 コス ト)に依存す ることになる。
こうした生産性上昇率 の「社会的」 決定要因を強調す るモデルを基礎 に、Gordon,Bowles, Weisskopfはアメ リカ経済の生産性鈍化を説明 したのであった。だが、WeisskOpf[1987]は、 そ の後の研究において、生産性成長 に与える失業率一一失業 コス トの主要な決定要因一一の正の効果 という結果がサ ンプル諸国のうちアメ リカ経済だけに妥当 し、その他の先進資本主義経済において は妥当 しなか ったこと、すなわち、その効果が負であったことを示 している。
こうした発見を受 け、Gordon[1994]は労働―経営関係のあり方が生産性上昇率 に与えるイ ンパ ク トに注 目し、次のように述べている。「『労働抽出』の論理がまった く妥当 しないシステムーー労 働者の生産性 は賃金 レントにも監督強度にも依存 しないシステムーー もあれば、妥当するシステム もある。そうだとすれば、監督強度 と失業 コス トは、「 にん じん」 に依存する国に比べ、「 むち」 に 依存 す る国での方 が高 い とい うことが見 出され るか もしれ ない」(Gordon[1994],p.376.cf.
Gordon[1996],[1998])。 こうしたGordonの叙述 において明 らかな点 は、労働者を動機づけ、
労働生産性を引き上 げるアプローチにおいて、先進資本主義経済の間には多様性が存在する、 とい うことである。
同様 に、労使交渉制度が実質賃金 に与える効果 に関す る比較政治経済の研究 において も、制度的 効果の多様性が引き出されている。1970年 代初頭のサプライ ショックを契機 に、賃金交渉制度の 制度的特徴 と外的 ショックに対す るマクロ経済的な調整 との関係 に強い関心が持 たれるようになっ た。通常のマクロ経済モデルが石油 ショック後のマクロ経済的な調整において観察 された各国間バ リエーションを説明できなか ったため、制度的構造一一労使交渉制度―一が経済パ フォーマ ンスに 与える効果が注 目され始めた。 こうした研究の初期 には、集権化 された賃金交渉制度1を有す る経 済が他の先進経済諸国よりも、一一 インフレーションと失業のスコアーに基づ くと一一優 れた経済 パ フォーマンスを示す、 ということが示された。 したがって、そこでは賃金交渉制度の集権化の程 度 とマクロ経済パ フォーマ ンスとの間に単調な線形的関係一一賃金交渉制度の集権化が進めば進む ほど、失業率 (イ ンフレ率)は低下する一―が見出されたのであった (BrunO and Sachs[1985])。
そうした分析では、集権的な全国的な労働組合の連合体であれば、分権化された交渉当事者によっ ては無視 されるであろう負の外部性一一失業率、インフレの上昇一一を内部化できると強調 された。
こうして相対的に集権化 された交渉制度 はより低い実質賃金上昇をもた らす と期待 される。
だが、 その後、Calmfors and Driffill[1988]の 研究 によ り、交渉制度の集権化 とマクロ経済
1いわゆるコーポラティズム型 と呼ばれる帝J度的アレンジメントである。本稿 においては「 コーポラティズム」
概念 は集権化 された賃金交渉制度の簡便な表現 として利用 され る。同概念 をめ ぐる論争 については、 たとえ ばFlanagan[1999],Kenworthy[2001]を 参照 されたい。
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パ フォーマ ンスとの間の単調性 は否定 され、新 たに非線形の関係一一 ラクダコブ型 の関係一一が提 示 され た。相対的 に分権化 された交渉構造 を有す る経済 と相対的 に集権化 された交渉制度 を有す る 経済 は、 その両者 の中間的 な交渉構造 を有す る経済 に比べ、優 れた経済パ フォーマ ンスを示す。以 後、制度 と経済パ フォーマ ンスをめ ぐる議論 は コーポ ラテ ィズムの尺度 (Kenworthy[2001])、
集権化概念 (Traxler[2000])、 コーデ ィネー シ ョン (SOskice[199])、 あるいはその使用者組織 の役割 (Soskice[1990],Swenson[1991])を め ぐって展 開 されて い るが、 いず れ にせ よ、 こう した一連 の研究 に見 出され る共通認識 は、賃金交渉制度がマクロ経済的成果 に与え る効果 は多様だ、
とい うことであ る。 すなわ ち、制度 的多様性 の認識 である。
こう した2つの研究路線 によ って確認 されて きたの は、第1に、 経済 的効率性一― 労働生産性 一― に与え る効果 において、先進資本主義経済間で多様性が観察 され るとい うことであ り、第2に、 賃金交渉制度が実質賃金 に与 え る効果 において も資本主義経済 の多様 なアプ ローチが観察 され ると い うことであ る。本稿 は こうした研究成果 を受 け、次の2点を検討す ることにある。先進資本主義 経済 の制度的多様性 を前提 に、第1に、先進資本主義諸経済 の うち、 ある特定 の先進資本主義経済 グループが平等主義的経済成果 と両立す るに もかかわ らず、他 のグループはそ うした傾向を示 さな い こと一―平等主義的経済成果 にお ける先進資本主義経済の クラスター化一― を確認す る。 そ して 第2に、 そ う した平等主義 的経済成果 の長期持続性 を支 え る経済的効率性 を一― とりわ け人間行動 の動機づ けの観点か ら一―検討す る。 したが って本稿 の試みは、一方 において、先進資本主義経済 の クラス ター と平等主義的経済成果 の関連 を考察す る研究、他方 において、先進資本主義経済の ク ラス ターと経済的効率性 (労働生産性)の関連性 を追求す る研究―― こうした2つの研究 を踏 まえ、
先進資本主義経済 の クラスターを媒介 に平等主義的経済成果 と経済的効率性 を結 びつ けよ うとす る もので あ る。言 いかえれば、先進資本主義経済 の多様性、平等主義的経済成果、経済的効率性 の相 互 関係 を明 らか にす ることにあ る。
以下、本稿 は次 のよ うに構成 され る。第1に、先進資本主義経済 の多様性 と賃金 の平等 との関連、
第2に、社会 的 ノルムーー互恵性―一 を基礎 に先進資本主義経済 の多様性 と経済的効率性 の関連性 を検討す る。
I。 制度的多様性 と賃金格差
すで に多 くの研究 によ って観察 されて きたよ うに、 同一 の外部環境 の変化 に もかかわ らず、先進 資本主義経済 はそ うした変化 に対 して多様 な方法 で対応す る。理論的 には、 そ うしたバ リエー ショ
ンは、 あ る尺度 を基準 に連続的 に変化す るものだ と理解す ることがで きるであろ う。だが、 これま での研究成果 をみ ると、先進資本主義経済が複数 の概念的に異 な ったグループに分類 され るとい う
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見方が有力 となってきている。ある特殊な制度的特徴を有する資本主義諸経済が 1つ のクラスター を形成 し、また別の特殊な制度的特徴を有する資本主義諸経済が もう1つ のクラスターを形成する。
言いかえれば、相異なる諸制度の補完性の もた らす構造的影響力が、ある1群の資本主義経済をあ る特定のタイプの構造へ と向かわせるか、あるいは別 タイプの構造へ と向かわせ る。そ してそうし た基本的な構造的選択肢の周辺のバ リエーションが比較的小 さいままにとどまる可能性がある。 し たが って本稿において資本主義経済の「多様性」 に言及するとき、それは厳密な意味においては先 進資本主義諸経済のクラスター化を意味する (Gordon[1998],Soskice and lversen[2001])。
本節 においては、第 1に 、 これまでの制度分析 にもとづいて先進資本主義経済の多様性へのアプ ローチを確認 し、ついで資本主義のクラスターと賃金の平等0不平等を検討 した研究を検討 し、平 等主義的経済成果 と結 びつ く資本主義 クラスターを確認す ることに したい。
Ⅱ‐1.資本主義経済のクラスター化
資本主義経済の制度的バ リエーションが如何 に して経済パ フォーマ ンスに影響を与えるのか。 こ うした問題 は最近の研究では諸制度間の相互作用の観点か ら考察 されるようになってきている。た とえば、Iversen[1998]は 、賃金交渉制度 と貨幣制度の相互作用が もた らすマクロ経済的な結果 に目を向け、次のように述べている。十分に組織化 された労働組合 と使用者組織を有する先進資本 主義経済では、マクロ経済的パ フォーマ ンスーー とくに失業率一一 は賃金交渉制度の集権化 と追認 的貨幣政策 レジームとの相互作用の結果である、 と (cf.Hall and Franzese[1998],Franzese
[2002])。
こうした研究の文脈 においては、 とりわけ、Hall and Soskice[2000],Hall and Gingerrich [2001]に よって展開されている「資本主義の多様性」論が注 目されるであろう。 ここでは彼 らに よる資本主義諸経済のクラスター化を見てお くことに したい。
彼 らは、労働組合およびその運動の集権化如何 に焦点をあてた、いわゆるコーポラティズム文献 とは対照的に、「企業」を中心的なアクターと位置づける。企業 は対内的一一 自己の従業員 との関 係一一 にも対外的一一 サプライヤー、 クライアント、労働組合、経済団体等 との関係一一 にもある 特定 タイプの関係を構築す る。 こうした関係的性格を有するため、企業は数多 くのコーディネーショ ン問題 に直面する。 したが って、企業が競争優位やダイナ ミックな能力の開発に成功するか否かは、
如何 にして効果的にコーディネーション問題を解決するかに依存す ることになる。
こうした研究 は、企業が自己の競争優位を確立するために必要なコーディネーション問題の解決 に向けた相互補完的関係を展開 しなければならない諸領域を提示する。資金を調達する (金融市場)、
賃金 と労働条件 を規制す る (労使関係)、 必要技能を労働者が修得す ることを保証す る (教育およ び訓練)、 中間投入財 と技術へのアクセスを確保する (企業間関係)、 顧客獲得競争を行 う(製品市
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場)、 自己の労働者か ら協力をとりつける (企業―従業員関係)。 そ うした活動のそれぞれにおいて 成功のためのキーは、他のアクターとの効率的なコーデ ィネーションを築けるかどうか、 というこ とである。それゆえ、企業の直面する中心問題は経済の中の他のアクターを巻 き込むコーディネー ション問題である。
こうした領域 において企業が直面するコーディネーション問題を解決する方法を参照することに よって、各国資本主義経済が比較0分類 され うる。 そうした結果引き出された資本主義経済のタイ プが「 リベ ラルな市場経済」 と「 コーデ ィネー トされた市場経済」 である2。 Hall and SOskice [2000],Hall and Gingerrich[2001]に よれば、 リベラルな市場経済においては、企業 は自己の 活動をお もにフォーマルな契約 と競争的市場のア レンジメントをつ うじて コーデ ィネー トする。そ のような市場 において、 アクターは、価格 シグナルを受け、新古典派経済学流の限界計算にもとづ いて財・ サー ビスを供給 したり需要 したりする自己の意志を調整する。
コーディネー トされた市場経済においては、企業は、他のアクターとの自己の活動をコーディネー トするために、非―市場的関係により強 く依存する (コーィネーションの非市場モデル)。 コーディ ネー トされた市場経済においては、均衡は企業やその他のアクター間の戦略的相互作用の結果であ る。
したが って「資本主義の多様性」論は 2つ のコーディネーション様式を区別する。 1つ のコーディ ネーションにおいては、企業 はお もに、対等な関係 とフォーマルな契約によって特徴づけられる競 争市場をつ うじて他のアクターとコーディネー トする。 ここでは、均衡の結果がおもに、相対価格、
市場の シグナル、および周知の限界主義的考察によって規定される。 もう1つ のコーディネーショ ンにおいては、企業は典型的にはゲーム論によってモデル化 される種類の戦略的相互作用の過程を つ うじて他のアクターとコーディネー トする。 ここでは、均衡の結果は、確実なコミットメントの 形成 に利用可能な制度的なサポー トに依存する。
企業が活動を市場関係をつ うじてコーディネー トするか、戦略的相互作用をつうじてコーディネー トするかは制度的な枠組みに依存する。市場が不完全であり、確実なコミットメントの形成に対す る実質的な制度的なサポー トが存在するところでは、企業はより広範囲に戦略的コーディネーショ ンに依存すると期待 されうる。市場が流動的であり、そのようなコミットメントに対 してほとんど サポー トが存在 しないところでは、企業は市場 コーディネーションにより強 く依存する。 したがっ て、経済の中の各領域の制度的配置とそこでのコーディネーションの性格 との間には対応関係が存 在す ることになる (cf.Hall and SOskice[2001],p.28,p.32)。
2こぅしたヵテゴリアルな区月1は、名称 は異なるものの、その後の数多 くの研究において採用 されるようになっ ている。たとえば、Rueda and POntusson[2000]においては「 リベラルな市場経済」 と「社会的市場経済」
と呼ばれている。
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表‐1 資本主義経済のクラスターと賃金の平等
Hall and Soskikce [2000], Hall and Gingerich[2001]
コーデ ィネー トされた市 場経済
リベラルな市場経済 混合経済
ドイツ、北欧経済、 日本、
オース トリア、ベルギー、
オ ラ ンダ
北 アメ リカ、 イギ リス、
アイル ラ ン ド
Rowthorn[1992]
集権化 された労使交渉 分権化 された労使交渉 中程度の集権化
北欧諸経済、 オース トリ ア
Jヒアメリカ、イギリス、
イタリア、日本
ドイツ、 フランス、 オラン ダ、 ベルギー、 ニュージー ラン ド、オース トラリア
Rueda and Pontusson 120011,
Pontusson,'et al. [2001]
社会的市場経済 リベラルな市場経済 混合経済
ドイツ、オース トラ リア、
オ ラ ンダ、 ベルギー、Jヒ
欧経済、
Jヒアメ リカ、 イギ リス 日本、 オース トラ リア スイス
フ ラ ンス、 イ タ リア
賃金分散、 賃金 の平等・ 不 平等
・ 賃金分散 は低水準
・ 賃金 の不平等 を緩和す る
・ 賃金分散は高水準
・ 賃金の不平等 は高水準
賃金分散、賃金の不平等 も両 タイプのクラスター の中間的水準
表‑1に おいて、Hall and Soskice[2000],Hall and Gingerich[2001]に よ って分類 された先 進資本主義経済 の クラス ター、 そ して以下 で取 り上 げるRowthorn[1992],Rueda and Pontusson
[2001],Pontusson,et al.[2001]に よ る ク ラス ター とそれ に対応 す る賃金分散 も しくは賃金 の 不平等 が示 されて い る。 そ こにはそれぞれの ク ラス ターの代表 的 な経済 も示 されて い る。分類 カテ ゴ リーに入 る経済 に若干 の異同があ るものの、 いずれの研究 において も、資本主義 の クラス ターは 制度 も しくは諸制度 の相互作用 に基 づ いて い る。
Ⅱ‐2.資本主義経済 の制度的多様性 と賃金格差
先進資本主義経済 は相異 な った諸制度 の補完性 に もとづ き各国 に固有 の ダイナ ミックスを有 す る ク ラス ターを形成す る。 こうした各 クラスターは経済パ フォーマ ンス と如何 な る関係 にあるのか。
本稿 で は と くに、先進資本主義経済 の多様性 が労働市場 の成果 にお ける平等・ 不平等一一 賃金格差 一一 に如何 な る効果 を与 え るのか、 とい う点 に焦点 をあて る。
Rowthorn[1992]の 研究 は、先進 資本主義経済 の多様性一一 賃金交渉制度 のバ リエー シ ョンに もとづ く一― を平等主義 に関連づ け、両者 の関連 に関す る経験的証拠 を示 した先駆的 な研究 といえ るで あろ う。Rowthornは、Hall and Gingerich[2001],Hall and Soskice[2001]の 研究 と異 な り、諸制度 の補完性 に もとづ き資本主義 の多様性分析 を展開 して はいない。 だが、労使交渉制度 を軸 に資本主義 の多様性 が確認 され、 しか もその分類 は事実上Hall and Gingerich[2001],Hall and Soskice[2001]の分類 に ほぼ対応 す る もの とな って い る (表‑1参照)。 その さい、彼 が平等
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賃 金 分 散
30 27.5 25 22.5 20 17.5 15 12.5 10 7.5
図1 分権化 と賃金分散
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 分 権 化
e 7rt)h
tr
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t-^l-2u7.
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OEA
賃 金 分 散=11.199+.507*分権 化:ば2=.201
注) Rowthorn[1992],p.102の データをもとに作成
の尺度 として採用 したのは賃金分散、および賃金分散 と雇用の合成インデ ックス (INDEEDイ ン デックスとラベルづけられている)である。
Rowthornが最初 に取 り上 げる不平等 の尺度 は賃金分散である。RowthOrnはそ うした尺度 と Calmfors and Driffill[1988]に よって考案 された賃金交渉の集権化スケールを利用 し、賃金交 渉制度 と賃金分散 との間に正の関係を見出 している。
こうした賃金分散の指標 と分権化が図‑1においてプロッ トされている。 この図は1985年の賃 金分散 と賃金交渉の集権化に関するデータにもとづいている。縦軸の賃金分散は製造業の産業別稼 働所得水準 の変動係数3でぁ り、 横軸 には賃金交渉 の集権化 スケール (Calmfors and Drif負ll
[1988])が示 されている (数値が大 きくなるほど、賃金交渉が分権化 されていることを示す)。 ま た両者の相関をみるために回帰線を描いてある。図‑1を みると、それ らの2つの変数のあいだに 正の相関がみ られる。 ノルウェー、デ ンマークおよびスウェーデ ンといった相対的に集権化 した経 済が比較的低い賃金分散を持ち、他方、北 アメ リカや日本 といった高度に分権化 した経済はきわめ て高水準の賃金分散を持つ。集権化 と賃金分散のあいだには、比較的単調な、逆の関係が存在する とみることができるであろう4。 したが って、集権化 された賃金交渉制度を有する経済が、分権化 された賃金交渉制度を有する経済に比べ、賃金格差を抑える上で優れていると言える。
3 RowthOrnの賃金分散 の指標 には、第 1に 、従業員数にによってウェイ トづけられ外れ値の影響が及ばない ように工夫 されている。第 2に 、性別カテゴリーを取 り入れ、性別賃金格差が考慮されている。
4 Rowthornは、賃金交渉制度の集権化の程度が労働市場の平等主義的な経済成果 (賃金分散)に与える効果 を回帰分析 によって も確認 している (Rowthorn[1992],Table 4.7)。 そ うした回帰分析の結果、1973年 に おいて も 1985年 において も賃金交渉の集権化の程度が賃金分散に与える効果は統計的に有意であり、符号 も 期待 されたように正の効果を示 している。
‑333‑―
RowthornはINDEEDイ ンデ ックスにより以上の議論をさらに展開 している。
雇用パ フォーマ ンスに関するもっとも簡単な尺度 は就業者数である。 しか しそ うした尺度では職 の質をみることはできない。たとえば、ある国が労働者を低賃金の職、周辺的な職に従事 させ るこ とによって雇用を創造できたとしよう。だが、そうした経済のパ フォーマンスは、十分な賃金、雇 用保証 を提供 し、 しか も同一の雇用を創造できる国に比べ、一一労働者の観点か らみて一一望 ま し いものではなかろう。
低水準の賃金の職 は往々に して低生産性の職であり、そ して高い水準の賃金分散をもつ経済 は配 分の不効率を含む。低賃金、低生産性活動に従事する労働者の中には、他の場所で雇用された場合、
より効率的に作業を遂行 しうる労働者が存在するであろう。 また、不効率な企業は、平均 よりはる かに低い賃金を支払 うことができることによつて、存続 し続けることができることになるであろう。
こうしたケースでは、労働力資源の配分 において誤 った配分が存在することになる。
したが って、 きわめて高い賃金分散 は、現在の雇用が労働者の観点か らみて満足行 くものではな く、また、労働資源の誤 った配分であり、人間的潜在力の浪費だ、 ということを示す ものであろう。
こうした認識に基づき、Rowthornは雇用者比率 と賃金分散 を合成 したインデ ックスーーINDEED
イ ンデ ックスーー を考案 している。 このインデ ックスは、言いかえれば、賃金格差 と雇用創出の観 点か ら、各国経済の不平等を尺度す るものといえるであろう。
具体的には、 そのイ ンデ ックスはINDEED=ER一 DISPと して定義 され る。ERは雇用者比 率 (15‑64歳人 口の百分比 としての雇用)であ り、DISPは賃金分散 の尺度 (産業別時間あた り稼 働所得の変動係数 (%))である。
65
60
55
50
45
35
30 口 Ш Ш a z
︻
図2 分権化 とlNDEED O
□
△
◇ +
×
●
■
▲
◆
O
■ 国
▼
▼
◇
0
INDEED=50.147‑.676*三分権化:R^2=.203
注)Rowthorn[1992],p.102のデー タを もとに作成 アメリカ イギリス イタリア オーストラリア オーストリア オランダ カナダ スイス スウェーデン デンマーク ドイツ ニュージーランド ノルウエー フィンランド フランス ベルギー 日本 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
分権化
‑334‑一
図‑2には各国のINDEEDイ ンデ ックスと分権化がプロットされている。期待 されるように、両 者の間には負の相関が観察 される。図‑1のケース と同 じように、 ノルウェー、 デ ンマークおよび スウェーデ ンといった相対的に集権化 した経済が比較的高いINDEEDを持ち、他方、北 アメ リカ や 日本 といった高度 に分権化 した経済 はきわめて低いINDEEDを持つ。 ここにおいて も、集権化 された賃金交渉制度を有する経済が、分権化 された賃金交渉制度を有する経済 に比べ、賃金格差を 抑え、雇用を創出する上で優れていることを見出される。 とりわけ、北欧諸国 (スウェーデ ン、デ ンマーク、 ノルウェー、 フィンラン ド)はこのイ ンデ ックスで は最良の結果を示 しているが、
Rowthonはそ うした北欧諸国の優れたパ フォーマ ンスの理由について次の点 にあると見ている。
(1)男性 と女性の両方 についての相対的に高い雇用、(幼その 2つ のグループそれぞれ内部の平均的賃 金分散の低 さ、侶)低い男女間の賃金格差、 この3者を結びつける能力である。
その他 の経済 のINDEEDパフォーマ ンスは、 北欧諸国 に比べ、一様 に劣 っている。 だが、
INDEEDイ ンデックスを分解すれば、ゴヒアメ リカと日本 は雇用パ フォーマンスについては良好で あるものの、賃金分散 は高水準である。北欧以外の ヨーロッパ諸国は雇用 も賃金分散 も低水準であ り、結果的にINDEEDイ ンデックスにおいて北アメリカや日本 とほぼ同 じ水準を示 している。
Rowthornはこうした不平等 に異 なったパ ター ンを見ている。格差の主たる分割線が ヨーロッ パ諸国では失業者 と被用者 との間にあり、北アメ リカのケースでは高い賃金を受け取る労働者 と低 賃金労働者 との間にある。両方のケースと比較すれば、北欧諸国は、十分な賃金を提供できる数多
くの職を提供することにより、両種類の不平等を最小限にとどめたといえよう。
こうしたRowthornの研究 において2つの成果を見 ることがで きる。1)集権化の構造 と労働 市場成果の平等の程度が賃金分散 とINDEEDイ ンデ ックスを利用 して経験的に確認 された。賃金 分散でみて もINDEEDイ ンデ ックスでみて も、相対的に集権的な交渉構造を有する経済が、相対 的に分権化 された経済に比べ、労働市場 における平等主義的経済成果をもた らす上で優れているこ とを経験的に明 らかに した。だが、集権化 された賃金交渉制度 と平等主義的成果の相関が示されて いるものの、なぜ集権化された賃金交渉制度を有する経済が労働市場における平等主義的経済成果 を もた らすのか、その経済的説明が展開されていない。
2)INDEEDイ ンデ ックスにおいて とりわけ明瞭であるが、平等主義的経済成果を達成する上 で、異なったアプローチが存在する。(1)雇用者比率を引き上げる、(2)賃金分散を引き下げる、
(3)その両者を達成する。 こうした分析において興味深い点は、集権化された賃金交渉構造を持ち、
しか も優れた雇用パ フォーマ ンスを達成 した経済であって も、賃金分散が高 く、INDEEDが相対
的に低 い経済が存在するということである (オース トリア)。 これは、集権化 された賃金交渉が良 好な経済パ フォーマ ンスを もたらす として も、平等主義的な経済成果を達成する必要かつ十分条件 ではない、 ということを含意する。
一‑335‑―
すでに指摘 したように、北欧諸国は、十分な賃金を提供できる数多 くの職を提供することにより、
雇用および賃金の不平等を最小限にとどめた。そうした経済においては平等主義的経済 目標への強 いコ ミットメントが存在する。言いかえれば、そ うした経済においては平等に高い価値が与え られ る。そうした価値観 とマクロ経済的パ フォーマンスの結びつける経済論理 は明 らかではないが、 こ こでは社会的ノルムの重要性が浮かび上が って くるヽ
Rowthornと 同一方向の研究 はRueda and Pontussbn[2000]お よびPontusson,Rueda and Way[2002]に よって も展開されている。だが、彼 らの研究 はHall and Gingerich[2001],Hall and Soskice[2001]の 「資本主義の多様性」論 を自覚的に受 け止めるものであ り、先進資本主義 諸国が異なった因果 ダイナ ミックスを有するクラスターを形成するというアイデアが賃金の不平等
にも適用可能であるかどうかを検討 している。
Rueda and Pontusson[2000]の 利用す る、先進資本主義諸経済の クラスター化 は、社会的市 場経済 と リベ ラル市場経済の区別 に基づ く。 この区別 は基本的にSoskice[1990](cf.Hall and Sooskice[2001])の アイデアに従 うものである。だが、Soskicら とは異なり、制度の補完性 は取
り上 げ られていない。 したが って、Soskiceら のコーディネー トされた市場経済 とリベラル市場経 済 とはい くぶん異なった先進資本主義経済のグループ化を もた らす。
3つ の基本的特徴が社会的市場経済を リベラル市場経済か ら区別する (Rueda and Pontusson
[2000], table. 2, p.365)。
(1)社会的市場経済 は、公的な機関に資金調達 された社会福祉 システムによって特徴づけられる。
こうした公的な福祉プログラムは留保賃金を相対的に高水準 にする。 また、失業給付、再訓練機 会、疾病保険等を提供することで特定の使用者への労働者の依存性を低下 させ る。 こうした制度 的特徴 は、Esping―Andersen[1990]の脱商品化指標、国内総生産 に占め る総社会支出によ っ て代理 される。
唸)社会市場経済 は、雇用条件を標準化 し、高水準の雇用保障を提供す る政府規制 によって特徴づ けられる。 これによって使用者が労働を解雇するコス トが上昇する、また、セクターおよび職務 横断的に雇用条件が標準化 される。賃金スケールが圧縮 され、賃金差別 は、 リベラル市場経済 に 比べ、社会的市場経済では一般的ではない。 フルタイム従業員 とパー トタイム従業員の雇用条件 もまた類似傾向にある。 こうした社会経済 システムの制度的特徴 は雇用保護イ ンデ ックスによっ て代理 される。
5社会的 ノルムと平等主義的政策へのコ ミットメン トの関係 については、Teulings and Hartog[1998]に お いて検討 されて い る。 彼 らは コーポ ラテ ィズムの 2つ のイ ンデ ックス (BrunO and Sachs[1985]と Calmfors and Driffill[1992]の イ ンデ ックス)を社会的 ノルムのイ ンデ ックスに関連付 けている。彼 らは、
コーポラティズムのランキ ングが「男権主義」 と「権力の距離」 と逆 に関連す る傾向にある、 という証拠を 見出 し、 コーポラティズムが平等主義的な価値観 と結びついていることを確認 している。
一‑336‑―
侶)社会市場経済 は、団体交渉 の制度化 と賃金形成 の コーデ ィネー ションによ って識別 され る。賃 金形成 の コーデ ィネー シ ョンによ って、経済 の各 セクターの賃金が リベ ラル市場経済 に比べ よ り 緊密 に結 びつ け られて い る。社会的市場経済 において特徴 的な ことはコ,ディネー シ ョンが団体 交渉 をつ うじて発生 し、 その過程 において労働組合 に中心的役割が与 え られ る。 こうした社会経 済 システムの制度的特徴 は団体交渉 のカバ レッジによ って表現 され る。
以上3点に基づ いて識別 された リベ ラル市場経済 と社会的市場経済が賃金 の不平等 に有意 な効果 を 与 え るか ど うかが問われ る。Rueda and Pontussonに よ って採用 され る賃金 の不平等 の尺度 は10 パ ーセ ン トタイルの稼働所得 に対す る90パーセ ン トタイルの稼働所得 の比率である。以下 の表‑2 において彼 らの分析結果が示 されて い る。10‑90パーセ ン トタイルの稼働所得比率が、「 社会的市 場経済」、「 リベ ラルな市場経済」、両者 の中間の「 混合経済」別 に労働市場要因、制度的要 因 に回 帰 されて い る。
と くに注 目すべ きは、交渉 の集権化 (Bargaining centralization)に関す る係数 で あ る。 同係 数 は社会 的市場経済 と リベ ラルの両方 において負 であ るが、集権化 の平等主義的 イ ンパ ク トは、社 会 的市場経済 においての方 がか な り大 きい し (マイナ ス 0.085の 係数)、 リベ ラルな市場経済 にお ける集権化 の係数 は90パーセ ン トの統計 的有意水準 を ク リアーで きていない。 したが って、集権 化 の平等主義的効果がかな り社会的市場条件 に依存す る、 とい うことが見 出され る。
同 じ結果 は女性 の労働力率 (Female labor― force participation)に つ いて も観察 され る。女性 の労働力率 の平等主義 的効果 は社会的市場条件下でのみ発生す る (マイナス 0.59の 係数)。 女性 の 労働力参加 が西 ヨー ロ ッパ の社会的市場経済 において低 い賃金不平等 と関連 して いるよ うであ る。
表2 社会 的市場経済、 リベラルな市場経済および混合経済 における賃金 の不平等 (1973‑95)
社会的市場経済 リベラルな市場経済 混合経済
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2
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‑,0004 (.∞0
̲003 (.010
̲059
(.071)
̲114
(.048) 一.085
(.023)
̲082
(.046)
̲005
(.011) Lagged dependent
v"ariable Unemployment LDc trade Fenale labor-force
panicipation Union density Ba{gaining
ccntraliatioD Government
employment Government
panisanship
澄:)Rueda and Pontusson[2000], p.374
‑337‑―
社会 的市場条件下 にお ける女性 の労働力率の負の係数 は、 スカ ンジナ ビア諸国の社会的市場経済が、
Rowthornが指 摘 した よ うに、 労 働 力率 が比較 的高 く、 賃金分散 が よ り圧縮 され いる とい う事実 を反映す るものであろ う。
政府雇用 (Government employment)に関す る結果 は女性 の労働力参加 の結果 と類似 して いる。
平等主義 的効果 は社会的市場経済 においてのみ発生す る。 リベ ラル市場経済 に関 して は、政府雇用 の係数 は正 である。 公共 セクターの賃金交渉 の顕著 な平等主義的傾 向は社会的市場条件 に依存 して い るよ うである。Rueda and Pontussonの結果 は、公共 セ クターの賃金 プ レ ミアムが不平等主義 的効果 を持 つ ものの、社会的市場経済 の コーデ ィネー トされた賃金交渉が公共 セクターの賃金 プ レ
ミアムの範囲を縮小 させ る、 とい うことを示唆す る。
彼 らの経験 的分析 は、資本主義 の多様性 が重要 で あ る、 とい うことを示す。 とりわ け注 目すべ き は、社会的市場経済 の諸条件が賃金 の分布 に対す る市場 の諸力 のイ ンパ ク トを和 らげる、 とい うア イデアが経験的 に支持 されている点 である。言 い換 えれば、先進資本主義経済 において は賃金 の不 平等 にお いて一律 な、普遍 的 な トレン ドが観察 されない。賃金 の不平等 を決定 す る要 因が先進資本 主義経済 の クラス ター間で異 な って いる。社会的市場経済 と呼 ばれ る資本主義経済 の クラス ターが 賃金 の不平等 を抑制 す る上 で他 の クラス ター以上 に優 れて い る、 とい うことで あ る。
Rowthorn[1992]の 研究結 果 と同 じよ うに、Rueda and Pontusson[2000]に お いて も、 先 進資本主義経済 のあ る特定 の クラス ターが労働市場 の平等主義的経済成果 と結 びつ いて いることが 確認 されて い る。 だが、 ここで も、両者 の関連性 は経験的 に確認 されているものの、 その経済的論 理 は説 明 されていない。一方 における先進資本主義経済 のあ る特定 の クラス ター、他方 にお ける労 働市場 の平等主義 的成果一一 こう した両者 の相 関 は見 出 されて い る ものの、両者 はいか に して結 び つ け られ るのか。
平等主義 的 な経済 ガバ ナ ンスが長期持続 的で あ るか ぎ り、 そ こにはその持続性 を支 え る経済 的論 理が見出され るであろう。言 いかえれば、平等主義的経済成果 と関連す る資本主義経済 のクラスター (集権 化 され た賃金交渉制度 および社会 的市場経済)には、経済的効率性 を引 き上 げる、 もしくは 少 な くとも維持 す る経済論理 が存在 す るはずで あ る。 したが って、 あ る特定 の先進資本主義 の ク ラ ス ターの制度 および制度 の複合体が如何 な るチ ャンネルをつ うじて経済的効率性 に寄与す るかを検 討す る必要 が あ る。 そ こで次 に「 平等主義的政治経済か ら経済的効率性 へ」 とい う問題 を検討す る
ことに したい。
Ⅲ.持続可能 な平等主義 的経済、社会的 ノルムおよび経済 的効率性
平 等一 効率性 の トレー ドオフにはすでに経験 的観 点か ら多 くの疑 間が投 げかけられている (Bowles,
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Gorodn and Weisskopf[1991],PerrOti[1996],Bowles and Gintis[1998])。 そ う した研究が 示 して きたの は、平等主義的な経済成果が必ず しも経済的効率性 と矛盾す るもので はない、 という ことであ った。
た とえば、GordOn[1998]は、労 働者 と使用者 の関係が協調 的で あ る経済 と両者 が対立 的であ る経済 の下 での労働生産性 を比較 し、「 中期的な生産性上昇率が急成長 したのは、平均で見 ると、
対立 的経済 で はない。実際協調 的経済 の方 のよ うだ」(Gordon[1998],p。 196,邦訳198ペー ジ) と指摘 している (cf.Gordon[1996])6。
こう した協調的経済 あ るいは平等主義的経済 はなぜ経済的効率性 を高 めるのか。第1に、協調的 経済 において は、労働 を コ ン トロールす るにあた って賃金 イ ンセ ンテ ィブを利用す る傾向にあ り、
対立 的経済であれば必要 とされ るよ うなモニ タ リングコス トが節減 され る。 すなわ ち、労働者 をモ ニ ターす る要員や資源が不要 となる。第2に、対立 的経済で は利用で きないよ うな「信頼」「 協調」
とい った社会的 ノル ムが利用可能 とな る。 こうした社会的 ノルムが経済的エー ジェン トの直面す る さま ざ まな コーデ ィネ ー シ ョン問題 を解 決 す るの に役立 つ可能性 が あ る (Bowles and Gintis
[1998])7。
第1の理論的経路 は労働 コン トロールにあた ってのモニタ リング資源の浪費の節減を指摘す るも ので あ る (GordOn[1994],[1996],[1998])。 その場合想定 され る労働―使用者 関係 は囚人 の ジ レ ンマの状況 と して描かれ る。 そ こでは両方 の経済主体 にとり状態 を改善す る戦略が存在す るにもか かわ らず、 コーデ ィネー シ ョン問題 を解決で きないため、 そ うした選択 へ といた らない状況で あ る8。 だが、労働者―使用者 関係 には もう1つの解釈 が可能 であ る。 すなわち、贈与交換 ゲームと 解釈 す る ことがで きる。平等主義 的経済一一「 信頼」「 協調」 とい った社会的 ノルムの形成 され る 経済―一 の下 で は、 と くに分配 が公正 と受 け止 め られ た場合、労働―使用者関係 において「 正 の互 恵̀性」(Fehr and Gachter[2000],Falk and Fischbachter[2002])も しくは「 ポ ジテ ィブな階 級妥協」(Wright[2000])が 形成 され る。公正 や互恵 が重要 とな る場合、労働―使用者 関係 は贈 与交換 ゲーム と解釈す る方が適切 であろ う。
平等主義的経済か ら経済的効率性への第2の回路 は直接的である。 どの文化 に属 していよ うとも、
経済的 エー ジェ ン トは自己の最善 の利害 を追求す るが、社会的 ノルムの体系が経済的エージェン ト 6こ ぅしたGordonの
発見 は Buchele and Christiansen[1999]の 「労使関係の協調 モデル」において も確 認 されている。彼 らの理論モデルの構造 は、労働者の権利、およびその権利が労働一経営の協調度に与える 正の効果が、労働生産性 に与える直接的な効果 と、労働者 1人 当たり資本の成長への正の効果をつ うじた労 働生産性への間接的な効果によって描かれる。彼 らは、労働生産性上昇率を、労働者の権利 と労働―経営協調 の因子 スコアーのイ ンデ ックスに回帰 させ、次のように結論づけている。資本強度をコントロール した場合、
労働者の権利 と労働一経営の協調度が労働生産性上昇率 に強い正の効果をあたえる、 と。
7平等主義的政治経済か ら経済的効率性への経済論理を考察する場合、一一本稿では焦点が人間行動の動機づ け問題 に置かれるが一一、 いわゅるRehn=Meidnerモデルによ って定式化 された方法 も可能であろう。 な お、同モデルについては Agell and Lommerud[1993],Moette and wallerstein[1995]を 参照 されたい。
8たとぇば、BOwles and Gintis[1998],p.16、 井5訳33ペ ージにおける説明を参照 されたい。
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に影響 を与 え、異 な った結果 を もた らす可能性 が あ る。平等主義的政治経済 の下 で は「 信頼」「 協 調」 とい った社会 的 ノルムが存在 し、 そ う した ノル ムが経済 的 エー ジェ ン トの行動 に影響 を与 え る 可能性 が あろ う。
したが って、 いずれの回路 において も、焦点 は社会的 ノルムであ る。以下 で は、第1に、社会 的 ノルムが経済的 エー ジェン トの行動 に影響 を与 え、異 な った結果が発生す るとい うことを確認す る。
その上で、第2に、協調、信頼、公正 とい った社会 的 ノル ムが如何 に して経済 的 エー ジェ ン トの行 動 に影響 を与 え、経済 的効率性 を達成 す るか を検討す ることに したい。
Ⅲ¨1.社会 的 ノルム とコーデ ィネー シ ョン
第1の問題一一 社会 的 ノル ムが経済 的 エー ジェ ン トの行動 に影響 を与 え るか否 か一一 を考察 す る 場 合、Greif[1994]の歴史研究、 および Heinrich,et.al。,[2000]のゲ ームに基 づ く実験 が有益 な手がか りを提供 して くれ る。
マ グ レブとジェノバの貿易商 の持続的 な文化 的相違 に関す るGreif[1994]の研究 は、社会 的 ノ ル ムにつ いて興味深 い素材 を提供 している。彼 はあ る特定 の文化 に特殊的な信念 を見 出 し、 そ うし た信念 が、すべてのプ レイヤーを誘発 し文化―特殊 的戦 略 に忠実 で あ るよ う動機 づ ける、 同時 にそ う した信念 を維持す るよ う動機づ ける、 とい うことを示 している。
11世紀 にお いて、 マ グ レブ貿易商 もジェノバ貿 易商 も、 同一 の航海技術 を用 い、 同一 の財 を交 易 しなが ら、地 中海 を旅 して いた。両集 団 とも同 じエー ジェ ンシー問題 に直面 して いた。両集団 と も、 エー ジェ ン トが正直であ ることを期待 し、地 中海周辺 の遠方地域 のエー ジェ ン トに販売製 品を 渡 さなければな らなか った。 エー ジェ ン トの正 直 さを保証 す る方法 は、 エー ジェ ン トに市場賃金以 上 の賃金 を支払 うことである。不正 直だ と分 かれば、 エー ジェ ン トは解雇 され、市場賃金 を超 え る 将来 の期待価値 を失 う。
両文化 とも、 エー ジェ ン トを動機 づ けるために「 高賃金」 とい うニ ンジンと「 雇用関係 の打 ち切 り」 とい うムチを適用 して い る。 しか し、執行 メカニズムの詳細 はま った く異 な って い る。 ジェノ バの個人主義的な文化 において は、貿易商 にとり、 エージェン トが過去 の雇用関係 において正直で あ ったか どうか は問題ではない。彼 は失業者 プールか らランダムにエー ジェン トを雇用 し、そのエー
ジェ ン トが欺かないよ うに十分高 い賃金 をエー ジェ ン トに提供す る。
マ グ レブの集団主義的文化 はま った く異 な った方法 でエー ジェンシー関係 を組織化す る。 そ こで はだれ もが他 のメ ンバ ーのや り方 を守 る。 クラ ン内の他 のメ ンバ ーに秘匿で きるよ うな詐取 は存在 しない。 マグ レブ商人間の手紙 は、 だれがだれをだま し、 どの エー ジェ ン トが強盗 か ら財産 を守 っ たか、 とい った内容で 占め られ る。貿易商 もエー ジェ ン トも、1度欺 いたエー ジェ ン トを クラ ンの 他 の貿易商が再 び雇用す ることはあ りえない とい う信念 を共有 す る。 したが って、 マグ レブの文化
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において は、2つの要因が エー ジェ ン トによる詐取 を抑制 している。第1に、 エー ジェ ン トが現在 の職 を失 うことを恐 れ るとい うこと、第2に、正 直 なエー ジェ ン トで ある とい う自己の評判 を失 う こと、 したが って将来 のすべての職か ら排除 され ることである。1度詐取 を はた らいたエー ジェ ン トは自分の評判を永遠 に失 うため、それ以後の詐取のコス トが低 くなる。なぜな らば彼は、欺 くか 否かにかかわ りなく、別の職を得 られないということを知 っているか らである。評半Jの良いエージェ ントは両方の要因を恐れる。 したがって、低い賃金で も評判の良いエージェントの正直さを維持す るに十分である。だが、評判の悪いエージェントはそ うではない。マグレブの貿易商は過去におい て正直であったエージェントを雇用することを選好する。それというのも、彼 らがより安価だか ら である。
対照的に、 ジェノバの貿易商はエージェントの評判を気に しない。過去の行動そのものが将来の 行動 に関する情報をまった くもた らさないか らである。他のジェノバの貿易商が評判を気にしない ために、詐取 しようが しまいが、正直者 という評判を失 うことがエージェントの決定に影響を与え ることはない。 したが って、良好な評半1を有す るエージェン トは悪い評半Jを持つエージェン トと同 様に欺 く可能性がある。貿易商はだれを雇 うかについては無差別であり、賃金は等 しくなるであろう。
マグレブとジェノバの事例によって、 ノルムが結果に影響を与えるとういことが明 らかである。
両文化 において、すべての貿易商 とエージェン トが自己の最善の利害において行動する。それにも かかわ らず、 ノルムの体系 は異なった結果をもた らす9。
同様 の結果 はゲーム理論 にもとづいた実験 において も確認 されている。Henrich et al.[2001]
は最後通牒ゲーム、公共財ゲームおよび独裁者ゲームを利用 し、複数の文化にわたる行動研究を行 なっている。 ここでは最後通牒ゲームについてのみ触れてお くことにしよう。
Henrich et al.[2001]は 17社会 の集団すべてにおいて最後通牒ゲームにもとづ く実験を行 っ ている。 このゲームにおいて、「最 も貧 しい者」が、暫定的に、当該社会の中の 1日 か 2日 分の賃 金に等 しい金額を割 り当て られる、そ して第2の人一一応答者一― にオファーを提示するように求 め られる。応答者 はそのオファーを受け入れるか もしれない し、拒否するか もしれない。拒否する 場合には、2人はまった く何 も受 け取 ることができない。
両プ レイヤーが正統的新古典派モデルに したがい、そ してそうしたことが両者の共通知識である
9いずれの文化 システムが効率的であるのか、 この点 について触れておきたい。マグレブの貿易商は、マグレ ブのエージェン トの正直さを維持するため、そうした情報を欠 く他文化出身のエージェントを雇用できない。
他方、 ジェノバの貿易商 はそ うした情報を必要 としない。 このため ジェノバの貿易商は情報問題に直面 しな い。 それゆえ、 ジェノバの貿易商は他の文化に浸透 してい く可能性がある。 しか し、そのことは、 ジェノバ の文化がより効率的だ、 ということを含意す るものではない。実際、効率性に関する最終的な結論を下す こ とは難 しい。集団主義的 システムは経済内部のエー ジェンシー関係を維持する上では効率的であり、 フォー マルな組織 にはコス トを要 しない。だが、同 システムは、複数の経済間のエージェンシー関係を制約する。
他方、個人主義的 システムは複数の経済間のエージェンシー関係を制約 しないが、経済内部の関係を維持す るにあたっては効率性に劣 り、 コス トのかかるフォーマルな組織を必要 とする (Greif[1994],p.942)。
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