奈良教育大学学術リポジトリNEAR
Dioscoreaceaeの粘質物について
著者 池尾 和子
雑誌名 奈良学芸大学紀要. 自然科学
巻 12
ページ 15‑18
発行年 1964‑02‑29
その他のタイトル Mucilaginous Substances from Dioscorea batatas DECNE. fo. tsukune MAKINO
URL http://hdl.handle.net/10105/3457
奈 良学芸 大(自然)第12巻 昭和39年 J. Nara Gakugei Univ. (Nat.), Vol.12, 1964
Dioscoreaceaeの粘質物について
池 尾 和 子 (奈良学芸大学化学教室)
昭和38年10月3日受理
Mucilaginous Substances from Dioscorea batatas DECNE.
fo. tsukune Making
Kazuko IKEO
(Department of Chemistry, Nara Gakugei University, Nara, Japan) Received October 3, 1963
Muci】aginous substances were prepared from Dioscorea batatas Decne. fo. tsukune Makiyo and the properties varied slightly depending on the employed precipitants,
ethyl alcohol, hydrochloric acid, or acetic acid. Though it contained as much asァ蝣!%
K, it did not readily go into solution in aqueous medium, and o.4%> K still remained even in acidic medium without passing into solution. The mucilage from hydrochloric
acid formed a viscous s〇lution with alkali. Taking together some evidence suggesting
the presence of anthocyans, it was infered that the potassium might be bound with anthocyans. Besides potassium, there were detected some minerals (sulfur, calcium and phosphorus), some sugars (glucose and galactose), uronic acid, and some amino‑acids
(Val, Gul, Arg, Asp, Pro, Ssr, Met, Ala, and Gly〕 Determinations were also made
on the comp〇nent elements, the con油ined ash, and the amounts of the anthrone‑test
positive or the Somogyi‑Nelson‑test positive substances.
緒 言
つくねいも{Dioscorea batatas Decnb. fo. tsukune Marino)は"とらろ"として日本独得 の風味として人々に親しまれ食卓を版はしている Dioscorea属植物中japonica Thunb.又 はbatatas Decn臥fo. rak〟da Makino,同じくfo, typica Makino (一年芋,長芋等)につい ては多数の研究報告こ1.2,3)があるが,つくねいもについては,上田英之助,佐々木豊作両氏(A)の 報告をみるにすぎない.筆者は先づDioscoreaceae中の兵庫県丹波産のつくねいち(Dioscoγea batatas Decne. fo. tsukune Makino)の粘質物について研究した.
実験と結果 1.試料の調整
つくねいもの外皮を除き粉砕し,約3倍容の水中に一昼夜浸漬させた.その溶液を遠心分離に
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より沈殿と上澄液に分離した.沈殿物は水にて再び撹拝し遠心分離により上澄液を得,前記の上 澄液と合せた.この上澄液にエチルアルコール,塩酸及び酷酸を別々に加え,粘質物を沈殿さ せ,遠心分離によりこれ等の沈殿物を分離した.沈殿物を夫々99%エチルアルコール及びエチル エーテルにて数回洗源し,デシケ‑メ‑中で乾燥させ粉末とした.エチルアルコールにキる粘質 物,塩酸及び酷酸による粘質物の各粉末につき,ヨード反応を行った.塩酸及び酷酸による粘質 物はヨ‑ド反応が陰性であったので, ・これ等を塩酸及び酷酸法による粘質物の試料とした.エチ ルアルコールによる粘質物は,ヨード反応が陽性であったので,この粘質物を水で再び膨潤させ 遠心分離後,上記同様エチルアルコールにより沈殿させ,エチルアルコールによる粘質物の粉末 を得た.このものはヨード反応が陰性であった.これをエチルアルコール法による粘質物の試料 とした.夫々の収量はTablelの通りである.エチルアルコ‑ルによるものは0.21%,塩酸 によるもの0.91%'‑0.55^,酪酸によるもの0.7096‑0.5196であった.つくねいもよりの全粘 質物の平均収量はほぼ2.5^であった.
Table 1. 粘質物の収量,カリウム含量及び灰分
収 量1カリ ウ ムl 灰 分収 量
灰中のカリウム
ェテルアルコ‑ル法による粘質物
¥%) i (as)
冒蒜21 5.75
塩 酸 法 に よ る 粘 質 物 0.91‑0.55 0.40醇 酸 法 に よ る 粘 質 物 0.70‑0.51 .41
6.72 8.01
0.69 (形)
*第1回目の沈殿による粘質物の収量 2.定性実験
2.1.粘質物としての一般定性実験'.佐ヨード反応は夫々の粘質物について陰性であった. ㊨ フェーリング反応も陰性であった. 香,ビューレット反応及びニンヒドリン反応は夫々陽性であっ た. ㊤水に対する膨潤度:エチルアルコール法による粘質物は水によって膨潤するも塩酸法によ る粘質物は殆んど水によって膨潤せず,アルカリ溶液中においてのみ膿潤した.
2.2.無機成分: ⑦カリウム:硫硝酸分解後,コパルチ亜硝酸塩及びカリポール(Sodium‑Tetra‑
phenylborate)により確認した. ㊨,硫黄及び硫酸基:カリウス法及び赤外吸収スペクトルによ り確認した. ㊦燐:カリウム同様分解後,モリブデン酸塩及び赤外吸収スペクトルにより確認し た. ㊤カルシュ‑ム:フェロシアン化アンモニュームにより又炎光分光分析により確認した.庫ニ・
鉄及びマグネシューム.・存在推定出来るも確認出来なかった.
2.3.有機成分:荏)蛋白成分:エチルアルコール法による粘質物のNagarse分解,酸分解生成物 のP.P.C.法によりバリン,グルタミン酸,アルギエソ,アスパラギン酸,プロリン,セリン,メ チオニン,アラニン及びグリシンが検出された.塩酸法による粘質物についてはNagarse分解 物と酸分解生成物について多少の差異を認めた.これについては今後検討する. ㊥ウロン酸: P.
P.C法及びアンスロン法により存在確認するも同定は困難であった. ㊦糖成分:酸分解後オルシ ン及びフロログルシン塩酸塩反応,オサゾン生成及びP.P.C.法により,グルコーズ及びガラク トーズを検出した. (エチルアルコールによる沈殿物として最初に沈殿した粘質物中にはマンノ ーズを認めるも二度目の精製粘質物rFlには認められなかった).グルコサミンの存在については, p.p.C.法で検出出来たが,エルソン‑モルガン法(5)により5350Aに鮮明な吸収が得られなかった
Dioscoreaceae の粘質物について
ので,これについてはE]下検討中である.
㊧赤外吸収:Fig.1はエチルアルコール法 による粘質物のNujol‑Mu】1法による赤外 吸収スペクトルである(3.426, 3.495, 6.89, 7.26及び13.89〟はNujolの吸収) 硫黄及び燐の化合物を含み,遊離のアミン やカルボン酸アミドグループ(ペプチッド 結合も推定出来る)を含み,又2.9/l以下の 吸収より粘質物中に不飽和グル‑プの含ま
a o N V X x n v の N V J J X X N 3 I O H 3 . 1
Fig. 1.ェテルアルコ‑ル法によるつくわいも 粘質物の赤外吸収スペクトル
れていることも推察出来た. OH基につい ては遊離および会合共にNHの吸収帯に重
なり判別しにいく点もあり今後数種の溶媒による赤外吸収スペクトルをとる事により更に究明し てゆきたい.
⑧ アントシアン:塩酸分解により,アントシアンが生成されたと推定された.イソアミルアル コ‑ルに転溶し,駿アルカリによる呈色反応を示した.イソアミルアルコ‑ル中に転溶したアン
トシアン及びアントシアニジン中より,カリウムを検出した.
3.定量実験
3.1. ⑦カリウム:炎火分光分析及びカリボールによる重量分析によりカリウムを定量した.
結果はTable lの通りであった.エチルアルコール法による粘質物中には5/, 塩酸法によ る粘質物中には0.40^,醇酸法による粘質物中にはO.< あった.カリウムと同時に炎光分光分 析中ナトリウムの定量を行うも168mg/kgで存在は無視出来た. ㊥窒莱:ミクロケルダール法に
より定量するもばらつき多く平均値は得られ なった. ㊦硫黄:窒素同様不成功だった.
3.2.元素分析:炭水素についての分析結 果はTable 2の通りで,炭素37.2056,水素 6.02%であった.
3.3.アンスロ、′ン法及びソモギ‑ネルソン 法の陽性物質:アンスロン法により エチル アルコール法による粘質物中には81.< グ ルコーズに換算して)の陽性物質が検出され。
Table 2.エチルアルコール法による粘質物の元素分析 試 料 CO2 H20 】 C [ H
(%) 6.04 6.00 6.02*
*上記の平均値 塩酸法による粘質物中では18.72;であっ
た.ソモギ‑ネルソン法ではエチルアルコール法による粘質物中には47.4^の陽性物質が又塩 酸法による粘質物中には16.74^の陽性物質が認められた.
3.4.灰分中のカリウム:灰分中のカリウム定量の炎光分光分析の結果はTable lの通りで, エチルアルコール法による粘質物の灰中には1.096,塩酸による粘質物の灰中には0.696^であ
った.カリウムの含量は共に元の粘質物中のカリウムの量より増加している.これについては次 回に検討する.
考 秦
18 池 尾 和 子
以上の如く,本実験に於ては,つくねいも粘質物をエチルアルコール,塩酸及び酷酸によって 得た.そのカリウム含有率により得た結果によれば,エチルアルコ‑ル法による粘質物は5%以 上に及ぶカリウムを含有するが,一般にカリウム化合物が極めて水にとけやすく.容易にカリ′ゥ
ムイオンとして水溶液中に出て来る事を考えると,かかる大量の水不溶性非解離性カリウムの存 在は極めて特徴的である.更にエチルアルコール法による粘質物は極めて膨潤性で,その水溶液 が大なる粘性を有するにもかかわらず,その酸処理物が膨潤性少ない点は,この非解離性カリウ ムが,つくねいも特有の大きな粘性と密接な関係あるものと考えられ,極めて興味が深い.尚本 実験で枯質物中に,アントシアン存在を示唆する結果を得たが.柴田及び林(6)は,アントシアンが 金属鎗塩として存在するものとしているが,非解離性カリウムが,酸によって可溶性となり,エ チルアルコール法による粘質物の酸処理物及び塩酸及び酷酸法による粘質物が, 0.4 しかカリ
ウムを含有しない事は,これ等非解離性のカリウムが,アントシアンのフェノール性OHに結合 する可能性を示すものと思われる.酸処理によっても,出てこないカリウムが,如何なる結合状 態にあるかは不明であるが,酸処理による沈殿物(粘質物)が膨潤性の少ない事から考え,つく ねいもの粘性が,水不溶性非解離性カリウムと密接な関係を有するものと考えて差しつかえある
まい.敢処理残存カリウムの結合状態については,今後検討を加えてゆきたいと考えている.
総 括
つくねいもの粘質物は多量のカリウムを含有するを特徴とする.無機成分としてカリウム以 外に燐,硫黄,カルシュ‑ムを含み,加水分解により蛋白成分として,バリン,グルタミン酸, アルギニン,アスパラギン酸,セリン,メチオニン,アラこン及びグリシンを検出し,糖成分と
しては,グルコーズ及びガラクト‑ズを,叉ウロン酸も検出された.アンスロン法及びソモギー ネルソン法による陽性物質も多呈に検出された.
終りにのぞみ,本研究実験に協力した専攻生諸氏に感謝の意を表します.
文 献 (1)石井淳三郎:東北, 15. 191 (1893).
(2)大島金太郎・田所哲太郎:東北, 33. 131 (1912).
(3)高橋悌蔵:農化, 4, 191 (1928).
(4)上田英之助.佐々木豊作:薬学, 76, 745 (1956).
(5) Imanaga, Y. : Biochem. 7‑44, 69 (1957).
(6)林 孝三:科学, 21,400(1951).