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論文の内容の要旨 氏名:小

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Academic year: 2021

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論文の内容の要旨

氏名:小 田 尚

博士の専攻分野の名称:博士(生物資源科学

論文題名:ゲノムプロファイリング法による昆虫病原性微生物の網羅的系統関係の再構築

1. 諸言

現代農業において、化学合成農薬を用いた害虫防除は品質および収量の向上と省力化の両立に不可欠とな っている。現在普及している化学合成農薬はその多用による対象害虫の薬剤抵抗性の獲得、周辺生態系へ の悪影響や残留農薬による健康被害など、いくつかの弊害が懸念されているため、それらの代替品がすで に導入・利用されている。その1つとして昆虫病原性微生物を利用した微生物農薬が挙げられる。微生物 農薬は化学合成農薬と比べて、宿主特異的な病原性を示す傾向があるため周辺環境への影響が少なく、ま た、抵抗性を獲得しづらいといった特徴を持っている。微生物農薬として細菌、真菌(糸状菌)、原虫(微胞 子虫)、ウイルスなど様々な昆虫病原性微生物が農林業の分野で利用されつつある。現在、昆虫病原性微生 物の農薬的利用の普及に伴って、新たな殺虫範囲や高い殺虫活性を持つといった、より有用な微生物株の 必要性が高まっている。有用な昆虫病原性微生物の検索は世界各地で行われ、非常に多数の分離株が報告 されている。その結果、従来の手法では、系統関係の不明確な株や識別困難な株が様々な昆虫病原性微生 物において報告されている。昆虫病原性微生物の識別や分類は、その感染範囲や殺虫性の理解など農薬的 な利用の際に重要な情報として用いられており、明確な識別方法が必要とされている。

本研究では、これまで系統関係が不確定あるいは不明確であった各種昆虫病原性微生物の明確な系統関係 の再構築を目的として、網羅的な系統解析を行った。解析には、代表的な昆虫病原性微生物である細菌 Bacillus thuringiensis、糸状菌Beauveria bassiana、原虫(微胞子虫)を用いた。解析手法として、従来手 法による解析と新規手法であるゲノムプロファイリング法(以下、GP 法)の二法を用いて行った。GP法は 簡易的な全ゲノム比較が可能であり、i)ランダムPCRによるゲノムDNA特異的な断片の増幅、ii)温度勾 配ゲル電気泳動による増幅産物のプロファイル化、iii)プロファイルの相同性解析の3工程で成り立ってい る。解析後、それぞれの手法によって得られた系統関係の比較を行った。

2. 細菌Bacillus thuringiensisの解析

B. thuringiensisはグラム陽性の好気性芽胞形成細菌の一種で、芽胞形成時に結晶性タンパク質を生産す

る。高い殺虫性の結晶タンパク質を生産する株は国内外で微生物農 薬として普及している。B.

thuringiensisの分類は慣習的に鞭毛抗原の血清型を用いて行っており、現在、69の血清型が確認されてい

る。他に、産生結晶タンパク質の種類や各種遺伝子配列や多形配列断片の相同性によって分類が行われて いる。しかしながら、多くの手法は一部のB. thuringiensisにのみ行われており、血清型のように普及し た識別方法はない。ここでは、異なる血清型を示す代表的なB. thuringiensis 40株の系統関係を調査した。

またGP法による解析の他に、従来手法であるSSU rRNA遺伝子配列の解析も行った。

解析の結果、B. thuringiensisSSU rRNA遺伝子配列は、約半数の株が同一の配列を有しており、株 間の識別は困難であった。得られた系統樹では、すべての株が 1つのクラスター内に収束しており、非常 に近縁な系統関係であることが示唆された。これらの結果は、供試株がすべて異なる系統であるとしてい た既知報告と矛盾する結果であった。

一方、GP法による解析ではすべての株が異なるプロファイルを示し、株間の識別が可能であった。これ は、すべての株間に一定以上のゲノムの差異があることを示唆している。また、供試株が異なる血清型を 持つ単系統の株であるとした既知報告と一致した。プロファイル相同性から作成した系統樹では、B.

thuringiensis3つのクラスターを形成し、さらにクラスターを形成しない株も5株確認された。加えて、

一部の株に地域的な関係性も見られた。

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3. 糸状菌 Beauveria bassianaの解析

B. bassianaは土壌から容易に検出できる昆虫病原性糸状菌の一つであり、現在では冬虫夏草の近縁種で

あることが分かっている。様々な昆虫に対して感染性を有しており、カイコ感染性の株は白きょう病の原 因微生物として知られている。マツノマダラカミキリに高い殺虫性を示す株は微生物農薬として国内で利 用されている。近年、海外株の複数遺伝子の解析によってBeauveria属の系統関係が再編され、新たな種 がいくつか発見された。しかしながら、国内におけるB. bassiana系統関係には不明確な点が多く残され、

その明解な解析が望まれていた。ここでは、国内における B. bassianaの系統関係の解明を目的として、

B. bassianaと分類されている国内の昆虫由来の57株とB. brongniartii 3株を用いた。解析にはGP法の 他に、近年Beauveria属の系統解析に用いられている配列の一つであるITS配列を用いた。

ITS配列解析とGP法の結果、供試株にはB. bassianaの他に、近縁種であるB. brongniartii9株と B. pseudobassiana5株、Cordyceps militaris1株含まれていることが明示された。新たに分類され B. pseudobassianaは、B. bassianaと同様の胞子形状を有するため、形態的特徴での識別が非常に困難 な種である。また、国内では未発見種であり、本研究により国内における存在が初めて明らかとなった。

ITS配列の解析ではB. bassianaは大きな2つのグループに分岐し、各グループ内のITS配列は高い相同 性を有していた。一方で、GP法による解析では、分岐したグループの1つは3つの小群に細分できること が明らかとなった。

4. 微胞子虫類の解析

微胞子虫は、細胞内偏性寄生性の真核生物である。昆虫感染性の微胞子虫は多く存在し、特にカイコ感染

性のNosema bombycisはカイコ微粒子病の原因微生物として、国内外の養蚕現場で無視できない大きな影

響を与えている。近年、Nosema属とその近縁の属であるVairimorpha属との識別が困難である微胞子虫 が検出されている。そのため、従来の識別手法と異なる新たな判断基準の必要性が高まっていた。ここで はチョウ目昆虫感染性微胞子虫の系統関係を解明するため、ベトナム産ハスモンヨトウから分離された微 胞子虫16株を調査した。解析にはGP法の他に、従来手法であるSSU rRNA遺伝子配列を用いた。GP 法の解析にはN. bombycisN. furnacalisV. necatrixを加えて解析を行った。

SSU rRNA遺伝子配列解析の結果、すべての供試株は非常に近似した配列を有しており、完全に同一の

配列を持つ株も存在していた。また、系統樹ではカイコ感染性であるN. bombycisと同じクラスターにす べての株が収束したため、供試株はN. bombycisであることが示された。しかし、GP法による解析では、

すべての株が異なるプロファイルを示したため、供試株すべての識別が可能であると共に、異なる株であ ることが示唆された。供試株はGP法によって、N. bombycisと近縁である系統(12)N. furnacalis 比較的近縁である系統(1株)、両系統と異なる系統(3株)の計3系統に分かれた。

5. 総括

本研究で行った細菌B. thuringiensisと微胞子虫のSSU rRNA遺伝子配列による系統解析では、供試株 の遺伝子配列は非常に高い相同性を有しており、系統関係が非常に不明瞭であった。糸状菌B. bassiana の解析に用いたITS配列は、Beauveria属の分類に用いられている配列であることから、種レベルでの識 別が可能であった。しかしながら、B. bassianaにおいても一部の株は完全に同一の配列を有しており、種 内では識別困難な株が存在していた。従来手法である遺伝子配列解析の結果からは、各微生物の株間の系 統関係が非常に近縁であることが示唆された。一方で、GP法による解析はB. thuringiensisと微胞子虫、

B. bassiana株間のゲノムにそれぞれ差異があることを明らかにした。同様にそれぞれの微生物の系統関係

も、細かく分岐していることが明らかになった。2つの手法による結果の差異から、特定遺伝子配列解析で は種間の識別に必要な情報の不足が示唆された。SSU rRNA遺伝子配列は、今までに多数の微生物の解析 が行われているにもかかわらず、いくつかの微生物では種間差異を識別するための情報が少ないことが示 唆されている。本研究の結果も同様にSSU rRNA遺伝子配列解析の情報量の少なさを支持する結果となっ た。これに対して、GP法は従来手法では識別できない遺伝子配列上の差異を比較可能である上、特定配列 の解析よりも詳細な分類が可能であった。また、従来手法では不明瞭であった各微生物の系統関係が新た に構築されたことになる。

本研究によって、ウイルスを除く代表的な昆虫病原性微生物が解析され、明瞭な系統関係が示された。 GP

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法は、今後も多数の識別困難株の出現が予想される昆虫病原性微生物の新たな解析手法として、有用性が 認められた。詳細な分類識別が可能である GP 法には、従来手法で分類困難であった近縁生物の解析にお ける有効性や、生物種をまたいだ網羅的解析の可能性が示唆された。

参照

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