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1 論文審査の結果の要旨

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Academic year: 2021

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論文審査の結果の要旨

氏名:中田 一彰

博士の専攻分野の名称:博士(生物資源科学)

論文題目:腸内細菌依存的なmicroRNAによる腸管上皮機能の調節とその機構 審査委員:(主査) 教授 高橋 恭子

(副査) 教授 花澤 重正

(副査) 教授 細野 朗

腸管に生息する腸内細菌は宿主と共生関係を築き、宿主の健康維持に重要な役割を果たす。一方、腸内細菌叢 の乱れによる共生関係の破綻が、炎症性腸疾患、アレルギー、生活習慣病、自閉症など様々な疾患の発症に関わ ることが急速に明らかにされてきている。さらに、このような腸内細菌叢の乱れから疾患の発症に至る機構とし て、腸管上皮透過性の亢進が数多く報告されている。腸管の管腔と体内は単層の腸管上皮細胞 (IEC) で隔てられ、

隣り合うIEC間では細胞膜タンパク質どうしの強固な結合によりタイトジャンクションと呼ばれる密着構造が形 成されている。タイトジャンクションによる上皮透過性の制御は腸管の恒常性維持に不可欠であり、その調節異 常による透過性の亢進は、上皮下の免疫細胞を過剰に活性化させて炎症を誘導し、様々な疾患に直結する。した がって、腸内細菌による腸管上皮透過性の調節機構を解明することによりこれらの疾患の予防・治療へ貢献でき ると考えられるが、その詳細は十分に明らかにされていない。本学位論文は、腸内細菌がIECmicroRNA (miRNA) 発現への作用を介して上皮透過性を調節するのではないかという仮説を立ててその検証を行い、腸内細菌による 新規な上皮透過性調節機構について明らかにしたものである。学位論文は、序論に続き本論の第1章腸内細菌に より調節されるmiRNAの同定、第2miR-21-5pによる腸管上皮透過性の調節とその機構、第3章大腸炎にお けるARF4の役割、総合討論から構成されている。

1章では、腸内細菌により調節されるmiRNAの同定を行っている。近年、ゲノムDNAのアミノ酸配列情報 を持たない領域も活発に転写され、生じた非コードRNAが様々な生理機能を示すことが注目されている。その 1つであるmiRNAは短鎖非コードRNAであり、標的mRNA非翻訳領域に結合して遺伝子発現を制御する。

まず、腸内細菌を保有する通常マウスと保有しない無菌マウスを用いて、腸内細菌がIECmiRNA発現に及ぼ す影響を解析した。両マウスの小腸と大腸よりIECを調製してマイクロアレイによりmiRNA発現の網羅的解析 を行った結果、小腸のIEC (SIEC) および大腸のIEC (LIEC) において通常マウスと無菌マウスの間で発現量に差

があるmiRNAが存在した。したがって、IECにおけるmiRNAの発現が腸内細菌により制御されることが明らか

となった。次に、通常マウスのSIECおよびLIECにおいて無菌マウスと比較して顕著に高い発現が認められた miR-21-5pについて定量RT-PCRにより発現量を測定したところ、マイクロアレイ解析と同様、通常マウスのIEC で無菌マウスより発現が高いことが確認された。さらに、ヒトIEC株を菌体成分や腸内細菌の加熱死菌体で刺激 し定量RT-PCRを行った結果、無刺激の場合と比較してmiR-21-5pの発現が上昇することが確認され、miR-21-5p

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の発現は主に腸内細菌の代謝産物ではなく菌体成分により誘導されると考えられた。菌体成分について顕著なリ ガンド特異性は認められなかったが、TLR-MyD88経路による発現誘導が示唆された。以上、第1章では、腸内細 菌によりIECにおいて発現が誘導されるmiRNAとしてmiR-21-5pを同定することができた。

2章では、第1章で同定したmiR-21-5pが腸管上皮透過性の調節に関わることを明らかにし、さらにその機 構について解析を行っている。ヒトIECCaco-2をトランズウェルインサート膜上にて培養後、miR-21-5p阻害 剤を導入し、上皮透過性を経上皮電気抵抗(TER)試験により継時的に測定した。その結果、miR-21-5p阻害剤を 導入することによりコントロールと比べてTER値が有意に増加し、上皮透過性が低下した。次に、Caco-2miR-

21-5p阻害剤を導入し細胞抽出物を調製後、二次元電気泳動を行った。コントロールと比較して発現量に顕著な差

があったスポットについてゲル内トリプシン消化後、質量分析を行った結果、発現量に差が認められたタンパク 質として低分子量 GTPアーゼであるADP-ribosylation factor 4 (ARF4) が同定された。そこで、Caco-2 ARF4 siRNAを導入し、TER試験を行った。その結果、コントロールsiRNAを導入した細胞と比較して、ARF4 siRNA を導入した細胞の TER 値が上昇し、さらにこの時、タイトジャンクション関連タンパク質であるoccludin claudin-4の発現が上昇した。したがって、miR-21-5pARF4を介してタイトジャンクションの形成を抑制する ことにより腸管上皮透過性を亢進させることが示唆された。しかし、ARF4miR-21-5pと同様に腸管上皮透過 性を亢進させること、また、ARF4非翻訳領域にmiR-21-5pの結合配列は存在しないことから、ARF4miR-

21-5p の直接の標的遺伝子ではないと考えられた。タイトジャンクション関連タンパク質の発現誘導に関わるシ

グナル分子AktJNKErkの活性化を抑制するPTENPDCD4SPRY1/2miR-21-5pの標的となることが報告 されていたことから、これらの分子のsiRNAを導入してARF4の発現に及ぼす影響を解析した。その結果、コン トロールsiRNAを導入した細胞と比較して、PTENおよびPDCD4siRNAを導入した細胞においてARF4の発 現が有意に上昇した。以上、第2章ではIECに発現するmiR-21-5pが腸管上皮透過性を亢進する機能を持つこと を明らかにした。さらに、その機能はARF4依存的であり、miR-21-5pPTENPDCD4を標的としてその発現 を抑制することによりARF4の発現を誘導することを明らかにした。

3章では、in vivoの腸管におけるARF4の発現と機能について解析を行った。第2章においてARF4miR-

21-5pによる腸管上皮透過性の調節に鍵となる役割を果たす分子として同定されたが、IECにおける役割について

はこれまでにほとんど明らかにされていない。まず、マウスの腸管におけるARF4の発現について蛍光免疫組織 染色により解析したところ、ARF4 が腸管上皮に発現することが確認された。絨毛と陰窩の上皮における発現に 顕著な差異は認められなかった。さらに、通常マウスと無菌マウスのSIECLIECを調製し、ウェスタンブロッ ティングを行った。SIECは近位、中中位、遠位小腸からそれぞれ部位別に調製した。その結果、ARF4の発現は 近位小腸および大腸で高く、遠位小腸で低かった。また、ARF4の発現は、SIECでは腸内細菌の影響を顕著に受 けないのに対し、LIECにおいては無菌マウスで通常マウスに比べて有意に低かった。したがって、LIECにおけ ARF4の発現が腸内細菌により誘導されることが明らかになった。上皮透過性の亢進を伴い、腸内細菌依存的 な炎症が誘導される炎症性腸疾患のような疾患においてARF4が病態に関与する可能性が考えられたため、次に、

デキストラン硫酸ナトリウム (DSS) 水溶液の経口投与により大腸炎を発症するマウスモデルを用い、ARF4の役 割について解析した。LIEC を調製して解析を行うことができるように重度の腸炎ではなく軽度の腸炎が誘導さ れるようにDSS濃度とマウスの系統を選択し、3% DSS水溶液をマウスに5日間自由摂取させた。その後LIEC を調製し、ARF4 とタイトジャンクション関連タンパク質の発現をウェスタンブロッティングにより解析した。

DSS投与群で体重減少は起こさないものの、結腸の有意な縮小、わずかな上皮破壊、血便が観察され、軽度の大 腸炎が誘導されていることが確認された。コントロール群と比較してDSS投与群では、LIECにおけるARF4 発現は有意に上昇し、occludinの発現は有意に減少していた。したがって、ARF4の発現上昇による腸管上皮透過

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性の亢進が、大腸炎の惹起に関与することが示唆された。ただし、このときにmiR-21-5pの発現上昇は確認され

ず、miR-21-5pの発現上昇が炎症初期にのみ誘導される可能性、あるいはDSSにより物理的に上皮バリアが破壊

される本モデルでは炎症誘導の発端のメカニズムが炎症性腸疾患と異なる可能性が考えられた。

以上、本論文では、腸内細菌により誘導されるmiR-21-5pが、低分子量GTPアーゼARF4を介してタイトジャ ンクションの形成を抑制することにより、腸管上皮透過性を亢進させることをはじめて明らかにした。健常な腸

管ではmiR-21-5pの発現は定常レベルであり腸管上皮透過性は正常範囲に保たれるが、腸内細菌叢の乱れ等によ

miR-21-5pの発現が過剰に増強された場合に、この機構により上皮透過性が亢進し、炎症の誘導につながると

考えられる。すなわち、この機構が、腸内共生系の恒常性破綻が関与する様々な疾患の発症やリスクの増大に関 わる可能性が考えられる。本論文は、腸管の恒常性維持のための標的分子の確立、さらには腸内細菌叢のバラン スの破綻に起因する疾患の予防・治療のための基礎的な知見を多く提供し、学術上、応用上貢献するところが大 きいことを審査委員一同確認した。よって、博士(生物資源科学)の学位を授与されるに値するものと認められ る。

平成31年2月21日

参照

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