フランスにおける都市戦略としての文化拠点
-創造的都市を背景とした建築改修事例から-
建設工学専攻 (修士課程 ) 建築設計研究
あしはら まどか
508003-1 葦原 円花 指導教員 赤堀 忍
赤堀研究室おける 「フランスにおける現代都市デザインに関す る研究」 及び 「建築物の改修に関する事例収集」 を既往研究 とし、 本研究ではフランスの都市における建築改修事例を対象 に分析を行う。
本研究では、 「創造的都市」 の思考を基に、 都市を見ていく。
都市に多様性を受け入れそれによる活力を生み出すものとして
「文化」 を位置付けるのも、 この思考から来るものである。
EU が欧州文化首都制度を認定し、 ユネスコが創造都市ネット ワークを創る等、 近年世界では都市の目指すものが、 「グロー バル」 から 「クリエイティブ」 及び 「連帯」 というキーワードへ と変換していく動きがある。 こうした動きを背景に、 都市の活性 化に関する議論において、 チャールズ ・ ランドリー (Charles Landry ) は創造的都市論を、 リチャード ・ フロリダ ( Richard Florida ) はクリエイティブ ・ クラスの概念を提唱し、 広く取り入 れられている。
このランドリーの言葉は、 「創造的都市」
(主要参考文献1)の中の ものであるが、 都市と改修の関係にも当てはまる。 真に持続的 な社会を実現するためには、 都市の中で過去と現在が入り混じ り未来を生み出すことが必要とされる。 都市の役割の一つは時 間を集積することだ、 とも言えるだろう。
既存の建物に対し取ることのできる対応は様々であるが、 そこ にどうやって価値を見出し活用するか考えることの重要性は、
文化的遺産建築に留まらず建築全体に言えることである。
フランスでは、 その問題に有効な解決を行うものとして文化が 重要視されている。 「文化」 には、 様々な意味や事柄が内包 されているが、 本研究において注目するのは、 特に 「アート」
についてである。 「もの」 と 「もの」 の新しい関係性をつくり表 現することが現代のアートの役割であると考えるならば、 多様性 が都市にもたらす問題に文化的解決を図ることに対して、 アー トは有効なツールであると言える。
また、 本研究における文化拠点とは、 「アートの創出と共に消 費をする場」 と定義する。 美術館に見られるような一方的な展 示の場ではなく、 アートと人が相互作用を生む場こそが、 文化 的解決に必要な産業と成り得る場である、 と考えるからである。
以上の考えから本研究では、 産業遺産を始めとする既存建 築物を文化拠点に改修した事例について、 都市的背景と共に 分析する。 これにより、 フランスの都市戦略の表出である文化 拠点における改修の優位性について考察を行う。 この分析 ・ 考察により、 創造的都市という思考を用いることで、 都市や建 築が地方分権や多様化などの社会的動きに対して与えうる解 決を導き出すことを目的とする。
はじめに
Ⅰ.序説
Ⅱ.フランスの都市・文化政策
・建築物の「改修」
研究の背景
基本的な方針 -社会的混合と中央政府の役割
近年の動向 -地方分権と「都市の連帯と再生に関する法」
・背景としての「創造的都市」
・多様性と文化
目的・手法
創造性は新しいものの継続的な発明ではなく、いかにふさわしく 過去を扱うかである。1 チャールズ・ランドリー
フランスの都市 ・ 文化政策の根底にある基本的な方針と共に、
近年の社会変化に伴う動向について述べる。
フランスでは、 文化政策が常に経済的 ・ 社会的発展に貢献 する、と考えられている。 フランスをはじめ欧州では様々な民族・
文化が混じり合い社会をつくりあげてきた。 こうした歴史的背景 から、 社会の中でいかに多様性を受け入れ問題を解決し活性 化を図るかが、 都市 ・ 文化 ・ 経済などの多分野において重要 な課題とされている。 中でも、 文化政策におけるフランス政府 の重要な理念として、 「文化は個性を許容し社会的混合を生み 出す財であるため都市において人々が広くアートに触れ文化的 体験をする機会をつらなければならない。」 というものがある。
こうした理念から、 また、 その文化政策が 16 世紀の国王が 文化政策に対して強い管理権限を行使した時代から発したとい う歴史的背景によりフランスでは元来、 文化支援に関して中央 政府が強い権限を持ってきた。
しかし、 政府は法規制には強い権限を持ちながらも、 特定の 分野への奨励や干渉は行わず、 文化支援の対象選出は独立 した諮問機関の助言に基づいて行う等、 文化的中立という姿勢 を保っている。 つまり、 文化省の中心的役割とは、 文化政策 の直接的実行者ではなく、 その文化的多様性を保つための調 整役であると言える。
・地方分権
・「都市の連帯と再生に関する法」
地方分権の動きとして都市計画の分野では、 2000 年に 「都 市の連帯と再生に関する法」 (
以下SRU
法) が制定された。
EPCI 及びコミューン主導の持続的都市計画を目指し、 主な 内容として
①都市 ・ 広域政策に一貫性を持たせること
②都市政策を補強すること
③持続的成長のための交通計画を策定すること
④住宅の多様性と質を保証すること
がある。 その中の制度である広域一貫スキーム ( SCOT ) では、
EPCI を単位とした都市再生の方向を示すプログラム的都市計 画をつくることを強制し、 地域都市計画プラン ( PLU ) では、
初期段階での市民との協議が義務付けられている。
先進諸国では近年、 地方自治体の役割が拡大する中で権限 の移譲はどこまでなされるべきか、 が様々な議論の焦点となっ て い る。 フ ラ ン ス の 都 市 ・ 文 化 政 策 の 分 野 で は、 1982 年 と 1983 年に制定され 2003 年に改正した地方分権法により、 中 央の権限の一部が移譲され都市 ・ 文化政策への地方の権限 が増した。 中央集権からの権限委譲は、 問題により近い位置 で都市を把握し、 解決を行うことができる点で有効である。 しか し、 基礎自治体であるコミューンは政策を行うには小さい上に、
市街地が都市をまたいで連続していくため、 いくつかのコミュー ンが共同で都市 ・ 文化政策を行う必要がある。 その為、 様々 な形態での基礎自治体間協力公施設法人 ( EPCI ) において、
広域に行政を行うという方法が取られるのである。
・社会的混合
・中央政府の役割
以上のことから SRU法は、 EPCI による広域的視点での都市 計画の推進と、 社会的問題を解決するための住民の視点を取 り入れた協議という、 都市に対する二つのアプローチを可能に したと言える。
こうした法規に後押しされる形で行われてきた近年の都市開 発プロジェクト及び、 それによって創出される文化拠点につい て次章より分析を行う。
Ⅲ.都市から見る改修事例
Ⅳ.事例分析
Ⅴ.結論 フランスの都市構成
国>州>県>コミューン
この基礎自治体であるコミューンが多数共同してつくるのが、
EPCI である。 本研究で対象とする都市は、 首都と、 EPCI の いくつかの形態の中から、
大都市共同体 ( communautés urbaines ) 都市圏共同体 ( communauté d'agglomération ) を用いて分類する。 扱うのは以下の 7 都市である。
Ⅰ・Ⅱ章の社会的・都市的背景がどのように表出しているのか、
また、 改修という行為が果たしている役割について、 事例をいく つかの視点 (建築家・建築的操作・等) から比較し、考察を行う。
(例として、 先にあげた 2 事例について)
これまで都市は 「新しいものをつくりだすこと」 に一生懸命だった。
今、都市には「新しい関係性をつくりだすこと」が必要とされている。
1チャールズ・ランドリー著,後藤和子監訳,<創造的都市-都市再生のための道具箱>,日本評論社,2003 ,P.8
2 KARINE Dana,<RECONVERSION ET REHABILITATION DES USINES LU>,amc, №104,
2000,p48-52
3 MARYSE Quinton, <MANUFACTURE CULTURELLE>, amc,№143,2004,p60-65 首都…パリ
大都市共同体の都市…リヨン,マルセイユ,ナント,ルーベ 都市圏共同体の都市…サン・ナゼール,サン・テティエンヌ
主要参考文献
1、チャールズ ・ ランドリー著, 後藤和子監訳,<創造的都市-都市再生のための道具箱>,日本評論社,2003
2、中村弘允+佐々木雅幸+総合研究開発機構編,<価値を創る都市へ 文化戦略と創造都市> ,NTT出版,
2008
3、クサビエ ・ グレフ著, 垣内恵美子監訳,<フランスの文化政策>,水曜社,2007
4、三宅理一+アンドレ ・ シガノス+澤井安勇著,<日仏都市会議2003都市の21世紀 文化をつむぎ、 文化を つくる 1・2>,鹿島出版会,2004
5、原田純孝+大村謙二郎 編,<現代都市法の新展開 ‐ 持続可能な都市発展と住民参加-ドイツ ・ フランス>, 東京大学社会科学研究所,2004
6、MASBOUNGI Ariella,<French Urban Strategies>,LE MONITEUR,2002
Le Lieu Unique
とLa Condition publique
の比較 建築家パトリック ・ ブション (Patrick Bouchain
) の«
言説»
及び建築的操作から□Le Lieu Unique
・
« ne rien faire »
2(何もつくらない)・ 建物周辺の整備とプログラムによるアクセシビリティの向上
・ アートプロジェクト [
grenier du siècle
] によるファサード■La Condition publique
・
« Consolider plutôt que réparer, réparer plutôt que restaurer, restaurer plutôt que refaire, refaire plutôt qu'embellir »
3 (美化するより、 やり直すより、 復元するより、修復するよりはむしろ、 強調する。)
・ 工事現場の市民への開放
・ 内部通路の公共化
分析と考察により、 各事例が改修を行うことで周囲の問題をど う解決していったのかについて、 その独自性や共通点を見いだ していく。
Le Lieu Unique
においてブションは、 増築部分があるにもか かわらず上記の言葉をテーマとした。 これは、 新旧を対比する のではなく、 過去の遺物をいかに現在の時間の中に置くかにつ いて計画全体を通して考えてきたことの現れであると言える。また、 アーティストとの共同は建物に対して計画を開始する時か ら行われた。 これにより、建物自体を一つの出来事として演出し、
市民を巻き込んだ形で改修を行っていった。
彼が行った 「産業として地域に重要であったが、 ハードとして 触れやすいものではなかった建物」 を 「アートによって社会に 開く」 という手法は、
La Condition publique
においてさらに 強化された形で現れる。あまり目立った建築家ではなかったブションは、
2006
年ヴェネ チアビエンナーレのフランス館を担当する等近年注目を集めて おり、 これらの事例における彼の手法が、 現在のフランス社会 において評価されていると言える。24
のコミューンで構成されるナント ・ メトロポールの中心都市、 ナント。造船業の衰退による不況からの回復の為に、
1989
年に市長に就任 したジャン=マルク ・ エロー (Jean-Marc Ayrault
) と文化局長であ るジャン=ルイ ・ ボナン (Jean-Louis bonnin
) の共同により、 文化 事業を中心とした都市再生計画を行っている。行政のリーダーシップは強力であるが、 民間から発案されたプロジェ クトを市が採用し発案者を責任者として委託する、 ボトムアップ形式も とられている。 こうしたプロジェクトで生まれた場所の一つとして、
Le Lieu Unique
がある。85
のコミューンで構成されるリール ・ メトロポールの一都市、 ルーベ。紡績 ・ 織物産業の衰退による不況と治安の悪化という問題解決のた め、 インフラ及び文化に関わる都市整備が行われた。 紡績産業に関 わるファッションをテーマにしており、 民間企業が歩行者専用大通りの あるアウトレットモールをつくる等、 庶民的なイメージにより周囲の都市 からの集客を集めている。
2004
年に欧州文化首都に選出されたリールは、 その周辺都市も巻 き込み、 大規模なイベントを行った。 イベントのけん引役として、La maison Folie
というプロジェクトがある。12
の文化施設がこのプロジェ クトの為に用意され、 その内の一つがルーベにあるLa Condition Publique
である。各都市 1 ~ 2 の事例をその背景と位置付けと共に述べる。
ここでは例として、 以下の 2 事例をあげる。
□Le Lieu Unique (2000 年) Nantes
■La Condition publique(2004 年) Roubaix 都市計画と事例
事例比較
考察
ビスケット工場から
アートセンター・劇場・アトリエ・レストラン・書店・保育所へ
Le Lieu Unique
紡績品質検査所及び管理倉庫から
劇場・アトリエ・展示スペース・事務所・カフェ・ショップへ
この関係性をつくりだすものが創造的都市の思考であり、 Ⅳ章 での分析により明確になった、 近年のフランスの都市戦略にお いて文化拠点が果たしている役割である。
産業 ・ 文化 ・ 都市的な問題に対し、 互いに関連したものとして 取り組むこと、 また、 過去の遺物である建物を現在の文脈の中 で生かすために改修を行うという考えは、 現在に対して問題を解 決するだけでなく未来への道を切り開くものであると言える。
La Condition publique
引用