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商学57‐1◆/6.松本

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包括利益と税効果会計

蠢 はじめに 蠡 その他の包括利益の意義 蠱 税効果会計の基本構造 蠶 その他の包括利益と税効果会計 蠹 付言

は じ め に

税効果会計は,会計上の利益計算と税法上の所得計算の差異を調整し,会計上の利益 と税金費用を対応させる会計手法である。その場合,利益計算と対峙する課税所得計算 の基本目的は担税力のある処分可能利益の計算であり,その計算構造は実現主義と取得 原価主義をベースにした伝統的な期間損益計算に他ならない。すなわち資産,負債に発 生する未実現の評価損益は,基本的に課税所得計算の認識対象ではない。 一方,主題の「包括利益」は,株主との取引以外の原因に基づく純資産の増加であ る。そしてそれは性格を異にする2 つの部分から構成される。ひとつは企業の本業であ る仕入・生産・販売活動によってもたらされる純資産の増加,いわゆる「稼得利益」な いし「純利益」であり,いまひとつは企業の資産・負債の時価(公正価値)の変動を主 要な内容とする「その他の包括利益」である。 このうち,前者の純利益計算ないし稼得利益計算と,先の課税所得計算を比較すると き,両者の基本構造に根本的な違いはない。したがって,この領域に税効果会計を適用 するとき,両者の間に認識される差異は,その多くが収益あるいは費用の期間配分の違 いを表す「期間差異」に集約されることになる。 これに対して,その他の包括利益の構成項目はもともと課税所得計算の認識対象では ない。したがってそこには稼得利益計算ないし純利益計算のそれとは異なった差異が生 じるとともに,固有の会計領域が形成されることになる。 本稿は,この領域で展開される税効果会計の具体的な内容を明らかにし,その背景に ある理論構造を整理することを主要な目的としている。 56( 56 )

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その他の包括利益の意義

1.SFAC 5 における包括利益の分類 まず,包括利益の意味を明らかにすることから始めなければならない。包括利益につ いて最も詳細に論じているのはFASB の財務会計概念書第 5 号「営利企業の財務諸表 における認識と測 1 定」(以下,SFAC 5 と略称する)である。関連の論述を抽出すると以 下のとおりである。 「本ステートメントにおいて述べられている稼得利益という概念は,現行の会計実務 における純利益と類似する概念である。…」(para. 2 33) 「稼得利益には,当期に認識される前期損益修正の累積的影響額は含められない。稼 得利益からは除外されるが現行の純利益に含められる主な例としては,会計原則の変更 に伴う累積的影響額をあげることができる…。稼得利益は一会計期間の業績を示す測定 値であり,当該会計期間にとって異質の項目−すなわち,基本的に他の会計期間に帰属 する諸項目−を可能なかぎり除外したものである。」(para. 3 34) 「包括的利 4 益は,取引その他の事象が企業に及ぼす影響についての広範な測定値であ り,それは出資者による投資および出資者への分配から生じる持分(純資産)の変動を 除き,取引その他の事象および環境要因からもたらされる一会計期間の企業の持分につ いて認識されるすべての変動から構成される。」(para. 5 39) 「稼得利益と包括的利益は,ともに同一の広範な内訳要素−収益,費用,利得および 損失−をもっているが,ある種の利得および損失は包括的利益には含められるが,稼得 利益からは除外されるので,必ずしも,同一というわけではない。かかる諸項目は,現 行の会計実務に即していえば,次の二つの種類に分類される。 a.現行の会計実務における典型的な例−すなわち,会計原則の変更に伴う累積的影響 額−のように,当該会計期間に認識される前期損益修正の影響額。… b.固定資産として分類される市場性のある持分有価証券への投資の時価変動,市場性 のある有価証券につき特殊な会計実務慣行のある業種に対する投資の時価変動および外 貨換算調整勘定のように,当該会計期間に認識される純資産のその他の変動(主とし ────────────

FASB, Statement of Financial Accounting Concepts No. 5

Recognition and Measurement in Financial Statements of Business Enterprises,1985. 平松一夫・広瀬義州訳『FASB 財務会計の諸概念[増補版]』中央経済社,2002 年。 2 同書,226 ページ。 3 同書,226−227 ページ。 4 この翻訳書では「包括的利益」という用語が用いられているが,本稿ではこの利益概念に対して「包括 利益」という用語を用いる。 5 同書,230 ページ。 包括利益と税効果会計(松本) ( 57 )5

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稼得利益 純利益 包括利益 累積的会計修正 純資産のその他の変動 て,特定の保有利得および保有損失)。」(para. 6 42) 「稼得利益と包括的利益の違いをはっきりさせるためには,用語を区別することが必 要である。…本ステートメントでは,稼得利益に含められるものに利得および損失とい う用語を用い,包括的利益には含められるが稼得利益からは除外されるものに累積的会 計修正および出資者以外の者との取引から生じる持分の変動という用語を用いてい る。」(para. 7 43) 以上の説明を要約すると,SFAC 5 は「現行の会計実務における純利益」(para. 33) から,会計原則の変更に伴う累積的影響額や前期損益修正など,「当該会計期間にとっ て異質の項目…を可能なかぎり除外」(para. 34)した利益を「稼得利益」とし,これを その期の業績の測定値として位置づけている。 一方,これらの利益概念に対立するのが包括利益である。こちらは,出資者との取引 を除いたあらゆる純資産(持分)の変動要因を包括する。その際,業績指標である稼得 利益ないし純利益も純資産を増加させる。そのためこれらの利益概念と包括利益との間 には「包括利益=純利益+(出資者以外の者との取引から生じる)純資産のその他の変 動」の関係が成立する。もちろんここでいう「純資産のその他の変動」の主要な部分は 「特定の保有利得および保有損失」(para. 42),すなわち資産・負債の未実現評価損益で あり,この部分の存在によって包括利益は資産負債中心観の利益概念になる。第1 図は 以上の関係を表している。 2.SFAS 130 における包括利益の分類 次に,SFAC 5 を基準化した FASB の財務会計基準 書 第 130 号「包 括 利 益 の 報 8 告」 (以下,SFAS 130 と略称する)は利益概念について次のように述べている。 「このステートメントでは,純利益を含めて,包括利益のすべての構成要素を表現す るために包括利益という用語を用いる。このステートメントでは,一般に認められた会 ──────────── 6 同書,230−231 ページ。 7 同書,231−232 ページ。

FASB, Statement of Financial Accounting Standards No. 130 ; Reporting Comprehensive Income, 1997. 第1 図 稼得利益・純利益・包括利益

同志社商学 第57巻 第1号(2005年10月) 58( 58 )

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純利益 その他の 包括利益 包括利益 計原則によって包括利益に含められるが,純利益からは除去される収益,費用,利得, 損失を表すためにその他の包括利益 という用語を用いる。…」(para. 9 10) 「このステートメントでは包括利益を純利益とその他の包括利益に区分する。…」 (para. 10 15) 「純利益に算入される項目は様々な分類のもとに表示される。その分類には,継続的 営業活動からの利益,停止した営業活動からの利益,異常項目,会計原則変更の累積的 影響額等がありうる。…」(para. 11 16) 「その他の包括利益に含まれる項目はその性格に応じて分類されなければならない。 現行の会計基準によるとき,その他の包括利益は,例えば,外国通貨項目,最小年金負 債調整 12

額,そして特定の有価証券投資(certain investments in debt and equity securities)

の未実現利得あるいは損失などに,別々に分類しなければならない。…」(para. 13 17) このように,SFAC 5 が利益を稼得利益,純利益,包括利益の 3 つに分類しているの に対して,SFAS 130 は利益を純利益と包括利益の 2 つに分類し,両者の差額部分を 「その他の包括利益」と称している。この関係を図示すると第2 図のとおりである。 3.その他の包括利益の具体的内容と純利益との境界線 SFAC 5 の論述によると,包括利益とは「出資者による投資および出資者への分配か ら生じる持分(純資産)の変動を除いた…一会計期間の企業の持分について認識される すべての変動」(para. 39)である。そしてこの包括利益は上述のように性格を異にする ──────────── 9 Ibid.,p. 6. 10 Ibid.,p. 7. 11 Ibid.,p. 7.

12 FASB, Statement of Financial Accounting Standards No. 87 ; Employers’ Accounting for Pensions, 1985. の規 定に従うと,累積給付債務が年金資産の公正価値を超過した場合,未積立の年金資産の金額に等しくな るように負債を追加計上する(para. 35)。これを追加最小負債というが,これは単独で計上されるわけ ではなく,同額を無形資産(intangible asset)として貸借対照表に計上し,追加最小負債と無形資産を 両建にする。ただしその無形資産は未認識の過去勤務費用の残高を超過できない。もともと未認識の過 去勤務費用は給付水準の増額改訂によって発生する。つまりこの項目は従業員の勤労意欲の向上を表す 無形資産と考えられていることから,その範囲内で無形資産の認識を認めるという主旨である。それに もかかわらず,無形資産が未認識過去勤務費用を超過する場合,その超過額は,税効果額を調整したう えで,年金数理損失として,その他の包括利益に含める(SFAS No. 130, para. 31)。つまりこの超過額 は各期の年金費用としてまだ認識されていない含み損と考えられている。

3 Ibid.,p. 7.

第2 図 純利益・包括利益,その他の包括利益

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2 つの部分から構成される。ひとつは稼得利益,あるいはこれに累積的会計修正を加減 した純利益であり,いまひとつは有価証券の時価変動額や外貨換算調整勘定などの保有 利得および保有損失(para. 42)であ 14 る。つまり,包括利益が資産負債中心観のもとで 測定された純資産の増減額を表すのに対して,稼得利益ないし純利益は従来の収益費用 中心観のもとで測定された企業の成果の測定値といえる。そして両者の差異を埋めるの が「その他の包括利益」であり,この部分に資産負債中心観の計算思考が最も鮮明に現 れることになる。 このように,その他の包括利益は,資産・負債に発生している未実現の評価損益をそ の内容とする。しかし逆に,すべての未実現評価損益がその他の包括利益を構成するわ けではない。たとえば売買目的有価証券に発生している評価損益,期末棚卸資産に発生 している評価損などは純利益に算入されており,長期性資産についても,帳簿価額が公 正価値を超えた場合には,その差額が減損損失として純利益に組み入れられる。 であれば,純利益に組み入れる評価損益と,その他の包括利益に分類される評価損益 をどのように区別するのか,当然,その基準を明確にする必要があろう。 ところがSFAC 5 はこの点に関して具体的な基準を示していない。その代わりになる のが稼得利益に関する比較的詳細な記述である。したがって両者の境界線は,この稼得 利益概念から推定することになる。そこでこの点に関するSFAC 5 の説明を再度抽出す ると次のとおりである。 「稼得利益は一会計期間の業績を示す測定値であり,当該会計期間にとって異質の項 目−すなわち,基本的に他の会計期間に帰属する諸項目−を可能なかぎり除外したもの である。…」(para. 34) 「稼得利益は,一会計期間に実質的に完了した(またはすでに完了済みの)営業循環 過程に関する資産流入額が,直接的または間接的であるとを問わず,当該営業循環過程 に関連する資産流出額を超過する(または超過しない)程度と密接な関係にある当該会 計期間の業績の測定値である。…」(para. 15 36) 「稼得利益の中心は,企業の産出物の対価として取得したものまたは取得すると合理 的に見込まれるもの(収益)および当該産出物を生産し,分配するために犠牲となるも の(費用)にある。」(para. 16 38) これらの説明によると,稼得利益とは「一会計期間の業績を示す測定値」であり,そ ──────────── 14 わが国の会計基準では,外貨換算調整勘定は在外子会社の資産と負債を決算日レート(current rate)で 換算するのに対して,資本金や剰余金を取引日レート(historical rate)で換算する(企業会計審議会 「外貨建取引等会計処理基準」1999 年,三 1, 2)ために発生する。すなわちそれは,決算日レートで換 算された資産と負債の差額としての「純資産(決算日レート)」と,「自己資本(取引日レート)」の比 較であり,両者の差額は,純資産の保有損益の性格を持つことになる。 15 平松一夫・広瀬義州訳,前掲書,228−229 ページ。 16 同書,229 ページ。 同志社商学 第57巻 第1号(2005年10月) 60( 60 )

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の主要な測定対象は「営業循環過程」における資産の流入,流出である。であれば稼得 利益とは企業の主たる営業活動(仕入・生産・販売活動)の業績指標であり,営業循環 過程に即して測定した価値の流入と流出の差額,いいかえれば「企業の産出物の対価と して取得したものまたは取得すると合理的に見込まれるもの(収益)」と「当該産出物 を生産し,分配するために犠牲となるもの(費用)」(para. 38)の差額にほかならな い。ここに稼得利益ないし純利益と,その他の包括利益を区別する基準がある。 その際,稼得利益の測定対象を,営業循環過程で生起した価値のフローに限定せず, その過程にある価値の変動(ストックの変動)にまで拡張するならば,「現金 ⇒ 材 料 ⇒ 仕掛品 ⇒ 半製品 ⇒ 製品 ⇒ 売掛金 ⇒ 受取手形 ⇒ 現金」の循 環を繰り返している棚卸資産と受取債権の評価損益も稼得利益の構成項目とされること になる。 もっとも,これは稼得利益概念に関するひとつの解釈であり,現実にはこの思考のも とで稼得利益ないし純利益とその他の包括利益が区分されているわけではない。たとえ ば有価証券は営業循環過程外にある資産であるにもかかわらず,その評価損益が稼得利 益に算入される。このように「稼得利益には,企業の付随的または末梢的取引の成果な らびに環境から生じるその他の事象および環境要因の影響(利得および損失)も含めら れる」(para. 38)ため,稼得利益ないし純利益とその他の包括利益の境界線は自ずと不 鮮明になるとともに,そこに本質的な定義を与えることを困難にする。 また実務上は,その他の包括利益に含めるべき評価損益項目が個々の会計基準によっ て規定されていることから,その他の包括利益は,「一般に認められた会計原則によっ て包括利益に含められるものの,純利益からは除去される収益,費用,利得,損失」 (SFAS 130, para. 10)と定義せざるをえない。具体的には以下の項目が包括利益を構成 するものとされている(SFAS 130. para. 17 39) a.為替換算調整勘定(基準書 52 号,パラグラフ 13) b.外国企業への純投資の経済的ヘッジとして指定され,かつ有効である外国通貨取引 から生じる利得と損失(基準書52 号,パラグラフ 20(a)) c.(決済の予定がないか,あるいは予見しうる将来において決済の見込みがない)長期 投資の性格をもつ会社間の外国通貨取引から生じる利得と損失(基準書52 号,パラグ ラフ20(b)) d.基準書 115 号に従って公正価値で報告されている資産につき,そのヘッジとして限 定されている先物契約の市場価値の変動(基準書80 号,パラグラフ 5) e.その期の年金費用には含まれないが,基準書 87 号に従い,追加年金費用として認識 される純損失(基準書87 号,パラグラフ 37) ──────────── 17 FASB, SFAS No. 130, p. 16.

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f.売却可能証券の未実現の保有利得および損失(基準書 115 号,パラグラフ 13) g.満期保有証券から売却可能証券に変更した社債から生じる未実現の保有利得および 損失(基準書115 号,15(c)) h.過去に減損として減額された売却可能証券の公正価値のその後の増減(基準書 115 号,パラグラフ16)

税効果会計の基本構造

1.税効果会計の目的と 2 つの会計観 わが国の「税効果会計に係る会計基 18 準」は税効果会計を定義して次のように述べてい る。 「税効果会計は,企業会計上の収益又は費用と課税所得計算上の益金又は損金の認識 時点の相違等により,企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債 の額に相違がある場合において,法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税 金(以下「法人税等」という。)の額を適切に期間配分することにより,法人税等を控 除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続であ 19 る」。 この論述によると,「基準」は「税金の額を適切に期間配分することにより,法人税 等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させること」を税効果会計の目 的としている。ところが米国の税効果会計基準であるFASB の財務会計基準書第 109 号「税効果会 20 計」(以下,SFAS 109 と略称する)は目的について次のように述べてい る。「税効果会計の第1 の目的は,当期に支払うべき,あるいは還付されるべき税額を 認識することにある。第2 の目的は,企業の財務諸表,あるいは納税申告書で認識され ている事象がもつ将来の税効果について,繰延税金負債と繰延税金資産を認識すること にある」(para. 6)。つまり,SFAS 109 の目的は,税効果に係る資産,負債の認識であ り,そこに利益と税金費用の「対応」という思考はない。 ここで会計利益と税金費用の合理的な対応を求める思考を収益費用中心観的な目的 観,税効果に係る資産,負債の認識を資産負債中心観的な目的観として区別するなら ば,SFAS 109 は資産負債中心観に徹しているといえよう。そして両者の間にこのよう な目的観の違いが生じるのは,わが国の会計制度が業績指標としての純利益の計算を前 提としているのに対して,FASB が,包括利益(=純利益+その他の包括利益)の計算 を前提としているところにある。すなわち,純利益の計算を目的とする場合,これと税 ──────────── 18 企業会計審議会「税効果会計に係る会計基準」,1998 年。 19 同書,「第一 税効果会計の目的」。

20 FASB, Statement of Financial Accounting Standards No. 109 ; Accounting for Income Taxes, 1992. 同志社商学 第57巻 第1号(2005年10月)

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金費用との対応思考が自然に生じてくる。ところが資産,負債の評価を測定手段とする その他の包括利益の計算を前提とするならば,そこに現れる課税関係もまた資産,負債 を評価する際の一要因として位置づけられても不思議ではない。 この目的観の違いに象徴されるように,税効果会計には収益費用中心観的な手法と, 資産負債中心観的な手法が存在する。そこで本節では,税効果会計の手法を二つの会計 観との関連で整理しておきたい。それによって包括利益計算と税効果会計の関係も自ず と明らかになると考えるからである。 2.税効果会計の計算構造 たとえば,ある会社が取得原価500 万円の機械を購入し,耐用年数 5 年,残存価額を 0 として定額法で償却計算をする一方,課税所得計算では初年度に取得原価の 20% を 特別償却するものとしよう。毎期の減価償却前利益を200 万円,税率を 40% として会 計上の税金費用と課税額の計算過程を示したのが第1 表である。 この図表に示されている会計上の税金費用(漓)は,各期の利益額に対して会計上支 払うべき税額を表しており,一方の課税額(滷)は実際の税金支払額を表す。したがっ てこの設例のように税金費用が課税額を超過すれば,その差額は会計から見たその期の 税金未払額となる。もちろんその金額は法律上の税金未納額ではない。しかし,損益計 算書で会計上の利益額が負担すべき税額を表示し,貸借対照表で会計上の納税義務額を 表示しようとすれば,第1 年度の場合, (借)法人税等調整額 40 (貸)繰延税金負債 40 の仕訳を行い,第2 表の損益計算書のように,借方の法人税調整額を課税額に加算する 第1 表 税金費用計算と課税額計算の比較 【利益計算】 年度 1 2 3 4 5 合計 機 械 簿 価 500 400 300 200 100 0 償却前利益 200 200 200 200 200 1,000 減価償却費 100 100 100 100 100 500 利 益 100 100 100 100 100 500 漓税金費用 40 40 40 40 40 200 【課税所得計算】 年度 1 2 3 4 5 合計 機 械 簿 価 500 300 225 150 75 0 償却前利益 200 200 200 200 200 1,000 減価償却費 200 75 75 75 75 500 課 税 所 得 0 125 125 125 125 500 滷課税額 0 50 50 50 50 200 包括利益と税効果会計(松本) ( 63 )6

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ことになる。 これによって会計上の利益に対して支払うべき税額(=税引前当期純利益×税率) と,損益計算書に計上された税金費用(=法人税支払額+法人税等調整額)が一致し, 「法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させること」ができ る。 一方,この設例とは逆に,課税所得が税引前当期純利益を上回れば, (借)繰延税金資産 ×× (貸)法人税等調整額 ×× の仕訳を行い,貸方の法人税等調整額を課税額から控除するとともに,借方の繰延税金 資産を会計上の税金前払額を表す項目として貸借対照表に表示すことにな 21 る。 3.税効果会計の対象 税効果会計は「収益−費用=利益」の計算式で表される会計上の利益計算と,「益金 −損金=所得」の計算式で表される課税所得計算の間に生じる差異の調整を目的として いる。その差異には,時が経過しても解消されない「永久差異」と,時の経過とともに 解消される「一時差異」があるが,このうち,税効果会計の対象となるのは「一時差 異」であり,「永久差異」は考慮されな 22 い。 ところで包括利益の計算を前提とする場合,この一時差異は,先の設例のように,収 益と益金,費用と損金の期間配分の違いから発生する「期間差異」部分と,当初から課 税所得の計算対象とされない資産・負債の評価差額部分に分かれる。後者がすなわち 「その他の包括利益」の構成項目である。 そしてこの一時差異は,将来の課税所得計算に与える影響から「将来減算一時差異」 と「将来加算一時差異」に分類される。「将来減算一時差異」は差異が解消していくに ──────────── 21 税効果会計の基本書としては,中田信正・阪本道美『税効果会計入門 理論と実務』中央経済社,1999 年,新日本監査法人『税効果会計の実務』中央経済社,2002 年,などが分かり易い。 22 永久差異とは「税務上の交際費の損金算入限度超過額,損金不算入の罰科金,受取配当金の益金不算入 額のように,税引前当期純利益の計算において,費用または収益として計上されるが,課税所得の計算 上は,永久に損金又は益金に算入されない項目」のことである。「将来,課税所得の計算上で加算又は 減算させる効果をもたないため一時差異等には該当せず,税効果会計の対象とはならない」(日本公認 会計士協会・会計制度委員会報告第十号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」平成13 年,第14 項)。 第2 表 損益計算書上の調整 …… 税引前当期純利益 法人税等 法人税等調整額 計 当期純利益 0 40 40 100 40 60 同志社商学 第57巻 第1号(2005年10月) 64( 64 )

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将来減算一時差異 将来加算一時差異 将来減算一時差異 将来加算一時差異 期間差異 評価差額 一時差異等 永久差異 繰越欠損金等 一時差異 利益計算と 課税所得 計算の差異 つれて課税所得を減額する効果をもつものであり,「将来加算一時差異」は逆に課税所 得を増額する効果をもつものである。 なお,わが国の「税効果会計に係る会計基準」はこの一時差異に「将来の課税所得と 相殺可能な繰越欠損金等」を加えて「一時差異等」と呼んでいる。これらの関係を整理 すると第3 図のとおりである。 4.繰延法と資産負債法 第3 図に示した差異のうち,税効果会計の対象となる一時差異には,次の 4 つのケー スがある。 漓 収益>益金 ⇒ 利益>課税所得 ⇒ 支払うべき税金>課税額 ⇒ 繰延税金負 債 ⇒ 将来加算一時差異 例:売買目的有価証券の評価益の計上 滷 収益<益金 ⇒ 利益<課税所得 ⇒ 支払うべき税金<課税額 ⇒ 繰延税金資 産 ⇒ 将来減算一時差異 例:受贈益をその他の資本剰余金とした場合 澆 費用>損金 ⇒ 利益<課税所得 ⇒ 支払うべき税金<課税額 ⇒ 繰延税金資 産 ⇒ 将来減算一時差異 例:有形固定資産や債権の有税償却,損金算入が否認される引当金の 設定 潺 費用<損金 ⇒ 利益>課税所得 ⇒ 支払うべき税金>課税額 ⇒ 繰延税金負 債 ⇒ 将来加算一時差異 例:有形固定資産の特別償却や割増償却 ところで,「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」はこれらの一時差 異(期間差異)の把握方法について次のように述べている。 「税効果会計の方法には,税効果会計基準で採用された資産負債法のほかに,繰延法 と呼ばれている方法がある。 第3 図 利益計算と課税所得計算の差異 包括利益と税効果会計(松本) ( 65 )6

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税効果会計基準が適用される前の税効果会計の実務では,主に繰延法が採用されてい た。繰延法とは,会計上の収益又は費用の金額と税務上の益金又は損金の額に相違があ る場合,その相違項目のうち,損益の期間帰属の相違に基づく差異(期間差異)につい て,発生した年度の当該差異に対する税金軽減額又は税金負担額を差異が解消する年度 まで貸借対照表上,繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法である。したが って,税効果会計に適用される税率は期間差異が発生した年度の課税所得に適用された 税率である。 これに対して,資産負債法とは,会計上の資産又は負債の金額と税務上の資産又は負 債の金額との間に差異があり,会計上の資産又は負債が将来回収又は決済されるなどに より当該差異が解消されるときに,税金を減額又は増額させる効果がある場合に,当該 差異(一時差異)の発生年度にそれに対する繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する 方法である。したがって,資産負債法に適用される税率は,一時差異が解消される将来 の年度に適用される税率である。本報告は,資産負債法を前提として作成している。 一時差異と期間差異の範囲はほぼ一致するが,有価証券等の資産又は負債の評価替え により直接資本の部に計上された評価差額は一時差異ではあるが期間差異ではない。な お,期間差異に該当する項目は,すべて一時差異に含まれ 23 る」。 ここで改めて繰延法と資産負債法の違いをその形式面と実質面において整理してみよ う。 まず,両者の違いをその形式面から見るならば,繰延法は,収益と益金,費用と損金 の期間帰属の相違から期間差異を直接計算する方法であり,フローに着目する点で収益 費用中心観的な計算方法である。これに対して,資産負債法は,会計上の資産又は負債 の金額と税務上の資産又は負債の金額の違いを手がかりに差異を把握する点で,文字ど おり資産負債中心観の計算方法となる。第3 表は,先の設例に基づいてそれぞれの計算 方法を比較したものである。 この図表に示されているように,繰延法では会計上の費用額と税務上の損金額の差額 (漓)に税率 40% を乗じて各期の税金未払額である法人税等調整額(滷)を求める。そ してその累積額を繰延税金負債(澆)の金額とする。これに対して資産負債法では,機 械の帳簿価額の差額(潺)に税率 40% を乗じて繰延税金負債(潸)を割り出し,その 期首と期末の差額をその期の法人税等調整額(澁)とする。 つまり,繰延法では繰延税金資産・負債の期中増減額(法人税等調整額)が最初に計 算されるのに対して,資産負債法では,各期の法人税等調整額の累積額である繰延税金 資産・負債が最初に計算される。その際,両者の金額は当然一致する。なぜなら,収益 ──────────── 23 日本公認会計士協会・会計制度委員会報告第十号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指 針」平成13 年,第 14 項。 同志社商学 第57巻 第1号(2005年10月) 66( 66 )

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(益金)の発生は資産の増加あるいは負債の減少として記録され,費用(損金)の発生 は資産の減少あるいは負債の増加として記録されるからである。つまり,期間差異につ いてみた場合,繰延法と資産負債法はコインの裏表の関係になる。 次に,繰延法と資産負債法の実質的な違いである。この点について直ちに指摘される のは繰延税金資産,繰延税金負債の計算に適用される税率の違いであろう。たとえば上 記の「実務指針」も,繰延法については「期間差異が発生した年度の課税所得に適用さ れた税率」,資産負債法については「一時差異が解消される将来の年度に適用される税 率」を適用するものとしている。 ところでここで指摘されている税率の違いは,繰延法と資産負債法の根底にある会計 観の違いを反映しているものと思われる。すなわち収益費用中心観のもとで期間損益計 算を重視する場合,税効果会計の焦点は各期の利益から控除されるべき税金費用の金 額,すなわち法人税等調整額の計算に向けられる。その際,その計算は期間差異が発生 した年度の税率を適用することで完結し,繰延税金資産,繰延税金負債については,こ の法人税等調整額を計上するための相手勘定以上の意味を与えられない。 これに対して資産負債中心観のもとでは,財政状態計算の重点が資産,負債の評価に 移動する。具体的には,将来の税金軽減額を表す繰延税金資産,あるいは将来の税金負 担額を表す繰延税金負債の評価が主要なテーマになるとともに,これらの項目は将来の キャッシュフローを反映する必要がある。その際,過去の税率は意味をなさない。すな わち繰延税金資産,繰延税金負債が決済される将来時点の税率によってこれらを計算す るとともに,繰延税金資産については常にその回収可能性を評価する必要があ 24 る。 ────────────

24 FASB, SFAS No. 109, pp. 11−14, para. 17−28. この点については「税効果会計に係る会計基準」も同様! 第3 表 繰延法と資産負債法 【繰延法】 年度 1 2 3 4 5 合計 費 用 100 100 100 100 100 500 損 金 200 75 75 75 75 500 漓差 額 100 −25 −25 −25 −25 滷法人税等調整額 40 −10 −10 −10 −10 0 澆繰延税金負債 40 30 20 10 0 【資産負債法】 年度 1 2 3 4 5 合計 会 計 上 の 簿 価 500 400 300 200 100 0 税 務 上 の 簿 価 500 300 225 150 75 0 潺差 額 100 75 50 25 0 潸 繰 延 税 金 負 債 40 30 20 10 0 澁法人税等調整額 40 −10 −10 −10 −10 包括利益と税効果会計(松本) ( 67 )6

(13)

ここで繰延法が収益費用中心観のもとで形成され,資産負債法が資産負債中心観を体 現しているならば,繰延法については「期間差異が発生した年度の課税所得に適用され た税率」,資産負債法については「一時差異が解消される将来の年度に適用される税率」 を適用するものと説明されても不思議ではな 25 い。 そしていまひとつの実質的差異として考えられるのが,繰延法と資産負債法の認識範 囲の違いである。「実務指針」の説明にもあるように,繰延法は,収益と益金,費用と 損金というフローに着目し,それぞれの期間配分の違いに起因する「期間差異」の調整 を目的としている。これに対して,資産負債法が対象とする一時差異は「会計上の資産 又は負債の金額と税務上の資産又は負債の金額」に着目して計算されることから,その 範囲は繰延法の対象である期間差異よりも広い。なぜなら資産,負債の差異は,フロー の期間配分に起因して生じるだけでなく,資産,負債の再評価によっても生じるからで ある。 この点に関して「税効果会計に係る会計基準」は次のように述べている。 「一時差異は,例えば,次のような場合に生ずる。 (1)財務諸表上の一時差異 漓収益又は費用の帰属年度が相違する場合 滷資産の評価替えにより生じた評価差額が直接資本の部に計上され,かつ,課税所得 の計算に含まれていない場合 (2)連結財務諸表固有の一時差異 漓子会社の資産及び負債の時価評価により評価差額が生じた場合 滷連結会社相互間の取引から生ずる未実現損益を消去した場合 澆連結会社相互間の債権と債務の相殺消去により貸倒引当金を減額修正した場 26 合」 このうち「資産の評価替えにより生じた評価差額が直接資本の部に計上され,かつ, 課税所得の計算に含まれていない場合」「子会社の資産及び負債の時価評価により評価 差額が生じた場合」の差異こそ,資産負債法固有の認識対象である。 その意味で資産負債法は,包括利益を対象とする税効果会計において当然採用される べき処理方法ということができる。 ──────────── ! の規定を設けている(同基準二)。 25 もっとも,繰延法については,これと過去の税率との結び付きを絶対視することには疑問がある。なぜ なら,各期の利益から控除すべき税金費用をその最終支払額で測定しても,そのことは繰延法の基本理 念と何ら矛盾するものではないからである。その場合,将来の税率を予測して税金費用と繰延税金資産 あるいは繰延税金負債を計上し,それが実際の決済額と異なれば過年度損益修正を計上することにな る。この適用税率の問題も含めて,齋藤真哉「税効果会計における差異の把握と処理方法」『青山経営 論集』第35 巻第 3 号,2000 年,では税効果会計の諸概念について詳細な検討が加えられている。 26 前掲,「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」,「第二 税効果会計に係る会計基準 一 一時差異等の認識」。 同志社商学 第57巻 第1号(2005年10月) 68( 68 )

(14)

その他の包括利益と税効果会計

1.税効果会計におけるその他の包括利益の位置 第2 節で整理したように,包括利益は企業の営業活動の成果を測定した純利益と,資 産・負債の評価差額を内容とするその他の包括利益から構成されている。このうち,純 利益計算と課税所得計算は,その基本的な計算構造を等しくすることから,そこに現れ る差異は,「期間差異」が主要なものとなる。いいかえれば,政策目的によって設定さ れる一部の益金不算入項目,損金不算入項目(すなわち「永久差異」を構成する項目) を除くと,収益と益金,費用と損金はいずれ一致する。 これに対して,その他の包括利益の構成要素である資産・負債の評価差額は,基本的 に課税所得計算の対象ではな 27 い。したがってその他の包括利益の構成項目がもつ税効果 は「永久差異」と同じである。ところがこれらの項目も,それが将来時点で実現すれ ば,益金あるいは損金に算入されて課税所得を構成する。その意味でその他の包括利益 の構成項目は,将来の益金,あるいは将来の損金として位置づけることができる。第4 表はこの関係をまとめたものである。 2.その他の包括利益の表示方法 先に指摘したように,わが国の「税効果会計に係る会計基準」は,税効果会計の目的 を「法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させること」に求め ている。この記述は,わが国の純利益の計算を前提としており,包括利益計算書を対象 としたものではない。しかしこの目的を包括利益計算に拡張し,包括利益と税金費用と の対応を目指すことは当然可能である。その場合には,第4 表のように,その他の包括 利益の構成項目を将来の益金,あるいは将来の損金とみなし,それが実現したときの課 税額を法人税の実際支払額に加減することになる。 ──────────── 27 法人税法第25 条は「内国法人がその有する資産の評価換え…をしてその帳簿価額を増額した場合に は,その増額した部分の金額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入し ない。」と述べ,第33 条で「内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合 には,その減額した部分の金額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入 しない。」と述べている。 第4 表 税効果会計におけるその他の包括利益の位置 包括利益の構成項目 純利益の計算要素としての収益・費用 その他の包括利益 永久差異 一 致 一時差異 課税所得の計算要素としての益金・損金 将来の益金・損金 包括利益と税効果会計(松本) ( 69 )6

(15)

その具体例を示しているのがSFAS 130「包括利益の報告」である。同書は,Appendix B において,包括利益の表示方法として, 漓損益計算書で包括利益の計算過程を示す「一計算書アプローチ」 滷純利益計算と包括利益計算書を分ける「二計算書アプローチ」 澆持分変動計算書で包括利益を表示する「持分変動計算書アプローチ」 の3 種類の方法を示すとともに,その構成項目であるその他の包括利益の金額につい て,個々の項目ごとに税効果額を調整する方法(仮に「純額法」と呼ぶ)と,個々の項 目についてはその発生額を表示し,税効果額を一括修正する方法(仮に「総額法」とよ ぶ)を示してい 28 る。このうち,包括利益と税金費用の対応を鮮明に示しているのが, 「一計算書アプローチ」のもとに,その他の包括利益の構成項目を発生額で表示する以 下の方法である。 純利益および包括利益計算書

(Statement of Income and Comprehensive Income) 19 X 9 年 12 月 31 日

収益(Revenues) $140,000

費用(Expenses) (25,000)

その他の損益(Other gains and losses) 8,000

有価証券売却益(Gains on sale of securities) 2,000

税引前利益(Income from operations before taxes) 125,000

税金費用(Income tax expense) (31,250)

異常項目および会計上の変更の累積的影響額調整前利益

(Income beforeextraordinary items and cumulative effect of accounting change) 93,750

異常項目:税効果調整後(Extraordinary items, net of tax) (28,000)

会計上の変更の累積的影響額調整前利益

(Income before cumulative effect of accounting change) 67,750

会計上の変更の累積的影響額:税効果調整後

(Cumulative effect of Accounting change, net of tax) (2,500)

[純利益(Net income) 63,250]

その他の包括利益,税効果調整前(Other comprehensive income, before tax):

外貨換算調整勘定(Foreign currency translation adjustments) 10,666

有価証券未実現利得(Unrealized gains on securities)

期中未実現保有利得(Unrealized holding gains arising during period)$17,333

──────────── 28 FASB, SFAS No. 130, pp. 37−41.

同志社商学 第57巻 第1号(2005年10月) 70( 70 )

(16)

差し引き:純利益への再分類調整額

(Less : reclassification adjustment for gains included in net income)(2,000)15,333

最小年金負債調整額(Minimum pension liability adjustments) (3,333)

その他の包括利益,税効果調整前(Other comprehensive income, before tax) 22,666 [その他の包括利益項目に係る税金費用

(Income tax expense related to items of other comprehensive income) $(5,666)]

その他の包括利益,税効果調整後(comprehensive income, net of tax) $17,000

この例示に示されているように,包括利益計算においても,包括利益の金額(=純利 益+その他の包括利益)と,その利益に課されるべき税金費用(=包括利益の金額×税 率)を対応表示することは可能である。しかし,「純額法」による場合,この対応関係 は成立しない。なぜなら,その場合の包括利益は「純利益+税金調整後のその他の包括 利益」として計算される一方,包括利益計算書に表示される税額は「純利益×税率」と なるからである。ところがこのSFAS 130 の Appendix B に示されている表示方法の多 くは「純額法」である。つまりこのことからわかるようにSFAS 130 はわが国の基準が 意図しているような会計上の利益と税金費用の対応を目的とはしていない。 なお,その他の包括利益項目を税効果調整後の金額で表示する場合にも,個々の項目 について,税効果調整前,税効果額,税効果額調整後の金額を明示した調整表を作成し なければならない(para. 104, 29 105)。ただしその目的はその他の包括利益項目の再分類 調整の追跡を容易にするためである(para. 100− 30 103)。 3.資本直入方式における税効果会計の意味 SFAS 130 が例示している「一計算書アプローチ」では包括利益計算書で当期純利益 と包括利益を計算し,「二計算書アプローチ」では,損益計算書と包括利益計算書を分 割する。しかし,いずれの方法もその他の包括利益を包括利益の計算要素としており, そしてそこで計算されたその他の包括利益は第4 表のように貸借対照表の資本の部に振

り替えられ,その他の包括利益累計額(Accumulated other comprehensive income)とし て表示される(para.

31

26)。

これに対して,「持分変動計算書アプローチ」の場合は,「その他の包括利益累計額」

の増減額が持分変動計算書(Statement of Changes in Equity)で表示されるものの,包 括利益計算書は作成されない。そしてその場合の損益計算書は,従来どおり純利益を表 ──────────── 29 Ibid.,p. 31. 30 Ibid.,pp. 30−31. 31 Ibid.,p. 9. 包括利益と税効果会計(松本) ( 71 )7

(17)

貸借対照表 包括利益計算書 資本の部  資本金         ××  資本剰余金       ××  利益剰余金       ××  その他の包括利益累計額 ×× 収益        ×× 費用        ×× 当期純利益     ×× その他の包括利益  ×× 包括利益      ×× 示するものとなる。そしてこの方式は,その他有価証券の評価差額等を資本の部に直入 するわが国の処理方法と実質的に等しい。そこで最後に,この会計処理方法がもつ意味 を確認して本稿を締めくくることにしたい。 まず,わが国の会計基準に包括利益の規定はない。しかし,個々の会計基準の中に は,これまで考察してきたその他の包括利益の構成項目の処理方法が規定されている。 まず,「金融商品に係る会計基準」によると,その他有価証券は「時価をもって貸借 対照表価額とし,評価差額は洗い替え方式に基づき,次のいずれかの方法により処理す る。 (1)評価差額の合計額を資本の部に計上する。 (2)時価が取得原価を上回る銘柄に係る評価差額は資本の部に計上し,時価が取得原価 を下回る銘柄に係る評価差額は当期の損失として処理する。なお,資本の部に計上され るその他有価証券の評価差額については,税効果会計を適用し,資本の部において他の 剰余金と区分して記載しなければならな 32 い」。 また,「土地の再評価に関する法律」は,第7 条第 1 項で,土地の再評価を行った場 合,「再評価に係る繰延税金負債の金額」(再評価額>取得原価の場合),あるいは「再 評価に係る繰延税金資産の金額」(再評価額<取得原価の場合)の計上を求めており, そして同条第2 項は,「再評価差額金から再評価に係る繰延税金負債の金額を控除した 金額又は再評価差額に再評価に係る繰延税金資産の金額を加えた金額を,再評価差額金 として,貸借対照表の資本の部に計上しなければならない」と規定している。 さらに「外貨建取引等会計処理基準」は在外子会社等の財務諸表項目の「換算によっ て生じた換算差額については,為替換算調整勘定として貸借対照表の資本の部に記載す 33 る」と規定し,「為替換算調整勘定の資本の部計上に伴う税効果会計適用上の留意事項」 は「税効果会計の適用上,為替換算調整勘定に対する税効果は主に投資会社が株式を売 却することによって実現するものであるため,基本的には子会社等の株式の売却の意思 ──────────── 32 企業会計審議会「金融商品に係る会計基準」1999 年,第三二 4。 33 企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」1999 年,三 4。 第4 図 一計算書アプローチと二計算書アプローチ 同志社商学 第57巻 第1号(2005年10月) 72( 72 )

(18)

貸借対照表

Cash inflow 繰延税金負債  200 Cash outflow

評価差額金   300 投資有価証券  500 が明確でない限り認識しないこととされているが,子会社等の株式の売却の意思が明確 な場合には,為替換算調整勘定を含む子会社等への投資に係る,一時差異について,税 効果を認識することが必要となる。…この場合,連結貸惜対照表の資本の部に計上され る為替換算調整勘定は,それに対応して認識された繰延税金資産及び繰延税金負債に見 合う額を加減して計上す 34 る」と述べている。 このように,わが国の会計基準では,その他の包括利益の構成項目に該当する資産・ 負債の評価差額は,税効果を調整したうえで,貸借対照表の資本の部に直入することが 原則となっている。ではこの資本直入方式の会計処理はいかなる会計的意味をもつであ ろう 35 か。 たとえば,取得原価1,000 万円のその他有価証券の期末時価が 1,500 万円の場合,決 算で次の仕訳がおこなわれ,貸借対照表は以下のようになる。税率は40% とする。 (借)投資有価証券 500 (貸)繰延税金負債 200 その他有価証券評価差額金 300 この貸借対照表に計上されている投資有価証券(増価額部分のみ)500 は将来のキャ ッシュフローの増価要因であり,繰延税金負債200 は将来のキャッシュフローの減少要 因である。そして「評価益500−税金費用 200」として計算される評価差額金 300 は, 将来,これらのキャッシュフローが現実のものとなった時点で増加する純資産,すなわ ち未実現の純資産の増加額を表すことになる。 逆に,当該有価証券の期末時価が800 万円の場合,以下の仕訳がおこなわれる。 (借)繰延税金資産 80 (貸)投資有価証券 200 その他有価証券評価差額金 120 そしてこの場合の貸借対照表は次のとおりである。 この場合,投資有価証券の減価△200 は将来のキャッシュフローの減少要因を表し, 繰延税金資産80 は,将来の税金キャッシュフローの節約という意味で,将来のキャッ ──────────── 34 日本公認会計士協会「為替換算調整勘定の資本の部計上に伴う税効果会計適用上の留意事項」2001 年。 35 特定の評価差額項目が損益計算書をバイパスすることで生じる問題としてしばしば指摘されるのが,ク リーンサープラス関係との関係である。つまり,この処理方法によるとき,損益計算書(損益勘定)と 利益剰余金の間のクリーンサープラス関係は維持されるものの,特定の評価差額項目を含んだ剰余金総 額と損益計算書のクリーンサープラス関係は破壊される。この問題については,辻山栄子「利益の概念 と情報価値(1)−実現の考え方−」(斎藤静樹編著『会計基準の基礎概念』中央経済社,2002 年,349− 374 ページ)を参照されたい。 包括利益と税効果会計(松本) ( 73 )7

(19)

貸借対照表 Cash outflow Cash inflow 評価差額金  △120 投資有価証券 △200 繰延税金資産  80 シュフローの増加要因となる。そして「評価損△200−税金費用△80」として計算され る評価差額金△120 は,将来,キャッシュフローが実現した時点で減少すると予測され る純資産,すなわち未実現の純資産の減少額を表す。 ここで改めて確認するまでもなく,わが国の会計制度が予定している損益計算書は当 期純利益の計算を目的としており,そして税効果会計の目的とされている会計上の利益 と税金費用の対応も,この当期純利益のレベルで達成されることになる。 一方,その他の包括利益の構成項目に相当する評価差額については,税効果を調整し た金額で貸借対照表の資本の部に直入され,その変動を説明する計算書(包括利益計算 書)は作成されない。つまり,ここでの税効果会計は,利益と税金費用の対応関係を示 すものではなく,将来キャッシュフローの変動要因の表示機能に徹することになる。そ の意味で,資本直入方式は資産負債中心観の究極の姿といえなくもない。

前節で引用したように,「金融商品に係る会計基準」はその他有価証券の時価が取得 原価を下回る場合,評価差額を当期の損失として処理することを認めている。もちろん この処理方法は従来の低価法の一形態とみることもできる 36 が,見方を変えればそれは純 利益計算と,その他の包括利益計算の混同でもある。 ところで,純利益とその他の包括利益の境界線を不鮮明にしているこの種の実務慣行 は,純利益を唯一の利益概念とする期間損益計算構造からくる制約と考えられなくもな い。いいかえれば,利益概念が純利益から包括利益に移行しつつある今日,純利益の測 定をストックの価値変動から切り離し,純利益を「一会計期間の業績を示す測定値」と して純化することはむしろ容易になっているともいえよう。その場合,純利益の計算に 含まれているストックの価値変動をその他の包括利益として集約することにな 37 る。 「将来,会計基準が変更になれば,現在,稼得利益の内訳要素として認識されている 項目も変わることがある。さらに,稼得利益と包括的利益とには違いがあるために,現 ──────────── 36 「金融商品に係る会計基準」四2(4)澆ロ。 37 もちろんその場合にも,その他の包括利益について総額法による税効果の調整をおこなえば,SFAS 130 の例示にあるように,当期純利益と包括利益の二つのレベルで会計上の利益と税金費用の対応関係を示 すことができる。 同志社商学 第57巻 第1号(2005年10月) 74( 74 )

(20)

在のところ,ある種の純資産の変動は稼得利益の内訳要素として認識されているが,将 来,会計基準が変更になれば,それも包括的利益の内訳要素として認識されることにな ると考えられる」というSFAC 5 の論述 38 はその可能性を伺わせるものである。 本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号14330042)による研究成果 の一部である。筆者はその研究援助に深く感謝する。 ──────────── 38 平松一夫・広瀬義州訳,前掲書,235 ページ。 包括利益と税効果会計(松本) ( 75 )7

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