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緩和医療における予後告知準備の重要性について

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(1)

緩和医療における予後告知準備の重要性について

著者 渡辺 陽子, 堀口 美穂, 本田 育美

雑誌名 三重看護学誌

巻 9

ページ 97‑101

発行年 2007‑03‑20

URL http://hdl.handle.net/10076/3530

(2)

I

.はじめに

1980年代後半より,わが国においてもインフォー ムド・コンセントが推奨されるようになった.それは,

がん患者も例外ではない.治療や療養生活に対して,

どのような治療を受け,また,どのように生きていき たいかを,患者自身によって決めていくことが望まれ るようになった.しかし,患者がこれからの人生を考 える上で,拠り所の要となる予後の告知については,

十分に行われていないというのが多くの現状である.

この度,最期まで治療を望みつつも,何も告げられ ないままに終末期を向かえてしまった患者を受け持ち 看護師として担当した.この事例を通して,終末期で あることを告げられていない患者に対して,症状緩和 への介入に移行することの難しさを実感するとともに,

患者の意思が尊重された最期を迎えることができなかっ たのではないかというもどかしさを感じた.今回,こ れら2つの点を省みる手がかりを得るべく,経過を振 り返ることで,何故に難しさを招くこととなったかを 明らかにし,それに対する介入方法を検討したので報 告する.

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.方法

1)対 象:対象事例は,B大学病院に血液腫瘍に対す る加療目的で入院され,予後告知をされないまま最 期を迎えた患者である.

2)倫理的配慮:研究にあたり,対象者の両親に対し プライバシーの保護と情報守秘の保証とともに,報 告の趣旨を口頭にて説明し了解を得た.

3)分 析:看護記録および関係者らの記憶から印象に 残った場面を再構成した.「目の前に迫り来る終末 期とどのように向き合うか」という問題を解決する という視点から,アギュララとメズイックの危機介 入理論1を用いて分析した.

【事例紹介】

A氏は,20歳後半の独身女性である.両親と弟,

祖母との5人家族であった.性格は,頑張り屋で優等 生という周囲からの評価であった.趣味は,カラオケ,

買い物,ライブハウスに行くことであった.

平成14年に悪性リンパ腫と診断され化学療法が適 応されたが,翌年にも再発し,自家末梢血幹細胞移植

(auto-PBSCT)が施行された.平成16年には,右肺 門部に近い肺野にも腫瘍が認められ,2度目の再発と いうことで入院となった.

I I I

.看護の実際(図

1 )

入院後,2度目の再発であることが本人と両親に伝 えられた.A氏は,「早く治療して治したい.再発っ て言われたのもショックだけど,『治療は難しいから 相談しながらやっていく』って言われたのがもっとショッ クだった.何で?頑張って移植もしたのに‥.私,死 ぬのかな?死にたくないよ‥.親の前では泣けない.

これ以上心配はかけられない」とショックな気持ちを 正直に語ってくれた.「両親には甘えられない」と話 すA氏にとって,医療者は不安な気持ちを表出する 相手であると思われた.そのため,出来る限りA氏 の話を傾聴するよう時間を作ることに努めた.

その後,化学療法が開始となり,A氏は治療を受け ることによって,次第に落ち着きを取り戻しつつあっ た.しかし,最初に施行した治療法の効果はなく,内 容が変更となった.その後4ヶ月間,何とか病勢を抑 えてきてはいたが,副作用である骨髄抑制が強く出現 したため再度治療内容が変更となった.その治療法で も骨髄抑制の症状が強く,骨髄機能の回復が遷延した ため,抗がん剤による治療が困難な状況が続いていた.

副作用の症状が強く出現し,治療が困難になりつつ ある時でも,A氏は「治療を諦めるってことは,死ぬっ てことやろ?死にたくないから頑張る」と言っていた.

その一方で,この頃より,咳嗽や疼痛などの自覚症状 が強くなりつつあり,「咳が止まらんということは,

腫瘍が小さくなってないということだから,駄目やん!」

とも口にした.

1 三重大学医学部附属病院 2 三重大学医学部看護学科

緩和医療における予後告知準備の重要性について

渡辺 陽子

1

,堀口 美穂

1

,本田 育美

2

(3)

A氏には,長い療養生活の中で共に過ごしてきた同 世代の友達がいた.入院後も何度かお見舞いに来てく れ,A氏の体調が良いときには一緒に外出したりもし ていた.その友達からの面会があったある日,「前に 入院していた仲の良かった子は,(病気が)良くなっ て可愛い服着てきれいにお化粧して面会に来てくれる.

だけど自分だけ良くならなくて‥.悔しいの‥」と,

涙ぐまれる姿も見られた.また,治療が進まないこと に対して,「先生は体力が落ちているから治療はしば らく休憩するというけれど,その間に病状が悪くなっ たらどうしよう?それで死んでしまったらと思ったら,

怖い」と,泣きながら夜間のナースステーションへやっ て来くることもあった.

A氏は,その時抱えている気持を医療者に対して表 出することで落ち着きを取り戻し,気持ちを整理して いたと思われた.そのため,看護師はそれに対して出 来る限り時間を作り,話しに耳を傾け,A氏を支える よう努めた.しかし一方では,他の業務や担当患者を 抱えながら,A氏の希望に添うような対応を常に行う には限界もあった.この頃,A氏から担当看護師に,

「ナースは友達.おしゃべりしていると楽しい.でも,

ナースには職場・仕事」と書かれたメモが手渡される.

A氏の症状が悪化するに従って,「死なないよね」「私,

生きたい!」といった不安を示す言動がますます強く 見られるようになっていった.

「何でなの?」と問いかけるA氏に対して誠実に

対応できないことや,両親に相談しようにも避けられ ているようなそぶりに,看護師はどうしてよいか困り 果ててしまった.そのため,主治医・担当精神科医・

看護師間での合同カンファレンスを行うこととなった.

話し合いの結果,両親にはA氏の病状について説明 を行い,今後の対応について相談することとなった.

説明の内容は,「これ以上,治療を実施しても,効果 は期待できない.今後は,急速に病状が進行していく ことが予測される.余命は数ヶ月と考える」という厳 しいものであった.主治医と両親とが話し合った結果,

A氏には正確な病状説明を行わないこと,さらなる治 療も実施しないことが決められた.そして,A氏の状 態として,身体症状が強くなっており動くことさえも 辛くなってきているため,家族に付き添ってもらうこ とを提案した.家族には迷惑をかけないと頑張ってき たA氏であったが,自らも直接母親に「付き添って 欲しい」と伝え,母親の付き添いが始まった.

真実が伝えられていない状況でのA氏の不安は,

さらに強くなってきていた.「何でこんなにえらいの?

死ぬのかな?死にたくない」とか,「何でこんなに眠 いの?こんなに寝ていていいの?寝るのが怖い」等の 訴えも聞かれた.意識ははっきりしていたために,夜 間に眠れないことに対して睡眠剤を使用することや鎮 痛剤を増量することに拒否する場面もあった.医療者 は,咳や疼痛,不眠等をコントロールしていくことが 難しいと感じていた.また一方では,「こんなに色々 渡辺 陽子 堀口 美穂 本田 育美

三重看護学誌 Vol.9 2007

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図1.A氏の経過

(4)

症状が出て来ているのに,治療しなくていいのかな?

何で,何にもしてくれないの?」という言葉も聞かれ ていた.

次第に,呼吸困難感や倦怠感が強くなっていったA 氏ではあったが,身体を動かすことさえも困難な状況 でありながらも清拭や含嗽等はきちんとやり続けた.

さらに,尿管の挿入は断固として拒否をし,自分の力 で室内トイレまで移っていた.看護師は「もっと楽な 方法もあるのに」とジレンマを抱きつつも,A氏の希 望に添って,家族と共に介助を続けた.そのような中,

両親から「もう治らないなら,楽に最期を迎えさせて あげて欲しい」という切実な気持ちが伝えられた.最 終的には,A氏本人には,痛み止めという説明でもっ てデュロテップパッチを貼用し,さらに,息苦しさ が楽になるからと説明しドルミカムを投与すること で鎮静をかけることとなった.この度の入院から7ヶ 月後となる4月に昇天された.

I V

.考 察

アギュララとメズイックの危機介入理論は,ストレ スの多い出来事に遭遇したことにより生じた情緒不均 衡の状態が持続した結果を危機ととらえ,危機を回避 するにはどのように介入していったらよいかを示唆す るものであるといわれている2.危機回避につながる

3つのバランス保持要因のうち,『適切な社会的支持』

『適切な対処機制』『出来事に関する現実的な知覚』の 3つの視点からこの事例を分析した(図2).

『適切な社会的支持』とは,その人を取り巻く環境 が整っているか,助けてくれる人や頼りになる人がい るかということである2.入院当初のA氏は,「親に は心配かけられない」と話している.母親は毎日面会 に来てくれてはいたが,親の前では泣くこともせず,

頼ることも出来ていなかった.また,入院から間もな い頃は,かつて一緒に療養生活を送ってきた友達と出 掛けるなど,ストレスをうまく発散していたように思 われた.しかし,徐々に身体の調子が悪くなるに連れ,

「この子たちは元気になったのに,何で自分だけ‥」

と思うようになり,友達の存在自体を辛く思えてしま うようになって来ている.また,A氏にとって看護師 は,自分の不安な気持ちを表出できる身近な存在では あった.ただし,話しを聴ける時間をもったとはいえ,

看護師との関わりはあくまでも仕事の上での時間とい う制約が伴っている.また,業務の都合上,十分な時 間を確保することが出来ないという事情なども存在す る.そのため,看護師が全面的な支援者としての役割 を引き受けるということは困難である.A氏をとりま く環境の中で,社会的支援を受ける存在(家族や友人・

医療者など)がいなかったわけではない.しかし,刻々 と変化していく身体状態に伴い,A氏にとっては,サ 緩和医療における予後告知準備の重要性について 三重看護学誌 Vol.9 2007

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図2.A氏を取り巻くバランス要因の様相

(5)

ポート機能として充分に発揮することができていない.

かえって,それらの存在自体が辛く感じさせる要因に もなっており,孤立感を感じさせる結果にもなってい たと思われる.

一方,母親に頼ることは出来ないと話していたA 氏に対し,看護師から母親の付き添いを提案したこと により,A氏自らの口で自分の素直な気持ちを伝える ことができ,母親に付き添ってもらえることになって いる.A氏が母親に頼り,家族と一緒に最期の時間を 過ごすことができたともいえる.これは,自分にとっ て重要な人から支援を受けるということで,孤立の寂 しさから解放され,自分の存在を認められ,心の安寧 を得られる機会にもなったとも思われる.このような,

利用可能な支援者を配置することも重要な介入と考え られる.

『適切な対処機制』とは,日常生活の中で困難に立 ち向かわなければならない場合にとる行動であり,不 安を緩和し,緊張を和らげるために用いられる方法で ある2.ストレスが多い状況では,活用できる対処機 制が多いほど効果的な問題解決が可能となる.入院前 のA氏は,カラオケ・買い物・ライブハウスに行く ことでストレスを発散していた.しかし,入院し,治 療が始まることにより,徐々にそれらを行うことが不 可能になっていった.入院後のA氏にとっては,「治 療(薬)が効いて,早く治って(良くなって)帰りた い」という気持ちから,「治療を受ける」ということ が対処機制となっていたように思われる.ところが,

身体状態の悪化に伴い,「治療を受ける」という対処 機制も奪われつつあった.母親の付き添いを促したこ とは,家族の支えという対処機制を得るきっかけであっ たのではないかと思われる.また,A氏は利用できる 対処機制が少ない中でも,抱えている気持ちを表出す ることと,出来る限り身の回りのことを自分で行うこ とで,精神の均衡を保っていたのではないかと思われ る.入院前の対処機制も出来なくなり,治療を受ける ことも困難になりつつあったA氏にとって,使うこ とのできる対処機制は数少なく,危機的状況を乗り越 えるだけの手段にはならなかったのではないかと考え られる.このことから,入院時より,先を見越して今 後利用可能な対処機制について,患者またキーパーソ ンとなる人とともに見出しておくということが必要で あったのではないかと思われる.

人間はストレスの多い出来事に遭遇した際,適切な 問題解決が行われるためには,「出来事を現実的に知 覚していること」が重要である2.最期まで,A氏に は真実が伝えられることはなかった.そのために,現 実の事態とA氏が抱いている認識との間に大きなギャッ

プが生じていた.病状説明が行われなかったことで,

A氏は現在の病状と残された時間となる自分の予後と を結びつけて考えることが困難な状況であったと思わ れる.そのことにより,残された時間を大事に使って もらいたいという想いを抱く看護師とA氏との間に ズレが生じていると思われる.それ故に,看護師は症 状緩和やQOLへの介入に踏み切ることに対して,困 難さを感じざるをえない状況であったのだと考えられ る.また,青年期とは,人間が身体的,精神的側面に おいて充実し,結実しようとする時期である.そのよ うな時期に人生の終末を迎えることは,心身ともに葛 藤が大きいといわれている3.青年期にあるA氏にとっ て状態が悪化していくということは,更にストレスを 増大させることとなる.そのような事情を思うが故に,

周囲の者たちには一層全ての真実を告げるという選択 は出来なかったのだと思われる.

ターミナルの各段階における患者と家族のケアにお いて,告知に関するケアや身辺整理への配慮は,余命 6ヶ月~数ヶ月の時期に行われることとされている4. A氏の場合,2回目の再発と診断されたときは亡くな る丁度6ヶ月前であった.再発の説明が行われたとき から,予後告知を行うかどうか,最期をどう迎えるか,

長期的に病気についてどう考えているのか等について,

早期からA氏も含め,家族・医療者の間で話し合う 機会を持てたらよかったのではないかと思われる.

V.おわりに

今回,予後告知をされないままに最期の時を迎える こととなった事例をとおして,予後告知準備の重要性 について実感することができた.しかし,予後告知と いう大きな危機を回避するためには,患者を取り巻く 環境を整えること,そして,患者が危機を乗り越える ために必要な社会的支持や利用可能な対処機制を入院 時から把握しておくことが大変重要となってくること がわかった.

また,一般病棟における緩和ケアにおいては,身体 的また物理的条件によって,取り得る対処機制は数少 なくなる傾向がある.そのため,患者は危機的状況に 陥りやすくなると考える.それ故に,早期より患者と ともに活用できる対処機制を探し出していくことも重 要となってくる.さらに,予後告知については,再発 と診断された時から,患者・家族・医療者を含めて,

入念に準備を行っていく必要がある.

渡辺 陽子 堀口 美穂 本田 育美 三重看護学誌

Vol.9 2007

(6)

謝 辞

今回の報告に際して,ご協力をいただきましたA 氏の家族,また,数々のご助言をいただいた病棟スタッ フの皆様に深く感謝いたします.そして,このように 振り返り考える貴重な機会を与えてくださいました A氏に対して深く感謝をするとともに,心からご冥福 をお祈りいたします.

引用文献

1)Aguiler,D.C.(小松源助,荒川義子 訳):危機介入の理 論と実際-医療・看護・福祉のために,川島書店,東京,

1997.

2)酒井禎子:危機理論(モデル)の理解と実践への適用②,

がん看護,8(4),336-339,2003.

3) 大木正江,板野馨子:疼痛緩和が困難な青年期にある終 末期患者への援助,UrologicAlNursing,9(11),87-92,

2004.

4) 柏木哲夫,藤腹明子 ほか:系統看護学講座,別巻10, ターミナルケア,32-35,2002

5) 田村恵子,和田栄子 ほか:積極的治療から緩和ケアへ のギア・チェンジ-化学療法に期待を寄せる胃がん患者に 化学療法の引き際をどのように伝え,支えるか,がん看護 10(2),153-155,2005.

6) 座古祐子,真柄葉子 ほか:生への希望を強く持ち続け た壮年終末期患者の看護-対処行動と看護の関連性,日本 看護学会論文集34回成人看護II,200-202,2003 7) 的場典子:危機理論(モデル)の理解と実践への適用①,

がん看護,8(3),236-239,2003.

8) 長谷川久巳:危機理論(モデル)の理解と実践への適用

③,がん看護,8(5),419-423,2003.

9) 入沢裕子:危機理論(モデル)の理解と実践への適用④,

がん看護,8(6),509-513,2003.

緩和医療における予後告知準備の重要性について 三重看護学誌 Vol.9 2007

キーワード:緩和医療,予後告知,終末期,青年期

参照

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