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現行学習指導要領の批判的考察 ~生涯教育の視点から~

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現行学習指導要領の批判的考察

~生涯教育の視点から~

氏 名 小 林 実

平成 18 年度入学 学籍番号06GP104

弘前大学大学院教育学研究科修士課程 学校教育専攻 学校教育専修

指導教官 佐藤 三三

(2)

目 次

問題の所在 1

第一節 現行学習指導要領の特徴 2 Ⅰ 現行学習指導要領へのプロセス 2

Ⅱ 自ら学び自ら考える力の育成について 7 (1)教え込み重視の教育からの転換 7 (2)道徳教育の充実 8 (3)国際化へ対応した教育の充実 9 (4)情報教育の充実 10 (5)体育・保健教育の充実 10

Ⅲ 総合的な学習時間の創設 11 (1)「総合的な学習の時間」のねらい 11 (2)「総合的な学習の時間」の特色 11

Ⅳ わかる授業,楽しい学校の実現 13 (1)教育内容の厳選と基礎・基本の徹底 13 (2)個に応じた指導の充実 14

Ⅴ 特色ある学校作りの推進 15 (1)開かれた学校づくり 15 (2)家庭や地域社会との連携重視 15

Ⅵ 完全学校週五日制の実施 18 (1)生活体験・自然体験の重視 18 (2)学社連携・融合 18

Ⅶ 現行学習指導要領の特徴 20

第二節 生涯教育の視点 21 Ⅰ ポール・ラングランの生涯教育論と三つの視点 21

Ⅱ 三つの視点の精緻化 25

(1)自己教育力 25

(2)教育の個性化 27

(3)学校教育の生涯教育化 28

(3)

第三節 現行学習指導要領の批判的考察 31 Ⅰ 自己教育力の視点から 31 Ⅱ 教育の個性化の視点から 33

Ⅲ 学校の生涯教育化の視点から 35

Ⅳ 生涯教育の視点からみた現行学習指導要領の問題点 36

Ⅴ 現行学習指導要領の今後の方向性 39

おわりに 41

【引用文献】 42

(4)

問題の所在

現行指導要領は,完全学校週五日制の下で「生きる力」をはぐくむ新しい学校教育の構築を 目指して「ゆとり教育」というキーワードのもとで実施された。このことは,社会全体のシス テムを完全学校週五日制へと変更するとともに,それに伴って学校教育つまりはこれまでの義 務教育のあり方を見直すということでもある。この考え方の基底にあるものが「生涯教育」と いう考え方である。「生涯教育」という考え方を基本理念として実施された現行学習指導要領 が,実施されてまもなく社会的な批判などから,これまではなかった一部改正ということが行 われ,10年を経ずに中央教育審議会によってすでに新学習指導要領の編成に向けて作業が進 められている。

そもそも現在の教育改革の基本理念の基底となっている「生涯教育」の考え方は,昭和 46 年中央教育審議会答申(以下『中教審 46 答申』と略記)「今後における学校教育の総合的な拡 充整備のための基本的施策」の中で言及され,その後も総理大臣の諮問機関として設置された 臨時教育審議会(以下『臨教審』と略記)最終答申では,「個性重視の原則」「生涯学習体系 への移行」「変化への対応」という3つの項目が掲げられ教育改革の視点としてとりまとめら れた。それ以来,「生涯学習体系への移行」へ向けて,中央教育審議会,教育課程審議会,教 育養成審議会,生涯学習審議会などから答申が出され,現在まで教育改革が進められてきた。

このような改革プロセスのもと,平成 10 年に告示された現行学習指導要領に対しては告示前 から完全学校週五日制や授業時間数の縮減等による学力低下論争をきっかけとしてこれまで多 くのことが指摘されてきた。しかし,どの議論の中にも基本理念である「生涯教育」というこ とが見落とされており,従来の学校教育及び義務教育をイメージした議論になっているところ に教育論争自体が不毛であると考える。私は本論を通じて,この理念の発端となったポール・

ラングランの生涯教育論を見直し,「生涯教育」という理念はどういうものなのかということ をいま再び問い返し,その「生涯教育」の理念に基づいて実施された現行学習指導要領を考察 することで,現行学習指導要領における本当の問題点を明らかにしていきたいと考えている。

第一の問題点は,「ゆとりの中で一人一人の子どもたちに『生きる力』を育成する」ことが 基本的なねらいであったものが,学校完全週五日制のもと現行学習指導要領は「ゆとり教育」

を基本理念とするようなイメージが先行しすぎたことである。

第二の問題点は,生涯教育という基本理念の下で「基礎・基本の確実な定着を図る」ことが,

「確かな学力」という言葉に変換されたことで,従来の学校教育及び義務教育のもとでの学力 観で議論がされてしまったということである。

第三の問題点は,「個性を生かす教育」「個性重視の教育」というキーワードが先行しすぎ たために,「生きる力」という現行学習指導要領の基本理念の中に掲げられている「自分を律 しつつ,他人と協調する」という個性本来のあるべき姿が見失われてしまったということであ る。

そこで,本論では,第一節で現行学習指導要領の特徴して,これまでの教育改革のプロセス を概観し,5 つの項目について現行学習指導要領の基本的な方向性を示した平成 8 年中央教育 審議会答申(以下『中教審平成 8 年答申』と略記)を参照しながら,改革のねらいと内容につ いて概観していく。

第二節では,現行学習指導要領の基本理念として取り入れられた「生涯教育」という理念に

(5)

ついて学校教育と関連する内容について概観していく。

第三節では,生涯教育の視点から,現行学習指導要領の問題点について言及し,今後の教育 改革の在り方について私なりの方向性を言及していくこととする。

(6)

第一節 現行学習指導要領の特徴

Ⅰ 現行学習指導要領へのプロセス

現行学習指導要領は,『中教審平成 8 年答申』(「21世紀を展望した我が国の教育の在り方 について-子供に『生きる力』と『ゆとり』を-」)の考え方を踏まえて公表された。

同答申は,現行学習指導要領のねらいと「確かな学力」の育成について,基礎・基本を徹底 し,自ら学び,自ら考える力などを育成することにより,「生きる力」の知的側面である「確か な学力」の育成を図ろうとするものであった。この中で使用された「生きる力」という教育用 語が現行学習指導要領の基本理念として現在も生き続けていることになる。この「生きる力」

という教育用語は,もともと文部省の平成 6 年度教育白書『我が国の文教施策』の副題である

「学校教育の新しい展開-生きる力をはぐくむ」の中で,新学力観や学校週 5 日制との関連か ら使用されたものである。

『中教審平成 8 年答申』では,この「生きる力」について「我々はこれからの子供たちに必 要となるのは,いかに社会が変化しようと,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体 的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力であり,また,自らを律しつつ,他 人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性であると考えた。たく ましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない。我々は,こうした資質 や能力を,変化の激しいこれからの社会を[生きる力]と称することとし,これらをバランス よくはぐくんでいくことが重要であると考えた。[生きる力]は,全人的な力であり,幅広く様々 な観点から敷衍することができる。まず,[生きる力]は,これからの変化の激しい社会におい て,いかなる場面でも他人と協調しつつ自律的に社会生活を送っていくために必要となる,人 間としての実践的な力である。」と述べている。

また,同答申では,この「生きる力」をはぐくむために,「我々は,[生きる力]をはぐくん でいくために,これらに共通のものとして,子供たちにも,学校にも,家庭や地域社会を含め た社会全体にも[ゆとり]が重要であると考える。今,子供たちは多忙な生活を送っている。

そうした中で[生きる力]を培うことは困難である。子供たちに[ゆとり]を持たせることに よって,はじめて子供たちは,自分を見つめ,自分で考え,また,家庭や地域社会で様々な生 活体験や社会体験を豊富に積み重ねることが可能となるのである。そのためには,子供たちに 家庭や地域社会で過ごす時間,すなわち,子供たちが主体的,自発的に使える時間をできるだ け多く確保することが必要である。そうした[ゆとり]の中で子供たちは,心の[ゆとり]を 持つことができるようになるのである。また,子供たちに[生きる力]をはぐくんでいくため には,子供たちに[ゆとり]を持たせるだけでなく,社会全体が時間的にも精神的にも[ゆと り]を持つことが必要である。社会全体が[ゆとり]を持つことにより,はじめて,学校でも 家庭や地域社会でも,教員や親や地域の大人たちが[ゆとり]を持って子供たちと過ごし,子 供たちの成長を見守り,子供たち一人一人と接することが可能となる。こうした社会全体の[ゆ とり]の中で,子供たちに[生きる力]をはぐくんでいくことができるのである。」とし,「ゆ とり」が必要だと述べている。

このように同答申では,「生きる力」は全人的な力であるとし,①自分で課題を見つけ,自 ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力,②他人と

(7)

ともに協調し,他人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性,③たくましく生きるため の健康や体力であり,変化の激しいこれからの社会の中で,これら資質や能力をバランスよく はぐくんでいくことが重要だという認識を示している。

つまり,「生きる力」の育成が,たんに学校教育だけでの課題ではなく,学校・家庭・地域 社会の連携のもと,社会全体で取り組まなければならない課題であり,社会全体の「ゆとり」

の中で,子供たちに「生きる力」はぐくんでいくことができると述べている(1)

同答申では,「生きる力の育成を重視した学校教育の展開」として,知識を一方的に教え込 むことになりがちであった教育から,子供たちが,自ら学び,自ら考える教育への転換を目指 すとしている。また,知・徳・体のバランスのとれた教育を展開し,豊かな人間性とたくまし い体をはぐくんでいくとしている。

つまり,生涯学習社会を見据えつつ,学校ですべての教育を完結するという考え方を採らず に,自ら学び,自ら考える力などの[生きる力]という生涯学習の基礎的な資質の育成を重視 していくべきだという認識に立っている。この「生きる力」の育成のために,「教育内容の厳選 と基礎・基本の徹底」「一人一人の個性を生かすための教育の改善」「豊かな人間性とたくまし い体をはぐくむための教育の改善」「横断的・総合的な学習の推進」などの具体的な取り組みの 必要性を挙げている。

では,なぜこのような従来の教育観を転換するような方向性が示されたのだろうか。このこ とについて,同答申では「今後における教育の在り方」の中で子供たちの生活と家庭や地域社 会の現状について,①ゆとりのない生活,②社会性の不足や倫理観の問題,③自立の遅れ,④ 健康・体力の問題,⑤現代の子供の積極面,⑥学校生活をめぐる状況,⑦家庭の現状,⑧地域 の現状を取り上げている。

そこで,これらの課題は,戦後の経済成長の過程で,社会やライフ・スタイルの変容ととも に家庭や地域社会に見られる教育力の低下が生じてきたものと認識している。

また,「生きる力」を育成するためには,上述したように,学校教育だけでなく,学校・家庭・

地域社会の連携が必要不可欠であるということを「[生きる力]は,学校において組織的,計画 的に学習しつつ,家庭や地域社会において,親子の触れ合い,友達との遊び,地域の人々との 交流などの様々な活動を通じて根づいていくものであり,学校・家庭・地域社会の連携とこれ らにおける教育がバランスよく行われる中で豊かに育っていくものである。特に,[生きる力]

の重要な柱が豊かな人間性をはぐくむことであることを考えると,現在,ややもすると学校教 育に偏りがちと言われ,家庭や地域社会の教育力の低下が指摘されている我が国において,家 庭や地域社会での教育の充実を図るとともに,社会の幅広い教育機能を活性化していくことは,

喫緊の課題となっていると言わなければならない。子供たちは社会全体ではぐくまれていくも のであることを再確認し,子供たちの健やかな成長は,大人一人一人の責任であり,大人一人 一人が考え,社会のあらゆる場で取り組んでいく必要がある問題であること,また,大人の社 会の在り方そのものが強く問われる問題であることを改めて強調しておきたい。」と繰り返し述 べている。

現行学習指導要領は,平成元年の学習指導要領改訂の趣旨を更に発展させ,さらに『中教審 平成8年答申』を踏まえて,変化の激しい次の時代を担う子どもたちに必要な力は「生きる力」

であるとした上で,その「生きる力」をはぐくむために,①学校週5日制の完全実施,②わか る授業,楽しい学校,③自ら学び自ら考える力の育成,④特色ある学校作りの推進,⑤総合的

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な学習の時間の創設,中学校における選択教科の授業時数の増加などを改訂の柱として取り入 れ,小・中学校は平成14年度から,高等学校は15年度から実施された。

しかし,この改革の源流は『中教審46答申』「今後における学校教育の総合的な拡充整備の ための基本施策について」にみることができる。この答申の中心的な考え方は,画一的平等主 義教育の見直しと個に応じる多様な教育の整備が必要であるとするもので,教育の機会均等の 保障も量から質を重視するという内容であった。

つまり,「人間形成の多面性と統一性の重視」や「自分自身を主体的に形成していく過程」

が教育であるとして,学ぶ者たちの多様な適性,能力に応じる多様な教育要求を満たすための 学校体系をはじめ,教育内容・方法等の多様化構想をともなう内容が打ち出されたのである。

ここに,従来,同一性,同質性を重視してきた考え方の転換をみることができる(2)

このことから,教育制度改革についいても,学校体系の多様化ということから,「幼少関連」,

「中高一貫」等の構想が提案されてきた。また,高等教育制度の改革との関連から生涯教育論 が教育改革の理念として取り入られ,従来の学校教育の役割機能も検討され始めた。

以後,『中教審46答申』の「多様化政策」は,1984年,総理大臣の諮問機関として設置され た臨時教育審議会(以下「臨教審」と略記)に引き継がれ,「自由化政策」への転換を図りな がら改革が進められてきた。

臨教審最終答申では,「個性重視の原則」「生涯学習体系への移行」「変化への対応」とい う3つの項目に審議の内容を総括してまとめ,改革の視点として提言された。ここで提言され た内容は,1990年代の教育改革の基本路線とされ,特に,生涯学習社会の到来に向けて,「自 己教育力」を育成するために,子供たちにとって,主体的な学習の仕方(「学び方を学ぶ」)

を身に付けることが重要な学力であるとの認識を示したことは,その後の教育改革に生涯教育 の理念を基本理念とするということを明確にするとともに,今後の学校教育で育成すべき学力 の中核に位置づけられていくことになる(3)

これ以降は,教育課程審議会答申,1989年の学習指導要領(以下「前学習指導要領」と略記)

の告示,それに続く指導要録の改善は,生涯学習社会にとって必要不可欠な学力を「自己教育 力」と規定し,また,自ら学ぶ意欲を培いながら,主体的な学習の仕方を身に付けることを「個 性重視の原則」ともリンクさせながら改革が進められた。

以上,平成14年から実施された現行学習指導要領の改訂のプロセスを概観してきた。

現行学習指導要領は「ゆとり」の中で「生きる力」を育成するというスローガンのもと,教 育内容の三割削減と学校完全週五日制の実施ということが公表されて以来,学力低下論争が全 国的に広がり,ついには文部科学省が学習指導要領の最低基準性の考えを明らかにしたために,

教育現場のみならず,教育関係の各方面に対して不安感を抱かせることとなった。

さらに,現行学習指導要領の実施を目前として,2002年1月に文部科学省より「確かな学力向 上のための2002アピール『学びのすすめ』が発表されたことにより,これまでの教育改革の理 念から方向転換するような見解だったために,文部科学省の「方針のぶれ」を表出するという 結果となった。

このことに関しては,「第三節 Ⅳ 生涯教育の視点からみた現行学習指導要領の問題点」

で取り上げることとする。

(9)

以下では,現行学習指導要領の内容について概観していき,現行学習指導が目指していたも のについて具体的な取り組みから明らかにしていくとともに,その特徴を導き出していくこと とする。

(10)

Ⅱ 自ら学び自ら考える力の育成について

(1)教え込み重視の教育からの転換

平成 11 年文部省初等中等教育局小学校課教育課程企画室から発行されたパンフレット の中には,『自ら学び自ら考える力の育成』について,「これまでの多くの知識を教え込み がちであった教育から,子供たちに自ら学び自ら考える力を育成する教育へと転換を図り ます。また,社会の変化に主体的に対応できる力を育成するとともに,豊かな心やたくま しさをはぐくみます。」ということが書かれている。

また,これからの社会を生きる子供たちに必要な力として,「激しい変化が予想されるこ れからの社会において,生涯を通じて,いつでも自由に学び続けるという生涯学習の考え 方をさらに進めていく必要があります。このため,教育は学校教育のみで完結するのでは なく,学校教育では生涯学習の基礎となる力を育成することが重要です。これからの子供 たちには,年号や地名などの細かな知識をたくさん覚えていることより,自分で考え,自 分の考えをもち,それを自分の言葉で表現できる力を身に付けていて,それを実際の生活 に生かすことができるようにすることが重要です。」と書かれている。

このことは単に過去の知識を記憶しているということではなく,初めて遭遇するような場面 でも,自分で課題を見つけ,自ら考え,自ら問題を解決していく資質や能力を育てていこうと することであり,これまでの教え込み重視の教育からの転換を図ろうとしたのである。

このような転換を図るに至った背景には,『中教審平成 8 年答申』第1部 今後における 教育の在り方」の中の「(4)過度の受験競争の緩和」に書かれているように,過度の受験競争 が,子供たちの生活を多忙なものとし,心の[ゆとり]を奪う,大きな要因となっているとい う認識あったからである。

つまり,現行学習指導要領では,今後の教育の在り方として,多くの知識を教え込むことを 重視していたこれまでの教育から,「自ら学び自ら考える力」を育てる教育へと転換を図る ことで,過度の受験競争を緩和し,「ゆとり」の中で一人一人の子供たちに「生きる力」を 育成しようとしたのである。

同パンフレットでは,「自ら学び自ら考える力」を育成するために,「①知的好奇心や探究心 をもって,自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力,②自らの力で論理的に考え判断する力,③自分の 考えや思いを的確に表現する力,④問題を発見し解決する能力」の育成を重視するとしている。

このような能力は実際に自分で調べたり,体験したりすることによって実感を伴った理解を 深めることによりはぐくまれるとし,体験的な学習や問題解決的な学習を積極的に授業に取り 入れていくとしている。

しかし,「自ら学び自ら考える力」を「生涯学習の基礎となる力」として位置付けてはい るものの,学(校)歴偏重社会の問題とも関連し,「自ら学び自ら考える力」の育成が,どのよ うに過度の受験競争の緩和をする解決策となるのかは具体的には示されていないという課題 もある。

(11)

(2)道徳教育の充実

現行学習指導要領の「第 1 教育課程編成の一般方針」で道徳教育については,「学校にお ける道徳教育は,学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳の時間をはじめとして各 教科,特別活動及び総合的な学習の時間のそれぞれの特質に応じて適切な指導を行わなければ ならない。道徳教育は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,人 間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭,学校,その他社会における具体的な生活の中に 生かし,豊かな心をもち,個性豊かな文化の創造と民主的な社会及び国家の発展に努め,進ん で平和的な国際社会に貢献し未来を拓く主体性のある日本人を育成するため,その基盤として の道徳性を養うことを目標とする。道徳教育を進めるに当たっては,教師と児童及び児童相互 の人間関係を深めるとともに,家庭や地域社会との連携を図りながら,ボランティア活動や自 然体験活動などの豊かな体験を通して児童の内面に根ざした道徳性の育成が図られるよう配慮 しなければならない。」と述べている。

同パンフレットには,子どもたちに正義感・倫理観,思いやりの心などの豊かな人間性 や社会性をはぐくむためには,家庭の役割も重要であるが,学校教育においては①幼稚園,

小学校低学年では,基本的な生活習慣や善悪の判断,社会生活上のルールなどの指導の徹 底,②ボランティア活動や自然体験活動などの体験活動を生かした学習を充実し,豊かな 体験を通して道徳性の育成を図るとしている。同パンフレットでは,豊かな心やたくまし さについても「自ら考え自ら考える力」の育成とリンクさせて掲載しているが,現行学習 指導要領との整合性はここでは余り見られないように思われる。

そこで,道徳教育に関しては,『中教審平成 8 年答申』の中では特筆されていないが,

第1部 今後における教育の在り方」の中の「(5)いじめ・登校拒否の問題」の記述を参 照すると,「今日,最も解決に向けた取組が求められている教育上の課題として,過度の受験競 争の問題と並んで,いじめ・登校拒否の問題がある。 現在,憂慮すべき状況にあるいじめや登 校拒否の問題の背景については,家庭・学校・地域社会のそれぞれの要因が複雑に絡み合って いると考えられるが,深く現代社会の在り方そのものともかかわっており,この問題は,我々 の社会全体に投げかけられた大きな課題と言っても,過言ではない。 現代の日本社会は,物質 的には豊かになったものの,人間関係が希薄化する傾向にあるという問題,家庭や地域社会に おける教育力が低下しているという問題,学校が子供たちの多様な実態に十分対応できていな いという問題など,様々な問題を抱えている。そうした中で,子供たちについては,生活体験・

社会体験・自然体験,異年齢の者との交流,社会性が不足しているのではないか,他人への思 いやり,生命や人権の尊重,正義感や遵法精神等の基本的な倫理観が十分養われていないので はないか,自己抑制力,自立心等の生活態度にかかわるしつけが十分なされていないのではな いか,ストレスを抱えているのではないか,など様々な問題が懸念されており,これらがいじ め・登校拒否の問題の背景として浮かび上がってくる。 いじめ・登校拒否の問題の背景には,

このような様々な要因が考えられ,また個々のケースによりまちまちであるが,一つの見方と して,我々の社会が「同質にとらわれる社会」という問題点を持っていることから来ていると いう指摘もなされている。個性を尊重し,お互いの差異を認め合うことの大切さは,これまで の我々の社会では十分に顧みられてこなかった。我々も,この「同質にとらわれる社会」の影 響は広く各方面に及んでおり,いじめ・登校拒否の問題ともかかわっていると考えるのである。

(12)

(中略)このような意味から,我々は,いじめ・登校拒否の問題の解決のためには,同質志向 を排除して,個を大切にし,個性を尊重する態度やその基礎となる新しい価値観を,社会全体 が一体となって育てることも重要であると考える。」と述べられている。

ここでは[生きる力]は,理性的な判断力や合理的な精神だけでなく,美しいものや自然に 感動する心といった柔らかな感性を含むものであり,さらに,よい行いに感銘し,間違った行 いを憎むといった正義感や公正さを重んじる心,生命を大切にし,人権を尊重する心などの基 本的な倫理観や,他人を思いやる心や優しさ,相手の立場になって考えたり,共感することの できる温かい心,ボランティアなど社会貢献の精神も,[生きる力]を形作る大切な柱であると している。

やはり,[生きる力]の重要な柱が豊かな人間性をはぐくむことであることを考えると,社会 性の不足や倫理観の問題から派生し,我々の社会の病理的現象ともいえる「同質にとらわれる 社会」の影響は多大であり,この課題を解決するためにも「個性重視の原則」という視点に立 った教育改革を推進していく必要性がある。

また,この問題の解決のためには,社会のあらゆる場で取り組んでいく必要がある問題であ ること,そして,大人の社会の在り方そのものが強く問われる問題であることを改めて認識せ ざるを得ない。

(3)国際化へ対応した教育の充実

現行学習指導要領の「第 1 教育課程編成の一般方針」で国際化へ対応した教育の充実につ いては,総合的な学習の時間の学習活動を行うに当たって配慮する事項として,「国際理解に関 する学習の一環としての外国語会話等を行うときは,学校の実態等に応じ,児童が外国語に触 れたり,外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学 習が行われるようにすること。」と述べている。

しかし,『中教審平成 8 年答申』「第1部 今後における教育の在り方」の中では,国際化 へ対応した教育については,「広い視野を持ち,異文化を理解し,これを尊重する態度や異なる 文化を持った人々と共に生きていく態度などを育成するためには,子供たちに我が国の歴史や 伝統文化などについての理解を深めさせることが極めて重要なことになる。」として,ねらいが 明確に打ち出させられている。

つまり,国際化へ対応した教育をすることによって,自分自身が何ものであるのかを知る こと,すなわち自分自身の座標軸を明確に持つことが極めて重要であるとしている。また,自 分自身を知ることなくしては,相手からも理解されず,また,相手を理解することもできない と言わなければならないとし,日本人として,また,個人としての自己の確立の重要性を述べ ている。

そして,この国際理解教育を実りのあるものにするためには,単に知識理解にとどめること なく,体験的な学習や課題解決的な学習などをふんだんに取り入れて,実践的な態度や資質,

能力を育成していく必要があるとしている。

(13)

(4)情報教育の充実

現行学習指導要領の「第 1 教育課程編成の一般方針」で配慮する事項の中で「情報教育の 充実」について,「各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワーク などの情報手段に慣れ親しみ,適切に活用する学習活動を充実するとともに,視聴覚教材や教 育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。」と述べている。

同パンフレットでは,①中学校の技術・家庭科でコンピュータの活用など情報に関する 学習を推進すること,②高等学校で教科「情報」を新設し必修化すること,③小学校でも

「総合的な学習の時間」や各教科等の学習で,コンピュータに慣れ親しむ活動を充実させ るとしている。

(5)体育・保健教育の充実

現行学習指導要領の「第 1 教育課程編成の一般方針」で「体育・保健教育の充実」では,

「学校における体育・健康に関する指導は,学校の教育活動全体を通じて適切に行うものとす る。特に,体力の向上及び心身の健康の保持増進に関する指導については,体育科の時間はも とより,特別活動などにおいてもそれぞれの特質に応じて適切に行うよう努めることとする。

また,それらの指導を通して,家庭や地域社会との連携を図りながら,日常生活において適切 な体育・健康に関する活動の実践を促し,生涯を通じて健康・安全で活力ある生活を送るため の基礎が培われるよう配慮しなければならない。」と述べている。

[生きる力]を形作る大きな柱として,豊かな人間性やたくましく生きるための健康や体力 は,重要なものであると位置付け,これからの健康の増進や体力の向上に関する指導に際して は,子供たちが健康の増進や体力の向上の必要性を十分理解した上で,自ら健康を増進する能 力や,興味・関心や適性等に応じ,適切に運動することのできる能力を育てることが大切であ るとしている。

また,学校教育における体育・健康に関する指導も家庭や地域社会との連携を図りながら取 り組むとしている点は,生涯学習体系の構築を意識した内容となっている。

(14)

Ⅲ 総合的な学習時間の創設

(1)「総合的な学習の時間」のねらい

「生きる力」の連動した特色ある学校づくりを最も代表する教育活動して,小学校では

「総合的な学習の時間」の創設,中・高等学校では「選択教科」の履修幅の拡大が現行指 導要領に位置付けられた。

そこで,現行学習指導要領では,(1) 自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に 判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。(2) 学び方やものの考え方を身に 付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考える ことができるようにすること。」というねらいをもって指導を行うこととしている。

また,学習内容については「例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総 合的な課題,児童の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題などについて,

学校の実態に応じた学習活動を行うものする」とした。

そして,「総合的な学習の時間」の学習活動を行うに当たっては,「①自然体験やボランティ ア活動などの社会体験,観察・実験,見学や調査,発表や討論,ものづくりや生産活動など体 験的な学習,問題解決的な学習を積極的に取り入れること。②グループ学習や異年齢集団によ る学習などの多様な学習形態,地域の人々の協力も得つつ全教師が一体となって指導に当たる などの指導体制,地域の教材や学習環境の積極的な活用などについて工夫すること。③国際理 解に関する学習の一環としての外国語会話等を行うときは,学校の実態等に応じ,児童が外国 語に触れたり,外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験 的な学習が行われるようにすること。」という3項目について配慮することとした。

このように,「総合的な学習の時間」とは,これまで画一的といわれていた学校の授業を かえて,①地域や学校,子供たちの実態に応じ,学校が創意工夫を生かして特色ある教育 活動が行える時間,②国際理解,情報,環境,福祉・健康など従来の教科をまたがるよう な課題に関する学習を行える時間として新しく設けられた。

(2)「総合的な学習の時間」の特色

「総合的な学習の時間」の特色として,同パンフレットでは「①総合的な時間は時間の内容 は,各学校で決めます。②自然体験やボランティア活動などの社会体験など体験的な学習や問 題解決的な学習が積極的に行われます。③グループ学習や異年齢集団による学習,地域の人々 の参加による地域の自然や施設を積極的に生かした学習などの多様な学習が行われます。④学 校の時間割における総合的な学習の時間の名称も各学校で決めます。」として 4 つのことを取り 上げている。

[生きる力]をはぐくむ上では,一人一人の個性を生かした教育を行うことは極めて重要で ある。

このような観点から,教育課程の弾力化,指導方法の改善,特色ある学校づくり等を一層進 める必要から,現行学習指導要領の特色として「総合的な学習の時間」が設定された。

この「総合的な学習の時間」では,子供たちの発達段階に即し,ティーム・ティーチング,

(15)

グループ学習,個別学習など指導方法の一層の改善を図りつつ,個に応じた指導の充実を図る とともに,自ら学び,自ら考える教育を行っていくという上でも,問題解決的な学習や体験的 な学習の一層の充実を図ることができるとされている。

また,このような時間を設定する趣旨から,「総合的な学習の時間」における学習については,

子供たちが積極的に学習活動に取り組むといった長所の面を取り上げて評価することは大切で あるとしても,この時間の学習そのものを試験の成績によって数値的に評価するような考え方 を採らないことが適当だとする方向性がとられた。

さらに,これらの学習活動においては,学校や地域の実態によっては,年間にわたって継続 的に行うことが適当な場合もあるし,ある時期に集中的に行った方が効果的な場合も考えられ るので,「総合的な学習の時間」の設定の仕方について弾力的な取扱いができるように配慮がな された。

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Ⅳ わかる授業,楽しい学校の実現

(1)教育内容の厳選と基礎・基本の徹底

現行学習指導要領では,子供たちの学習状況から,全体としてはおおむね良好としなが らも,多くの知識を詰め込む授業になっていること,ゆとりをもって学習できずに教育内 容を十分に理解できない子供が少なくないなどの指摘から,すべての子供が共通に学ぶべ き内容を,社会生活で営む上で必要とされる基礎的・基本的な内容に厳選した。このため,

教科によっては差があるとし,教育内容を前学習指導要領に比べおおむね 3 割程度を削減 した。

このことは,教育内容を基礎的・基本的な内容に思い切って厳選することによって,子 供たちがゆとりの中でじっくり学習し,基礎・基本を確実に身に付けることができるよう にするためだとしている。

『中教審平成 8 年答申』第1部 今後における教育の在り方」の「教育内容の厳選と基礎・

基本の徹底」の中では,「教育内容の厳選は,[生きる力]を育成するという基本的な考え方に 立って行い,厳選した教育内容,すなわち,基礎・基本については,一人一人が確実に身に付 けるようにしなければならない。豊かで多様な個性は,このような基礎・基本の学習を通じて 一層豊かに開花するものである。この意味で,「あまりに多くのことを教えることなかれ。しか し,教えるべきことは徹底的に教えるべし」というホワイトヘッド(1861-1947 イギリスの哲 学者)の言葉を改めてかみしめる必要がある。教育内容の厳選は,学校で身に付けるべき基礎・

基本は何か,各学校段階や子供たちの心身の発達段階に即して適当なものは何かを問いつつ,

徹底して行うべきであり,教育内容の厳選を,これからの学校の教育内容の改善に当たっての 原則とすべきである。」と述べている。

ここでは,教育内容の厳選により,「個性を生かす」教育を推進するには,これまでの多 くの知識を詰め込む授業から,教えるべきことを厳選して,子供たちがゆとりの中でじっ くりと学習し,基礎・基本を身に付けることが重要であるという認識をしている。

また,学力観については,「第5章 完全学校週5日制の実施について」の中で,「教育 内容を厳選するなど学習指導要領を改訂する際には,完全学校週5日制の円滑な実施に資する よう,全体として授業時間数の縮減を図ることも必要と考える。なお,教育内容を厳選し,全 体として授業時間数の縮減を図った場合,学力水準が低下するのではないかといった懸念があ る。確かに,学力を単に知識の量という点でとらえるとすれば学力水準は落ちるという懸念は あるかも知れない。しかし,我々は,学力の評価は,単なる知識の量の多少のみで行うべきで なく,これまで述べてきたような変化の激しい社会を[生きる力]を身に付けているかどうか によってとらえるべきであると考える。そして,我々は,こうした力は完全学校週5日制の下 で,学校での取組はもとより,家庭や地域社会における取組とあいまって,十分に養うことが できると考える。つまり,これまでの過度の受験競争の中での学力観は,知識の量の多少 によって学力を評価していたとし,これからの学力観は「生きる力」を身に付けているか どうかによってとらえるべきだとしている。ここに従来の学力観からの転換がみられる。

また,「生きる力」を子供たちに身に付けるには,完全学校五日制の下で,学校教育だけに 委ねるのではなく,家庭や地域社会と連携して取り組むことで十分に養うことができると

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している。さらに,一人一人の親が,完全学校五日制を実施することの趣旨を理解し,自らの 子供にとって真に必要な教育とは何かを真剣に考えることを,あえて強く望んでおきたいとい う文言で述べている。このことに関しては,同答申の「今後の検討課題」の中でも述べている が,教育改革を推進し,実現するためには,行政のみならず,学校,家庭,地域社会,企業な どにおける積極的な取組とともに,国民一人一人の教育改革に対する理解と協力が不可欠であ ることを述べているとともに,これまでどちらかというと閉鎖的だった学校の体質を改善して いくという意図が込められているのであろう。」と述べている。

(2)個に応じた指導の充実

「個に応じた指導の充実」について,同パンフレットでは,「各学校では,子供たちが授 業内容を確実に身に付けることができるよう,分かりやすい授業を展開し,一人一人を大 切にしたきめ細かな指導を行います。具体的には,理解の状況や習熟の程度,興味・関心 などに応じて個別指導を行ったり,グループ別に学習したり,複数の教師で授業を行うテ ィームティーチングを実施するなどして,個に応じた指導の充実を図ります。中学校では,

選択教科の種類を拡大するなど,子供たちが興味・関心に応じ選んだ教科や課題の学習に 主体的に意欲を持って取り組めるようにし,学ぶことの楽しさや成就感を味わうことがで きるようにします。」と書かれている。

小学校における「個に応じた指導」とは,一人一人を大切にしたきめ細かな指導として 習熟度別学習や個別指導をすることで個に応じた指導の充実を図るとしている。

また,中学校では,選択教科の種類を拡大することで個に応じた指導の充実を図るとし ている。

現行学習指導要領には,「個に応じた指導の充実」については,配慮する事項として「 教科等の指導に当たっては,児童が学習内容を確実に身に付けることができるよう,学校や児 童の実態に応じ,個別指導やグループ別指導,繰り返し指導,教師の協力的な指導など指導方 法や指導体制を工夫改善し,個に応じた指導の充実を図ること。」と述べられている。

『中教審平成 8 年答申』第1部 今後における教育の在り方」の「一人一人の個性を生か すための教育の改善」の中では,「(小・中学校における改善)小・中学校においては,教育内 容の厳選によって生じる[ゆとり]を生かし,[ゆとり]を持った授業の中で,子供たちの発達 段階に即し,ティーム・ティーチング,グループ学習,個別学習など指導方法の一層の改善を 図りつつ,個に応じた指導の充実を図る。また,自ら学び,自ら考える教育を行っていく上で も,問題解決的な学習や体験的な学習の一層の充実を図る。とりわけ,中学校においては,小 学校で培われた資質や能力をよりよく向上させるとともに,義務教育段階ではあるものの,小 学校と比べ,生徒の能力・適性,興味・関心等の多様化が一層進む時期であることを踏まえ,

生徒の特性等に応じることができるよう,履修の選択幅の一層の拡大を図る必要がある。この ため,共通に履修させる部分を厳選し,選択教科に充てる授業時数を拡大するとともに,各教 科等の授業時数の選択幅の拡大など教育課程の一層の弾力化を図る。また,特色ある学校づく りを推進するため,その学校や地域の実態に応じて,創意工夫が十分発揮できるよう,小・中 学校を通じて教育課程の一層の弾力化を図る必要がある。各学校が,それぞれに努力するとと もに,教育委員会は,こうした学校の努力を積極的に支援していく必要がある。」と述べている。

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ここでは,現行学習指導要領には記述されていない,自ら学び,自ら考える教育を行っ ていく上でも,問題解決的な学習や体験的な学習の一層の充実を図るとしている。

つまり,自ら学び,自ら考える教育を実現するために「個性を生かす」教育を推進する ということであり,「総合的な学習の時間」を設定する趣旨の中でも同じような文言で繰り 返し述べられている。

しかし,現行学習指導要領の記述だけでは個性化教育という意図よりは,むしろ習熟度 別学習や個別指導の重視ということから個別化教育というニュアンスしか感じ取れないの も事実である。個性化教育と個別化教育とはそれぞれ異なった概念から成り立っているの で,この両者を教育活動にいかに位置付けていくかが問われることになる(4)。学力低下問 題をきっかけとして基礎・基本の徹底ということで確かな学力を保障しようとする傾向が 強まったことで,より個別化教育の方へ教育改革の意識が強まっていったのではないだろ うか。

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Ⅴ 特色ある学校作りの推進

(1)開かれた学校づくり

『中教審平成 8 年答申』「第2部 学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方」の「第 4 章 学校・家庭・地域社会の連携」の中では「開かれた学校」について,「学校が社会に対して 閉鎖的であるという指摘はしばしば耳にするところである。学校や地域によって事情は異なり,

この指摘の当否を一律に断定すべきではないが,子供の育成は学校・家庭・地域社会との連携・

協力なしにはなしえないとすれば,これからの学校が,社会に対して「開かれた学校」となり,

家庭や地域社会に対して積極的に働きかけを行い,家庭や地域社会とともに子供たちを育てて いくという視点に立った学校運営を心がけることは極めて重要なことと言わなければならない。

そこで,まず,学校は,自らをできるだけ開かれたものとし,かつ地域コミュニティーにおけ るその役割を適切に果たすため,保護者や地域の人々に,自らの考えや教育活動の現状につい て率直に語るとともに,保護者や地域の人々,関係機関の意見を十分に聞くなどの努力を払う 必要があると考える。特に,いじめ・登校拒否の問題などでの学校の対応ぶりを見ていると,

学校内での出来事や学校としての取組などをできるだけ外部に漏らすまいとする傾向が強いよ うに感じられることがある。学校は,家庭や地域社会との連携・協力に積極的であってほしい。」

と述べている。

このことを受けて,現行学習指導要領の配慮すべき事項には,「開かれた学校づくりを進 めるため,地域や学校の実態等に応じ,家庭や地域の人々の協力を得るなど家庭や地域社会と の連携を深めること。また,小学校間や幼稚園,中学校,盲学校,聾学校及び養護学校などと の間の連携や交流を図るとともに,障害のある幼児児童生徒や高齢者などとの交流の機会を設 けること。」と述べている。

つまり,学校が地域コミュニティーの拠点となる役割を担うということばかりではなく,完 全学校週五日制の実施に伴い,社会教育施設としての役割も担う等の学校教育と社会教育の連 携の必要性が打ち出されたことになる。

また,地域に設置されている他の学校間との交流の推進を打ち出したことは,学校の教育活 動全般にわたって,地域を活用することで,これまで閉鎖的な学校の体質を改善していこうと する意図が込められているのであろう。

(2)家庭や地域社会との連携重視

[生きる力]は,学校教育や家庭教育を基礎としつつ,地域での様々な体験を通じて,はじ めてしっかりと子供たちの中に根づいていくとし,特に地域社会での様々な体験が,学校教育 で自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,表現し,行動できる資質や能力を身に付けていくた めの基礎となると位置付けている。

しかし,現実には,地域社会での活動を通しての子供たちの生活体験や自然体験は著しく不足 しており,都市化や過疎化の進行,地域における人間関係の希薄化,モラルの低下などから,

地域社会の教育力は低下しているという認識を示している。そこて,社会全体に[ゆとり]を 確保する中で,地域社会が,地域の大人たちが子供たちの成長を暖かく見守りつつ,時には厳

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しく鍛える場となり,また,地域社会が単に人々の地縁的な結びつきによる活動だけでなく,

同じ目的や趣味・関心によって結びついた人々の活動が活発に展開され,子供たちをはぐくむ 場とするために「①活動の確保,②学校施設の活用,③社会教育・文化施設の整備充実と新 たな事業展開,④新たなスポーツ環境の創造」の 4 つの例を提示して,学校と家庭や地域社会 との連携重視の必要性を述べている。

また,「活動の機械の充実」として,「①地域ぐるみの活動の推進,②ボランティア活動の 推進,③交流活動の推進,④自然体験活動の推進」の4つのことについて提言している。

このように,現行学習指導要領では,これまでの学校観を完全学校週五日制や「総合的 な学習の時間」の実施に連動させながら,「学校教育のパラダイム転換」を積極的に志向し た点では,日本の教育史上に一つの画期をなしたと考えられる(5)

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Ⅵ 完全学校週五日制の実施

(1)生活体験・自然体験の重視

同パンフレットには完全学校週五日制の実施について,「学校週五日制は,学校,家庭,

地域社会での教育や生活全体で,子供たちに「生きる力」をはぐくみ,健やかな成長を促 すものです。土曜日や日曜日を利用して,家庭や地域社会で子供たちが生活体験や自然体 験,社会体験,文化・スポーツ活動など様々な活動や体験をすることが望まれます。」と書 かれている。

また,『中教審平成 8 年答申』「第2部 学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方」の

「第 5 章 完全学校週五日制の実施について」の中では,今後における教育の在り方と学校週 五日制が目指すものとして,「[生きる力]は,単に学校だけで育成されるものでなく,学校・

家庭・地域社会におけるバランスのとれた教育を通してはぐくまれる。特に,家庭や地域社会 における豊富な生活体験,社会体験や自然体験は重要である。そうした点を踏まえて,今日の 子供たちの生活の在り方を省みると,子供たちは全体として[ゆとり]のない忙しい生活を送 っており,様々な体験活動の機会も不足し,主体的に活動したり,自分を見つめ,思索すると いった時間も少なくなっているというのが現状である。こうした現状を改善する意味で,家庭 や地域社会での生活時間の比重を増やし,子供たちが主体的に使える自分の時間を増やして[ゆ とり]を確保することは,今日,子供たちにとって極めて重要なことと考える。これらを言い 換えれば,子供にとっての学校・家庭・地域社会のバランスを改善してよりよいものとする必 要があるということである。」と述べられている。

つまり,ここでも「ゆとり」の中で「生きる力」をはぐくむためには従来の学校教育だ けではなく,家庭や地域社会も連携しながら現状の様々な問題点を改善していこうとする ことが強調されている。

また,家庭や地域社会については社会教育との連携を深めることで,学校教育と社会教 育がそれぞれの「教育上の特質を明らかに」して,「相互の補完関係を成立」させること(6)

で改善を図ろうとしている意図がみられる。

同答申では,完全学校週5日制の実施にあたり,社会の隅々にまで定着している学校教 育の枠組みを変更するものであるから,その実施に当たっては,その意義等について,家庭や 地域の人々の十分な理解を得なければならないとしている。また,完全学校週5日制の実施は,

教育改革の一環であり,今後の望ましい教育を実現していくきっかけとなるものとして積極的 にとらえる観点から,様々な条件整備を図るとし,特に留意すべき事項として「①学校外活動 の充実と家庭や地域社会の教育力の充実,②過度の受験競争の緩和と子供の[ゆとり]の確保,

③完全学校週5日制の実施方法」の3つを列挙して説明している。

(2)学社連携・融合

現行学習指導要領「総則」の中では,配慮する事項の中に「開かれた学校づくりを進める ため,地域や学校の実態等に応じ,家庭や地域の人々の協力を得るなど家庭や地域社会との連 携を深めること。」という記述があるだけで,「学社連携・融合」に関してはあまり触れられて

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いない。

『中教審平成 8 年答申』「第2部 学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方」の「第 1 章 これからの学校教育の在り方」の中では,「(関係機関との連携)これまで,学校関係者の 間では,学校教育を学校内だけで行おうとする傾向が強かったことは否めない。これからの学 校教育においては,単に学校だけを教育の場と考えるのでなく,子供たちの体験的な学習の場 を広げ,豊かな社会性をはぐくんでいくために,社会教育施設,青少年教育施設,文化施設,

スポーツ施設などの公共施設や企業等の機関との連携を積極的に図り,教育の場を広く考えて,

教育活動を展開していくことが必要である。また,いじめや登校拒否の問題など様々な教育課 題が生じているが,それらへの取組に当たっても,学校だけで取り組むべきもの,との狭い固 定的な考え方にとらわれることなく,児童福祉,人権擁護,警察など広く関係機関との連携を 一層図る必要がある。」と述べられている。

このような考え方は,昭和 49 年の社会教育審議会の建議「在学青少年に対する社会教育 の在り方について―家庭教育,学校教育と社会教育との連携―」の公表を機に,学校教育 と社会教育との連携の必要性が認識されたことを示している。

また,平成 8 年の生涯学習審議会答申「地域における生涯学習機会の充実方策について」

では,これまでの学社連携から学社融合という考え方が発案されたことで,これまでの学 校教育と社会教育との関係がより緊密に図られるように提言された。

つまり,このような背景のもと,現行学習指導要領にも「関係機関との連携」として学 社連携・融合の考え方が取り入れられたが,このことは社会教育の審議会である生涯学習 審議会と学校教育の審議会である中央教育審議会が「生きる力」という同一の目標を共有 したことに起因する。

「生きる力」の育成は,完全学校週五日制の導入や「総合的な学習の時間」の新設と不 可分であり,それらは社会教育的手法と社会教育的内容の導入(7)を学校教育へ取り入れら れることになった。

参照

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