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第 19回 ― 「思考力・判断力・表現力等の育成」 ―
わが校の
取り組み
・
私の工夫
第
19
回
「思考力・判断力・表現力等の育成」
このシリーズでは、主に高等学校の取り組みや、個々の先生方 の実践事例を紹介する。 今回の新しい学習指導要領の改訂では、基礎的・基本的な知識・ 技能の習得と、思考力・判断力・表現力等の育成が、ともに重視 されている。思考力・判断力・表現力等の育成のため、各教科等 での指導の中で、観察・実験やレポートの作成など、知識・技能 を活用する学習活動を充実したり、教科等を横断した課題解決的 な学習や探究的な活動の充実が求められている。 そこで、第 19 回は「思考力・判断力・表現力等の育成」を取 り上げた。3つの高等学校の取り組みについて紹介する。 Co n t e n t s ◇学校事例 広島県立五日市高等学校 ……… 神奈川県立光陵高等学校 ……… 北海道函館稜北高等学校 ……… 《 シ リ ー ズ 》P35
P38
P41
広島県立五日市高等学校
スクラップブックを活用した研究レポートの作成、
『キーワー
ド社会』の授業等により、資料活用能力や表現力を育成
学校事例
1974年、広島市西部の新興住宅地に開校した広島県 立五日市高等学校は、2007年度から2年間、文部科学 省の「国語力向上モデル事業」の指定校となり、実践研 究を行った。その後も学校の達成目標の一つに「積極 的に言語活動に取り組み、言語能力を高める」を掲げ、 「言語力向上」を推進している。同校では、言語力を高 めることを通じて、どのような生徒を育成したいと考 えているのか。教頭の門脇治隆先生と、進路指導主事 の久保薫先生に、取り組みの理念と具体的な取り組み について伺った。新学習指導要領改訂と
言語力低下が取り組みのきっかけ
五日市高校が言語力向上に力を入れ始めたきっかけの一 つは、2007 年度の中央教育審議会教育課程部会「審議の まとめ」に基づいた新学習指導要領において、思考力・判 断力・表現力等の育成がポイントとされ、その具体的な活 動として「言語活動の充実」が挙げられたことにある。 一方、若者の活字離れや言語力低下が言われて久しいが、 久保先生自身も、「生徒の語彙力や表現力の低下に問題を 感じていました」と話す。「例えば『相対的』『しかしな がら』など何気 なく使っている 言葉にもピンと こない。助詞や 接続詞の使い分 けも苦手です」。 また、同校では、 推薦・AO入試 で大学を受験する生徒について、そこで課せられる小論文 や志望理由書を書く力を育成したいという、直近の課題も あった。 こうした問題意識から、同校では 2007 年度から2年間 の文部科学省の「国語力向上モデル事業」の指定校となっ たことをきっかけに、総合的な学習の時間や教科の授業を はじめ、学校生活全体を通して言語活動を充実させる取り 組みを行っている。ただし、門脇教頭は、「言語活動の充 実は手段であって目的ではありません。目的はあくまでも 各教科の基礎的・基本的な知識・技能の習得であり、思考 力・判断力・表現力等の育成です。よって、単に読ませる、 書かせる、発表させるといった言語活動の量を増やすだけ ではない取り組みを行うことが大切です」とそのポイント について語る。 門脇治隆教頭 久保薫進路指導主事
新聞のスクラップブック作成を通し
小論文作成の論点を整理
具体的に、同校の取り組みを見ていこう<図表1>。 まず、総合的な学習の時間では、これまでに習得した知 識を活用しながら関心のあるテーマを探求するといった小 論文の作成に力を入れている。具体的には1・2年生で小 論文演習ノートを用いて、作文と論文の違いや論理的な文 章の書き方を学んだあと、3年生では自分の進路に関係の あるテーマを設定して、小論文を書く。3年生では、商学、 工学、看護など志望別に生徒を 20 クラスに分け、1〜3 学年の副担任を中心に分担して小論文を指導している。 また、今年度からは、小論文を書く前にテーマに関連し た新聞記事のスクラップブック作成を導入した。「新聞を 読まない生徒が増加しているのが現状ですが、読む習慣を つけ、活字に親しみ、時事問題に関心を持ってほしいので、 スクラップする対象に新聞を選びました。スクラップを通 して進路に関連する社会問題についての認識も高まります ので、推薦・AO入試での面接や志望理由書を書く際にも 役立つと考えています」(久保先生) そして教員は、生徒と対話を繰り返しながら、論文作成 を支援する。「例えばテーマを選ぶ際、経営・商学部志望 だと『アパレル業界について』など、生徒は大きなテーマ にしがちです。それでは漠然としていますので、出店計画 やブランド戦略など、アパレル業界にもいろいろなテーマ があるというヒントを示して、テーマを絞らせます。また、 スクラップブックをもとに生徒と話しながら生徒の考えを 引き出し、新聞記事から論拠を探させ、文章の構成をアド バイスします。個別の課題学習の場合、生徒の多様なテー マに対応することは教員の大きな負担になると考えられが ちですが、スクラップブックがあれば、教員はその分野に 関する詳しい知識がなくても、それをもとに生徒にヒント を出していけるという利点もあります」(久保先生) 実施当初は一年に1本の小論文を書くことになっていた が、現在は生徒の力が伸びてきたこともあり、1学期と2 学期に1本ずつ作成している。さらに今年の2学期は、小 論文をポスター発表のような形式で表現し、2年生に対し てプレゼンテーションする予定だという。「論考して文章 で表現できるようになった次の段階として、同じ内容をグ ラフや図解などで表現し、口頭で相手にわかりやすく伝え てみようということです」(門脇教頭)教科の学習効果を高める手段としての
言語活動の充実が研究テーマ
教科での取り組みとしては、3年生対象の学校設定科目 である公民の「キーワード社会」がある。生徒がそれぞれ 社会的な問題に関する研究テーマを設定して探究活動を行 い、A4用紙3〜4枚程度のレポートを作成する。小論文 に対し、こちらは公民の一環であり、生徒の現代社会の諸 問題への関心や理解を広げ、深めるのが目的である。選択 科目のため毎年履修人数は異なるが、今年度は約 60 名が 履修し、3クラスが設置された。研究テーマは「裁判員制 度」「医師不足」「少年犯罪」などさまざまである。年度末 に冊子としてまとめ、履修者に配付している。 通常の教科の授業については、毎年全校で研究授業を 行っており、今年のテーマは「学力の定着と向上をめざし た授業の工夫と改善-生徒の言語活動を促す指導を通して -」である。「ここでも、学力の定着と向上のための手段 として、言語活動を導入するという位置づけです。よって、 言語活動ありきではなく、話し合い、レポート、説明、場 合によっては授業でノートをとることも含め、教科の目標 を達成するのに適した言語活動を取り入れる授業を各教員 が工夫しています」(門脇教頭) 例えば久保先生の倫理の授業では、単元ごとに自分の考 えをA4用紙1枚程度に書くという宿題を出し、次の時間 に発表させて、生徒とやりとりをする時間を設けている。 「古代ギリシャの単元でプラトンやアリストテレスの哲学 について学んだあと、自分にとっての愛や理想について書 く、といった課題を出します。次の授業は、友達の考えに 触れることを通して多様な考えがあることを知り、自分を <図表1>五日市高校の具体的な取り組み例 ①基礎学力の向上を目指した授業研究、学ぶ主体を育てる授業研究 今年度は「生徒の言語活動を促す指導」がテーマの中心 ②「キーワード社会」(学校設定科目) ③「総合的な学習の時間」における研究レポートおよびプレゼンテーション ・1・2年生で小論文演習ノート ・ 3年生でレポート(小論文指導)。スクラップブックの作成。年度末に は「総合学習研究発表会」を実施。 ④小論文コンクール(「ことばの輝き」コンクール)への応募 ⑤県立図書館との連携 ⑥携帯型ゲーム機の活用 ⑦朝の読書、集団読書 ⑧冊子「私の心に残った言葉」「友だちに薦めたい本」の編集 ⑨民話朗読劇 ⑩芸術鑑賞や講演会の実施 ⑪新聞の活用 ⑫あいさつの励行わ
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第 19回 ― 「思考力・判断力・表現力等の育成」 ― 振り返る機会としています。哲学者の思想の理解にもつな がり、回を重ねるごとに生徒の考察に深みが出ています」 (久保先生)
生涯にわたって本を読む生活をするために
高校で読書習慣を身につける
他に、毎朝 10 分の「朝の読書」と、ロングホームルー ムの時間を活用して年2回実施している「集団読書」があ る。「朝の読書」は各自好きな本を読むが、「集団読書」は、 日本の近代文学の名作から1冊を選び、全校生徒が同じ小 説を一斉に読む。 読書活動の延長として、毎年、全校生徒と教職員の寄稿 による、『私の心に残った言葉』と『友だちに薦めたい本』 <図表2>の冊子を編集して発行している。『私の心に残っ た言葉』は、読んだ本の一節や人から言われた言葉など、 出典は何でもよい。門脇教頭は「『友だちに薦めたい本』は、 60 字という字数制限内で推薦理由を書きますので、言い たいことを端的に表現する練習になっています」と言い、 久保先生も、「教職員も原稿を提出しますので、恥ずかし いものは出せないと気合いが入ります。本を紹介しあうこ とで読書量増加につなげるのに加え、お互いがどんな本や 言葉に感動しているかがわかるため、生徒同士、先生と生 徒のコミュニケーションのきっかけともなっています」と 話す。 「今年度の、図書館の貸し出し目標は年間 3,000 冊。生 徒には、高校時代に読書習慣を身につけることで、生涯に わたって読書を続け、豊かに生きていって欲しいと考えて います」(門脇教頭)生徒の1人ひとりに響かせるため
さまざまな取り組みを行う
同校ではこれらの取り組みだけでなく、2007 年から、 広島県教育委員会が実施する、説明文、体験レポート、小 論文などを対象とする「ことばの輝き」優秀作品コンクー ルへの応募や、小・中学校と連携して公民館で地域の民話 朗読劇の上演を行っている。また、「本物に触れることで 感性を磨き、表現力を豊かにする」ことを目的として、外 部講師を迎えた講演会と、芸術鑑賞会を実施している。ち なみに今年度は、講演会は講師に「命の授業」で著名な腰 塚勇人氏を迎え、芸術鑑賞会では、人間国宝の講談師、六 代目一龍斎貞水氏の講談を鑑賞する。芸術鑑賞会は、音楽、 演劇、その他の芸能を毎年ローテーションで行っている。 さらに今年度中には、広島県立図書館との連携(県立図 書館職員による、本の検索方法や図書館の活用方法につい ての研修会や、県立図書館の蔵書の同校図書館への貸し出 しなど)と、携帯型ゲーム機用の漢字検定ソフトの導入も 行う。加えて「きちんとあいさつすることは、言語活動の 第一歩」であることから、「あいさつの励行」も学校全体 で推進している。 上記のように、さまざまな取り組みを行っている同校だ が、「今の生徒はとても多様です。そこで、一つの手法で はなく、いろいろな手法で生徒に訴えかけ、そのうちのど れかが響いてくれればよいと考えています」と久保先生は 話す。そして門脇先生は「言語活動の充実のような取り組 みをすることで受験に必要な知識を学ぶ時間が減少すると 懸念する声もありますが、本校では、新学習指導要領の趣 旨を踏まえた学習を徹底することが、大学受験にも通じる し、将来生きていく力にも通じると確信して、取り組みを 続けていくつもりです」としめくくった。 広島県立五日市高等学校 ◇所在地:広島市佐伯区観音台 3—15—1 ◇設立:1974 年 4 月 ◇学級編成:[ 全日制 ] 普通科 各学年8クラス ◇生徒数:951 名(男子 393 名 女子 558 名)2011 年 5 月1日現在 ◇特色:広島市西部の高台に立地し、眼下に五日市平野と名勝厳島 を含む風光明媚な広島湾、さらに晴れた日には四国の霊峰石鎚山 を一望することができる。校是「気品・気力・体力」のもと、教 育のビジョンに「確かな学力の定着と向上」「豊かな人間性の育成」 「地域から信頼される学校」を掲げて、社会で活躍し貢献できる 人材の育成を目指している。部活動には約8割の生徒が参加し、 学習との両立に努めている。 ◇卒業生の進路:2011年3月卒業生 308 名 ・進学先:4年制大学210名 短期大学21名 専門学校57名 就職そ の他20名 ・合格の内訳(延べ数):国公立大学13名 私立大学364名 短期大学26名 専門学校60名 <図表2>「友だちに薦めたい本」より一部抜粋神奈川県立光陵高等学校
知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成は
学力の両輪 ―かながわの先駆的な授業モデルを発信する―
学校事例
旧東海道の最初の難所と言われた権太坂に位置する 神奈川県立光陵高等学校は、先駆的な授業モデルを県 内外へ発信すべく、2009 年度より「思考力・判断力・ 表現力等の育成」に関する研究・実践を行っている。 研究 3 年目を迎えた同校の取り組みを、鈴木俊裕 校長、佐藤教道副校長、国語科の山田秀二総括教諭 に伺った。連携型中高一貫校として
「かながわの中等教育の先導的モデル」の構築を目指す
光陵高校が、他校に先駆けて「思考力・判断力・表現力 等の育成」に取り組むことになった理由の1つは、2009 年度から、横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校(以 下、附属横浜中学校)と連携型中高一貫校となったことで ある。「かながわの中等教育先導的モデル」づくりを進め、 研究成果を神奈川県内の中学校・高校に発信する役割を 担い、40 名を上限として、2012 年4月から附属横浜中学 校の卒業生受入れに向けたさまざまな取り組みを進めてい る。 思考力・判断力・表現力等の育成に関する取り組みにつ いては、一般的に小・中学校の方が進んでいる。特に附属 横浜中学校は PISA 型読解力をはじめとして思考力・判断 力・表現力等の育成において先進的な取り組みを行ってい た。一方で、光陵高校では、「人間力の育成、リテラシー(こ れからの社会をよりよく生きるための幅広い能力)の育成」 という教育理念の下、教育実践を行ってきた。 「思考力・判断力・表現力等の育成については、この分 野の研究を先駆的に進めている附属横浜中学校からの入学 生を意識しつつ、同時に一般の中学校から入学する大多数 の生徒にとっても有用なものでなければなりません。一連 の研究を本校で行っている『人間力(リテラシー)の育 成』に結び付け、光陵高校独自の教育スタイルを作り上げ るチャンスであるととらえました」(鈴木校長) 折しも、PISA 型読解力の研究が盛んになったことも 後押しした。「思考力・判断力・表現力等の育成は、必要 性を感じながらも手をつけにくかった教育目標でしたが、 PISA 型読解力育成とあいまって具体的手法が研究される ようになったことが、この取り組みへの意欲に拍車をかけ ました」と鈴木校長は説明する。 まずは、知識偏重型の教育から脱却し、これからの社会 をよりよく生きるために必要な幅広い能力(リテラシー) の育成を目指す中高 6 年間の俯瞰図を作成<図表1>。中 学校・高校段階それぞれの時期の狙いを明確にし、各教科 での指針を示した。全教科、全教員参加型の取り組みとして開始
外部の協力を得ながら、徐々に具現化へ
同校は 2007 年より、神奈川県の学力向上進学重点校の 指定を受けている。大学受験に向けて高校で教えなければ ならない内容は多くあり、同時期に、時間も手間もかかる 「思考力・判断力・表現力等の育成」を進めていくことに 当初戸惑いがあったし、歩調を揃えて行うには、工夫も要 求された。 そこで、全教科における(教科横断的)研究をベースと した全教員参加による組織的な取り組みとして位置づけ た。同時に「公開授業ウィーク(6〜7月・9〜 10 月)」 「中高合同研修会」「研究発表会授業公開事前検討会(プレ 研究授業)」「研究発表会(11 月)」など教員が組織的に研 鑽を積み、発表できる機会を数多く用意した。研究発表会 鈴木俊裕校長 佐藤教道副校長 山田秀二総括教諭わ
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第 19回 ― 「思考力・判断力・表現力等の育成」 ― は 1 〜 2 学年全 12 クラスすべてで展開するなど、学校全 体で積極的に推進していく姿勢を内外に示した。 具体的にはまず、思考力・判断力・表現力等について各 教科における教科内容との関連やシラバス上の位置づけ、 あるいは単元や教材等について検討を重ねた。授業の流れ・ 方法については教員間でアイデアを集め、議論・修正を加 えながら進めていった。またこれらの授業は、知識・技能 習得型の通常の授業に比べて準備の時間もかかり、授業時 数もさらに必要となる。同校では3年生は「考える力」の 強化を中心に、大学受験に向けた完成年度と位置づけ、1・ 2年生を中心に知識活用型の授業を行うこととした。 同校では、教員による研究を進めると同時に、総合教育 センターや、附属横浜中学校、横浜国立大学教育人間科学 部、県教育委員会からの指導・助言も得ている<図表2>。 研究発表会では文部科学省の教科調査官にも参加を依頼し た。また、附属横浜中学校とは情報交換にとどまらず、2 年間の教員派遣等の人事交流も行っている。
講義型から生徒参加型授業への転換
授業の反省会の工夫をきっかけに
しかし、1 年目の研究発表会は、決して満足のいくもの ではなかった。「どんな授業が望ましいのか、研究テーマ に近づくには実際どうしたら良いのか、見本もヒントも少 ない中、手探りの状態であったことは否めません」(鈴木 校長)。 板書と解説で授業を進める「講義型」の授業(知識・技 能の習得)については巧みな教員も多い。ところが、生徒 主体の授業や「生徒参加型」の授業(知識・技能の活用) には慣れておらず、授業形態や考え方を切り替えていくこ とに教員は苦労したそうだ。 そこで、2 年目は公開授業ウィーク(教員相互の授業見 学で自教科・他教科をそれぞれ1時限参観)の反省会を改 良した。また、研究発表会当日の研究協議において、授業 を受けた生徒数名に授業の感想を語ってもらい、参加教員 から生徒への質疑応答の時間を設けた。加えて、参観者に あらかじめ 2 種類の付箋を渡し、1 枚には良かった点を、 もう 1 枚には改善を求める箇所を書いてもらい、授業者に フィードバックした。授業を分析するための客観的な情報 を集めたのだ。 既存の価値観や自らが時間をかけて培ってきた授業スタ イルを変えていくことに、教員は抵抗がなかったのだろう か。「社会の流れがそのように変わりつつあること、教員 も変化に対応しているように感じます。日々ことあるごと に、『思考力・判断力・表現力等の育成』を言葉にして発 信し続けることで、生徒にとって必要な授業の在り方を語 り合う風土が生まれ、価値観を新たにし、新しいタイプの 授業実践に取り組もうとする意欲的な先生が増えてきまし た。共通の課題として組織的に取り組んだ成果でしょう」 (佐藤副校長)これまで以上に知識・技能の習得も必要
得た知識を活用し、思考させ、表現させる
思考力・判断力・表現力等を育成する授業は、生徒参加 型の授業であるため、生徒自身が自ら発言する意欲がない と授業は成立しにくい。そのため同校では、通常の授業に 加え、高校入学時からさまざまな工夫をしている。 まず、高校入学前に課題図書を指定し、入学後にその内 容を発表し合う「ブックトーク」を実施している。入学後 は、「KU(光陵ユニバース:総合的な学習の時間)」と「国 語総合」の授業で行う少人数でのミニディベート、4 月下 旬の宿泊研修で行う「クラス別ディベート大会」を導入し ているのだ。 このような取り組みを織り込みつつ、各教科ではどのよ <図表1>6年間を見通したリテラシーの育成 学び続ける力 感じとる力 行動する力 熟考する力 中学校 <発見し、探求する> <充実し、発展する>高校 自ら課題を見出し、問題に対して解決を図る 教育活動を支える「科学」「数学」「言語」と自らのかかわりをとらえる 他者への思いやりをもち、芸術や文化に親しみ、感動する心をつくる 主体的に社会に参画し、自らを一層成長させながら、社会に貢献する 自己をとりまく「もの・こと」を理解し、それを活用する 多様な課題に対し主体的に課 題や問題点を解決していく意 欲と能力の育成 基礎基本の充実と発展 自己の将来像の実現に向けた 主体的な学習態度の育成 問題解決力 自分なりに課題を発見自ら課題を解決していく態度 と能力の開発 生きていく上での他者とのさまざまな かかわりの理解 他との望ましい共生をめざす力を育成 社会的な活動への意欲の育成 自ら考え判断し、主体的に行 動できる資質を育成 コミュニケーション活動の重視により、 互いに問題を共有しあい、共に生きてい くことの重要性を感じる態度の育成 自己理解のための活動の重視 社会生活とのかかわりの中で、自 分の生き方を考える力を育成 目的や課題に応じて、事象を理解、 解釈し、自分の知識や経験を踏ま えた意見を表現する力を育成 文章や図表、現象などを理解・評 価しながら捉える力や、自分の考 えをまとめる力を育成 学ぶ喜びを体験することによ る生涯にわたって学んでいこ うとする態度の育成 出典:「中高一貫教育における『リテラシー育成』カリキュラム実践研究例」(横浜国 立大学教育人間科学部附属横浜中学校、神奈川県立光陵高等学校)P120・121 ペー ジの図をもとに河合塾で作成うな授業が展開されているのか、国語科の山田総括教諭の 授業例を紹介する。山田総括教諭は、杜甫の『絶句』を 4 コマの絵に描く、という授業を行った。「漢詩は、起承転 結がはっきりしているので、4 コマの絵にしやすいのです。 転・結部の杜甫の心情をどう理解し表現するか生徒には難 しかったようですが、絵を描くことで考えをまとめるよう に促しました。個人で考えさせた後に、グループワークで お互いに自分の考えやその根拠を説明させました」(山田 総括教諭) 今までの授業であれば、考え方も含めて教員主導で結論 を導くという指導法が主体だった。しかし、この授業は教 員が生徒を結論に導くのではなく、生徒自身に考えさせ、 自分の言葉で根拠を挙げて話し合い、発表させる指導が要 求される。 しかし、単に生徒が考えればよいのではない。考えるた めにもこれまで以上に前提となる知識の習得が重要とな る。実際、山田総括教諭も杜甫の心情を理解させるため、 対句や韻などの句法、杜甫の生まれ故郷や背景を説明し、 生徒に理解させるよう工夫した。「思考力・判断力・表現 力等の育成に当たっては、今まで以上に生徒に知識を与え ながら、知識の習得に終わらせず、得た知識を活用して思 考させ、表現させることが重要です。知識という点と点が 結びついて面を作り、面と面が立体的な思考を生む。豊か な知識があってこそ、ワンランク上の思考となるのです」 (鈴木校長) 生徒に多面的・多角的な考えを促すために補助教材が重 要な役割を果たすという。「どこから手をつけていいかわ からない生徒にとっては、補助教材は重要な役割を果たし ます。例えば『羅生門』が教材であれば、もととなった『今 昔物語集』を補助教材にするなどです。『山月記』であれ ば中国の原文ですね。『山月記』では登場人物は近代的な 考え方をしますので、原文と比較させて生徒に考えさせる 視点を提示します。このように生徒に考えさせることが、 今までの知識習得型の授業になかった点で難しいと感じて います」(山田総括教諭) このように着実に進展している取り組みだが、課題もあ る。「目下の課題は、評価規準の作成、評価方法の工夫・ 改善です。具体的には単元ごとの評価や、観点別学習状況 の評価をいかに進めていくかです。すでに単元ごとの評価 はすべての教科で行っていますが、今後は、生徒の個々の 達成状況を見ること、教員の授業改善につながっているか を見ることなど、これらの取り組みが本当に生徒の力に なっているのかの検証が必要です」(鈴木校長) <図表2>2010(平成22)年度研究発表会にかかる取り組み 県立総合教育センター 県立体育センター 県教育委員会 横浜国立大学 ○研究全般に関する指導・助言 ○指導主事の派遣 ○指導主事の派遣 ○教員の派遣 県 立 光 陵 高 校 ○リテラシーの育成を重視した教育理 念の共有 ○6年間を見通した教育課程作成に関 する協議 ○研究における情報交換 ○教員の派遣 横浜国立大学 教育人間科学部 附属横浜中学校 神奈川県立光陵高等学校 ◇所在地:横浜市保土ヶ谷区権太坂 1—7—1 ◇設立:1966 年 1 月 ◇学級編成:[ 全日制 ] 普通科 6 クラス 2012 年度より横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校より1 クラス分(最大 40 名)の生徒を受け入れる。 ◇生徒数:714 名(男子 370名 女子 344名)2011年 7月 1日現在 ◇特色:教育の特色として①学力向上進学重点校、②連携型中高一 貫校、③キャリア教育の重視を独自の 3 本事業として掲げている。 また、総合的な学習の時間を「KU(光陵ユニバース)」と呼び、「リ テラシー」育成のための重要な取り組みとして位置づけるなど、 さまざまな角度から今後の教育実践に向けた取り組みを行うモデ ル校としての役割を担っている。 ◇卒業生の進路:2011年3月卒業生 235 名 ・進学先:4年制大学158名 短期大学1名 各種・専門学校1名 ・合格の内訳(延べ数):国公立大学37名 私立大学377名 短期大学1名 各種・専門学校2名 出典:「平成 22 年度研究発表会」(神奈川県立光陵高等学校)P34・34 ページの図をもとに河合塾で作成
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第 19回 ― 「思考力・判断力・表現力等の育成」 ―
北海道函館稜北高等学校
校内の業務改革の成功を基礎に学力向上を推進
ナレッジマネジメントを生徒に学ばせ、各教科や小論文で活用
学校事例
函館市北部に立地する道立の北海道函館稜北高等 学校は、2006 年度から3年間、北海道学力向上推進 事業の「Academy プロジェクト」推進校の指定を受 け、生徒の「読解力・思考力・表現力を基礎とした 確かな学力」を向上させるための指導方法および評 価方法に関する実践研究に取り組んだ。2009 年度か らは、文部科学省の「学力向上実践研究事業」の指 定を受け、「Wisdom プロジェクト」と名付けて実践 研究を続けている。 同校の取り組みと、推進体制について、「Wisdom プロジェクト」委員長で進路指導部の福士公一朗先 生と、教務部長の岡田敏嗣先生に伺った。校務システム改革による
教員の協働体制構築が成功の鍵
北海道函館稜北高校の国公立大学合格者は、長年 7 〜 15名程度で推移してきた。ところが2006年度に「Academy プロジェクト」がスタートすると、実施初年度には、国公 立大学合格者数は 26 名に増加し、2009 年度は 40 名と飛 躍的に向上した。読書時間数も増え、全国的な模擬試験の 成績も着実に上昇している。 では、どのようにして生徒の学力向上を実現させたのか。 その理由を、福士先生は「実は成功の源は、プロジェクト 以前に行った校務の改革にあります」と明かす。 「『Academy プロジェクト』に先立つこと2年、本校は さまざまな課題の糸が複雑に絡まり、どこからほぐせばよ いかわからない状態でした。分掌や学年間の壁も高く、課 題があるにもかかわらず、全体会議で議論されることもま れでした」と振り返る。そんな時、当時の校長が学校改革 のための「未来構想委員会」を立ち上げ、5〜6人の委員 を公募。福士先生は初代の委員長となった。 課題解決のため委員会が導入したのが、アイデアを1つ ずつカードに記述した後、グルーピングして図解し、整理 していくという「KJ法」である。教員に学校の課題を書 いてもらい、それを重要度別ではなく、対応に要する時間 別に5段階に分類。早期に改善できるものから解決して いった。「小さい課題はゴミ箱の位置とか、掲示板の使い 方といったものでした。しかし、できるものから解決して いくことで、実行力のある委員会だと次第に評価されるよ うになりました」(福士先生) 次に委員会は校務の仕組みに問題があると考え、その改 善に取り組んだ。「例えば、従来は分掌を越えて意見を言 うことはなく、分掌内でさえ他の係の仕事を手伝うことも 多くなかった。そこで7つあった分掌を4つにまとめたと ころ、その姿勢が緩和されました。会議にはブレーンストー ミングや司会輪番制を導入して自由に意見を言える雰囲気 をつくり、意見がある場合は必ず対案を提示することにし ました。さらに提案は文書にしてもらい、校内サーバーに 保存して情報を共有しました。また、分掌や学年を横断す るような課題は、プロジェクト形式のユニットを作り、解 決後は解散することにしました。その結果、校内の風通し がよくなり、改革2年目には、教育課程の改善や総合的な 学習の時間の再構築といった、校内の重要な課題解決に取 り組めるようになりました」(福士先生)ナレッジマネジメントを授業に導入し
効果的な事例を公開して全校に波及
こうして培われた校内の気風が、学力向上プロジェクト 推進の大きな力となった。福士先生は「以前であれば研究 指定校の打診を受けても、業務が増えるからと断っていた かもしれません。ところが今回は、教員から『生徒に真の 力がつく取り組みにしよう』『一部の教員ではなく全校で 福士公一朗委員長 岡田敏嗣教務部長取り組もう』といった意見が出ました」と話す。 プロジェクトの開始にあたり最初に行ったのが 「学力 観」の共有である。校内研修会で「学力とは、教科学力と 総合力(教科学力を活用して課題を解決するために必要な 思考力、判断力、表現力等、さらには主体的に学習に取り 組む態度)からなる力」であることを確認し、これを「確 かな学力」と定義した。その上で、授業改善に取り組むこ とにしたのである。 プロジェクトの中心は、校長と教頭を含む9名のコー ディネーターからなる委員会だが、福士先生は「コーディ ネーターはリーダーではなく、よい授業を見つけるのが仕 事」と説明する。「コーディネーターはアンテナを張って、 『確かな学力』向上につながる授業をしている先生に公開 授業やレポートを依頼します。すると『自分もやってみよ う』という先生が出てきて、取り組みが広がっていきます」 さらに、委員会では、「ストレートに読解力・思考力・ 表現力向上につながる方法はないか」と考えた結果、KJ 法やブレーンストーミング、マインドマップ、プレゼンテー ション、ディベート、ロールプレイなど、 ナレッジマネジ メントの手法を導入している<図表1>。ただし、これも 教員に手法を紹介したり、導入した授業を公開したりして もらい、有意義だと考えた教員が自分の授業の中で適宜活 用するという手法をとっている。 具体的な取り組みとしては、例えば、福士先生が担当す る1学年の「情報」の授業では、現代の情報社会に関する 課題について情報収集させ、それを整理する際にKJ法を 使っている。ほかに、意図や意味がわかりにくい看板やマ ニュアルの文章をわかりやすく直してみるなど、論理的な 思考力や表現力を養うために、さまざまな工夫をしている。 他にも地歴科では、2009 年度「世界史 A」で、歴史の流 れや出来事の関係性を、生徒にマインドマップを書かせて 整理させた。続く2010年度 「日本史B」 では、マインドマッ プを発展させて、生徒に「図解メモ」を作成させることで、 学習効果を高めている。 2学年の総合的な学習の時間では、どのクラスでもKJ 法やブレーンストーミングを学び、これらのツールを用い て小論文の論理的な構築法を学んでいる。「生徒だけでな く担任自身のナレッジマネジメントに関する理解が深ま り、教科の授業での活用につながっています」(岡田先生) さらに、3学年の総合的な学習の時間では、生徒は各自、 ナレッジマネジメントのツールを使いながら、小論文を作 成する。「今では、国語や英語では、授業にグループ討論 や前に出ての発表を取り入れるのは当たり前になっていま す。また、KJ法を使って大学の志望理由書を考えたり、 マインドマップで自分の気持ちを整理したりする生徒も出 てきました」(岡田先生) 各教員の工夫に加えて、教科として取り組んでいるもの もある。理科では、『知の構成』というオリジナル教材を 作成した。これは、論理的なレポートを書くための教材で、 書式やグラフの書き方、論理的な文章を書くポイントなど をまとめたもの。1学年では全クラスで『知の構成』に基 づいて実験をまとめ、2学年では『知の構成』がなくても、 論理的なレポートを書けるようにする。また、物理では3 年生が2年生の実験指導を行っている。「3年生は、5時 間かけて実験のテーマや方法を考えるところから準備し、 2時間かけて2年生の実験を指導します。これによって3 年生の思考力が高まり、ともに学習内容の理解が深まりま す」(岡田先生) 学校全体では、毎日 10 分間の朝読書を取り入れた。国 語科の発案で、全生徒が朝読書で読んだ本の中から「おす すめ本」を選んで紹介文を書き、冊子を作成することになっ た。これを見た理科では、2学年の夏休みの課題に「自然 科学関連の本の紹介文作成」を出し、「サイエンスブック ガイド」としてまとめている。 またプレゼンテーションにも力を入れている。総合的な 学習の時間の学問調べ(1学年)やインターンシップ(2 学年)、テーマ学習(3学年)のクラス発表会や全校発表 会をはじめ、多くの機会を設けている。「3学年で小論文 の模試を受けますが、成績上位の生徒は体育館で、論文の 論理の構築過程を話し、次に返却された答案に記してあっ たコメントに基づいてどう改善したかを発表します」(岡 田先生) 上記以外にも多くの実践があるが、各実践が、「確かな <図表1>思考力・判断力・表現力の育成における ナレッジマネジメントの導入例 教科 実践項目 実施学年 実施方法 育成したい確かな「学力」 言語活動 日本史における ノート作り学習 倫理における対話型授業の 実践研究 資料をノートに貼り、問題の範囲を図解によりま とめることで理解を深める 単元のテーマに沿った 「問い」 に対して、生徒同士、 教師と生徒による対話を生かした授業を展開する 「知の構成」を活用した レポート作成 実験を題材に、実験レポートとは何かを考えさせ ることで、深い理解と論理的思考力を育成する サイエンスブックガイドの 作成 自然科学関連のお勧めの本の紹介文を作成し、冊 子にまとめる 物理選択者による物理実験 ワークショップの実施 複数のテーマ(グループ)を設定し、3年生と2年 生が協力して探究活動を展開する 地理歴史・ 公民 理科 判断力 思考力 表現力 知識・技能 関心・意欲 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 項 目 KJ法 ブレーンストーミング マインドマップ プレゼンテーション ディベート 『知の構成』 ロールプレイ 読書活動 主な実施教科等 情報科・総合的な学習の時間 情報科・総合的な学習の時間 地理歴史科・情報科 国語科・英語科・情報科・ 総合的な学習の時間 等 理科・情報科 家庭科 読書活動推進委員会 内 容 知識の系統的整理 アイディアの創出 論理的発表手法 論理的レポート作成手法 擬似体験 本の紹介冊子作成 目標管理手法MBOによる授業評価・授業改善システム 授業評価の流れ 1. 授業目標の提示 2. 授業目標に対する生徒の意識調査 3. 授業展開 4. 授業評価(授業評価シート) 自己評価 相互評価 生徒 による 教師 による 理解度・関心意欲・ 授業内容 等 集団の態度・グループ学習発表・作品・レポートの評価 定着度・授業内容・ シラバス 等 授業研究・教科内評価 等 シラバス 単元の指導計画 指導案(目標) 授業実施 授業評価 授業の工夫改善 PDCAサイクル 生徒の評価力育成 教師の指導力向上 確かな学力の向上 3年 3年 1年 2年 2・3年