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238 吉岡ほか 緒言 長距離走パフォーマンスは最大酸素摂取量 ( _VO 2max ), ランニングエコノミー (Running Economy: RE) および乳酸性代謝閾値 (Lactate threshold: LT) によってその大半が説明され, これらの指標とパフォーマンスの関係について

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1) 環太平洋大学体育学部 〒7090863 岡山市東区瀬戸町観音寺721番地 2) 国立スポーツ科学センタースポーツ科学研究部 〒1150056 東京都北区西が丘 3151 3) 茨城キリスト教大学生活科学部 〒3191295 茨城県日立市大みか町 6111 4) 筑波大学体育系 〒3058574 茨城県つくば市天王台 111 連絡先 吉岡利貢

1. Department of Physical Education, International Paciˆc University

721 Kannonji Seto-cho, Higashi-ku, Okayama 709 0863

2. Department of Sports Sciences, Japan Institute of Sports Sciences

3151 Nishigaoka, Kita-ku, Tokyo 1150056 3. College of Life Sciences, Ibaraki Christian University

6111 Omika, Hitachi, Ibaraki 3191295

4. Institute of Health, Physical Education and Sport Sciences, University of Tsukuba

111 Tennodai, Tsukuba, Ibaraki 3058574 Corresponding author t.yoshioka@ipu-japan.ac.jp

事例報告

世界トップレベルで活躍する

ケニア人長距離ランナーの体力・形態特性

吉岡 利貢1) 中垣 浩平2) 中村 和照3)

向井 直樹4) 鍋倉 賢治4)

Toshitsugu Yoshioka1, Kohei Nakagaki2, Kazuteru Nakamura3, Naoki Mukai4 and Yoshiharu Nabekura4: Physiological and morphological characteristics of a Kenyan world-class long-distance runner: a case study. Japan J. Phys. Educ. Hlth. Sport Sci. 57: 237248, June, 2012

AbstractThe purpose of this study was to compare the physiological and morphological characteris-tics of J. Ndambiri, a Kenyan world-class long-distance runner (10,000 m personal best: 27:04.79), with runners belonging to the national corporate team (29:32.18±0:30.35). Oxygen uptake ( _VO2), heart rate, blood lactate concentration and stride frequency were measured during submaximal exercise on a treadmill (270, 290, 310, 330, 350 and 370 m/min velocities with 1 inclination). Peak oxygen uptake ( _VO2peak) was determined during the maximal exercise test. In addition, morphological parameters (length of thigh and shank, maximum circumference of thigh and shank, and cross-sectional area of the trunk, thigh and shank muscles) were determined using a tape measure and magnetic resonance imaging (MRI). Ndambiri was superior to Japanese runners in terms of not only running economy (65.0 vs 69.8 ±1.9 ml/kg/min at 330 m/min), but also blood lactate concentration (1.50 vs 2.59±0.74 mmol/l at 330 m/min), heart rate (159.8 vs 170.8±4.0 bpm at 330 m/min) during the submaximal running test and _VO2peak(80.8 vs 76.3±2.4 ml/kg/min). In addition, the morphological characteristics of Ndambiri were also quite diŠerent from those of Japanese runners. In particular, Ndambiri's maximum shank circumfer-ence was much smaller than that of Japanese runners (32.0 vs 35.8±1.8 cm). Furthermore, the cross-sectional area of the gastrocnemius muscle, which composes the shank, was signiˆcantly correlated with the oxygen cost of running at 330 m/min (r=0.700). These ˆndings indicate that the superior perfor-mance of Ndambiri is attributable to various factors such as a higher _VO2peak, lower blood lactate concen-tration and heart rate, as well as running economy. In the future, it will be necessary to clarify the factors supporting these relationships between physiological variables and morphological characteristics. Key wordsrunning performance, maximal oxygen uptake, running economy, MRI, muscle-cross

sec-tional area

キーワード長距離走パフォーマンス,最大酸素摂取量,ランニングエコノミー,磁気共鳴画像法,筋 横断面積

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長 距 離 走 パ フ ォ ー マ ン ス は 最 大 酸 素 摂 取 量 ( _VO2max), ラ ン ニ ン グ エ コ ノ ミ ー ( Running Economy: RE)および乳酸性代謝閾値(Lactate threshold: LT)によってその大半が説明され, これらの指標とパフォーマンスの関係についても 数多く報告されている(Conley and Krahenbuhl, 1980; Costill et al., 1973; Farrell et al., 1979).

現在,世界の陸上競技長距離界は,エチオピア やケニアといった東アフリカ諸国のランナーによ って上位が独占されており(Larsen, 2003),そ のパフォーマンスの高さを説明する要因について の研究もおこなわれている(榎本,2005; Hamil-ton, 2000; Larsen, 2003; Larsen et al., 2004; Lar-sen et al., 2005; Lucia et al., 2006; Pitsiladis et al., 2004; Saltin et al., 1995).これらの研究を概観す ると,東アフリカ諸国のランナーとその他の国の ランナーのパフォーマンスの差を生む最大の要因 は RE といえそうである.たとえば Saltin et al. (1995) は,ケニアの長距離ランナーは欧州スカ ンジナビア諸国の長距離ランナーと比較して RE が優れていることを報告している.同様に Lucia et al. (2006) は,エチオピアからの独立国で,近 年世界トップレベルで活躍するエリトリア人ラン ナーとアフリカ以外の国にあって,当時,世界ト ップレベルの活躍をしていたスペイン人ランナー の形態および体力を比較し,エリトリア人ラン ナーはスペイン人ランナーより RE が高いこと, そして RE の高さが下腿部の質量に起因する可能 性を報告している.さらに Larsen et al. (2003) は,専門的トレーニングの影響が小さい少年期の 体力をケニア人とデンマーク人で比較することに よって,ケニア人の RE の高さが専門的トレーニ ングによって獲得したものではないことを明らか にしている.また,体力的要因のみならず,技術 的要因からのアプローチも進められている.榎本 (2005)は,ケニア人ランナーと日本人ランナー の走動作を比較し,ケニア人ランナーは接地時に 体幹が前傾していること,離地時の底屈動作が小 さいこと,そして回復脚を大きく,かつ速く前方 に引き出していることなどを報告している. これらの東アフリカ諸国のランナーの中には, 我が国を拠点にトレーニングする者も多く,現 在,その数は約100名にものぼる.また,それら の選手の中には世界のトップレベルで活躍する選 手も少なくない.その一人である J. Ndambiri 選 手は,高校生時に来日し,2007年ケニア選手権 10000 m 優勝,同世界選手権大阪大会 5 位入賞 など,輝かしい成績を収めている.また,5000 m で13分05秒33,10000 m で26分57秒36(2009 年世界ランキング 3 位)と世界トップレベルの 記録も有している. 我々は,Ndambiri 選手の所属チームの科学サ ポートを2005年よりおこなってきた.そして今 回,本人および関係各位から,Ndambiri 選手の 形態・体力測定値を公表することの了承を得た. 世界トップレベルのランナーの体力や形態の測定 値は,これまでにもしばしば公表され,その時々 で競技力向上のための指針として参考にされてき た.たとえば,1970年代当時,国際競技力の高 か っ た ア メ リ カ 合 衆 国 で は , S. Prefontaine (5000 m13分21秒87,ミュンヘン五輪 4 位) や F. Shorter(マラソン2 時間10分30秒,ミュ ンヘン五輪金メダル・モントリオール五輪銀メダ ル)らの体力・形態測定値を広く公表している (Pollock, 1977).また,Saltin et al. (1995) は, 10000 m の 元 世 界 記 録 保 持 者 で あ る H. Rono (27分22秒47)ほか世界トップレベルのケニア人 ランナーの体力測定値を公表している.さらに, 女 子 マ ラ ソ ン の 世 界 最 高 記 録 保 持 者 で あ る P. RadcliŠe(マラソン2 時間15分25秒)において は,体力測定値およびパフォーマンスの 5 年間 に 渡 る 縦 断 的 変 化 も 報 告 さ れ て い る ( Jones, 1998).しかし,長距離走の記録が飛躍的に向上 し始めた1990年代後半以降(Bulter, 2011)に活 躍した選手を対象とした報告はほとんどない. そこで本研究では,Ndambiri 選手の形態およ び体力を同時期(2008年 3 月)に測定した日本 人実業団選手と比較することによって,その高い パフォーマンスを説明する要因を明らかにするこ

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Table 1 Physical characteristics and performance of subjects

Height Body mass BMI _VO2peak 10000 m PB 10000 m SB m kg kg/m2 ml/kg/min mm:ss.00 mm:ss.00 Ndambiri 1.71 53.0 18.13 80.8 27:04.79 27:28.38 JPN1 1.73 58.1 19.41 79.6 28:46.07 28:46.07 JPN2 1.69 57.0 19.96 74.1 28:41.47 28:58.65 JPN3 1.74 52.8 17.54 77.2 28:50.09 29:10.12 JPN4 1.70 54.9 19.00 74.5 28:58.17 29:12.61 JPN5 1.75 58.0 18.94 77.1 29:36.12 29:36.12 JPN6 1.67 61.0 21.87 80.8 29:28.04 29:39.32 JPN7 1.76 62.0 20.02 74.0 29:36.50 29:45.37 JPN8 1.74 59.6 19.69 75.5 29:34.61 29:50.63 JPN9 1.72 58.9 19.91 74.0 29:25.74 29:55.69 JPN10 1.70 56.8 19.65 76.6 29:26.33 30:27.26 MeanJPN 1.72 57.9 19.60 76.3 29:17.45 29:32.18 SDJPN 0.03 2.7 1.09 2.4 00:21.45 00:30.35 とを目的とした.

. 対象者 対 象 は , Ndambiri 選 手 お よ び 国 内 の 実 業 団 チームに所属する日本人ランナー10名(以下, JPN 群)とした.対象者の年齢,身長,体重お よび10000 m 走パフォーマンスを Table 1 に示し た.10000 m 走パフォーマンスは,自己最高記 録 ( Personal Best: PB ) と 2007 年 度 最 高 記 録 ( Season Best: SB ) に 分 け て 示 し た . な お , Ndambiri 選手は,2008年の測定直後の春季シー ズンには,10000 m で2007年度最高記録を上回 る27分14秒03を記録している.また,2009年に はその年の世界ランキング 3 位となる26分57秒 36を記録している. すべての対象者には,事前に測定にあたっての 危険性について十分に説明し,同意を得た上で測 定を実施した.また,本報告を作成するにあたっ ては,Ndambiri 選手については個人名を公表し た上で測定データを使用すること,それ以外の選 手については個人名は公表しないが,測定データ を使用することを説明した上で,選手本人および 指導者の同意を得た. . 測定時期 測定は2008年 3 月,春季シーズンを直前に控 えた専門的準備期にあたる時期に実施した. . RE および _VO2peakの決定 各対象者に対しランニングによる最大下および 最大運動負荷テストをおこない,RE および最高 酸素摂取量( _VO2peak)を決定した.負荷テスト には,トレッドミル(西川鉄工製,京都)を用い た.運動中の呼気ガス指標は,呼気ガス分析器 ( Mijnhardt 社 , Oxycon Alpha ) を 用 い て , breath-by-breath 法により分析した.この方法で は,フェイスマスクから採取したガスサンプル は,ツインチューブサンプルラインを通してガス 分析器に送られる.ガス分析器の較正は,テスト の 開 始 前 に O2CO2N2混 合 標 準 ガ ス ( O2 15.08,CO24.90,N2バランス)を用い ておこなった.また,ツインチューブを通過する ガスの移動時間の補正および定量シリンジによる 流量計の較正もおこなった.この方法を用いて, 一回換気量,呼吸数,呼気酸素濃度,呼気二酸化 炭素濃度を測定し,酸素摂取量( _VO2)および二 酸化炭素排出量( _VCO2)を,この両者を用いて 呼吸交換比(RER)を算出し,30秒毎の平均値 に換算して出力した.また,運動中,HR モニタ

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(Polar 社,RS800sd)を用いて,心拍数(HR) を観察および記録した.さらに HR モニタに付 属 し て い る 加 速 度 セ ン サ ( Hausswirth et al., 2009)を用いて,走行中のストライド頻度を記 録し,走速度をストライド頻度で除した値をスト ライド長とした.なお,ストライド長は身長で除 した相対値()を分析に用いた. 測定は,任意のランニングおよびストレッチン グ等の準備運動をおこなわせた後,開始した.ま ず,最大下強度での 4 分間の固定負荷テストを 1 分間の休息を挟んで 5 ステージおこない,その 後,2 分間の休息を挟んだ後,最大漸増負荷テス トをおこなった.固定負荷テストは,290 m/min (Ndambiri 選手)あるいは270 m/min(JPN 群) から 1 ステージ毎に20 m/min ずつ速度を漸増さ せ た . 最 大 漸 増 負 荷 テ ス ト は , 330 m / min (Ndambiri 選手)あるいは310 m/min(JPN 群) から開始し,1 分毎に10 m/min ずつ速度を漸増 させ,設定速度での走行が不可能になった時点で 運動を終了させた.各試技間の休息中,運動終了 1 分後,3 分後および 5 分後に指尖より採血をお こ な い , 自 動 乳 酸 分 析 器 ( YSI 社 製 , 1500SPORT)を用いて血中乳酸濃度(La)を測 定した.すべての測定は斜度 1 の条件でおこ なった.なお,Ndambiri 選手の290 m/min にお ける La のみ,測定時の不手際により,データが 欠損している. 最大下固定負荷テストの _VO2は,各ステージ における 3~4 分の 1 分間の平均値を用いた.な お , Ndambiri 選 手 の 290 m / min お よ び JPN 群 のうち 1 名の350 m/min において,最後の 1 分 間に100 ml 以上の _VO2の上昇が確認された.す なわち,両試技においては定常状態が得られなか った.一方,その他の対象者においては,すべて の試技において同様の現象は確認されなかった. また,JPN 群の各対象者においては270 m/min あるいは350 m/min のいずれかを,Ndambiri 選 手においては290 m/min および370 m/min を除 くことによって,すべての対象者で速度と _VO2 の間に r=0.995以上(Medbø, 1988)の極めて強 い相関関係が認められた.HR およびストライド 頻度は 5 秒毎に記録し,3~4 分にかけての 1 分 間の平均値を分析に用いた. 最 大 漸 増 負 荷 テ ス ト に お け る 最 高 走 速 度 を Vmax(最大漸増負荷テスト中,速度の上昇後 1 分以内に運動を終了した際には,下記の(式)を 用いて Vmaxを算出), _VO2の最高値(30秒間) を _VO2peak,運動後の La の最高値を Lapeakとし た.また,各ステージにおける速度と _VO2の回 帰式から最高有酸素的ランニング速度(v _VO2max) (山地,1998)を求めた. Vmax=1 分間完遂した最高速度+10 m/min ×(最高速度での運動時間(秒)/60) (式) . 下肢の形態および筋横断面積 大腿長,下腿長,大腿最大囲および下腿最大囲 を巻尺を用いて計測した.なお,大腿長は転子点 (大転子の最上縁の点)から大腿骨外側上顆点ま で,下腿長は内果端点から脛骨点(内側顆の上縁 で最も近位端の点)までの直線距離,大腿最大囲 および下腿最大囲は,ともに正面からみて最も太 い位置とした. 右脚の大腿部近位30部,下腿部近位30部 (狩野ほか,1997)および第 45 腰椎位での腹部 を 磁 気 共 鳴 画 像 装 置 ( 日 立 メ デ ィ コ 社 Airis Mate, 0.3-T)を用いて撮影し,筋横断面積を算 出した.撮影時,対象者は10分間の椅坐位での 安静後,ベッドに仰臥位となり膝関節がベッドと 水平になるように足関節を固定した.大腿部およ び下腿部は,事前にメジャーによる測定部位の同 定後に撮影をおこなった(TR: 350 ms, TE: 30 ms, FOV: 320 mm, matrix: 256×256, NSA: 4 回,撮像時間各 7 分57秒).すなわち,大腿部 は転子点から大腿骨外側上顆点までの直線距離か ら,下腿部は内果端点から脛骨点までの直線距離 から,それぞれ近位30部を同定し,MRI 装置 から出されるレーザーにインクで記したマーカー を合わせて撮影した.腹部は,矢状面での縦断像 を撮影後,第 45 腰椎間の横断像を撮影した. 横断像はパーソナルコンピュータ(iMAC;

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Ap-Fig. 1 Cross-sectional images from a subject at thigh (A) and shank (B) of the right leg and lumber region (C). (QF m. quadriceps femoris, RF m. rectus femoris, Vas m. vastus group, Ham m. hamstring, AM m. adductor magnus, AL m. ad-ductor longus, Sar m. sartorius, Gra m. gracilis, TS m. triceps surae, Sol m. soleus, Gas m. gas-trocnemius, PM m. psoas major)

ple, Japan)に取り込み,画像処理ソフトウェア (Osirix: http://www.osirix-viewer.com/)により 大腿部は大腿四頭筋(および大腿四頭筋を構成す る大腿直筋および広筋群),ハムストリング,縫 工筋,大内転筋,長内転筋および薄筋,下腿部は 下腿三頭筋(および下腿三頭筋を構成するヒラメ 筋および腓腹筋),腹部は大腰筋の横断面積を算 出した(Fig. 1).また,筋横断面積は,体重の 2 /3 乗で除して評価した.本研究のように,体脂 肪量が極めて少ない対象者の場合,体重は全身の 筋量を反映する簡便な指標であるといえる.そこ で,筋の横断面積を体重あたりの相対値で評価す ることによって,各筋あるいは筋群の全身の筋量 に対する相対的筋量を示す指標とした.なお,体 重(体積)が 3 乗の指標,横断面積は 2 乗の指 標であるため,相対的筋量は 2/3 乗で示した. 以上の計測,撮影および分析は,すべて 1 名 の熟練した検者がおこなった. . 統計解析および評価 統計量はすべて平均値±標準偏差(SD)で示 した.なお,Ndambiri 選手の値が JPN 群の平均 値 ± 1SD の 範 囲 を 超 え た 場 合 に 「 顕 著 に 高 い (あるいは低い)」,平均値±2SD を超えた場合に 「傑出して高い(あるいは低い)」と評価した.項 目間の相関関係は,Pearson の積率相関係数を求 め,その有意性について検討した.統計処理の有 意性は危険率 5 未満で判定した.

. ト レ ッ ド ミ ル 最 大 下 固 定 負 荷 テ ス ト (Table 2) Ndambiri 選手の最大下走速度における _VO2は 290 m/min のみ JPN 群と同等であったが,310 m/min では顕著に低く,330 m/min および350 m/min においては傑出して低かった.そして, 330 m/min における _VO2(RE)が低い(RE が 優れている)者ほど10000 m 走パフォーマンス が高く,両者の間に有意な相関関係(r=0.700) が認められた(Fig. 2A).なお,330 m/min は, すべての選手で La が 4 mmol/l(OBLA)未満と なる速度である.また,各速度での _VO2のみな らず,速度と _VO2の関係性にも両者の間に違い が認められた.すなわち,JPN 群の速度と _VO2 の 関 係 性 ( Y = 4.1333X - 12.41 , 但 し , Y は _VO2,X は速度(先行研究との比較を念頭に km /h)とする.以下,同様.)と Ndambiri 選手の 関係性(Y=3.2901X+0.1958,但し290 m/min は除く)には違いが見られた. HR も,Ndambiri 選手はすべての速度で JPN 群より低く,330 m/min(159.8 vs 170.8 bpm) および350 m/min(167.8 vs 178.3 bpm)におい て,傑出して低かった.そして,そのうち350 m /min において,HR と10000 m 走パフォーマン スの間に有意な正の相関関係(r=0.662)が認め られた.330 m/min においても同様の傾向(r= 0.517, p=0.085)はみられたが,有意ではなく, それ以下の速度では相関関係は認められなかった. La も,290 m/min を除くすべての速度におい て Ndambiri 選手は JPN 群より低く,特に330 m /min では顕著に,350 m/min では傑出して低い 値であった.なお,350 m/min における La が低 い者ほど10000 m 走パフォーマンスが高く,両 者の間に有意な相関関係(r=0.661)が認められ

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Fig. 2 Relationships between (A) running economy ( _VO2at 330 m/min) and 10000 m time, (B) _VO2peak and 10000 m time

Table 2 Comparison of the physiological and biomechanical data between Ndambiri and Japanese runners 1deg Ndambiri Japanese

(a) Constant test at 270 m/min

Heart rate (bpm) ― 142.3±6.7 Lactate (mM) ― 1.26±0.60 _VO2(ml/kg/min) ― 55.1±3.0

RER ― 0.88±0.05 Stride frequency (steps/sec) ― 3.16±0.14 Stride length (distance/ht) ― 83.1±3.8 (b) Constant test at 290 m/min

Heart rate (bpm) 147.0 152.0±7.2 Lactate (mM) ― 1.13±0.51 _VO2(ml/kg/min) 60.6 59.5±2.9

RER 0.93 0.93±0.04 Stride frequency (steps/sec) 3.11 3.18±0.13 Stride length (distance/ht) 91.0 88.4±3.7 (c) Constant test at 310 m/min

Heart rate (bpm) 156.3 162.2±5.9 Lactate (mM) 1.44 1.52±0.54 _VO2(ml/kg/min) 61.6 64.3±2.7

RER 0.98 0.95±0.04 Stride frequency (steps/sec) 3.16 3.20±0.12 Stride length (distance/ht) 95.7 94.0±3.8 (d) Constant test at 330 m/min

Heart rate (bpm) 159.8 170.8±4.0 Lactate (mM) 1.50 2.59±0.74 _VO2(ml/kg/min) 65.0 69.8±1.9

RER 0.99 0.99±0.05 Stride frequency (steps/sec) 3.19 3.25±0.13 Stride length (distance/ht) 100.9 98.7±4.2

1deg Ndambiri Japanese (e) Constant test at 350 m/min

Heart rate (bpm) 167.8 178.3±2.8 Lactate (mM) 2.10 4.56±0.91 _VO2(ml/kg/min) 69.5 74.2±2.1

RER 1.00 1.05±0.05 Stride frequency (steps/sec) 3.23 3.26±0.14 Stride length (distance/ht) 105.5 104.2±4.8 (f) Constant test at 370 m/min

Heart rate (bpm) 178.0 ― Lactate (mM) 3.98 ― _VO2(ml/kg/min) 78.2 ― RER 1.05 ― Stride frequency (steps/sec) 3.30 ― Stride length (distance/ht) 109.3 ― (g) Graded test―Maximal value―

Heart rate (bpm) 181.0 185.5±3.7 Lactate (mM) 4.31 6.47±1.35 _VO2peak(ml/kg/min) 80.8 76.3±2.4

v _VO2peak(m/min) 408.0 357.1±10.4 Velocity (m/min) 385.0 374.4±8.7

RER 1.03 1.09±0.02 Larger or smaller than Japanese's mean±1 SD Larger or smaller than Japanese's mean±2 SD

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Table 3 Comparison of the muscle cross sectional area (absolute value) between Ndambiri and Japanese runners Ndambiri Japanese Trunk ― ― Psoas major 18.0 13.9±2.8 Thigh 135.5 134.5±10.2 Quadriceps femoris 63.3 63.4±6.0 Rectus femoris 13.5 12.0±3.2 Vasti 49.7 51.4±4.5 Sartorius 4.0 3.6±0.5 Hamstring 17.4 15.7±1.7 Adductor 44.7 48.1±3.6 Adductor magnus 26.8 28.9±2.4 Adductor longus 13.1 15.3±2.5 Gracilis 4.8 4.0±1.0 Shank 54.5 67.1±6.7 Triceps surae 33.2 38.8±4.3 Gastrocnemius 16.7 21.6±3.1 Soleus 16.5 17.2±2.6 Larger or smaller than Japanese mean±1 SD

Table 4 Comparison of the muscle cross sectional area (relative value) between Ndambiri and Japanese runners Ndambiri Japanese Trunk ― ― Psoas major 1.27 0.93±0.19 Thigh 9.60 8.97±0.51 Quadriceps femoris 4.48 4.23±0.34 Rectus femoris 0.96 0.80±0.21 Vasti 3.52 3.43±0.25 Sartorius 0.29 0.24±0.03 Hamstring 1.24 1.05±0.12 Adductor 3.17 3.21±0.20 Adductor magnus 1.90 1.93±0.14 Adductor longus 0.93 1.02±0.17 Gracilis 0.34 0.27±0.08 Shank 3.86 4.48±0.35 Triceps surae 2.35 2.59±0.24 Gastrocnemius 1.18 1.44±0.18 Soleus 1.17 1.15±0.17 Larger or smaller than Japanese mean±1 SD た. ストライド長およびストライド頻度は,すべて の速度において Ndambiri 選手と JPN 群の間に 顕著な差が認められなかった. . トレッドミル最大漸増負荷テスト(Table 2)

Ndambiri 選 手の _VO2peakは ,80.8 ml/kg/min で あ り , JPN 群 の _VO2peak( 76.3 ± 2.4 ml / kg / min)より顕著に高かった. _VO2peakと10000 m 走パフォーマンスの間に有意な相関関係は認めら れなかった(r=-0.493, p=0.124)(Fig. 2B). また,Ndambiri 選手の v _VO2peak(408 m/min) は JPN 群(357.1±10.4 m/min)より傑出して 高かった.HRpeakは,Ndambiri 選手で181 bpm と,JPN 群(185.5±3.7 bpm)と比較して顕著 に低い値を示した.Lapeakも,Ndambiri 選手で 4.31 mmol/l と,JPN 群(6.47±1.35 mmol/l) と比較して顕著に低い値を示した. . 形態および筋横断面積 身長は,JPN 群と同等(1.71 vs 1.72±0.03 m) であったが,体重は顕著に軽く(53.0 vs 57.9± 2.7 kg),BMI(18.13 vs 19.60±1.09)も低値を 示した.大腿長(42.0 vs 40.4±1.0 cm)および 下腿長(41.5 vs 37.2±1.6 cm)はともに Ndam-biri 選手が顕著に長かった.一方,大腿最大囲 (48.8 vs 50.4±1.1 cm)および下腿最大囲(32.0 vs 35.8±1.8 cm)は JPN 群で顕著に大きかった. 体幹部,大腿部および下腿部の筋横断面積を絶 対値および相対値で,それぞれ Table 3,4 に示 した.絶対値では,大腰筋およびハムストリング の横断面積が JPN 群と比較して顕著に大きく, 下腿部あるいはそれを構成する下腿三頭筋は顕著 に小さかった.さらに,相対値で比較すると,大 腿部およびそれを構成する縫工筋も Ndambiri 選 手で顕著に大きかった. 各筋の相対的な横断面積とパフォーマンスの関 係について検討すると,ハムストリングの横断面 積が大きい者ほど10000 m 走パフォーマンスが 高く,両者の間に有意な相関関係が認められた (r=0.638)(Fig. 3).また,腓腹筋の横断面積 と RE の間に有意な相関関係(r=0.729)が認め

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Fig. 3 Relationships between relative value of muscle cross sectional area of hamstring and 10000 m time

Fig. 4 Relationships between relative value of muscle cross sectional area of (A) gastrocnemius and run-ning economy ( _VO2at 330 m/min), (B) soleus and running economy ( _VO2at 330 m/min) られたが,同じく下腿三頭筋を構成するヒラメ筋 と RE の間には相関関係は認められなかった(r =-0.124)(Fig. 4).

本研究の目的は,世界トップレベルで活躍する Ndambiri 選手の体力・形態測定値をパフォーマ ンスの劣る日本人ランナーと比較することによっ て,その競技力の高さを説明する要因を明らかに することであった.本研究の結果,Ndambiri 選 手は,日本人選手と比較して,RE のみならず, _VO2peakや最大下強度における HR や La も優れ ていることが明らかとなった.また,Ndambiri 選手の形態的特徴として,主に大腰筋やハムスト リ ン グ が JPN 群 と 比 較 し て 大 き い こ と , 下 腿 部,中でも下腿三頭筋およびそれを構成する腓腹 筋の横断面積が,JPN 群と比較して小さいこと が明らかとなった. . トレッドミルテスト

Ndambiri 選手の _VO2peakは,JPN 群の平均値 より顕著に高い値を示した.本研究においては _VO2peakとパフォーマンスの間に有意な相関関係 は認められなかった(Fig. 2B)ものの,先行研 究(Farrell et al., 1979)における両者の関係性 を考慮すると,Ndambiri 選手の _VO2peakの高さ は JPN 群のパフォーマンスとの差を説明する要 因の一つであったと考えられる.なお,Ndam-biri 選手の _VO2peakは,80.8 ml/kg/min であり, 世界トップレベルのランナーとしては特筆すべき 値 で は な か っ た . た と え ば , 5000 m お よ び 10000 m で2008年現在での Ndambiri 選手と同等 の記録を有していた J. Ngugi(27分11秒 6)は 85.0 ml/kg/min,H. Rono(27分22秒50)は84.3 ml/kg/min と,ともに Ndambiri 選手より 5 程 度高い値が報告されている(Saltin et al., 1995). しかし,本測定において,Ndambiri 選手は,や

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や余力を残した状態でテストを終了した(本人の 意思による).実際, _VO2もプラトーには達して おらず,RER も1.03と低かったことから,今回 の測定結果が Ndambiri 選手の能力を過小評価し ている可能性は残されている. 310 m/min 以上の速度における _VO2は,JPN 群と比較して顕著に低かった.また,一流長距離 ランナーを用いた先行研究の _VO2値と比較する と,国際レベルで活躍するケニア人ランナーの約 40を占める(Onywera et al., 2006)Nandi 族 のランナー(Saltin et al., 1995)やエリトリア人 ランナー(Lucia et al., 2006)よりはやや高かか ったものの,スペイン人ランナー(Lucia et al., 2006)の値よりは顕著に低かった.このように, Ndambiri 選手を含むアフリカ人ランナーは,ア フリカ以外の国のランナーと比較して優れた RE を有しており,彼らの高いパフォーマンスを説明 する主な要因と考えられている.また,この RE の高さは,アフリカ人ランナーがトレーニングに よって獲得したものではなく,その他の要因によ るか,あるいは先天的に持ち合わせた能力である 可能性が示唆されている.すなわち,Nandi 族を 対象として,日常生活での身体活動量が異なる都 市部に住む少年と郊外の村に住む少年の _VO2max および RE を比較した研究によって, _VO2maxは 身体活動量の影響を受けるものの,RE はその影 響を受けないことが報告されている(Larsen et al., 2004).また,ケニア人の少年とデンマーク 人の少年を対象として RE およびトレーニングに よる RE の変化を比較したところ,ケニア人の少 年の方が RE は優れていたものの,トレーニング による RE の変化は,両者で同等かつ非常に小さ か っ た こ と も 報 告 さ れ て い る ( Larsen et al., 2003).加えて,各速度での _VO2のみならず,速 度と _VO2の関係性にも人種間で差があることが Wilkinson (1999 ) によっ て指摘 されて おり , Ndambiri 選手と JPN 群の間にも同様の差が認め られた.そして,Ndambiri 選手の速度と _VO2関 係は,先行研究(Saltin et al., 1995)におけるケ ニア人長距離ランナーのものに近似した.一方 JPN 群は,スウェーデンやアメリカといったそ の他の国の長距離ランナーのものに近似してい た.通常,RE は無酸素性代謝の貢献が極めて少 ない LT 以下の強度で評価される.一方,レース はそれ以上の強度で展開されることから,本来は レース速度で評価する必要がある.レース速度で の _VO2を推定する際に参考になる方法として, Medbø(1988)が提唱する最大酸素借を求める 方法が挙げられる.この方法では,最大下強度に おける速度と _VO2の関係性(回帰式)にレース 速度を代入することによって,レース速度におけ る _VO2を推定する.この方法を採用する場合, 回帰 式の 傾 きが 大 きく 異 なる Ndambiri 選 手と JPN 群のレース速度における RE にはさらに顕 著な差がみられることとなる. なお本研究では,定常状態が得られていたか否 か(各ステージの最後の 1 分間に _VO2が100 ml 以上増大していたか否か)を確認した上で,でき る限りレース速度に近い速度での _VO2を RE と して評価したいと考えた.そこで,すべての対象 者で速度と _VO2の間の相関関係が r=0.995以上 ( Medbø, 1988 ) に な る 速 度 域 で ,か つ La が 4 mmol/l(OBLA)未満となる最高速度(330 m/ min)での _VO2を RE の代表値とし,パフォーマ ンスの関係について検討した.その結果,RE の 優れている者ほどパフォーマンスは高く,両者の 間に有意な相関関係が認められた(Fig. 2A). 以上のように,Ndambiri 選手の高いパフォー マンスは, _VO2peakの高さと優れた RE によって 説明できた.ただし,JPN 群に Ndambiri 選手と 同等の _VO2peakを有する選手が 2 名(JPN1およ び JPN6)いたことも見逃せない.彼らの RE に 着目すると,Ndambiri 選手のパフォーマンスと の差が大きい JPN6は REが JPN 群の平均値より 劣っていたが,JPN1は JPN 群で最も優れてい た.このように,パフォーマンスは, _VO2peakお よび RE の両者と,乳酸性代謝閾値の相対的運動 強度で大部分が説明される.したがって,長距離 走パフォーマンスを高めるためには, _VO2peakを 高め,かつ RE を改善する必要がある.本研究の 対象者の範囲内において,Ndambiri 選手はこの 両指標がともに優れており,結果として高いパフ

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ォーマンスを発揮できていた.一方, _VO2peakと RE はそれぞれ独立した指標ではなく,相互に影 響し合う可能性も指摘されている.すなわち, RE が劣る選手ほど _VO2peakが高いとする報告が いくつかあり,その要因として,RE を評価する 強度が対象者間で相対的に異なることや,四肢お よび体幹の質量分布が _VO2maxと RE の両者に影 響することなどが指摘されている(Pate et al., 1992; Morgan and Daniels, 1994).この現象は, RE を高めることによって _VO2peakが低下する可 能性があることを示唆している. その他,La や HR も,JPN 群の平均値より顕 著に低かった.一般に,最大下強度におけるこれ らの値はパフォーマンスとの関係が強く,本研究 でもレースペースに近い速度(330 m/min)では パフォーマンスとの間に有意な相関関係が認めら れた. . 筋横断面積 体幹部の深層に位置する大腰筋は,Ndambiri 選 手 に お い て JPN 群 の 平 均 値 よ り 顕 著 に 大 き く,体重あたりの相対値で評価すると,その差は さらに広がった.この結果から,大腰筋の横断面 積の大きさがパフォーマンスに関与している可能 性が示唆された.大腰筋は脊柱と大腿骨をつなぐ 唯一の筋であり,主に股関節の屈曲に貢献する. したがって,歩行や走行に強く関与することが予 想され,いくつかの先行研究において,大腰筋の 横断面積が大きい者ほど100 m 走パフォーマンス が高いことが報告されている(Hoshikawa et al., 2006久野ほか,1998).ただし,これらの研究 は,ともに日本人スプリンターのみを対象として おり,本研究のように異なる人種間でパフォーマ ンスの差に関わる要因について検討する際には, 注意が必要である.実際,黒人と白人(ともに一 般健常男性)の大腰筋横断面積を比較した Han-son et al. (1999) は,両者の間に有意かつきわめ て大きな差があることを報告している. 大腿部の筋横断面積は絶対値で比較すると同等 であったが,体重あたりの相対値では JPN 群よ り顕著に大きかった.一方,大腿部を構成するハ ムストリングの筋横断面積は絶対値でも JPN 群 より顕著に大きく,相対値においてその差はさら に広がった.ハムストリングの横断面積とパフ ォーマンスの関係については,短距離選手(Ae et al., 1992  伊 藤 ほ か , 1992  狩 野 ほ か , 1997山本ほか,1992)のみならず長距離選手 を対象とした著者ほか(2009)の研究でも明ら かになっている.すなわち,著者ほか(2009) は,ハムストリングの筋横断面積が大きい者ほど 10000 m 走パフォーマンスが高いことを報告し ている.ランニング中,ハムストリングは遊脚相 後半で膝関節伸展のブレーキとして働き,接地時 に大腿四頭筋とともに膝関節の固定をおこなった 後,立脚相で股関節伸展および膝関節屈曲に貢献 する.すなわち,ハムストリングは立脚相におけ る前方へのドライブの中心的役割を担う筋であ り,長距離走においても短距離走と同様,走速度 に直接関与する.しかしながら,ハムストリング の横断面積と10000 m 走パフォーマンスの関係 を示した Fig. 3 において,Ndambiri 選手のハム ストリングの横断面積は,全体の傾向からはやや 外れた位置にプロットされた(ハムストリングの 横断面積から推定される10000 m パフォーマン スを実際のパフォーマンスが上回っていた).ま た,日本人ランナーとケニア人ランナーの走動作 を比較した榎本(2005)は,下肢重心の後方へ の移動速度は,両者の間に差がなかったものの, 後方から前方への移動速度,すなわち股関節屈曲 速度はケニア人ランナーで有意に高かったと報告 している.この報告で対象としているケニア人ラ ンナーの走動作の特徴を,直接 Ndambiri 選手に 当てはめることはできないが,Ndambiri 選手の 大腰筋が JPN 群と比較して顕著に大きく,かつ ハムストリングがパフォーマンスから推定される 断面積と比較して小さいことは,Ndambiri 選手 と JPN 群の走技術に差があった可能性を示唆し ている.今後,股関節屈曲速度と大腰筋の断面積 の関係やハムストリングの筋活動をケニア人ラン ナーと日本人ランナーで比較することで,両者の 走技術,筋活動およびそれらと形態の関係性を明 らかにできるだろう.

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下腿部は,JPN 群より顕著に細かった.今回 は下腿三頭筋とそれを構成する腓腹筋およびヒラ メ筋のみ分析に用いたが,Ndambiri 選手と JPN 群の間に顕著な差がみられたのは腓腹筋のみであ った.また,腓腹筋と RE の間には相関関係が認 められたものの,ヒラメ筋と RE の間には相関関 係は認められなかった.ともに足関節底屈の主働 筋である 2 つの筋にこのような違いがみられた ことには,両筋の機能的相違および Ndambiri 選 手と日本人選手のランニングフォームの相違が関 係していると考えられる.すなわち,脛骨および 腓骨に起始部を持つヒラメ筋が膝関節の動きや角 度にかかわらず,底屈動作中に常に働き続けるの に対して,大腿骨に起始部を持つ二関節筋である 腓腹筋は,膝関節屈曲時にはその働きを弱める. したがって,通常,膝関節が屈曲しているランニ ング時の立脚相には腓腹筋の働きはヒラメ筋と比 較して弱くなる.一方,接地時間が長い場合,あ るいは立脚相における底屈作用が大きい場合に は,離地直前まで下腿三頭筋が動員され,かつ膝 関節が伸展するため腓腹筋の活動が大きくなる. 前述の榎本(2005)は,日本人ランナーはケニ ア人ランナーと比較し,離地時の底屈動作および それに起因する足関節の力学的仕事が大きいこと を報告している.このことから,大腰筋と同様 に,腓腹筋の断面積についても走動作の特徴との 関係性を明らかにすることで,異なる人種間の形 態の違いが何に起因するのか,そしてその差を埋 めることがパフォーマンスの差を埋めることにつ ながる可能性を有するのか否かを明らかにできる だろう.

本研究の目的は,世界トップレベルの長距離ラ ンナーである Ndambiri 選手の形態および体力を パフォーマンスの劣る日本人実業団選手と比較す ることによって,その高いパフォーマンスの要因 を明らかにすることであった. 本研究の結果,Ndambiri 選手は,日本人選手 と比較して,RE のみならず _VO2peakや最大下強

度における HR や La も優れていることが明らか となった.また,Ndambiri 選手の形態的特徴と して,主に大腰筋やハムストリングが JPN 群と 比較して大きいこと,下腿部,中でも下腿三頭筋 およびそれを構成する腓腹筋の横断面積が,JPN 群と比較して小さいことが明らかとなった. 文 献

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平成23年 7 月29日受付 平成23年12月 1 日受理

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Advance Publication by J-STAGE Published online 2012/2/3

Table 1 Physical characteristics and performance of subjects
Fig. 1 Cross-sectional images from a subject at thigh (A) and shank (B) of the right leg and lumber region (C)
Table 2 Comparison of the physiological and biomechanical data between Ndambiri and Japanese runners 1deg Ndambiri Japanese
Table 3 Comparison of the muscle cross sectional area (absolute value) between Ndambiri and Japanese runners Ndambiri Japanese Trunk ― ― Psoas major 18.0 13.9±2.8 Thigh 135.5 134.5±10.2 Quadriceps femoris 63.3 63.4±6.0 Rectus femoris 13.5 12.0±3.2 Vasti
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