心の傷スキーマの実証的研究-Affective primingパラダイムを用いて- [ PDF
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(2) 処理をしらべる.本研究においては,心の傷となった体験に. ティブ) (t(14)=5.39, p<.01)が低かったため,プライム. 基づくスキーマ(以下,心の傷スキーマ)を想定する.また,. 刺激は妥当なものであると考えられた.. 活性化拡散の原理( Collins & Loftus, 1975) に基づいて,一 つの概念が活性化するとそれがスキーマ全体に拡散してい くことを前提とする.心の傷スキーマはネガティブな感情価を 持つと考えられるため,このスキーマが活性化すると中性な ものに対する評価にネガティブな方向へのバイアスが生じ好. 条件 言葉 M SD. Table 1 プライム刺激の評定平均値(N=15) いじめワードポジティブワード ネガティブワード ニュートラルワード いじめ 愛 死 学校 1.73 5.67 2.40 4.33 .59 .82 .99 .82. ましさの評定が低くなってしまうと考えられる. 心の傷といっても非常に多くのものが考えられるが,本研 究では,「いじめられ」による心の傷の場合で検討していく. その理由の一つは,比較的多くの人が経験したことがあるも のであり( 岡林, 1999) ,心の傷として残ることが多くの文献に よって報告されている( e.g., 香取, 1999; 宮野, 2000; 土屋, 1994) ことである.もう一つは,「 いじめ」 は一般的に反復的に 行われるものであり,反復して経験される体験によってその 記憶がスキーマ化されていると考えられることである. 実験では一般の大学生を被験者とし,過去にいじめられ 経験をもつ者(以下,いじめ有群)ともたない者(以下,いじ め無群) との 2 つの群にいじめに関する手がかり刺激を閾下 で先行刺激( プライム刺激) として呈示し,直後に呈示する中 性刺激(ターゲット刺激)に対する好ましさを評定させること によって,感情に関わる情報処理がどのように変化するかを 調べる. 予備実験 目的 いじめ有群において,心の傷刺激の提示によって,. 2. ターゲット刺激 ほぼ等しい長さに調節された 35 個(そのうち,練習試行用が 3 個)のネパール単語を用 いた.妥当性を確認するために,15 人の大学生および大 学院生に①熟知度,②ポジティブさ,③ネガティブさ, ④意味が分かるか,⑤好ましさについて7件法(1: 「全 く」∼7「非常に」 )で評定してもらった.その結果,熟 知度が低く,感情的に中性であり,意味を持たないこと が示されたため,ターゲット刺激が中性なものであると 考えられた. 本試行に用いられた 32 個のターゲット刺激 のに対する評定の平均値を Table 2 に示す. Table 2 ターゲット刺激についての評定(N=15) 質問項目 M SD Q1 熟知度 2.17 1.45 Q2 ポジティブさ 2.01 1.20 Q3 ネガティブさ 2.31 1.48 Q4 意味が分かるか 1.42 .87 Q5 好意評定 3.51 1.10. 直後に提示する中性刺激に対する評価がネガティブにな るかどうかを探索的に検討する.. 手続き. 要因計画 2(グループ:いじめ有,無)×4(プライ. に依頼した.実験室において,はじめにコンピュータに. ム条件:いじめ,ポジティブ,ニュートラル,ネガティ. プログラミングされた課題を行い,課題が終了後にいじ. ブ)であり,混合計画であった.. められた経験を尋ねる短い質問紙の回答を依頼した.. 被験者は一人ずつ個別に実験室に訪ねるよう. 被験者 大学生男女 39 人であった.実験セッション後. 実験課題は練習試行が 3 回, 本試行が 32 回で構成され. に行った質問紙により,いじめ有無群を分類.いじめ有. た.一試行は,はじめに画面中央に注視点として「x」が. 群が 11 人,いじめ無群が 28 人となった.. 2000ms,続いて順にプライム刺激が 10ms,マスクが. 「いじめ」 ) ,ポ 材料 1. プライム刺激 いじめワード(. 500ms,ターゲット刺激が 2000ms,そしてターゲット刺. ジティブワード( 「愛」 ) ,ニュートラルワード( 「学校」 ) ,. 激が消されてから,ターゲット刺激への好意評定を求め. ネガティブワード( 「死」 )の4種類を用いた.妥当性を. る評定尺度が呈示された(Fig. 1) .好意評定は,ターゲ. 調べるために,15 人の大学生および大学院生に,それぞ. ット刺激について「呈示されたものはどのくらい好まし. れの言葉から「どのくらい良いイメージもしくは悪いイ. いか」を 1: 「全く好ましくない」∼7: 「非常に好ましい」. メージをうけるか」について 7 件法(1: 「非常に悪いイ. で評定するもので,画面上の当てはまる数字をクリック. メージ」∼7: 「非常に良いイメージ」 )で評定してもら. するように教示された.一試行が終わると 2000ms 間隔. った.それぞれの言葉にける評定の平均値を Table 1 に. が空き,次の試行が始まった.プライム刺激は 1 種類が. 示す.評定値を比較した結果, 「学校」 (ニュートラル). 8 回ずつ呈示され,ターゲット刺激はすべて異なるもの. に比べて「愛」 (ポジティブ)が高く(t(14)=4.34, p<.01) ,. が呈示された.なお,プライム刺激,ターゲット刺激は. 「いじめ」 (いじめ)t(14)=10.21, p<.01)と「死」 (ネガ. 共にランダマイズされ,被験者ごとに異なる順で提示さ.
(3) れた. 課題と質問紙が終了した後,ディブリーフィングを行 った.はじめに, 「x」とマスクの間に他の文字が見えた かどうか,見えたとしたら,何が見えたかを尋ねた.そ の後,実験についての簡単な説明を行った.最後に,実 験の内容について周りの人に言わないようにお願いした.. X. * * p<.01 4.2 タ ー 4.1 ゲ ッ 4.0 ト 刺 3.9 激 に 3.8 対 す 3.7 る 好 3.6 意 評 3.5 定 3.4. いじめ. いじめ無群 いじめ有群. 4.08 3.97. 3.96 3.89 3.80. 3.88 3.79. 3.64. 愛(P). 学校(N). 死(Ng). いじめ. プライム刺激. 1000ms 10ms. Fig. 2 いじめ有無群別好意評定の平均値( N=39) 500ms. 2000ms. 本実験 好意評定. Fig. 1 一試行の流れ. 目的 いじめ有群において,心の傷に関する手がかり刺 激の提示によって,直後に提示する中性刺激に対する評 価がネガティブになるかどうかを検討する.. 仮説 いじめ有群,いじめ無群の両群においてニュート. 要因計画. ラル条件に比べてポジティブ条件において高い好意評定,. ム条件:いじめ,ポジティブ,ニュートラル,抽象的ネ. ネガティブ条件といじめ条件において低い評定になるが,. ガティブ,具体的ネガティブ,ブランク)であり,混合. いじめ条件においてはいじめ有群の方はいじめ無群より. 計画であった.. も顕著に評定が低くなる.. 被験者 大学生 96 人(すべて女性)のうち,プライム. 結果. 刺激に気付かなかった 71 人を分析の対象とした. 実験セ. 2(グループ:いじめ有,無)×6(プライ. いじめ有群,無群における好意評定の平均値を Table 3. ッション後に行った質問紙により,いじめ有無群を分類. に示す.いじめ経験(2)×プライム刺激(4)の 2 要. した結果,いじめ有群が 23 人といじめ無群が 48 人とな. 因の分散分析を行ったところ,いじめ経験とプライム刺. った.. 激の交互作用(F(3, 111)=3.01, p<.05)が有意であった.. 材料 1. プライム刺激 いじめワード,ポジティブワー. いじめ経験とプライム刺激の交互作用について単純主. ド,ニュートラルワード,抽象的ネガティブワード,具. 効果の検定を行った.その結果,いじめ有群におけるプ. 体的ネガティブワードの 6 種類であった.ポジティブワ. ラ イ ム 刺 激 の 効 果 が 有 意 で あ っ た ( F(3, 148)=3.90,. ード,ニュートラルワード,ネガティブワードは次のよ. p<.05).Tukey 法による多重比較を行ったところ,“愛. うに選んだ.はじめに,ポジティブ,ニュートラル,ネ. ”に比べて“いじめ(M=3.64, SD=.65) ” (M=4.08, SD=.42). ガティブな感情を喚起すると考えられた語をプールし,. の評定が有意に低かった(HSD=.36, p<.05) (Fig. 2) .. あわせて 20 語について,大学生及び大学院 15 名に「ど. →いじめ有群において,いじめワードの提示によって直. のくらい良いイメージもしくは悪いイメージをうける. 後の評定値が低くなり,仮設は支持された.しかし,い. か」を 7 件法(1: 「非常に悪いイメージ」∼7: 「非常. じめ無群においては affective priming効果が全く見られず,. に良いイメージ」)で評価してもらった.評定の平均値. いじめ有群においてもaffective priming効果は小さかった.. (Table 4)から「喜び」をポジティブワード, 「食器」 をニュートラルワード, 「悲しみ」 を抽象ネガティブワー. Table 3 いじめ有無群別好意評定の平均と標準偏差(N=39) プライム刺激 いじめ 学校 愛 死 いじめ無群(N=28) M 3.88 3.96 3.80 3.79 SD .52 .58 .54 .65 いじめ有群(N=11) M 3.64 3.89 4.08 3.97 SD .65 .47 .42 .54. ド, 「死体」を具体ネガティブワードとした.ネガティブ ワードを 2 種類にしたのは,具体的な言葉と抽象的な言 葉ではスキーマを活性化させる程度が異なるかどうかを 探索的に調べるためであった.さらに,本実験では,ブ ランク条件を加えた.妥当性を調べるために,t 検定に よって評定値を比較した結果, 「食器」 (ニュートラル).
(4) に比べて「喜び」(ポジティブ)が高く(t(14)=12.49,. 間に有意な差がみられた( HSD=.39, p<.01; HSD=.34,. p<.01) , 「いじめ」 (いじめ) (t(14)=12.49, p<.01) , 「悲. p<.05)(Fig. 3).. しみ」 (ネガティブ) (t(14)=9.454, p<.01) , 「死体」 (ネ. →いじめ有群において,いじめワードの提示によって直. ガティブ) (t(14)=17.83, p<.01)が低かったため,プラ. 後の評定値が低くなり,仮説は支持された.しかし,い. イム刺激は妥当なものであると考えられた.. じめ無群においては affective priming効果が全く見られず, いじめ有群においてもaffective priming効果は小さかった.. 条件 言葉 M SD. Table 4 プライム刺激の評定平均値(N=15) いじめワード ポジティブワード 抽象ネガティブワード 具体ネガティブワード ニュートラルワード いじめ 喜び 悲しみ 死体 食器 1.73 6.40 2.30 1.33 4.07 .59 .73 .87 .49 .26. 2. ターゲット刺激 予備実験で用いた 35 個のネパール. Table 6 いじめ有無群別好意評定の平均と標準偏差( N=71) プライム刺激 喜び ブランク 食器 悲しみ 死体 いじめ無群(N=48) M 3.38 3.41 3.33 3.39 3.35 SD .79 .74 .76 .78 .79 いじめ有群( N=23) M 3.94 3.76 3.88 3.64 3.56 SD .86 .64 .75 .75 .76. いじめ 3.45 .79 3.54 .82. 単語に 16 単語を加えた 52 個(そのうち 3 個は練習試行 用)を用いた.本試行に用いられた 48 個のターゲット刺. *・ ・・p<.01, * ・ ・・p<.05. **. 激のに対する評定の平均値を Table 5 に示す.. 4.1 タ ー 4.0 ゲ 3.9 ッ ト 3.8 刺 激 3.7 に 3.6 対. Table 5 ターゲット刺激についての評定(N=15) 質問項目 M SD Q1 熟知度 2.19 1.47 Q2 ポジティブさ 1.99 1.18 Q3 ネガティブさ 2.33 1.50 Q4 意味が分かるか 1.42 .88 Q5 好意評定 3.54 1.13. す 3.5 る 好 3.4 意 3.3 評 定 3.2 値 3.1. *. いじめ無群 いじめ有群. *. 3.94 3.88 3.76 3.64. 3.56. 3.38. 3.54 3.45. 3.41. 3.39 3.33. 3.35. 。. 喜び(P). ブランク(N). 食器(N). 悲しみ(Ng). 死体(Ng). いじめ. プライム刺激. Fig. 3 いじめ有無群別好意評定の平均値(N=71). 手続き 予備実験と同様であった. 仮説 いじめ有群,いじめ無群の両群においてニュート ラル条件に比べてポジティブ条件において高い好意評定, ネガティブ条件といじめ条件において低い評定になるが,. 考察 いじめ有群の被験者はいじめに関する心の傷スキーマ. いじめ条件においてはいじめ有群の方が無群よりもこの. を持っており,このスキーマの活性化によってネガティ. 効果が強く現れるだろう.. ブな感情が喚起された可能性が示唆された. この結果は,. 結果. 一般の人においても,心の傷となるような体験に基づい. いじめ有群,無群における好意評定の平均値を Table 6. た心の傷スキーマをもっている可能性を示唆するもので. に示す.いじめ経験(2)×プライム刺激(6)の 2 要因. あろう.とすれば,日常生活においても閾下で入力され. の分散分析を行ったところ,いじめ経験の主効果(F(1,. た手がかり刺激によって心の傷スキーマが活性化され,. 69)=1897.81, p<.05)が認められ,いじめ経験有群が無群. 例えば,対人関係場面などにおいて影響を及ぼしている. に比べて有意に高く好意評定を行っていた.また,いじ. かもしれない.. め 経 験 と プ ラ イ ム 刺 激 の 交 互 作 用 ( F(5, 345)=2.59,. p<.05)が認められた.. いじめ無群においては affective priming効果が全く見ら れず, いじめ有群においても効果は小さかった. これは,. いじめ経験とプライム刺激の交互作用について単純主. 本研究で用いた言葉によってスキーマを活性化させるこ. 効果の検定を行った.その結果,いじめ有群におけるプ. とが難しかったのかもしれないからかもしれない.閾下. ライム刺激の効果が有意であった( F(5, 414)=15.09,. での刺激呈示を用いるaffective primingのパラダイムを用. p<.01).Tukey 法による多重比較を行ったところ,“喜び. いた研究は少なく,その効果が得られていないものもあ. ”と“いじめ(M=3.54, SD=.82) ” , “喜 (M=3.94, SD=.86). り(Mayer & Merckelbach, 1999; 小川・鈴木, 1998),. ”と“死体(M=3.56, SD=.76) ” , “食 び(M=3.94, SD=.86). Affective priming パラダイムについては今後,追試や様々. ”と“いじめ(M=3.54, SD=.82) ”の 器(M=3.88, SD=.75). な条件を操作して実験を重ねることが必要であろう..
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