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成人期肢体不自由者から見た心理的自立と母親の関わりとの関連 [ PDF

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成人期肢体不自由者からみた心理的自立と母親の関わりとの関連

KEY WORD:成人期肢体不自由者 心理的自立 母子関係 介助 人間共生システム専攻 島田 乃梨子 Ⅰ.問題と目的 1)肢体不自由者における自立 わが国における障害者を取り巻く環境は,国際障 害者年(1981)を契機として,ノーマライゼーショ ンの理念の普及,バリアフリーの推進等により大き く変わり,それに伴う障害者観の変容を受けて,支 援・援助のあり方も改善されてきた。その中で,障 害者施策の動向は,障害のある人の「権利を宣言」 する段階から,より具体的に「社会参加」を保障す る段階へと変化してきた。わが国では,1993 年に「障 害者基本法」が制定され,ここでは「障害者の自立 と社会,経済,文化その他あらゆる分野への活動の 参加を促進する」ことが目的とされている。近年の 施策においては,2007 年の障害者自立支援法がある が,この法律は「障害者及び障害児がその有する能 力及び適性に応じ,自立した日常生活又は社会生活 を営むことができる」ように定められたものである。 障害者にとっても,重要な課題であり,問題である として,自立が社会に大きく取り上げられるように なってきたのである。 しかし,「自立」と一口に言っても,その意味や定 義,概念は様々であり,曖昧なままに使用されてい るという現状がある。自立に関しては様々な研究が なされているが,江口(1966)は自立を,「人間を信 頼し,誰とも暖かい関係を持ち,色々な人の行動や 反応に関心を持っており,特定の人によってすぐに 行動が左右される事なく最終的には自分自身で判断 が下せる」こととしており,自立は単に一人立ちし 自分のことは自分でできる状態となるだけでなく, 和を大事とする日本では特に,さらに他者との関係 の中で成り立つものであるとしている。つまり,自 立を依存行動の質的変化の一側面として位置づけて いるのである。その中でも,福島(1992)は,主に 心理面に焦点をあて,心理的自立を,個の確立であ る「精神的自立」と,他者との関係の確立に関する 「社会的自立」の 2 側面に分類し,心理的自立を考 える際に,自己確立や社会性,そして親子関係を含 む他者関係が大きなキーワードとなることを明らか にしている。 このような自立概念は,健常者だけでなく,肢体 不自由者にも用いることができると考えられる。以 前は健常者と同様に,介助を要する肢体不自由者の 自立において,「経済的自立」や「ADL の自立(身 辺自立)」が重視されてきたために,「自立すること」 は,「経済的独立」(=「一人前になる」)であり,「親 からの分離」(=「大人になること」)ととらえられ, それらが困難と思われる肢体不自由者は「自立でき ない人」としてみなされる傾向にあった。しかし, 肢体不自由者は,日常生活で介助者のケアを必要と するとしても,自分の人生や生活のあり方を自らの 責任において自己決定し,生活主体者として生きる 行為を「自立」ととらえ,その社会的保障を求めて きた(渡辺,2006)。その結果として,肢体不自由者 が親・家族と離れ,地域のなかで生活するために社 会的条件を整備されることが求められるようになり, 今日の日本においても,伝統的な施設処遇からの脱 却と地域生活支援への移行が図られてきている。 2)肢体不自由者にとっての介助と母子関係 だが,実際には,介助の担い手は,母親である場 合が多いと考えられる。土屋(1998)は,母親とそ の子どもである障害者の間には,"母親と子どもの間 の「愛情」や「思いやり」という気持ち"や"母親が子 どもを一体視する傾向"があり,これが子どもの「自 立」を妨げる要因となっているとも述べている。 このような問題は,身辺介助を必要とする場面が 多々ある肢体不自由者において特に顕著に現れると 考えられる。土屋(2000)は,介助を行う側(母親) と介助を受けとる側(子ども)の双方への聞きとり から,肢体不自由者と母親との介助関係において, 生まれた時から母親の介助を受けることにより,母 親による介助は子ども自身が身体を特定の人物に委 ねられるという意味で大きな安心感がある一方で,

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- 2 - 親の労力的・精神的負担,介助の必要性ゆえに生じ る力関係,身辺介助にまつわる摩擦,「家族(親・子) であれば~してくれるはず」という,さまざまな行 為の要求に起因する介助者が「家族」であるゆえの 摩擦,介助場面における<割り切れない>親子の関 係性などの問題を挙げ,親が介助を行う際の,親子 という文脈に強く規定されるために生じる摩擦の存 在を明らかにした。このことから、肢体不自由者に とって、強い母親と子の結びつきがあり、ここに肢 体不自由者独自の母子関係と心理的自立のプロセス があるのではないかと考えられるのである。 また,障害者はあくまでも支援されるべき対象で あるが,障害者本人の主体性を重視するような障害 者本人の意識を調査対象とした障害者主体の実証的 研究は少ない。加えて,成人期における親と障害者 の関係に関する発達的研究も少なく,親の関わりは 青年期以降の人格形成にも影響を与えると考えられ るが,その親の関わりが成人期の障害者にどのよう な影響を与えるのかは明らかにされていない。 3)本研究の目的 つまり,肢体不自由者においては,介助者という 関係を通して,成人期において,肢体不自由者自身 が,母親の関わりを不満・心配・溺愛的態度として 認知する傾向が強い場合,母親と子どもの間にある 距離の取り辛さや摩擦の存在のために,心理的自立 が損なわれてしまうのではないだろうか。また,そ の関係性を明らかにすることは,肢体不自由者の心 理的自立を促すための母親の関わり方という観点に おいて,意義のあるものであると考えられる。 以上の点を踏まえ,本研究では,成人期の肢体不 自由者の心理的自立の特性と母親の関わり認知の特 性を明らかにしていく。そして,介助者の現状,そ して,肢体不自由者自身の母親の関わり認知が,肢 体不自由者の心理的自立とどのような関連があるの かについて,調査・考察を行っていく。 2.方法 質問紙調査を行った。調査対象は,肢体不自由者 70 名(M:F=46:24,平均年齢 36.3 歳)。調査内容は, フェイスシート(性別,年齢,就労,居住形態,受 障年齢,主な介助者),心理的自立尺度,母親の関わ り認知尺度からなる。心理的自立尺度は,福島(1992) の心理的自立尺度より 24 項目抜粋(5 件法),母親の 関わり認知尺度は,田研式親子関係診断テストより 36 項目抜粋(4 件法)して用いた。 3.結果と考察 1)心理的自立・母親の関わり認知の構造 心理的自立尺度,母親の関わり認知尺度のそれぞ れにおいて,因子分析を行った。 心理的自立では,「自己確立」,「友人関係の確立」 「自他分離」の 3 因子が抽出された(表 1)。 表 1 心理的自立尺度の因子分析結果 心理的自立は,自己と他者関係に関するこれは, 尺度の元となった福島(1992)の心理的自立における 6 因子構造とは異なる。しかし,福島の心理的自立に 対する調査は,対象が青年期となっていたのに対し, 今回は成人期を対象とした調査を行ったため,構造 が変化したと考えられる。ここで見出された心理的 自立は,特に「自己確立」,「友人関係の確立」,「自 他分離」に着目すると,江口(1966)の言う,「人間 を信頼し,誰とも暖かい関係を持ち,色々な人の行 動や反応に関心を持っており,特定の人によってす ぐに行動が左右される事なく最終的には自分自身で 判断が下せる」状態にあてはめることができる。し かし,福島(1992)のいう,親子関係は含まれてお らず,肢体不自由者の心理的自立において,親子関 係における自立は,獲得されにくいものであること が示唆された。 母親の関わり認知では,「否定」,「過保護」,「干渉」 の 3 因子が抽出された(表 2)。

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- 3 - 表 2 母親の関わり認知尺度の因子分析結果 これは,母親の関わりを認知する際,アンビバレ ントな状態を表しているとも考えられ,先行研究で も 頻 繁 に 言 わ れ て い る こ と で あ る ( 木 船 , 深 田 1977;高ら 2001)。アンビバレントな状態であると 考えられる一方,その程度には様々なタイプがある ことが予想されるが,それは後の,母親の関わり認 知のタイプでの分類で考察していく。 2)母親の関わり認知タイプによる分類と心理的自立 との関連 平方ユークリッド距離を用いた Ward 法によるクラ スタ分析を行った。クラスタ分析では,母親の関わ り認知の 3 下位尺度得点の 3 変数を標準化した後に, 投入変数として扱い,その結果,3 クラスタを抽出し た。また,母親の関わり認知の 3 下位尺度得点の 3 変数を従属変数,各クラスタを要因として,投入変 数ごとでの各クラスタの平均値について,それぞれ 1 要因の分散分析を行った(表 9)。その結果,否定, 過保護,溺愛の全ての投入変数について有意な主効 果を示した(F[2,67]=16.15 p<.001,F[2,67]= 34.92 p<.001,F[2,67]=59.87 p<.001)。有意な 主効果を示したものは,Tukey 法により多重比較を行 った。 表 3 各クラスタでの各変数の平均と標準偏差 また,それぞれのクラスタの特徴をより捉えやす くするために,標準化した各クラスタの 3 つの投入 変数の平均値を求め,グラフで示した(図 1)。第 1 クラスタは,すべての変数において得点が低いため, 子どもに対する関わりが少ないと考えられることか ら,関与少程度群とした。第 2 クラスタは,すべて の変数において得点が高いため,子どもに対する関 わりが多いと考えられることから,過関与的態度群 とした。第 3 クラスタは,すべての変数において得 点がマイナスとなり,第 1 クラスタよりも子どもに 対する関わりが少ないと考えられることから,放任 的態度群とした。 図 1 クラスタ分析結果 次に,母親の関わり認知の各クラスタでの心理的 自立の各因子の獲得レベルについて検討するために, 心理的自立の 3 下位尺度得点を従属変数,各クラス タを独立変数として,各クラスタの心理的自立下位 尺度得点の平均値の差について,1 要因の分散分析を 行った。(図 2)。その結果,友人関係の確立の心理的 自立下位尺度において有意な主効果は見られなかっ た(F[2,67]=0.91 n.s.)。しかし,自他分離にお いて,1%水準で有意な差が見られ(F[2,67]=6.46 p<.01),多重比較の結果,関与少程度群<放任的態 度群,過関与的態度群<放任的態度群となった。

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- 4 - 図 2.各クラスタの心理的自立平均値の 1 要因の分散分析結果 これは,成人期を迎えてもなお,母親との関わり が多い場合,母親と自分とを分離させて考えるよう な,物理的機会が少なくなり,その結果,他者関係 を形成するにあたっても,分離させて考えることが 困難になると考えられる。このように,タイプの分 類で,そのような作用を明らかにすることができた と思われる。また,成人期肢体不自由者における, 母親との関わりの中で,放任的態度が認知されると, 友人関係という他者関係を通して,それぞれの心理 的自立を獲得していくことが示唆された。 3)他の要因と心理的自立尺度との関連 心理的自立の各因子の獲得レベルが母親の関わり 認知と性別・年代・障害程度・受傷年齢・居住形態・ 主な介助者などの要因によってどのように異なるの かについて検討するために,心理的自立の 3 下位尺 度得点を従属変数,性別・年代・障害程度・受傷年 齢・居住形態・主な介助者などの要因として,心理 的自立の下位尺度得点の平均値について,1 要因の分 散分析を行った。その結果,性別・年代・障害程度・ 受障年齢については,どれも有意な主効果は見られ なかった。しかし,就労・居住形態・同居者・主な 介助者の違いにおける,有意な主効果が見られた。 表 4 心理的自立下位尺度における就労別での各変数の平均と標 準偏差 表 5 心理的自立下位尺度における居住形態別での各変数の平均 と標準偏差 表 6 心理的自立下位尺度における同居者別での各変数の平均と 標準偏差 表 7 心理的自立下位尺度における主な介助者別での各変数の平 均と標準偏差 これより,成人期肢体不自由者における心理的自 立については,上記の要因には影響を受けやすいこ とが明らかになった。特に自己確立においては,様々 な要因と関連があり,就労や居住など,物理的機会 により,自己確立が促されるのではと考えられる。 引用文献 品川不二郎・品川孝子 1958 田研式親子関係診断テス ト手引 日本文化科学社 土屋葉 2002 障害者家族を生きる 勁草書房 渡辺顕一郎 2006 四国学院研究叢書 No.4 障害児の自 立を見すえた家族支援-家族生活教育を中心に- 中央 法規出版 江口恵子 1966 依存性の研究 教育心理学,14,45- 58. 木船憲幸・深田博己 1977 心身障害児の親子関係に関 する発達研究 福岡教育大学紀要,27,165-176. 高健・郷間英世・宮田広善・生澤雅夫 2001 発達障害 研究,22,308-316. 福島朋子 1992 思春期から成人にわたる心理的自立 -自立尺度の作成および発達的検討- 発達研究,8,67 -87. 渡邊惠子 1990 自立の概念化の試み 日本女子大学 紀要(人間社会学部),1,189-206

参照

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