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日本静脈経腸栄養学会雑誌 32(1): :2017 原著 シンバイオティクス併用ががん化学療法時の消化器症状に及ぼす効果 Effects of synbiotics administration for digestive system side effects in patients

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(1)

原著

日本静脈経腸栄養学会雑誌 32(1):865-870:2017

シンバイオティクス併用ががん化学療法時の消化器症状に及ぼす効果

Effects of synbiotics administration for digestive system side effects in patients treated with chemotherapy

関 恭子

1)

岸井加代子

1)

久永 文

2)

平手ゆかり

3)

長島 章

1)

的場是篤

4)

金丸太一

5)

神前雅彦

6)

三好真琴

6)

宇佐美眞

6)

Kyoko Seki1), Kayoko Kishii1), Aya Hisanaga2), Yukari Hirate3), Akira Nagashima1), Koreatu Matoba4), Taichi Kanamaru5), Masahiko Kanzaki6), Makoto Miyoshi6), Makoto Usami6)

神戸労災病院 薬剤部1) 栄養管理室2) 検査科3) 消化器科4) 姫路中央病院5) 神戸大学大学院保健学研究科病態代謝学6)

Department of Pharmacy1), Department of Nutrition2), Department of Clinical Laboratory3), Department of Gastroenterology4), Japan Labour Health and Welfare Organization, Kobe Rosai Hospital, Himeji Central Hospital5), Division of Nutrition and Metabolism, Department of Biophysics, Kobe University Graduate School of Health Sciences6)

要旨:【目的】がん化学療法施行時にシンバイオティクスを併用することで、消化器症状が軽減しさらにがん化学療法のコン

プライアンス保持に繋げられるのではないかと考え検討を行った。

【対象及び方法】肺、胃、大腸がん患者のうちがん化学療

法を行った患者を対象として、シンバイオティクス服用群9例と非服用群9例間で、消化器症状の発現頻度、がん化学療法

の減量および延期の有無、体重、エネルギーと栄養素摂取量、血中 DAO活性を比較した。

【結果】服用群では Grade2以

上の食欲不振の発現頻度が有意に低下した(

p

= 0.041)。服用群では、血中 DAO活性の低下が抑制され、コース終了

時の体重が維持され(

p

= 0.048)、がん化学療法の減量および延期症例が少なかった。

【結論】がん化学療法施行時にシ

ンバイオティクスを併用することは、食欲不振の軽減、体重の維持、がん化学療法時のコンプライアンス保持に有用である

と考えられた。

索引用語:がん化学療法、シンバイオティクス、消化器症状

受付日:2015年12月1日 採用決定日:2016年8月31日

目的

 我が国では悪性腫瘍に対して臓器別にガイドラインが作成

され、がん化学療法は、臓器・病期分類別に行われている

1)~4)

がん化学療法には克服すべき副作用がいくつかあるが、消

化器に関連した症状は最も頻度が高く、患者のquality of

lifeに大きく影響する

5)

。抗がん剤投与直後におこる急性の嘔

吐については、投与方法の工夫や新しい制吐薬の開発により

良好な結果が得られてきているが

1)6)

、悪心や食欲不振につ

いては十分コントールできているとはいえない状況である。ま

た、遅発性の下痢に対する有効な治療法はほとんどなく、止

寫薬に依存しているのが現状である。

 プロバイオティクスであるビフィズス菌や乳酸菌は、腸内

細菌叢を改善し、腸内環境を整える健康食品として知られ

ている。海外では、がん化学療法時の消化器症状を軽減

する目的で、大腸がん手術後の補助化学療法としてのフ

ルオロウラシル/ロイコボリン(以下、5-FU/LVと略)施行

時に、プロバイオティクスの併用が試みられ、重篤な下痢

が減少したと報告されている

7)

。また、オリゴ糖類や食物繊

維などをプレバイオティクスと呼び、田中らは、神経芽細胞

腫の患者にシクロホスファミドを投与する際、プレバイオティ

クスを併用することで血中diamine oxidase(以下、DAO

と略)活性の低下抑制と食欲不振や下痢が減少したこと

を報告している

8)

。プレバイオティクスには腸内のビフィズス

菌を選択的に増加させる作用が報告されており

9)

、プロバ

イオティクスと併用することで(シンバイオティクス)、プロバ

イオティクスの作用が増強すると考えられている。シンバイ

オティクスには、腸内有用菌の増加、感染症起因菌の増

殖抑制、短鎖脂肪酸濃度の増加、便pHの低下や感染

性合併症の発生率を低下させることが報告されている

10)

また、ナチュラルキラー細胞や総リンパ球数の上昇、炎症反

応の軽減など、免疫機能を高めることも報告されている

10)

さらに最近になって腸内細菌による食欲調節作用についても

報告がされている

11)

。しかし、がん化学療法施行時に、シン

バイオティクスの併用が試みられたのは我々の知る限り、食

道がんの術前補助化学療法だけであり、その消化器症状に

対する効果も下痢の改善に関する報告だけである

12)

。そこ

で、今回我々は、肺がん、胃がん、大腸がんのうちがん化学

療法を行った患者を対象とし、シンバイオティクスを併用するこ

とで、消化器症状が軽減し、さらにがん化学療法のコンプラ

(2)

イアンス保持に繋げられるのではないかと考え検討を行うこと

とした。主要評価項目は、消化器症状の発現頻度とし、副次

的評価項目は、がん化学療法の減量および延期の有無、エ

ネルギーと栄養素摂取量、理想体重比、血中DAO活性とし

た。DAOは、小腸粘膜の絨毛上部において高い活性を示し、

その役割としてポリアミン代謝を調節することで小腸粘膜上皮

の増殖を制御していると考えられており、腸管粘膜障害の指

標と考えられている

13)14)

対象及び方法

1.対象患者

 神戸労災病院において、2010年3月から11月の間に、がん

化学療法が施行された肺がん、胃がんおよび大腸がん患者

で、いずれも文書によるインフォームドコンセントの得られた18

例を対象とした。抗がん剤処方順に主治医の治療方針のもと、

シンバイオティクス服用群9例と非服用群9例に分けて比較を

行った。2例は術後補助化学療法、16例は進行・再発がん

に対する治療であった。なお、がん化学療法は、ガイドライン

に準じて行った

1)~4)6)

2.シンバイオティクス

 シンバイオティクスは、抗がん剤投与前日から開始し、1

日に1包×2回をコース終了時まで服用した。なお、シンバイ

オティクスとしてアイドゥ株式会社の商品名G fineを使用し

た。G fineは、1包中にプロバイオティクスとしてビフィズス菌

Bifidobacterium longum

BB536)50億個とプレバイオ

ティクスとして食物繊維(グアーガム分解物)5gを含有してい

15)~25)

3.調査内容

 性別、年齢、体表面積、Performance status(以下、PS

と略)、がん種(肺、胃、大腸)、レジメン、各薬剤の投与量お

よび治療期間について調査した。各レジメンの催吐性リスク

は制吐剤適正使用ガイドライン第1 版に準拠し評価した

6)

。ま

た、コースごとに消化器症状の出現頻度をNational Cancer

Institute Common Terminology Criteria for Adverse

Events(CTCAE) v3.0、日本語訳JCOG/JSCO版に準拠し

評価した。制吐剤の使用と六君子湯使用の有無について調

査した。がん化学療法のコンプライアンスについては、減量お

よび延期の有無について調査した。そして食事摂取量を食

事摂取頻度調査FFQgver3.5

®

を用いて調査し、体重当たり

のエネルギーと栄養素摂取量を算出した。体重は抗がん剤

投与直前とコース終了時に測定した。血中DAO活性は、抗

がん剤投与直前、直後、コース中およびコース終了時に、高

木法による酵素活性測定法にて測定を行った

26)27)

。なお血

中DAO活性は、個体による差が大きいため、抗がん剤投与

による変動を明らかにするために、抗がん剤投与直前の測

定値に対する比率で検討を行った。今回、

「投与直前」は抗

がん剤投与前日または当日、

「投与直後」は抗がん剤投与翌

日または翌々日、

「コース中」はDay7~9、

「コース終了時」は

Day21~23と定義した。

4.理想体重比算出方法

 理想体重から、理想体重比(以下、%IBWと略)を、算出

した。

%IBW(%)= 現体重(kg)/〔身長(m)〕

2

×22(kg)

×100

5.医学倫理に対する配慮の概要

 本研究を行うにあたり、

「ヘルシンキ宣言」および「臨床研

究のための倫理指針」を遵守して実施することを明記した研

究計画書を神戸労災病院倫理委員会に提出し、承認を得た

(承認番号:第21-3)。

6.統計処理

 値は平均値±標準偏差で示した。服用群と非服用群に分

け、患者背景、催吐性リスク、消化器症状の出現頻度および

がん化学療法の減量および延期の有無について群間比較を

行った。また体重当たりのエネルギーと栄養素摂取量、%IBW

および血中DAO活性については全データを合わせて群間比

較を行った。正規性がない場合はMann-Whitney’s U test

を用い、正規性がある場合は、等分散性の検定を行い、等

分散のときはStudent’s t-test、等分散でないときはWelch’s

testを用いた。また、頻度の比較には、Fisher’s exact test

を用いた。危険率0.05未満で有意差ありと判定した。

結果

1.患者背景

 服用群と非服用群の患者背景を表1に示した。性別、年齢、

PSおよびがん種とも両群間での差はなかった。施行されたレ

ジメンを表2に示した。また、各レジメンの催吐性リスクも表2

に示したが、両群間での差はなかった。

2.消化器症状の出現頻度

 服用群、非服用群で消化器症状についてGrade1以下と

Grade2以上とで比較を行った(表3)。嘔吐、下痢および便

秘の出現頻度に差はなかったが、食欲不振について、服用

群ではGrade2以上を認めなかったのに対し、非服用群では9

例中4例(44.4%)認め、服用群でGrade2以上の食欲不振が

有意に低下した(

p

= 0.041)。なお、制吐剤は全症例とも制

吐剤適正使用ガイドライン第1版に準拠し投与されており、六

君子湯を投与されている患者はいなかった。

(3)

全体 服用群 非服用群 p n=18 n=9 n=9 男 /女 12/6 5/4 7/2 0.310 年齢(歳) 67.7±9.5 64.3±10.5 71.0±7.4 0.140 PS(0/1/2/3) 14/3/1/0 7/1/1/0 7/2/0/0 1.000 がん種(肺 /胃 /大腸) 10/2/6 5/1/3 5/1/3 1.000 補助化学療法 /進行再発 2/16 1/8 1/8 1.000 表1 患者背景

年齢は Student’s t-test 、その他は Fisher’s exact testを用いた PS, Performance Status

がん種 服用群 非服用群

レジメン名 催吐性リスク 症例数 (例) レジメン名 催吐性リスク 症例数 (例)

肺がん CDDP/DTXa) 1 CBDCA/DTXa) 2

CPT-11a) 1 CBDCA/PTXa) 1

DTXa) 1 DTXa) 1

PEMa) 2 VNRa) 最小 1

胃がん S-1/CDDPb) 1 S-1b) 1

大腸がん CPT-11/Cmaba) 1 FOLFIRI/BVb) 1

SOXb) 1 XELOX/BVb) 2 XELOXb) 1 表2 施行レジメン Mann-Whitney’s U test, p=0.461  a):フッ化ピリミジン系抗がん剤を含まないレジメン b):フッ化ピリミジン系抗がん剤を含むレジメン 高:高度リスク、中:中等度リスク、軽:軽度リスク、最小:最小度リスク BV:ベバシズマブ、CBDCA:カルボプラチン、CDDP:シスプラチン、Cmab:セツキシマブ、CPT-11:イリノ テカン塩酸塩、DTX:ドセタキセル、FOLFIRI:infusional フルオロウラシル/ロイコボリン+ CPT-11、l-OHP: オキサリプラチン、PEM:ペメトレキセドナトリウム水和物、PTX:パクリタキセル、S-1:テガフール・ギメラシル・ オテラシルカリウム、SOX:S-1+ l-OHP、VNR:ビノレルビン酒石酸塩、XELOX:カペシタビン + l-OHP CDDP/DTX:CDDP 80 mg/m2(d1),DTX 60 mg/m2(d1),q3w,3コ ー ス,CBDCA/DTX:CBDCA (AUC6)(d1),DTX 60 mg/m2(d1),q3w,1コ ー ス,CBDCA/DTX:CBDCA(AUC6)(d1),DTX 60 mg/m2(d1),q3w,3コース,CPT-11:100 mg/m2(d1,8,15),q4w,2コース,CBDCA/PTX:CBDCA (AUC6)(d1),PTX 200 mg/m2(d1),q3w,2コース,DTX:60 mg/m2(d1),q3w,2コース,DTX:60 mg/m2(d1),q3w,2コース,PEM:500 mg/m2(d1),q3w,1コース,PEM:500 mg/m2(d1),q3w,1 コース,VNR:25 mg/m2(d1,8),q3w,2コース,S-1/CDDP:S-1 80 mg/m2/day(d1-21),CDDP 60 mg/m2(d8),q5w,1コース,S-1:S-1 80 mg/m2 /day(d1-28),q6w,1コース,CPT-11/Cmab:CPT-11 150 mg/m2(d1,15,29),Cmab 400 mg/m2(d1)250 mg/m2(d8,15,22,29,36,43),q7w,1 コース,FOLFIRI/BV:l-LV 200 mg/m2(d1),CPT-11 150 mg/m2(d1),5-FU bolus 400 mg/m2(d1), 5-FU ci 2,400 mg/m2/46h(d1),BV 5 mg/kg(d1),q2w,4コース,SOX:S-1 80 mg/m2 /day(d1-14),l-OHP 130 mg/m2(d1),q3w,1コース,XELOX/BV:カペシタビン 2,000 mg/m2/day(d1-14), l-OHP 130 mg/m2(d1),BV 7.5 mg/kg(d1),q3w,6コース,XELOX/BV:カペシタビン 2,000 mg/ m2/day(d1-14),l-OHP 130 mg/m2(d1),BV 7.5 mg/kg(d1),q3w,3コース,XELOX:カペシタビン 2,000 mg/m2/day(d1-14),l-OHP 130 mg/m2(d1),q3w,8コース 服用群 非服用群 p n=9 n=9 食欲不振 Grade 1以下 9(100%) 5(55.6%) 0.041 Grade 2以上 0(0%) 4(44.4%) 嘔吐 Grade 1以下 9(100%) 7(77.8%) 0.235 Grade 2以上 0(0%) 2(22.2%) 下痢 Grade 1以下 7(77.8%) 8(88.9%) 0.500 Grade 2以上 2(22.2%) 1(11.1%) 便秘 Grade 1以下 9(100%) 9(100%) 1.000 Grade 2以上 0(0%) 0(0%) 表3 消化器症状の出現頻度 Fisher’s exact test

服用群 非服用群 p n=7 n=7 減量および延期 有 2(28.6%) 6(85.7%) 0.051 減量および延期 無 5(71.4%) 1(14.3%) 表4 がん化学療法のコンプライアンス Fisher’s exact test 1コースのみの患者は除いた

3.

がん化学療法の

コンプライアンス

 減量および延期した症例は、服

用群で2例(28.6%)、非服用群で6

例(85.7%)認め、服用群で少ない

傾向であった(

p

= 0.051)

(表4)。

4.エネルギーと栄養素摂取量

および理想体重比

 中心静脈栄養法や経腸栄養法

にて栄養を投与されている症例は

なく、全症例、経口により栄養を摂

取していた。体重当たりのエネル

ギー、たんぱく質、脂質および炭

水化物の摂取量とも、両群間での

差はなかった(表5)。非服用群は、

コース終了時の%IBWが直前に

比べ低下していたが、服用群では

維持されていた(

p

= 0.048)

(表6)。

5.血中 DAO活性(前値比)

 服用群は非服用群に比べて、

コース終了時の血中DAO活性

の低下が抑制される傾向であった

p

= 0.058)

(表7)。

考察

 シンバイオティクスには、腸内

細菌叢の改善、排便回数の改善、

便性状の改善、免疫調節作用、

栄養状態の改善、体重の増加

等が報告されている

10)15)~25)28)29)

ビフィズス菌(

Bifidobacterium

longum

BB536)は、特定保健用

食品として認められヨーグルトや

飲料等としてすでに発売されてお

り、20億個以上の摂取により排便

回数の増加、便性状の改善や腸

内細菌叢の改善等が報告されて

いる

15)~18)

。またグアーガム分解物

も特定保健用食品として認めら

れすでに発売されており、5g以上

の摂取により下痢の改善や血清

DAO活性の上昇等が報告されて

いる

8)22)24)~25)

。そこで、今回我々

は、1包にプロバイオティクスとし

(4)

服用群 非服用群 p n=9 n=9 エネルギー(kcal/kg) 21.72±5.98  23.15±10.84 0.989 たんぱく質(g/kg) 0.85±0.24 0.86±0.42 0.838 脂質(g/kg) 0.63±0.25 0.64±0.39 0.624 炭水化物(g/kg) 3.14±0.85 3.55±1.51 0.415 表5 エネルギーと栄養素摂取量 Mann-Whitney’s U test 18例中、服用群は完遂した20コース、非服用群は完遂した24コースの結果 服用群 非服用群 p n=9 n=9 % IBW 直前 97.11±14.68 90.46±17.94 0.149 コース終了時 97.42±14.31 85.89±17.86 0.048 表6 理想体重比 Mann-Whitney’s U test 18例中、服用群は完遂した20コース、非服用群は完遂した24コースの結果 %IBW, ideal body weight

服用群 非服用群 p n=9 n=9 全データ 直後 1.01±0.27 1.21±0.51 0.311 コース中 1.15±0.43 1.00±0.42 0.208 コース終了時 1.03±0.19 0.92±0.26 0.058 表7 血中 DAO活性(前値比)

直後は Student’s t-test 、その他は Mann-Whitney’s U testを用いた

18例中、服用群は完遂した20コース、非服用群は完遂した24コースの結果 DAO, diamine oxidase

てビフィズス菌(

Bifidobacterium

longum

BB536)50億個とプレバ

イオティクスとしてグアーガム分解

物5gを含有し、両者を一度に摂

取することができる商品名G fine

を使用し検討を行った。

 消化器症状については、Grade

1以下であれば症状がある場合も

軽症でありがん化学療法を継続

するうえで大きな問題になることは

少ないが、Grade2以上では中等

度以上の症状を呈し、その治療を

要するとともに日常生活動作の制

限を受ける場合があり、がん化学

療法の継続に大きな影響を及ぼし

かねないため、今回はGrade1以

下とGrade2以上の2群に分け検

討を行った。両群間で、嘔吐、下

痢および便秘の出現頻度に差は

認めなかった。Osterlundらは、

大腸がんの術後補助化学療法と

して5-FU/LV施行時に、プロバイオティクスを併用すること

で、重篤な下痢が減少したと報告しているが

7)

、我々の研究

では両群に差はなかった。その要因として、本研究では、重

篤な下痢を呈した症例がほとんどいなかったこと、投与期間

中に乳酸菌製剤の使用は不可としたが、それ以外の薬剤使

用について制限しなかったことから薬剤投与による影響も除

外出来ないと考えられた。他方、食欲不振については、服用

群でGrade2以上の食欲不振が、非服用群に比べて低下す

る結果となった。近年、腸内細菌による食欲調節作用

11)

短鎖脂肪酸のエネルギー恒常性維持機構

30)

について報告さ

れている。三好らは、腸内分泌細胞が栄養素を感知し、腸

管ペプチドを分泌しそれらが腸脳相関シグナルとして求心性

迷走神経を介して脳に伝えられ食欲を調節すると報告してい

11)

。また、食物繊維など難消化性食物の分解産物である

酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸は、腸内細菌の

主要代謝産物であり、シンバイオティクス投与によって増加す

ることが報告されている

10)12)28)

。短鎖脂肪酸は、大腸粘膜上

皮細胞の主要なエネルギー基質であり、大腸粘膜の血流増

加、大腸粘膜の水・電解質吸収促進、自律神経系刺激、消

化管ホルモン分泌などの多様な生理作用を有することが報

告されている

11)

。木村らは、短鎖脂肪酸は、細胞膜上受容

体であるGPR41を活性化し、摂食時は交感神経刺激へ、飢

餓・絶食時は交感神経抑制へと生体内のエネルギー状態を

認識してエネルギーバランスを調節すると報告している

30)

。今

回、服用群でGrade2以上の食欲不振が非服用群に比べて

少なかった詳細な要因は今後の検討課題であるが、腸脳相

関システムによる食欲調節作用や短鎖脂肪酸のもつエネル

ギー恒常性維持機構による調節がその一因である可能性が

考えられる。

 両群間で体重当たりのエネルギー、たんぱく質、脂質お

よび炭水化物の摂取量に有意差を認めなかったにも関わら

ず、%IBWは服用群で維持されており、血中DAO活性の低

下は抑制される傾向を認めた。これはシンバイオティクス投与

により産生された短鎖脂肪酸の働きで絨毛の伸長や運動性

が改善され、摂取栄養物の吸収が非投与群に比べて高くな

ることで、その結果%IBWの維持に繋がったと考えている。ま

た、青山らは、胃がんの術後補助化学療法におけるTS-1

投与継続について検討を行い、体重が減少した症例では治

療途中での投与の中止割合が有意に高かったとことを明らか

にし、がん化学療法を継続するために体重を維持することが

重要であることを報告している

31)

。我々の研究でも、%IBWが

維持された服用群では、がん化学療法の減量および延期し

た症例が少ない傾向を示し、シンバイオティクスはがん化学療

法のコンプライアンス保持に有用である可能性が示唆された。

結論

 がん化学療法時にシンバイオティクスを併用することにより、

食欲不振が軽減され、血中DAO活性の低下は抑制される

傾向を認め、%IBWは維持された。シンバイオティクスはがん

化学療法時のコンプライアンス保持に有用である可能性が示

唆された。

(5)

謝辞

 本研究は、平成22年度日本静脈経腸栄養学会研究助成

金の助成を受けて行ったものであり、ここに感謝の意を表明

する。

 本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献 1) 日本癌治療学会 HP. がん診療ガイドライン.http://www.jsco-cpg.jp/top.html 2) 日本肺癌学会 HP. 肺癌診療ガイドライン.http://www.haigan. gr.jp/modules/guideline/index.php?content_id=3 3) 日本胃癌学会 HP. 胃癌治療ガイドライン.http://www.jgca.jp/ guideline.html 4) 大腸癌研究会 HP. 大腸癌治療ガイドライン.http://www.jsccr. jp/guideline/index.html

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(6)

Effects of synbiotics administration for digestive

system side effects in patients treated with chemotherapy

Kyoko Seki

1)

Kayoko Kishii

1)

Aya Hisanaga

2)

Yukari Hirate

3)

Akira Nagashima

1)

Koreatu Matoba

4)

Taichi Kanamaru

5)

Masahiko Kanzaki

6)

Makoto Miyoshi

6)

Makoto Usami

6)

Department of Pharmacy1), Department of Nutrition2), Department of Clinical Laboratory3), Department of Gastroenterology4),

Japan Labour Health and Welfare Organization, Kobe Rosai Hospital, Himeji Central Hospital5), Division of Nutrition and Metabolism,

Department of Biophysics, Kobe University Graduate School of Health Sciences6)

The aim of this study was to evaluate the effect of synbiotics administration for digestive system side

effects in patients treated with chemotherapy.

Eighteen patients with primary lung, gastric, and colon cancer treated with chemotherapy were allocated to

the two groups; one group (9 patients) received synbiotics before and during chemotherapy, and the other

(9 patients) did not. The frequency of digestive symptoms, compliance with chemotherapy, weight, dietary

intake and plasma diamine oxidase (DAO) activity were assessed.

Patients in the synbiotics group showed less in anorexia (grade 2 or higher,

p

= 0.041). Furthermore,

decrease in DAO activity was less, body weight was maintained(

p

= 0.048) and chemotherapy dosage was

kept in the synbiotics group.

In conclusion, synbiotics administration in patients treated with chemotherapy may be less in anorexia and

maintain ideal body weight as well as compliance with chemotherapy.

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, Kanazawa University Hospital 13-1 Takara-machi, Kanazawa 920-8641, Japan *2 Clinical Trial Control Center , Kanazawa University Hospital *3 Division of Pharmacy and Health Science

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* Department of Mathematical Science, School of Fundamental Science and Engineering, Waseda University, 3‐4‐1 Okubo, Shinjuku, Tokyo 169‐8555, Japan... \mathrm{e}