「気づき」に着目して
著者 榎本 眞実
雑誌名 東京家政大学教員養成教育推進室年報
巻 4
ページ 47‑56
発行年 2017‑11‑01
出版者 東京家政大学教員養成教育推進室
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010128/
学生が感じる実習記録の困難さに関する一考察
-「気づき」に着目して-
A Discussion on Difficulties of Practical Training Recording Felt by Students - With A Focus on “Awareness”-
保育科 榎本 眞実
1.目的と問題の所存
本研究の目的は、幼稚園教育実習の実習記録における「気づき」に着目し、教育実習事前事後指導の手 がかりを得ることである。本研究では「気づき」を「幼児や教師、実習生である自分自身の言動について 気づいたことや考察したこと」とする。
(1)実習記録の意義と問題の所存
幼稚園教育実習(以下、教育実習とする)では、学生に日々の実習記録を課す。実習記録の意義は、次 の3点に整理することができる。1.流されてしまいがちな日常的な体験を書き記すことで学びの内容と して定着する。その結果「そのとき」ならではの体験をつかみとり、新たな目標、課題を設定できる 2.担当教師との対話の手がかりとなる 3.教師の保育を記録することで自らの部分実習・責任実習に 備える の3点1)である。教育実習事前授業(以下、事前授業とする)においてこれらのことを伝える ことで、学生はその意義を概ね理解する。
しかし、問題として浮かび上がることは学生が感じる困難さの大きさである。本研究において、困難さ とは単に「難しさ」だけに留まらず「不安感・負担感・義務感・嫌悪感」等を含むこととする2)。教育実 習終了後に実習記録について話を聞くと、「3時間から4時間かかる」と話す学生が多く、場合によって は5時間以上ということも珍しくない。時間のかかる理由は学生によって様々ではあるが、よく聞くこと として「気づき」を負担に感じ、嫌悪する様子である。「気づき」とは、前述の通り、幼児や教師、自分 自身の言動について気づいたことや考察したことであるが、具体的には「見たままを書くことはできるけ れど、『気づき』が書けない」「『気づき』を書こうとすると面倒だし嫌」「手が止まってしまって時間がか かる」「考えなくてはならない」「気づきを後から書き込めるようにしておいて、とにかく先に書き進める ようにしていた」等である。
当然のことながら、事前授業では記録のポイントや書き方等の指導をし、要する時間の短縮も図ってい る。特に、「気づき」については、表面的な見たままの記録ではなく、自分自身がそのことがらを見て何 に気づいたのか、どのように感じたのかを振り返り言葉に表すこと、その意味を探り考察することの重要 さを説明している。その際、教師の援助や環境構成に留まらず、幼児理解に気づきや考察が及ぶように授 業を展開している。保育には幼児理解が不可欠であり、“幼児理解に始まり幼児理解に終わる”とまで言 われているからである。『幼稚園教育要領解説』3)にも、「幼児と共によりよい教育環境を創造すること」4)
が求められる幼稚園教育において、「教師には日々の幼児の生活する姿をとらえることが求められる。教 師は、幼児が何に関心を抱いているのか、何に意欲的に取り組んでいるのか、あるいは取り組もうとして いるのか、何に行き詰まっているのかなどをとらえる必要があり、そのとらえた姿から、幼児の生活や発 達を見通して指導の計画を立てることになる。」5)とある。そこで、学生が一人一人の幼児の心に思いを 寄せることができるよう授業の工夫をしているところである。
このように、教育実習がより豊かな学びとなるように「気づき」を推奨しているが、当の学生にとって
は、これが大きな困難さにつながることが浮上する。前述のように、実習記録にあまりに時間がかかるこ とが続くと、中には実習記録の提出が滞り、結果として実習の継続ができないことも起こる。提出の滞り までいかなくても、「気づき」の極端に少ない記録や取捨選択のできない詳細すぎる記録となり、いずれ にしても学びにつながりにくい。そこで、学生の困難さの一因である「気づき」に着目したいと考えたの である。
(2)実習記録における「気づき」
ここで、実習記録の内容について説明する。内容は、概ね次の3点、1.一日の時系列の記録 2.そ の日の保育における印象的なエピソ-ド記録 3.一日の振り返り で構成される。「気づき」はどの内容 にも含まれるが、本研究では、一日の時系列記録における「気づき」に着目する。なぜなら、エピソ-ド 記録は実習園によっては書かないことがあり、一日の振り返りは簡単に書き終わる学生が散見される。こ れらと比較すると、一日の時系列記録はほとんどの学生が書く記録であり、一定の量もあり困難さが大き いと考えられるからである。
以下に、例としてある学生の一日の時系列記録の一部を掲載する。
2
このように、教育実習がより豊かな学びとなるように「気づき」を推奨しているが、当の学生にとっては、
これが大きな困難さにつながることが浮上する。前述のように、実習記録にあまりに時間がかかることが続く と、中には実習記録の提出が滞り、結果として実習の継続ができないことも起こる。提出の滞りまでいかなく ても、「気づき」の極端に少ない記録や取捨選択のできない詳細すぎる記録となり、いずれにしても学びにつ ながりにくい。そこで、学生の困難さの一因である「気づき」に着目したいと考えたのである。
(2)実習記録における「気づき」
ここで、実習記録の内容について説明する。内容は、概ね次の 3 点、1.一日の時系列の記録 2.その日の保 育における印象的なエピソ-ド記録 3.一日の振り返り で構成される。「気づき」はどの内容にも含まれる が、本研究では、一日の時系列記録における「気づき」に着目する。なぜなら、エピソ-ド記録は実習園によ っては書かないことがあり、一日の振り返りは簡単に書き終わる学生が散見される。これらと比較すると、一 日の時系列記録はほとんどの学生が書く記録であり、一定の量もあり困難さが大きいと考えられるからであ る。
以下に、例としてある学生の一日の時系列記録の一部を掲載する。
時間 幼児の活動
大項目は○、小項目は・で表す 教師の援助・環境構成 実習生の動き・気づき
「動き」は・、「気づき」は★で表す 8:00
9:45
○順次登園する
・挨拶をする
・身支度をする
・教師に次々に話しかける
○自由に遊ぶ
・絵を描く
・粘土で遊ぶ
・絵本を読む
〇片づけを始める
(以下 省略)
・保育室で幼児を迎え、会話をしなが ら過ごす。
・今日することを確認しながらも、朝 一番に登園した S ちゃんの話に一つ 一つ応える。
・幼児の言葉に応じ、見せる絵にきち んと目を向け、受け止め、褒める言葉 をかける。
・片づけを促す放送を流す。
・手洗いを促す。
(以下 省略)
・保育室で幼児を迎える。
★教師に笑顔で迎えられることで安 心感や楽しみな気持ちをもって園生 活を始められるのだと実感した。
★朝一番に登園し、教師と一対一で 関わることは嬉しいのだろうと思っ た。
・子どもの名前を呼びながら挨拶を する。
・朝の仕度の様子を見守る。
・幼児と一緒に遊びながら、保育室の 様子を見る。
★多くの幼児と関わる機会を考え、
同じ幼児とばかり遊ばないように気 を付けた。その結果、慣れてきたこと もあるだろうが幼児から話しかけら れることが増えたように感じた。
★自分が描いた絵を教師に見て欲し いという気持ちが見えた。その気持 ちを受けとめ、褒めることで幼児の 満足感や自身、意欲につながると感 じた。
(以下 省略)
一日の時系列記録における「気づき」の項目は、例示のように「実習生の動き・気づき」として幼稚園 教育実習の記録において広く用いられている。筆者が入手した実習記録についてのテキスト8冊中7冊が この項目を設けている。ちなみに、残りの一冊は「実習生の動き・気づき」ではなく「考察」としていた。
「気づき」の説明としては、「気づいたことなども記入するとよい」6)、「自分なりの気づきがあれば記録 し、実習指導に生かしましょう」7)というシンプルなものから、「実習生自身が気づいたこと、感じたこ とをありのままに記述していけばよいのだが、ただ言われたとおりにやっていれば時間がすぎていくなど と考えていると、この欄には何も浮かんでこない。どうか、自分の考えや疑問がわき起こってくるように 積極的に取り組んでほしい」8)、「日誌が日々の出来事の羅列だけに終わらないようにするためには、この 欄に、その時々で実習生が心掛けたことや、感じたことを自分の言葉で書くことが重要です」9)と、さら に説明を加えたものもある。そして、「考察」に言及しているものもある。一つは「気づいたこと、考え たことを子どもの活動に沿って記入します」10)であり、もう一つは「子どもと関わったり、保育者を補助 したりという実習生の動きについてや、子ども同士の関わりや保育者の援助、環境構成などを観察した中 で気づいたこと、感じたこと、考えたことを記入していきます。この欄を記入する上で気をつけなければ いけないのは、ただの行動記録や感想文にしないということです。自分の行動を時系列に従って羅列す る、あるいは自分の感想に終始するのではなく、保育者としての考察を加えながら記入しましょう。」11)
である。これらを鑑みて、本研究では「気づき」を前述のように「気づいたことや考察したこと」とする。
ここで、なぜ1冊のテキストに見られたように一般的な「考察」という文言にしないのか、という問い が生じる。学生にとって「気づき」とした方が書きやすいということもあるだろうが、重要なことは、考 察までのプロセスを大切にしているからだと考える。学生が、「えっ ?」「あっ !」「どうして?」「おもしろい!」
「なるほど!」と気づく瞬間は幼児の傍らに身をおき共に生活をするからであり、学生の心が動く貴重な瞬 間と考える。幼児と教師の出会い、幼児と実習生との出会い、幼児同士の出会い、幼児と環境の出会いか ら様々なことが次から次へと生じる保育の臨場感を自分自身で感じ、自らの心の動きを自覚し、そこから 考察を進めるプロセスを大切にして欲しいと考えたうえでの文言と言えよう。
あらためて、例示した学生の「気づき」を見てみる。まず、朝の幼児と教師のひとときに着目していて る。そして、「保育室で幼児を迎える」という自分自身の動きの記述に留まらず、「保育者に笑顔で迎えら れることで安心感や楽しみな気持ちをもって園生活を始められるのだと実感した」という「気づき」が書 かれている。学生によっては見逃してしまうかもしれない幼児の表情や仕草に気づき、そこから幼児の気 持ちや意味を考察していることが分かる。また、幼児が自分の書いた絵を教師に見せている場面にも着目 している。教師がそれを受け止め、褒めていることを「自分で作った物を教師に見て欲しいという気持ち が見えた。その気持ちを受けとめ、褒めることで幼児の満足感や自身、意欲につながると感じた」と気づ き、考察している。幼児の見て欲しい気持ち、褒められて嬉しい様子に気づくからこそ、考察につながっ ているのである。
しかしながら、4時間から5時間にわたる一日の時系列記録をこのレベルで日々書くことに困難さが伴 うことは容易に想像できる。では、学生たちは10日間の教育実習中、どのように「気づき」に向かい合っ ているのだろうか。そこで本稿では、学生が実習中にどのように「気づき」と向かい合うかを明らかにす る。このことにより、事前事後授業において指導の手がかりを得られると考える。
2.研究方法
A大学4年生の一クラス(31名)の事後授業で実習記録を返却し、「気づき」をよく書くことのできた 一日を各自で選択させる。よく書くことができた日を選択させた理由は、肯定的に振り返りをすることで 学びにつながりやすいと考えたからである。そのうえで、「振り返りシ-ト」を配布する。内容は次の2 点である。
①どうしてその日の「気づき」が多かったのか ②「気づき」にはどのような意味があったか
本研究では、この「振り返りシ-ト」の内容を分析・考察する。学生の記述内容から同様のものをまと めてカウントし表にまとめる。なお、学生によっては記述に複数の内容が含まれる場合があり、これにつ いてはそれぞれの内容に振り分けることとする。
なお、学生には研究の目的や方法等を文書と共に説明し承諾を得る。また、学生の在席年度や個人名、
実習園名を特定できないよう処理することで倫理的配慮を行う。
3.結果
(1)どうしてその日の「気づき」が多かったのか
記述式による学生31名の回答(複数回答5名) 回答数
①
部分実習や一日実習に関連して
部分実習や一日実習が近かったから 4 部分実習や一日実習の当日だったから 6 部分実習や一日実習の翌日だったから 3 13
②「気づき」を書くことをその日の実習目標にしたから 6
③ その日に行事があったから 4
④ 担当教師から「気づき」を書くように指導を受けたから 3
⑤ 保育の流れを把握したから 2
⑥ 保育の観察に徹底したから 2
⑦ 幼児理解が進んだから 2
⑧ 幼児とじっくり関わったから 2
⑨ 実習の初日だったから 1
⑩ 実習の最終日だったから 1
(2)「気づき」にはどのような意味があったか 記述式による学生31名の答え
(複数回答16名・無記入1名) 回答数
① 深く考える時間となる 14
② 翌日以降の実践に活かせる 9
③ 指導案作成や部分・一日実習に活かせる 8
④ 状況を思い出し再確認することができる 7
⑤ 担当教師との対話につながる 4
⑥ さらに新たな気づきにつながる 2
⑦ 意味を考えながら参加できる 2
4 . 分析・考察
二つの質問事項について記述された回答をそれぞれ分析・考察することとする。
(1)どうしてその日の「気づき」が多かったのか
①部分実習や一日実習に関連して
教育実習における「部分実習」とは、たとえば絵本を読む・歌唱指導・製作や描画の指導などの一日の 保育の中のある部分の実習のことを言い、「一日実習」とは、登園から降園までの一日を教師の代わりに
実習することを言う。以下、これらを総合して「部分・一日実習」と称すこととする。「気づき」をよく 書いた理由として、「部分・一日実習が近かったから」「部分・一日実習の当日だったから」「部分・一日 実習の翌日だったから」と、自らの部分・一日実習に関連することを半数近くの14人の学生が記述して いる。「近かったから」ということは、部分・一日実習を自らの課題とし、教師の援助、環境構成や幼か ら積極的に学ぼうとする姿勢が「気づき」となると考えられる。また、「当日だったから」ということは、
指導計画を立案し実践したからこそであり、省察と言える。さらに、「翌日だったから」は、あらためて 教師の保育を見ることで自分の保育と比較をしていることであり、PDCAサイクルが生成されていたと考 えられる。
ちなみに、これらの「気づき」の内容としては、教師の援助や環境構成が多いと言える。振り返りシ-
トの2点目の問いである「『気づき』にはどのような意味があったか」に対し、「指導案作成や部分・一日 実習に活かせる」という答えが多いからである。
一方、部分・一日実習にとらわれていると考えることもできる。つまり、日々の営みとしての幼児や保 育への興味や理解、一人一人の幼児が様々なことに出会うことから生じるドラマに気づいて考察すること が困難である一面も浮上する。しかしながら、今回の研究対象は2回目の教育実習後の4年生、すなわち、
部分・一日実習を課せられている学生であることから、実習初日よりそのことを意識せざるを得ない状況 と言えよう。
そうであるとすると、たとえば初めての教育実習、すなわち部分・一日実習を課せられないことの多い 学生にとっては一番多い回答が違ってくるということである。この辺りは、今後の課題として検討を続け たいと考える。
②その日の実習目標にしたから・担当教師からの指導を受けて 2点目、4点目を合わせて考察をすることとする。
「その日の実習目標にしたから」ということは、前日に不明なこと、たとえば「片づけの際の教師の指 示に着目する」「弁当時の幼児の様子から学ぶ」等を翌日の目標にし、気づくことができたと書かれている。
これは省察からの連続性が成立し、自ら課題を見いだし行動していることである。また、「目標」という 明確な視点があることで学生の注意が散漫にならずに気づきやすいことも明確になった。
「担当教師からの指導を受けて」については、担当教師から「『気づき』を書きましょう」という直接的 なご指導があったということである。学生にとって「気づき」の記述は困難であるし、事前授業で指導を 受けたとはいえ「書かずに済めば」と考えることは否めない。しかし、担当教師が指導することで学生が
「気づき」に取り組まざるを得ないことが明確になった。担当教師の指導が具体的であることもあるが、
実習中は翌日に行動せざるを得ないと考える。実習園の先生方のご指導の力を実感すると共に、より連携 をすることで、学生の学びが深まる可能性があると言えよう。
一方、やはり自らの行為として気づいていくこと、日々の日常としての営みとしての保育への興味や一 人一人の幼児への気づきが困難であることも考えられる。
③行事があったから
これは、その日に行事、たとえば誕生会、体操の外部講師が来園しての体操指導、遠足などがあること で気づくことが多かったと考えられる。その行事の意味や進め方など、学生にとっては初めてのことであ るし、気づきやすい類と言えよう。
⑤一日の流れを確認したから
学生にとって、「気づき」を書こうとしてもあまりに保育の流れが分からないままだと、落ち着いて一 つ一つのことがらをとらえる余裕がないことが考えられる。
⑥観察に徹底したから
観察には、通常の観察と子どもと関わりながら理解を深める参与観察がある。学生にとっては観察に徹
底することで客観的に記録し、気づきやすいという一面が明らかになった。一方、参与観察のように幼児 と関わる自分自身やその状況を客観的に振り返ることが困難であることも考えられる。
⑦幼児理解が進んだから・幼児とじっくり関わったから
7点目、8点目を合わせて考察をする。なぜこの二つを一緒に考察するかというと、共通項として教師 が「気づき」が深まる際の理由としてあげるのではないかと考えるからである。教師は、当然のことなが ら学級全体の指導をするだけではなく、一人一人の幼児への理解を深め、信頼関係を築き、必要に応じて 指導をする。しかし、理解や関わり方が難しいと感じる幼児に出会うこともある。その際、多くの教師が その幼児とじっくり関わる機会を設ける。関わりながら理解をし、理解を修正しながら関わり、新たに気 づいて理解を深め、必要な経験を導きだし指導の計画をたてていく。「保育は幼児理解に始まり、幼児理 解に終わる」と言われる所以である。この記述をした学生が限られた実習期間のなかで、学生なりに幼児 とじっくり関わり、何かに気づいていったのだと推察される。
前述のように、事前授業において幼児理解をすることの大切さは繰り返し伝えている。教育実習におい ては、「決して小手先の保育技術を獲得することを焦ってはならない。最も大切なのは子供を理解する力 を高めること」12)が重要だと考えるからである。しかしながら、今回の結果から見ても、学生の一日の時 系列記録における「気づき」には、幼児理解に関することより教師の援助や環境構成に関することが多い と言える。学生にとって教師の援助や環境構成は興味関心の対象になりやすく、とらえやすく、考察しや すいからだと考える。また、一日の時系列記録における「幼児の活動」の記述がどうしても雑駁になり気 づきにつながりにくい、という一面もあろう。このことも含めて事前授業のさらなる工夫をし、学生たち の今後につなげたいと考える。
⑧初日だったから・最終日だったから 9点目、10点目を合わせて考察をする。
実は、この回答を書いた2名はこの回答のみが記されていて、「初日で元気だったから。一つ一つが新 鮮だったから」「最終日だったので心にゆとりがあった。時間もあったのでたくさん記入できた」と書い ている。記述の納得性はあるものの、この学生があと9日間の教育実習中に「気づき」の困難さがあった のではないかと容易に想像できる。
(2)「気づき」にどのような意味があったか
①深く考える時間となる
この回答が一番多かったことは、正直意外であった。教育実習終了後の学生から、「見たことは書ける けれど、気づきを書くのに時間がかかる」「気づくけれど、その先に何を書いていいか分からない」など という「考える」困難さを度々聞いていたからである。実習園から18時前後に帰宅して実習記録を書く 日々のなかで、時間のかかる「考える」ことは確かに困難ではある。しかしながら、そのことに意味を見 いだしている学生の回答は頼もしくさえあり、その日の保育を振り返り、気づいた箇所に逃げずに向かい 合うことの大きな意義を十分にフィードバックしていきたいと考える。また、これから教育実習に向かう 学生の事前指導において、先輩からの語りとして伝えていく意味も大きいと考える。
学生の具体的な記述としては、「先生の行動、言葉の一つ一つに意味があるのだと思い、その一つ一つ の意味を考えられるようになった。子ども達の行動にも子どもなりの考えを考えられるようになった」
「保育現場ではなく家に帰り冷静に物事をとらえることができると思う」「その時の子ども達の様子が頭に 思い浮かび、その時見ていた時よりもさらに考察することができたと思う」「子どもたちのことを見つめ、
考える時間をもう一度作ることが出来る為、子ども理解が進められる」「保育中には次々と行うことがあ り、気づきもあまり感じられないまま過ぎていきました。しかし、実習記録を書く時、メモを見て思いか えす時間が必ずあるので、自分の保育や先生の保育の意図などを考える大切な時間になったと思います。
学びを見過ごさないためにも大切なものだったと感じました」等とある。
気づいたことを意識化し文字に表し、さらに考察をするという行為は、間違いなく時間がかかり学生の 困難さにつながる。しかしながら、一度「気づき」に向かい合うと、以下の②⑤⑦にあるように「翌日以 降の実践に活かせる」「担当教師との対話につながる」「意味を考えながら参加できる」等さらなる深い学 びにつながることを実感していることが明らかになった。
②翌日以降の実践に活かせる
これには、「翌日」という視点と「将来」という視点があることが分かった。たとえば、「次に自分がか かわる時に気づいたことを意識して関わることが出来た」「自分の動き、声掛け、表情などを振り返り、
自身の反省にもつながる為、翌日からの実習をより充実させることができた」「子どもたち一人一人への 対応が変わった」「次の日の子どもとのかかわりにその気づきがいかせることができる」がある。一方、「自 分が将来保育をするときに真似したいことが書かれているので振り返ったときに役にたちそう」「将来の ために必要になると思った」という将来的な意味を見いだしている学生もいた。
③指導案作成や部分・一日実習に活かせる
これについては、事前授業でも伝えていたことである。記述に「指導計画を書くときに、それまでの『気 づき』を振り返って、何に注意すべきか考えやすくなった」とある通り、気づくことで教師の援助・環境 構成を取り入れやすいと考える。
④状況を思い出し再確認することができる
考えて文字に表すという時間のかかる困難な作業だからこそ、学生の心にしっかりと刻まれるというこ とだと考える。学生の記述にも、「記録として残すことで思い出すことができる」「手を動かして書くこと によって自分の記憶にも残ると思った」とある。さらに、「気づいたり思ったことを字におこすことで、
自分もその状況を思い出して再確認することができる」「その時の様子を思い出すことができる」「後日見 ても振り返ることができ、自分自身の成長につなげられると思う」とあるように、状況を思い出し、再確 認している様子も伺えるのである。
⑤担当教師との対話につながる
これについては事前授業で伝えていることであるが、カウントとしては少なかった。しかし、「読んだ 先生から『このほかにも〇〇という意味がある』など、さらに助言を頂けた」「書くことによって先生か らどんな意味をもって援助していたという思いや意図を教えていただくことも大きな学びとなった」「記 録することで先生に私がどのようにとらえたのか知ってもらえるという意味があると思う。そのことにつ いて先生との対話につながったと思う」とあるように、担当教師との新たな対話が生成していて、学生自 身がそのことに意味を見いだしていることが分かる。
⑥さらに新たな気づきにつながる
これは、「気づき」を後から見直すことで新たな「気づき」につながった、というである。「自分はすご いな、こんなことに気づいていたんだと感心するものが多かった。見返すからこそ気持ちが引き締まった し、思い出して、また新たに気づくことができた」「教師の意図について自分が考えたものが合っている のかが教師のコメントで分かるので、さらなる「気づき」に繋げることができる」という2人の学生の記 述にある通りと考える。
ただし、学生にとって実習記録を自ら見直す機会はあまりないと言えよう。だからこそ、事後指導をて いねいにし、ただ返却するだけではなく実際に見直しながら振り返ることが大切だと考える。今回も、限 られた人数ではあるものの、そのことにより新たな「気づき」を得た学生がいたからである。
⑦意味を考えながら参加できる
学生の記述には、「気づきを記録しなきゃ !という思いがあるので、その分、子どもたちの動きの考察や、
保育者の援助の意味などを常に考えながら実習に取り組むことができた」「次の日に意識して見ることが
できる」とあるように、保育中に緊張感を失わずに視点をもって参加することにつながることが分かる。
保育は日常的な行為でもあり、雑多であることから、ともすると学生は慌ただしく過ぎてしまいがちであ る。そのことが「気づき」によって、意図をもって意識的に参加することができているのである。
5.総合考察
以上、学生がそれぞれに「気づき」に向かう姿から考察を進めてきたが、最後に次の2点を総合考察と して述べる。
(1)アクティブラーニングにつながる「気づき」
今回、一番カウント数の多かった「部分・一日実習が近かったから」という回答は、自身の部分・一日 実習を積極的に課題としてとらえ、そのために教師の援助・環境設定を注視して「気づき」につなげよう とする学生の姿と言えよう。必然性が生じているとも言えるが、それでも自らの課題とせず、「気づき」
につながらない学生もいるだろう。そうであれば、学生が主体的に課題解決に向かい取り組む姿ととらえ ることができる。
同様に、「その日の実習目標にしたから」「書くように指導を受けたから」という回答も書かざるを得な い必然性が生じている。それでも保育のなかで視点が曖昧になったり、気づいたことを意識化し考察につ なげようとしない学生もいるだろう。そうだとすると、やはり、保育のなかで視点を主体的に明確にして 意味を考えながら参加する学生、帰宅後にその「気づき」を文字化して、さらに考察につなげる学生の姿 と考えられる。つまり、学生が実習中に自ら課題を見いだしたり、担当教師の指導を受け自ら行動したり すること、つまり主体的に取り組むことで「気づき」と向かい合うことが明らかになったのである。
さらに、一度「気づき」に向かい合うと、「翌日以降の実践に活かせる」「担当教師との対話につながる」
「意味を考えながら参加できる」等さらなる深い学びにつながることも明らかになった。まさに、主体的 に課題解決に向かい、深く学んでいくアクティブラ-ニングにつながると言えよう。
以上のことから、担当教師の援助、環境構成に着目したり、その日の実習目標を具体的に定めたりする ことが学生の困難さを軽減することになり得ると言える。加えて、困難ではあるものの一度「気づき」と 向かい合うことから循環が生じ、深い学びとなることも先輩の語りとしてしっかりと授業に取り入れた い。
(2)学生がとらえやすい「気づき」ととらえにくい「気づき」
これまで述べたことから、学生にとってとらえやすい「気づき」と、とらえにくい「気づき」があるこ とが明らかになった。
とらえやすい「気づき」とは、教師の援助・環境構成であり、行事である。教師の援助・環境構成は部 分・責任実習への必然性からということに加え、学生にとって視覚的・聴覚的にもとらえやすいと考えら れる。また、学生にとって初めて体験する行事も一つ一つの指示や活動の進め方などがとらえやすく、そ の際、学生は客観的に観察していることも多いと考えられ、気づきやすいと言えよう。
「気づき」が困難であるとするならば、とらえやすいことから取り組み始めることは一つの方法だと言 えよう。少しでも困難さが軽減すると考えられることに加え、結果として「深く考える」きっかけとなる 可能性もあるからである。
一方、僅かな回答数だった「幼児理解」は、視覚的・聴覚的にとらえることから内面を理解しようと考 察をすることであり、学生にとっては困難さが大きいと言えよう。授業でも一番重要だと話している「幼 児理解」ではあるが、継続的に幼児とかかわる時間には限りがあり、部分・一日実習を控える学生にとっ ては困難さが大きいと考えられる。
これについては、部分・一日実習や実習記録を書くことだけにとらわれず、かけがえのない存在である 一人一人の幼児に心を寄せ、理解しようとすることの重要性を伝え続けたい。保育現場は、幼児が物・
人・ことがらなどの環境に自ら関わることで様々な学びが生じていく現場である。そこに出向くことの大 きな意味は、部分・一日実習をすることだけではないはずである。そもそも、前述の通り、保育の計画や 実践には幼児理解が不可欠なのである。一人一人の幼児の姿、たとえば「何でこれほど嬉しそうなのだろ う」「どうして参加しないの?」「何に夢中になっているのかな」「昨日と今日の姿が違う!」「何が不満な のだろう」「何をしたいのだろう」などに気づき、考察することの意味をしっかりと伝えていきたいと考 える。一人一人に温かい思いを寄せ、その日・その時・その場で育つ幼児の姿を見逃さずに心に刻んでい かれるよう、そのことを気づいていくことに学生自身が興味をもち楽しんでいかれるような事前授業の構 築を図りたい。
また、事後授業においては、十分にフィ-ドバックすることで次の教育実習や保育現場で勤めた際につ ながるようにしていきたい。
本研究は学生のアンケ-トの記述から研究を進めてきたが、この結果と本人の実習記録を照合する必要 性があると考える。それについては今後の課題としたい。
注
1)東京家政大学(2010)『教育・保育実習のデザイン』萌文書林pp.138-139
2)筆者は、第69回日本保育学会において「学生が感じる実習記録の困難さに関する一考察~困難さが 少なくなるプロセスに着目して~」というテーマで口頭発表、その後、東京家政大学研究紀要第 57 集(1)において論文掲載をしている。その際に、書くことの難しさだけではなく、不安感・負担感・
義務感・嫌悪感等を含めることが学生の心情をより表すことから、このように定義した。また、第 70 回日本保育学会において「学生が感じる実習記録の困難さに関する一考察 Ⅱ~「気づき」に着 目して」というテ-マで口頭発表した際にも、この定義を用いている。
3)文部科学省(2008)『幼稚園教育要領解説』
4) 同上p.23 L4-5
第1章 第1節「幼稚園教育の基本」に明記されている。
5)同上p.26 L20-24
このことは、平成29年7月に行われた新しい幼稚園教育要領などに関する中央説明会資料(内閣府・
文部科学省・厚生労働省)にも記されている。
6)久富陽子 編著(2014)『学び続ける保育者をめざす 実習の本』萌文書林p.43 L6-7
7)山本淳子(2012)『記入に役立つ 保育が分かる 実習の記録と指導案』ひかりのくにp.15 L44-46 8)相馬和子・中田カヨ子(2016)『実習日誌の書き方』萌文書林p.39 L2-5
9) 矢野真 他(2016)『実習の日誌&指導案』成美堂出版p.12 L2-3
10)神永直美(2016)『子どもの育ちと実習日誌・指導計画』萌文書林p.9 L14-16 11)松本峰雄(2015)『幼稚園・保育所実習』萌文書林p.58 L13-18
12)河邉貴子・鈴木隆(2007)『保育・教育実習 フィ-ルドで学ぼう』同文書院 p.1 L28-29
参考文献
・東京家政大学 教育・保育実習のデザイン研究会編(2010)『教育・保育実習のデザイン』萌文書林
・東京家政大学・短期大学部幼稚園教育実習指導室(2017)『実習の手引き』
・久富陽子・榎本眞実・藤堂暎子・山田恵美(2015)「幼稚園教育実習における指導に関する一考察」
日本保育学会第68回大会発表紀要
・河邉貴子・鈴木隆(2007)『保育・教育実習 フィ-ルドで学ぼう』同文書院
・山本淳子(2012)『記入に役立つ 保育が分かる 実習の記録と指導案』ひかりのくに
・久富陽子 編著(2014)『学び続ける保育者をめざす 実習の本』萌文書林
・相馬和子・中田カヨ子(2016)『実習日誌の書き方』萌文書林
・神永直美(2016)『子どもの育ちと実習日誌・指導計画』萌文書林
・矢野真 他(2016)『実習の日誌&指導案』成美堂出版
・松本峰雄(2015)『幼稚園・保育所実習』萌文書林
・島崎あかね(2015)「保育実習Ⅰ(保育実習)事前指導における実習記録の指導内容~視覚教材の活用 について~」上田女子短期大学幼児教育学科保育者養成年報第9巻
・猿田興子(2007)「保育科短大における実習指導について-一年次教育実習における日誌記述について の考察 その1-」美園学園短期大学研究紀要第37巻
・猿田興子(2008)「保育科短大における実習指導について-教育実習における日誌記述についての考察 その2-」美園学園短期大学研究紀要第37巻
・一般社団法人 日本保育学会倫理綱領ガイドブック編集委員会(2011)『保育学研究倫理ガイドブック』
フレ-ベル館
※本稿は、第70回日本保育学会における口頭発表の要旨集原稿に加筆したものである。