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博 士 学 位 論 文

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Academic year: 2022

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(1)

令  和  3  年  度 

博  士  学  位  論  文

内 容 の 要 旨  お よ び 

審 査 結 果 の 要 旨

近 畿 大 学 大 学 院

生 物 理 工 学 研 究 科

(2)

生 物 理 工 学 研 究 科

令和3年度

(課程修了による)

波 多 野 裕

(3)

学 位 論 文 審 査 結 果 の 報 告 書 

氏        名        波多野  裕        生 年 月 日       1995年  2月  11日 

本  籍(国籍)        京都府       

学 位 の 種 類       博      士  (工学) 

学 位 記 番 号        生  第  61  号 

学位授与の条件        学 位 規 程 第 5 条 該 当  

  (博士の学位)       

論 文 題 目   

エピゲノム編集と超解像イメージングによるマウス生殖細胞染色体  ペリセントロメア/セントロメア領域の機能および動態解析        学 位 論 文 受 理 日        2022年      1月      22日 

学位論文審査終了日        2022年      2月      15日  審 査 委 員 

(主 査)      三谷  匡

(副主査)      大和  勝幸   

(副主査)      山縣  一夫   

指 導 教 員      山縣  一夫       

(4)

論  文  内  容  の  要  旨

DNA メチル化とは、CpG 配列におけるシトシンの 5 位の炭素にメチル基が付加さ れる現象である。ゲノム中にあるメチル化シトシンは methyl-CpG-binding domain

(MBD)を初めとする種々のメチル化 DNA 結合タンパク質によって認識され、それ を介して様々なタンパク質修飾やタンパク質複合体の集積が起こる。その後、高次の 凝集した染色体構造であるヘテロクロマチンが形成され、周辺の遺伝子の発現が抑制 されると考えられている。哺乳動物では、生殖細胞形成時や胚発生過程の着床前胚に おいて DNA のメチル化状態がグローバルに変化することが報告されている。これら の領域のDNAメチル化状態が体細胞では高DNAメチル化状態、生殖系列細胞では低 DNA メチル状態である報告がある。マウス染色体に存在するペリセントロメアおよ びセントロメアは1ユニット約230 bpのMajor satellite、1ユニット約120 bpのMinor

satelliteの反復配列からそれぞれ構成され、ゲノムの数%を占める広大な領域である。

ペリセントロメア/セントロメアの低DNAメチル化状態の意義を調べるためには、染 色体領域特異的なエピゲノム操作技術が必要である。YamagzakiらはMajor satelliteま たはMinor satellite を認識するDNA 結合モジュール TALEに細菌由来のメチル基転移 酵素Ssslを付加した融合遺伝子(TALMaj-Sssl、TALMin-Sssl)を作製した。本研究では この系を用いて、マウス受精卵のペリセントロメアまたはセントロメアにおける人為 的な DNA メチル化の導入が発生に与える影響を調べた。TALMaj-Sssl をコードする mRNA を注入した胚の DNA メチル化程度を調べるために、バイサルファイトシーク エンスを行った。その結果、TALMaj-Sssl の mRNA 濃度依存的にペリセントロメアの DNA のメチル化レベルが上昇することがわかった。さらに、前核期から桑実胚期/胚 盤胞期までの発生率はコントロール区のMockで33/39(84.6%)、TALMaj-Sssl mRNA 注入区では27/36(75.0%)であり、MockとTALMaj-Sssl mRNA注入区の間に有意な差 は見られなかった。TALMaj-SssI mRNAを注入した胚を2細胞期で偽妊娠マウスの卵管 に移植し、産仔数を調べたところ、コントロール区のMock は38/144(26.3%)、TALMaj-

Sssl mRNA注入区では23/100(23%)であり、それぞれの間に差は見られなかった。

このことから、ペリセントロメアへの DNA メチル化導入は発生に影響を与えないこ とが分かった。一方、TALMin-SsslをコードするmRNAを注入した胚のDNAメチル化 程度を調べるために、バイサルファイトシークエンスを行った。その結果、TALMin- Sssl のmRNA 濃度依存的にセントロメアの DNA のメチル化が上昇することがわかっ た。前核期胚から桑実胚期/胚盤胞期までの発生率はコントロール区のMockで33/39

(84.6%)、TALMin-Sssl mRNA 注入区では 5/42(11.9%)であり、コントロール区の

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MockとTALMin-Sssl mRNA注入区の間に有意な差が見られた。さらに、受精から72時 間後に胚の発生ステージを調べたところ、TALMin-Sssl WT mRNA注入区のほとんどが 2細胞期から8細胞期にかけて停止した。受精卵のセントロメアへの人為的なDNAメ チル化導入が初期胚に影響を及ぼすことから、受精卵におけるセントロメアの低DNA メチル化状態は胚発生に重要であることが示唆された。

受精卵の染色体やクロマチン状態を観察するためにライブセルイメージング技術 は重要な手法となりつつある。光毒性をできる限り抑えた観察条件のもとでは発生 過程で起こった現象とその後の個体までの発生能を直接、単一胚で評価することが できる。特に、DNAメチル化導入胚の染色体やセントロメアの構造、核内における クロマチン状態を詳細に調べるためには、生きたまま長時間観察可能な超解像シス テムの構築が必要である。近年、様々な原理に基づく超解像顕微鏡(stimulated emission depletion microscopy (STED); photoactivated localization microscopy

(PALM); fluorescence photoactivation localization microscopy (FPALM); stochastic optical reconstruction microscopy (STORM); structured illumination microscopy

(SIM); Airyscan)が提案され、より細部まで細胞を観察できるようになった。一方

で、超解像顕微鏡を使用した観察は細胞に対して侵襲的であることが知られてい る。特に、着床前初期胚の観察では、3次元画像の取得およびタイムラプス観察を するためにレーザーの繰り返し照射が必要になり、胚の損傷を引き起こす。胚発生 率や産仔率を担保したままの条件下で観察することは、観察された現象が死にゆく 細胞によって引き起こされたアーチファクトでないことを保証するために重要であ

る。Yamagataらは以前に、ディスク式共焦点顕微鏡を使用してマウス受精卵におけ

る長期間の生細胞イメージングが可能な条件を特定し、予後を予測することを試み た。一般的に、スキャニング式共焦点顕微鏡は単一平面でサンプルをスキャンする ため、画像取得に時間がかかる。さらに、高強度のレーザーを照射すると、サンプ ルの退色や光毒性が生じる可能性がある。一方で、ディスク式共焦点顕微鏡はディ スクの回転によって複数のポイントをスキャンすることで、スキャニング式共焦点 顕微鏡の制限を克服しており、着床前初期胚の生細胞イメージングに適している。

さらに、マイクロレンズを使用してピンホールに投影される焦点面の光を減じるこ とにより、optical photon reassignment (OPRA)-type microscopy(super-resolution via optical re-assignment (SoRa))が実現された。そこで本研究では、胚発生率や産仔 率を低下させずに、生きたままマウス受精卵を観察できる条件を探索することと、

その手法を用いて染色体やセントロメアを観察し、その数える目的とした。Histone

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H2B-mCherryをコードするmRNAを注入したマウス胚の1細胞期から2細胞期まで の第1卵割過程をディスクコンフォーカルタイプの超解像顕微鏡(CSU-W1 SoRa)を 用いて、10分間隔で17時間連続観察し、偽妊娠マウスの卵管に移植した。その結 果、イメージングを行っていない胚と遜色ない産仔率を得ることができたことか ら、この方法論はシステム胚にダメージを与えないことがわかった。得られた3次 元データから染色体数のカウントを行ったところ、最初の有糸分裂で40本の染色体 を数えることができたが、胚やタイムポイントによってカウントされる染色体数が 異なることが分かった。そこで、CRISPR / dCas9システムを応用した生細胞蛍光in situハイブリダイゼーション法(Live-FISH)を用いて、dCas9タンパク質とセントロ メアのリピート配列を認識するgRNAを前核期胚に注入しセントロメアを可視化す ることでその点をカウントする方法を開発した。その結果、少なくとも計測した3 つのタイムポイントでマウス胚では40個のセントロメアを正確にカウントすること ができた。本研究で得られた画像データの解析により、SoRaシステムは分裂期染色 体や2細胞期のクロマチン密度を観察するのに十分な解像度があることが明らかに なった。低侵襲な超解像観察法を確立したことで、従来のクロマチン検査法と組み 合わせて画像とクロマチン情報を結びつけることが可能となった。例えば、

chromosome conformation capture (3C)/Hi-Cとライブセルイメージングによる転写 の観察の組み合わせにより、胚発生に影響を与えないクロマチンダイナミクスの詳 細な観察が可能になり、クロマチン研究を加速させることが期待される。さらに、

本方法論とLive-FISH法の組み合わせは多くの動物種で使用できる可能性があり、今 後はヒトの生殖補助医療や畜産学の分野に応用されることが期待される。

(7)

論  文  審  査  結  果  の  要  旨

イギリスの発生遺伝学者C.H.Waddingtonは、1942年にその著書の中で細胞分化 制御を山の谷間を転げ落ちる岩の様に例えた。一度なにかの拍子にある谷間に入り込 んだ岩は、別の谷間に移動したり、ましてや遡ったりすることはないという具合であ る。この例えはWaddington's epigenetic landscape modelと言われ、細胞分化制御 を担う機構としてのエピジェネティクスを想起させ、その不可逆性や特異性、動性を 説明する良いモデルとして現在でも論文や発生学の講義などで多く引用されている。

一方、近年になって、その不可逆性を覆す例として、in vivo では唯一生殖細胞系列 が、in vitroでは体細胞クローンやiPS細胞などが挙げられ、世界中で盛んに研究が されている。すなわち、これら細胞のエピジェネティクス制御機構を知ることは、基 礎生物学上の重要な命題であるだけでなく、再生医療分野や家畜繁殖学分野などへの 貢献も計り知れない。

DNAのメチル化は、エピジェネティクスの実体の一つである。一般に、DNAの メチル化が起こると、その部位がmethyl-CpG-binding domain(MBD)タンパク質 を初めとする種々のメチル化DNA結合タンパク質によって認識され、さらにそれを 介して様々なタンパク質修飾や、タンパク質複合体の集積が起こる。その後、高次の 凝集した染色体構造であるヘテロクロマチンが形成され、周辺の遺伝子の発現が抑制 されると考えられている。哺乳動物では、分化・発生にともなって個々の細胞系譜ご とに様々な遺伝子領域がメチル化され、それこそが細胞の可塑性を制御するバリアー として働くことが知られ始めてきている。一方で、生殖細胞形成時や胚発生過程の着 床前胚においては、DNAのメチル化状態がグローバルに変化することが報告されて いる(Reik et al., Science 2001)。

マウス染色体に存在するペリセントロメアおよびセントロメアは1ユニット約230 bpのMajor satellite、1ユニット約120 bpのMinor satelliteの反復配列からそれ ぞれ構成され、ゲノムの数%を占める広大な領域である。同氏の所属研究室では、こ れらの領域のDNAメチル化状態が体細胞では高DNAメチル化状態、生殖系列細胞 では低DNAメチル状態であることを報告した(Yamagata et al., Dev Biol. 2007)。 ペリセントロメア/セントロメアの低 DNA メチル化状態の意義を調べるためには、

染色体領域特異的なエピゲノム操作技術が必要である。

2013 年 に Major satellite を 認 識 す る TALE(Transcription Activator-Like Effector)に蛍光タンパク質を付加した融合タンパク質が開発された。これにより哺 乳類細胞で生きたままペリセントロメアを可視化することができるようになった

(Miyanari et al., Nat. Struct. Mol. Biol. 2013)。同氏の所属研究室では Major satellite または Minor satellite を認識する TALE に細菌由来のメチル基転移酵素 Ssslを付加した融合遺伝子(TALMaj-Sssl, TALMin-Sssl)を作製した。これにより、

幹細胞や受精卵に生きたまま人為的にDNAのメチル化を導入するエピゲノム編集技 術の確立に成功した(Yamazaki et al., PLoS ONE 2017)。

そこで当該学生である波多野裕氏は、この系を用いてマウスの受精卵に生きたまま 人為的にDNAのメチル化を導入し、その後の発生へ与える影響を調べることで、ペ

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リセントロメア/セントロメアの低 DNA メチル化状態の生物学的意義を解明するこ とに取り組んだ。TALMaj-SsslをコードするmRNAを注入した胚のDNAメチル化 程度を調べるために、バイサルファイトシークエンスを行った。その結果、TALMaj- Sssl のmRNA濃度依存的にペリセントロメアのDNAのメチル化レベルが上昇する ことがわかった。さらに、前核期から桑実胚期/胚盤胞期までの発生率はコントロー ル区のMockで33/39(84.6%)、TALMaj-Sssl mRNA注入区では27/36(75.0%)で あり、Mock と TALMaj-Sssl mRNA 注入区の間に有意な差は見られなかった。

TALMaj-SssI mRNAを注入した胚を2細胞期で偽妊娠マウスの卵管に移植し、産仔 数を調べたところ、コントロール区のMock は38/144(26.3%)、TALMaj-Sssl mRNA 注入区では23/100(23%)であり、それぞれの間に差は見られなかった。このことか ら、ペリセントロメアへのDNAメチル化導入は発生に影響を与えないことが分かっ た。次に、TALMin-SsslをコードするmRNAを注入したところ、前核期胚から桑実 胚期/胚盤胞期までの発生率はコントロール区のMockで33/39(84.6%)であったの に対し5/42(11.9%)と有意に低かった。さらに、受精から72時間後に胚の発生ス テージを調べたところ、TALMin-Sssl mRNA注入区のほとんどが2細胞期から8細 胞期にかけて停止していた。以上の結果から、受精卵においてはペリセントロメアで はなくセントロメアの低DNAメチル化状態が胚発生に対して重要であると考えられ た。つづいて、胚発生停止のメカニズムを調べるために、細胞周期マーカーである

PCNA-EGFPを用いて各細胞周期の長さを測定した。その結果、G2期が遅延してい

たことから、G2期の細胞周期チェックポイントが活性化している可能性が考えられ た。G2期チェックポイントはChk1がリン酸化されることで活性化することが知ら れているため、そのリン酸化阻害剤を添加したところ、TALMin-Sssl mRNA注入胚 においても発生率が一部回復した。このことから、セントロメアの低DNAメチル化 状態はG2期のチェックポイントを通過するのに重要であることが示唆された。

受精卵の染色体を観察するためにライブセルイメージング技術は重要な手法とな りつつある。光毒性をできる限り抑えた観察条件のもとでは発生過程で起こった現象 とその後の個体までの発生能を直接、単一胚で評価することができる。特に、DNA メチル化導入胚の染色体やセントロメアの構造、核内におけるクロマチン状態を詳細 に調べるためには、生きたまま長時間観察可能な超解像システムの構築が必要であ る。近年、STEDやPALM、STORMなど様々な原理に基づく超解像顕微鏡が提案さ れ、より細部まで細胞を観察できるようになった。一方で、超解像顕微鏡を使用した 観察は細胞に対して侵襲的であることが知られている。そこで当該学生である波多野 裕氏は、ニポウディスク式共焦点顕微鏡の原理に基づいた新しい超解像顕微鏡を用い てこの問題に取り組み、17時間におよぶ長時間超解像イメージング後のマウス胚か ら産仔獲得可能な観察条件を見つけ出した。Histone H2B-mCherryを用いて染色体 を可視化し、得られた 3 次元データから染色体を数える技術を確立した。さらに、

CRISPR/dCas9 システムを応用した生細胞 in situハイブリダイゼーション(Live- FISH)法を用いることで、セントロメアを可視化し、より正確に染色体の数を数え ることに成功した。

(9)

本博士論文はマウス受精卵のペリセントロメア/セントロメアに生きたまま人為的 なDNAメチル化を導入し、その後の発生に与える影響を観察することにより、生 殖系列細胞特異的な低DNAメチル化状態の生物学的意義の解明を試みたものであ る。その結果、受精卵のセントロメア領域に対して人為的なDNAのメチル化を導 入した場合にのみ胚発生に大きく影響を与えるというインパクトのある結果を得 た。本成果は現在論文投稿準備中である。また、より詳細な染色体やセントロメア の解析を行うために、超解像ライブセルイメージングシステムの構築と改良を行っ た。この成果は、すでにGenes to Cells誌に受理されている。

本成果により、長年謎であった生殖細胞特異的なセントロメア領域の低DNAメ チル化の生物学的意義に一定の解を得ることができただけでなく、胚発生に影響を 与えないクロマチンダイナミクスの詳細な観察が可能になり、クロマチン研究を加 速させることが期待される。また、本研究において確立した人為的なDNAメチル 化の導入法は、遺伝子領域に対して特異的に導入可能であり、さらにその後の分 裂・分化・発生への影響を胚を生かしたまま推し量ることができる点は特筆に値す る。今後、受精卵のセントロメアに人為的なDNAのメチル化を導入した際の胚発 生停止がどのような分子メカニズムで引き起こされているかを調べることによっ て、生殖系列細胞特異的なセントロメアの低DNAメチル化状態の生物学的意義の 解明に繋がる。以上より、この成果は初期胚におけるセントロメアの分子的メカニ ズムの解明やエピジェネティクス研究に大きく寄与すると期待されことから、博士

(工学)論文として価値あるものと認める。

参照

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