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算数の力に基づく算数教科書・算数教科書教師用指 導書の分析

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(1)

算数の力に基づく算数教科書・算数教科書教師用指 導書の分析

著者 長崎 栄三

ページ 13‑20

発行年 2005

出版者 教科書研究センター

URL http://hdl.handle.net/10297/9936

(2)

算数教科書・算数教科書教師用指導書の分析

長崎 栄三(国立教育政策研究所)

1.はじめに

高度情報技術社会,生涯学習社会を迎え,「生きる力」を育成することが課題となっている。とり わけ,数学的能力は高度情報技術社会の中核に位置するので,算数教育は,新しい時代にあった数 学的能力や資質を一層高める方向に進むことが求められている。また,生涯学習社会においては,

児童生徒の学ぶ意欲や考える力が一層重要になる。このような状況に対処するには,指導法や教材 などについてのさらにより深い研究が必要であり,とりわけ,主たる教材である教科書の研究は重 要である。一方で,平成 13 年度に国立教育政策研究所教育課程研究センターによって実施された 小中学校教育課程実施状況調査は,児童生徒の算数・数学の学習の実現状況や学ぶ意欲や算数・数 学に対する意識の詳しい様相を明らかにした。

そこで,新しい時代に即した児童生徒の学ぶ意欲や考える力などを一層高めるために,児童の学 習意欲を高め,より理解しやすい小学校算数教科書の記述例を研究開発し,小学校算数教科書の新 たな方向性を指し示すことを目的に研究を始めた。そして,まず,小学校算数教科書等を,学習指 導要領の趣旨を適切に生かしているか,児童の資質・能力を育むような扱いとなっているか,教育 方法の理論に基づいた学び方,考え方の習得をはかるような扱いとなっているか,などの観点から 分析を行うことにした。

2.算数教科書,及び,算数教科書の教師用指導書の分析の目的

算数教科書の記述例を開発するための視点とその具体的な着眼点を明らかにし,それらの着眼点 をもとに現行の算数教科書や教師用指導書の特徴や課題を明らかにすることが,算数教科書,及び,

算数教科書の教師用指導書の分析の目的である。

分析の視点を考える上では,本研究の趣旨である「児童の学習意欲を高め,より理解しやすい」

教科書であるかどうかを念頭に置いた上で,分析の観点として例示した「学習指導要領の趣旨を適 切に生かしているか,児童の資質・能力を育むような扱いとなっているか,教育方法の理論に基づ いた学び方,考え方の習得をはかるような扱いとなっているか,などの観点」を,「算数の力を育成 しようとしているか」として焦点化することにした。それぞれの観点を新しい時代における算数教 育を目指したものとして捉えるとき,それらを「算数の力を育成する」と考えることにした。「算数 の力」については,稿を改めて詳述する。

なお,教師用指導書の分析においては,算数教科書と教師用指導書の記述の相違なども考察の対 象とする。

また,これらの分析は,算数教育の実践者や研究者による算数教育に関する経験的な眼による質 的な分析であり,したがって,本分析で記述の個数などの量的な記述があったとしても,それは質 的な分析結果を補うための大まかな傾向を示すものである。

3.算数教科書の分析の方法

算数教科書の分析を平成15年度から16年度にかけて行う。

(1)分析の対象

(3)

(2)分析の視点を設定する際の指針

算数教科書の分析の視点を設定する際には,本研究の趣旨である「児童の学習意欲を高め,より 理解しやすい記述等の事例を研究開発」するということを念頭に置いたうえで,次の3点を考慮す ることとする。

①将来の算数教育にとって必要であると思われる。

②現行の算数教科書にあまり実現されていないと思われる。

③算数教科書に関する先行研究において分析されていない。

分析の視点は,上記の事柄に基づいて,研究会で作成する。

(3)分析の手法

それぞれの研究委員は,研究会で設定された分析の視点のいずれかを選び,4学年から6学年の 中の1学年について算数教科書を分析する。

分析においては,各研究委員は,それぞれの分析の視点に相当する教科書の記述部分を抽出する ための着眼点・理由・説明等を設けて,教科書を分析する。そして,分析した結果について,分析 の視点,単元,頁,抽出したときの着眼点等をまとめた一覧表を作成し,考察する。

4.算数教科書の教師用指導書の分析の方法

算数教科書の教師用指導書の分析を,算数教科書の分析に引き続いて,平成15年度から平成16 年度に行う。

(1)分析の対象

平成15年度にわが国の小学校第4学年から第6学年において使用されている文部科学省検定済 教科書の算数教科書の教師用指導書について,わが国で発行された6社すべて(本稿では,A社,

B社,C社,D社,E社,F社,と略称する)の算数教科書の教師用指導書を対象とする。対象を,

小学校第4学年以上としたのは,本研究の主目的である記述例の開発対象が4学年以上だからであ る。

(2)分析の視点を設定する際の指針

算数教科書の分析の結果に基づいて,分析の視点を整理し直し,その上で,本研究会の構成人数 からして記述例の開発が可能な主題数として,3つぐらいの視点に焦点化を行う。

(3)分析の手法

各社・各学年の同一の教師用指導書を研究委員2名が分析する。

分析においては,各研究委員は,それぞれの視点に相当する教師用指導書の記述部分を抽出する ための着眼点・理由・説明等を設けて,教師用指導書を分析する。そして,分析した結果について,

分析の視点,単元,頁,抽出したときの着眼点等などをまとめた一覧表を作成し,考察する。

(4)

算数教科書・算数教科書教師用指導書の分析の視点

-算数教育の新しい流れ-

長崎 栄三(国立教育政策研究所)

1.わが国の算数教育への期待と算数教科書

今後のわが国の教育の方向を示したものには,平成 10 年に文部省から出された『教育課程審議 会答申』1)がある。この答申においては,今後,児童・生徒が身に付けるものとして,「主体的に 学ぶ力」,「自らの力で論理的に考え判断する力」,「自分の考えや思いを的確に表現する力」,「問題 を発見し解決する能力」,「多面的にものを見る力」,「論理的に考える力」などがあげられている。

このような方向性は,その後平成10年に告示された学習指導要領の算数にも反映されている。

一般的には,算数教育で目標とされるのは,算数の内容・概念の理解と,算数の方法的な能力の 習得の両面であり,この答申では,前者を当然としつつ,後者の能力的な側面を強調していると言 えよう。

ところが,算数教育において非常に重要な役割を果たしている算数教科書においては,能力的な 側面という形式的目標については,十分にその機能が果たされていないのではないかとの指摘がな されている2)

2.算数教育の国際的な動向

イギリスやアメリカの最近の算数・数学の全国的な教育課程では,その学習内容として,算数・

数学の内容だけではなく,算数・数学の方法的・過程的・能力的な面に相当するものが明記されて いる3)。イギリスの『国家教育課程』では,学習内容の領域に「数学の利用・応用」という領域が 設定され,そこでは,問題解決,コミュニケーション,推論の3つが明記されており,アメリカの 全米算数・数学教師協会(NCTM)の『教育課程と評価の基準』では,学習内容の基準として「内 容基準」と「方法基準」をあげ,「方法基準」として,問題解決,推論と証明,コミュニケーション,

つながり,表現の5つが明記されている。

また,国際機関においても,算数・数学の能力が着目されている。経済協力開発機構(OECD)

は,「生徒の学習到達度調査」(PISA)において,義務教育終了段階で子どもが身につけるべきもの として「数学的リテラシー」を提唱し,それは「数学が世界で果たす役割を見つけ,理解し,現在 及び将来の個人の生活,職業生活,友人や家族や親族との社会生活,建設的で関心を持った思慮深 い市民としての生活において確実な数学的根拠にもとづき判断を行い,数学に携わる能力」である としている。さらに,その詳しい説明の中で「数学的能力」として,思考と推論,論証,コミュニ ケーション,モデル化,問題設定と問題解決,表現,記号言語・公式言語・技術的言語・演算を使 用すること,支援手段と道具の使用,の8つの能力をあげている4)

3.わが国の算数教育に求められているもの

わが国においても,国際的にも,これからの算数教育の理想としては,算数の概念の理解と算数 の能力の習得の両面があげられている。しかしながら,現実はどうであろうか。最近出された一つ の興味深い国際比較報告書がある。アジア太平洋地域経済協力会議(APEC)が行った,東洋と西

(5)

するための生徒の技能」として,中核となる知識の習熟,問題解決技能,コミュニケーション技能,

学習への責任や意欲,情報コミュニケーション(ICT)の道具を使う能力をあげており,算数の概 念の理解と算数の能力の習得の調和を取った教育を提唱している。

また,昨今のわが国の算数に関する状況を,算数で育成する能力という点から見ると,一方で,

問題解決能力の重視が叫ばれ,他方で,計算能力の重視が叫ばれている。これまで述べてきたよう な,わが国の教育課程審議会の答申や国際的な動向の中に見られる多様な算数の能力は見られず,

いたずらに,計算能力と問題解決能力の間を右往左往しているかのようである。

今後の算数教育を考えるとき,先に述べたような,算数の内容(概念理解)と算数の過程(能力 習得)の調和を図り,しかも,後者の算数の過程(能力習得)を具体化していくことが求められて いると言えよう。

4.算数の力-算数教育の新たな方向-

(1)算数教育における「力」への着目

算数教育の目標を考えるとき,算数の概念を理解することと,算数の考え方や手法などを能力と して身に付けることの両面に配慮することが必要である。例えば,現行の学習指導要領の算数の目 標でも「数量や図形についての算数的活動を通して,基礎的な知識と技能を身に付け,日常の事象 について見通しをもち筋道を立てて考える能力を育てるとともに,・・・」とあるように,基礎的な 知識の理解と,基礎的な技能や考える能力を身に付けるとしている。これは,教育学では言えば,

前者は実質的陶冶であり,後者は形式的陶冶ということである。わが国の算数・数学教育において は,過去には,過度の形式的陶冶説に傾きすぎて,代数学や幾何学の勉強を通して,推理力や記憶 力や忍耐力など広く一般に転移する能力が養われるとした時代があった。しかし,このようなあま りにも一般的な能力が算数・数学教育で育成されるということは,当然ながら,実験や観察を通し て実証的に否定され,そして,わが国では,このような算数の概念の理解と算数の能力の習得の両 面を止揚するものとして,数学的な考え方が提唱されてきた6)。そこでは,例えば,次のような説 明がなされてきた。

「「数学的な考え方」の育成とは,「算数・数学にふさわしい創造的な活動が自主的にできるよう にすること」である」(中島,1981,82頁)

「数学的な考え方・態度は,…,自主的に算数・数学の内容を理解し,算数・数学的問題を形成 し,解決,発展させていくことができるために大切な考え方・態度」(121頁)とし,「数学の 方法に関係した数学的な考え方」と「数学の内容に関係した数学的な考え方」を挙げている。

(片桐,1988)

「数学的にものを見,数学的に考えるとは,課題に当面しこれを体制化し構造化する段階で…対 象を集合としてとらえ…その集合に対し,別に都合のよい数学的構造をもった第二の集合へ変 換する…第二の集合の特性を使って解決に導く…」(松原,1990,190頁)

そして,数学的な考え方の育成7)は,昭和40年代以降の学習指導要領の算数・数学の目標とされ,

指導書や解説書で詳しく説明がなされてきた。

数学的な考え方の形式的陶冶の側面,すなわち,算数の能力習得の側面を育成する指導方法につ いては,この間,先進的な指導法の試みとして,年代順に次のような指導法が提唱されてきた8)

①多様に考えることなどにかかわる「オープンエンド・アプローチ」(島田ほか,1977)

②考えることにかかわる指導(松原,1983)

③算数を発展させていくことにかかわる「問題づくり」(竹内・澤田ほか,1984)

④図形において筋道立てて考えることにかかわる指導(小関ほか,1987)

⑤多様に考えることにかかわる指導(古藤ほか,1992)

⑥考えることにかかわる指導(半田ほか,1995)

⑦発展させて考えることにかかわる「基礎学力」(中島ほか,1995)

(6)

⑧算数を創りあげていくことにかかわる「構成的アプローチ」(中原,1995)

⑨文字を使って筋道立てて考えることにかかわる指導(国宗,1997)

⑩問題解決能力にかかわる指導(相馬,1997)

⑪算数を使うことにかかわる「算数と社会をつなげる力」(長崎ほか,2001)

しかし,平成 13 年度に国立教育政策研究所教育課程研究センターによって行われた小中学校教 育課程実施状況調査の結果などを見ると,期待されているようには事は運んでいないようである9)。 子どもたちには,このような算数の能力があまり身に付いていないようである。このことは,先に 述べた指導法の先進的な試みが,わが国の算数の教室では一般的になっていなかったということで あろう。ほとんど大多数の算数の授業では教科書主体の授業が行われているが,その教科書には,

これらの算数の能力習得に関する記述が明確ではなかったと思われる。もちろん,最近の算数教科 書には,「多様な考え方」,「問題づくり」などのいくつかの試みが散見されるが,その実が上がって いないということであろう。

そこで,

本研究では,そのような算数の目標としての形式的な能力習得の側面を「算数の力」とし,算数 教科書において,それを育成するための記述例を開発することを研究課題とした。

これまでは,「算数の力」を無定義に使ってきたが,次にこの言葉を規定することを試みる。

(2)算数の力とは

「算数の力」とは,算数の学習指導を通して身に付けたものであり,算数の学習や生活において 使えるようになっているものを指すものとする。これまで述べてきたような,算数の概念の理解に 対比させるものとして,また,教育目標としての形式的陶冶に相当するものとして考えている。こ のような教育における「力」と類似の言葉には,学力,技能,能力などがある。しかし,わが国で は,「学力」は,教育の目標の実質的・形式的の両面を含むあらゆるものを包含した総合的な表現で あり,「技能」では,繰り返しの練習で自動化された力だけを指しがちであり,「能力」というと,

学習して得られたというより生得的な面が強いように考えられがちであろう。

そこで,「力」ということで,決まりきった手順のような自動化されたものだけではなく,未知な 場面でも考えることができるようなことも含め,また,生得的なものよりも学校教育における学習 指導を通して身に付けることができるということを表すことにした。

算数の力は,現行の評価の観点からすると,主として,「数学的な考え方」と「表現・処理」にか かわる部分と考えることができる。「数学的な考え方」には,算数を創りだしていく面と算数を使う 面が含まれており,「表現・処理」には,算数での式・表・グラフなどで表すことと,それらを自由 に扱うことが含まれている。これらは学習することで習得される能力であるとして捉えて,その個々 の具体相を顕在化させようというものである。

(3)算数の力の構成

算数の力を具体的に構成していく上では,本研究においては,これまで述べてきたようなわが国 の状況や国際的な状況を踏まえて,仮説を立てて,算数教科書やその教師用指導書の分析を行いな がら,その具体を洗練していくようにした。つまり,算数教科書やその教師用指導書の分析の視点 として,算数の力を考えて,実際に分析を行う中で,その具体化・明確化を図ることにした。なお,

以下に述べる算数の力は,現状ではあくまでも仮説的なものであり,今後,理論と実践の両面から さらに検討を続けていくことが必要であると考えている。

(7)

c.算数を使って伝え合う:式・表・グラフ・図などを使って,書く,話す,読む,聞くこと d.数学で道具を使う:算数で電卓,コンピュータなどを使うことなど

さらに,これらの算数に特有な方法を包含したものとして,算数で育成できる考え方として,「多様 に考える」,「関係付ける」,「問題を見いだす」などを考え,そして,さらに,これら全体を包含す る最も重要なものとして「自ら考える」ということを考えた。

言い換えると,算数における一般的で包括的な「考える力」と,考える力の具体的な特別な諸相 を現した「多様に考える」,「関係付ける」,「問題を見いだす」などと,そして,算数の内容や方法 と結びついたいろいろな算数の力を考えたことになる。もちろん,これらはいずれも相補的であり,

互いに排他的ではなく,それぞれが同じような目的を内包していると考えられる。

本研究においては,このような算数の力についての考え方を出発点として,おおむね,3 段階を 通して,算数の力を具体化・明確化し,そして,焦点化を図っていった。

①第1段階:9つの算数の力の設定

算数の力は,教科書の記述例の開発の目標ではあるが,本研究においては,教科書の分析の視点 として考えることから始めた。算数の力を伸ばすような展開として,教科書の分析の視点を設定す る際には,本研究の趣旨等を念頭に置いたうえで,次の 3 点を考慮した。「将来の算数教育にとっ て必要であると思われる」,「現行の算数教科書にあまり実現されていないと思われる」,「算数教科 書の先行研究において分析されていない」である。

教科書分析(第1次)においては,教科書の記述が「算数の力を伸ばす展開」になっているかど うかということを視点とした。それぞれの視点で目標とされた力は,次の通りであった。

ア.自ら考える力

算数で考えることの全体にわたる力である。算数の本質が考えることである限り,自ら 考える力は,算数の力全体に及ぶが,一つの重要な力として取り上げている。

イ.多様に考える力

算数において自ら考える力の具体の一つとして重要な力である。創造的に広がりを持た せていくという意味で,算数を内的に発展させていくだけではなく,算数を共同で創り 上げ理解を深める際に必要である。

ウ.自ら問題を見いだす力

算数において自ら考える力の具体の一つとして重要な力である。創造的に新しい場面を 切り開いていくという意味で,算数を内的・外的に発展させていく。

エ.物事を関係付けて考える力

算数において自ら考える力の具体の一つとして重要な力である。複数の事象や関係の間 につながりを見いだすことで,算数の理解を深め,外的にも発展させていく。算数の関 数的な考え方に通ずる。

オ.筋道立てて考える力

算数を内的に発展させていく場合の数学的推論にかかわる力である。前提を明確にして,

論理的に推論していく。算数・数学にはなくてはならない推論であり,論理的体系化を 図るとともに,時には,発見の道具ともなる。算数においては,自然や社会の多くの知 識を前提としなくても,筋道立てた推論ができるので,特に強調されることが多い。

カ.コミュニケーションをする力

算数を使って伝え合う力を総称するものである。ここには,当然,算数において考える ことや表現することも含まれる。算数が人類という社会集団によって発展させられてい るので,コミュニケーションは欠かせないものである。国際的に算数・数学の社会的有 用性を示すものとして非常に重要視されている。

キ.グラフをよみとる力

(8)

算数を使って伝え合う力の中の具体の一つの力である。グラフは,式,表,図などとと もに算数の表現の方法の一つであるが,国際的に算数・数学の社会的有用性を示すもの として最近強調されている。

ク.算数で身の回りの問題を解決する力

算数を外的に発展させていく力である。算数を使うためには,単に算数の理論を学んだ だけでは不十分であることが分かってきており,大まかに捉えるとか事象を算数に変換 するなどという算数の使い方が必要である。昔から日常生活の問題や応用問題の重要性 は言われてきたが,数学的モデル化などの方法的な面が強調されるようになってきたの は最近である。

ケ.算数で情報技術を使って考える力を伸ばす展開

算数において道具を使って考える力である。情報技術として,電卓やコンピュータは最 近特に強調されているものである。道具の使い方を学ぶのではなく,道具を使って考え ることを学ぶのである。

②第2段階:10の算数の力の設定

教科書分析(第1次)を行った結果をもとに討議を行い,次の点に留意する必要があることが論 じられた。「学習内容に固有の力もある」,「考えるという視点は,それぞれ互いに関係している」,

「算数で身の回りの問題を解決する力を伸ばす展開では,身の回りの問題を解決する力と身の回り の問題を算数の目で見る力に分けて考えることもできる」,「子どもが読んで分かるという視点も重 要である」,「考える際には自ら振り返ることも重要である」などである。

その結果,それまでの分析の視点に加え,「自ら振り返る力」を加え,すべてで,次の10の「算 数の力」にした。

ア.自ら考える力 イ.多様に考える力 ウ.自ら問題を見いだす力 エ.物事を関係付けて考える力 オ.筋道立てて考える力

カ.コミュニケーションをする力 キ.グラフをよみとる力

ク.算数で身の回りの問題を解決する力 ケ.算数で情報技術を使って考える力

コ.自ら振り返る力

③第3段階:3つの算数の力への焦点化

教科書分析(第1次)の経験と,今後本研究で開発する教科書の記述例の数を念頭において,教 科書を見る視点を,視点の重要度によって焦点化することにした。焦点化を図る際にしては,単一 の視点を3つ選ぶというよりも,複数の視点を包含するようにした。最終的な3つの視点と,それ らに含まれる力をまとめると,次の通りである。

10.自ら考える力

多様に考える,関係付けて考える,筋道立てて考える,問題を見いだす力,を含む 11.コミュニケーションをする力

多様に考える,関係付ける,自ら振り返る力,を含む 12.算数を使って考える力

(9)

れにも含めないこととした。また,最近の算数教育で重要とされている「算数的活動」,「学習の必 要感」については,「自ら考える」に関係付けて考えることにした。

この3つの視点を基にして,新たに,算数教科書の教師用指導書の分析を行い,これら3つの主 要な視点についての検討を進めた。なお,これら3つの算数の力について,より詳しく考察するこ とは,稿を改めて行うことにする。

引用・参考文献

(1)文部省教育課程審議会『幼稚園,小学校,中学校,高等学校,盲学校,聾学校及び養護学校 の教育課程の基準の改善について(答申)』1998年.

(2)平林栄一「数学教育の形式的目標に応ずる教材開発」全国数学教育学会18回大会,2003年,

2頁.

(3)長崎栄三「これからの社会と新しい算数・数学教育の構築」『科学教育研究』Vol.25 No.5,

2001年,344~350頁.

(4)国立教育政策研究所監訳『PISA2003 年調査 評価の枠組み OECD 生徒の学習到達度調査

(PISA)』ぎょうせい,2004年.

(5)渡辺良編『国際的な教育ネットワークの動向と課題-APECを中心に-』国立教育政策研究 所,2004年,66~84頁.

(6)長崎栄三「算数・数学の学力とリテラシー」『教育学研究』第70巻第3号,12~23頁,2003 年.

(7)数学的な考え方については,例えば,次のようなものがある。

中島健三『算数・数学教育と数学的な考え方』金子書房,1981年.

片桐重男『数学的な考え方・態度とその指導 1,2』明治図書,1988年.

松原元一『数学的な見方や考え方』国土社,1990年.

(8)新しい算数・数学の指導法については,例えば,次のようなものがある。

島田茂編著『算数・数学科のオープンエンド・アプローチ』みずうみ書房,1977年.

松原元一『算数教材の考え方教え方』国土社,1983年.

竹内・澤田編著『問題から問題へ』東洋館出版社,1984年.

小関煕純編著『図形の論証指導』明治図書,1987年.

古藤怜・新潟算数教育会『算数科多様な考えの生かし方まとめ方』東洋館出版社,1992年.

半田進編著『考えさせる授業 算数・数学(実践編)』東京書籍,1995年.

中島健三・清水静海・瀬沼花子・長崎栄三編著『算数の基礎学力をどうとらえるか』東洋館 出版社,1995年.

中原忠男『算数・数学教育における構成的アプローチの研究』聖文社,1995年.

国宗進編著『確かな理解をめざした文字式の学習指導』明治図書,1997年.

相馬一彦『数学科「問題解決の授業」』明治図書,1997年.

長崎栄三編著『算数・数学と社会・文化のつながり』明治図書,2001年.

(9)国立教育政策研究所教育課程研究センター『平成 13 年度小中学校教育課程実施状況調査報 告書 小学校算数』東洋館出版社,2003年.

参照

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