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「非連続型テキスト」を読むことの指導に関する考察

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「非連続型テキスト」を読むことの指導に関する考察

―大学教育における指導として―

A Study on Teaching How to Read "Non-continuous texts " 

 : As a teaching for University Students

仁野平 智 明             NINOHIRA Tomoaki

1.「非連続型テキスト」を読むことの指導の必要性

 大学生として必要な国語力を考えるに、学問を追究する上で必要とされる論理的に 読み書きする力は、だれしもが認めるものであろう。筆者は、大学初年次生における 論理を学ぶ指導の在り方について「書くことの形式的なスキルの習得よりも、まずは、

読むことによって論理意識を育む指導が必要」と指摘し、論理を学ぶ上でモデルとな る論証型の文章の要約文を分析し、学習者の論理をとらえて読む力の具体的な様相の 一部を明らかにし、立論部分への着眼の促しが、読むことにおける有効な指導となる ことを示した (1) 。文章を読むこと、とりわけ論証型の文章を読むことの指導が必要 なことはもちろんであり、そもそも「読むこと」の対象の中で、文章はその多くのウ エイトを占めるものだ。OECD の PISA 調査における、いわゆる「連続型テキスト」

(continuous texts)である。しかし、大学教育における読むことの指導においても、

「非連続型テキスト」 (non-continuous texts)」にも目を向けなければならないのは 論を待たないところであろう。図表を読み取る力は文系・理系を問わず求められるも のであり、筆者の調査でも、大学初年次生の30%が「文献などの資料から必要な情報 を得て、自分の考えを導くのに役立てる力」を「大学生として必要だと思う国語力」

の一つとして挙げている (2) 。「文献などの資料」と読む対象を広くした選択肢である ため、図表などを含んだ回答ととらえてよいだろう。学習者自身が必要と感じている のである。

 一方、大学教育の出口が社会への入口となっていることを勘案するに、社会人とし

て求められる国語力、というものを視野に入れなければならない。「効果的に社会に

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参加するために」 (3) 求められる国語力、論理的に読む能力を育成する、という視点が 必要である。さて、社会人としての読む能力としたときに、何を指標にすべきか。

PISA 調査は15歳児を対象とした学習到達度調査であるが、2011年には、PISA 調査の 成人版ともいうべき、PIAAC (4) の本調査が実施されており、調査の一分野である「読 解力」は「文章や図表を理解し、評価し、活用する力」と示されている (5) 。15歳児と 成人とで求められる「読解力」が異なるはずもなく、PISA 型「読解力」の定義は PIAAC においても踏襲されており、その対象も「文章」=「連続型テキスト」と「図表」=

「非連続型テキスト」とされている。社会人として必要とされる読む力の中に、 「非連 続型テキスト」を読む力が含まれていることを示しているのだ。

 本稿では、PISA・PIAAC においても求められている図表などの「非連続型テキス ト」、その中で、数量的な把握が求められるテキストを、大学生がどのように読むの か、その読み方の具体的な様相を把握するとともに、その能力を向上させるために必 要な指導のあり方を示すことを目的とする。

2.P I S A 型「読解力」における3つのプロセス

 PISA 調査においては、「情報へのアクセス・取り出し」「統合・解釈」「熟考・評価」

という「読解のプロセス」が設定され、各側面における「読解力」がとらえられ、そ れぞれの観点については、次のように把握されている (6)

PISA 型「読解力」の問題では、行為のプロセスとして、テキストの中の事実を 切り取り、言語化・図式化する「情報の取り出し」だけではなく、書かれた情報 から推論・比較して意味を理解する「テキストの解釈」、書かれた情報を自らの 知識や経験に位置づけて理解・評価(批判・仮定)する「熟考・評価」の3つの 観点を設定している」とある。

 2009年調査問題を例にすると、「統合・解釈」については「二つの文章はどのよう な関係ですか」 「どのような目的で書かれたものですか」 「ある読者が言いました。(中 略)このような意見を言うとしたら、どんな理由をあげたらよいでしょうか。文章の 内容にもとづいて、理由を書いてください」といった問が出されている。テキスト内 の情報の関係性をとらえることが求められている。また、「熟考・評価」に関しては、

「この主張のいう『何かほかの原因』として、どのようなものが考えられますか。原

因として考えられることを一つあげ、そのように考えた理由も書いてください」とい

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うように、テキスト内の情報をそれまでの自分の知識や経験との結びつけて理解する ことが求められている。

 2000年調査以来、日本の生徒の習熟度は「情報へのアクセス・取り出し」において は高いものの、それに比して「統合・解釈」「熟考・評価」の低いことが指摘されて きた。しかし、調査の性質上、得点結果の数値データから全体的な傾向をマクロ的に とらえることしかできない。個別の解答を精査して、3側面の具体的かつ質的な関連 性をとらえることはできないのだ。したがって、文部科学省をはじめとする教育諸機 関の取り組みも、「統合・解釈」「熟考・評価」の習熟度が低いのならばそうした形式 の学習を国語の授業に取り込むべし、といった当たり前のものになるのも必然であ る。しかし、「情報へのアクセス・取り出し」にしても、選択方式ゆえに正解できた 者もおり、正解者の習熟度には当然ながら差異があろう。また、「情報へのアクセス・

取り出し」から「統合・解釈」「熟考・評価」へという「読解のプロセス」の具体的 な関係性も、とらえていく必要がある。

3.調査の概要

 大学初年次生を対象として、入学後2ヶ月を経た6月に実施した。数量的な把握の 求められる「非連続型テキスト」を材料にして意見文を書かせてその内容を精査し、

先の3観点に関する読み取りがどのように発現するのか、つまり、大学生が「非連続型 テキスト」をどのように読むのか、その具体的な様相をとらえることとしたのである。

(1)課題について

 2008年度の岩手大学教育学部の後期日程入学試験、小論文問題をベースに作成し た (7) 。課題の文言は以下のようにアレンジした。

公立学校で「学校週5日制」が実施されて何年もたちますが、今でもその是非を めぐってさまざまな議論がなされています。資料Ⅰ〜Ⅳを根拠にして、「学校週 5日制」に賛成か反対か、いずれかの意見を述べなさい。

 なお、調査の目的に照らし、課題としての適切性について以下のように把握した。

【話題・内容】

・入学後2ヶ月の大学初年次生にとって、一日のスケジュールが随時始まる大学で

の生活ペースよりも、毎朝8時台から一斉に登校して一日の大半を過ごす小学校

から高等学校までの生活ペースの方が、感覚的になじみがある。よって、学校週

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5日制という話題には親しみを持って取り組みやすい。

・2002年度から公立小中学校及び高等学校が完全週5日制となったとき、ほとんど の学生が小学校4年生であり、それまでの第2・4土曜休業から週5日制への移 行を経験している。よって、自分の経験や知識と結びけて読み取る、すなわち「熟 考・評価」としての読みが十分に可能である。

・2010年度に東京都が、条件付きで公立小中学校の土曜日授業実施を認めるなど、

今日的な話題性が十分にある。

【形式】

・賛成か反対かを明らかにしたうえでの意見を求めることで、その根拠を示さざる を得なくなる。そのためには、自ずと図表を読むことになる。

・自由記述方式であるため、指導者は、学習者の読み取りの質的な部分に着目して 分析できる。

【PISA 型「読解力」3観点】

 ・「情報へのアクセス・取り出し」

賛否いずれかの意見に直接的に結びつくデータが明示されており、取り出す ことが比較的容易である。

 ・「統合・解釈」

複数の資料の関係性について言及することが可能である。5種の図表の中に は表裏の関係にある資料が多い。むしろ、関連させることが期待される資料 群である。

 ・「熟考・評価」

自分の経験や知識を関わらせて述べることのできる話題である。また、資料

Ⅰ「学校外教育費支出別算数学力平均値」は他の資料と異質なものであり、

これを参照することは、「熟考・評価」にあたると考えられる。

(2)学習者の実態

 対象とした学習者は、沖縄国際大学総合文化学部日本文化学科の初年次生23名であ

る。図表の読み取りについては、先行する1時間で、実数と割合の違いなど、図表を

読み誤らないための「情報へのアクセス・取り出し」に関する基礎的な学習を行った

だけで、「統合・解釈」「熟考・評価」に関する指導は行っていない。「非連続型テキ

スト」を読むことに関しては、高等学校までの学習状況が反映されるととらえること

(5)

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ができる。書くことに関する抵抗はそれほどなく、PISA 調査において指摘されてい るような自由記述方法式への無答(無記入)の多さについては、心配ないと思われる。

自由記述方式を、調査内容に関わるほどの大きなマイナス要素としてとらえる必要性 は高くない。

(3)調査内容・方法、その後の指導

 初年次生の必修科目「基礎演習Ⅰ」の時間において実施し、10分程度の概要説明の 後に、約80分で意見文を書かせた。シラバスでは、大学初年次生に必要な読み書き能 力のスキルアップ学習の一環として位置付けられている。

 時間内に記述を終了させて回収し、その後はTAとともに添削ポイントを確認し て、実際にはTAが添削を担当した (8) 。次時に添削した意見文を返却するとともに 自己評価表 (9) を配付して、今回の課題において論述上のポイントとなる5点を確認 させた。添削のポイントも、この5点を主軸としている。

4.調査結果の分析・考察

(1)「情報へのアクセス・取り出し」

 「資料X」のように根拠とした資料を明示していない者が6名いた。しかし、この6 名とも、「資料には」とのみ示しているか、いずれかの資料の選択肢の文言のを引用 して示すか、選択肢の内容を要約するかという手続きを踏んでおり、資料から、賛成 もしくは反対の裏付けとする何かしらの情報を取り出すことができていた。つまり、

23名全員が「情報へのアクセス・取り出し」に関する読み取りを行うことができてい たことになる。

 その詳細を見る。以下、 〈資料2〉を参照されたい。自己評価表の論述ポイント「2」

の「『一番多い』『かなり』『とても』などとせずに、数値を示している」に該当する 者は23名中8名、つまり3分の1程度にとどまる。大半の者が「多い」「とても多い」

「一番多い」といった、数量把握の点では甚だ不十分な表現をしているのだ。これは、

こうした把握で事足れりとする認識のありかたの反映と考えられよう。まず、多くの 者が、各資料における最大数値を示す要素に着目して、先のような表現を用いている。

「一番多い」として指摘した要素と二番目の要素との差が数%であっても「一番」は「一 番」であるという把握である。顕著な特徴に着眼したものとして認めれらるもののの、

全体における意味という視点が欠如していることは否めない。

(6)

−68−

 「とても多い」 「かなり多い」などとして指摘した要素について詳細に確認すると、概 ね、半数以上の要素についてであることが判明した (10) 。過半数という指標にもとづ いての指摘なのであり、学習者の読み方の特徴の一つが確認できた。もちろん、個人 の中に内在する数量的な把握の枠組みには差異があろう。しかし、過半数というのは、

割合をとらえるうえで最大の指標である。この過半数の優位性という既有知識を活用 して数値をとらえるさせることが、有効な指導の一つとなるのではないか。まずは、過 半数を占める要素への着目を自覚的に行わせ、それで満足することなく全体性の中で の意味をとらえるような視点をもつことができるような、具体的な指導が必要だろう。

 ここで、自己評価表のポイント「3」との相関を見たい。「生のデータを挙げるの ではなく、数値をまとめるなどしてイメージしやすい情報に適切に整理している」に 該当する者は、先の「2」に該当する者とほぼ重なるのである。つまり、数値の提示 には、その有意味化の操作がともない、「半数以上」「約〇割」などとして示されてい るのである。単に「数値は客観的が高い、これを示して根拠とすべし」と指導しても、

テキストの解釈につながらない無機的な「取り出し」にとどまってしまっては意味が ない。「統合・解釈」につながる「取り出し」となる指導を考えるべきであろう。

 以下にいくつかの例を示して分析を試みたい。なお、これ以降のA〜Fという標示 は、各々個別の学生の文章から抜き出したもので、同一符号のものは同一学生の文章 からの引用である。

A:資料Ⅲの「テレビを見たりゲームをする時間が増えて心配」と約5割もの保 護者が答えている。

B:資料Ⅳの(2)で、「疲れるようになった」「授業の時間が増えて、大変に なった」と半分以上の子どもが答えている。

C:資料Ⅱでは、「土曜日の休みを楽しみにしている」という割合が半数以上を 占めている。

D:資料Ⅱによると「子どもは土曜日の休みを楽しみにしているか」については、

約7割の親が楽しみにしていると回答しており、 「子どもの過ごし方」にも約 6割が満足している。実際に子どもたちも充実して、勉強をしたり人間性を 高めたりしているのはないかと思う。

 Aの「約5割もの」、Bの「半分以上」、Cの「半数以上」という表現は、先に述べ

たように、過半数の優位性を認識しているがゆえのものであろう。しかし、Bは「と

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てもそう」と「まあまあそう」の合計が、それぞれ56.1%、52.5%であるからよいとし ても、Cは「とても楽しみ」と「わりと楽しみ」の合計が75.3%であるにも関わらず

「半数以上」としてしまい、根拠としてトーンダウンさせてしまっている。これは、

割合について「過半数」以外に明確な指標をもっておらず、読み取りかねているもの ととらえることができよう。同様にDも、75.3%を「約7割」とし、64.4%を「約6 割」として雑駁な表現にしてしまっている。多数であることを示すのであるから、少 なくとも「7割以上」「6割以上」、望むべくは「4分の3もの」「3分の2近く」と いった把握、表現がほしい。なお、Dの学生へは、先のような表現にすることで自説 により有利な根拠として示せることになる旨を指導した。

 これらを総合するに、数値データそのものにとどまることなく、割合に着眼させる 指導、具体的な表現を示しての指導が、全体における部分の視点を獲得させることに なるといえるのではないか。「情報へのアクセス・取り出し」の指導におけるポイン トとして確認できる。そしてそれが、「統合・解釈」につながる「情報へのアクセス・

取り出し」なのである。

(2)「統合・解釈」

 それでは、A・B・Dそれぞれの後続文章を示して、「情報へのアクセス・取り出 し」から「統合・解釈」への接続について考察する。

A:このことは、資料Ⅳ(1)の「お父さん、お母さんや地域の人と、話ができ るようになった」と答える子どもの割合が40%しかないことと関係している。

これらのことから、子どもは土曜日の休みを家族と過ごすのではなく、一人 でテレビを見たりゲームをしたりして過ごしていることがわかる。

B:資料Ⅱを見て、土曜日が休みになってもその過ごし方に親はあまり満足して いないということがわかる。資料Ⅲを見ても、「ごろごろしていることが多 く心配」という回答が一番多い。子どもは学校から帰ると疲れていて、休日 はだらだらしているということは、あまりメリットがなく、かえって締まり のない生活を過ごしているということだと思う。

D:次に、資料Ⅳのデータで、「ふだんの生活の変化」は肯定的な変化の方が高

い割合を占めている。肯定的な変化は一つの項目を残して他はすべて4割を

超えているが、否定的な変化で4割を超えたものは2つしかなく、割合的に

は全体的に少数である。よって、大多数の子どもに、生活の変化によい影響

(8)

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が現れているので、今後の生活にも進歩が見られるだろうと思う。

 共通して指摘できるのは、これらのすべてが2〜3点の資料に触れて関係性を見出 しているということである。Aは、「5割もの」と「40%しかない」を対比させてお り、過半数の指標に大きく拠った読み取りであることがわかる。Bもほぼ同様であろ う。Dは、まず、資料Ⅳの(1) (2)を全体性において比較してその多寡について、 「4 割」という指標を獲得したうえで、全体性に関わる指摘をしている。これは、グラフ の横軸に20・40・60・80%とあることを適切に活用したものであろう。確かに、「肯 定的な変化」の選択肢10のうち8項目が4割以上「そう」としているのに対し、「否 定的な変化」の選択肢のうち「そう」が4割を超えたものは2項目しかない。指標を 20パーセントとしたのでは、「肯定的な変化」と「否定的な変化」のすべての選択肢 が該当してしまい、比較が意味をもたない。かといって、60%では両者の差は2対0 であるうえに、60パーセントに満たない「否定的な変化」の2項目も56.1%・52.5%で あり、6割からそれほどかけ離れたものではない。顕著な差として示すのにそれほど 有効な指標とは言い難い。「4割」は、「肯定的な変化」と「否定的な変化」の差を最 も顕著なものとして示しうる指標なのである。それぞれの項目という細部のみにとら われることなく、横軸の40%という指標に着眼できたのは、Dの文章に「割合」の語 が多用されていることと関係がある。割合、すなわち全体と部分との関係性をとらえ ようという意識が、「統合・解釈」に関わる読み取りを導くものととらえることがで きるのではないか。Dの学生は、特に高等学校での国語の授業や授業外で、図表から の情報を読み取りを学習した経験があるわけではない (11) 。関係したとすれば、前時 の学習(実数と割合の違いなど、図表を読み誤らないための「情報へのアクセス・取 り出し」に関する基礎的な学習)であろうか。であるとすれば、これも、先の割合へ の着眼の有効性を示すことになる。

(3)「熟考・評価」

 Aはさらに、次のように続けている。

A:最近では、外で体を動かす遊びよりもテレビやゲームで遊ぶ方が主流になっ

ているので、友達と秘密基地を作るといったような、学校で学べない大切な

ことを手に入れる機会が少ない、だとすれば、私はやはり土曜日の分を詰め

込みにするのではなく、計画的なペースで進む週6日制に戻すべきではない

かと思う。

(9)

−71−

 資料から読み取った情報を、子どもの遊びの様相の変化という、自分の知識と結び つけて論述している。資料Ⅲ・Ⅳとを比べることで、子どもの土曜日の過ごし方を、

対人関係という視点から具体的にイメージすることができたがゆえに、こうした話題 に言及したものと思われる。もっとも、「学校で学べない大切なことを手に入れる機 会が少ない」という部分は表現が未熟であり、たとえば「学校以外の、友達とともに 過ごすことで学んでいく機会が失われている今、学校は友達と過ごす貴重な場なの だ」などとした方がより説得力を持ち得たであろうし、当人もそうした思いからの意 見であったのではないか。

 他に、「熟考・評価」の側面から読み取っているものを示す。学力低下を話題とし て示した者が5名いるが、その内の3名については、それまでの叙述との関係性がな く新たな話題として唐突に示しているため考察の対象から外し、以下に示すE・F2 名の論述内容を見ていく。なお、学力低下の話題に先行する、資料との関連からの叙 述を含めて引用する。

E:私はどちらかと言うと反対です。(中略)資料にも「テレビやゲームをする 時間が増えた」「2日間の休みがあるので、のんびりできる」などの意見が 多く、有意義に使うという姿勢はあまり見られない気がします。しかし、正 反対の意見として、「自分の好きなことが勉強できる」「土曜日は塾や習いご と、日曜はゆっくり休養」など、学校での勉強以外の面で利用しています。

「子どもと過ごす時間が増えた」等の意見は、平日に親が共働きの家庭に とっては、とてもよい時間になっていると思います。だが、ゆとり教育が始 まって以来、学力の低下が問題となっています。このまま日本の子どもたち の 学力が低下すると大変なことになると思います。ですから、学校週5日 制は やめて、6日制に戻すべきだと考えます。

F:私は「学校週5日制」に反対です。土曜日も休みだと、平日の授業の時間が 増えるばかりでなく、土・日の休みの間に子どもたちは習ったったことを忘 れてしまい、効率が悪くなるからです。確かに、2日間休みがあることで子 どもたちはのんびりして心に余裕ができるし、自由時間も増えます。(中略)

しかし、テレビを見たりゲームをして過ごしたり、ごろごろしている子ども

たちは少なからず増加してしまっています。(中略)「ふだんの平日の生活が

あわただしくなった」や「勉強でわからないことが増えた」と答えている子

(10)

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どももいます。日本は今、学力低下が問題になっています。土曜日を休みに とで勉強がわからなくなり、テレビ視聴やゲーム時間が増えるのであれば、

学校週6日制にし、学力低下を食い止めることが大事です。

 Eの「学校週5日制」=「ゆとり教育」という短絡的な把握の是非については、こ こでは立ち入らない。また、Fが「反対」の根拠とした資料中の要素が少数であるこ とも、ここでは措く。目を向けるべきは、E・Fともに、資料群の中に学校週5日制 への賛成・反対の双方の根拠となりうる情報があることを把握したうえで、自らの知 識である「学力低下」の話題を結びつけている点である。これは、テキスト全体、話 題全体を構造化してとらえたがゆえに、賛否いずれも意見として十分に成立するもの と考え、最終的な判断材料を自分の中に求めるという思考操作を行ったものととらえ ることができる。

 A・E・Fに共通するものは何か。それは、複数の資料を参照して、土日の子ども たちの様子、もしくは学校週5日制という事態についての全体像を把握したうえで

「熟考・評価」に関わる読み取りがなされているということであろう。「統合・解釈」

における把握の度合いの高さが「熟考・評価」につながっていることを確認すること ができた。

5.まとめ

 大学生の、数量的な把握が求められる「非連続型テキスト」の読み方について分析・

考察することで、その具体的な様相をとらえるとともに、PISA 型「読解力」における

「情報へのアクセス・取り出し」 「統合・解釈」 「熟考・評価」がそれぞれ独立した要素 ではなく、「読解のプロセス」とされる所以、その関係性について、具体的なレベル においてその一部を確認した。特に、 「情報へのアクセス・取り出し」と「統合・解釈」

の関係性については、過半数という自分の中の指標について自覚的になることから始 め、割合への着眼が「統合・解釈」へと進ませるうえで有効であることを確認するこ とができた。

 しかし、「熟考・評価」の具体的な様相についての考察が、不十分なものであった ことは否めない。こうした文章が少なかったのは、課題の「資料Ⅰ〜Ⅳを根拠にして」

という文言から、自分の経験や資料外の要素に触れることは求められていないと考え

た学生が多かったことに起因する可能性もある。今後は、「熟考・評価」の側面に関

(11)

−73−

わる読み方のありようをより明らかにし、「情報へのアクセス・取り出し」「統合・解 釈」「熟考・評価」の「読解のプロセス」の緊密な関係性を精緻にとらえていくこと とともに、学生たちの読み方の特徴・傾向、読む力の具体的な様相、不足する要素な どをさらに詳細に把握して、 「非連続型テキスト」を読むことについての指導を構想す ることが必要である。

〔注〕

(1)仁野平智明「大学初年次生に対する読むことの指導―要約文の分析から見えてくるもの―」(『沖縄国際大学 日本 語日本文学研究』第15巻第2号 通巻第27号 2011.3.31)

(2)(1)に同じ。2009年10月に、沖縄国際大学の初年次生101名(調査対象:総合文化学部日本文化学科 48名、社会 科学系2学部2学科 53名)を対象に実施した[大学初年次生の「国語力」に関する意識調査]による。

(3)PISA 型「読解力」は、次のように定義されている。 Reading literacy is understanding, using, reflecting on  and engaging with written texts, in order to achieve one,

s goals, to develop one,

s knowledge and potential,  and to participate in society (「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加する ために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考し、これに取り組む能力」)なお、"and engaging with"(「これ に取り組む」)という文言は、第4サイクルである2009年調査で新たに追加された。

(4) Programme for the International Assessment of Adult Competencies 「国際成人力調査」と翻訳されてお り、2011年8月〜2012年1月の間に実施される。「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」の3分野 での調査を行う。

(5)「OECD 国際成人力調査 PIAAC」パンフレット(国立教育政策研究所HP http://www.nier. go.jp/04̲kenkyu̲

 annai/pdf/piaac̲pamph̲4.pdf)

(6)「読解力向上プログラム」(文部科学省 2005年12月 http://www.mext.go.jp/a̲menu/shotou/gakuryoku/ 

siryo/05122201/014/005.htm) なお、2000年、2003年、2006年調査においては「情報の取り出し」「テキストの解釈」

「熟考・評価」とされていた。

(7)『2011年版 大学入試シリーズ 岩手大学』(教学社 2010年11月) 後に〈資料1〉として示す。

(8)沖縄国際大学大学院(地域文化研究科南島文化専攻言語文化領域)の学生、勝連亜衣氏が担当した。

(9)〈資料2〉参照。

(10)課題中の「資料Ⅳ」(1)(2)を指摘しているものが大半である。

(11)添削した意見文をもとにして自己評価表を記入させるとともに、文章表現や図表の読み取りに関する高等学校での 学習状況について調査した。〈資料3〉を参照されたい。なお、図表の読み取りについて「国語の授業で」学んだこ とがあると回答した学生は、23名中4名であった。

(12)

〈資料1〉

(点)

学校外教育費支出別算数学力平均値       (JELS2003)

0 1万円未満 1〜3万円 3〜5万円 5万円以上

土曜日が休みになったことで、よかったことや困ったこと(保護者の回答)

(%)

とてもそわりとそあまりそう ぜんぜんそ う思う  う思う 思わない う思わない

(通つていない)

差どもの自由時間が増えてよかっ  8.3   39.4   37.6   14.7 子どもと過ごす時間が増えて、子

どもの新しい面を発見できた   3.8  27.1   52.4   16.7 土曜日は塾やおけいこごとに、日

曜日は休養に使えるのでよかった  3.4  14.1   23.9   10.6 土曜スクールなどに生き生き通っているので安心できる      0.7   4.4   7.2   3.6

− 48.0 84.0 ぷ駿琵1グ'−j4""17.3  33.4   32.3   17.0

ごろごろしていることが多く心配 9,3  25.2   42.7   22.8 塾やおけいこごと、スポーツクラ

ブで家計の負担が大きい     7.5  13.0   28.1   10.2 土曜日も両親共働きなので、子ど

もだけで家にいるのが不安    9. 0  10. 8   14. 8   6. 9 おけいこごとや塾に依存することが多くなった         4.1   9.1   17.9   14.3

  −   −   41.2

(共働きでない)   58.4   54.5

−74−

土曜日の過ごし方(保護者の回答)

(1)子どもは土曜日の休みを楽しみにして (2)子どもの土曜日の過ごし方に満足しているか

 いるか      (%)      (%)

とても楽 わりと楽 あまり楽 ぜんぜん楽  とても満 わりと満 まあまあ あまり満 ぜんぜん しみにし しみにし しみにし しみにして  足してい 足してい 満足して 足してい 満足して でいる  ている  ていない いない    る    る    いる   ない   いない  20.0   55.3   16.3    2.5      4.2    19.1   41.1   28.3    7.4

(13)

「土曜日が休みになって、ふだん、学校がある日で変わったことはあります か」という問いに対する子どもの回答

(1)ふだんの生活の変化(肯定的な変化) 月曜日に友だちと会うのが待ち遠しくなった 2日間の休みがあるので、のんびりできる 総合的な学習の時間が楽しくなった 学校へ行くのが楽しくなった

友だちと協力して調べたりまとめたりできる ようになった

まとめたり発表することが多くなった いろいろな体験ができるようになった お父さん、お母さんや地域の人と、話ができる ようになった

月曜日に新しい発見が増えた

自分の好きなことが勉強できるようになった

(2)ふだんの生活の変化(否定的な変化) 学校から遅く帰るようになって、疲れる ようになった

授業の時間が増えて、大変になった 疲れているような気がする

調べたいことをまとめるのがむずかしく なった

ふだんの平日の生活があわただしくなづた 資料が見つからなくて、困るようになった 資料を探して調べるのが面倒になった 課題が決まらなくて、困るようになった 前の週にやった勉強を忘れてしまう 学校の忘れ物が多くなった 勉強でわからないことが増えた

−75−

(14)

−76−

 〔資料出典と調査概要〕

 資料Ⅰは耳塚寛明「教育における格差―学力格差の実態と政策課題」『教育展望』1・2合併号、教 育調査研究所、2007年。資料Ⅱ〜Ⅳは深谷昌志・深谷和子監修「『完全学校週5日制』と小学生」『モノ グラフ・小学生ナウ Vol.23 - 1』ベネッセ未来教育センター、2003年。(図表については一部表記を変え たところがある)。

 各資料の調査概要は以下のとおりであった。資料Ⅰでは、実施者が JELSC(Japan Education  Longitudinal Study)、対象者は関東地方中都市の小学校6年生約1200名とその保護者、実施時期は 2003年から2004年であった。資料Ⅱ〜Ⅳでは、対象者が首都圏の公立小学校4・5・6年生とその保 護者で、実施時期は2002年11月、方法は学校通しによる質問紙調査、サンプル数は小学生889名、保護 者825名であった。

(15)

〈資料2〉

基礎演習I

20 1 1. 6. 1 5  担当:仁野平智明

学籍番号 氏名

★資料から読み取ったことを根拠にして意見を述べるトレーニング①〈続き〉

 次の5つが、論述上のポイントです。そのうち、1・2は必須条件であり欠かせないもので す。 3・4・5は論の説得力を増すための工夫であり、必要に応じて用いるとよいでしょう。

常にそうして書かなければならないというものではありません。自分の意見文を確認してみま しょう。

ポ イ ン ト ○・× △(△とする理由)

1 「資料X」などとして、どの資料を根拠に しているかを提示している。

2  「一番多い」「かなり」「とても」などと曖 昧にせず、資料の数値を示している。

生のデータを挙げるのではなく、数値をま とめるなどしてイメージしやすい情報に適 皿こ整理している。

 EX.約75‰つまり4分の3     54%→半数以上

4 複数の資料を収り上げて根拠とし、多元的 な意見となるようにしている。

自説に不利な要素へのフォローアップをし ている。

 EX.確かに、資料Zには○○○などの否   定的な意見もある。しかし、これは△△

  △であるため、解決するのは難しくない。

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(16)

〈資料3〉

 次に、高校の国語の授業で、または授業以外の小論文指導一入試指導などで.資料を読み 取ったり意見文を書いたりという学習がどのようであったか答えてください。○(習った・

やった)または×(やっていない)だけでもよいですし、具体的に書いてくれても結構です。

学 習 の 内 容 国語の授業で 授業外で

マッピングやKJ法など、書こうとする内 容についてのアイディアを出す方法につい て。

説得力のある文章にするには根拠を示す必 要かおるということ。

どのようなものが根拠としてふさわしい か、吟味すること。

想定される反論を示したうえでそれを否定 して自分の意見の説得力を増す、という述 g方について。

図表などからどのようにして情報を読み取 るかについて。

読み取った情報を、自分の意見との関係か らどのように整理するかについて。

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参照

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