■ 短 報
シラバスからみる看護学士課程の
「看護倫理」教育
Examination of Nursing Ethics Education in Nursing Bachelors Programs from contents of Syllabuses
キーワード:
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:看護専門職の育成には、看護実践能力はもとより、高度化する医療の中と多様な価値観を有する人間への理 解を基盤にした倫理的看護実践をなし得る人材が求められている。そのような意味において、看護教育上、倫 理にかかわる教育は中核となるべきものとして考えられている。そこで本研究は、
193
校の看護学士課程の「看護倫理」教育について、シラバスとカリキュラムを元に「生命倫理」科目群と比較する形でその特徴と傾 向を明らかにした。「看護倫理」科目は増加し、
42
%の大学で「看護倫理」科目があり、科目の特徴は「必 修・専門」科目で、教育の担い手は看護専門家が主であった。内容は倫理的問題あるいは課題を解決するため の方法論またはモデルや事例検討に焦点がおかれていた。本研究の結果から、独立科目の設置と科目名称のさ らなる整理、実習経験との関連性の深化、生命倫理科目群との違いの明瞭化、内容構成をふまえた教育の担い 手の検討が課題であった。川上 祐美
2Yumi KAWAKAMI
鶴若 麻理
1Mari TSURUWAKA
1 聖路加看護大学 St. Luke’s College of Nursing
2 早稲田大学人間総合研究センター Advanced Research Center for Human Sciences, Waseda University
Ϩ .研究の背景と目的
先進医療とそれに伴う倫理的問題が複雑に絡み、
保健医療福祉を取り巻く状況は著しい変化を遂げて いる。そのような中、看護専門職の育成には、看護 実践能力はもとより、多様な価値観を有する人間へ の理解を基盤にした倫理的看護実践をなし得る人材 が求められている。そのためには倫理にかかわる教 育は看護教育上、中核となるべきものであろう。
山田らの3年課程の専修学校での調査1 では、倫 理に関する教育は「倫理学」「生命倫理(学)」「医 療倫理 (学)」「看護倫理 (学)」等の科目で行われ、
「倫理学」53.8%と最も多く、次いで「生命倫理学」
49.7%、「看護倫理学」16.3%と続く。2002年の桂川2
の看護系大学55校の調査では、「生命倫理」52.7%、
「看護倫理」18.2%であった。
教育内容の面からみていくと、看護倫理に関する 考察が生命倫理のそれにすりかわり、生命倫理の課 題に制約されているとの指摘もあった3。しかし最 近の伊藤ら4のデルファイ法による研究では、専門 家が合意を得た看護倫理の教育内容には「看護倫理 の概念」「倫理綱領」「倫理的問題と解決方法」「実 践教育場面における問題とアプローチ」が含まれ、
倫理的問題解決の方法やアプローチに関心が向けら れてきている。勝山ら5は、看護基礎教育で、臨床 の倫理的問題を同定、分析、解決する能力を身につ けさせる教育内容が必要であると指摘する。そのよ うな中で、看護倫理教育は知識の伝達にとどまって
Ϫ 結果
1
.各科目カテゴリーの割合「生命倫理 (学)(論)」を開講している大学は52%
(100校) であった。一方「看護倫理 (学)(論)」を開 講している大学は42% (82校) であった。科目名称 が「生命倫理 (学)(論)」「看護倫理 (学)(論)」で はないが、内容は「生命倫理」や「看護倫理」に相 当する科目(以下、③その他とする)を開講してい る大学は46%であった。また、①生命倫理と②看護 倫理の両科目のある大学は20%であった。①②③ど れも有しない大学は4%であった。③その他の科目 名の分類は、「倫理学」16%、「医療倫理」15%、「生 命+倫理+α」14%、「看護+倫理を含む」14%、
「 生 命 + 倫 理 + 医 療 」12%、「 医 療 + 倫 理 + α 」 6 %、「 哲 学 」5 %、「 看 護 + α( 倫 理 含 ま ず )」
4%、「それ以外」14%であった。
2
.「生命倫理」科目群の全体像1
)「必修/
選択」と「教養/
専門」の別、配当学年、方法
Ⅲの1で示したように、「生命倫理」(①生命倫理)
を開講している大学は52%(100校、該当科目106)
であった。該当した106科目のうち、必修54%、選 択23%、選択必修3%、不明20%であった。また、
教養47%、基礎33%、専門6 %、不明14%であっ た。配当学年は、1年46%、2年22%、3年7%、
4年7%、複数年10%、不明8%であった。単位数 は、2単位44%、1単位37%であった。方法に関し て、カリキュラム内で明記されている講義、演習の 別に従い分類すると、講義84%、演習2%、不明 14%であった。
2
)科目責任者の特徴科目責任者の勤務形態は、106科目のうち常勤 59%、非常勤25%であり、常勤のうち、当該学部や 学科(看護学部等)に属している者62%、他学部・
学科所属38%であった。科目担当者数は単独72%、
複数11%、不明17%であった。科目責任者の専門領 域は、看護13%、看護以外67%で、この「看護以 外」は、哲学・倫理学33%、医学11%、生命倫理学
6%であった。
3
)「生命倫理」の内容構成要素内容構成要素として、106科目のシラバスから6 つのカテゴリーを抽出できた。〔 〕内は、カテゴ リーに含まれる要素である。(1)倫理学の基礎と原 いるという指摘や6、基礎看護学の領域と捉えられ7、
「看護倫理」教育の方法論は具体化しておらず、継 続的な教育は、一部の教育者の実践に留まっている 点も指摘されている8, 9。また一つの授業科目として の看護倫理の教授法や内容に関する研究も多くはな い10。教育課程全体の枠組みの中の看護倫理の位置 付けが重要であり、かつ現状では不明確との指摘が
ある7, 10。
看護倫理という名のもとで教える場合、「看護」
を冠することで帯びる特殊性はあるのかという指摘 があるなかで11, 12、大学数が増え200校をこえる現 在、「生命倫理」科目群との違いを明確にしなが ら、「看護倫理」科目の特徴や独自性を改めて明確 にすることには意義があろう。
そこで本研究は、わが国の看護学士課程の「看護 倫理」「生命倫理」科目群を抽出し、教えられてい る内容や科目群の概要を明らかにすることを目的と した。本研究は、わが国の看護学士課程における看 護倫理教育のあり方を検討する一助となると考え る。
ϩ .研究の方法と分析の対象
本研究は、全国の看護系大学200校 (2011年8月時 点)の各大学のホームページ上に公開されているカ リキュラム及び「看護倫理」「生命倫理」のシラバ ス(2011年度版)を分析対象とした。シラバスデー タ等がない大学は7校で総計193校を最終的な分析 対象とした。シラバスからは「科目名称」「内容」
「方法」「開講年」「教養/専門」「必修/選択」「単位 数」「担当者の特徴」を抽出し、科目群の全体像と科 目内容を分析した。科目内容は、シラバスの中の講 義内容と教科目標・目的の部分を意味のまとまりご とに切片化し、カテゴリー化を試みた。科目名称の カテゴリーは、次の4つにわけて分析することとし た。①生命倫理:科目名称に「生命倫理(学)(論)」
又は「バイオエシックス」のみ、②看護倫理:科目 名称に 「看護倫理 (学)(論)」 のみ、③その他:①や
②以外の名称でかつ内容は①や②のもの、④関連科 目:哲学・思想系の科目で、かつ科目名に「倫理」
がはいっているもの、である。本論文では、主とし て①と②を分析した。
なお、本研究の分析対象は、公表データ利用のた め、倫理的配慮として記載すべき事項は特にない。
概念(アドボカシー・ケアリング・協働・アカウン タビリティ)、その他の重要な言葉や概念〕83%、
(2)倫理学の基礎と原則〔倫理学理論、倫理原則〕
60%、(3)倫理規定と法〔倫理綱領、法〕63%、
(4)方法論・モデル〔倫理的ジレンマ、倫理的意思 決定プロセス、倫理的問題への接近法〕 88%、(5)各 論〔領域別 (母性看護、小児看護等) の倫理的問題〕
54%、(6)研究倫理13%、(7)生命倫理〔定義、患 者の権利、インフォームドコンセント、患者と医師 の関係性、パターナリズム、尊厳、SOL と QOL、思 想 (優生思想、パーソン論等)〕39%、(8)事例検討
〔実習に関連した事例検討、それ以外〕73%、(9)倫 理的感受性8%、(10)その他7%であった。「事例 検討」の内容は、臨床事例の検討が63%、実習に関 連した事例検討が13%であった。
4
.「看護倫理」と「生命倫理」の両科目がある場合「看護倫理」「生命倫理」両科目がある大学は193 校中20%(39校)であった。その場合は、必修−必 修54%で、低−高学年66%であった。また科目責任 者は、同一でない場合が67%、同一が8%、一部同 じが5%であった。
ϫ 考察
「看護倫理」科目のシラバスでは、科目目的の記 述がないものが3割程度あり、「必修」「専門」科目 で、1年次以外での開講が多く、「1単位」「講義形 式」の傾向がみられた。科目責任者は常勤の看護専 門家で基礎看護領域が多く、単独で教えられる傾向 があった。さらに内容構成は「方法論・モデル」
「看護倫理の基礎」「事例検討」が多く、看護倫理で も生命倫理が教えられていた。一方、「生命倫理」
は「必修」「教養/基礎」「低学年」「2単位」「講義 形式」の傾向があり、科目責任者は、他学部・他学 科を含めて常勤の形態が多く、看護領域以外の専門 家で単独での担当が多かった。さらに内容構成は、
トピックスや生命倫理総論が多く、かつ看護倫理に ついても教えられていた。
本研究の結果をふまえ、1 .独立科目の設置と科目 名称のさらなる整理、2 .実習経験との関連性の深 化、3 .生命倫理科目群との違いの明瞭化、4 .内容構 成を鑑みた教育の担い手の検討、という4点につい て考察を加え、本研究の限界と課題を述べたい。
則〔倫理学理論、倫理原則〕38%、(2)メタ倫理学
〔倫理の基本用語 (善、べし等) の意味、用法〕3%、
(3)生命倫理総論〔歴史、関連する法、思想、概念〕
90%、(4)看護倫理〔定義、倫理的意思決定、倫理 的問題への接近法、職業倫理と倫理規定、倫理的看 護の基盤概念(アドボカシー・ケアリング・協働・
アカウンタビリティ)、その他の概念〕25%、(5)ト ピックス〔生命の始まり(生殖医療、中絶等)、生 命の質(臓器移植、医学研究への参加等)、生命の 終わり (脳死、安楽死等)〕92%、(6)事例検討〔事 例に基づくディスカッション、ディベート、グルー プワーク〕28%であった。1科目の中には、各カテ ゴリーが重複していた。トピックスが、内容を占め る量としては一番の重みづけがあった。さらに、倫 理学の基礎では、そのうち「倫理理論」17%、「倫 理原則」33%であった。
3
.「看護倫理」の全体像1
)看護倫理の科目目的「看護倫理」を開講している大学は、42%(82校、
84科目)であった。シラバスの科目目的を抽出する と、84科目のうち、「科目目的記載なし」29%、「看 護倫理の基礎的知識の習得」16%、「倫理的感受性 を高める」8%、「倫理的意思決定を学ぶ」7%で あった。
2
)「必修/
選択」と「教養/
専門」の別、方法、教 科書84科目のうち「必修/選択の別」は、必修80%、
選択9%、不明11%であり、「教養/専門の別」は、
専門76%、基礎11%、不明13%であった。配当学年 は、多い順に2年30%、4年26%、3年24%、1年 16%、 複 数 年2 % で あ っ た。 単 位 数 は、1単 位 76%、2単位11%であった。方法は、講義76%、演 習6%、講義と演習1%、不明17%であった。教科 書使用は50%、不使用は29%であった。
3
)科目責任者の特徴84科目の科目責任者の勤務形態は、常勤75%、非 常勤10%、不明15%であり、科目担当者数は、単独 67%、複数18%であった。科目責任者の専門領域 は、看護78%、看護以外5%であった。専門領域で は基礎看護が44%であった。
4
)「看護倫理」の内容構成要素「看護倫理」の内容構成要素は84科目のシラバス を分析したところ、次の10のカテゴリーを抽出でき た。(1)看護倫理の基礎 〔定義、倫理的看護の基盤
に焦点をあて、看護者としてどう行動し、いかなる 方略があるのかに焦点がおかれている。双方の科目 内にある「看護倫理」「生命倫理」の要素は、違い を明確化するためか、混在しているのかはシラバス のみでは明らかにできないが、科目担当者は、その 意図をシラバス上に明確にすることで、学生に対し てその違いを伝えることができるのではないかと考 えられた。
4
.内容構成を鑑みた教育の担い手の検討「看護倫理」科目は、看護専門家で単独で教えら れる傾向がみられたが、「生命倫理」同様、倫理学 の基礎や原則(倫理学理論や倫理原則)も教えら れ、かつ倫理的問題の分析が特に重視されていた。
臨床の倫理的問題を考えるには、看護や医学の知識 は無論、その事例を倫理的な観点から分析するため の知識が必要になる。それは、倫理原則の背景にあ る様々な倫理学理論、倫理的な推論力に基づく系統 的な思考のプロセスを教授することが求められる。
そのためには教育の担い手には、前述したような倫 理学的思考の基盤となる倫理学の知識を有している ことが求められると考えられた。
本研究は193校の全数調査として意義があると考 えるが、本研究の限界はシラバスのみでは詳細な授 業内容まで明らかにできないことである。内容構成 のカテゴリーの精査を含め、科目担当者への調査が 今後必要である。さらに各大学において、倫理に関 連するような科目や授業(1コマから)がどのくら いあり、かつその内容はいかなるものであるのかを 改めて洗い出し、そのことをふまえた授業展開や相 互の連携を探求していく必要がある。
Ϭ 結論
わが国の看護学士課程の「看護倫理」科目につい て、193校のシラバスとカリキュラムをもとに、「生 命倫理」科目群と比較する形でその全体像の傾向と 特徴を検討した結果、以下のことを得た。
1 .「看護倫理」を開講している大学は増加し42%
で、「必修/専門」科目が約80%で、1年に開講 されることは少なく、教育の担い手は看護専門家 が主であった。一方、「生命倫理」を開講してい る大学は52%で、「必修」「教養/基礎」科目、か つ「低学年」で教えられ、教育の担い手は看護専 門家以外が主であった。
1
.独立科目の設置と科目名称のさらなる整理 先行研究と比較すると、本研究の結果から独立し た「看護倫理」科目の増加が明らかになった。しか し現状では「生命倫理」科目の方が上回っていた。Ⅲの1で示したように「③その他」に分類した科目 の内、看護倫理の内容を含むが異なる名称もみられ た。多様な科目名称は個々の大学の独自性や多様性 を反映しているが、同じ内容構成要素をもつ科目で あっても、異なった科目名称が未だ使用されている 現状は、「看護倫理」自体の認知度や独自性を高め ることにつながらないと考えられる。科目名称のさ らなる整理と独立科目としての「看護倫理」の設置 が求められる。
2
.実習経験との関連性の深化本調査の結果より、「看護倫理」では倫理的問題 の分析法や事例検討を取り上げる傾向がみられた。
全体的に講義形式が多かったが、倫理的問題の分析 等を具体的に学ぶためには、演習形式も有効ではな いだろうか。授業で取り上げる事例のテーマも、看 護師が日常実践でよく直面するような倫理的問題 や、学生が実習で遭遇すると思われるケースを取り 上げることで、将来の看護実践とのつながりをより 意識した形になると考える。低学年次の基礎的な実 習を含め、臨地実習終了あるいは終了に近い4年次 までに体験した倫理的問題とその気づきを深め、そ れを意識させるような事例の提示や授業展開は重要 であると考える。和泉11も看護倫理が求められる場 面の大半は、看護実践の中に存在していると指摘す る。これらは、「看護倫理」科目の特徴や独自性が より明確化すると考えられた。
3
.「生命倫理」科目群との違いの明瞭化「看護倫理」と「生命倫理」の内容構成を比較す ると、「倫理学の基礎と原則」は共通した内容であ り、「各論」「トピックス」も共通性がみられた。し かし双方の科目のカテゴリーが異なるのは、例えば 生殖医療を扱う場合、「看護倫理」では「看護」と いう視点からそれを論じ、検討するであろうと思わ れるシラバスの記述になっており、取り上げる視点 や角度の違いみられたからである。「倫理的問題へ の接近法」や「倫理的意思決定」は「看護倫理」に 特化し、さらに職業倫理に関する「倫理規定」もよ く取り上げられていた。このように「看護倫理」に おいて、科目名称からも当然ではあるが、「看護」
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