磁性シートの磁力制御に基づく積層させた複数紙面への同時描画システム
Simultaneous Drawing System for Multiple Laminated Magnetic Sheets Using Magnetic Force Control
1w120434-6 塙 克樹 指導教員 橋田 朋子 准教授
HANAWA Katsuki Assoc. Prof. HASHIDA Tomoko
概要: 本研究では,紙面の表現をコンピュータ制御で拡張することを目指し,特に複数枚の積層させた紙に同時 に情報の印字や編集をする仕組みの検討を進めている.本研究では,磁力が紙やシートを透過する性質と磁性シ ートが磁力によって印字および消去ができる性質に着目し,他の機能性インクを塗布した紙と比較して,積層さ せた状態で複数枚同時に描画できる磁性シートの可能性を検討した結果を報告する.基礎実験より,磁石の表面 の磁束密度に応じて磁性シートの濃淡が変化することや,電磁石を制御することで磁性シートの濃淡や同時に描 画できる枚数を増減させることができることが明らかになった.その結果に基づき電磁石を
PWM
制御するシス テムを構築した.キーワード:磁石,紙,ペーパーコンピューティング, 積層,描画,手書き Keywords: magnet, paper, paper-computing,drawing,hand drawing, lamination
はじめに
近年コンピュータでしかできない表現を紙面で行う ペーパーコンピューティングが盛んである.橋田らは コピー&ペーストや部分消去を紙面上で実現した[1].
筆者は複数枚積層させた紙を同時に描画することをペ ーパーコンピューティングの残された課題として考え た.紙面上でコンピューティングする手法としては紙 に熱,光,圧力,磁力などの物理刺激によって発色・
印字が可能な機能性素材を使用し,物理刺激を制御す る手法が考えられる.本研究では特に磁力が紙やシー トを透過する性質に着目した.図
1
に示すように磁力 で印字できる磁性シートと磁力の制御によって複数枚 積層させた状態での同時描画を検討した結果を報告す る.図 1: 提案システムの動作の様子
磁性シートによる同時描画システム
2.1.
提案手法磁力はシートや紙を挟んでも透過する性質がある.
この性質は紫外線や熱に勝ることが熱,紫外線,磁力
を比較する予備検討より明らかになっている.このよ うな磁力の性質を用いるために磁力によって制御でき る素材として本研究では磁性シートを選択した.磁性 シートは磁力によって印字や消去が可能な性質がある.
磁性シート(新薄型裏消しシート(A-2サイズ),ケミ テック株式会社製)とは有機溶媒中に封入した酸化鉄 と酸化チタンをゼラチン膜で覆ったマイクロカプセル を透明
PET
フィルムにコーティングしたシートであ る.磁力をシート表面からかけることで酸化鉄が磁石 に引き寄せられカプセル上部に移動し,表面の色が黒 に近づく.逆にシート裏面から磁力をかけると酸化鉄 はカプセル下部に移動し色は白に近づく.一度表面か ら印字しても裏面から磁力を与えることで消去できる リライタブルシートである.本稿では磁石と磁性シー トの性質に着目して,積層させた複数枚の磁性シート に任意の磁力をかけることで同時に制御する手法を提 案する.2.2.
システム実装本システムの構成は図
2
に示すように印字制御部分,出力部分,消去制御部分の三部から構成される.具体 的に,印字制御部分は
PC
上のopenframeworks
でarduino
とシリアル通信を行い,パルス幅変調(以下PWM)を制御している.外部電源で 12V
を供給し,パワーMOSFET(2SK2232,東芝製)で増幅させて電 磁石に与える.出力部分には磁性シートを用いる.消 去制御部分にはマグネットシート(異方性
MG
シート テープ付,ツチノ製)を用いて,磁性シートを印字し た面と逆の面からこすりつけることで消去する.実験
磁性シートの特性を明らかにするとともに,磁性シ ートを描画する電磁石の制御を可能にするための実験 を二つ行う.一つ目は電磁石表面の磁束密度と色濃度 の関係を調べる実験である.二つ目は電磁石表面の磁 束密度と同時に描画された枚数の関係を調べる実験で ある.
3.1.
磁束密度と色濃度の関係電磁石を
PWM
制御して,電磁石表面の磁束密度を 変化させることで描画面の色の濃さ(以下色濃度)の 変化を調べた.色濃度とは白を255,黒を 0
とする,プログラミングで多く使われる値である.色濃度の変 化を調べるために
PWM
を26
段階に分けて電磁石に 与え,磁性シートに点を印字した.電磁石で印字した 磁性シートをスキャナで取り込んだ.その後目視によ って印字された位置を特定し,印字された部分の中央 付近を5
点,側面付近を5
点の色濃度の平均を算出し た.結果を図3
に示す.横軸が電磁石表面の磁束密度 の値で,縦軸が色濃度である.目視で印字を確認でき る値は8.83[mT]からでその時の色濃度は 179.8
とな っている.また,図3
を見ると72.82[mT]以降色濃度
は161.78
を平均として値が飽和することがわかる.3.2.
磁束密度と同時描画可能枚数電磁石を
PWM
制御して,電磁石表面の磁束密度を 変化させることで積層させた磁性シートの同時に描画 できる枚数の変化を目視によって確認した.結果を図4
に示す.横軸が電磁石表面の磁束密度の値で,縦軸 が同時に描画されたことが確認された枚数である.この結果からコンピュータからの制御によって複数 枚積層させた状態で同時に描画できる枚数を変化させ ることが可能であることがわかる.また,描画できる 枚数は磁束密度におよそ比例的に増加し,これ以降も 増加していくと考える.
3.3.
システム動作確認枚数を書き分けるためのアプリケーションを作成し た.図
2
のシステムによって電磁石をPWM
制御して,24.93[mT]および 80.67[mT]の磁束密度を磁性シート
にかけた.その結果を図1
に示す.この結果よりPWM
制御によって積層させた状態で同時に描画できる枚数 をおよそ6
枚と2
枚で書き分けることが可能であるこ とがわかる.結論
本稿では積層させた状態で複数枚同時に描画できる 紙として磁性シートが適することを確かめた.また磁
性シートの諸特性を明らかにした.磁性シートは高い 磁束密度を持つ磁石を近づければ,より濃い色で描画 できるが,やがて色濃度は飽和する.また
PWM
を制 御すれば描画時の色濃度や積層させた状態で同時に描 画できる枚数を制御できる.この結果を応用すれば,紙面のある部分と別の部分で複写できる枚数が異なる アプリケーションが実装できる.また,本稿では磁性 シートを一枚ずつ全面一括で消去することのみを扱っ たが,磁性シートを積層させた状態で部分的な消去も 可能であると考える.
図 3: 磁束密度と色濃度の関係
図 4: 磁束密度と同時描画可能枚数の関係
参考文献
[1]
橋田,西村,苗村,”Hand-rewriting :
紙面上における人 とコンピュータの協調的な加筆と消去”,日本バーチャルリア リティ学会論文誌,Vol.19,No.3,pp.367-375,2014.150 160 170 180 190 200 210
0 20 40 60 80 100 120 140
色濃度
磁束密度[mT]
0 2 4 6 8 10
0 20 40 60 80 100 120 140
同時に描画できる枚数
磁束密度
[mT]
図 2: システム構成図