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説話法による犯罪デジスタンスの分析

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説話法による犯罪デジスタンスの分析

〜常習犯罪者が犯罪を止める理由・背景〜

山 内 宏太朗 守 山 正 渡 邉 泰 洋

1 . はじめに

わが国では高齢犯罪者の問題が深刻であって、 これらの者を収容する刑 事施設ではその処遇のあり方が盛んに議論されている3。 その多くは、 青 少年期に犯罪を開始し、 再犯を重ねるうちに中年、 高齢となった者である。

他方、 欧米諸国では近年次第に問題視されるようになったものの、 わが国 に比べ、 高齢犯罪者問題はそれほど深刻ではない。 もちろん、 各国は従来 から犯罪常習者の問題に直面しており、 その対策には依然決定打がみいだ されておらず、 刑事政策普遍の問題と言わなければならない。

しかし、 他方で、 犯罪経歴を重ねながら、 突如犯罪を止める者も少なく ない。 欧米諸国で高齢犯罪者が少ないのは、 まさしくこのような者が多い ことを示している。 この問題は、 近年、 犯罪学領域で 「デジスタンス (

)」 (デシスタンスとも発音する) のテーゼとして知られる。 そ して、 犯罪を止めた者を 「デジスター (

)」 と呼んでいる。 伝統的 に犯罪学は19世紀以降、 犯罪者の行動に関心を示し、 人はなぜ犯罪を行う

1 拓殖大学政経学部教授 2 本学文学部非常勤講師

3 平成20年版 犯罪白書 (法務省法務総合研究所編、 平成20年11月発行) は特 集で 「高齢犯罪者の実態と処遇」 を取り扱い、 その深刻な状況を提示している。

1 2

(2)

のかを探求してきた。 いわゆる犯罪原因論であるが、 デジスタンスは逆に、

人はなぜ犯罪を止めるのかを探求するのである。 最近では、 欧米で、 この デジスタンスに関する文献が急激に増加しており、 デジスタンスを解明す ることで、 再犯防止、 常習離脱に関する諸策を打ち出すことができるとし て、 期待されている。

本稿は、 アメリカで主として研究が続けられているデジスタンスに関し、

デジスターの具体的事例を通じて、 デジスタンスの原因や背景を分析する ものである4。 すなわち、 主として、 ラウブとサンプソン共著

(2003) に示された説話法によるデジスター の実例を通じて、 どのようにして常習犯罪者が、 その後の人生において犯 罪を止める契機を得たかを考察する。

2 . デジスタンス研究の状況 ( 1 ) 研究の経緯

伝統的な犯罪学では、 犯罪者は年齢を重ねるごとに犯罪遂行能力を喪失 するとされる。 それは遂行能力が気力や体力と関わるからであり、 したがっ て、 高齢になれば犯罪遂行能力の衰退とともに、 犯罪を行わないと考えら れる。 まさしく、 腕力を必要とする暴力犯罪は若者の犯罪の典型と考えら れてきたのは、 このことを示している。 また、 その他の犯罪においても、

人々の年齢が上がるごとに一般人口中に占める犯罪者の比率は低下する。

図 1 はイギリスの年齢犯罪曲線 (

) の統計であるが、 こ れからも明らかなように、 18歳付近をピークにして、 加齢に従い人口比で みた犯罪発生率は低下する。 また、 わが国の統計では少年に関する非行少

4 欧米のデジスタンス研究状況に関しては、 わが国における紹介や分析はきわめ て少ないが、 参考文献としては、 守山 正 「欧米における デシスタンス 研究 の状況〜犯罪常習者が犯罪を止めるとき」 犯罪と非行128号75〜94頁がある。

5

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(3)

年の年齢分布を示す図 2 においても、 少年期の期間内で加齢に従い非行少 年率が低下することが分かる。 このように、 一般的に言って、 経年による 犯罪停止 (デジスタンス) が生じると言ってよい。 ただ、 それがどのよう な理由や背景、 あるいは機会、 契機で止めるのかは、 従来の犯罪学では明 らかにされなかったのである。 他方、 わが国では、 高齢犯罪者は増加傾向 にあり、 中年期におけるデジスタンスの契機・機会が時代とともに失われ ているとも言えよう。 わが国で高齢者犯罪がとくに注目されるのは、 まさ しくそのような理由による6。 このような状況において、 犯罪者が一定年 齢で犯罪をなぜ止めるのか、 つまりデジスタンスと、 他方、 なぜ加齢によっ ても犯罪を止めないで続けているのか、 というパシスタンス (

) の理由が明らかにされなければならない。 もっとも、 現在欧米の 犯罪学の領域では、 デジスタンスの研究が盛んであり、 これは、 従来の伝

図 1 イギリスの年齢犯罪曲線

女性 男性

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%歳以上

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年齢

人口一︑〇〇〇人当たりの犯罪者率

6 上記の平成20年版犯罪白書では、 高齢初発型の犯罪は別として、 若年時から犯

罪を継続して高齢者になった者につき、 いわゆるパシスタンスの理由や背景は十

分に議論されていない (337頁、 338頁に若干の分析がみられる)。

(4)

統的犯罪学が 「なぜ犯罪を行うのか」 という犯罪原因論を展開してきたの に対して、 いわばアンチテーゼの提示である。

デジスタンスという用語を用いて、 犯罪学で本格的な研究が始まったの は、 1970年代頃であり、 さらに1990年代以降ではデジスタンス研究が犯罪 学の一角を占め、 世界的な潮流になっている7。 すなわち、 わが国でいう、

いわゆる 「足を洗う (

)」 過程、 後にみるように、 欧米

図 2 わが国における非行年齢曲線

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000

12歳 13歳 14歳 15歳 16歳 17歳 18歳 19歳

昭和51年生 昭和54年生 昭和57年生 昭和60年生 昭和63年生

出典:法務省法務総合研究所編 犯罪白書 (平成20年度版) (太平印刷社、 2008 年) 135頁

7 年齢と犯罪との関係ないしデジスタンスを論じる文献として、

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ある。

(5)

でいう 「

(過去の生活を断ち切る)」 過程を研究することによっ て、 犯罪者処遇、 とくに刑務所収容や保護観察における処遇にその成果を 生かして再犯防止策を講じることが可能になるであろう。

しかし、 このようなデジスタンス研究は、 コホート調査 (

) などの長期追跡調査が必要であり、 膨大なコストがかかる。 これ までこの種の研究が少なかった理由の一つは、 まさにここにあったように 思われる。 つまり、 特定人物が犯罪を開始 (

) し、 継続 (

) し、 終了 (

) する各段階を継続的に調べる必要がある。

まさしく、 犯罪者のライフ・コース研究である。 実は、 本稿が中心的に扱 うラウブとサンプソンの文献は、 その意味でちょっとした偶然から始まっ た研究を基にしている。 すなわち、 彼らはハーバード大学の先輩格に当た るグリュック夫妻が1940年代行った犯罪経歴研究に関する資料をたまたま 発見し、 それを引き継いでいるからである8

このように、 ラウブとサンプソンのほか、 デジスタンス研究は、 多様に 展開されて、 また個人の研究を超えて、 プロジェクト・チームが結成され、

本格的な長期研究が実行されている (たとえば、 イギリスのボトムズ教授 らを中心とするシェフィールド大学チーム9、 ドイツのケルナー教授を中 心とするチュービンゲン大学チームなどがある)。

( 2 ) 理論的枠組み

代表的には、 以下の二つの仮説がある。

8 グリュック夫妻は犯罪学研究において非行予測で有名であるが、 もともとグリュッ ク夫妻はデジスタンス研究の意図は全くなく、 彼らの死後、 ハーバード大学の図 書館に保管されていた彼らが遺した調査資料の中に、 ラウブとサンプソンの研究 意図と一致したデータが発見されたために、 これらを使って、 コホート調査を最 初から行うことなく、 デジスタンス研究を行うことができたという偶然があった

のである (

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9 アントニー・ボトムズのほか、 ジョアンナ・シャプランド、 アンドリュー・コ

ステロらがメンバーであり、 彼らはすでにその調査結果の一部を報告している

(前記注 7, $ $ $ )。

(6)

ターニング・ポイント説

これは、 サンプソンとラウブが採用する見解で、 後述するように、 犯 罪者が就職・雇用、 結婚、 兵役などと関連する人生の転換点 (

) が成人期に人生を通じて、 犯罪行動の継続に変化をもたらし、

デジスタンスに至ると主張する。 すなわち、 非公的な社会統制が生涯を 通じて、 犯罪・非行の開始、 継続、 停止を説明しうる一次的な要素であ るとした。

この説はある意味で、 非常に偶発的な要素を強調するもので、 これら の事由がない場合のデシスタンスにつき説明するのが困難となる。

認知的変換 (

) 説

この説は、 ジョルダーノらのグループが主張するもので10、 デジスター が意識的に貧しい境遇や悪環境という逆境を克服し、 変容を遂げ、 その 結果、 デジスタンスに至ると説明する。 つまり、 認知的変換とは、 個人 の人生における、 逆境克服の認知による変換、 変質である。 たとえば、

かつて経験した悲劇によるトラウマをその後の人生において積極的に見 直し、 その結果、 逆境に適応することを学ぶ心理的な変化などがこれに 当たる。

しかし、 デジスタンスをこれらの仮説で単独に説明できるとは思えな い。 前者の説がやや機会的、 偶然的な要素を強調し、 後者が本人の積極 的な認知の変化を示すとはいえ、 おそらく現実的なデジスタンスは、 こ れらの要素をさまざまに混ぜ合わせて発生するものと考えられる。 たと えば、 これまでの人生を見直し、 このような犯罪人生から離脱したいと 考えていた者が結婚を契機にデジスタンスに至るといったケースが現実 的であろう。

10

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(7)

3 . 説話手法によるデシスタンス原因の解明

前述のように、 ラウブとサンプソンは、 デシスタンスの原因や背景を理 解するために、 犯罪を止めたデジスター (

, 犯罪経歴を停止した 者) に対して直接インタビューを行い説話手法 (

) によっ てデータを収集した。 これらの調査対象者は、 1940年代に行われた、 犯罪 経歴研究の先駆者であるハーバード大学のグリュック夫妻 (

) が研究対象とした500人の男性の一部の人々である。 す なわち、 ラウブらは50年以上経過したグリュック夫妻の研究を引き継ぎ、

コホート研究の一部として、 これらの人々の予後につき追跡調査を行った のである。

ラウブとサンプソンがインタビューを行ったデジスターは、 表 1 の以下 の人々である。

第 1 グループ、 つまり番号 1 〜15は 7 歳から17歳 (少年期) までに非暴 力犯で逮捕され、 21歳以降 (成人期) は暴力犯・財産犯 (捕食犯) で逮捕 歴のない者である。 もっとも、 一部の者には軽微犯罪やスピード違反の逮 捕歴がみられる。 第 2 グループ、 つまり番号16〜19は少年期に暴力犯の逮 捕歴があり、 成人期には捕食犯の逮捕歴のない者である。 第 1 グループは 平均して 9 回、 第 2 グループは12回の逮捕歴があり、 少年期の拘禁期間は 両グループとも平均1.4年であった。 また、 後述するように、 これらのデ ジスターに共通しているのは、 結婚・雇用においてきわめて長期に安定性 がみられることであり、 軍隊においても成功経験がみられる。 これらの特 性は、 人種、 IQ その他の能力において相違がないことが明らかにされて いる。

(8)

( 1 ) 人生転換点としての結婚

・レオン (番号 6 ) の事例

ボストンの貧困地域において、 9 人兄弟という大家族の中で成長した。

父親はいわゆる大酒のみで、 暴行、 殴打、 器物損壊、 盗品故買、 公然酩 酊などで逮捕歴があった。 母親にも暴行、 殴打、 冒涜行為による逮捕歴 がみられ、 同様に大酒のみという記録がある。 彼らは、 子どもに対する 関心が少なく、 放任と一貫性のない規律の養育態度を示した。 また、 レ オンの幼少時に20回以上の転居歴がある。 さらに、 子どもの盗癖を許容 する態度を持ち続けた。

表 1 デジスターの犯罪歴データ

番号 氏名 (仮名) 犯罪数 (件) 最初の拘禁 (歳) 拘禁期間 (年) IQ

1 ヘンリー 7 10 2.4 93

2 ビニー 9 14 1.0 86

3 ビクター 4 14 0.6 112

4 ジョン 6 14 1.0 115

5 ロバート 10 13 2.2 79

6 レオン 4 12 1.1 103

7 スタンリー 5 15 1.0 86

8 ノーマン 11 14 0.7 77

9 デイビッド 7 13 0.7 75

10 リチャード 7 14 0.6 101

11 ウィリアム 4 11 2.9 90

12 ギルバート 22 11 12.6 104

13 ドミニック 4 13 1.0 112

14 ジョージ 6 14 1.1 80

15 エドワード 29 15 3.5 90

16 レオナード 23 14 7.6 90

17 アンジェロ 10 15 0.6 90

18 ブルーノ 9 15 0.5 92

19 マイケル 6 10 3.3 89

(9)

レオンは教育経験が乏しく、 7 学年で学校をやめ、 その後改善学校11 に送られた。 当時の総合 IQ 得点は103点であるが、 口述得点が83点と 低いのが特徴的である。 このため、 特殊学校に 3 年間入れられたが、 学 校や教員に対する愛着はなく、 7 歳時には怠学が始まっている。 しかし、

悪知恵は働き、 改善学校を仮釈放になった後、 一連の住宅侵入盗やトラッ ク部品盗を繰り返していたが、 主犯として警察に捕まるのを恐れて、 自 ら改善学校に戻ってこれらの犯罪の起訴を免れている。

他方、 レオンのこのような人生初期における混沌と無秩序とは対照的 に、 成人期以降の人生は著しく安定的であった。 住宅の転居はほとんど なく、 就職の面でも最初の30年間はドーナツ店の支配人、 その後の12年 間は化学プラントの技術者を努め、 きわめて安定している。 確かに、 彼 は生まれた家庭が貧困であったため13歳から継続的に労働し、 映画館案 内人、 家具運搬人、 パン屋配達員、 ガソリンスタンド店員などの低賃金 の職場を転々とした。 ラウブらの調査インタービューを受けたのは、 レ オンが70歳のときである。 このとき、 彼は住宅所有者、 退職後国内外の 旅行を妻とともに行っており、 人生における達成感が強く、 人生初期の 困難や不利条件を克服した満足感がみられた。 それでは、 レオンは人生 前半において貧困家庭、 崩壊非行や犯罪で躓き、 低学歴であったにもか かわらず、 人生後半では、 なぜ立ち直ったであろうか。

レオンの主要な転機は、 結婚であることを自ら認めている。 17歳のと きに妻と出会い、 21歳で結婚している。 この結婚については、 宗教上の 理由から、 レオンの母親は反対し、 家族も彼らを支援することはなかっ た。 結婚の 6 週間後には兵役に就いて極東地方の軍務に従事し、 2 年後

11 の訳語で、 欧米で発達した非行少年収容施設である (イギ

リスの改善学校制度については、 渡邉泰洋 イギリス連合王国における少年法制

の変遷〜処罰と福祉の相克 (成文堂、 2008年) 43頁以下)。 わが国の少年院の性

格に近いが、 刑罰的な要素も福祉的な要素もあり、 英米に特有の制度である。 ボ

ストンにはこの種の施設として、 がある。

(10)

の除隊の際、

12を利用して住宅を購入している。 もっとも、 軍 隊入隊中は、 飲酒問題を引き起こしたりしているが、 軍の正式記録には なく、 また父親とは違って、 その後に成人期においてアル中などの深刻 な問題とはならなかった。

家族の支援は得られなかったが、 レオンの結婚は成功した。 事実、 結 婚生活において、 レオンは勤勉に働き、 毎晩自宅で過ごすことが多くな り、 自ずと以前の仲間と出歩くこともなくなった。 それ以前の17歳で保 護観察を受けている最中でさえ、 彼は担当の保護観察官に 「妻が私を素 直にさせた」 と答えている。 実際、 このとき、 レオンは飲酒やギャンブ ルを止めている。 また、 グリュック調査の25歳時インタビューでも、 妻 の有益な影響力が強調されており、 その記録では、 妻は夫よりも 「尊敬 できる」 「品性がある」 「強力な個性の持ち主」 などの記述がみられる。

ラウブとサンプソンは、 このレオンの成功した結婚の原因や背景とし て、 社会的支援や妻の愛情のほかに、 ①勤勉な勤務態度に変わったこと (彼は妻からの愛情に応え、 家族を支えるために職場で残業まで厭わず、

さらには、 家族との時間が短くなるとして昇進まで拒否している)、 ② 以前の不良仲間集団から絶縁されたこと (結婚後、 家族との時間を重視 したため、 仲間との関係が希薄となり、 これに代わって妻の友人が仲間 となった) ③妻の家族との付き合いを強めたこと (家族的紐帯の薄弱な 自分自身の家族とは次第に距離をとるようになり、 実際妻の家族の元に 引越しして、 3 世代同居を始めた) などを指摘している。

このほか、 レオンにとって少年期に収容された改善学校 (

) による更生への影響も少なくない。 事実、 彼はレイマン・スクー

12 1944年米国連邦復員軍人援護法 (

!"#$ %& '# (# ) の俗称。 退役軍人に対して大学教育や職業訓練、

また 1 年間の失業補償を提供する内容。 さらに、 住宅購入や起業に対するローン

の設定なども支援する内容が含まれる。 当初は第 2 次世界大戦の退役軍人に適用

されたが、 その後、 種々の戦争にも適用されるようになった。

(11)

ルもまた、 「人生の転換期」 と呼んでいる。 彼は13歳のときに収容され ているが、 劣悪の環境であった家庭から離れたことが彼にとって良好な 影響を与えたものと思われる。

( 2 ) 人生転換点としての兵役

・ヘンリー (番号 1 ) の事例

彼はインタビュー時69歳であり、 フロリダ南西海岸にある隠居した自 宅で過ごしていた。 レオンと同様、 彼も義務教育は 8 年間しか受けてお らず、 教育歴は乏しい。 それにもかかわらず、 ほぼ成人期の全期間を機 械工として働き、 きわめて安定した雇用状況にあった。 現に、 彼は、 成 人期において一度も失業したことがないという。 まさしくこれは、 児童 期、 青少年期とは対照的な環境にある。 というのも、 ヘンリーはボスト ンのスラム街で育ち、 家族は海岸に近い荒廃した木造の住宅地域に居住 していたが、 年に 1 回引っ越すほどの移転を繰り返し、 学校を転々とし た。 学校では何度か留年し、 10歳からは怠学が始まった。 担当教師によ ると、 彼は他の子どもと比べると子どもっぽく、 未熟で、 IQ の総合得 点は93点、 うち口述得点は79点であった。

グリュック夫妻の調査時では、 ヘンリーの家庭の経済状況はきわめて 貧困であり、 両親は 4 年間別居状態にあった。 彼と 3 人の姉妹は母親と 同居していた。 母親は前歯 4 本欠損、 指のタバコヤニが目立ち、 他方、

父親は大酒飲みで、 飲酒すると子どもや妻に対して虐待的となった。 そ の後、 父親はボストンの州立病院で 「パラノイヤ」 の診断を受けたが、

妻に対する不信感がこれを増幅した。 実際、 妻は義理の兄と不倫関係に あり、 これを嫌って父親は失踪し、 家族は生活保護を受けて生活した。

このような環境の中、 ヘンリーは規律不遵守、 怠学、 家出、 乞食といっ た不良行為を繰り返し、 最初の逮捕は10歳のときで、 少年期に計 6 回の 逮捕歴がある。

(12)

ヘンリーを変えたのは、 18歳時に海兵隊に入隊したことである。 海軍 に 3 年間所属し、 その間、 伍長の地位まで昇進し、 善行賞や戦勝記念勲 章などが授与されている。 その後、 2 年間、 今度は空軍予備役として待 機し、 その後、

として軍隊に呼び戻された。 その際、 機械工とし て職業訓練を受け、 それを生かして除隊後も機械工を続けている。 ヘン リーは軍隊生活を振り返って、 「多くのことを学んだ。 人生のまさしく 大きな部分であり、 私もそれを気に入っていたのである。」

ヘンリーにとっても、 改善学校 (レイマン・スクール) の試練が彼の 更生に貢献した。 彼は改善学校に 2 回送致されている。 そのことがかえっ て好結果を生んだといえる。 彼自身もそれを認めて、 改善学校で多くの 責任を学んだという。 そして、 改善学校の教訓と軍隊経験のそれが共通 していたのは、 「責任の取り方」 と 「秩序に対する従い方」 であった。

これらがターニング・ポイントとなったのである。 彼の表現によると、

「自分を救い出した」 という。 もととも他人から命令されるのが嫌いで あったヘンリーにとって、 両施設は、 責任感を植え付け、 権威を尊重す ることを教えるなど、 彼の成熟にとって自然な過程を促進したといえる。

もっとも、 この種の経験が当初からうまくいったわけではなく、 16歳に なってレイマン・スクールから仮釈放されて入った合衆国海事局 (

) では、 ルールや秩序に対する遵守精神に乏しく、

無許可で離職するなどの非行がみられた。 しかし、 前述したように、 18 歳で入隊した海兵隊は彼の人生の転換点となったのである。 この際、 彼 は海事局不名誉除隊、 レイマン・スクール仮釈放について、 海兵隊には 伝えられていない。

このほか、 彼にとって人生転換への重要な点は、 住居を都市から地方 に移したことである。 すなわち、 ボストンの大都市の喧噪から抜け出し たことがデジスタンスに大いに関係があったとヘンリー自ら認めている。

(13)

しかも、 それが海事局の失敗以後の転居であった点には、 確かにデジス タンスの意義が認められると思われる。

( 3 ) 人生転換点としての改善学校収容

・ブルーノの事例 (番号18)

ブルーノは西ボストンのイタリア系大家族の中で育ち、 7 人の兄弟姉 妹がいた。 グリュック夫妻のインタビュー時には、 家族への強い愛着が みられたが、 青少年期に両親から十分な監督を受けることはなかった。

幼少期から夜間外出にでることが多かったが、 両親が気づくことは少な かったという。 また、 ブルーノは学校に対する関心が低く、 同じ学年を 2 回繰り返し、 結局16歳になって学校をやめた。 彼の IQ 総合得点は92 点であった。

この頃、 彼はすでに比較的小規模のストリート・ギャングのリーダー であり、 少年期に逮捕歴も 6 回あり、 その一つは粗暴犯であった。 この 結果、 彼はレイマン・スクールに 6 ヶ月収容されている。 ブルーノは成 人期に入っても犯罪行動を継続したが、 生活の重要な領域では安定性を 示し始めていた。 ラウブらのインタビュー時、 つまり70歳の時には、 56 年間の結婚生活とほぼ同期間、 配管工の仕事を続けていたのである。 従っ て、 成人期初期と結婚生活の開始時の間で、 何らかのデジスタンス兆候 があったとみることができる。

その理由・背景として、 第 1 に、 家庭生活の維持である。 住居として は、 7 年間を彼の母親の家で、 次の38年間を義理の母親 (妻の母親) の 家で過ごし、 これが現在の住居となっている。 つまり、 結婚後、 住宅転 居の回数がきわめて少ないことである。 しかも、 同じ世帯にブルーノ夫 妻のほか、 息子家族、 娘家族が住んでおり、 家族との緊密な関係を維持 している点がブルーノに特徴的である。 第 2 に、 他のデジスターと同様 に、 軍隊経験が犯罪を阻止したことである。 彼は海兵隊に入隊し、 太平

(14)

洋領域の戦争に従軍して 3 年間を終えた。 その結果伍長の地位に昇進し、

善行賞と青銅メダルを獲得している。 その後、 ボストンに戻り、

による職業訓練を終えて配管工となった。 彼のように低学歴の者に とって、 このような政府の社会的支援制度は職業を安定させるには大変 有効な制度である。 第 3 に、 レイマン・スクール (改善学校) に収容さ れたことである。 彼の場合、 ギャングのリーダーとして少年期から自分 は何でも知っているという傲慢さがあり、 従って他の者に対する敬意の 念にも欠けていた。 このような態度は、 他の兄弟からの虐待に対抗する 手段であったが、 レイマン・スクールでは厳格な権威と綿密な指導によっ て、 彼に敬意の念を植え付けたのであった。

4 . デジスタンス過程の分析

上記の説話的手法による分析を通じて、 ラウブとサンプソンの分析も交 えて、 以下のことが指摘できる。

( 1 ) 労働、 婚姻、 居住の安定性

いうまでもないが、 犯罪者・非行少年の多くが荒廃した地域、 スラム街 に居住し、 問題家庭で生育している。 両親はアルコールや薬物の問題を抱 え、 暴力的虐待的で養育態度は放任的である。 そして、 頻繁な転居を繰り 返している。 このため、 子どもは転校によって学校に馴染めず、 怠学する。

そして、 地域の不良仲間と交流し、 外泊、 家出、 暴力、 ギャングへの関与 などで幼児期から反社会的ないしは犯罪・非行行動を開始する傾向にある。

他方、 デジスターは、 このような劣悪な環境から這い出し、 犯罪や非行の 生活から足を洗う契機を人生途中で見いだしている。 それが労働、 婚姻、

居住の安定性である。 逆に、 これらが安定すれば、 犯罪生活からの離脱が 可能と言えるのであろうか。

労働に関していえば、 その安定性のためには、 いわゆる 「手に職を付け

(15)

る」 ことが必要である。 デジスターの職業をみると、 初期には職を転々と する傾向があるが、 人生中期から後期にかけては、 一定の専門職につき同 じ職場で継続的に勤務している。 つまり、 彼らは何らかの形で仕事を覚え、

それを天職として続けていることである。 その契機となっているのが、 軍 隊ないしはその除隊後の

の利用である。 上記の例でも、 軍隊内 の配属や

による支援によって、 配管工、 機械工などの専門的な スキルを身につけ、 それが本人たちにとって誇りであり、 自信につながっ ている。 そもそも、 一般的に言って、 低学歴の者は専門職に就職すること は困難であるが、 デジスターにおいては、 これらの点が克服されているの が特徴といえる。 そして、 犯罪学は、 しばしば犯罪者に自敬の念が欠如し ている点を指摘するが、 まさしく職業を通じて自敬の念を獲得し、 これが 職業上の安定性をもたらしたものといえる。

もっとも、 ラウブとサンプソン調査では、 デジスターの多くが安定した 雇用状況を示しているのに、 本人らの自己分析では、 労働つまり就職を人 生の転換点とみていないことは注目される。 つまり、 彼らにとって安定し た労働生活が反社会的生活から遵法的生活への転換点とならなかったこと を物語る。

婚姻が脱犯罪生活を導くことは、 他の犯罪学文献でも示されている13 要するに、 首尾のよい結婚は人の人生を変える潜在力を有しているといえ る。 いわば、 結婚は社会資本の増強に連なっている。 とくに結婚し子ども をもうけると、 家族に対して責任感が生まれ、 労働を通じて安定した経済 生活を営もうとする意欲が生まれる。 そして、 家族の愛情、 愛着によって 心理的な満足が生じ、 しばしばストレス解消としての手段である犯罪や非 行に走る契機を失う。 他方、 結婚は人生の再構築を可能とし、 配偶者がと きに、 逸脱的な以前の仲間集団とのつきあいに対して直接の社会統制機能

13

(16)

を担うのである。 他の研究でも14、 犯罪への継続的な関与は、 同じ傾向に ある仲間との深酒のつきあいと密接に関連することが知られている。 そし て、 結婚を契機として住宅を転居すると、 このようなつきあいも断たれ相 乗的にデジスタンスの効果を高めるように思われる15。 このように、 婚姻 がデジスタンスをもたらす要因となる可能性がきわめて高い。

居住の安定性もデジスタンスにとって重要である。 住宅を頻繁に変更す るということは、 就職や労働が順調でないことを示すことが多く、 地域社 会にも馴染めず、 第 1 に、 子どもが学校で安定して学業に励むことの妨げ になる。 教員との信頼関係を築くことも困難であろう。 職場や学校、 地域 に満足すれば、 それほど住居を変更する必要はなくなる。 上記の例でも、

少なくとも人生中期以降は、 どのデジスターも住居を終の棲家に決めて長 年、 住みづけている。 但し、 彼らの場合、 やや特殊なのは、 もともと問題 が少なくなかった実家から精神的にも距離的にも離れることが犯罪からの 離脱にとって重要であることから、 デジスターの多くが実家から離れたと ころに住んでいる点を指摘できる。 そして、 その多くは妻の実家かその近 くに住んで、 義理の家族との関係を強めている。 このようにみると、 居住 とデジスタンスの関係は強く、 要するに、 従来の家庭的悪環境からいかに 逃れることができるかが、 デジスタンスの成否の鍵とも言えるであろう。

( 2 ) 矯正収容施設、 軍隊入隊の経験

一般に、 犯罪者や非行少年の生活は乱れており、 いわゆる一般的な社会 人のようなルーティン活動を営んでいないといわれる。 つまり、 朝起きて

14

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15 ケナズチゥックが同様に、 グリュック夫妻調査の副次サンプルから、 32歳まで に首尾の良い結婚を行ったケースを調査したところ、 居住の変化が夫婦関係にとっ て障害となると思われる従前の家族関係、 仲間関係を断ち切ることが条件として 認められたという ( $%&' ( ) *'+ ,(

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会社に出勤し、 夕方勤めを終えて家庭に帰り、 団らんを囲むという生活パ ターンを形成していないのである。 逆に、 夜更かしして昼間は寝て、 とい う生活を繰り返す傾向にある。 この点、 矯正施設 (ここではレイマン・ス クールという改善学校) や軍隊では、 時間的規律が厳しく、 日常生活はき わめてルーティン化されており、 むしろその典型である。 実際、 多くのデ ジスターが両者の共通項として、 「規律と厳格さ」 を指摘しており、 いわ ゆる通常の家庭では果たし得ない何かが彼らのデジスタンスに機能したと 考えられる。 なぜなら、 時間的にふしだらな生活をしていた者は往々にし て規律と厳格さに欠けるからであり、 このような施設の厳格な生活指導が 有効であることは言うまでもないからである。 また、 改善学校の経験が軍 隊生活への適応に役立ったという証言もある。

ただ、 レイマン・スクールのような改善学校が快適であるはずもなく、

むしろそれが抑止的に働く場合もある。 たとえば、 アンジェロ (番号17) は改善学校の職員による暴力が日常的であったことを指摘しており、 彼の 場合、 2 度と改善学校に戻りたくないという思いがデジスタンスに結びつ いた例である。 別の者も改善学校は恐ろしい経験だったと述べている。 ラ ウブとサンプソンによるインタビューは、 対象者の老後に行われているこ ともあり、 多少記憶が薄れている点は否めない。 したがって、 改善学校を 回顧するにあたって彼らがプラス面を強調する場合にも、 アンジェロの指 摘にあるように、 改善学校の過度の体罰的教育というマイナス面が存在し たことも注意が必要である。

軍隊生活の副次的作用について、 好意的に評価するデジスターが少なく ない。 彼らの入隊時期が経済大恐慌と重なったことも、 幸いしているよう に思われる。 つまり、 一方で、 軍隊内部には精神的に愛国主義や民族矜持 の風潮が強く、 他方で、 食料難の時期に軍隊では十分な食事が与えられた ことである。 さらに、 前述のように、 除隊後に各種の社会的支援が行われ

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たことも軍隊経験の評価を高める結果になっている。 たとえば、 ジョン (番号 4 ) は、 改善学校を仮釈放になり17歳で入隊したが、 電気工として の訓練を受け、 それが彼の最終的な職業キャリアとなった。 除隊時には、

を利用して住宅購入などを行っている。 このように、 とくに幼少 期から教育機会に恵まれないという不利条件を抱えた人々にとって、 軍隊 が職業訓練の場として社会復帰を促進する機能を果たしている点は注目に 値する。

( 3 ) 考察〜犯罪学上の意義

ラウブとサンプソンのデジスタンス研究の知見は、 ハーシが社会統制理 論 ( ) で訴えた社会的紐帯 ( ) の重要性 を再認識させると思われる16。 すなわち、 ハーシは、 それまで犯罪学が探 求してきた 「なぜ彼らは犯罪を行うのか」 という問いではなく、 「なぜわ れわれは犯罪を行わないのか」 が重要であるとし社会統制理論を主張した のである。 要するに、 ハーシの仮説によると、 「個人の社会的紐帯が脆弱 か断絶している」 ときに逸脱 (

) が生じるという。 そして、 その 社会的紐帯をハーシは、 愛着 (

)、 関与 (

)、 忙殺 (

)、 信念 (

) の 4 種類に分類した。 愛着とは、 規範の内 面化の要素であり、 それは個人の他者への愛着である。 具体的には、 家族 や恋人、 親友などに対する愛情、 親密さなどが含まれる。 次に、 関与とは、

人々が特定の活動に注いだ時間やエネルギーなどの投資をいう。 たとえば、

学業に熱心に取り組み、 望みの大学に進学し、 満足のいく職を得るなど、

努力して今までの経歴や名声を積み上げてきた者は、 逸脱によって得られ る利益とそれによって失われる利益を比較衡量したとき、 失われるものが 大きく逸脱しにくい。 反対に、 努力して積み上げてきたものがなければ、

失うものがないか、 あるいは非常に少なく、 逸脱によって得られる利益が

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不利益を上回ることになり、 犯罪・非行に至ることになる。 第 3 の忙殺と は、 伝統的で非逸脱的な、 つまり遵法的な活動に従事しているという主張 である。 「小人閑居して不善を為す」 という諺があるように、 学校や部活、

ボランティア活動、 アルバイトなど様々な活動に従事する者は逸脱などを する暇がなく、 逆に学校をドロップアウトし他に熱心に取り組む活動もな く暇をもてあましているような者は逸脱しやすくなるという。 最後に、 信 念とは、 本人が信じる価値に対する傾倒の強度を意味する。 社会統制理論 は、 社会に共通の価値観があるという前提をとる。 これは、 その価値を守 るためのルールを遵守するか否かの態度に関わる。 すなわち、 人々は、 尊 重すべき価値が法令によって保護されているから、 それに従うのであり、

そのような価値観を重視しない者は法令に服従する必要はなく違反するの である。

そこで、 ラウブとサンプソンが重要なデジスタンス要因と位置づけた結 婚、 就職・雇用、 軍隊入隊、 矯正施設収容経験をハーシの主張に当てはめ てみよう。

パートナーとの結婚は、 単純に愛着という社会的紐帯を強化するように 受け取れるが、 デジスターの場合、 重要なのは、 彼らのパートナー (妻) が単なるパートナーだったのではなく、 「遵法的」 であったことである。

すなわち、 彼女たちは夫が昔の仲間と付き合うことを認めなかったり、 夫 が真面目に働くことを推奨したり、 いわば犯罪への道の防波堤の役割を担っ ている。 彼女らの遵法意識が低かったならば、 本人と一緒に悪事を働いた かもしれず、 本人はデジストできなかったかもしれない。 また、 一定の労 働に長期間従事したことは、 「忙殺」 の要素を有する。 日常的なルーティ ンを繰り返し、 家族のために収入を得る勤勉な態度は、 逸脱的行為を行う 時間を結果的に与えなかったのである。

デジスターの場合、 社会の支配的価値観を支持する信念という紐帯は、

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矯正施設や軍隊経験で強化されたと考えられる。 デジスターは、 規律や責 任の重要さを身につけるのに軍隊や矯正施設滞在の経験が有用だったと自 己分析している。 また、 特に軍隊では愛国心や忠誠心を高める教育も行っ ており、 それらも支配的価値観を支持する信念を強化するのに役だったと 言えよう。 また、 軍隊で種々の勲章を獲得したことや戦争を生き抜いたこ とは自信や自己経歴の矜持につながる。 このほか、 軍隊がデジスターに技 術を身につけさせたり、

という福祉的措置を与えたりして、 退役 後の人生の橋渡しに大きな役割を演じている点は前述した。

このように、 デジスタンス要因としての人生のターニング・ポイントは 社会的紐帯を強化するのに役立つ。 常習犯罪者、 つまりパシスターの多く は、 対照的に、 社会的紐帯が弱化しているか断絶しており、 社会的に排除 されている者である。 そこで、 これらの者についても、 再犯防止のために はこのような社会的紐帯を強化する契機を与え、 社会に包摂するような施 策を実施する必要があろう。

5 . おわりに

上述のラウブとサンプソンの調査によって、 結婚、 就職・雇用、 軍隊、

矯正施設がデジスターの人生のターニング・ポイントとなり、 その犯罪を 停止させるのに有効であることが理解された。 そして、 刑務所や保護観察 における指導監督で、 これらの成果を積極的に取り込んでいけば、 犯罪者 処遇を成功させ、 他の犯罪者のデジスタンスも促進することになろう。 と いっても、 彼らの調査結果が人生のターニング・ポイントという偶発的、

機会的な要素に依存しているとすれば、 これらの機会に遭遇しなかった者 はデジストできないという結論になり、 きわめて宿命的ということになる。

おそらく、 ラウブらの主張は、 そうではなく、 個々人のターニング・ポイ ントは多様であり、 あまり明白な特徴を備えていない人生の出来事もター

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ニング・ポイントになりうるのであり、 要は、 それに対してどのように対 処するかということであろう。 まさしく、 デジスターはこれに首尾良く対 処した人々である。

考えてみれば、 犯罪者は誰れしもいずれ犯罪を止める。 デシスタンスは 必ず起こるのである。 ただ、 それが早いか遅いかの違いがある。 これまで の状況からみて、 一般に、 欧米諸国では比較的早く、 わが国では遅いと言 わなければならない。 それでは、 なぜ欧米とわが国でそのような相違が生 じるのであろうか。

思うに、 わが国の家族主義が高齢犯罪者のパシスタンス、 つまり高齢ま で犯罪を継続させる状況に影響を与えている。 というのも、 かつて、 わが 国は犯罪者の予後については家族が身元引受人となり面倒をみるという構 図があり、 社会福祉よりも家族主義がいわば犯罪者の社会復帰を担うのが 現実であった。 しかし、 犯罪を常習的に重ね、 一定年齢に達した犯罪者は 家族から見放され、 福祉でもカバーできない状況では、 犯罪を止める契機 が失われる可能性が高い。 わが国で家族主義が機能しなくなると、 これに 代わる受け皿が欠如しており、 そのために、 中年から高齢の年齢層の犯罪 者は刑務所から釈放されても定住、 定職の当てがなく、 犯罪を継続するの である。 つまり、 ここに常習、 パシスタンスの現象が生じる。 このため、

わが国は欧米諸国に比較し、 高齢犯罪者を多く抱える結果となっているの ではないだろうか。 ということは、 わが国では欧米とは別個の要素を勘案 しながら、 高齢犯罪者のデジスタンスを検討する必要がある。

他方、 欧米でも高齢犯罪者は少なくなく、 いわゆるパシスタンスの状況 は存在する。 そこで、 今後は、 欧米において 「犯罪者はなぜ犯罪を止めな いのか」 をテーマに研究し、 わが国の状況と比較する必要があろう。

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参照

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