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卵巣腫瘍の迅速診断における細胞診と組織診

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Academic year: 2021

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30

昭和学士会誌 第77巻 第

1

号〔

30‑32

頁,2017

特  集 病理診断における細胞診と組織診の使い分け

卵巣腫瘍の迅速診断における細胞診と組織診

昭和大学江東豊洲病院臨床病理診断科

  九島 巳樹

は じ め に

 手術の最中に病理診断をすることを術中迅速診断 という.その目的(表 1)は各臓器によりさまざま であるが,卵巣腫瘍の術中迅速診断の目的(表 2)

は腫瘍の組織診断名を明らかにして,術式,後療法 などの選択,予後の推定などを行うことである.

 ところで,卵巣腫瘍の組織診断の分類に関しては WHO(2014)の分類1)とわが国の卵巣腫瘍取扱い 規約2)(図 1)が用いられ,術中迅速診断やその後 の永久標本を用いて正確な病理診断を必要とされ る.細胞診についても同様に腫瘍本体の組織診断を 推定することが求められる.卵巣腫瘍が疑われる患 者に腹水が存在し,腹膜播種が疑われる場合には,

術前に腹水穿刺が行われる場合もあるが,術中では 腹膜播種の有無を検索することおよび組織診断の補 助をすることなどの点で細胞診が役立つ.

材料および標本の取扱い

 手術材料からの切り出しは臨床医が行う場合と病 理医が行う場合があるが,最終的な標本作製は病理 部門で行うので,病理医の立場からすると手術に よって摘出された材料のすべてを(まるごと)検査 室(病理標本作製室)に提出してもらう方が良い.

臨床的にあらかじめ疑わしい(悪性あるいは境界悪 性の可能性がある)部分が明瞭な場合には,臨床医 がその部分だけを切り出して病理に提出することも あるが,術前,術中の肉眼所見を含めて,全ての情 報をあらかじめ病理医に知らせておき,さらに病理 診断のみに集中して作業のできる病理部門に材料の すべてを提出すれば,標準的で臨床の期待に沿った 返事が可能となる.

 筆者は卵巣腫瘍の術中迅速診断時に表面および割 面の観察・写真撮影を行った後,腫瘍割面からスラ イドガラスに捺印あるいは硝子で擦過することによ り細胞を採取して,後者ではその場でもう一枚のス ライドガラスに塗抹して細胞標本を作製する.染色 はパパニコロウ染色が主体であるが,症例により特 殊染色を追加することもある.

卵巣腫瘍の術中迅速診断の実際

 まずは病院内に迅速診断用の凍結切片および細胞 標本を作製するスペースと設備が必要である.もち ろん,でき上がった標本を鏡検し,病理診断をする 病理医の存在は欠かせない.小規模な病院では標本 作製まで行って,診断はテレパソロジーの方法で近 隣のあるいは遠隔地の大きな病院と連携して診断を してもらうことも行われるようになってきたが,画 像を送り(送信し),リアルタイムで遠隔操作によ り,顕微鏡で観察するのと同等の環境を整えるため には設備投資,連携に伴う手続きが多く必要であ

表 1 術中迅速診断の目的(凍結切片と細胞診)

  1.腫瘍の断端浸潤の有無

  2.リンパ節転移の有無 3.体腔液中の癌細胞の有無

  4.腫瘍などの診断の確定

1.から 4.のいずれも細胞診の応用が可能で,とくに体 腔液については原則的に細胞診のみが行われる.卵巣腫瘍 では 4.の目的でも細胞診が有効である.

表 2 卵巣腫瘍の迅速診断について

• 術前に生検ができない

• 細胞診の併用が有効

• 年齢,既往歴,現病歴,術中にみられた腫瘍の性状,両 側発生の有無,腫瘍マーカー値,臨床診断と鑑別診断な どを受け持ち医が病理医に説明しておく

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卵巣腫瘍の細胞診と組織診

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る.臨床医(執刀医)と病理医のコミュニケーショ ンの問題もあり,やはり病院内に病理医が常勤して いることは重要である.

 卵巣腫瘍の迅速診断では手術室で採取した材料を 病理標本作製室に運ぶ必要がある.昭和大学病院で は手術室のある6階から5階の病理標本作製室まで,

同様に昭和大学江東豊洲病院では 4 階の手術室から 3 階の病理標本作製室までダムウエーターで送って いる(図 2).病理部門で受け取った材料は肉眼写 真を撮影した後,割面から捺印あるいは擦過して細 胞標本を作製する.同時に組織の一部をサンプリン グ(切り出し)して凍結切片を作製する.染色は細 胞標本がパパニコロウ染色,凍結切片(組織診)は HE 染色を原則とするが,前述のように腫瘍の種類 によって,ギムザ染色や PAS 反応などの特殊染色 を加える場合もある.

細胞診と組織診の使い分け

 腫瘍の割面より採取した塗抹あるいは擦過細胞標 本の観察により,多くの症例の診断が可能である4)

が,あくまでも細胞診は補助的に用いる.最終診断 は組織診で決定するのが原則である.例えば,迅速 診断が行われる頻度の高い上皮性卵巣腫瘍の場合

(表 3),境界悪性腫瘍と悪性腫瘍の鑑別は細胞異型 の程度ではなく,間質浸潤の有無が問題となる5)の で,正確な診断には組織診が必要となる.一方で,

図 1

図 3  粘液性腫瘍では 1 つの腫瘍内に異型度の異なる 腫瘍成分がみられることが多い.

図 2 ダムウエーターで手術室から検体が届く.

図 4 卵巣境界悪性腫瘍の擦過細胞診(a)と組織診(b)

表 3 卵巣腫瘤性病変の術中迅速診断

• 主として上皮性腫瘍(56.8%),奇形腫(17.1%),内膜 症性嚢胞(8.4%)に実施されている

• その他では転移性腫瘍,非腫瘍性疾患(卵胞由来の嚢胞)

などが比較的多い

• 充実性の成分がある場合や多房性の嚢胞は迅速診断を行 なった方がよい

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九  島  巳  樹

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まれではあるが,組織標本に病変部が含まれていな い場合があり,とくに腫瘍が大型で全体を代表する 切片が採取できない場合や悪性病変が腫瘍のごく一 部に存在する粘液性腫瘍の場合(図 3)などは細胞 標本にのみに目的とする細胞が存在することがあ る6).したがって,細胞診,組織診両方の標本を作 製しておき,総合的に迅速(病理)診断を決めると 良い(図 4).

文  献

1)  Kurman RJ, Carcanglu ML, Herrington CS,  . eds. WHO classification of tumours of fe- male reproductive organs. 4th ed. Lyon: Inter- national Agency for Research on Cancer; 2014.

(World health organization classification of tu-

mours).

2)  日本産科婦人科学会,日本病理学会編.卵巣腫 瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 病理編.東京: 

金原出版; 2015‑2016.

3)  九島巳樹.卵巣腫瘍の迅速診断.石倉 浩,手 島伸一編.卵巣腫瘍病理アトラス.東京:  文光 堂; 2004. pp29‑33.

4)  Stewart CJ, Brennan BA, Koay E, . Value  of cytology in the intraoperative assessment of  ovarian  tumors :  a  review  of  402  cases  and  comparison with frozen section diagnosis. 

. 2010;118:127‑136. 

5)  九島巳樹.卵巣上皮性腫瘍の間質浸潤.病理と 臨.2015;33:1065‑1070.

6)  Kushima, M. Problems in the pathological diag- nosis and intraoperative rapid diagnosis of mu- cinous tumor of the ovary. 

. 2013;25:1‑7.

参照

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