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物権変動の時期に関する判例の再検討

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(1)

富大経済論集

I

‑164‑

物権変動の時期に関する判例の再検討

ω

節 原

A特定物売買に関し通説的見解と同趣旨とされているもの(以上本号)

B特定物売買に関し通説的見解と反対趣旨のもの(以下次号)

Cその他の場合に関し通説的見解と同趣旨とされているもの

その他の場合に関し通説的見解と反対趣旨のもの

i

特定物売買において︑目的物の所有権移転の時期に関する当事者の意思が不明確な場合には︑原則とレザぃ︑売買契

約が成立すればそれだけでlすなわち︑代金支払・登記・引渡等に関係なく1直ちに当事者間で所有権が移転する︑

というのが︑これまで我妻教授をはじめとする多数の学者の見解である︒これに対し︑一般社会の法意識・取引慣行

(2)

等を根拠とする有力な反対説(服等)・少数説(州防や)①があるにもかかわらず︑なおかかる見解が堅持されている理由の

最も大きなものは︑判例が今まで一貫してこのような見解を採用して来ている︑と受取られていることにあゐoそし

て︑通説の如く解することが︑本問題について判例法の生成をみている今日︑妥当であり︑反対説・少数説は︑いた

(

v u

t

)

しかし︑かかる通説の態度に疑問を抱く筆者は︑さきに﹁特定物売買における所有権移転の時期﹂に関する戦後の

判例について検討を試み(踊何錦繍輪唯一一明抱一杯五)︑その結果︑戦後の判例においては多数説のような見解がそのまま具体

的結論として下されていないこと︑いな︑むしろ反対の趣旨の裁断が下されている事例が少なからず存在することを

③ 知った︒そして︑かかる戦後の判例の態度は戦前のそれといかなる関連において理解さるべきか︑また本問題に関す

る判例の立場をどのように把握するのが正当か︑という課題は︑戦前の幾多の判例を再検討した上で結論づけること

にしこれを残しておいた︒

稿

この残された課題を解明すべく引続き戦前の判例を再検討したものであるが︑同時にこのことは︑

七六条の解釈に関する次の如き筆者の基本的考えに関連性をもつ

だけを簡単に述

Jo

べるに止める﹂

付民法一七六条は︑フランス民法と同様に︑物権変動が単に当事者の合意だけで行なわれること︑したがって︑ド

イツ民法の如き形式主義をとらないこと︑を言明したにとどまり︑それ以上に︑その意思表示が常に独自的存在をも

っ物権的意志表示でなければならないとか︑債権的意思表示でもよいとか︑ということまで積極的に規定するものでは

(

JJ

︒したがって︑畏法一七六条の解釈として︑債権契約にすぎない売買の合意によって直ちに所有権が

移転するという原則を導き出すことは︑本条の趣旨を逸脱するものである︑といわねばならないD物権変動が生ずる ﹁私見の詳細は︑別の機会に従来の学説に対する批判とあわせて述べる予定戸なので︑ここでは︑筆者の判例研究の基本的態度と関連せしめてその骨子

()

(3)

富大経済論集

fJ 

Jl 

‑166

のは︑当事者の効果意思によるのであるから︑その時期もあくまで当事者の意思によって決定さるべきである︒多数

説の如く︑原則として売買契約締結の時に所有権が移転するという原則論を打立ててしまい︑当事者の意思をあくま

で探求することなく︑この原則論でもって一切を裁断してしまう態度は︑余りにも画一的にすぎて妥当でない︒当事

者の意思がしかく明確でないときは︑各具体的事例における諸般の具体的事情(配恥スMV

h

性 明 日 齢

γ酷鯨清一局一一伊川崎麟?朝哨)を勘案して︑当事者の効果意思を確定ないし補充解釈して︑いずれかに判断すべきもので

同当事者の意思が不明確である故に︑﹁事実たる慣習﹂が︑当事者の意思解釈の基準として重要性をもってくる︒

本問題につき取引慣行あるいは一般的法意識が問題とされる理由は︑右に述べたような観点から︑それらが本問題解

決の決め手となりうるファクターである︑という点に求めることができる口ただ︑ここで注意さるべきは︑取引慣行な

いし一般的法意識がこうだということが︑自ω片﹁にそのまま法解釈の次元に反映され結論となるのではない︑とい

⑤ うことである︒法解釈論としては︑あくまで当事者の効果意思に基づき決定するという原則が維持されるのであって︑

取引慣行ないし一般的法意識は︑ただこの効果意思が不明確であるためこれを補填すかものとして第二次的に登場し

てくるにすぎない︒より法律的にいえば︑意思表示の解釈にあたり︑当事者がこれらの取引慣行によるとの意思を有

︑しているものと一般的に認められることによって(け調一一時点

ω4

恥)︑つまり︑民法九二条を媒介とすることによって︑E

取引慣行と同一の法律効果が確定され︑その結果︑あたかも取引慣行そのものが当事者を規律したかの如き外観を一示

すにすぎないわけであるo故に︑客観的に認識される取引慣行が存在する場合でも︑何らかの具体的事実から当事者

の意思がこれと別なときにあると推測されうるならば︑そのとき(すなわち︑取引慣行と異ったとき)に所有権が移

転するとされることはいうまでもない︒

(4)

同日当事者の意思が不明確な場合においても︑裁判所はこれまで結論を下しいずれかに裁断してきたのであるから︑

本問題に関する重要な判断基準ないし資料として判例を取り上げねばならない︒裁判所は︑いかなる具体的事実があ

るときに買主に所有権が移転したと解し︑また︑いかなる条件が具備されているときになお売主に留保されていると

判断したか︒従来の判例を仔細に検討し︑これを積み重ねることによって︑その判断にある程度の類型を見出し︑解

釈上の指標を求めることができるであろう︒このことは︑民法九O条の﹁公序良俗﹂同九五条の﹁法律行為の要素﹂

等いわゆる白地規定の具体的内容を判例によって明確化する作業と全く同一であると筆者は解する︒そして︑この同

一性は︑前者にあっては﹁当事者の意思﹂が不明確であり︑後者にあっては﹁規定の内容﹂が不明確であって︑両者

にかくの如き類似性

(H

不明確性)が存在することに由来するものと思うD

以上のような一七六条に︑対する筆者の基本的考えから︑次の如き実践的目的が必然的に出てくる︒ωまず私見円円から︑取引慣行ないし一般的法意識についての実態調査が要求される︒しかし︑これはきわめて大き

な作業であり他日に期さねばならない︒

制次に私見同から︑本問題に関する多数の判例についての総合的研究が必要となる︒しかも︑肝要なことは︑その

場合に判旨中の拍象的見解よりは︑裁判所がいかなる具体的事実のもとでいかなる具体的結論を下したかという点に

ウエイトをおくことが特に要請される︑ということである︒これまで︑筆者が︑判例に対する基本的姿勢として︑

的な抽象論よりも具体的事件に対する具体的結論を重視するという態度︑および︑内包︒門凶

2Eg

ZZ

吋 門 出 ︒

ZB

とを区別するという態度をとってきたのは︑それが﹁判例研究の仕方﹂という方法論的思考に基くこともさることな

がら︑一七六条の解釈論的指標を打立てるという実践的目的に照らして既述の如き理論的必要性を痛感するからにほ

)

()

(5)

富大経済論集

‑168 ‑'

O

(

)

(

)

⑦ 関係が︑吟味さるべき重要なポイントと考えられ︑その他の.いわゆる附随的条件と目されるものも決して無視されえ

③ ないわけである︒ ﹁不動産取引業者・銀行業者・消費J

F者の区別︑商人か否かの区別等﹂等の事実

右のような基本的姿勢を維持しつつ︑裁判所は果して一貫して通説的見解をもって具体的に裁断してきた

か︑という最初の問題意識︑および︑通説以外の見解(代金支払・登記・引渡時説)は判例の具体的結論と全然符合

しないものか︑という問題意識から︑判例を再検討しよう︒

註①筆者は本問題に関する学説を極めて大ざっぱに四つに分類にしておいた︒拙稿﹁﹃特定物売買における所有権移転の時期﹄

に関する戦後の判例について﹂(富大経済論集六巻三・四号創立三十五年記念論文集所取)一一二四頁註②を参照されたい︒

②勿論︑多数説はそれなりに理論的根拠を提示しているけれども︑理論的根拠あるいは論理的整合性という点では︑多数説・

反対説ないし少数説のいずれも︑それぞれ自説の裏付けとなるべき民法の諸規定・諸制度を援用し︑かっ︑相手の立場に対し

(

叫一見託一か設れしい同点)︒また︑一般社会の法意識・取引慣行については︑多数説の代表者ともいうべき我妻教授や柏木教授

は︑反対説および少数説とその評価ないし受取り万を異にしておられ︑この点では︑いわば平行線をなしている(誠一一

0 .

糊 一泣 い

)

学説の対立は︑判例を支持するか否かという差違に帰着するといえるであろう(嗣蹄W

)

③たとえば︑最高裁昭三五年三月二二日判決(間滞かま一四)︑京都地裁昭和二四・三・二二判決(判制定一出版)︑盛岡地裁昭三二・

(

)

(

)

稿

υ v

④ー本文で述べたような私見からすれば︑多数説が本問題につき︑たとえば特約がある場合を原則に対する例外として論じてい

る態度自体が問題となる︒特約がある場合とは︑当事者の意思が特別に明らかにされている場合なのでめって︑その明示され

(6)

た時に所有権が移転するとすることは︑あくまで﹁当事者の意思による﹂という原則に従ったことに何ら変りなく︑そこには

原則と例外という関係で把握さるべきなにものもない︒

⑤筆者は︑かかる法社会学的な成果を重視し︑これにかなりの出重を付与して法的判断に反映せしめる社会法学的あるいはプ

ラグマチズム法学的方法論(たとえば﹀

r g

自 由

2P

71

CZι2

2

事件における回︒一自由の少数意見︑吋

ER

︿ ・

J O

事件における

FE r

∞の少数意見︑鵜飼・現代アメリカ法学五四頁参照︒なお︑

( U O B B o E

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3w

HJ

5の室内田

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Z丘 一

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U 1

H)HHAH)に心惹かれるものがある︒しかし︑大陸法系に属するわが国では︑かかる態度は未だ一般に是認さ

れておらず︑やはり︑法解釈論的理論構成が要求されている︒

@前掲拙稿は︑この点に関する筆者の意図について若干いい足りなかった︒勿論︑この間題は万法論に関連する極めて深遠な

問題であり︑いまここで充分いい尽せる性質のものではない︒しかし︑ことを物権変動の時期の問題に対するアプローチの仕

方という面にかぎれば︑本文で述べたことが︑この点についての補足説明となるであろう︒なお前掲論文につきこの点の筆者

の説明不足を御指摘下された山本進一教授に対しては厚く御私申し上げる︒

⑦この点︑太田知行氏﹁不動産の売買﹂

( M 1 3 R ω

)

lスを類型別にとらえて分析されているのは優れた態度である︒

①筆者のかかる意図にもかかわらず︑古い判例にあっては資料上の制約から︑必ずしも具体的な諸条件を詳しく知りえなかっ

たのは遺憾であった︒

特定物売買に関し通説的見解と同趣旨とされているもの

従来︑特定物売買における所有権移転の時期に関して︑裁判所は一貫して通説の如き契約締結時に移転するとの見

解を採用している︑と大部分の学者によって理解され︑かつ︑これを立証せんとして多数の判例が引用されているけ

れども︑実際には︑﹁特定物売買そのもの﹂に関して具体的にしかく裁断したとみられる判例は︑極く僅かしか存在

しない︒なるほど︑特定物売買に関する一般的理論として今日の通説の如き見解を述べているものは多い︒しかし︑

物権変動の時期に関する判例の再検討村(吉原)

(7)

富大経済論集

それらは︑特定物売買における所有権移転そのものが争点となっている事件に下された具体的裁断ではない︒このこ

とは充分注意されてしかるべきである︒

以下︑判旨中特定物売買につき通説と同趣旨の見解を陳述している判例を一応網羅的に取上げ︑逐一吟味して行こ

(

ω

柑 刊 誌 一

議 一 一 叩

) ︒

大審院明治二八年一一月七日判決議誠﹁時四)

﹁凡ソ特定物ヲ目的トスル単純ナル売買ニシテ結約者間ニ特約ナキ限リハ売買契約ノ成民法施行前に︑

立スルト同時ニ其所有権直チニ売主ヨリ買主ニ移転スルヲ以テ普通売買ノ法則トス︒故ニ代金ノ支払・目的物件ノ引

渡ノ如キハ竃モ其所有権ノ移転ニ関係ヲ有セザルナル

U

(

)

論と同一の法理を表明している︒しかし︑本件の事案は︑特定物売買に関するものではないし︑判旨にも︑問題があ

0

.

Xが自己の供出する材料で家屋を落成せしめたが引渡もなさず代金も受領しない間に︑注文者Aの債権者Y

Xは家屋の所有権が自己にあることを理由に異議を申し述べたーーというものである︒

判旨は

前記例の説示に引続き﹁是レ家屋ノ建築ヲ完全ニ成熟セシムベキ停止ノ未必条件ヲ附シタルモノナルガl

故一一︑果シテ其建築ノ完成セシヤ否ヤハ単ニ請負人タルXノ意思ノミヲ以テ決定シ得ベキモノニ非ズ︒即チ注文者タ

Aが売買ノ目的タル家屋其モノヲ検査シ其建築ヲ認メテ可ナリトシタル上ニ非ザレバ法律上未ダ以テ条件ノ成就シ

タルモノト謂フ可カラザル筋合ナリトス︒然ルニ原院ハ単ニXガ明治二六年八月三O日本件家屋落成シタリトノ陳述

ノミニ依拠シ乃チ此時ヲ以テ建築完成ナル条件ノ巳ニ成就セシモノト為シ︑以テ該家屋ノ所有権ハ建築落成ト同時ニ

直チニX

Aニ移転シタルモノト判定セシハ︑結局法則ヲ不当ニ適用シ夕︑ル違法ヲ免レザルモノ︺であるとして︑

(8)

家屋の所有権は未だ注文者Aに移転しないものとしたむ

この結論は︑請負人が自己の材料をもって建物を築造したような場合は建物の所有権はまず請負人に帰属し︑しか

るのち建物が注文者に引渡された時に移転する︑という今日の判例通説の見解と同一である︒けれども判旨に表われ

た考え方は︑物権変動に関する通説的見解と多少相違しているとみられる︒けだし︑判旨は︑XAとの契約を未必

条件附売買契約であると認定した上で︑単に家屋が落成しただけでは条件が成就したというべきでなく﹁注文者A

検査の上これを認めて可なりとして﹂はじめて条件が成就し所有権移転ありというべきものとしているのであるが︑

通説の理論では︑一般に条件附売買の場合には︑その条件が成就されたならば買主がたとえその事実を知らなくても

(

)

が検査して確認するようなことまで要求されないからであるD

それはともかく︑本件の﹁特定物云々﹂の説示副知)は︑本件の事案とは無関係な仮定事実に対する抽象論にすぎ

ない︒故に︑本判例を︑特定物売買に関し売買契約成立と同時に所有権が移転すると判決したものと評価することは

厳密性を欠くといわねばならない︒

2大審院明治三O

(

)

これも同じく民法施行前のものであるが︑︹1と異り通説的見解をとったものとみられる︒

事案llYXから不動産を買ったが︑手附を交付しただけで残代金の支払と登記の移転とを後日登記所で引換えにすることと

約束した︒洪水のために買主Yは期日に登記所に出頭しなかった︒Xは代金を請求したが︑Yは自己の期日不出頭により手附は没

収せられでも売買は効力を失ったから代金支払の義務はないと抗弁し︑且ったとえ売買が効力を失わないとしても代金支払前に洪水で不動産に生じた損害はXの負担すべきものだと主張した︒

判旨は

l l

﹁代価ノ全部若クハ其一部ノ支払ヲ為サザル間ハ売買契約ハ完成セザルモノナリトスル慣習若クハ法理

()

(9)

富大経済論集

であるとした後︑﹁凡ソ不動産ノ売買ハ其登記ヲ為サザレバ単ニ売買契約ノ成立ハ本邦ニ於テ未ダ曽テ認メザル所﹂

ノミヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ズト雄モ︑其売買契約ヲ為シタル当事者間ニ在テハ其登記ヲ為シタルト否トニ 依リ権利関係ニ消長ヲ来スベキモノニ非ズ︒即チ其売買契約ノ完結ト同時ニ其目的物ノ所有権ハ買得者ニ移転スベキ 筋合﹂であると説示して︑この時以後の洪水に因る損害を買主

Yの負担すべきものであると判示した︒

大審院明治四四年二一月一六日判決︑損害賠償請求ノ件(鳩ι

京配輯)

﹁然レドモ売買ニ於テ代金ノ支払ナケレバ目的物ノ所有権ノ買主ニ移転スベカラザルモノニアラズ﹂ 3

の説示がみられる︒しかしながら︑本件の事案は再売買の予約に関するものであり︑しかも︑判決理由全体を仔細に

検討すれば︑前記例の説一示にもかかわらず︑判決の理由づけが必ずしも通説的見解に一致していないことを指摘しう

る ︒

事案

llY

はその所有土地をXに売却したが︑同時に原価で買戻す旨の特約(原審はこれを再売買の予約と認定している)をな

し︑引続き小作人として該土地の占有を続けてきた︒その後︑Yは売買完結の意思表示をなした︒しかし︑Xは︑代金未納であり

引渡が済んでいないとしてYの所有権帰属を争い︑Yの果実取得に対して損害賠償を求めた︒原審では︑売買と同時にYは占有権

Xは占有権と所有権とを共に喪失したとして︑これを棄却した︒

上告理由は││lH

双務契約たる売買契約にあっては︑それが履行されない場合買主は目的物の上に完全な所有権を 行使し得ないにかかわらず︑原判決が単に売買契約成立の事実のみを認め︑当事者聞に履行せられたや否やを不問に

付し︑契約成立後直ちに本件目的物件の上に完全なる所有権を獲得したと判断したのは不当である︒

HH

買主が代金の

交付をなさずしたがって売主において目的物件の引渡を承諾しない場合においても︑何故︑買主が完全な所有権を獲 得し︑また売主は代金の支払を受けないにかかわらずその所有権を喪失せざるを得ないのか︑理由不備である︒同

Y

は小作人として本件土地を占有して来たが︑いやしくも

Y

が小作人としての占有を脱し買主として所有者として占有

(10)

するためには︑売買代金を支払いその引渡しを受けるか︑もしくは︑少くとも更に所有者として占有する意思表示を

しなければならないーーというものである︒

判旨はtllハ門に対して﹁本件ニ於テハ土地ノ売買契約成立セシコトハ当事者間ニ争ヒナクシテ其争フ所ハ唯其売

買ノ履行アリシヤ否ヤニ在リテ︑其履行ハ土地ノ引渡アリト認ムルコトヲ得ベキヤ否ヤニ因テ岐グ

Y

﹁本件ニ於テハ売買ノ当時ハ勿論其以前ヨリYガ小作人トシテ土地ヲ占有シタル事実ハ原院ノ確認スル所ナ

ルヲ以テ︑民法第一八二条第二項ニ依リ︑売買契約ヲ履行スルニ付キ現実ニ土地ノ引渡ヲ為スコトヲ要セズ︑卦辛4f

D

'

J μ

い訊帥ハ町小恥場合h

HH

に対し﹁然レドモ論者ハ本件土地ノ売買ニ付Xニ於テ未ダ代金ノ交付ヲ受ケザレパ地所ノ引渡ヲ承諾シタルコト

ナシトノ主張ヲ︺削提トスルモノナレバ︑前ニ説明シタル如ク占有移転ノ意志表示アリテ士掛ハ恥勝れトム/μb'

ルヲ相当トスル﹂といい︑

同に対して﹁然レドモ売買ニ於テ代金ノ支払ナレバ目的物ノ所有権ノ買主ニ移転スベカラザルモノニアラ内︑故ニ

代金支払ノ有無ニ拘ハラズ所有権ハ果シテ移転セシヤ否ヤハ独立シテ確定シ得ベキ事実問題ナルコト明カナレバ本論

旨ハ結局原院ノ職権ニ属スル事実認定ニ対スル批難ナルヲ以テ︑上告適法ノ理由トナラズ﹂として︑上告を棄却して

きて︑本件の上告理由付および伺は︑いずれも通説的見解︑すなわち︑当事者の契約成立すれば直ちに

l

l代金支

払・登記・引渡がなくても

l

所有権が当然売主から買主に移転するとの見解をとる限り︑全然問題とするに値しなl

い口にもかかわらず︑判旨は何らこの点を明言することなく︑かえって︑問題の解決をもっぱら﹁引渡﹂ありたるか

(歎)︑本件の場合は意思表示のみによって﹁引渡があった﹂としてお畑の)︑Yへの所有権移転を 否かに依存せしめ

物権変動の時期に関する判例の再検討村(吉原)

(11)

~174 ー

富大経済論集

認めたわけである︒厳密にいえば︑

かかる態度は︑むしろ反対説ないし少数説に近いものといわねばならない︒そし

て一見通説的見解と同旨であるとみられる前記同の説示も︑引渡の有無を重視している判旨全体からみると﹁代金支

払がなくても引渡しがあればよい﹂という意味に受取れ︑必ずしも通説的見解と全面的に符合するものでないことが

4大審院大正二年一O月二五日判決・土地所有権移転登記手続請求ノ件(崎一学時

30

本問題のいわばリlディング・ケースとして取扱われている観がある︒本件において判決は︑﹁特定物

ヲ目的トスル売買ハ特ニ将来其物ノ所有権ヲ移転スベキ約旨ニ出デザル限リハ即時ニ其物ノ所有権ヲ移転ス戸意思表

示ニ外ナラザルヲ以テ︑前一示法条(絹ほト社七)ノ規定ニ依リ直一一︑所有権移転ノ効力ヲ生ズルモノトス﹂と明言してい

る︒しかしながら︑特定物売買に関する代表的判例とされている本判例も︑実は︑特定物売買の事案についてのもの

でなく︑再売買の予約に関するものである︒

事案llYX

Y

OO

Y

OO円を働き出しこれを提供して売買完結の意思表示をなし移転登記を請

Y

上告理由は││売買は財産権移転を将来に約する債務関係の成立すなわち債権契約であって物権契約ではない︒故

に売買により所有権を移転するには債権契約のほか︑ドイツ民法のように特定の法式を要しないけれども︑明示また

は暗示の物権契約をなさなければならない

l

lと︒要するに︑物権行為の独自性を主張するものであった︒

判決理由は︑これに対し一七六条の解釈論を展開して次のようにいう︒

判旨lll﹁然レドモ物権ノ設定及ピ移転ハ当事者ノ意思表示ノミ一一四リテ其効力ヲ生ズルコトハ民法第一七六条ノ

(12)

規定スル所ナルヲ以テ物権ノ移転ヲ目的トスル意思表示ハ単ニ其意思表示ノミニ因リテ直チニ物権移転ノ効力ヲ生ズ

μD

!

μ μ

小野かトト市骨わ小骨骨伽↓hRr除ト

μ μ

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μ(ω転ノ効力ヲ生ズルモノトス:::中略:::若シ夫レ直接特定物ノ所有権ヲ目的トスル売買ハ或ハ原院判示ノ如ク先ヅ債

権関係ヲ生ジテ即時ニ一履行セラ戸戸毛ノト宥倣スベキカ或ハ債権関係ト物権関係トヲ併セ生ズ戸モノト為スベキカ或

ハ専一フ債権関係ヲ生ズルモ法律ノ特別規定ニ依リ物権的効力ヲ生ズルモノト見ルベキカ等ノ問題ニ至テハ学説ノ分ル

ル所ナレドモ︑斯ノ如キ売買ハ第一七六条ノ規定ニ依リ直ニ所有権移転ノ効力ヲ生ズルコトハ上来説明ノ如ク民法ノ

解釈上疑ヲ容レザル所ナルヲ以テ︑今特ニ右問題ヲ解決スルノ必要ア戸ヲ見ズ﹂と︒

まず︑判己目前段傍点例の説示は当然是認せられる︒意志表示が﹁物権の移転を目的とする﹂ものである以上︑その

意思表示によって物権移転の効力が生ずるとすることは︑効果意思に即して法律効果を附与するという近代法の原則

からいって当然である︒故に︑この例の説一示から直ちに通説的見解とだけの一致を主張することは妥当でない︒

しかし判旨が︑次いで特定物を目的とする売買につき(叫師側)なぜに﹁将来其物の所有権を移転するという約旨が

ない限り﹂﹁即時に其物の所有権を移転する意志表示に外ならない﹂としてしまわねばならないのか︑筆者はその論

理的必然性を感知することができない︒当事者の意思が所有権移転の時期について必ずしも明確でなく︑将来の特定

の時にするという特別の約旨がない場合でも︑当事者のつもりでは︑単に契約の締結だけに止め︑直ちに所有権移転

の効果までを期待しない︑換言すれば︑なお所有権を売主に留保している︑と判断される場合がありうるであろう︒

以上述べた判旨に対する疑問は︑とりもなおさず通説的見解に対する内容的批判になるわけであるが︑それはとも

()

(13)

富大経済論集

‑176‑

かく︑前掲判旨ωの部分が一七六条に関して今日の通説と同一の見解を表明していることは明らかである︒だがしか

一七六条についての一般し︑特定物売買に関するこの説示は︑上告理由の抽象論日物権行為独自性是認論に応えて︑

的見解を述べたものであって︑本件の具体的結論とは必ずしも直結していない︒このことは既に川島教授の指摘せら

れている通りである布団山賦法

I)

︒しかも本件の事実関係をみれば︑Y

は ︑

る︒この事実は充分留意せられるべきであろう︒しかるとき︑判決全体はむしろ少数説と符合してくる︒

﹁再売買の予約完結の意思表示があったとき﹂は直ちに所有権が移転すると判示した原

OO円を働き出してこれを提供してい

結局のところ︑本判決は︑

﹁特定物売買につき当事者の意思が不明確なときに︑売買契約と同時に︑代金

支払等に関係なく︑所有権が移転する﹂との具体的裁断を下したものでない︒換言すれば︑通説的見解がそのまま具 判決を支持したものであるけれども︑

体的に適用されたものと受取ることはできないのである︒このことは︑本件事案に即して判旨を読み返すとき容易に

理解しうるであろう︒

この︹4︺判例と同様に︑売買予約の事案において︑特定物売買に関し通説と同趣旨の見解を述べたものが若干あ

る︒ここでまとめて取り上げておこう︒

5大審院大正七年二月二八日判決・土地建物所有権移転登記申請手続語求ノ件︒(訊竺一期担軒)

事案ilX

は ︑

Yに対し土地建物を売渡したが︑売買契約と同時に︑向う五ヶ年内に売買代金と同額の代金を支払うことにより

X

00 0

YX

YX

上告理由

1 1

原審は﹁YXに対し本件不動産に対する所有権移転をなすべき義務あるに至った﹂と判示したので

(14)

あるから︑売買の成立と同時に家屋所有権の移転はなかったと解したわけであるひ所有権移転の登記手続は︑第三者〆 対抗要件であって︑所有権移転の意思表示なき限りこれをなすことはできないから︑原審が所有権移転の事実を明ら

かにせず登記手続の判決をしたのは失当である︒

Aw

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D

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岳れμ

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︑白

売買ノ意思表示ヲ為シ売買ノ効力発生スルト同時ニ所有権ノ移転アルモノト認ムルヲ至当トス

Y原院ノ確定セル所ニ

依レパ当事者ノ売買ノ予約ハ所有権ノ移転ニ付特別ノ定メアルモノご非ザルヲ以テ︑相手方タル

Xニ於テ売買完結ノ

意思表示ヲ為シタル事実ノ確定セ一ブレタル以上ハ売買ノ効力発生シテ其目的タル本訴不動産ノ所有権ガXニ移転シタ

ルモノト為スベキコト多言ヲ要セズ﹂ーーー本件については︹6︺判例と一緒に論評する︒

6︺大審院昭和八年一二月九日判決(糊榊繍耕一

K M 5 同 一 期 )

一一本判例は﹁特定物売買ニ於テハ特殊ノ事情ナキ限リ売買契約ノ効力ヲ生ズ戸ト同時ニ其ノ特定物ノ所有権ハ相手方

一一移転スベキモノナルコト夙ニ当院ノ判例(献竺明思議日訂一私的トスルトコロM

であるとして前掲︹

4

177‑

llYは︑本件建物につき訴外Aに対して売買一方の予約に基づき売買完結の意思表示をなした︒X

Y

0

00

円を末だ支払っていないからYには所有権がないと争った︒原審は︑﹁売買一方ノ予約ニ於テハ予約権者ガ売買完結ノ意

思表示ヲ為ストキハ之ニヨリテ売買契約成立スルハ勿論ナルノミナラズ︑契約当事者グ特ニ反対ノ定メヲ為サズ且所有権ヲ移転スルニ付何等ノ障害ノ存セザル以上前記売買契約ノ成立ト同時ニ所有︑権ハ買主ニ移転ス︽﹂との一般論を述べ︑特約や障害的事実のない本件では﹁代金八000円也ノ提供ノ有無ニ関係ナク前示売買ト同時二本件建物ノ所有権ハ買主タ

W

Y

上告理由は︑物権変動の時期に関し通説的見解とは全く逆の考え方で興味深い︒

そのまま引用しよう︒﹁現実売買

物権変動の時期に関する判例の再検討付(吉原)

(15)

‑172‑

O

ニアラザル特定不動産ニツキ売買ガ成立シタレパトテ︑常ニ必ズシモ之ト同時ニ其ノ所有権ガ移転スルモノトハ限ラ

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コトア戸︑小トも︑売買契約成立ノミニ依リテハ売

主ハ其目的タル権利ヲ買主ニ移転スベキ義務ヲ負担スルニ止マリ︑直ニ該権利ノ移転ヲ生ズベキモノニ非ズ﹂と︒

判旨は前掲糾の説一ホのあと引続いて﹁本件売買ニ於テ特ニ将来其ノ物ノ所有権ヲ移転スベキ約旨アリシ等特殊

ノ事情ア戸コトハ原審ノ認定セザルトコロナレパ売買契約ト同時二本件建物ノ所有権がYニ移転シタリト為シタリ原

判決ハ正当ナリ﹂として︑原審を支持した︒

以上の三判例︹4

5

6

いずれも事案が再売買の予約に関するものであるのに︑特定物売買における所

有権移転の時期につき言及したものであるが︑各場合とも︑判旨では︑特定物売買についての法理が再売買予約完結に

ついての判断の骨骨として述べられている︒ただ︑それは︑再売買予約に関する法理を特定物売買に関する法理のコ

ロラリーと把握するからなのか(誠一協臨時晴晴初境立川一およ)︑それとも︑再売買予約完結の場合は特定物売買と全く同質

な法律関係である(再売買予約完結の意思表示があれば︑そこで売買契約が締結されたことになるわけだから)と考

えるからなのか︑この点必ずしも明白でない︒しかし︑﹁売買ノ予約ノ場合ニハ相手方ガ売買完結ノ意思表示ヲ為シ

μ μ

ト同時ニ所有権ノ移転アルト認ムルヲ至当トス﹂るという︹5︺判例の判旨(制加)および︑ほ

ぼ同趣旨の︹6︺判例における原審の判決理由(側部制)等をみれば︑後者の立場をとっているようにうかがわれる︒

もし︑このように︑再売買予約を特定物売買契約と同質あるいはその一種と把握するならば︑本来再売買予約につい

6︺を︑﹁特定物売買に関し通説的見解と同趣旨のものである﹂と評価するての判例にすぎない前掲︹45

こともあるいは是認されるわけであろう︒しかし︑筆者は︑本問題に関する判例を考察する場合には︑あくまで︑再

参照

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