九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
デジタルツール ニ ヨル トウジキ デザイン プロセス ノ カイカク ニ カンスル ケンキュ ウ
副島, 潔
Saga Ceramics Research Laboratory
https://doi.org/10.15017/17125
出版情報:Kyushu University, 2009, 博士(芸術工学), 課程博士
第3章
形状データ制作法
第3章 形状データ制作法
3-1. はじめに
デジタル化されたデザインプロセスでは、形状データが最終製品の品質を決定づけるこ とになるため、データ制作法はきわめて重要である。効率的なデータ制作法(モデリング 技法)の構築は、後の商品開発サイクルにも大きく影響する。
デザインデータはモデリング機能を持ったソフトウェアで制作する。ソフトウェアは系 の CAD ソリッドモデラーと CG 系のサーフェースモデラーに大別される。この他、3DCG アニメーションでは、ポリゴンモデラーが使用されることが多い。一般的に、ソリッドモ デラーは数値定義された幾何学形状のモデリングに向いている。変更履歴が保存され、寸 法と形状がリンクしているパラメトリックモデリング機能を有しているものが多い。陶磁 器のデザインでは、基本的な大きさで寸法を定義する必要はあるものの、幾何学的な定義 にとらわれない自由なカーブと曲面を多用する必要がある。このためサーフェースモデ ラーの方が適している。他分野の製品でも、機構的な部分はソリッドモデラーが使われ、
外観デザインを行うにはサーフェースモデラーが使われる。サーフェースモデラーでは、
基準となるカーブを定義してカーブ間に面貼りを行い、立体を作り上げる。これは NURBS ( Nonuniform rational B-splineS) と呼ばれる、Versprille が理論的に完成した15、カーブと 曲面生成法を基本としている場合がほとんどである。主に研究に利用したソフトウェア は、サーフェースモデラーである Rhinoceros である。初期段階では工業デザインの分野 で以前から利用されている Alias STUDIO を使用した。
小規模企業が大半を占める地方の陶磁器業界にとっては、他の工業製品分野で導入が進 んだ 3DCG・CAD ソフトウェアは高額すぎるものが多く、普及を図るためには低価格帯の ソフトウェアで検証を行うことが望ましい。Rhinoceros は比較的安価でありながら、機 能としては高価格帯のソフトウェアと同等のものを備えていて、本研究目的に叶った製品 である16。
3-2.基本カーブの編集
NURBS 制御点を画面上で指定して定義するもので、カーブは後から任意に変更できる。
また紙に手で描いたスケッチをスキャナでコンピュータに取り込み、下絵として利用する こともできる。回転体であれば、断面を定義するだけで数分内に立体形状のデータが完成
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する。画面上で視点を自在に変更しながら 確認することができる。回転体は陶磁器 製品でも多くの割合を占めており、生産 ロットも大量である場合が多いため、デ ザイン決定は慎重に行う必要があるが、
短時間で多くの事前シミュレーションが 可能となり、品質の向上が見込まれる。
回転体でないものは相応に複雑なプロセ スで立体を定義しなければならない。形 状を特徴づける基本カーブが増えるほど データ作成に要する時間は増える 2。回転
体ではない楕円皿、角皿などの器や、コーヒーカーップのハンドル、注器の注ぎ口などは 単一のカーブでは提示できない。様々なケースに対応できるよう、データ制作法を蓄積し ていく必要がある。
モデリングの際には、曲線や曲面の連続性を確認できるツールが備わっており、滑らか な面データの生成を実現することができる17。
3-3.回転体のモデリング
陶磁器の成形は手で挽く「ロクロ」をイメージされることが多いが、量産品でも回転体 は多い。回転体は手に持つ時や口を付ける時の方向を選ばないし、生産性も高いからであ る。回転体は断面を定義し、回転コマンドを使用するだけで得られる。簡単なものであ れば1分以下でデータ制作が完了する。し
かし、ここで決定されたデータは製品の品 質そのものに影響するものであるから、慎 重に決定する必要がある。後の形態にも共 通することであるが、陶磁器の場合、高台
(こうだい)あるいは糸底と呼ばれる、脚 部がある。この高台を別のカーブあるいは サーフェースとして作るか、ボディと一体 のカーブとして作るかによって、処理が異
図 3-1 カーブの曲率表示
図 3-2 回転体の一例
なる。
図 3-3 左は、高台をボディを連続した一本のカーブとして描いたものである。鋭角に近 い部分には制御点を多く配置する。この制御点は後に自在に動かすことができるので、カー ブを最初に描く際には制御点の数に注意し、厳密な位置にはこだわらず描いた方が良い。
図 3-3 右は個々のセグメントに分けてカーブを描いたものである。勢いのあるカーブを利 用したい場合には、実際に必要な部分よりも長く描き、後の工程でトリムを行った方が結
図 3-4 回転体の応用による変形皿 図 3-3 椀の断面カーブ
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果として良いデータとなる場合も多い。
なお、回転体の場合、中心部に相当するカーブの始点あるいは終点に注意する必要があ る。最も中心側にある制御点と、2番目の制御点が水平になるよう配置しないと、回転体 を生成した場合に凹凸が出来てしまう。場合によってはあえて中心線から離れたところで カーブを描き、中心部は開口しておいて、別の平面サーフェースで塞いだ方が良いことも ある。後の工程で回転体の中心部で欠損が起きることがあるためである。また陶磁器では 厚さが重要であり、厚さの参考とするために目安となる直径の円を配置して描くことで、
望ましい厚さに近い断面を定義することができる。
図 3-4 は回転体を応用したものである。断面カーブと、平面形を決めるカーブを描いて おき、平面形のカーブに沿って回転体を生成する。この制作法では、口縁部と高台の関係 を一定にすることができる。古くから陶磁器ではよく見られる形態である。
また図 3-5 は回転体を生成した後に、断面を等間隔で抽出して口縁近くの制御点を選択 して均等に移動させたものである。陶磁器業界では「なぶり」と呼ばれる処理法である。
3-4. ハンドルのモデリング
コーヒーカップの取手などは、陶磁器では「ハンドル」と呼ばれることが多い。基本的 図 3-5 回転体の応用によるコンポート(高杯)
には図 3-6,7 のように断面を定義して、側面形のカーブに沿って掃引体を作ることで得ら れる。得たい形の断面が一定で、側面形が滑らかなカーブを描いている場合は良い結果が 得られる。場合によっては外側と内側2つのカーブを用意する必要がある。実際には、さ
図 3-6 シンプルなハンドルのモデル
図 3-7 複雑なハンドルのモデル
28 図 3-8 注口のモデル
らに複雑なハンドルが多く、断面が変化する場合には、断面を複数用意する必要がある。
場合によってはさらに側面形のカーブも複数用意して生成する必要がある。網目状にカー ブを定義して面を生成する「ネットワーク」と呼ばれる手法を利用する場合もある。さら に複雑な図 3-7 のようなハンドルも良く見られる。この場合は特徴的な部分を一つの要素 と考え、各々にカーブを定義しなければならない。単純なハンドルより遥かにデータ制作 時間がかかる。ハンドルは実際に手が触れる部分で、器のみの重量を支えることはもちろ ん、器に飲物などの内容物が入った状態ではさらに多くの重量を支えなければならない。
機能面も重要である一方で、単調になりがちなボディに対して特徴のある形としてカップ としての魅力を高めようとする意匠面の要求もある。複数のハンドルを用意して選択する ことも多く、様々なモデリングのアプローチがある。
3-5. 注口のモデリング
土瓶や急須、ティーポットなどでは注口が必要である。ハンドルにも共通することであ るが、後の生産時には別のパーツとして作り、接着する場合が多い。このような場合には ボディとの連続性は必要なく、ハンドルと同様に断面方向と側面形のカーブを定義して生 成する。ハンドルと同様、注口も外観を特徴づけるため、様々な形状がある。一例として 図 3-8 を示す。ボディと一体で成型する場合には、ボディと連続した形としたいことがあ る。様々な技法が考えられるが、ボディのカーブを抽出して注口のカーブが接線方向で連 続性を持つよう定義することで制作することができる。
3-6. ケーススタディ
以上のように例を示してきたが、すべての形態について制作法を記述できるものではな い。データ制作法を実証するためのケーススタディとして、有田で明治期からの歴史を持 つ株式会社香蘭社の高級ディナーセットのモデリングを行った例を図 3-9 に示す。基本的 には先に記載した手法を駆使して制作したものである。
図 3- 9 香蘭社ディナーセットのモデリング
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3-7. まとめと考察
陶磁器のデザインで想定される様々 な形態を制作するためには、カーブを 描くツールと面を生成するツールにつ いて熟知し、どのようなツールをどの ような順序で使用すれば目的の形態に たどり着くかをイメージできなければ ならない。このスキルを習得すること は短時間では困難であり、一定期間の 教育プログラムが必要である。またコ ンピュータ画面上で立体データを制作
することは、従来のプロセスと比較すればスケッチと図面を融合させたものに相当する。
作業者には図面から形をイメージできる程度の素質は必要である。
デジタルデザインツールの導入で、新たに可能となることも多い。器の製作では、内容 量に合わせてサイズを決定することが多いが、今までのプロセスでは焼成後まで正確な容 量を確認することが困難だった。モデリングソフトウェアによってはデータ段階で内容量 が計算できるため、必要な内容量に応じて適切なサイズを決定できるようになる(図3 -10)。また器自体の重量も事前に計算できるため、軽さが要求される器では、厚さとサイ ズを加減して目標とする重量に近づけることができる。これらの予測が可能になったこと により、容量や重量などの数値目標が大切な商品の開発では、試作プロセスを大幅に低減 することができるようになった。
また、CG 画像を制作することにより、実際の陶磁器のように絵柄も付けた状態を確認 することも可能である(図 3-15)。図面だけで立体をイメージするのは熟練した者でも困 難な作業であり、実際に試作焼成を行うのはコスト・時間もかかるため、CG 画像の制作は、
デザイン決定にあたって非常に重要なツールである。遠方との打ち合わせが必要な際には インターネットを利用して画像を交換することで相互に確認を取ることができる。図面だ けでは立体を表現できないことも多いが、CG 画像では複雑な曲面も含め、多くの人が確 認できる。リアルな CG 画像を得るためには、表面属性やライティング(照明)の設定な どで相応の作業時間を要する。できるだけリアルである方が望ましいのだが、場合によっ ては早期に試作段階へ移行した方がプロセスの短縮につながることも多い。
図 3-10 容量計算の一例
3D 立体形状は、画面の中で拡大・縮小や始点の変更が自在に行え、画面上で決定でき ることも多いが、結局は製品化が目的であるから、いずれかの段階で実体化する必要があ る。データを直接利用できなければ、以後は従来通りの手作業による型製作を行う必要が あり、メリットを生かせない。次章からは 3D 形状データを実際の工程に活用するため、
ラピッドプロトタイピング技術により実体化を行うプロセスについて述べる。
図 3-11 CG 画像の一例