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の増加と勤労所得格差の拡大

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(1)

の増加と勤労所得格差の拡大

著者 馬場 浩也

雑誌名 經濟學論叢

巻 58

号 4

ページ 1‑23

発行年 2007‑03‑20

権利 同志社大學經濟學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011128

(2)

【論 説】

産業別就業者構造の変化および

パートタイム労働者の増加と勤労所得格差の拡大

馬 場 浩 也  

1 は じ め に

 本稿では,1990年代以降の日本における産業別ならびに雇用形態別の勤労 所得の推移を分析し,産業別就業者構造の変化や雇用形態別勤労所得の変化 に加えて,パートタイム労働者の大幅な増加が労働者1人あたりの平均給与 額を減少させるとともに,労働者全体の勤労所得分布の変化と格差の拡大の 大きな原因になったことを明らかにする.

 本稿は,Part 1(第2章,第3章)とPart 2(第4章)で構成されており,第2 章では1990年代以降の産業別労働者1人あたりの月平均給与額の推移を分析 し,産業全体ならびに一部の産業を除く全ての産業で労働者1人あたりの平 均給与額が減少しているとともに,産業間における労働者1人あたりの平均 給与額の格差が拡大していることを明らかにする.

 第3章では,産業別労働者1人あたりの月平均給与額を(1)一般労働者1 人あたりの月平均給与額,(2)パートタイム労働者1人あたりの月平均給与額,

(3)パートタイム労働者比率の3つの要因に分解し,それらの要因の値の変 化が産業全体ならびに各産業における労働者1人あたりの月平均給与額の変 化と格差の拡大に与えた影響の寄与率を推計する.

 第4章では,以上をふまえて,1990年代以降の労働者全体の勤労所得の分

(3)

布の変化を,産業別・雇用形態別・所得階層別の労働者数の変化の分析と,ロー レンツ曲線とジニ係数を用いて分析し,産業別就業者構造の変化や雇用形態 別勤労所得の変化に加えて,パートタイム労働者数の大幅な増加が労働者全 体の勤労所得分布の変化と格差の拡大の大きな原因になったことを明らかに する.

 本稿では,厚生労働省の『毎月勤労統計調査』の産業大分類別事業所規模 5人以上のデータを用い,1993年から2003年までの期間における常用労働者 1人あたりの月平均実質現金給与総額の推移を分析の対象とした.したがって,

本稿では『毎月勤労統計調査』の定義にもとづき,雇用形態の区分では「正 規労働者」のかわりに「一般労働者」,「非正規労働者」のかわりに「パート タイム労働者」という区分をもちいて分析した1).また,本稿では給与額の 実質値として,この期間における常用労働者1人あたりの月平均名目給与額 の推移を消費者物価指数で割った値を使用した.分析の対象を月平均現金給 与総額にした理由は,『毎月勤労統計調査』の月平均現金給与総額は「きまっ て支給する給与(所定内給与と所定外給与)」と「特別に支払われた給与(夏季・

年末賞与など)」の両方を含み,労働者の勤労所得の全額を把握できるためで ある.事業所規模を5人以上にした理由は,パートタイム労働者比率の高い 中小零細企業の状況を分析に反映させるためである.分析期間を1993年から 2003年までにした理由はデータの制限によるものであり,『毎月勤労統計調査』

では1993年以前の産業別パートタイム労働者比率が公表されていない.また 2004年以降は『毎月勤労統計調査』の産業大分類の定義が変更されたため,デー タの整合性を保つために分析期間を上述した期間とした.

 なお,最近の日本における所得格差の拡大に関しては,石川(1994),橘木・

1 )『毎月勤労統計調査』では「常用労働者」を,(ア)期間を定めず又は一ヶ月を超える期間を定 めて雇われている者(イ)日々又は一ヶ月以内の期間を限って雇われている者のうち調査期間の 2ヶ月にそれぞれ18日以上雇われた者のいずれかに該当する労働者と定義する.「パートタイ ム労働者」は,「常用労働者」のうち(ア)1日の所定労働時間が一般の労働者よりも短い者,(イ)

1日の所定労働時間が一般の労働者と同じで1週の所定労働日数が一般の労働者よりも短い者の いずれかに該当する労働者と定義する.「一般労働者」は,「常用労働者」のうち「パートタイム 労働者を除いた労働者」と定義する.

(4)

八木(1994),橘木(1998),樋口(2005),大竹(2005)などの他にも多くの優 れた先行研究があるが,本稿のように1990年代以降の日本における産業別・

雇用形態別・所得階層別の勤労所得の分布の変化を同時に分析するものはな い.また,平成16年度の『労働経済白書』では1992年から2002年の期間に おける時間あたり賃金階級別労働者比率の分布の推移を分析しているが,産 業別や雇用形態別の分析は行われておらず,太田(2005)は1990年代以降の 雇用形態別および年齢別の勤労所得格差の分析を行っているが,産業別や所 得階層別の分析は行われていない.

2 労働者 1

人あたりの平均給与額の減少と産業別格差の拡大

 第 1 表は1993年から2003年の産業別常用労働者1人あたりの月平均現金 給与総額の推移を示したものである.

 第1表に示したように,労働者1人あたりの月平均給与額は産業間で大き 年 産 業 計 鉱 業 建 設 業 製造業 電 気・ ガ ス・

熱供給・水道業 運 輸・

通 信 業

卸売・小売・

飲 食 業 金 融・

保険業 不動産業 サービス業 1993 359,943 365,333 379,056 348,341 568,109 424,027 294,714 488,266 405,807 369,227 1994 363,545 382,512 385,026 352,792 570,078 428,640 292,908 493,284 426,022 373,873 1995 368,030 373,062 383,196 362,969 576,983 432,852 295,281 499,719 413,971 376,544 1996 371,004 383,566 389,357 371,301 586,904 417,209 299,874 505,488 399,678 377,599 1997 370,189 377,770 385,015 374,116 588,212 409,397 297,963 504,019 407,478 377,924 1998 362,852 371,643 370,717 367,759 582,323 404,525 289,631 484,877 389,831 374,574 1999 351,220 375,911 375,267 364,243 593,514 387,937 268,979 479,322 391,674 369,357 2000 355,474 396,948 380,680 371,452 590,222 396,076 271,644 492,507 414,075 369,424 2001 353,812 392,579 376,075 371,516 602,210 385,436 270,530 494,716 404,853 369,087 2002 349,065 352,224 361,666 369,855 605,728 382,074 260,545 491,771 399,502 368,718 2003 348,520 334,164 358,764 376,442 599,279 375,988 261,556 487,798 408,965 364,757 給与額

の変化 −11,423 −31,169 −20,292 28,101 31,170 −48,039 −33,158 −468 3,158 −4,470 第 1 表 産業別常用労働者1人あたりの月平均実質現金給与総額の推移(単位:円)

(出所)厚生労働省『毎月勤労統計調査』により計算.

(5)

な格差があり,電気・ガス・熱供給・水道業と金融・保険業の給与額が他の 産業に比べて際立って高く,卸売・小売・飲食業の給与額が極めて低い.ま たこの期間の給与額の推移では,製造業,不動産業,電気・ガス・熱供給・

水道業では給与額が増加しているが,その他の産業では給与額が減少してお り,特に鉱業,建設業,運輸・通信業,卸売・小売・飲食業における給与額 の減少が大きい.

 また,第 2 表に示したように,この期間には産業全体ならびにほとんどの 産業で常用労働者1人あたりの平均給与額が減少しただけでなく,産業間に おける常用労働者1人あたりの月平均給与額の格差が拡大している.

3 平均給与額の構成要因の変化の寄与率

3. 1 平均給与額の構成要因の変化の寄与率

 ある産業の常用労働者1人あたりの平均給与額をW,常用労働者数をL, 一般労働者1人あたりの平均給与額をWG,一般労働者数をLG,パートタイ ム労働者1人あたりの平均給与額をWP,パートタイム労働者数をLPとすれば,

その産業の常用労働者全体の給与額は(1)式であらわせる.

    WLWGLGWPLP (1)    (1)式をLで割れば,(2)式がえられる.

    WWG・(LG/L)WP・(LP/L) (2)    (2)式の(LG/L)はその産業の常用労働者数に占める一般労働者数の比率,

(LP/L)はパートタイム労働者数の比率を示すので,それぞれをRGRPとす れば,(2)式は(3)式に書きかえることができる.

年 最 小 値 最 大 値 範  囲 平 均 値 標準偏差 分  散 分散/平均値

1993 29.47万円 56.81万円 27.34万円 40.48万円 8.12万円 65.93万円 1.629

2003 26.16万円 59.93万円 33.77万円 39.64万円 9.68万円 93.70万円 2.364

第 2 表 1993年と2003年の産業別常用労働者1人あたり月平均現金給与額の分布

(出所)厚生労働省『毎月勤労統計調査』により計算.

(6)

    WWGRGWPRPWG・(1−RP)+WPRP (∵ RG=1−RP)  (3)   したがって,(3)式でRPを不変とすれば,WGWPの増減はWを増減させる.

 しかし,(3)式でWGWPが不変でも,RPが増加すればWは減少する.

すなわち(3)式において,RPが△RP分増加すれば,Wの値は(4)式のよ うに変化する.

    △W=(−WGWP)・△RP<0 (∵ WGWP)         (4)    また(4)式で,WGWPに大きな差がある場合は,WGWPが共に変化し ても,RPが増加すればWが減少することもありうる.その場合のWの変化 はWGWPRPの変化とそれらの交差効果に依存する.

 すなわち(3)式より,ある期間における常用労働者1人あたりの平均給与 額の変化は(5)式であらわせる.

    W+△W=(WG+△WG)−(WG+△WG)・(RP+△RP)+(WP+△WP)・(RP+△RP)

(5)  

(5)式を展開し,(3)式を引けば,(6)式がえられる.

    △W=△WG−△WGRPWG・△RP

       −△WG・△RP+△WPRPWP・△RP+△WP・△RP (6)  

(6)式を整理し,Wで割れば,(7)式がえられる.

    △WW=△WG・{1−RP−(△RP/2)}/W          +△WP・{RP+(△RP/2)}/W

         +△RP・{WPWG+(△WP/2)−(△WG/2)}/W (7)    (7)式は,常用労働者1人あたりの平均給与額の変化率(△WW)を各 構成要因の変化の寄与率に分解したものである.(7)式の右辺の第1項は一 般労働者1人あたりの平均給与額の変化(△WG)の寄与率,第2項はパート タイム労働者1人あたりの平均給与額の変化(△WP)の寄与率,第3項は労 働者数に占めるパートタイム労働者比率の変化(△RP)の寄与率をあらわす2).  そこで以下では,1993年から2003年までの期間において,これらの常用

2 )導出方法は異なるが,厚生労働省の平成16年版『労働経済白書』,p.182でも同様の要因分解を 行っている.

(7)

労働者1人あたりの平均給与額を構成する要因の値の推移を概観した後に,

(7)式をもちいて,それらの要因の値の変化が産業全体および各産業におけ る常用労働者1人あたりの平均給与額の変化に与えた影響の寄与率を推計す る.

3. 2 雇用形態別の労働者数の変化

 第 3 表は1993年から2003年の産業別の一般労働者数の推移を示したもの である.第3表に示したように,この期間には建設業,不動産業,サービス 業では一般労働者数が増加しているが,産業全体ならびに上述した産業を除 く全ての産業で一般労働者数が減少していることがわかる.

 一方,第 4 表は同じ期間における産業別パートタイム労働者数の推移を示 したものであるが,鉱業と建設業を除く全ての産業でパートタイム労働者数 が増加しており,特に卸売・小売・飲食業とサービス業における増加が大きい.

年 産 業 計 鉱業 建 設 業 製造業 電 気・ ガ ス・

熱供給・水道業 運 輸・

通 信 業

卸売・小売・

飲 食 業 金 融・

保険業 不動産業 サービス業

1993 34,418 62 3,595 9,872 315 3,210 6,336 1,770 277 8,984

1994 34,757 65 3,832 9,756 320 3,244 6,317 1,764 283 9,185

1995 34,875 64 3,980 9,626 314 3,198 6,348 1,744 291 9,303

1996 35,007 63 4,169 9,490 310 3,226 6,316 1,687 293 9,458

1997 35,008 59 4,280 9,397 306 3,177 6,224 1,626 299 9,644

1998 34,570 56 4,257 9,160 306 3,183 6,076 1,563 301 9,666

1999 35,053 45 3,780 8,847 322 3,161 6,691 1,538 292 10,386

2000 34,743 43 3,776 8,675 299 3,099 6,544 1,474 295 10,538

2001 34,289 41 3,785 8,348 295 3,038 6,380 1,415 296 10,676

2002 33,631 38 3,760 8,043 289 3,015 6,049 1,386 289 10,748

2003 33,257 39 3,710 7,884 278 2,999 5,886 1,331 297 10,830

労 働 者 数

の 変 化 −1,161 −23 115 −1,998 −37 −211 −450 −439 20 1,846 第 3 表 産業別一般労働者数の推移(単位:千人)

(出所)厚生労働省『毎月勤労統計調査』により計算.

(8)

3. 3 パートタイム労働者比率の増加

 第 5 表は同じ期間における産業別のパートタイム労働者比率の推移を示し 年 産 業 計 鉱業 建 設 業 製造業 電 気・ ガ ス・

熱供給・水道業 運 輸・

通 信 業

卸売・小売・

飲 食 業 金 融・

保険業 不動産業 サービス業

1993 5,781 2 176 1,251 5 198 2,467 70 33 1,576

1994 5,866 1 159 1,206 6 224 2,544 64 37 1,616

1995 5,900 2 168 1,139 5 241 2,558 64 39 1,691

1996 6,187 2 174 1,155 5 299 2,627 75 43 1,803

1997 6,466 1 175 1,205 5 337 2,717 79 37 1,906

1998 6,717 3 202 1,198 5 345 2,806 84 40 2,036

1999 8,507 1 175 1,277 5 363 4,109 103 43 2,422

2000 8,795 1 180 1,349 5 393 4,166 102 48 2,551

2001 9,098 1 180 1,325 6 454 4,266 106 50 2,723

2002 9,469 1 176 1,300 7 451 4,546 109 55 2,838

2003 9,699 1 164 1,307 8 453 4,600 114 48 3,007

労 働 者 数

の 変 化 3,918 −1 −12 56 3 255 2,133 44 15 1,431 第 4 表 産業別パートタイム労働者数の推移(単位:千人)

(出所)厚生労働省『毎月勤労統計調査』により計算.

年 産 業 計 鉱業 建 設 業 製造業 電 気・ ガ ス・

熱供給・水道業 運 輸・

通 信 業

卸売・小売・

飲 食 業 金 融・

保険業 不動産業 サービス業

1993 14.38 2.56 4.66 11.25 1.65 5.82 28.03 3.78 10.72 14.92

1994 14.44 1.64 3.99 11.00 1.71 6.47 28.71 3.48 11.43 14.96

1995 14.47 2.75 4.05 10.58 1.52 7.00 28.72 3.55 11.71 15.38

1996 15.02 2.84 4.00 10.85 1.69 8.49 29.38 4.26 12.68 16.01

1997 15.59 1.74 3.92 11.37 1.60 9.60 30.39 4.65 11.15 16.50

1998 16.27 4.54 4.53 11.57 1.76 9.78 31.59 5.13 11.75 17.40

1999 19.53 2.96 4.42 12.61 1.50 10.31 38.05 6.29 12.80 18.91

2000 20.20 1.87 4.54 13.46 1.67 11.26 38.90 6.49 13.89 19.49

2001 20.97 2.00 4.53 13.70 1.90 13.01 40.07 6.99 14.42 20.32

2002 21.97 2.69 4.46 13.91 2.27 13.02 42.91 7.29 15.86 20.89

2003 22.58 3.73 4.23 14.22 2.68 13.11 43.87 7.88 13.88 21.73

比 率 の

変 化 8.20 1.17 −0.43 2.97 1.03 7.29 15.84 4.10 3.16 6.81

第 5 表 産業別パートタイム労働者比率の推移(%)

(出所)厚生労働省『毎月勤労統計調査』により計算.

(9)

たものである.上に述べたように,この期間には一般労働者数が減少し,パー トタイム労働者数が増加したことから,産業全体およびほとんど全ての産業 でパートタイム労働者比率が増加している.

 しかし,パートタイム労働者比率の増加は産業間で格差があり,特に卸売 小売・飲食業における増加が他の産業と比較して極端に大きい.

3. 4 雇用形態別常用労働者1人あたりの月平均給与額の推移

3. 4. 1 一般労働者1人あたりの月平均給与額の推移

 第 6 表は1993年から2003年の一般労働者1人あたりの月平均現金給与 総額の推移を示したものである.第6表に示したように,一般労働者の月平 均給与額にも産業間で大きな格差があり,第3次産業の電気・ガス・熱供 給・水道業と金融・保険業の給与額が他の産業と比べて極めて高く,第2次 産業の鉱業と建設業の給与額が低い.また給与額の推移でも,この期間には ほとんどの産業で一般労働者1人あたりの月平均給与額が増加し,特に電

年 産 業 計 鉱 業 建 設 業 製造業 電 気・ ガ ス・

熱供給・水道業 運 輸・

通 信 業

卸売・小売・

飲 食 業 金 融・

保険業 不動産業 サービス業 1993 404,304 371,834 391,341 379,709 575,601 443,172 375,515 503,473 442,609 416,580 1994 409,106 386,982 395,907 383,873 578,163 449,834 377,238 507,462 468,534 422,572 1995 414,645 380,316 394,021 394,097 584,533 455,555 381,003 514,364 455,292 427,805 1996 419,445 391,143 400,894 403,277 595,045 445,989 388,417 523,155 442,206 430,512 1997 420,994 382,497 395,989 408,350 596,022 442,185 390,987 523,329 446,382 433,240 1998 414,946 383,063 382,528 402,099 590,912 436,942 383,955 505,245 429,001 433,260 1999 413,969 383,898 387,132 401,642 600,612 420,385 383,341 504,309 435,211 432,577 2000 421,195 402,176 392,472 412,374 597,953 433,452 390,326 519,437 465,025 434,021 2001 422,437 397,588 388,358 413,394 611,462 427,648 394,425 523,591 456,851 437,443 2002 420,480 358,211 373,511 411,696 616,737 422,890 392,813 521,641 455,986 439,260 2003 422,109 342,065 369,544 420,206 612,110 415,980 399,887 520,301 458,157 437,491 給与額

の変化 17,805 −29,769 −21,797 40,497 36,509 −27,192 24,372 16,828 15,548 20,911 第 6 表 産業別一般労働者1人あたりの月平均実質現金給与総額の推移(単位:円)

(出所)厚生労働省『毎月勤労統計調査』により計算.

(10)

気・ガス・熱供給・水道業と製造業における給与額の増加が大きいのに対して,

鉱業,建設業,運輸・通信業では逆に給与額が大幅に減少しており,第 7 表 に示したように,産業間における一般労働者1人あたりの月平均給与額の格 差が拡大している.

3. 4. 2 パートタイム労働者1人あたりの月平均給与額の推移

 第 8 表は1993年から2003年の産業別パートタイム労働者1人あたりの月 平均現金給与総額の推移を示したものである.第8表にみられるように,パー トタイム労働者1人あたりの給与額にも産業間で格差があり,鉱業,電気・

ガス・熱供給・水道業,建設業に比べて卸売・小売・飲食業の給与額が極め て低い.また,この期間には他の産業ではパートタイム労働者1人あたりの 月平均給与額が増加しているのに対して,卸売・小売・飲食業では逆に給与 額が減少しており,第 9 表に示したように,パートタイム労働者1人あたり の月平均給与額でも産業間の格差が拡大したことがわかる.

 さらに,第6表と第8表を比較すればわかるように,パートタイム労働者 1人あたりの月平均給与額は一般労働者と比べて極めて低いだけでなく,こ の期間に産業全体では一般労働者の月平均給与額が増加したのに対して,パー トタイム労働者の月平均給与額はほとんど増加しなかったことから,一般労 働者とパートタイム労働者1人あたりの平均給与額の格差が拡大したことが わかる.産業全体におけるパートタイム労働者の月平均給与額がほとんど増 加しなかった理由は,この期間にパートタイム労働者の中でももっとも給与 額が低い卸売・小売・飲食業でパートタイム労働者数が大幅に増加しただけ でなく,それにより卸売・小売・飲食業のパートタイム労働者1人あたりの 年 最 小 値 最 大 値 範  囲 平 均 値 標準偏差 分  散 分散/平均値

1993 37.18万円 57.56万円 20.38万円 43.33万円 6.83万円 46.65万円 1.076

2003 34.21万円 61.21万円 27.00万円 44.17万円 8.18万円 66.91万円 1.515

第 7 表 1993年と2003年の産業別一般労働者1人あたりの月平均現金給与額の分布

(出所)厚生労働省『毎月勤労統計調査』により計算.

(11)

平均給与額がさらに減少したためである.

3. 5 構成要因の変化の寄与率

 これまでみたように,1990年代以降では産業別および雇用形態別の給与額 の変化に加えて,ほとんどの産業でパートタイム労働者比率の大幅な増加が みられる.そこで以下では,上に示した(7)式にもとづき,常用労働者1人 あたりの月平均給与額を構成するこれらの要因の値の変化が,1993年から 2003年における産業別常用労働者1人あたりの月平均給与額の変化と格差の 拡大に与えた影響の寄与率を推計する.

年 産 業 計 鉱 業 建 設 業 製造業 電 気・ ガ ス・

熱供給・水道業 運 輸・

通 信 業

卸売・小売・

飲 食 業 金 融・

保険業 不動産業 サービス業 1993 95,632 114,303 120,074 101,052 122,897 104,860 88,037 99,893 97,406 99,136 1994 95,544 114,719 108,773 103,213 129,372 103,728 87,226 99,303 94,510 100,437 1995 96,146 123,002 104,203 103,727 133,304 101,124 88,797 101,438 99,966 100,350 1996 96,061 120,626 110,653 107,701 114,537 103,282 86,410 106,180 104,911 99,366 1997 94,358 109,740 114,955 106,511 110,703 100,379 84,413 106,116 96,721 97,345 1998 94,085 125,902 119,429 104,996 108,181 104,378 84,950 106,079 94,063 95,395 1999 92,224 113,469 118,147 104,508 126,265 104,018 82,529 105,918 94,796 97,925 2000 95,226 122,263 129,328 107,549 130,503 101,135 84,918 103,155 97,500 101,902 2001 94,737 142,931 116,785 107,604 123,575 102,160 84,907 108,268 95,534 100,502 2002 94,750 129,153 107,440 109,918 128,054 108,207 84,068 109,551 96,233 101,221 2003 95,847 130,482 121,989 111,929 133,877 110,370 84,504 106,268 102,294 102,484 給与額

の変化 215 16,179 1,915 10,877 10,980 5,510 −3,533 6,375 4,888 3,348

第 8 表 産業別パートタイム労働者1人あたりの月平均実質現金給与総額の推移(単位:円)

(出所)厚生労働省『毎月勤労統計調査』により計算.

年 最 小 値 最 大 値 範  囲 平 均 値 標準偏差 分  散 分散/平均値

1993 8.80万円 12.29万円 3.49万円 10.53万円 1.15万円 1.32万円 0.125

2003 8.45万円 13.39万円 4.94万円 11.16万円 1.54万円 2.37万円 0.212

第 9 表  1993年と2003年の産業別パートタイム労働者1人あたりの月平均現金給与額 の分布

(出所)厚生労働省『毎月勤労統計調査』により計算.

(12)

 第 1 図と第 10 表は,1993年から2003年の常用労働者1人あたりの月平均 現金給与総額の変化における各構成要因の値の変化の寄与率の推計結果を示 したものである.寄与率の推計における各構成要因の変化率は各要因の1993 年と2003年の値の差を1993年の値で割ったものであり,この期間全体にお ける各構成要因の平均的な変化率である.したがって,それらの値は分析期 間の起点と終点となる年の選択の恣意性によるバイアスを含むが,各産業の 常用労働者ならびに一般労働者1人あたりの月平均給与額と,パートタイム 労働者比率の推移はそれぞれこの期間全体を通じて明確な趨勢を示しており,

この期間全体における産業別の給与額の構造的変化を把握する上では上述し たバイアスによる影響は少ないと考えられる.また,パートタイム労働者1 人あたりの月平均給与額は雇用形態の不安定性を反映して建設業と不動産業 における変動が相対的に大きいが,その他の産業では明確な長期的趨勢を示 しており,第1図と第10表に示したように,常用労働者1人あたりの月平均 給与額の変化率と比較するとパートタイム労働者の給与額の変化率が極めて 小さいことから,この期間における産業別常用労働者1人あたりの月平均給 与額の変化を把握する上では問題は少ないと考えられる.

 まず,産業全体では,第1図と第10表に示したように,常用労働者1人あ たりの月平均給与額が減少している.その理由は,この期間の産業全体にお けるパートタイム労働者比率の大幅な増加による給与額を引き下げる効果が 一般労働者の給与額の増加の効果を上回ったためである.また,この期間の 産業全体におけるパートタイム労働者の平均給与額の増加は僅かであり,労 働者全体の平均給与額を引き上げる効果はほとんどなかったことがわかる.

(13)

 次に,鉱業,建設業,運輸・通信業でも常用労働者1人あたりの月平均給与額 が大幅に減少している.しかし,その理由はこれらの産業間で異なり,鉱業と建 設業では一般労働者の給与額が大幅に減少したことが常用労働者1人あたりの平

第 1 図 構成要因の変化の寄与率     (出所)厚生労働省『毎月勤労統計調査』により計算.

(14)

均給与額を引き下げる主な原因になり,パートタイム労働者比率の変化の影響は 小さいが,運輸・通信業ではこの期間に一般労働者1人あたりの平均給与額が減 少したことに加えて,パートタイム労働者比率が大幅に増加した影響が大きい.

 一方,製造業と電気・ガス・熱供給・水道業では逆に常用労働者1人あた りの月平均給与額が大幅に増加している.その理由は,これらの産業ではこ の期間における一般労働者の給与額の大幅な増加の効果がパートタイム労働 者比率の増加の効果を上回ったためであり,特に製造業における一般労働者 1人あたりの平均給与額の増加の効果が大きい.

 次に,金融・保険業とサービス業では常用労働者1人あたりの月平均給与 額が減少している.その理由は,これらの産業におけるパートタイム労働者 比率の増加による給与額を引き下げる効果が一般労働者の給与額の増加の効 果を上回ったためである.また,不動産業では逆に常用労働者1人あたりの 月平均給与額が増加しているが,その理由は,この期間における不動産業の 一般労働者の給与額の増加の効果がパートタイム労働者比率の増加の効果を 上回ったためである.

 最後に,卸売・小売・飲食業では常用労働者1人あたりの月平均給与額が 産 業 正 規 労 働 者 の 給 与 額

変 化 の 寄 与 率

パートタイム労働者の 給与額変化の寄与率

パートタイム労働者 比 率 変 化 の 寄 与 率

推計寄与率 の 合 計

給与額変化率 の 実 際 値 産 業 計 4.03 0.01 −7.23 −3.19 −3.17 鉱 業 −7.89 0.14 −0.75 −8.50 −8.53 建 設 業 −5.49 0.02 0.29 −5.18 −5.35 運 輸 ・ 通 信 業 −5.81 0.12 −5.54 −11.22 −11.33

製 造 業 10.15 0.40 −2.50 8.04 8.07

電気・ガス・熱供給・水道業 6.29 0.04 −0.84 5.49 5.49 金 融 ・ 保 険 業 3.25 0.08 −3.43 −0.11 −0.01 不 動 産 業 3.36 0.15 −2.73 0.78 0.78 サ ー ビ ス 業 4.63 0.17 −6.02 −1.23 −1.21 卸 売・ 小 売・ 飲 食 業 5.30 −0.43 −16.20 −11.34 −11.25

第 10 表 構成要因の変化の寄与率(%)

(出所)厚生労働省『毎月勤労統計調査』により計算.

(15)

もっとも大幅に減少している.その理由は,卸売・小売・飲食業ではこの期 間に一般労働者の給与額は増加したが,この期間に卸売・小売・飲食業ではパー トタイム労働者比率が他の産業と比べてもっとも大幅に増加しただけでなく,

それによってパートタイム労働者の平均給与額がさらに減少したためである.

4 労働者全体の勤労所得分布の変化と格差の拡大

 これまでは,1990年代以降の日本における産業別常用労働者1人あたりの 月平均給与額の推移を分析し,産業別および雇用形態別労働者1人あたりの 月平均給与額の変化と,パートタイム労働者比率の増加が,産業間における 労働者1人あたりの月平均給与額の変化と格差の拡大に与えた影響を分析し た.しかし,1990年代以降ではそれらに加えて,産業別就業者構造の変化に より産業間の労働者数の分布が大きく変化し,それに応じて労働者全体の勤 労所得の分布が大きく変化している.

 そこで,以下ではこの期間における労働者全体の勤労所得の分布の変化を,

産業別・雇用形態別・所得階層別の労働者数の分布の変化の分析と,ローレ ンツ曲線とジニ係数を用いて分析し,産業別就業者構造の変化や雇用形態別 の勤労所得の変化に加えて,パートタイム労働者数の大幅な増加がこの期間 における労働者全体の勤労所得の分布の変化と格差の拡大の大きな原因に なったことを明らかにする.

4. 1 産業別・雇用形態別・所得階層別の労働者数の分布の変化

 第 2 図と第 3 図は,1993年と2003年の雇用形態別・所得階層別の労働者 数の分布を比較したものである.第2図と第3図に示した9万円台はパート タイム労働者であり,30万円台以上は一般労働者である.また,第 11 表と 第 12 表は,1993年と2003年の産業別・雇用形態別・所得階層別の労働者比 率と所得比率の変化をさらに詳細に示したものである.

 まず第2図と第3図により,パートタイム労働者数と勤労所得の分布の変

(16)

化をみると,この期間にパートタイム労働者数は約578万から970万人に増 加し,パートタイム労働者比率も14.38%から22.58%(+8.2%)に大幅に増 加している.しかし,この期間には産業全体におけるパートタイム労働者1 第 3 図 1993年の所得階層別労働者数の分布

(出所) 厚生労働省『毎月勤労統計調査』により 計算.

労働者数︵千人︶

20,000 15,000 10,000 5,000 0

5,781 14.38%

19,865 49.41%

2,085 5.19%

12,471 31.02%

9万円台 20万円台30万円台40万円台

労働者数︵千人︶

20,000 15,000 10,000 5,000 0

9,699

22.58% 9,635

22.43%

22,010 51.24%

1,609 3.75%

50万円以上 9万円台 20万円台 30万円台40万円台50万円以上

第 2 図 1993年の所得階層別労働者数の分布

産 業 平均給与額

(円)

労働者数

(千人)

労働者比率

(%)

労働者累積比率

(%)

所得比率

(%)

所得累積比率

(%)

9万円台 5,781 14.38 14.38 3.82 3.82

パ ー ト タ イ ム 労 働 者 95,632 5,781 14.38 14.38 3.82 3.82

30万円台 19,865 49.41 52.24

鉱 業 371,834 62 0.15 14.53 0.16 3.98

卸 売・小 売・飲 食 業 375,515 6,336 15.76 30.29 16.45 20.43

製 造 業 379,709 9,872 24.56 54.85 25.91 46.34

建 設 業 391,341 3,595 8.94 63.79 9.72 56.06

40万円台 12,471 31.02 36.55

サ ー ビ ス 業 416,580 8,984 22.34 86.13 25.87 81.93

不 動 産 業 442,609 277 0.69 86.82 0.85 82.78

運 輸 ・ 通 信 業 443,172 3,210 7.99 94.81 9.83 92.61

50 万円以上 2,085 5.18 7.37

金 融 ・ 保 険 業 503,473 1,770 4.41 99.22 6.16 98.77 電 気・ガ ス・熱 供 給・水 道 業 575,601 315 0.78 100.00 1.23 100.00

第 11 表 1993年の労働者全体の勤労所得の分布

(出所)厚生労働省『毎月均等統計調査』により計算.

(17)

人あたりの平均給与額はほとんど増加しなかったことから,パートタイム労 働者全体の勤労所得比率は3.82%から6.22%(+2.4%)にしか増加していない.

したがって,パートタイム労働者比率の増加よりも所得比率の増加が小さい ことから,この期間にパートタイム労働者全体の所得比率が相対的に減少し たことがわかる.

 次に,一般労働者の勤労所得の分布をみると,この期間に月平均給与額 が30万円台の一般労働者数が約1,987万から964万に減少し,労働者比率も 49.41%から22.43%(−26.98%)に大幅に減少している.しかし,この所得階 層に属する一般労働者の所得比率は52.24%から24.98%(−27.26%)にさら に大きく減少しており,パートタイム労働者と同様に,この所得階層の一般 労働者の所得比率もこの期間に相対的に減少したことがわかる.この期間に

産 業 平均給与額

(円)

労働者数

(千人)

労働者比率

(%)

労働者累積比率

(%)

所得比率

(%)

所得累積比率

(%)

9万円台 9,699 22.58 22.58 6.22 6.22

パ ー ト タ イ ム 労 働 者 95,847 9,699 22.58 22.58 6.22 6.22

30万円台 9,635 22.43 24.98

鉱 業 342,065 39 0.09 22.67 0.09 6.31

建 設 業 369,544 3,710 8.64 31.31 9.16 15.47

卸 売・小 売・飲 食 業 399,887 5,886 13.70 45.01 15.73 31.20

40万円台 22,010 51.23 63.05

運 輸 ・ 通 信 業 415,980 2,999 6.98 51.99 8.34 39.54

製 造 業 420,206 7,884 18.35 70.34 22.14 61.68

サ ー ビ ス 業 437,491 10,830 25.21 95.55 31.66 93.34

不 動 産 業 458,157 297 0.69 96.24 0.91 94.25

50 万円以上 1,609 3.76 5.75

金 融 ・ 保 険 業 520,301 1,331 3.10 99.34 4.63 98.88 電 気・ガ ス・熱 供 給・水 道 業 612,110 278 0.66 100.00 1.12 100.00

第 12 表 2003年の労働者全体の勤労所得の分布

(出所)厚生労働省『毎月均等統計調査』により計算.

(18)

月平均給与額が30万円台の一般労働者数が減少した原因は,第11表と第12 表に示したように,製造業の一般労働者の給与額が大幅に上昇して,所得階 層が30万円台から抜け出して40万円台に上昇したことと,同じ30万円台の 所得階層に属する建設業では一般労働者数が約360万人から371万人に増加 したが,鉱業では逆に一般労働者数が約6万人から4万人に減少し,卸売・

小売・飲食業でも一般労働者数が634万から589万人に減少したことから,

全体として30万円台の所得階層に属する一般労働者数が大幅に減少したため である.また,この所得階層の一般労働者の所得比率が減少した原因は,上 に述べた労働者数の減少に加えて,卸売・小売・飲食業ではこの期間に一般 労働者1人あたりの月平均給与額が37.5万円から39.9万円に上昇したが,逆 に鉱業の一般労働者の月平均給与額が37.2万円から34.2万円に減少し,建設 業でも一般労働者の平均給与額が39.1万円から36.9万円に減少したためであ る.

 一方,月平均給与額が40万円台の所得階層では一般労働者数が約1,247万 人から2,201万人に増加し,労働者比率も31.02%から51.23%(+20.21%)に 大幅に増加しているが,所得比率は36.55%から63.05%(+26.50%)へとさ らに大幅に増加しており,労働者比率の増加よりも所得比率の増加が大きい ことから,この所得階層の一般労働者の所得比率が相対的に増加したことが わかる.この所得階層の一般労働者の所得比率が増加した理由は,上述した ように,1993年には所得階層が30万円台であった製造業の労働者が40万円 台の所得階層に上昇したことに加えて,運輸・通信業では一般労働者数が約 321万人から300万人に減少し,月平均給与額も44.3万円から41.6万円に減 少したが,サービス業では逆に一般労働者数が約898万人から1,083万人に 増加し,月平均給与額も41.7万円から43.7万円に増加したためである.

 最後に,月平均給与額が50万円以上の所得階層ではこの期間に一般労働者 数が約208万人から161万人に減少し,労働者比率も5.18%から3.76%(−

1.42%)に減少しているが,所得比率は7.37%から5.5%(−1.62%)に減少し

(19)

ており,この所得階層の一般労働者の相対的な所得比率も僅かながら減少し たことがわかる.この所得階層に属する一般労働者の所得比率が減少した理 由は,金融・保険業ではこの期間に一般労働者の月平均給与額が50.3万円か ら52万円に増加し,電気・ガス・熱供給・水道業でも一般労働者の月平均給 与額が57.6万円から61.2万円に増加したが,逆に一般労働者数は金融・保険 業で約18万人から13万人に減少し,電気・ガス・熱供給・水道業でも一般 労働者数が約32万から28万人に減少したためである.

(出所)厚生労働省『毎月勤労統計調査』により作図.

0 20 60 80 100

第 4 図 労働者全体の勤労所得の分布のローレンツ曲線 40

100

80

60

0 20 40

労働者の累積比率(%)

2003年 1993年

所得の累積比率(%)

(20)

4. 2 ローレンツ曲線とジニ係数による分析

 第 4 図は,第11表と第12表にもとづき,1993年と2003年の労働者全体の 勤労所得の分布の変化をローレンツ曲線で示したものである.第4図のローレ ンツ曲線は,第11表と第12表に示したパートタイム労働者ならびに各産業の 一般労働者の労働者累積比率と所得累積比率(各年度に関してそれぞれ10個のサ ンプルポイント)を使って回帰式を推計し,その結果を図示したものである.

 第4図に示したように,2003年のローレンツ曲線は1993年のそれの右下 に位置し,1993年から2003年にかけて労働者全体の勤労所得の格差が拡大 したことがわかる.また上に述べたように,この期間には所得階層の最下位 に属するパートタイム労働者の所得比率と,月平均給与額が30万円台の一般 労働者の所得比率が相対的に減少し,中位の月平均給与額が40万円台の一般 労働者の所得比率が上昇し,最上位の月平均給与額が50万円以上の一般労働 者の所得比率が相対的に減少したことから,2003年のローレンツ曲線がS字 型を描いていることがわかる.

 また,第11表と第12表に示したデータを用いて推計したジニ係数の値も,

1993年の0.1228から2003年の0.1804に大幅に上昇しており,この期間に労 働者全体の勤労所得の分布の格差が拡大したことを示している3).なお,こ れらのジニ係数は産業大分類別による雇用形態別の勤労所得の平均値によっ て推計されたものであり,産業中・小分類別,企業規模別,労働者の属性別 などの勤労所得分布の情報が平均化され失われたために,個票によって推計 された他の研究のジニ係数よりも小さいが,産業全体と労働者全体の勤労所 得の分布の変化を大きくとらえた本稿の分析結果でも,パートタイム労働者 数の大幅な増加を大きな原因として,1990年代以降の日本では労働者間にお ける勤労所得の格差が拡大したことがわかる4)

3 )第11表と第12表のデータを用い,2次関数の回帰式で推計した結果では,1993年の労働者全 体の勤労所得のローレンツ曲線の回帰式はf(X)=0.544X+0.005X2,ジニ係数は0.1228,2003 のローレンツ曲線の回帰式はf(X)=0.353X+0.007X2,ジニ係数は0.1804となった.

4 )この期間における雇用形態別・年齢別の勤労所得の分布のジニ係数の変化に関しては,太田(2005)

に詳しい.

(21)

5 お わ り に

 本稿では,1990年代以降の日本における勤労所得の分布を分析し,産業別 就業者構造の変化や雇用形態別の勤労所得の変化の影響に加えて,パートタ イム労働者数の大幅な増加が労働者1人あたりの月平均給与額を減少させた だけでなく,労働者全体の勤労所得の分布の変化と格差の拡大の大きな原因 になったことを明らかにした.

 もちろん,それらのパートタイム労働者の中には学生アルバイトや家庭の 主婦のパートタイム労働者なども含まれ,労働時間数や生産性の差を考慮す れば,一般労働者との勤労所得の格差を一概に不平等と決めつけるわけには いかない.しかし,最近の日本では,呼称は「パートタイム」でも,一般労 働者と同じ仕事をし,低賃金で長時間労働をしている「ワーキング・プアー」

と呼ばれる人々が急激に増加している.また,そうしたパートタイム労働者 たちが自らの意思でその就業形態を選んだのなら,それは個人の選択の自由 であるといえる.しかし1990年代以降の日本では,産業構造の第3次産業化 の影響だけでなく,企業が雇用費用節約のために一般労働者数を大幅に削減 したことから,一般労働者になりたくてもなれない労働者たちが増加し,パー トタイム労働市場に詰め込まれていることも事実である5).また本稿で示し たように,1990年代後半以降では特に卸売・小売・飲食業でその傾向が強まっ ており,これらの業種ではこの期間にパートタイム労働者数の大幅な増加と 給与額の減少が同時に起こっている.このことは,産業構造の第3次産業化 などによるこれらの業種におけるパートタイム労働者に対する労働需要の増 加を上回って,一般労働者になりたくてもなれない人々がパートタイム労働 者としてこれらの業種に大量に流れ込んだことを示すものである.

5 )厚生労働省の平成15年版『労働経済白書』,参60,第2−(1)−8図では,パートタイム労働者 となることを選んだ理由が「正社員として働ける会社がないから」とするパートタイム労働者の 比率が1990年の13.4%から2001年の21.1%に増加しており,参61,第2−(1)−11図では,パー トタイム労働者を雇用する理由(複数回答)として「人件費が割安だから」とする事業所数割合 1990年の21.0%から2001年の65.3%に増加している.

(22)

 現在の日本では景気回復により雇用状況が改善しているといわれているが,

消費税率の引き上げや社会保障費の削減などにより,生活の困窮から,今後 は団塊の世代の高齢者たちや家庭の主婦などのパートタイム労働者もさらに 増加すると予測されることから,パートタイム労働者の勤労所得や雇用条件 の改善が急務であるといえる.

(23)

【参考文献】

樋口美雄,(2005)『日本の所得格差と社会階層』日本評論社.

石川経夫,(1994)『日本の所得と富の分配』東京大学出版会.

大竹文雄,(2005)『日本の不平等 格差社会の幻想と未来』日本経済新聞社.

太田  清,(2005)「フリータの増加と労働所得格差の拡大」,ESRI Discussion Paper Series No.140,内閣府経済社会総合研究所.

橘木 俊詔・八木匡,(1994)「所得分配の現状と最近の推移:帰属家賃と株式のキャピタ ルゲインの推計と併せて」,石川経夫編『日本の所得と資産の分配』東京大学出版会,

pp.23-58.

橘木俊詔,(1998)『日本の経済格差 所得と資産から考える 』岩波書店.

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The Doshisha University Economic Review Vol.58 No.4

Abstract

Hiroya BAMBA, Effects of Changes in Industrial Distribution of Workers and Increase in the Number of Part-time Workers on Earning Disparities in Japan   This article analyzes changes in earning distribution of Japanese workers by industry and type of employment from 1993 to 2003. In Part 1, average monthly earning of each industry is decomposed into (1) average earning of regular workers, (2) average earning of part-time workers, (3) part-time workers ratio, and estimations are made about percentage contribution of these factors to the change in average earning of each industry. In Part 2, changes in earning distribution across industries are examined by Lorenz Curves and Gini Coefficients, and changes in industrial distribution of workers and increase in the number of part- time workers are shown to be responsible for the increase in earning disparities among Japanese workers.

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