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3 所得格差と景気循環との関係

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Academic year: 2021

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(1)

【論 説】 

所得格差の循環的変動と景気循環 *

―月次データによる考察―

  宮 﨑   悟   

1 は じ め に

 橘木(1998)などによって所得格差が拡大傾向にあることが問題提起されて 以来,所得階層化の問題が大きな関心を集めている.長期的な傾向として所 得格差は拡大傾向にあると言われているが,所得格差の拡大要因については 最近でも大竹(2005)をはじめとしてさまざまな議論がある.本稿では『家計 調査』による月次データを用いることで所得格差の循環的変動を見出し,景 気循環との関連を考えることを目的とする.

 これまでの研究では年次データを用いて変動を見ることがほとんどであっ たが,本稿では月次データで細かい変動まで見ることとした.橘木(1998)で は約100年周期の超長期の所得格差の循環的変動について指摘しているが,

本稿では月次データを用いることでより短い周期での循環的変動があるかど うかを探りたい.

 景気循環が全所得階層の所得に等しく影響を与えるとは考えにくく,何ら かの形で所得分布に影響を与える可能性は高い.戦後の日本では13回にわ たって景気循環が繰り返され,それぞれに異なる性質を持っている.景気が

本稿の作成にあたり同志社大学経済学部の森一夫教授,八木匡教授より有益なご指導を頂きまし た.ここに記して感謝いたします.なお,残っているかもしれない誤謬についてはすべて筆者の 責に帰すものであります.

†同志社大学大学院経済学研究科博士後期課程(E-mail:[email protected]

(2)

拡張する時期には相対的に高所得層の所得が上昇することもあれば,景気拡 張の効果が全体にいきわたって低所得層の所得シェアが上昇することもある.

このように,景気循環によって所得格差は何らかの影響を受けうると考えら れる.本稿では景気循環が所得格差にどのような影響を与えるのかを確認す る.

 景気循環と所得格差の関係性に関する分析は英米のデータによる実証を中 心に多くの研究があり,これらはParker(1998-99)によってまとめられてい る.ここでまとめられている分析の多くは上位所得階層の所得シェアをイン フレ率や失業率などのマクロ変数に回帰することで分析を行っている.近年 の研究ではBarlevy and Tsiddon(2004)があり大恐慌時を中心としたアメリカ のデータを概観している.一方,日本のデータを用いての実証分析としては,

Yoshino(1993)や地主(1994)がある.前者は所得分配と景気循環そのものと

いうよりもマクロ経済の変動との結びつきの分析であり,期待インフレ率・

有効求人倍率・失業率・交易条件が所得分配に影響を与えることを示している.

後者は家計調査の五分位各階層のそれぞれのシェアをGDP成長率などのマク ロ変数と結びつけて分析している.また,吉野(1999)は所得格差の循環性を 構造的・循環的失業と関連させて分析を行っている.

 先行研究では,高所得層を中心とした各所得階層の所得シェアが所得格差 の代理変数として,景気の影響をうける失業率などの変数との関係を分析し ていることが多い.本稿では,ジニ係数を所得格差の代理変数として用いて,

景気局面によってどのような変動をしているのかを分析する.また,景気循 環を表す変数との関係を調べることで,所得格差と景気循環にどのような関 係があるかを考える.

 本稿の以下の構成は次の通りである.第2章においてジニ係数で計測され た所得格差について検討し,循環的に変動していることを見出す.第3章で は計測されたジニ係数が景気局面によって変動の傾向が変わるのかを分析し,

ジニ係数と景気循環を表しうるさまざまな変数との間に長期的な関係が存在

(3)

するのかを考える.最後に,第4章で結論と今後の課題をまとめる.

2 所得格差の循環性

 所得格差は変動係数や階層別所得シェアなどのさまざまな指標によって計 測されうるが,ジニ係数で計測されることが多いため本稿ではジニ係数で計 測する1).また,所得格差のデータは長期的な傾向を見ることが中心である ため,先行研究では年次データによる分析が多い.元になるデータの制約な どの関係で3年や5年ごとに計測される場合もある.ここでは『家計調査』

の月次データをもとに,さらに細かい動きを計測することとした.これによっ て景気循環の細かく短期的な変動との関連を考えやすくなる.

 本稿では『家計調査報告』に掲載されている2人以上の全国勤労者世帯の

「年間収入五分位階級別」実所得データを用いて月次のジニ係数を推計し,こ れを所得格差の代理変数として用いる.ただし,各階層の実所得データは消 費者物価指数で実質化して12ヶ月中心化移動平均をとることで簡単な季節調 整を行い,これをジニ係数の推計に用いる.本来ならば「実収入五分位階級別」

データを用いたいのだが『家計調査報告』には掲載されておらず,長期的か つ安定的なデータを用いる観点から「年間収入五分位」データで代用した2). もともと『家計調査』データは他調査によるデータよりもジニ係数が低く評 価されると指摘され,本稿では2人以上の勤労者世帯という限定的な世帯で のデータを用いるため,ジニ係数がさらに低く評価されてしまう問題がある.

しかし,本稿では所得格差の変動や循環性を月次データによって細かく見る ことが分析の中心であるため,ジニ係数の水準の問題については稿を改めて 考えることとしたい.

1 )本稿で分析したジニ係数と変動係数・上位20%の所得階層の所得シェアとの相関係数を求める と,それぞれ0.998,0.959ときわめて高く変動もほぼ一致している.このため,本稿では所得格 差の代理変数を代表的なジニ係数に絞ることとした.

2 )ただし,2000年以降の「実収入五分位階級別」データについては総務省統計局のホームペー ジで公表されている.同じ方法でジニ係数を計測し比較すると約0.1程度の水準の違いはあるが,

変動はほぼ一致しており相関係数も0.928と高い.

(4)

 本稿では,以上の方法によって推計された1970年7月から2004年12月ま での約35年分の月次でのジニ係数を用いて分析を行う.第 1 図はこの期間 におけるジニ係数の推移を示している.先に指摘したとおり,先行研究での 年次データの推計値3)に比べるとジニ係数の水準は低く評価されているもの の,先行研究と同様にジニ係数は長期的には上昇傾向にあることがうかがえ る.ただ,必ずしも常に上昇傾向にあるわけではなく,1970年代後半と1980 年代後半から1990年代前半にかけてジニ係数が連続して低下している時期も ある.このようなジニ係数が低下している期間は第1次石油危機直後とバブ ル景気から直後の平成不況の期間であり,いずれも日本経済にとっての大き な転換期であることは非常に興味深い.

 HP(Hodrick-Prescott)フィルターによるトレンドをとってみると,約10年 強を周期とする循環性を持っていることがはっきりと確認できる.分析期間 内におけるジニ係数の極小値・極大値にあたる時点をそれぞれ谷・山として,

3 )大竹(2005)では『家計調査』や『国民生活基礎調査』などの複数のデータで推計した長期的 な年次データのジニ係数がまとめられている.

第 1 図 ジニ係数の推移(網かけは景気後退期)

(5)

上昇期と下降期に分けて変化についてまとめたものが第1表である.これを 見ると,各局面での平均値は少しずつ上昇していることから長期的な上昇傾 向にあるが,それぞれの局面で約10%前後の変化率で変動していることが確 認できる.

3 所得格差と景気循環との関係

3. 1 所得格差と景気局面

 Parker(1998-99)やBarlevy and Tsiddon(2004)では,景気後退が所得格差を 拡大させる効果を持ち,景気拡張は所得格差を縮小させる効果を持つことを 欧米のデータから指摘している.とくに,Barlevy and Tsiddon(2004)では大 恐慌時を中心として上位所得階層の所得シェアで測る所得格差を概観してお り,上昇傾向の期間であれば景気後退期には格差拡大傾向が強まり,景気拡 張期にはその傾向が緩やかになるとしている.逆に,所得格差の低下傾向に ある期間であれば景気後退期には格差縮小傾向が弱まり,景気拡張期にはそ の傾向が強まるとしている.これによって,景気後退は所得格差を拡大する 効果を持ち,景気拡大は格差を縮小する効果を持つと結論付けている.

転換点

(傾向)

ジニ係数 推計値

期 間

(月) 平 均 変化幅 変化率 1972/02

(上昇)

1975/04

(下降)

1979/10

(上昇)

1987/05

(下降)

1995/11

(上昇)

2002/07

0.17578 0.19074 0.17791 0.20085 0.18478 0.20530

38 54 91 102 80

0.18179 0.18540 0.18953 0.19316 0.19524

0.01497

−0.01284 0.02294

−0.01607 0.02052

8.51%

−6.73%

12.90%

−8.00%

11.10%

第 1 表 期間別ジニ係数の動き

(6)

 本稿では,欧米データを用いた先行研究が示すように景気局面が所得格差 に影響を与えるのかを日本のデータによって考える.ここでは,内閣府によっ て定められた「景気基準日付」を景気局面の基準とする.先ほどの第1図を 見る限り,景気の転換点付近でジニ係数の傾向の転換が見られることも多く,

景気循環が少なからず所得格差に影響を与えていると考えられる.そこで,

景気局面別に期間を分けてジニ係数の変化をまとめたものが第 2 表である.

転換点

(景気局面)

ジニ係数 推計値

期間

(月)平 均 変化幅 1期あたり

変化幅 変化率 累積変化 1期あたり 累積変化 1970/07

(下降)

1971/12

(上昇)

1973/11

(下降)

1975/03

(上昇)

1977/01

(下降)

1977/10

(上昇)

1980/02

(下降)

1983/02

(上昇)

1985/05

(下降)

1986/11

(上昇)

1991/02

(下降)

1993/10

(上昇)

1997/05

(下降)

1999/01

(上昇)

2000/11

(下降)

2002/01

0.17692 0.17642 0.17702 0.19048 0.18588 0.18263 0.17910 0.18982 0.19404 0.19892 0.19556 0.18893 0.19515 0.19564 0.19539 0.20175

17 23 16 22 9 28 36 27 18 51 32 43 20 22 14

0.17758 0.17790 0.18585 0.18734 0.18440 0.18334 0.18587 0.18870 0.19710 0.19660 0.19250 0.18947 0.19614 0.19458 0.19764

−0.00051 0.00060 0.01346

−0.00460

−0.00325

−0.00353 0.01072 0.00422 0.00488

−0.00336

−0.00663 0.00621 0.00050

−0.00025 0.00636

−0.00003 0.00003 0.00084

−0.00021

−0.00036

−0.00013 0.00030 0.00016 0.00027

−0.00007

−0.00021 0.00014 0.00002

−0.00001 0.00045

−0.29%

0.34%

7.61%

−2.41%

−1.75%

−1.93%

5.99%

2.23%

2.51%

−1.69%

−3.39%

3.29%

0.25%

−0.13%

3.25%

0.01175 0.03570 0.15005

−0.07224

−0.01480 0.02066 0.25061

−0.03143 0.05804

−0.12072

−0.10091 0.02381 0.02089

−0.02444 0.03370

0.00069 0.00155 0.00938

−0.00328

−0.00164 0.00074 0.00696

−0.00116 0.00322

−0.00237

−0.00315 0.00055 0.00104

−0.00111 0.00241 第 2 表 景気局面別ジニ係数の動き

(注)「累積変化」は各局面の初期値との差を累積したものである.

(7)

各景気局面での変化の方向が一定でないことがほとんどであるため,各局面 の初期(景気の山・谷)での値との差を累積した「累積変化」を求めることで 期間中の変動を表している.ここまでの図表を見る限りにおいては,景気後 退期のほうが相対的にジニ係数は上昇する傾向にあるような印象を受ける.

 景気の拡張期と後退期でジニ係数の変化の傾向が変わるのかを判断するた め,それぞれのデータ間に有意な差があるのかを平均値検定した結果をまと めたものが第 3 表である.変化幅や変化率では有意な差が見られなかったも のの,期間中の変動も含めた累積変化では10%水準,1期あたり累積変化で

は5%水準で有意に景気後退期のほうが高くなっている.このことから,欧

米での先行研究と同様,日本でも景気後退期には相対的に所得格差が拡大す る傾向にある.

3. 2 所得格差と短期的な景気循環

 次に,短期的な景気循環を表しうる変数との関係を見ることで,ジニ係数 の変動と短期的な景気循環に長期的な関係が存在するのかを考える.ここで の「短期的な景気循環」とは,先述の「景気基準日付」によって定義される 約3年前後を周期とする景気循環を意味するものとする.

 短期的な景気循環を表しうる変数はさまざま存在する.この中でも,景気 循環を表すとされる変数の中で所得格差に大きな影響を与えると思われる変 数や所得分配に直結すると思われる所得や物価に関する変数を,いくつか取

変 数 tP

変化幅 1期あたり変化幅

変化率 累積変化 1期あたり累積変化

1.1366 1.1909 1.1586 1.7301 1.9079**

0.139 0.132 0.136 0.056 0.043 第 3 表 景気局面別各変数の平均値検定

(注)片側検定で5%有意は**,10%有意はで表す.

(8)

り上げて考えることとした.具体的には,①『景気動向指数』のCI(Composite

Index)4)の一致指数と②CIの遅行指数,③『職業安定業務統計』の有効求人

数と有効求職者数(いずれも季節調整済)から計算した有効求人倍率,④『労 働力調査』の季節調整済完全失業率,⑤『家計調査』による全国勤労者世帯 の12ヶ月中心化移動平均で簡単に季節調整をした平均実質実収入,⑥『毎月 勤労統計調査』による実質賃金現金給与総額の季節調整済指数(30人以上の企 業対象),さらに⑦『消費者物価指数』の全国総合指数という7つの変数を考 える.データの制約のため『景気動向指数』の2変数は1980年1月以降,そ の他の5変数はジニ係数と同様に1970年7月以降のデータを用いている.

 ジニ係数とこれら7つの変数との相関係数をまとめたものが第 4 表である.

CIの一致系列と遅行系列との相関がそれぞれ0.4901,0.4196と正の相関があ る.前節で景気後退期には相対的にジニ係数が高くなりやすいことを示した が,CIは景気動向と同方向に変動するため逆の結果になる.有効求人倍率も 景気循環とは同方向に変動する変数だが,これとの相関係数は−0.2855と,

前節の結果通りに負の相関を持つが相関は弱い.ジニ係数と完全失業率との

4 )CIは景気循環に反応的な諸変数を加工して作られた景気の量感を表す指数である.詳しくは森

(1997)を参照されたい.また,景気循環の効果が所得へ反映されるのが少し遅れることも考慮し,

本稿では一致指数と遅行指数の両方を採用している.

変 数 原系列 前期比 前年同月比 定常性

CI一致指数

CI遅行指数

有効求人倍率 完全失業率 平均実質実収入

実質賃金 消費者物価指数

0.4901 0.4196

−0.2855 0.7156 0.7391 0.7574 0.7695

−0.0399 0.0122

−0.1346 0.1345 0.2673

−0.1319 0.1402

−0.0122 0.0823

−0.2096 0.2352 0.1496

−0.0147 0.2309

I(0)

I(1)

I(1)

I(1)

I(0)

I(0)

I(0)

第 4 表 ジニ係数との相関係数

(注)定常性はADFテストによる単位根検定の結果である.

ただし,ジニ係数の定常性は(1)となる.I

(9)

相関係数は0.7156と高い正の相関を持つが,失業率は景気循環と逆サイクル となるため前節の結果通りとなる.平均実質実収入や実質賃金といった所得 を反映する変数や消費者物価指数との相関係数ではそれぞれ0.7強の高い正 の相関がある.

 ところが,下降傾向の有効求人倍率を除いて,いずれの変数も長期的には 上昇トレンドを持っている変数であり,変動ではなくトレンド部分だけの見 せかけの相関である可能性もある.そこで,単位根検定によって各変数の定 常性を検討した.ADF(Augmented Dickey-Fuller)検定5)で10%水準を基準に 検定を行ったが,紙面の制約のため結果のみを第4表にまとめた.この結果,

ジニ係数は単位根を持ち1階の階差をとれば定常となるI(1)となり,他に もCI遅行系列,有効求人倍率,完全失業率は(1)となる.しかし,CII 一致 系列,平均実質実収入,実質賃金,消費者物価指数は単位根を持たない定常 の(0)となる.また,ジニ係数とI I(1)であった各変数とでEG(Engle-Granger)

検定による共和分検定を行ったが,いずれも共和分関係は見られなかったた め見せかけの相関であると考えられる.

 そこで,階差をとることですべての変数を定常化して関係を調べるため,

各変数の前期比および前年同期比をとって相関係数を計算した結果も第4表 にまとめている.すると相関係数はほとんど0に近い値となり,相関が弱い ことがわかる.とくにCIの両系列との相関はきわめて弱くなっている.

 以上を考えると,所得格差と短期的な景気循環を表す変数とは長期的には 関係性が薄いと考えられる.ただ,前節で見たように局面別に見ると関係が 見られることから,変数の選択や構造変化を考慮して分析期間を工夫するな どで改善される可能性はある.

5 12期までラグを許容し赤池の情報基準量AICが最小になるようにラグ数を選択した.また,ト レンド項や定数項が5%有意となる場合はこれらを入れて検定を行っている.直後での共和分検 定,次節での単位根・共和分検定(ただし次節でのラグ許容は四半期推計であるので10期まで)

も同様である.

(10)

3. 3 所得格差と中期的な景気循環

 前節においては,一般的に考えられる短期的な景気循環と所得格差の関係 を考えたが,所得格差が約10年強の周期で循環していることを考えると,周 期が合わないことで長期的な関係が見られなかった可能性もある.また,短 期的に考えると必ずしも一定の関係が保たれない可能性もある.そこで,周 期が約10年とされるジュグラーの波(Juglar cycle)と呼ばれる景気の中期循環 との関係性を考えてみたい.

 篠原(1994)をはじめとした篠原三代平氏の一連の研究で投資比率(民間設 備投資の対GDP比率6))が中期的な景気循環を表すとされ,これは森(1997)や 嶋中(2003)など多くの研究でも検証され認められている.ただし,新SNA 系列データの制約のため1980年以降の四半期データでの分析となり,ジニ係 数については前章で推計された月次のデータを各四半期で平均化したものを 用いる.ジニ係数と投資比率の推移を第2図にまとめた.1990年代後半の投 資比率の動きが短期循環と同じような動きをしているのが気になる.しかし,

旧SNA系列で四半期データをプロットした森(1997)を見ると,変動は短期 循環の影響も受けているが長期的な傾向で中期的な循環性がうかがえる.ま た,両変数の相関係数を求めると,0.1106とかなり相関は弱い.

 Lear(1992)では,景気循環を賃金に対する企業利潤比率で考えて所得分配 と景気循環の関係を論じている7).景気が拡張に転じると企業は投資を増加し てさらに企業利潤を伸ばし,ある程度の利潤を確保できたところで労働者への 賃金上昇に反映させるとして,景気循環と関係して賃金に対する企業利潤比率 が循環的に変動するとしている.このことから,景気拡大による企業投資の伸 びと賃金上昇による所得面への反映にはタイムラグがあると考えられる.

6 )篠原(1994)では民間設備投資の対GNP比率を投資比率としているが,嶋中(2003)では対 GDP比率で提示している.統計の中心がGNPからGDPに移っていることもあり,本稿では対 GDP比率を投資比率とする.また,GDP・民間設備投資ともに名目値を用いた.

7 )Lear(1992)は賃金に対する企業利潤比率を所得分配の変数としているのだが,企業(資本家)

と労働者の所得分配と景気循環の関連を考えている.しかし,本稿では勤労者家計データを用い ていることもあり労働者側の中での所得分配による格差を考えている.

(11)

 そこで,タイムラグの長さを計測するため,ジニ係数を1期ずつ遅行させ て投資比率との時差相関係数を計算し,遅行期間数と時差相関係数の関係 をまとめたものが第 3 図である.17期までは負の相関が強くなることから,

3. 2節で示したように景気後退期ほど所得格差が拡大するということになる.

前節と同様に見せかけの相関である可能性があるため,単位根・共和分検定 を行うことで長期的な関係が存在するかを確認した.両変数とも単位根が検

出されI(1)となるが,第3図において◆印をつけた約3〜4年のラグを取っ

た期間で共和分関係が見られ,長期的な関係があることが確認された.すな わち,投資比率で表される景気の中期循環に約3〜4年遅れて,逆向きに所 得格差が変動をしていることとなる.

4 結  論

 まず,月次データによるジニ係数を計測することで,細かく所得格差の変 動を概観した.橘木(1998)などの多くの先行研究にも見られるように,長期 的にジニ係数が上昇していることも確認できた.しかし,常に上昇傾向にあ るわけではなく,約10年強を周期として約10%前後の変動幅を持つ循環性 が見出された.ジニ係数を数十年単位で長期的に計測して時点間での比較を 行う場合,計測時点によって本稿で確認されたトレンドの影響を受けること が考えられる.連続的にジニ係数が低下している時期を見ると,日本経済の

0.17 0.175 0.18 0.185 0.19 0.195 0.2 0.205 0.21

1980 1982 19841986 1988 19901992 1994 19961998 2000 2002 2004 0.1 0.12 0.14 0.16 0.18 0.2 0.22

ジニ係数(右軸) 投資比率(左軸)

第 2 図 ジニ係数と投資比率の推移

(左軸) (右軸)

(年)

-0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 ジニ係数の遅行期間数

第 3 図 中期循環とジニ係数の時差相関係数

(注)◆は共和分関係にあることを示す.

(期)

(12)

大きな転換点およびその直後の時期であった.このため,ジニ係数の計測時 点の選択は重要な意味を持つ可能性が高い.

 次に,景気局面と所得格差の関係を確認した.Barlevy and Tsiddon(2004)

などの先行研究と同様,景気後退には所得格差を拡大させる効果があり,景 気拡張には格差を縮小させる効果があることがわかった.

 さらに,景気循環に関連するさまざまな変数と所得格差を表すジニ係数と の関係を考察すると,短期的な景気循環との長期的な関係性は薄いことがわ かった.ただ,景気循環に関連する変数との関係では,バブル期などの構造 変化を考慮していないという問題が残っている.データを見ていると,短期 的な景気循環の所得格差への効果は常に一定であるとは考えにくい.長期的 な関係の有無を調べる単位根・共和分検定に構造変化による効果を入れたり,

分析期間を分割したりするなどの工夫をすることで,景気循環と所得格差の 間に明示的な関係が示される可能性もある.このことは,残された課題とし て今後考える必要がある.

 一方,所得格差と同じような周期を持つ中期的な景気循環との関係では,

所得格差が3〜4年遅れて変動することが確認された.この場合でも,景気 拡張に伴い所得格差は縮小し,景気後退に対しては格差が拡大するという関 係が見られる.

 以上のように,月次でのジニ係数を推計することで所得格差の細かな動き を考察したが,所得格差の循環性と景気循環の間には何らかの関係が存在す ると考えられる.本稿では大まかなファクト・ファインディングにとどまり,

所得格差と景気循環の明示的な関係を示すまでには至らなかった.課題は多 く残されているが,今後少しでも関係性を発見して明らかにしていきたい.

(13)

【参考文献】

Barle vy, G., and D. Tsiddon, (2004) Earnings Inequality and the Business Cycle, NBER Working Paper, No. 10469.

Lear, W. V., (1992) Income Distribution and Business Cycles, Review of Social Economy, Vol.50, No.3, pp. 316-332.

Parke r, S. C., (1998-99) Income Inequality and the Business Cycle: A Survey of the Evidence and Some New Results, Journal of Post Keynesian Economics, Vol. 21, No.2, pp.201-225.

Yoshi no, O., (1993) Size Distribution of Workers Household Income and Macroeconomic Activities in Japan: 1963-88, Review of Income and Wealth, Vol.39, No.4, pp.387-402.

地主 敏樹,(1994)「所得分配と景気循環  アメリカと日本  」『国民経済雑誌』第 170巻第2号,pp.63-90.

森一夫,(1997)『日本の景気サイクル』東洋経済新報社.

大竹文雄,(2005)『日本の不平等』日本経済新聞社.

嶋中 雄二,(2003)「異種景気循環の交錯とその将来  日本経済は甦るか」,篠原三代 平編著『経済の停滞と再生』東洋経済新報社,所収,第10章,pp.251-295.

篠原 三代平,(1994)『戦後50年の景気循環』日本経済新聞社.

橘木 俊詔,(1998)『日本の経済格差』岩波新書.

吉野 紀,(1999)「構造的ならびに循環的失業と所得分配の不平等」『駒沢大学経済学論集』

第31巻第2号,pp.17-52.

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The Doshisha University Economic Review Vol.57 No.3

Abstract

Satoru MIYAZAKI, Cyclical Fluctuation of Income Gap and Business Cycle: A Study Using Japanese Monthly Data

   In this paper, we consider the fluctuation of Japanese income gap using monthly Gini coefficient, and discuss the relation between the fluctuation of income gap and business cycle. Consequently, we find out the following four points.

(1)The income gap is increasing for a long term, but it cyclically fluctuates at the cycle of about ten years or more. (2) Recessions have the effect of expanding the income gap, and business upturns have the effect of reducing the gap. (3) There is little long-term relation between the income gap and the variables that shows the short-term business cycle. (4) The fluctuation of the income gap is 3 or 4 years later to come than the mid-term business cycle (Juglar cycle).

参照

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