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ソ連邦の所得課税と所得分配 : 租税廃止計画をめ ぐって

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(1)

ソ連邦の所得課税と所得分配 : 租税廃止計画をめ ぐって

その他のタイトル Income Taxation and Income Distribution of the USSR.

著者 佐藤 博

雑誌名 關西大學經済論集

巻 11

号 2

ページ 153‑179

発行年 1961‑06‑20

URL http://hdl.handle.net/10112/15520

(2)

一 九

六 0 年五月七日︑ソ連邦最高会議は﹁労働者・職員に対する租税廃止に関する法案﹂を可決した︒ソ連邦の

租税が徹廃されることについては︑すでに経済七ケ年計画︵一九五九ー六五年︶を採択した一九五九年二月五日の第

二十一回党大会の方針によって明らかにされていたが︑今回の﹁租税廃止計画﹂はその具体的実施内容を示したも

のである︒ソ連邦では︑現在この法律によって租税の廃止が実施段階に入っている︒

租税の廃止というセンセーショナルな措置に対して︑これまで資本主義諸国では夫々の推測や論評がなされてき

たが︑いずれも時事的解説の域を脱せず︑租税廃止の意義や評価を理論的にとりあげる試みはまだ行われていない

よ う

で あ

る ︒

この研究の目的は、ソ連邦の租税廃止の意義•特徴を検討し、それを通じて社会主義社会における租税の役割を

明らかにすることである︒さらに副次的な問題であるが︑今回の租税廃止が︑ソビエトにおける賃金所得政策と密

ソ連邦の所得課税と所得分配︵佐藤︶

ー 租 税 廃 止 計 画 を め ぐ

ソ 連 邦 の 所 得 課 税 と 所 得 分 配

四 五

(3)

ソ連邦の所得税制度の大きな特色として︑

所 得

税 は

︑ 都市の市民と農村の農民とで別々に分けて課税されてい

局個人に対する所得税だけが問題となる︒ ルホーズ所得税﹂である︒しかしながら︑もし課税が︑ ﹁それによって所有の移転を伴なうもの﹂と定義されるな 社会主義的企業に対しては︑

﹁ 取

引 税

︵国営企業部門︶と﹁協同組合・コルホーズ所得税﹂

︵ 協

同 組

﹁収益控除﹂と﹁協同組合・コ

﹁ 所

得 課

税 ﹂

と い

ソ 連 邦 に お い て ︑ 国民所得は大別して ソ連邦の所得課税と所得分配︵佐藤︶

接な結び付きのある点から︑所得分配の問題を採り上げ︑各々の関係を吟味してみたい︒

租税制度は︑社会経済体制と不可分の関係にあることからして︑

ソ連邦の租税も︑当然のことながら︑資本主義

とは異質的な性格ないし役割をもつている︒従って今回の租税廃止の評価についても︑資本主義社会で想定される ものとは︑かなりの相違があることは︑初めから予想されることである︒そこで︑内容に入る前に︑本稿の主題で ある﹁所得課税﹂の対象の限定を通じて︑あらかじめソ連邦の租税制度の特徴を示しておきたい︒

﹁所得課税﹂とは所得を課税対象として課せられる租税を意味する︒

つの部門︑社会主義的企業部門︵協同組合︑コルポーズも含む︶と個人とに分配される︒

たばあい︑これらの企業所得に対する課税と個人所得に対する課税に分かれる︒現行の租税制度の下においては︑

合︑コルホーズ部門︶が課せられている︒このうち所得を課税対象としているものは

らば︑社会主義的企業部門の所得は︑

﹁ 収

益 控

除 ﹂

従って

いずれも国家または公共的な所得と見倣されうるので︑ この意味の所得の所

有関係の移転は行なわれず︑従つてそれらは課税現象とは見倣せない︒そこでこれらを問題の対象から外すと︑結 る︒前者を所得税︑後者を農業税と呼んでいる︒このうち農業税は︑従来は私的経営農地の農業生産所得を課税標

準としてきたが︑

一九五三年七月一日の改正によって︑耕地面積が課税標準とされるようになった︒この意味から

四 六

(4)

lllll 

される︒そしてこのことは︑同時に︑今回の租税廃止計画の主たる対象とも一致する︒

︑ 租 税 廃 止 計 画

( 1 )  

経済七ケ年計画に織り込まれている﹁国民に対する租税廃止の方針﹂と︑今回の租税廃止計画とを比較すると︑

そこに若干の相違が見出だされる︒ソ連邦において国民に対する租税は︑予算収入項目として﹁国民諸税﹂

o r

H c

a   H

e   g

e =目︶の名称で統一されており︑

て独身者・小家族者税︑家畜所有税︑個人農馬所有税があり︑その他に若干の地方税や公課が含まれている︒.従っ

て一九五九年二月の第二十一回党大会の方針からすれば︑

一 九

六 0 年五月七日の廃止計画では︑経済七ケ年計画の最終年度たる一九六五年を目標として︑労働者・職員

︵並びに広義の芸術家︶の所得税に限つて廃止されることになっている︒ が ︑

( 2 )  

この﹁労働者・職員の賃金に対する租税の廃止に関する法律﹂

ては︑ソビエトの各新聞に発表があり︑またすでにわが国でも詳細な紹介が行なわれ

p a

6 0

' I

H X

  H 

g y a 日

目 ︶

に つ

( 3 )  

ているので︑ここでは︑その概要を説明するだけに留めておく︒

﹁ 第

一 表

﹂ は

﹁租税廃止法﹂の要点を表示したものである︒今回の措置は︑二つの点で制限的ある︒即ち租税

ソ 連

邦 の

所 得

課 税

と 所

得 分

配 ︵

佐 藤

廃を意味するものではない点を注意すべきである︒

の 内 容

以上の理由から︑本稿の﹁所得課税﹂の主たる対象は︑

四 七

従って租税廃止計画が必らずしも租税の全

( 3

a K

O H

0   6   O

T M

e H

e   H

a n

o r

o B

 

s a

p a

6 0

T H

O A

  n

n a

T L

l  

上述の租税公課すぺての徹廃が予想されたわけである この中には︑国税では︑ 基幹税として所得税︑

農 業

税 ︑

( H g I  

一般市民の個人所得に課せられる﹁所得税﹂だけに限定 して︑農業税はソ連邦所得税制度の一環ではあるが︑ ﹁所得課税﹂の問題から除外して考察しうる︒

補完税とし

(5)

ソ 連

邦 の

所 得

課 税

と 所

得 分

配 ︵

佐 藤

四 八

( 4 )  

の廃止といつても所得税のみで︑農業税には適用されない︒また所得税でも︑第一種および第二種所得のみに限られ

ている︒ただし所得税の補完税として存在する独身者・小家族者税については︑今回の租税廃止計画の対象に含め

﹁ 第

一 表

免税計画であって︑縦欄は減免税の実施される期限を表わし︑横欄は減免税の適用を受ける所得階層を表わして

いる︒表中一

00

︒ ハ

ー セ

ン ト

減 税

と あ

る の

は ︑

( 5 )  

階層が受ける年平均所得増加額である︒例えば︑

税額の四 0 ︒ハーセントが減税されている︒その結果︑これらの階層に属する労働者・職員は年平均約三六億ループ

﹁ 第

一 表

( A

)

は︑月額賃金所得一︑

00

0 ループルまでの低・中所得者︵第一種所得︶に対する段階別の減

( B

)

は ︑

月 額

一 ︑

00

ーループル以上の高賃金所得層の租税廃止計画で︑このグループは︑租税廃

止の目標年度である一九六五年十月一日に一斉に徴収が中止ざれる︒徴収の中止される租税額︵所得税のみ︶の一

一部は手取額の増加のかたちで分けられる︒表中内訳の欄で示されている比率が︑

この配分を示している︒なお二︑

00

一ループル以上は︑表で示される如く手取賃金の増加がなく︑賃金額が丁度

所得税額だけ引下げられるわけである︒同様な賃金額引下げ方法による租税廃止は︑

( 6 )  

される予定の第二種所得についても適用される︒

この表によって明らかな如く︑今回の﹁租税廃止法﹂には︑もうひとつの制約︑ 部は賃金引下げの方法により︑ ルの手取賃金の増加となることを示している︒ 者 ・ 職 員 は ︑ 租 税 ︵ 所 得 税 お よ び 独 身 者 ・ 小 家 族 者 税 ︶

つまり漸進的な租税徴収中止と 一九六五年十月一日から実施 の徴収がすでに中止され︑五

0 1

六 00

ループルの者は︑租

一 九

l

六 0 年十月

日 か

ら ︑

月額賃金五

00

ループルまでの労働 課税の中止を示す︒また右端の縦欄は︑減免税によって当該所得

ら れ

て い

る ︒

(6)

157 

【 第

1

表 】

(A)

減免税計画(月額賃金

1,000

ループル以下)

ソ 連 邦 の 所 得 課 税 と 所 得 分 配 ( 佐 藤 )

, o ,  

601  701  801  901 

手(取賃弓金増加

期 日

500

年 均 億

600  700  800  900  1,000

ル ー ル )

 

1960.10.1  100%  40

36.  1961.10.1  60

40

40.  1962.10.1  60%  40

45.  1963.10.1  40

23.  1964.10.1  40

24.  1965.10.1  *60

60%  60

計/

100

100% 100

100

I100

100

(資料)~nPAB.lJ.A► 8,  Ma.11  1960 roa

から作成。

701800

ループルの賃金層に関しては、 「租税廃止法」によつて、二様

に解釈される。ここで示されている外に、

1963

年に

16%(40%x40%)

1964

年に

6:4%(16%x40%)

1965

年に残額として

37.6%

とも理解される。

このことは、

801900

ループルについても同様である。

(~nP AB.lJ.6, 

Ma1960ro

邸参照)

(B)所得税徴収中止計画(月額賃金

1,001

ループル以上)

1,001  1,201  1,401  1,601  1,801  2,001  1,200  1,400  1,600  1,800  2,000   

四 九

1965.  10.  1  100

100

100

100%  100%  100% 

(内訳)

賃 金 引 下 率

21

54% 

7 1形

85%  90

100

手 取 増 加 率

79%  46

29%  15

10% 

手 取 賃 金 増 加

65.  26.  9.  2.  2. 

0. 

(年平均、 億

J

レープル)

(資料)~TTPAB几A► 6.  MaH 1960 roa,

~TTPAB八A► 8,  MaH 1960 ro.11.a

から作成。

(7)

①所得税制度と差別化原則 ここでは重要な点だけを挙げるに留める︒ ソ連邦の所得課税と所得分配︵佐藤︶

いう方法が採られている︒以上の諸点を考え合わすと︑今回の租税廃止措置は︑内容的に見て︑ ﹁国民諸税﹂の廃

止へ第一歩を踏み出したものに過ぎない︒かかる租税廃止計画に現われているいくつかの制約点の意味を理解する

ためにも︑またソ連邦における租税廃止の意義を評価するためにも︑あらかじめ今回の措置に示されている租税廃

止政策の特徴を十分に検討する必要があろう︒

︑ 租 税 廃 止 政 策

ソ連邦において今回の租税廃止措置を実施するに到るまでには︑半世紀に近いソビエト租税の特色ある歴史があ

った︒租税廃止政策に現われている特徴も︑資本主義社会の租税とは異った独特のソビエト租税の性格をそのまま

( 7 )  

反映している︒ソビエトにおける租税の意義や特徴については︑本稿とは別に他の個所で触れたことがあるので︑

ソビエト所得課税の根本的な特徴は︑差別課税原則にあると考えられる︒この特徴は︑そのまま資本主義社会の

所得課税に見られる負担均衡の理念と対立している︒ソビエトの租税制度を分析するばあい︑

革 が

ひとつの転換期をなして︑それ以前を資本主義的租税制度︑

( 8 )  

が採られている︒現行の所得税制度は︑

れたものである︒この所得税制度は︑

一 九 ︱ ︱

‑ 0

年の税制改

それ以後を社会主義的租税制度と区別する方法

一九四三年の所得税法を基礎とし︑それに税率その他の改訂が若干加えら

( 9 )  

いろいろの各度から差別化原則が採り入れられている︒

ソビエト所得税制度に現われている差別化原則の第一は都市の市民と農村の農民との課税上の区別である︒前者

の 特 徴

五 〇

(8)

159 

[ 第

2

表 】 所得税限界税率表

(1943

年と現行の比較形)

ソ連邦の所得課税と所得分配︵佐藤︶

所 . 得

(ループル)

1

種所得 第

2

種所得 第

3

種所得 第

4

種所得

1943  現行 19431現 行 1943

い 訪 ‑

19431現行

  1,800  1. 5 *1.5  1.5  1. 5  2.0  2.5  3.0  4.0  1,801    2,400  5.5  5.5  5.5  5.5  6.0  7.5  8.0  10.0  2,401;....,  3,600  6.0  6.0  6.0  6.0  8.0  10.0  12.0  15.0  3,601    4,800  7.0  7.0  7.0  7.0  11.0  14.0  16.0  20.0  4,801    6,000  8.0  8.0  8.0  8.0  15.0  19. 0 .20. 0 25.0  6,001    8,400  10. 0 10. 0 10.0  10. 0 19.0 ‑23.5  25.0  31. 0  8, 401   12, 000  12.0  12.0  12.0  12.0  23.0  29.0  30.0  37.5  12, 000   18, 000  13. 0 13.0  13.0  13.0  27.0  33.5  35.0  44.0  18, 001   24, 000  13.0  13.0  14.0  13.0  32.0  40.0  40.0  50.0  24,001   30,000  13. 0 13.0  15.0  13.0  37.0  46.5  45.0  56.0  30,001   50,000  13.0  13. 0 16.0  13.0  42.0  52.5  50.0  62.5  50,001   70,000  13. 0 13.0  18.0  13.0  47.0  59.0  57.0  71. 0  70,000    13.0  13.0  23.0  13.0  55.0  69.0  65. 0 81. 0 

(300, 001 )  (5* 5.0) 

  ‑ I ‑

( 註 )

カテゴリーによる

1

種所得(労慟者、職員の賃金所得。協同組合に加入している職人、

手工業者は、

10

形高い)

2

種所得(広義の芸術家ー作家、音楽家)

第 3 種所得(私的に営業する専門職業家一医師、弁護士)

4

種所得(協同組合に所属せざる職人、手工業者)

1960

10

1

日より、租税徴収中止の第

1

段階として、第

1

種所得の

500

ループル(年額

6,000

ループル)まで免税となっているが、この税率

は、作業所を二箇所以上有する労働者・職員について、従たる作業所か ら受ける賃金に対して適用される税率を示す。

** 1943

年所得税法では、第

2

種所得は、

300,001;

レープル超の

55

彩を限

度として累進税率が適用されていた。

は︑社会的経済的 第二の差別課税 つ

て い

る ︒

支払つている︒こ のいずれかの形で 連邦の住民は︑ こ の両税が重課され ることはなく︑ ソ

の点が所得税制度

の第一の特徴とな

ものである︒これ ている︒しかもこ によって課税され が全く別個の基準 後 者 に は ﹁ 農 業 税 ﹂ には﹁所得税﹂が

(9)

なって現われている︒

ソ 連

邦 の

所 得

課 税

と 所

得 分

配 ︵

佐 藤

︶ はソビエト所得税の社会的政策手段としての役割を示すもので︑現行の租税の機能という点では︑財政的意義に優

一九四三年の二.

ol

五五 •O

。ハーセントの累進税率が、同一の所得間隔において一九五七年改

l

八 ︱

・ O

︒ ハ

ー セ

ン ト

ヘ と

﹁第二表﹂の比較によって明らかなように︑各所属グループ間の差別化は︑

訂では、二•五

i

六九 •O

。ハーセントヘ、また第四種所得については、三.

ol 六五 •O 。ハーセントから、四 ·O

( 1 0 )  

ほとんど禁止的水準にまで引上げられている︒

で 一

八 ︑

000

ループル以下が第一種所得と同率であったが︑改訂によって一八︑

00 0 ループル以上についても

かかる社会的所属間の差別課税の強化ないし緩和は︑

第一種所得グループに近づいてきている︶︒例えば第三種 いずれも今回の所得税廃止政策の方向をあらかじめ定めて

いたものと考えられる︒ソ連邦においてこの差別課税方式が実施された当初は︑私的経営部門を社会的経済部門へ 編入せしめるための政策手段とされていたが︑現在においては︑むしろ労働者・職員に対する恩典的取扱いの方に 重点があるように思われる︒いずれにせよ︑社会的所属間の差別化原則は︑

第三の特徴は︑所得課税における差別化原則の重視の結果として生じているものである︒それはソビエト所得税 制度が︑基礎控除制を採らず免税点制を採用している点である︒これはひとつには課税技術の不備によるものと言 えるがむしろソ連邦では次の理由が大きいと思われる︒課税における負担の均衡を第一と考える資本主義の所得税

ソ連邦のように差別

においては︑免税点制を採ったばあいの限界点における負担の不均衡が大きな問題となるが︑ 第一種所得並みに税率が引下げられた︒ れつつある︵第二種所得グループの広義の芸術家は︑

そのまま今回の租税廃止政策の原則と 一方︑第二種所得については︑

こ れ

所得については︑ 先していると考えられる︒

一 層

強 化

(10)

②租税廃止政策と差別化原則 化原則を第一としたばあいは︑負担の均衡が二次的問題になるからである︒

これと関連してソビエト所得税構造のなかには︑資本主義諸国では余り見られぬ特色がある︒例えば︑独身者・

小家族者税と多家族者に対する扶養手当制の組合わせによる扶養控除制の補完がそれである︒つまり労働者・職員

に対する所得税税率が殆んど比例税に近いかたちをとつているので︑特に低所得者層においては︑所得税構造を通

じて実現さるべき各種の﹁人税﹂的考慮を反映する場が狭められているのである︒これらはソビエト所得税の構造

上の特徴点であるが︑いずれも今回の租税廃止計画と密接に結び付いている︒

ソビエト所得課税について︑以上のような特徴を見てくると︑租税廃止措置に現われている限定的性格が︑おの

ずから明らかになってくる︒即ち租税廃止が所得税に限定されているのは︑ソビエト所得課税の第一の差別方式の

線に沿ったものと言える︒更らに所得税の中でも︑第一種ないし第二種にのみ適用されているのは︑これまでの所

得税手段による社会的政策の遂行という観点から十分理解されうるものである︒

免税点制の問題については︑限界線に近い所得者層に逓減的な減税率を適用することによって︑免税点引上げに

伴なう不公平を是正しようとしている︒この点が︑今回の租税廃止政策に見られる技術的な進歩となつている︒

これらはいずれも従来の所得課税における差別的取扱いの強化というかたちで理解できるものであるが︑これ以

外に︑租税廃止計画に示された差別方式には︑これまでとは違った新らしい特徴がある︒

すでに﹁第一表﹂の説明で述べたように租税廃止においては︑第一種所得グループ②内部で︑

ソ連邦の所得課税と所得分配︵佐藤︶ つまり労働者・職

(11)

【 第

3

図 】 租税廃止による賃金額別手取増加

手取増旧額

(廃止後)

(+) 

賃 金 額 所得税躾

(廃止前)

(‑) 

単 位 ) L ープル(月額)

斜線

let

賃金引下サ:部分を示す

ソ 連

邦 の

所 得

課 税

と 所

得 分

配 ︵

佐 籐

得者層は︑免税額が手取増加と賃金引下げの二つの形をとり︑ となつている︒そして一︑

00

0 ー ニ

0 0 0

ループルの中所 ﹁第三図﹂で明らかなように︑ この関係を図示したものが﹁第一二図﹂である︒中央の賃金額 節の﹁第一表﹂で見られるように︑所得税の廃止ないし減額が ている︒この差別措置は二つの面に現われている︒第一は︑前 低所得者層から段階的に実施されている点である︒第二は︑租 税の廃止によって受ける恩恵が︑夫々において異なる点であ る︒換言すれば︑低額賃金所得者が免税的恩典を受けるのに対 し︑高額賃金受領者は賃金カットとなって現われている︒ の段の下側は︑所得税廃止前に労働者・職員が支払つていた租 税額である︒上側は所得税廃止後における手取賃金の増加額を 示す︒この図は段階的廃止を考慮に入れず︑従って一九六五年 十月の租税廃止五ケ年計画目標年度における状態である︒

一 ︑

00

0

ル ー

ブ ル

︵ 月

額 ︶

以下は︑免税額がそのまま手取賃金の増加となっているのに対

し ︑

二 ︑

00

0 ループル以上は︑免税額がそのまま賃金引下げ 員の間で低所得者層と高所得者層の差別的な取扱いが行なわれ

五 四

(12)

63 

︵ 下

段 ︶

プ ラ

ス ﹁

手 取

増 加

額 ﹂

﹁ 賃

金 額

五 五

所得税の増大と共に手取額は逓減している︒結局︑租税廃止後の賃金額は︑

︵ 上

段 ︶

で 示

め さ

れ る

︒ 従

っ て

一 ︑

000

ループル以上のものは︑その差額分だけ賃

金引下げ︵図において斜線で示されている部分︶となるわけである︒

︵ 中

段 ︶

マ イ

ナ ス

﹁ 租

税 額

かかる差別的措置の意図は︑賃金所得間の格差を是正するという賃金政策にある︒この点については︑

年五月五日のフルシチョフ首相の最高会議の演説のなかで明言されている︒労働者・職員の賃金所得に現われてい

る不平等な格差を是正する方針は︑すでに一九五九年の党大会の決定として定められていた︒今回の所得税廃止計

画においては︑この賃金政策の方針が強く打ち出されている︒そこで次に賃金政策と所得分配の面から所得税廃止

︑ 賃 金 政 策 と 所 得 分 配

賃金所得間に生じている格差を是正する政策として︑経済七ケ年計画では最低賃金の漸進的引上げの方法が予定

されていた︒租税廃止計画は︑大体において︑この最低賃金引上げの線に沿つて減免税政策を採り入れている︒こ

のことは計数的にも関係づけることが出来る︒

経済七ケ年計画に示されている最低賃金の引上げ計画は︑第一段階として一九五九ー六二年に︑二七

0i

三五〇

ループルから四

00

四 五

0 ループルヘ︑第二段階として一九六三ー六五年に︑四

00

四 五

0 ループルから五 0

( 1 1 )  

ol

六 00

ループルヘと見積られている︒これは一九五八年の水準と比ぺて七

0 " :

" "

八 0 パーセントの引上げを意味

する︒またこの間に平均賃金は二六パーセントの増加を予定している︒他方︑段階的な免税点の引上げの方は︑こ

ソ 連

邦 の

所 得

課 税

と 所

得 分

配 ︵

佐 藤

計画を検討してみたい︒

一 九

六 〇

(13)

【 第

4

表】階層別賃金所得分配

モデル

(195962

年 )

月 額 賃 金

(ループル) 所得人員(彩)

500

以下

500   600  600   700  700   800  800   900  9001,000  1,0001,200  1,2001,400  1,4001,600 

1,600

以上

10.2  11.8  13.8  13.9  12.2  9.4  12.7  8.4  4.0  3.6 

ソ連邦の所得課税と所得分配︵佐藤︶

(資料)

A.  Aganbegian, "Me‑

thods of Analyzing  and Cal

culating  the  Distribution  of  Workers  and Employees  by  the Amount of Wages", Prob  lems  of Economics,  Vol.  ][,  No.6,1960, p. 32. 

第一段階に利用する点にあるように見受けら が一九五九ー六二年の最低賃金引上げ政策の ﹁第四表﹂ A g

a n b e

g i a n

によって作成された所得分配の

( 1 6 )  

モデルである︒その意図とするところのもの

.

 

・ ア ガ ン ベ ギ ァ ン

た い

分配に関するモデルを研究資料として利用し れより若干速度は上回っているが殆んど平行して計画されている︒ ループル︵﹁第三図﹂参照︶とが一致するかたちとなっている︒

一九三五年の資料に基づいた現行の所得

こ の

こ と

は ︑

策によって︑直接的な賃金政策の道をつけるものと解釈できる︒また平均賃金も一九六五年には約一︑

00

0

ル ー

( 1 3 )  

プル︵月額︶に増加すると推定されるので︑これと租税廃止政策に現われている最高手取増加所得層の一︑

000

( 1 4 )  

いう︑その原因については︑賃金政策 労働者の賃金所得間の開きが如何なる原因によって大きくなってきたかと

自体の問題として︑ここでは検討しない︒ただ現実に格差が存在していることについては︑多くの論者の主張によ

( 1 5 )  

つて明らかである︒

かかる賃金所得間の格差については︑賃金所得分配に関する資料が得られれば︑最もよく理解できる︒しかしソ

ビエトにおいて利用しうる資料は一九三五年以降発表されていない︒そこで︑まとまった統計資料としてではない 租税廃止という間接的な賃金政

五 六

(14)

165 

【 第

5

表 】 階層別賃金所得分配

(1965

年の推計値)

ソ連邦の所得課税と所得分配︵佐藤︶

月 額 賃 金

(ループル)

500以下 500   600  600   700  700   800  800   900  9001,000  1,0001,200  1,2001,400  1,4001,600  1,6002,000 

2,000

以上

所 得 人 員

(百万人)

13.  8.  9.  89. 

6.  7.  4. 

2以下

I所得人員(%)*

( 1 )  

(9. 

0

以下)

19.5  12.0  13.5  12.013.5 

9.0  10.5  6.0  3.0  3.0以下

( 2 )  

(1. 0) 

額 は

(資料) J. A. Newth, "Income Distribution in  the USSR", Soviet Studies,  Vol.  XII, No.  2,  1961,  p. 193ff. 

*この比率は、 1965年の労働力 6,650万人を 基磯にして計算したものである。

( 1 )  

これは労働者、職員総数からの残余項目 として算定。

(2)  ソビエト政府の発表では0.6

形約

40万 人 となつている。

(<TTPAB

A >6,  MaH 1960 ro

邸)。

五 七

六五年に五

00

六 00

ルーブル 第一に低額所得層においては︑ ることが可能となる︒ 目標に関して或る程度の知識を得 しかしこの﹁第四表﹂と﹁第五表﹂ とを比較してみると︑賃金政策の 七ケ年計画の目標年度である一九 計数を示しているとは言えない︒ 前提が置かれているので︑確実な である︒この推計にはいくつかの が可能になっている︒ れ

る の

で ︑

で き

れ ば

この期間の所得格差の大体のかたちが理解できるであろう︒

更に興味あることには今回の租税廃止計画に絡んで︑たまたま賃金所得の分配に関して凡その見当をつけること

﹁第一表﹂で示してあるように︑所得税の廃止に伴つて︑当該所得層が受ける手取賃金増加

フルシチョフ首相の演説のなかで発表されていた︒従って︑ その所得層の支払つている平均所得税額が算定.

この階層に含まれている納税者数は把握できるわけである︒かような操作を各所得階層ごとに適用して

( 1 7 )  

いけば︑所得層別の人員構成を知ることができる︒

﹁第五表﹂は︑かかる計算を基礎にして︑ J.A ・ニュウス

N e

w t

h

が推計した一九六五年度の所得分配の想定

(15)

金総額を調整することは比較的容易である︒ 他 方 に お い て ︑ フルシチョフ首相の報告の中にも出ているように︑現行価格による国民所得の規模が発表され︑

( 1 8 )  

七ケ年計画の発展率も知りうるので︑各年度の国民所得もまた推計できる︒これと賃金所得総額とを比較すれば︑

賃金総額が国民所得の中に占める地位を推定することができる︒但し︑ソビエト国民所得は︑物質的財貨の生産の

みに限られている︒ところが賃金総額は︑非生産的部門を含んでいる︒そこで完全な比較をなすためには︑これの

( 1 9 )  

調整を行なわなければならない︒しかし生産的部門と非生産的部門との労働力の配分について資料があるので︑賃

﹁第六表﹂は︑これらの関係を表示したものである︒この表では発展率を各年度に平均的に割当てたので必ずし

も正確とは言えない︒これらの資料は︑後述する租税廃止政策の評価の際に利用できるので︑ここに掲げておく︒ て各年度の賃金所得総額について計算ができるわけである︒ ソ連邦の所得課税と所得分配︵佐藤︶

の階層が圧倒的に増加している︒これは︑賃金政策および租税廃止政策の意図が︑低所得者階層を中所得者階層へ

接近させようとしていることを現わすものである︒また高所得者階層の中所得者階層への接近も双方の比較から読

o l

︑ 00

0 ループルと計算され︑賃金政策の意図とほぼ一致している︒

賃金所得分配と関連して︑ソ連邦の国民所得と労働者・職員の賃金総額との関係を検討してみよう︒まず賃金総

額の計算は︑次のようにして行なうことが出来る︒即ち A

・ ノ

ー ベ

N o

v e

および A ・ツァウバーマン N

a u

b e

r m

a n

 

の平均賃金に関する報告と二六パーセントの平均賃金引上計画とを考慮すれば︑経済七ケ年計画の期間にわたつて

各年度の平均賃金額が推計できる︒また労働力の増加については︑経済七ケ年計画に明確に策定されている︒従っ み取るととが出来る︒第二に平均賃金は︑ ﹁第四表﹂において約八五 O 九

00

ル ー

プ ル

﹁第五表﹂では約九五

五 八

(16)

167 

【 第

6

表】 国民所得と労仇者・職員賃金総額

(経済

7

ヶ年計画、

195965

年 )

ソ 連 邦 の 所 得 課 税 と 所 得 分 配 ( 佐 藤 )

年 度

I 1959 1960  I 1961  I 1962  I1963  I 1964  I 1965 

( A )(国億ル民ー所プル得) 

13,500  14,500  15,700  16,900  18,200  19,400  20,6(010 

(B

()平均賃ル金) 

820  850  880  910  940  970 

月額ループ

(C)

労(万働人力) 

5,630  5,800.  5,980  6,150  6,320  6,490  6,6(530 

{DB)

・C

x1

2( 

5,540  5,920  6,310  6,720  7,130  1;560  7,920 

間億

J

レープル)年

( E ) 物肝 質的生産部

D

x

( 総

4)

4,710  5,030  5,360  5,710  6,060  6,430  6,730 

41

41

40

40%  39

39%  38

35

34%  34

34

33

33

33% 

コ[

( 註 )

(1)  19581965

年の所得発展率は

6596

として計算している。

(2)  19581965

年の平均賃金増加率は

2696

として計算している。

(3)  19581965

年の労働力の増加率は

2296

として計算している。

(4)  1956

年度の比率を適用している。

五 九

らにソビエト租税の本来の機能として︑差 の措置は︑その内容において賃金政策が大 う点でなされなければならない︒また今回 程度まで国民の福祉向上に寄与するかとい 従つてその評価は︑第一に租税廃止がどの る程度の粗雑さは非難を免れるであろう︒

四︑租税廃止計画の評価

ための措置として行なわれたものである︒

きな意義をもつているので︑第二に賃金政

策の観点からも評価する必要があろう︒さ よ

う に

ソビエト国民の物質的福祉向上の

会議で行なった提案理由に説明されている

所得税廃止は︑ フルシチョフ首相が最高 で︑その限りにおいて︑諸表に見られる或 の評価の手懸りとして掲げられているの また他の参考表は︑いずれも租税廃止政策

(17)

比較的大きいものと見倣しうる︒ ソ連邦の所得課税と所得分配︵佐藤︶

別課税の点から租税廃止政策を検討することが必要である︒そして最後に︑これは租税の持つ本来的な役割として

所得税廃止の財政的意義について評価しなければならない︒これらの点については︑租税廃止計画の特徴を述ぺた

際に︑すでに触れたものもあるが︑項目別に検討してみよう︒

ソ連邦の労働者・職員の物質的福祉の向上を如何にして量的に表現するかは困難な問題である︒物価引下げ方策

( 2 0 )  

によって実質賃金を増加させることも可能であるし︑事実そのような措置がしばしば行なわれてきた︒しかし問題

を租税の廃止と手取賃金の増加という関係で把握すれば︒或る程度まで比較は可能と思われる︒

そこで物価引下げを無視して︑労働者・職員の賃金増加総額と所得税廃止による手取増加額を比較してみよう︒

0  00 億ループル増加する︒これを以つて福祉向上の指標とすると︑

加額が七四 0 億ループルと報告されているので︑租税廃止による福祉向上寄与率は三七︒ハーセントとなる︒そして

残余は︑他の諸方策によって行なわれることになる︒

しかしながら︑この期間には︑

一 九

六 0l 六五年に︑賃金総額は二︑

一九六五年以降︑租税廃止による賃金所得増

﹁第六表﹂で見られる如く︑労働者の増加が相当程度見込まれている︒従ってこ

の比率の中には︑労働力の増加という要因が含まれていることになるので︑これらの比較は意味をなさない︒そこ

で一人当りの賃金増加と︑ 一人当りの手取増加とを比較してみると︑前者は一︑七四〇ループルで後者は一︑

0 ループルとなる︒この比率をとると約六三︒ハーセントとなり︑労働者の福祉増進に与える租税廃止政策の貢献は 期間を所得税廃止計画に一致させると︑ ﹁第六表﹂で示されているように︑ ①物質的福祉の問題

六 〇

1 0

 

(18)

169 

ソ連邦の所得課税と所得分配︵佐藤︶ 従って賃金間の間きは︑ 差の是正の問題は物価引下げと関連している︒ 図賃金政策の問題

所得税廃止政策が︑賃金所得間のアンバランスを是正する意図のあったことについては前節で詳しく述べた︒こ

こでは︑なにゆえにかかる所得間の不平等を改善するかという問題だけを採り上げてみよう︒

とり︑低所得層の賃金と高所得層の賃金との開きを︑低所得層の賃金を高所得層の賃金水準まで引上げることによ

( 2 1 )  

つて狭める努力をしなければ︑勤労人民を不平等な状態におくことを理解しなければならない﹂と︒従って賃金格

物価の引下げは︑高所得層には有利であるが低所得層には︑相対的に不利である︒これはソ連邦の独特な価格形

成に原因がある︒周知のようにソ連邦の小売価格のなかには︑﹁取引税﹂が含まれている︒この﹁取引税﹂は財政

( 2 2 )  

的には極めて問題の多い性格を持つているが︑或る意味では資本主義社会での間接税的性質を持つものと言える︒

﹁取引税﹂負担の不平等となつて現われる︒この意味からして租税廃止に含まれている賃

金政策は︑租税廃止後における将来の国家財政政策への地ならしをしていると理解される︒

こ の

点 に

つ い

て ︑

フルシチョフ首相は提案理由の中で次のように述べている︒ い事実をわれわれに知らせている︒

六 即ち﹁物価引下げの方法だけを 物質的福祉向上の追加的措置と言われる租税廃止計画が︑貨幣賃金の面で大なる影響を与えるということは︑と りもなおさず︑労働者・職員のこれまでの所得税負担が軽いものではなかったということを物語るものである︒従 来︑所得税に関しては︑単に予算収入として比重が小さい点だけが強調され︑その負担については余り顧みられな かった︒この点で今回の租税廃止計画に示されている数字は︑福祉向上の問題とは別に︑所得税負担に関する新し

参照

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