富 山 大 学 教 育 学 部 研 究蕗 鼻 No.4 :2 9 ‑3 4 (2 0 0 1)
小 数 の 乗 法 の 学 習 を 促 す 指 導
‑
2
つ の授業
の比 較 を 通 して ‑
岸 本 忠 之
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キー ワ ー ド: 乗 法, 小 数, 学 習・ 指 導
Key w o rds: m ultiplic ation , decim al fr・action ,te ach in g a nd le a r ning
1 .
研 究の目 的 と 方 法
1.1
研 究
の目 的
現 在 我が国の小 学 校 第5 学 年で小 数の乗 法が指 導さ れて
いる。 小 数の乗 法と は, 乗 数が小数であ る乗 法の ことであ る。
被 乗 数が小 数であ る乗 法は, 既に第4 学 年で指 導さ れて い る。 小 数の乗 法におい て乗 法の意 味が拡 張さ れ る。 整 数の乗 法は, 1 つ 分の大き さ が き まって いる と きに, その幾つ分か
に当た る大き さ を求め ることであ る。 ′ト数の乗 法の意 味は,
整 数の乗 法の意 味 も含む よ うに, 基準にする大き さ を B と し た と き, こ のB に対 する割 合がp であ る よ う な A を求め る操 作がB X p であ る と ま とめら れ た もの であ る。 児 童は, 小 数
の乗 法の学習を通して演算の拡張という数 学 的な考え方に着 日 すること が期 待さ れ る。
小数の乗
準
の学 習は, 児 童にとって困難であ ること が示されて いる(Gr e e r,19 9 4;片 桐重 男,1 9 75 ;中 島健三,19 68)。 児 童が小 数の乗 法を学 習 する と きに生じ る困 難の所 在や その
原 因を明ら かにし, 指 導を改 善 する必要が あ る。
これ まで小 数の乗法に関して多くの研究が な さ れて いる。
例え ば平林 ‑ 栄ら(1 98 0) は, 児 童が小 数の乗 法の意 味を 理 解でき る よ うに, 比例のイメ ー ジを活用し た指導を示して い る。 片 桐重 男 (1 9 75) は, 小数の乗 法の意 味を明 確にする手 段と して線 分 図や言 葉の式な ど を活用し た指 導を示して いる。
正 木 孝 昌 (19 7 8) は, 小 数の乗 法の文章 題におい て既 習を生 か し た結 果の求め方と「 × ( 小 数) 」 と演 算 決定し た上で の
結 果の求め方を対 比 することによって, 小 数の乗 法の意 味を 顕 在 化 する指 導を示して いる。
先 行研 究で示さ れて いる小 数の乗 法の指 導は, 優れ たもの
であ り, 成果を あげて いる と言え る。 し か し な が らこれ らの
指 導 法は! 必 ずしもすべて の学 習 段 階の児 童に対して効果が あ る わ けでは ない。 これ らの指導 法が どのよ う な学 習段 階に ある児 童に対してよ り効果 的であ るのか が明ら かにな れ ば,
これ らの指 導 法は よ り 一 層 効 果 的にな る。
本稿の目 的は, 小 数の乗 法に関 する 2 つ の授 業を比 較 す ること を通して, 小 数の乗 法に関する指導が どのよ う な学 習 段 階にあ る児
華
に対してより 効 果的であ るのかにつ い て示 唆を得ることであ る。
1 .2
研 究
の方 法
目的を達 成 する た め, 以下の手順によって議 論を進め る。 児童が小数の乗 法に関してどのよ う な学 習段 階にあ るのか を 明ら かにする た めに, 小 数の乗 法に関する学 習段 階を設 定し, さ らにその学 習 段 階を特 定 する調査 問 題と判 定基 準を作 成 す
る。
次にどのよ う な指 導が どのよ う な学 習段 階にあ る児 童に対 して効 果が あ るのか を明ら かにする た めに, 小数の乗 法に関 する 2 つ の授 業を比 較 する。 (1) 小数の乗 法の指 導 前に, プ
レテス トを行い各 児 童の学 習 段 階を特 定 する。 (2) 実 際に行 わ れ た授業につい て教 師へ の インタビュ ー か ら, 教 師が授 業
に対して どのよ う な ところに重 点を置い て指 導し たのか を明 ら かにする。 (3) 小 数の乗 法の指 導後に, ポス ト テストを行
い各 児童の学習 段 階を特 定 す る。 (4) プレテストと ポス ト テ ス トを比 較して, あ る学 習段 階の児童にとっ てどのよ う な指 導が効 果 的か を明ら かにする。
通常 指 導効 果を明ら かにする場 合には, 実験 群と統 制 群を 設け, 意 図 的な配 慮を し た指導と そ うでない指 導が比 較さ れ る。 し か しこ のよ う な方 法では, 児童の学 力差や実 際の授 業
で の話し合い の質な どが影響し, 実験 群におい て実験 者がい
におい て, 教 師は児童の実 態に即して, 教 師の意 図的な配 慮 を し た指 導ができ, その効 果も高 くな る と言え る。
調 査 対 象.t な る 2 つ の小 数の乗 法に関 する授 業は1 99 7年
の 4 月か ら 7 月に行わ れ た。 調 査 場 所は, 東 京 都 内の国 立 大 学 附 属小 学 校の第5 学 年2 ク ラス であ る。 表‑1 は各クラ
スの人 数であ る。 こ の小学 校は教科 担 任制であ る。
表 ‑ 1 各 クラ、
ス の人 数
クラ スA ク ラスB 人 数 、 4 0人 ・3 6 人
2 .
小 数
の乗 法
の学 習 段 階
2.1
小 数
の乗 法
の学 習
一演 算 決 定
に着 目
し て ‑ 小数の乗法の学 習には様々な側面が あ り, 学 習に関 するすべて の側 面を と ら え ること は困 難であ る。 そのた め あ る側 面
に着 目して児童の学習を捉え ること とする。 先 行 研究によ る と, 小 数の乗 法の学 習 内容は, 大 き く 分け れ ば 「 演 算 決 定 ( 演 算の意 味も含む)」, 「 計算の仕 方」, 「計算のき ま り」, 「 計 算 技 能」 の 4 つ であ る( 片 桐重 男,19 95;文 部 省,1 98 9)。 小 数の乗 法の学 習 段 階を設 定 するにあ た っ て, 演 算 決定に着 目 する。 な ぜ な ら演 算決 定は, 小 数の乗 法に関 する学習 内 容の 中で も特に重 要な学 習 内 容で あ る か らで あ る( 中 島 健三,
1 9 78)。
「 演 算 決 定」 と は, 小 数の乗 法の文 章 題を読み取り数 量 関 係を取り出し, 「 × ( 小数)」 と演 算を決 定 することであ る。
小 数の乗 法の文 章題におい て演 算 決定 する方 法はいくっ か あ る。 例え ば, 「 小 数の乗 法の意 味に基づ い て考え る」, 「 数 量 を整数に置 き換えて考え る」, 「 文章 題におい て言葉の式を あ ら か じ め作り そ れに数 量を あて は め る」, 「 文 章 題の文 中の何 倍な どの表 現に着 目す る」, な ど が あ る。 児 童は必 ずしも小 数の乗 法の 一 般 的な意 味を 理解して いなくとも, 小 数の乗 法
の文 章 題におい て演 算決 定でき る。
児 童が小 数の乗 法の文章 題におい て演算 決 定 する とき, 児 童が持っ ミス コ ンセプショ ンが影 響 する と指 摘さ れて いる (Bell ら,1 98 9;F iscb bein ら,1 9 85;G r e e r,1 99 4)。 乗 法に 関 するミス コ ンセプシ ョ ンには 「 乗 数はいっも整 数でな け れ ば な ら ない」 や「 奏法の結 果は, 被乗 数よ りもいっも大 きく な る」 が あ る。 こ のよ う なミス コ ン セプショ ンを持って いる 児 童は, 「 × ( 小数)」 と演 算決 定できない。
ま た 一 般に整 数の乗 法の結果は演算 決 定してか ら求め ら れ る が, 小 数の乗 法の結 果は「 × ( 小 数) 」 と演 算 決 定を し な く と も求め ら れ る。 例え ば 「1 m の長さの値 段が1 80 円のリ
ボ ンが あ り ます。 3.4 m の代 金はいく らですか。」 という文章 題におい て, 結 果は 「× ( 小 数) 」 と演 算 決定し な く とも,
具 体 的場 面を参 照して次のよ うに求め ら れ る。 0.1 m 分の値 段は1 80 ÷1 0 ‑1 8で1 8円であ る。 3.4 m は0.1 ×3 4で0.1m の34 倍であ る。 3.4m 分の値 段は1 8×3 4で求め ら れ る。′1 8×34 は
た り, 「 ( 基準にする大き さ) ×( 割 合) 」 と して乗 数や被乗 数 を区別して演算 決定でき る た めには, 小 数の乗 法の 一 般 的な 意 味を 理解 する必 要が あ る。 小 数の乗 法の意 味と は, 「 基 準
にする大き さ を B と し た と き, こ のB に対 する割 合がp であ る よ う な A を求め る操作が B X p であ る と ま と め ら れ たもの」
であ る。
2.2
小 数
の乗 法
の学 習 段 階
児章
が小数の乗法を学習 する た めには整 数の乗 法を学 習して いる必 要が あ る。 そのた め小数の乗法の学 習段 階を設 定す る前提と して, 児童は整数の乗法をすで に学 習して いる もの とする。 小 数の乗 法に関 する学習 段 階を以 下のよ うに設 定す る。
匝垂 互 ]
‑ 整 数の乗 法の文 章 題におい て演 算 決 定で き ない。直垂司
‑ 整 数の乗 法ゐ文 章 題に か て演 算 決 定できる が,小 数の乗 法の文 章 題において演 算 決 定でき ない。
画 頭
・・・ 小 数の乗 法の文苧
題に おい て結 果 を 求め る式は立てら れ る が, 「 ×( 小 数)」 と演 算 決 定できない。
圏
・・・ 小壷
の乗 法の文 章 題に おい て 「× ( 小 机 と演算 決 定で き る が, 乗 数と被 乗 数を区 別し ない。
匝垂画
‑ 小 数の乗 法の文 章 題におい て, 乗 数と被 乗 数を区別し て「× ( 小 数)」 と演 算 決 定できる。
2.3
小 数
の乗 法
の学 習 段 階
に関す
る判 定 問
題 と判 定 基 準
小数の乗 法の学 習段 階を判 定 する調 査 問題は以 下であ る。
調 査 問 題は, F iscb bein ら(1 98 5), 日数 教 研 究部 小 学 校 部 会 (19 91), 現 行の教 科 書な ど を参 考に作 成し た。
調査 問 題は, 整数の乗法の文章 題, 小 数の乗 法の文 章 題,
乗 法の性 質, か ら成り立っ。 整 数の乗 法の問題は, 既 習事 項
であ る整 数の乗 法の学 習を調べるもの であ る。 調 査問 題は,
計算 結 果は求めず, 演算 決 定のみ行う。 実 際の調査 問題には 演算 決 定が容 易にな ら ないよ う, 順 不 同で乗 法以外に加法,
滅法, 除法が数 問含ま れて いる。 な お演 算決 定にお け る乗 法
に関 するミ スコ ンセプシ ョ ンの影 響を考 慮して, 補 足 的に
「乗 法の性 質」 に関 する問題も行う。 「 乗 法の性 質」 に関す る 問題は, 正しいものを選 択 する もの であ る。
・整 数の乗 法
(1) み か ん 1 kg の値 段は1 5 00 円です。 3 kg の値段はいく らですか。 (1 50 0 ×3)
(2) 大 豆1 こ の重さ は3.25g です。 1 5 こ の重さ は ど れ だ け ですか。 (3.2 5×1 5)
・小 数の乗 法
(1) ガソリ ン1 リッ トルであ る車は1 4 k m 走り ます。 ガソ
リン3.70 リッ トルでは何km 走り ますか。 (1 4×3 .7 0)
‑ 3 0 ‑
小 数の乗 法の学 習を促 す 指 導
(2) ケ ー キ1 kg に対して, 砂糖が15g必要です。 ケ ー キ1.25 k g では どれ だ け必要ですか。 (15 ×1 .25)
(3) あずき 1 kg の値 段は1 5 00 0円です。 0.6 5kgの値 段は ど れ だ けですか。 (1 50 0 0×0.65)
(4) 1 5 kg の石 鹸を作るの に 1 kg の洗 剤を使います。 0.7 5 kg の洗 剤か ら石 鹸は ど れ だ け作れ ますか。 (1 5×0.7 5)
・ 乗 法の性 質
(1) か け る数は, いっ
で
も整 数でな け れ ば な ら ない。(2) か け算は, あ る大き さの何倍か し た大き さ を求め る と きに使う計 算であ る。
(3) か け算は, あ る大き さ をいくつか集め た大 きさ を求め る と きに使う計 算であ る。
(4) か け算の結果は, いっでも大き く な る。
小 数の乗 法に関する学 習 段 階の判定 基準は 以下の通り とす る。
匝 ]
‑ 整 数の乗 法の文章題を 2 間とも 誤 答して いる。画
‑ 小 数の乗 法の文垂
題 を4間 中3 間以 上 誤 答し ている。
例. 14 ×3.7 0を3.70 ÷14 とする。
直垂司
‑ 小 数の乗 法の文章 題に おいて与え ら れ た数 値 を甲
い て演 算 決 定して いない. 「か け算の結 果はいっ でも大きくな る」 あ るい は「か け る数はいっ でも 整 数でなけれ ば な ら ない」 を 選 択して いる。
例. 1 5×1.2 5 を 1 5×5/4 とする。
例. 乗 数 を必 ず 整 数にする。
圏
‑ 小 数の乗 法の文 章 題を 4 間 中1問 以 上 誤 答して いる。
[頭重司
‑ 小 数の乗 法の文 章 題を正しい順 序で4問 正 答している。
3 .
小 数
の乗 法
に関 す る 授 業
の分 析
まず 授業A と授 業B の特徴を示 す。 授業の特徴は, 教 師へ
の インタビュ ー に基づ い てま と め ら れ た もの であ る。 プレテ ス トとポス ト テス ト の結 果を
分
析し, 学習 段 階が小 数の奏 法の指 導によっ てどのよ うに移 行し た か を示 す。
授 業A と授 業B に共通 する指 導の特 徴は次のよ うであ る。 授 業のね らいは, 乗 法の意 味の拡 張であ る。 授業の導入にお
い て, リボ ンの長さ と その値 段に関する文 章 題を用いた。 授 業の重点は, 結 果を求め ること より も, 多 様な解 決を検 討 す ることであ る。 単 元 構 成は, 指 導 内容に即して1 つの文章 題を 2, 3 時 間ご とに扱っ て いる。 全体の授 業 時 間は計 算練 習な ども含め る と 8 時 間前 後であ る。
3.1
軽 業
A に関 す
る分 析
(1) 授 業A の特徴指 導の重点は, 様々な計 算の仕方を相 互に関係づけ た り,
整 数の乗 法で学 習し たこと と関係づけ た り して, 1 つ の事柄 と してま と め ることであ る。 単 元の導 入におい て「1 m の長 さの値段が1 2 0円のリボ ンが あ り ます。 1 .2 m ではいくらでしょ
う。」 という文章 題が取り上 げら れ た。 児 童は, 値 段を求め る計 算の仕方と して, 乗 数を10倍す る方 法, 5 倍す る方 法,
m をc m に直 す方 法な ど を示し た。 そ れ らの計 算の仕 方によ る結 果がいずれ も ー 致 すること か ら, こ の文 章題を解 くた め
には1 2 0 ×1.2 と してもよい こと が認め ら れ た。
乗 数を1 0倍す る方 法と 5 倍 する方 法は, ど ち ら も乗 数を 整 数に直 すこと と関係づ け ら れ る。 乗 数を整数に直すこと は, 小 数×整 数の場 合と も関 係づ け ら れ る。 こ のよ う な考え は今 後 分数の乗 法の計算をする と きにも役立っもの であ る。 教 師 はそれ ぞ れの仕 方を関 係づ け ること を児 童が意 識でき る よ う に配慮して いた。
(2) 学習 段 階の移 行
プレテス トとポス ト テス ト によ る授業A の学 習段 階の分 布 は表‑2 のよ うであ る。
表 ‑ 2 授 業A の学 習 段 階の分 布
・ プレテスト. ・ポスト テスト
・段 階0 2 0R%( 8人) . 8 % ( 3 人) 段 階 ① 4 3 % (1 7人) 28 % (1 1 人) 段 階 ② 3% ( 1人) 3 % ( 1人) 段 階③ 2 5% (1 0人) 3 3 % (1 3人) 段 階④ 1 0% ( 4人) 3 0 % (1 2人)
授 業A の学 習 段 階の分布につい て, プレテス ト におい て,
段 階0 の児 童20 % であ る。 一方ポス ト テス ト では, 段 階 ③ と段 階 ④の児 童が合わ せて63 % にな り, 指 導の効 果が み ら れ る が, 依 然 段 階0 の児 童が 8 % , 段 階 ①の児 童が2 8% で
あ る。
授 業A にお け る各 児 童の学 習 段 階の移 行を示し たものが 表‑3 であ る。
表 ‑ 3 授 業A の学習 段 階の移 行
ポ ス ト テ ス ト
段 階0 段 階 ① 段 階(卦 段 階 ③ 段 階④
プ レ チ ス 卜
段 階0( 8 人) 段 階由(1 7人) ‑ 0 段 階 ②( 1 人) 0 0
.‑H.:.: i.:‑: i.:.> :.> ニ.:.> :.‑:i.:x.:} :.: <考: < ^ 段 階 ③(1 0 人). 0 2. 0 ・.'} > 1‑../.:.V/ :.:> l.:i.} :i.‑> =.‑:‑.::.::) :> :二 段 階④( 4 人) 0 0 0 0
・':::<::守.:;主‑.‑:.::.i :.汁:‑‑.:::i.:}.ヨi :‑.i :: 表‑3 におい て, 縦が プレテス ト の段 階, 槙がポ ス ト テス ト の段 階であ る。 例え ば, 表 中で縦の段 階①, 槙の段 階①の 8 は, プレテ ス ト, ポス ト テス トとも段 階 ①であっ た児 童 が 8 人いたこと を示 す。 縦の段 階①, 横の段 階③の7 は,
プレテス トが段 階①, ポスト テストが段 階③に移 行し た児 童 が 7 人いたこと を示す。
プレテス トと ポス ト テストとの学習 段 階の移行に関して,