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離れ合いつつ、ともに生きるチンパンジー

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Academic year: 2021

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FIELDPLUS 2015 07 no.14

チンパンジーは集団を作って暮らす。

けれども、集団のメンバーだからといって以心伝心の仲でもない。

集団によっても、その中での個体間の関係は多様だ。

チンパンジーとして他者とともに生きるには、思いのほか努力が必要なのだ。

ありようはそこに棲む者たちがどう行動す るかによって形作られていく。さらに、個 体数やその構成もチンパンジーの行動、ひ いては社会のありように影響を及ぼす。現 在マハレで主要な研究対象となっている集 団の構成頭数は、時期によって100頭以上 から50~60頭まで大きく変動してきた。

50年という歳月を経た今、社会変容の実 態を探求できるようになりつつある。

一緒に暮らしていても コミュニケーションは難しい

 チンパンジーが集団で暮らしていると 言っても、仲間同士が以心伝心の仲という チンパンジーと集団

 チンパンジー(Pan troglodytes)はア フリカの赤道周辺地帯にのみ生息する。彼 らは、ヒトと最も近縁な大型類人猿でもあ る。すなわち、進化の過程でヒトの系統が 最後に種として分岐したのがチンパンジー の系統なのだ。

 彼らは単位集団と呼ばれる一定のメン バーからなる集団を形成するが、常に全 成員が一緒にいるわけではなく、くっつい たり離れたりを繰り返す「離合集散」と呼 ばれる生活を送っている。いつ誰が誰とど こで会うのか予測することはできない。ま た、互いに会わない時間も様々で、数分か ら数時間、数日、場合によっては月をまた ぐようなこともある。しかし、くっついた り離れたりを繰り返しながら、単位集団を 形成・維持しているのである。一般にオス は生まれ育った集団と場所に留まるが、メ スは性的に成熟する頃に別の集団へと移籍 する。移籍したメスは、そこで新しいメン バーと新たな関係を築かねばならない。

 私が調査をしているタンザニアのマハレ 山塊国立公園は、今年で50年を迎える世 界で2番目に古いチンパンジー調査地であ る(写真1)。チンパンジーの行動は多様で あり、社会のありようも変動する。社会の

わけではない。むしろ、具体的な関わりは 手探りですすむ。

 今年の調査で面白い場面を見た。1月14 日午前、シーザーというオトナのオスが地 面に横になって休んでおり、近くにクー ピーという若いメスが座っていた(写真 2)。クーピーはちらちらとシーザーの方 を見るが、シーザーは振り向きもしない。

シーザーがゆっくり起き上がると、クー ピーは即座にシーザーの前に回り込んだ。

しかし、そこでなんだかへんてこな状況に なってしまった。クーピーがシーザーの前 に来て左手を高く上げたので、私はてっき りクーピーが「対角毛づくろい(写真3)」

をしようとシーザーに催促しているのだと 思った。対角毛づくろいは互いに向き合い、

シンメトリカルな身体の型になる毛づくろ いである。手を上げるタイミングがほとん ど同時である点も含め、チンパンジーに とって特別な意味がありそうだ。いずれに

離れ合いつつ、ともに生きるチンパンジー

伊藤詞子

いとう のりこ / 京都大学野生動物研究センター研究員、AA 研共同研究員

写真1 チンパンジーはタンガニーカ湖(手前)とマハレ山塊(奧)の間に発達した森林に棲んでいる。

写真2 横になって休むシーザーと、待機(?)しているクーピー。

写真3 右の2頭が互いに同じ 側の手を頭上に掲げ、同時に 互いを毛づくろいしている。

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FIELDPLUS 2015 07 no.14 してもチンパンジーがやろうとしてやって

いる、パターン化された交渉の型である。

 シーザーも私と同様に考えたようで、左 手を上げて対角毛づくろいに入る準備態勢 を取った。つまり、クーピーが腰を降ろせ ば、対角毛づくろいに入れる態勢が整って いたのである(写真4)。しかし、クーピー は右手も上げそうな、微妙な動きを見せて いた。二足でヨタヨタ、両手もふらふら、

という変な踊りを踊っているような状態に なってしまったのである。クーピーは、シー ザーの手が高々と上がった時点でこの「変 な踊り」をやめ、シーザーに背を向けて座 ることで自分の背中の毛づくろいを催促し、

それにすぐに気づいたシーザーが掲げた左 手を降ろし、クーピーはめでたく(?)背 中を毛づくろいしてもらった(写真5)。

 最終的に決着はついたものの、そこに至 るプロセスはなんとも不格好である。「今 ここで一緒に何かをする」という準備態勢 に両者とも入っていたが、「変な踊り」の くだりでは「何をするのか」は宙に浮いて いたのである。クーピーは、対角毛づくろ いをしようと思ったけど急に思い直したの かもしれない。本当は脇の下あたりを普通 に毛づくろいしてもらいたかっただけなの に、シーザーが手を上げてしまいこのまま だと対角毛づくろいすることになってしま うので、どうしたものかと逡巡していたの かもしれない。そもそもどうしたいのかあ

まりはっきりしていなかったのかもしれな い。クーピーのみぞ知る、である。それで も最終的には「クーピーがシーザーに背中 を毛づくろいしてもらう」という落としど ころに落ち着いたわけである。

離れ合い、出会う社会

 チンパンジーの社会的交渉は多様で、毛 づくろい以外にもいろんなことをする。例 えば、遊びはあらゆる年齢層でおこなわ れるし、遊び方もレスリング、追いかけっ こ、くすぐり合い、と多様である。食物を 分け合うこともあれば、喧嘩もする。しか し、個々の場面を見ていくと、「せっかく 出会ったのだから何かするかな」と思って 見ていても、何も起きないことの方が多い。

さらによく見てみると、チンパンジーが移 動の途中で前方に誰かがいるのを見つける と、立ち止まったり、座ったり、自分自身 を毛づくろいするなどして、一旦留まるこ とがある。この時、相手もすぐにそれまで していたことをやめて近づいてきたりしな い。こうして次にどうなるのかわからない ような間が空くのだ。特に久しぶりに再会 したオトナ同士、ましてや一対一の場合に は、そうした間が空くことがある。その後 に、どちらかが近づいて何かが始まること もあるし、何事も無く離れ合うこともある。

 何もしないのだったら初めから移動の方 向を変えてしまえばいいし、毛づくろいを

したいのだったらすぐ行けば良いものを、

と思ってしまうのだが、そう簡単なことで はなく、互いに無関心だから何も起きな かったということでもないようなのだ。自 分に置き換えて考えてみると、そういえば 似たようなことをやっている。誰かと話し ている最中の人にいきなり近づいていって 割って入ったりはしないし、昼寝中の知り 合いを見つけて急に話しかけたりもしない。

ちょっと様子を見ている。「ちょっと」の程 度は相手が誰なのかとか、話の内容を含め 相手が何をしているかにも左右される。チ ンパンジーの場合も似た状況で、そうした ことはともに暮らす相手への配慮のように 思いたくなる。しかし、そもそも具体的な 関わりを「今、ここ」に新たに創り出すには、

互いの協力が不可欠だ。コミュニケーショ ンのもつ、共同作業という側面から捉え直 す必要があるだろう。

 チンパンジー社会において特徴的なの は、彼らが離れ合うという選択肢を、その 集団編成の根幹にもっている点である。冒 頭で触れた離合集散という特徴である。離 れることが可能なのは、相手の「ついて 行かない」という行為選択と相まって可 能となる。したがって、一方的に離れる というできごとではなく、互いに離れ合う というできごとなのだ。いずれにせよ、相 手と関わろうとしてうまくいかなかった り、怒りを買ったりしても、ひとまずその 場を離れて過ごすことができるのだ。この 離れ合いは、次の出会いへと繋がる。そ して、次の出会いにおいてまた新たな困 難に直面するかもしれないが、誰かと遊 んだり、毛づくろいをしたり、一緒にも のを食べたりといった、新たな関わりへ と繋がる可能性もあるのだ。もし、共通 の祖先をもつヒトとチンパンジーの社会が、

ともにその系統の中で離れ合うことを含む 社会性をその集団形成の基礎としていたと すれば、いつでも電波で繋がってしまう現 代の私たちの生き方には、折に触れてその 繋がりを断ってくれるような装置も同時に 必要なのかもしれない。

写真4 左手を上げて対角毛 づくろい準備状態のシーザー

(奧)と、一応左手を高く上げ ているが、右手も中途半端に 上げて、なぜか二足立ちのま まヨタヨタとシーザーの前を 動くクーピー(手前)。

写真5 クーピー(手前)

の背中を毛づくろいす るシーザー(奧)。

タ ン ザ ニ ア 連 合 共 和 国 マハレ山塊国立公園

赤道

参照

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