神奈川大学大学院経営学研究科 F研究年報』第13号 2009年3月 157
■ 修士論文要旨
日本 における移転価格税制
一 独立企業間価格算定方法に焦点 をあてて ‑
Transferpnclngtaxationinjapan
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神奈川大学大学院 経営学研究科 国際経営専攻 博士前期課程
松 浦 弘 昌
MATSUURA,Hiromasa
■キーワー ド
移転価格税制、独立企業間価格、国外関連者、推定規定、シークレッ ト・コンパ ラブル
日本 における移転価格税制は、昭和
61 ( 1 986 )
年 に創設 された。その背景には、世界経済のグロー バル化の動 きに伴い、 日本企業が税率の低 い国に 生産 ・販売拠点 を移 し、悪意的かつ非合法的な租 税 回避 を図 るといった動 きが多発 し、国家の課税 権 が不当に侵害 され る事態が多発 していたことがあげ られ る。 したがって、移転価格税制の 目的は、
海外の特殊関連企業 との取引価格 を通 じた所得移 転 に対処 し、国家の正当な課税権 を確保す ること により、適正かつ公平 な国際課税の実現 を図 るこ とにある。
しか し、移転価格税制の適用にあたって、その 対象が多国籍企業間の複雑 な国際取引であるがゆ えに、様 々な問題点がある。そのなかで特筆すべ きことは、租税回避の意図がない企業であって も、
所得の移転有 りと判断 され ると課税 されて しまう ことである。 これは、企業 と課税当局 との見解の 不一致であるケースが多い ことか ら問題 となって い る。 また、課税 当局は、所得移転額の数値 を独 立企業間価格の算定によって把握す ることになる。
しか し一般 的に、「移転価格の算定 は厳密 な科学 ではない」 とい う言葉に表 され る通 り、移転価格 の算定は様 々な要素 を考慮 しなければな らないた め、その算定方法 は複雑かつ難解な問題 となって いる。そのため、 この独立企業間価格 をめ ぐる企 業側 と課税 当局側 との見解の不一致は、多々生 じ ているのが現状 となっている。 そこで、 これ らの 事実 を整理す ると、主 に3つの問題点が挙 げ られ た。
1つ 目は、取 引価格決定上の留意点 な どの企業 への影響や適正 な国際課税 を実現す るための国際 機 関や課税当局の役割などの移転価格 に係 る本質 的諸問題 である。 これ につ いては、第1章 で、移 転価格の仕組みについて考察す るとともに、企業 と課税 当局双方の影響や思惑 などを検討 した。 ま た、国際機関が策定 し、全世界 に公表 している解 釈指針の 目的や役割 を明 らかにす ることで、その 解釈指針 と各国課税 当局 と企業 とい う3者 の関係 性 について論 じた。
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つ 目は、推定規 定の問題 である。 これ につい158 神 奈川大学大学院経営学研究科 F研究年報』 第13号 2009年3月
て は、第2章 で、 日本 における移転価格税制の基 礎 的な理論 を、立法趣 旨と根拠条文 に基づ きなが ら、解釈 ・検討 を行 った。 さらに価格算定方法 を 定 めた原則規定 で ある租税特別措置法66条の4第 2項 が一定の要件 に よ り適用 で きない場合 の特例 規 定 で あ る同条 第7項 に定 め る推 定規 定 と、第7 項 と同 じ適 用要 件で あ る同条第9項 に定 め る質問 検査権 につ いて立法趣 旨によ りなが ら、文理解釈 によ り考察 を行い、 その適用順序の あ り方 と、第 9項 に付随す るシーク レッ ト・コンパ ラブルの問 題 を論 じてい る。
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つ めは、独立企 業間価格算定方法 にお ける問 題 で ある。 これ につ いては、第3
章 で、棚卸 資産 売買取 引の場合 で、比較対象 を要す る基本三法に 焦点 を置 きつつ、独立企業間価格の各算定方法の 特徴や問題 について考察 した。 また、価格算定方 法の選定 と比較対象取引の選定における問題点 に ついて整理 し、比較対象取 引の有無 によって変化 す る独立企業間価格算定方法の手法の選定の流れ につ いて体系化す ると同時に、全体的な問題点 も 明 らかに し、考察 した。そ して、 これ ら
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つの問題意識 に基づ いて、 そ れ ぞれ整理 しなが ら得 られ た知見や考察 しなが ら 得 た結論 を、税務訴訟の判例 にその根拠 を求 め る 役割 を果 たす のが第4章で ある。具体 的には、移 転価格税制 に関す る初 めての判例である松 山地裁 平成16年4月14日判決 とシーク レッ ト・コ ンパ ラ ブルに関す る初の司法判断など重要 な論点 を含ん だ東京地裁平成19年12月
7日判 決 の2つ の判例 を 素材 として検討 を行い、論 じている。本論文で特 に主張 した結論 は、主 にまとめると 2つ で あ る。1つ 目は、推 定規 定 の適 用順 序 に関 して、課税 当局の判断によるのではな く、各規 定 の趣 旨の解釈 に基づ き、原則 で ある第2項 が適 用 で きない場合 は、第9項 を用 いての第2項の適 用 を試み ること、 それで も適用で きない場合に最後 の手段 と して第
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項 を用 い るべ きではないか との 結論 で あ る。2
つ 目は、見解の不一致 の問題 に関 して、企業側 は積極 的かつ真筆 な調査協力 と事前 回避 行動 を積極 的に とること、課税当局側 は価格算定方法 に収致 され る各種問題点の暖味な規 定 に つ いて法令化や通達 による明文 化 を行 い、なおか つ情報 開示 も適切 に行い、透明性 ある課税執行 を すべ きことで ある。
また、2つの判例研究 か ら主張立証責任の問題 に関 して、民事訴訟上の通説的理論である法律要 件分類説が、税務訴訟においては修正 され、個別 具体説 に移行 している前兆 があることを明 らかに した。 この個別具体説 は今後、租税分野 における 有 力 な通説 になることが予想 され、今後の税務訴 訟全般 の動向が注 目され るところである。