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氏名 アグネシィカ・バナス

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Academic year: 2022

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ヒト脂肪組織に由来する間葉系幹細胞の 成熟肝細胞への分化誘導法の確立と治療への応用

氏名 アグネシィカ・バナス

【研究目的】

末期の肝不全に陥った患者を救う唯一の方法は肝移 植である。しかし慢性のドナー不足や高いコストなどの 問題から、肝移植に代わる新たな治療法の開発が急務と なっている。そこで脂肪組織に由来するヒト間葉系幹細 胞(AT-MSCs)、あるいはAT-MSCsから分化誘導したヒ ト肝細胞様細胞を再生医療へ応用することを最終目標と し研究を重ねた。本研究ではAT-MSCsから肝細胞を誘導 する方法の最適化を実施し、生成される細胞の肝機能な どの諸性質や、移植細胞としての安全性について、in

vitroでの培養実験や、肝障害実験動物モデルにおける有

効性などの観点から検討した。

【研究の背景】

近年、様々な臓器障害の修復に幹細胞を用いた再生医 療の応用への期待が高まっている。国立がんセンター研 究所がん転移研究室においては、マウス胚性幹細胞(ES 細胞)から複数の肝機能を有した肝細胞に分化誘導する 技術が開発され、さらにマウスに続いて、霊長類カニク イザルの ES 細胞への応用が検討された。しかし肝細胞 への分化誘導効率はわずか数%であり、肝臓のような大 型の臓器を対象とした再生医療を構築する上で臨床応用 の実現は困難であった。そこでES細胞他に、生体の様々 な組織に存在する間葉系幹細胞の分化万能性に注目した。

間葉系幹細胞は、本来、中胚葉系の細胞であるため、培 養条件を変えることで、骨、軟骨そして脂肪の3種類の 細胞へと分化することが知られている。このような分化 可塑性を有する間葉系幹細胞を用いた自家移植の方法は、

ES細胞等に比較して、倫理的な問題や拒絶反応の危険性 を回避する利点がある。そこで既に ES 細胞で確立して いた肝細胞分化誘導技術を適用し、臨床応用の可能性が 高いヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞 AT-MSCs から、肝 細胞へと分化誘導する方法の開発に着手した。

【研究方法】

本研究は主に国立がんセンター研究所がん転移研究 室で実施され、早稲田大学の加藤尚志教授らとの共同研 究として展開された。ヒト AT-MSCs は、国立国際医療 センターの消化器外科のグループとの共同研究により、

がん患者をドナーとする腹部の皮下脂肪組織から分離・

精製し培養した。倫理員会の承認と各組織の委員会承認 を得た上、ヒト細胞を採取する際には提供者の同意を得 て進められた。

AT-MSCs培養液は、DMEM/F12混合培地にウシ胎仔 血清(FBS)を10%添加したものであり、継代等の培養

法は既に確立された方法に従った。CD105陽性細胞の純 化は、抗CD105抗体を用いたマグネティックビーズ法に て実施した。

肝細胞への分化誘導はアクチビンA、肝細胞増殖因子

(HGF)、維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor;

FGF)-1、FGF-4、オンコスタチンM、デキサメタゾン などの因子を段階的に加えることで達成した。

PCR、RT-PCR、マイクロアレイ解析、ウエスタンブ ロット法、アルブミン測定(ELISA法)など分子生物学 的、生化学的解析や免疫染色や形態学的観察等の細胞生 物学的解析は、それぞれ確立された方法に準じて行った。

また、分化誘導した細胞のチトクローム P450 の活性

(CYP活性)は、共同研究先の三菱田辺製薬研究所薬物 動態グループにより測定された。

動物の肝障害マウスモデルは、四塩化炭素をマウス腹 腔内に投与することで作成し、末梢血の様々な生化学的 検査値の変化や、肝臓の病理組織的検討によって、肝障 害の程度を総合的に判断した。マウスの尾静脈から細胞 移植を行った。動物実験は、所属する倫理委員会の承認 のもとに実施され、動物の苦痛が最小限になるような工 夫に留意した。

【結果】

1)AT-MSCsの分化能の検証と精製

AT-MSCs の可塑性と、その培養、継代による細胞表 面マーカーの変化や分化能維持の有無を検討した結果、

フローサイトメトリーによって測定したCD抗原のうち、

CD105の減少が、最も可塑性の消失や細胞形態の不均一 性に係ることが判明した。そこで6例のヒトドナーより マグネティックビーズ法によりCD105分画を精製し、年 齢や細胞の継代数に左右されないAT-MSCs の分画を得 る方法を確立した。

2)分化誘導実験と肝臓特異的機能の解析

複数の増殖因子を添加による当初の分化誘導のプロ セスには、およそ35日間を要した。この細胞処理によっ てAT-MSCs の未分化な形態は、上皮様の細胞へと変化 した。さらにその核小体や細胞質の小器官の発達の度合 い、細胞と細胞との接着や、細胞間に形成された擬胆管 様構造等から、肝細胞様に変化していることを確認した。

RT-PCRの解析から、この分化細胞には、mRNAレベル で多くの肝細胞特異的遺伝子を発現していることが明ら かになった。さらに、分化誘導した AT-MSCs には、肝 細胞のマーカーとなる諸遺伝子の発現が認められ、アル ブミン産生、低密度リポタンパク質の取り込み、アンモ

(2)

ニアの解毒、尿素の合成などの肝細胞に類似した機能を 有することも確認した。この細胞は肝臓の機能として重 要な薬物代謝の機能である多様なチトクローム P450

(CYP)基礎代謝活性を有していることも明らかにした。

特に、CYP2C9、CYP2B6などは、対照としたヒト初代 培養肝細胞のそれと同等であり、CYP1A1、2C9、2D6、 3A4などの活性は1/5から1/10であった。

3)肝細胞分化誘導法の改良

肝機能を有する細胞の分化誘導には35 日以上を有す る。実際の臨床応用を考えた場合、この所要期間の短縮 は 改 善 す る 必 要 が あ っ た 。 そ こ で 、 よ り 短 期 間 で AT-MSCs から肝細胞を分化誘導する方法の検討を実施 した。まず、中胚葉から内胚葉への分化を促進するため の方法を模索した結果、アクチビンAを用いることによ って肝特異的転写因子HNF4等の発現が早期から誘導さ れることを見出した。その上、従来発見し培養に添加し ていた諸増殖因子を段階的に添加した結果、期間が大幅 に短縮され、培養開始2週間で未分化なAT-MSCsのほ ぼ 100%の細胞をアルブミン陽性細胞に変化させること が可能となった。これらの分化細胞を詳細に検討した結 果、様々な肝機能と、肝臓特異的遺伝子を発現している ことを確認した。

4)肝障害モデル動物への移植によるAT-MSCsの検討 AT-MSCsより分化させたヒト肝細胞様細胞を、四塩化 炭素の投与によって肝障害を惹起させた重症複合免疫不 全症(SCID)マウスに移植した。組織染色等の解析から、

移植肝細胞は、24時間後には肝臓に生着しており、他の 肝細胞の索状構造に入り込む形で存在した。生着細胞数 はおよそ 105個であった。この肝細胞移植によって、ア ルブミンの総量、アンモニア値、AST、ALT値などは正 常値近くまで回復しことが明らかとなった。また細胞移 植を受けたマウスには重篤な副作用の発症や移植細胞に よる腫瘍化は観察されなかった。組織像を検討した結果、

AT-MSCs由来の肝細胞を移植した群では、肝細胞の壊死 そのものが有意に抑制されていることも判明した。本実 験では、AT-MSCs由来の肝細胞と、同じドナーの未分化 AT-MSCsを用いた。未分化なAT-MSCsは、in vitroでは 何ら肝臓の機能も示さないはずが、移植した場合、肝障 害を回復させる能力があることが明らかとなった。血清 学的な回復度や病理組織学的な障害の抑制度について解 析したところ、分化した肝機能を持つ細胞の移植群に比 較し、劣ることは無かった。プロテインアレイ等の解析 により、未分化なAT-MSCsの持つ肝疾患治癒能力は、細 胞が産生する様々な種類のサイトカイン、ケモカイン等 の因子による栄養作用である可能性が、示唆された。

【考察】

SCs の可塑性の中に、内胚葉である肝細胞への 分化能力を実

組織に求めた場合、骨髄の間 葉

細胞 の

【結論】

究 で 開 発 し た 方 法 に よ っ て 、2 週 間 程 度 で AT

、本研究の業績の一部は、International Federation of

AT-M

証することができた。肝細胞様に分化する 能力をもつ細胞がヒト脂肪組織中に間葉系幹細胞として 存在する科学的根拠を示したことは、体性幹細胞の可塑 性に関する研究にとって大きな基礎情報を与えた。さら に、TGFシグナルを細胞内に伝達する分子CD105が、

AT-MSCs の細胞劣化や継代数の増加に伴って減少する

ことを見出した。この事実は幹細胞としての AT-MSCs の 性 質 の 検 討 の た め に 有 用 な 指 標 と な る 。 さ ら に AT-MSCsより分化した肝細胞の移植実験では、治療有効 性と安全性を確認した。この結果は、将来の再生医療の 細胞資源として、脂肪組織中の間葉系幹細胞が有用な候 補であることを示した。

ヒト間葉系幹細胞を脂肪

系幹細胞に比較して100倍程度もの細胞数が得られ、

資源として非常に豊富である。本研究が確立した手法に おいて、AT-MSCsが肝細胞へ分化する可塑性や移植にお ける安全性が検証され、さらには未分化な間葉系幹細胞 そのものにも肝障害改善効果があるなど、肝臓疾患を対 象として大変有望な再生医療となる可能性が示された。

今後は、本研究で確認されたサイトカイン産生などの面 から、ヒト間葉系幹細胞の肝再生能をより詳細に明らか にするとともに、移植医療実現へ向けて、アルコール性 肝硬変モデル、脂肪肝モデル、劇症肝炎モデル等の様々 な肝疾患モデル動物で非臨床試験を進めるために必要な 科学的概念の検証(POC)を得ることが出来た。

本研究ではAT-MSCsからin vitroで肝分化した 機能解析や、in vivoモデルにおける細胞移植の安全性 の検討を進めたが、肝臓や骨髄に対する急性毒性や長期 観察での造腫瘍性は認めなかった。分化肝細胞とヒト正 常肝細胞のそれぞれの遺伝子発現や遺伝子のメチル化の 状態を網羅的に比較し、エピジェネティックな遺伝子発 現変化等に注目した科学的検討も加えることが可能とな った。AT-MSCs由来肝細胞が成人肝細胞の表現型の多く を示すことや、間葉系幹細胞が通常の分化経路を経ず分 化転換により肝細胞に分化していることも明らかとなっ た。

本 研

-MSCs をヒト成熟肝細胞と同等の細胞に分化誘導さ

せることが可能となった。さらにin vivoマウスモデル実 験によって、AT-MSCs由来細胞移植による肝疾患治療の 可能性が示され、ヒト成人における肝炎ウイルスなどに よる重篤な肝不全や、小児の胆道閉鎖症などに対する画 期的な新規治療法の確立への道を開くものと期待できる。

さらに、新規薬物の毒性試験、薬物代謝試験、安全性試 験などにおいて、ヒトから採取される肝細胞に代わり、

肝機能を有するAT-MSCs 由来細胞を被検細胞として用 いることことが可能となり、その科学的、経済的効果は 大である。本研究では、さらに興味深い実験的事実が発 見された。すなわち分化誘導した肝細胞と同様に、移植 された未分化 AT-MSCs そのものに肝疾患治癒能力を見 出したことである。このことは今後の応用研究に重要な 知見である。

Adipose Therapeutics and Science (IFATS;

Indianapolis、 USA、 October 2007)に お い て Pre-Doctoral Student Awardを受賞した。

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