(総 説)
化学発がんの非遺伝毒性的メカニズムの解明に関する最近の動向
山岡聖典,花元克巳,稲 恭宏1 ) ,片岡隆浩
2), 川辺 睦2 ) ,佐野正展2 ) ,氏福亜矢子
2)要 約
本総説は,筆者 らが進めている 「低線量放射線の健康への影響 と医療‑の応用」 に関す る研究に資するために調査 した,化学発がんの非遺伝毒性的メカニズムの解明に関する最 近の動向の概要についてまとめた ものである。即 ち,非遺伝毒性的発がんにおける細胞増 殖,シ トクロムP450誘導,酸化的ス トレス,お よび遺伝子発現のそれぞれの役割,並 び に量的な応答性 について言及 した。 また,後成的発がんにおけるアポ トーシス,お よびギ ャップ結合 による情報伝達のそれぞれの役割 についても触れた。その結果,非遺伝毒性的 な発がん物質の作用の様式 とメカニズムやこれによる後戊的な影響 などについては解明さ れつつあ り,特 に, これ らの発がん物質がゲノム
DNA
に対 し直接的な相互作用,突然変 異,修飾などを行 う発がん物質 とは機能的に異 なった作用 をすることが明 らかになった。また, これ らは放射線発がんなど低線量放射線の健康への影響な どについて研究する上で, 重要な知見 となっていることもわかった。
キ‑ワー ド :化学発がん,非遺伝毒性,後成説,酸化的ス トレス,ギャップ結合
緒 言
化学物質 と発がんの関係は,げっ歯類 を用いた研 究によってかな り明 らかにされて きた。即ち,がん の進行には多段階のプロセスがあ り,細胞や分子の レベルにおいて様々な化学的作用 により,がんが誘 発 され る可能性 が わか って きた。Weisburgerや Williamsは,がんを誘発す る化学 的物理的作用 を
「遺伝毒性的(genotoxic)」と「後成的(epigenetic)」 とい う用語 で表 した1)0「後成的」 とい う用語 はあ る意味で 「非遺伝毒性 的 (nongenotoxic)」 に置 き 変えられ,化学発がん物質の分類 はしば しば遺伝毒 性 または非遺伝毒性の どちらかに分類 された。
表1に示す ように,遺伝毒性 と非遺伝毒性の定義 に従い,おおまかな属性 を決めることがで きる。遺 伝毒性 に分類 される発がん物質の作用 としては直接
DNA
を損傷 させ結果 として突然変異 を生 じさせた り,細胞内で起 こるい くつかの活性化反応 にも関与 している。遺伝毒性 に係 る発がんにはしきい値はな い と仮定で きる。表2に遺伝毒性 に分類 される肝臓岡山大学医学部保健学科放射線技術科学専攻 1)電力中央研究所低線量放射線研究センター 2)岡山大学大学院保健学研究科保健学専攻修士課程
の発がん物質の例 を示す。 これ らの多 くは投与条件 に依存するが,真核細胞 と原核細胞 に突然変異 を生 じさせ, しば しばがん遺伝子 を刺激する。 また,こ れ らは標的器官において ,しば しば新陳代謝やその 活性化 に関与 している。
.他方,近年
DNA
と直接関係 しない反応 により作 用する非遺伝毒性 に分類 される発がん性物質が,い くつか同定 されている。表2に非遺伝毒性 に分類 さ れる肝臓の発がん物質の例 について も示す。 これ ら は細胞の成長や細胞死 を制御 し,腫痕の形態に関与している。 また,がん化の過程においてこれ らの正 確 な作用のメカニズムは明 らかにされてお らず,遺 伝子の発現や細胞の成長のパ ラメー タの変化が明 ら かにされているだけである。がん遺伝子 を発現す る には, しば しば非遺伝毒性的な発がん物質による長 時間の処置が必要であ り,時間の開催が生 じる。 こ れ らの多 くは後述するがん化の促進の段階に関与 し ている。
図1に示す ように,発がんの3つの段階,即ち,
開 始 (
i ni t i a t i o n)
, 促 進 (pr o mo t i o n)
, 進 行( pr o gr e s s i o n)
はい くつかの特徴 に分け られる。開始の段階では,突然変異により生 じる前腫蕩性細 胞の形態が含 まれる。 また,この段階は開始細胞の 形態に不可逆な変化 を生 じ,遺伝毒性的な過程でも ある。促進の段階には細胞分裂による増加,または アポ トーシスによる減少を通 して前腫蕩性細胞の選 択的なクロー ン増殖が含 まれる。この段階は発がん 物質の投与条件 に依存 し,腫蕩促進は可逆的であ り, 非遺伝毒性的な過程でもある。進行の段階では腫癌 になる前から腫虜 になるまでの不可逆的な変化があ
り,遺伝毒性な過程でもある。
正常細胞は,組織に細胞を供給する細胞 (幹細胞) を除いて,生体内外で限られた回数 しか分裂 しない。
がん化すれば無限増殖能を獲得するが,この無限増 殖能獲得ががん細胞の最大の特徴である。 また,正 常細胞は,他の細胞 と接触すると互いに重な り合 う ことなく,それ以上の増殖が阻害される。この際, 接触 した細胞同士の間で,双方の細胞膜を貫 く小孔 (ギャップ結合)を通 して低分子物質を直接交換 さ
表1 遺伝毒性的,非遺伝毒性的な発がん物質の生物学的 特性の比較
遺伝考性的な発がん物質 直接的に
DNA
に作用 突然変異の誘発あ り 投与反応の しきい値 なし 系統差 ・種差に非特異性 発がんの開始・進行段階に作用 不可逆的変化非過伝毒性的な発がん物質 間接 的に
DNA
に作用 突然変異の誘発 なし 投与反応の しきい値あ り 系統差 ・種差 に特異性 発がんの促進段階に作用 可逆的変化表2 遺伝毒性的,非遺伝毒性的な肝臓発がん物質の例 遺伝毒性 における例
ニ トロソア ミン
(ジエチルニ トロソア ミン
,
ジメチルニ トロソアミン) 多環の芳香族炭化水素 マイコ トキシン
(アフラ トキシンBl) 芳香族 アミン
( 2 ‑ AAF, 4 ‑
アミノビフェニル) ニ トロソ尿素(エチルニ トロソ尿素)
非池伝寿性 における例 塩素化合物
(四塩化炭素 ,クロロホルム) 有機塩素殺虫剤
(デ イール ドリン,DDT, クロデ ン)
ベルオキシゾ‑ム増殖剤 (DEHP,クロフイプレー り 他の有機塩素化合物
(TCDD,PCBs) ホルモ ン
(エス トラジオール, ジエチルスチルベストロール) 催 眠薬
(フェノバル ビタール, ナ トリウムバルビタール)
せる細胞間の連絡が行われる。がん化 した細胞は細 胞間の連絡がな くなるため,細胞間の情報伝達が遮 断される。その結果,がん細胞は正常細胞のもつ接 触増殖阻止能を喪失 し,無秩序に重な り合 った増殖 形態を特徴 とする細胞の塊 (フォーカス)を作 るの である。このように,がん細胞は周囲の細胞 と情報 伝達のできない孤立 した存在 と言える。従って,発 がんの原因は体細胞のがん遺伝子あるいはがん抑制 遺伝子が突然変異を起 こす ことによって正常な増殖 制御ができな くなることにあると考えられる。
他方,活性酸素や酸化的ス トレスにより抗酸化酵 素や各種蛋白質において遺伝子発現することか ら, 活性酸素が情報伝達に関与することが指摘で きる。
この活性酸素 (檀)は,細胞内で酸素分子の存在下, 酵素であるシ トクロムP450による代謝などを通 じ て生 じる。また,細胞の自殺 を意味するアボー トシ スに も活性酸素の関与が示唆 されている。 このア ボー トシスは細胞のがん化 と表裏一体の関係にあ り, この両者 に
♪5 3
がん抑制遺伝子が関与 している。即 ち
,♪5 3
は細胞増殖 の抑制 とアボー トシスの両 面か ら細胞集団を監視 し,異常増殖 (がん化) した 細胞の除去に働いていることが示唆 される。本給説は,以上の研究背景を踏まえ,筆者 らが進 めている 「低線量放射線の健康への影響 と医療への
遺伝毒性的な発生 (突然変異) 不可逆的変化
開始細胞の自発 的な形成の可能性
突然変異 を固定 させ るための細胞分裂の必要性 前肢蕩性細胞の形成
投与反応の特性 あ り 投与反応の しきい値 な し
非遺伝毒性的な発生 可逆的変化
遺伝子発現の変化
前腫蕩性細胞の選択的なクロー ン増殖 発がん物質の連続的曝露 によるクロー ン増殖 投与反応の特性あ り
投与反応の しきい値あ り
遺伝毒性的な発生 不可逆的変化
核型の変化 と不安定性
前腫蕩性細胞か ら腫蕩性細胞への変化 腫蕩性病変の形成 (腺腫 とがん) 図1 発がんの各段 階の生物学的特性
応用」 に関す る研究 に資す るために調査 した化学発 がんの非遺伝毒性的メカニズムの解明に関す る最近 の動向の概要について,次の内容 を中心 にまとめた ものである。即 ち,非遺伝毒性的発がんにおける細 胞増殖, シ トクロムP450誘導,酸化 的ス トレス, お よび遺伝子発現のそれぞれの役割,並 びに量的な 応答性 について言及 した。 また,後成的発がんにお けるアポ トーシス,お よびギ ャップ結合 による情報 伝達のそれぞれの役割 について も触れた。
1.非遺伝毒性的発がんにおける細胞増殖の役割 多 くの非遺伝毒性的な発がん物質が明 らかにされ て きたが, これ らによる発がんの決定的なメカニズ ムはわかっていない。 これ ら物質の多 くにみ られる 1つの共通 した作用 は標的器官 において細胞増殖 を 誘導す るこ とであ る。 この細胞増殖 は有糸分裂 と DNA合成,アポ トーシスの抑制 を通 して起 こる。
表2に示す非遺伝毒性 的な発がん物質によって引 き起 こされる細胞 における反応 としては,細胞受容 体 との相互作用,成長要因の調節,細胞の分裂,ア ポ トーシスのそれぞれが抑制 されることが挙 げ られ る2)。 また,細胞増殖 の誘導 は有糸分裂のメカニズ ムを通 じての作用 と細胞死へ と導 く作用 とに分け ら れる3)。例 えば, クロロホルムはマウス肝臓 のネク ローシス (壊死) を誘導 し,がん化する。 また, フ ェノバ ルビタールは細胞のネクローシスなどを増や さない。受容体 を介 した変化 は部分的には報告 され ているが,有糸分裂やDNA合成 による細胞増殖の メカニズムの多 くは明 らかにされていない。
複製型のDNA合成 と次の細胞分裂の増加 は発が ん過程のそれぞれの段 階に関係 し,多 くの非遺伝毒 性的な発がん物質が腫癖 を誘発す る とす るメカニズ ム として考 え られてい る (図2)3 5)0 DNA合成 の 増加 に伴 うがん誘発 に関 して
2
つの仮説が示 されて い る。 1つ は非 遺 伝 毒 性 的 な発 が ん物 質 に よる DNA合成や有糸分裂 に よる規則性 の少 ない増加 は囲 匝画
修復 アポトーシス
〇 二 二 〇 二
DNA損傷 増殖
誤修復 とな り,細胞分裂で突然変異 を誘発する とす る仮説である。即 ち,細胞分裂 によ り前腫癌か ら腫 壕 まで拡大す る細胞増殖 を通 して突然変異 を生 じる 可能性がある。 また,DNA合成や有糸分裂の誘発 は自発的な前腫蕩性細胞の選択 的なクロー ン増殖 を 起 こさせ る こ とが考 え られ る68)0
2
つ 目は,非遺 伝毒性 的な発がん物質 は前腺癌性細胞 を増殖 させ る とす る仮説である9)。 さらに腫蕩促進 は細胞再生の 誘発 に関与 している10・11)。例 えば,フェノバル ビタールな どの継続的な投与 に依存 してがん細胞 は増殖 し、
腫蕩促 進 の下 で多 くの前腫癌性 の
f o
ciが増加 して いる12・13)。 これ らの仮説 による と,開始細胞の形成 や前腰痛性細胞の クロー ン増殖が明 らかに持続 し, 発がん促進のための細胞増殖やDNA合成が始 まることになる。
興味深いことに,非遺伝毒性 的な発がん物質 によ る細胞増殖の多 くは後成的な発がん物質 による細胞 増殖 として も実証 されて きた。 まず,多 くの場合, DNA合成能がわずか に増加 し維持 された り,細胞 の個体群 (肝臓 の中間体の細胞 な ど)が増加 し維持 された りす ることが示 された,。 また,非遺伝毒性的 な発がん物質のい くつかは正常 な肝臓 でDNA合成 の一時的な増加 を起 こさせ るが,DNA合成の よ り 増加 した ものが前腫蕩性細胞で兄い出された14・15)o
前腫蕩性細胞 に見 られる非遺伝毒性的な発がん物 質による細胞分裂 として,有糸分裂の抑制効果があ る。肝細胞 におけるこの有糸分裂の抑制 は正常細胞 の反転 の現象
, i n
vivo,i nv i
iroで分裂す るため の刺激の許容範囲 にあることが特徴 としてある16・17)。ただ,非遺伝毒性 的な発がん物質に よる有糸分裂の 制御のメカニズムは不明である。例 えば, フェノバ ルビタールを継続的に投与 した後 に観察 される有糸 分 裂 の 抑 制 は , 増 加 を 変 え る 成 長 因 子
( t r a ns f o r mi nggr o wt hf a c t o r♂;TGF〟)
や成長 因子 レセプ ター (マ ンノース6
リン酸 ;TGFβ
の 摂取 を含 む) に関係 している可能性がある18)。 しか厘司
アポトーシス
≡ ≡
トーコ ≡ : E
増殖 正常細胞 (がん )開始細胞 局部的障害
図2 肝臓 における発がんの多段階説
し,種 々の成長因子が肝細胞の
DNA
合成 を刺激す ることにもなる。エ ビネフィレン,エス トロゲ ン, イ ンス リン,グルカゴンの ような他 の成長因子 は直 接,有糸分裂の成長 に対 し刺激効果 を高めることか ら, コミッ トジェ ンと名づけ られた19).肝臓の成長 抑制剤 には成長 因子であるTGFβ
やイ ンターロイ キ ン1 (Ⅰし1) な どを含 む。非遺伝毒性 的な発がん 物質 による肝細胞の分裂 にこれ らの成長因子や成長 因子 レセプターが含 まれるか どうかについては,今 後 の研 究 が 待 た れ る。 さ らに , 腫 蕩 壊 死 因 子( t u mo rn e c r o s i sf a c t o rα ・ :TGF
α)な どが肝 障 害 を促進す るが, これはこれ らがマクロファージで あるクッパー細胞 を産生す ることと関係 している。即 ち, ク ッパー細胞 は一酸化窒素 (NO)を産生 し, がん転移 を阻止 した り肝細胞の蛋 白質合成 を抑制す る作用 な どがある。
多 くの研究者 は細胞分裂の誘導 は化学発がんに欠 くことので きない要素であ り,非遺伝毒性的発がん を正確 に予言で きるとしている。他方,非遺伝毒性 的な発がん物質が細胞分裂 を高め,がんの進行の主 な役割 を果た している とい う前碇 を疑問視 している 研究者 もいる20・21)。細胞分裂の誘発 と発がんの進行 との関係 は後成約発がんにおいては明 らかだが,細 胞分裂の増加や非遺伝毒性的な発がん物質による前 腫蕩性細胞の選択的クロー ン増殖のメカニズムにつ いては正確 にはわかっていない。非遺伝毒性的な発 がん物質にさらす ことは他の細胞に も影響する し, アポ トーシスの抑制,酸化的ス トレスの誘発 な ども 充分検討 されていないためである。
2.
複成的発がんにおけるアポ トーシスの役割 アポ トーシスは,修復不可能な損傷 を受けた細胞 などが選択的に組織か ら切 り離 されるとい う正常 な 生体 防御の過程である。組織 内の細胞の数 を維持す る際 に,有糸分裂 とアポ トーシスが機能的なバ ラン ス を保つ ように現 れる。一般的に発がんは細胞 の成 長 とその死の間のバ ランスが崩れた結果である。従 って,アポ トーシスは細胞の異常な分裂増殖 に対す る細胞防御 メカニズム として考 えられる。 また,ア ポ トーシスの抑制 は生体 内の腫蕩の促進 に関与す る ことになる。発がん促進 を始めたラッ ト肝臓 におい て, フェノバル ビタールを含 む非遺伝毒性的な発が ん物質による継続的な処理 によって,病巣の数な ど が増加す る22)。 これは主 に肝臓 の病巣 においてアポ トーシスが抑制 された結果起 こる23)。 このアポ トー シス の抑 制 は, 電 離 放 射 線 や腫 蕩 促 進 剤 で あ る1 2
‑0‑ t e t r a d e c a n o y l p h o r b o 1 ‑ 1 3 ‑ a c e t a t e( TPA)
な ど によって生体外か らで も生 じる25)。い くつかの腫蕩 促進剤 は開始段 階にある細胞のアポ トーシスに対 し て抑制作用 を示す2・1" 5・25)0がん開始段階の細胞 は優先的にアポ トーシスによ り除去 される。肝腫癌促進剤 による細胞増殖 の増加 と同時に しば しば見 られるアポ トー シスの増加 は, 遺伝学的に細胞 を修復す るよ りも損傷 した細胞 を除 去す るために働 く保護的なメカニズム と言 える。 こ の方法 は,食餌制限によ りさらに有効 に働 く。即 ち, 発がんの促進段 階にあるモデルマウスにおいて,食 餌制限は肝細胞の細胞増殖 を抑制 し,病巣でのアポ トー シスの割合 を高め ることが認め られた26‑28)。食 餌制限の効果 は発がんの腫蕩促進の段 階で最 も効果 的である。食餌制限を受けた動物がエネルギーやそ れを助 ける因子 を維持す るのは,食餌制限を受 けて いない動物 と比較 して充分ではな く, この結果,ア ポ トーシスが増加す るとい う仮説が立て られた。開 始段 階の細胞 は優先的にアポ トーシスによ り除去 さ れるが,食餌制限 もその細胞の除去 を助 けることに な り, これが食餌制限がなぜ腫蕩促進 を抑制す るか の理 由になるか もしれない。
これ らの考 えは,アポ トー シスが変異 した細胞や 潜在的に変異 を起 こしがちな細胞 を除去す ることに よって発がんを抑制す ることと一致す る。 ろ胞性
B
リンパ腫 の転座 に関連 して発見 されたが ん遺伝 子 bcl‑2は細胞増殖 に直接 関与す るので はな く, アポ トーシスによる細胞死 を抑制することによ り細胞 を 不死化 させ る29)。がん抑制遺伝子953
は,細胞の G1期 とS期 の過 程 にお け る遺伝 子 発 現 を制 御 する30
・
31) 0
953遺伝子 の変異 あるいは除去 に よる遺伝 子機能の損失あるいは不活性化 は人間の細胞の5 0 %
以上で示 され32), アポ トーシスの抑制 に関与 している。
さ らに,腫癌細 胞 に入 れ られた野生型 の
♪53
遺 伝子 を トランス フェクシ ョン,過剰発現す ることで, 細胞増殖 を抑制 し,アポ トーシス を誘導す る33)。 ま た,p53
遺伝子 の機 能 を失 うと遺伝 上 の損傷 に対してアポ トーシス を抑制す ることとな り,前段 階の 細胞 を突然変異 しやす くす る可能性がある34)O徒 つ て
,♪53
遺伝子 が欠乏す る と, アポ トー シス に よ り変異細胞が除去 されることが妨げ られる可能性が ある。様 々ながん遺伝子 はウイルスに感染 した細胞 の成長 を促すが, これ らにはアデノウイルスであるEI A
とEI B
のが ん遺伝 子 も含 まれ る。EI A
はEI B
が欠乏 している時 にアポ トー シス を活性 化する。従 って,
EI B
はEI A
に よ り誘導 されたアポ トーシスを抑制する35‑36)03.
複成的発がん細胞 におけるギャップ結合による 情報伝達の役割多細胞の有機体の中には,ある細胞か ら隣接する 細胞へ シグナルを発する分子 (例 としてホルモ ン) により,あるいはギャップ結合的に隣接する細胞同 士で情報伝達がなされる37・38)。ギャップ結合 は細胞 膜に埋め込 まれたコネクソンのヘ ミチ ャネルで形成 され,細胞膜外のチ ャネルのプラークか ら構成 され ている39)。ある細胞のヘ ミチ ャネルは隣接する細胞 のヘ ミチャネル と関係 してお り
,2
つの隣接 した細 胞の間に膜内外の経路 を作 る。 この経路 により細胞 間でイオンや低分子量水溶性物質 (1kD以下) を 交換 している。 カル シウム, CAMP, イノシ トー ルリン脂質を含む成長調節 シグナル伝達物質,また, 細胞周期や細胞成長,細胞死の調節 に必要な物質は ギャップ結合 を通過で きる4042)。従 って,ギャップ 結合 を通 じて,細胞間において低分子量のメッセ ン ジャー分子のや りとりが一定 レベル維持 されるので ある。発がんの過程でギャップ結合 による細胞間の情報 伝達が調節 されているのが示 された43).動物や人間 の悪性腫蕩組織か ら得 られた細胞株では,ギャップ 結合 による細胞間の情報伝達量が減少 していること がわかった。事実,ラッ ト肝の発がんの各段階にお いて,ギャップ結合 による細胞間の情報伝達は次第 に減少することが示 されている。 さらに,がん患者 か ら切除 した肝臓の悪性腫癌 も隣接する細胞 と情報 伝達する能力が減少 していた4447)。細胞間での情報 伝達の阻害は特に化学的な発がんの促進段階におい て現れてお り,発がんのメカニズムとして提案 され た47‑52).培養細胞 における細胞間の情報伝達 を阻害 する発がん物質の作用 と,げっ歯動物における非遺 伝毒性的なメカニズムによる腫癌の誘発作用の関係 も明 らかにされた53・54)。 さらに,以下の抗腫蕩促進 剤 を用いた実験でギャップ結合 による細胞間の情報 伝達の抑制に種差や系統差 による化学的な感受性 に 違いのあることがわかった5557)。発がんの過程での ギャップ結合 による細胞間の情報伝達の改善は,抗 腫蕩促進剤あるいはがん予防剤の試験 ・研究により 明 らかにされている。抗酸化物質のビタミン
E
,緑 茶 に含 まれる少量のポ リフェノールなどを含む多 く のがん予防剤が,非遺伝毒性の肝臓抗腫蕩促進剤 を 用いた治療で観察 されたギャップ結合 による細胞間情報伝達の抑制 を止めることが報告 された58)。 発がん過程 におけるギャップ結合 による細胞間情 報伝達に関するメカニズム として,ギ ャップ結合が 隣接するがん細胞間同士での成長 を調節する可能性 が考 えられる。即 ち,正常細胞 と前腫癌細胞の間で のギャップ結合 による細胞間情報伝達 を阻害するこ とによって,前腫癌細胞が周 りを取 り囲んでいる正 常細胞の成長調節因子 と分離 される環境 を作 り出す のである49)0
4.非連伝毒性的発がん におけるシ トクロムP450 誘導の役割
げっ歯類 において多 くの生体異物 は肝腫蕩 を産生 するが, これに関 して人に対する重要性 も検討 され て きた。 しか し,そのメカニズムは未だ解明 されて いない。生体異物の代謝ががんの過程 に関係がある か も知れない。その代謝は反応中間体 を形成 し,そ れが
DNA
と結びつ き変化 させ る。 また,異常代謝 などによりDNA
の転写や細胞受容体 との相互作用 が誘発 されて,がん遺伝子が活性化 され,DNA
複 製や有糸分裂 さらには細胞増殖 を引 き起 こす。 これ らの作用の中心に活性酸素 ラジカルの産生がある。即 ち,代謝の賦活化や シ トクロムP450による活性 酸素種の産生は化学発がんを含 む多 くの慢性疾患 に 関係 し,
DNA
損傷,p r o t e i nk i n a s eC( PKC)
の 賦活化,過形成 (子孫の個体発生が祖先の個体発生 の終端 を越 えて延長 されること),転移の過程 な ど に関与する59)。活性酸素種 は,酸素分子の存在下で の酸化還元サイクル,シ トクロムP450の空転サイ クル (ある物質の生合成お よび分解 にそれぞれ関与 する酵素が共存 して形成するエネルギーの浪費 をお こす ような回路) など多 くの代謝 を通 じて供給 され る。 シ トクロムP450の空転サイクルにより,活性 酸素種であるスーパーオキシ ドアニオンや過酸化水 素が多 く産生す る60)。 シ トクロムP450の空転サイ クルは,特 にシ トクロムP4502EIに着 目す るとよ くわかる。 この酵素 はエ タノールを含む基質を酸化 させ ることが難 しい酸素処理に関わ りがあ り,基質 のす ぐ近 くに活性酸素種 を生 じさせ る61,62)0 2EI蛋 白質の安定化 は活性酸素種産生の持続的な妨害 とな り,結果 として組織のネクローシス,突然変異,悪 性転化 をもた らす。シ トクロムP450の誘導 は活性酸素種産生の増大 に関係 し,化学発がんの前兆マーカー として考えら れる。化学物質によりマウス肝が腫癌化 した もの と ラッ ト肝のフォーカスに予めそれを投与 し増殖 させ
た もの には, シ トクロムP4502Bを誘 導す る とい う共通 の特徴 が あ る63・64)。肝腫癖 の促進剤 であるフ ェノバ ル ビター ル はP4502Bに よ り誘導 され代 謝 性酸素 を生 じるが,他方,触媒 回路が分離 した りスー パーオキ シ ドアニオ ンが遊離 した りす る難 しさも見 られ る65)。 この よ うに, シ トクロムP4502Bの誘 導 と遊蕩 の促進 の間には相 関性があ り,次の フェノ バ ル ビタール曝露が空転サ イクルや活性酸素種産生 と関係 してい る63)。ペ ルオキ シソーム増殖剤 の よう な他 の化学物 質 は, シ トクロムP4504族 の誘導体 に影響す る。ペ ルオキシソーム増殖剤へ の曝露 の後 , 過酸化物や続 いて起 こる活性酸素種 の増加 も示唆 さ れ る66・67)。生体 異物 に よる シ トクロムP450の酸化 は ラ ッ トや ヒ トよ りもマ ウスのほ うが高い68)。発が ん物 質 であ る
7, 1 2 ‑
ジメチ ルベ ンズ ア ン トラセ ンの 代謝す る能力 は,様 々な種差 間の体重差や寿命差 に 逆 の相 関性 があ る69)。 これ は慢性疾患 にお ける活性 酸素種産生 に依存 した代謝の仕組 み を示唆す る。鉄 の存在下,スーパ ーオキ シ ドアニオ ンや過酸化水素 が ・OH に変 化 し (FentonとHaberWeiss反応),DNA
を損傷 させ ることで活性酸素種 はが んの過程 に関与 してい る。酸化 的 なDNA
損傷 と してDNA
は一本鎖 または二本鎖 に切 断 され,修復 または再配 列 とい う結果 を もた らす。活性酸素種 は遺伝子発現 を調節 し,結 果 と してが ん成長 を制御 す るの で あ る7073)。
5.
非遺伝毒性 的発がん における酸化 的ス トレスの 役割好気性 の晴乳動物 には,組織や細胞 において内因 性 や外 因性 の潜在的な有害効果のある活性酸素種 を 産生す る
。1
年 に2k
9のスーパ ーオキシ ドが ヒ ト体 内に生 じる と推測 されている。 また, これ らの酸化 損傷 に対す る抗酸化剤 や酸化修復酵素 な どの防御 シ ステムは,晴乳動物 に兄 いだ された75).活性酸素種 が体 内に過剰 に生 じた場合,酸化的ス トレスがかか るこ とになる76)。がん を含 む多 くの疾患 の病因論 を 考 える上で, この酸化 的ス トレス は重要 であ る7780)0 活 性 酸 素 種 は 内 因性 (好 気 性 代 謝 , シ トク ロ ム P450代 謝,食 食作 用) あ るい は外 因性 (生体 異物 , 低酸素症 な ど) に よ り細胞 内 に生 じる (図3)。体 内に取 り込 まれた多 くの酸素分子 は二酸化炭素 と水 に変 わるが,酸素分子 の約5%
が正常 な代謝 プロセ ス を通 じて活性酸素種 に変 わる81)。生体異物 は細胞 内に直接 的 に活性酸素種 を生 じさせ るか,間接 的に 活性酸素種 を誘導 させ る。活性酸素種 の内因性 産生とこれ らラジカルの解毒能力 は,遺伝 や生活習慣 の 因子 によ り制御 され る。
げっ歯類 の種 差 ・系統差 に よ り, 自然腫蕩発生率 や化学発がんに対す る感受性 に相違点があるこ とが わか った82183)。 これ らの相違点 につ いて遺伝 的 メ カ ニズムは明 らかでないが,酸化 的ス トレスの誘導 の 結果,酸化 的損傷が生 じることが考 え られ る。活性 酸素種 の産生,抗酸化力,
DNA
の修復能力,遺伝 子発現 の活性酸素 による制御 な どは遺伝学的 にそれ ぞれ異 なる84)。晴乳動物 において,活性酸素種 の産 生が抗酸化機能 に よ り緩和 され ることは実証 されて いる。 この緩和 システムは外 因性 または内因性 に より活性酸素種 の産生 を増加 させ るまでの機能であ り, 発がん性刺激 に対す る宿主 の感受性 で決 まる。酸化 的ス トレスの レベ ルが高い種 は低 い種 と比べ生体異 物か ら酸化 的攻撃 を受 ける とい う大 きな リス クを も っている。酸化 的ス トレスの この種 の特異性 は加齢 に よって も見 られ, ミ トコ ン ドリアやP450酵素 に よる活性酸素種 の誘導 はげっ歯類 の寿命 に逆相 関す る85・86)。 これ に関連 して,酸化 的
DNA
損傷 の レベ ル とTPAの皮膚発が ん促 進作用 に対す る感受性 と の関係が,多 くの種類 のマ ウスにつ いて明 らか に さ れている87)。非遺伝毒性 的 な発がん物 質 は細胞 内で 直接 的に作用 した り,間接 的に活性酸素種 の産生 を 誘導す る88)。ペ ルオキ シソームの増殖剤 ,有機塩素 刺 ,放射線,金属 イオ ン,パ ル ビツール塩 ,ホルボー ルエステルな どを含 む多 くの後成的 な発が ん促進剤 ば inv i v o
と inv i t r o
にお いて酸化 的ス トレスの誘 導 を示 してい る89)。完全 に確認 されたわけで はない活性酸素種の内因性の源 ミ トコン ドリア シ トクロムP450 ペルオキシソーム 炎症細胞
抗酸化剤 酵素
(SOD,Cat.GSHPx) 非酵素
(VitE,VitC,GSH)
活性酸素種の外 因性の源 放射線
オ ゾ ン 超酸化物 生体異物
活性酸素種
・OH,NO・ H202,RO・
0
21・図 3 活性酸素種の生成 と細胞恒常性 の破綻例
が,発がん物質の多 くは何 らかの活性酸素種を生み 出すのである86)。
げっ歯類動物の肝臓において発がん物質による酸 化的ス トレスの作用 をするのはペルオキシソームと 考えられる。酸化還元反応に伴い増大 した過酸化水 素は,新 しく生成 したペルオキシソームの外側に漏 出 L細胞 を攻撃する35・90・91)。 この仮説は実証 されて お らず,酸化的なDNA損傷の増加がペルオキ シ ソームの増殖に伴 うことはわかっているが,この酸 化的損傷の増加はペルオキシソームの増殖能力 と相 関 しないこともわかっている。非遺伝毒性的な発が ん物質により誘導された酸化的ス トレスは,酸化的 損傷 と遺伝子発現制御により細胞の生理的プロセス を障害する可能性があるo酸化的損傷 はI)NA,脂 質,蛋白質の中で起 こり得る。酸化的DNA損傷で 遺伝子突然変異 を誘導する大 きな変化が起 こるとす れば発がんする危険 とな り得る。 しか しなが ら,醍 化的ス トレスの誘導は,直接的に遺伝子転写の活性 化,あるいは間接的に低メチル化 を通 じて遺伝子発 現を制御する可能性がある。
遺伝毒性的あるいは非遺伝毒性的な発がん物質が 活性酸素種 を産生 し, DNA に酸化的損傷 をもたら す89)
。8
‑ヒ ドロキシ‑ 2' ‑
デオキシグアノシンは遺伝 子の突然変異や細胞の形質転換 に関与 している92・93)0 活性酸素種の発生剤,後成的 ・非遺伝毒性的な発が ん物質による酸化的ス トレスの誘導は突然変異のな い変容 した遺伝子発現 をもたらす可能性 もある。6.
非遺伝毒性的発がんにおける遺伝子発現の役割 非遺伝毒性的な発がん物質はキナーゼ,酸化窒素 のような細胞内シグナル伝達物質などのシグナリン グ経路を通 じて細胞内にその効果を顕現 させると考 えられる94)。それ らの修飾により,細胞増殖の増大, もしくは細胞死の選択 (アポ トーシス またはネク ローシス)のいずれかに帰着す る89・95・96)。 カルシウ ムは,細胞増殖,分化,アポ トーシスなどの過程を 広範囲に制御するシグナリング因子である97・98)。カ ルシウムの解離の結果, PKCのようなキナーゼを 活性化す る99・100). pKCの活性化 は,TPAなどの 発 が ん物 質 との 反 応 に よ り明 らか に され て きた101104)
O
転写因子は遺伝子のプロモーター部分 と結合 し, 順次,転写を制御することのできる低分子量の蛋白 質である105)。 Nuclearfactorkappa‑B (NF〝B)と activatorprotein‑1 (AP‑1)の2つの転写因子につ いて,非遺伝毒性的な化学物質による制御の研究が
されている。即 ち,NF〟Bは50kDと65kDのサブ ユニ ッ トか ら成 る。 NFxBの活性化 は細胞外か ら の刺敦,即ち,熟 ショックなどのス トレス,金属イ オ ン,石綿,アルコールな どで誘導 され106110),細 胞の増殖や アポ トー シスによ り現れる106)。同様 に, 細胞の酸化還元能力により,これ らの転写因子は制 御 されることが明 らかにされた111・112)。細胞内の活 性酸素の増加やNFxBか らの L(Bの解離によ り, NF〟Bが細胞核へ転座 し得 る113・114)が,NF〝Bの活 性 と結合 したDNA を標的遺伝子に変化 させるか も しれない115)。 また,熱 ショック転写因子の活性化 において同様の効果が観察 されている116)。四塩化 炭素,フェノバルビタール,カ ドミウム,アルコー ル,石綿,TPAなどの非遺伝毒性的な化学物質に 曝露 された細胞 において,
AP‑
1の活性化が報告 さ れてい る107肌 117119)。酸化剤 と抗 酸化剤 の両者が AP‑1の活性化に影響 していることは興味深い120)0細胞のメチル化状態 も非遺伝毒性的な発がん物質 に曝露することで観察 される。 DNAのメチル化は 遺伝子発現へ と変わる。 DNAのシ トシン5位 をメ チル化 した5‑メチルシ トシン (5mC)は,高等真 核生物で唯一 自然に起 こるDNA変化である。脊椎 動物において,ゲノム中のシ トシン残基の約
4%
が 5mCへ と変化する121)。 DNA中の5mCが発生,分 化などの過程に影響することは一般的に認められて お り, 5mCの存在ががん発生 に関与することも実 証 されている122)。腫癌細胞 において種々の遺伝子 のメチル化パ ターンは,過度のメチル化か軽度のメ チル化 によ り, しば しば変わる123)。同様 に,発が んの過程で普通メチル化 されない領域 において,過 度のメチル化 と同 じくゲノムの広範囲な軽度のメチ ル化が見 られる123・125)。遺伝子内のメチル化の程度 はその発現 と逆比例の関係にあ り,過度のメチル化 は遺伝子発現の減少 な どにつ なが る126・127)。がん発 生過程において重要なことは,がん抑制遺伝子が過 度にメチル化すること,不活性化することである。即ち,発がん物質がメチル化の際にエラーを起 こし, 細胞形成において発がんの可能性 を増加 させる恐れ のあることが示唆 される128)。逆 に,軽度のメチル 化は遺伝子発現の増加 を導 き,突然変異率の増加に 関係する129)。がん遺伝子 は軽度 にメチル化 される
と自らの発現 を増大 させ る123.130)。肝がん誘発物質, もしくは腫癌形成を引 き起 こす ことが知 られている 食 餌 を 与 え ら れ た ラ ッ ト で は , 肝 臓 の S‑adenosylmethionine (SAM)レベ ルが減少 す る
ことが示 されている131)。このコファクターの減少は,
結果的に軽度のメチル化を促進 させ,その後,がん 遺伝子を発現させる。コリンもしくはメチル供与基 の欠乏 した食餌 を与 え られ た ラ ッ トにお いて,
C ‑ myc ,C ・ f o s , C ‑ H‑ r a
sの各がん原遺伝子の軽度のメチル化が見 られ,肝臓の発がんと関係 していt132)O また,発がんの過程におけるメチル化の役割 として, sAMの投与による肝がんの抑制が明 らかにされて いる。遺伝子発現における変化に加 え,メチル化 も また染色体の安定性 を制御する
。 DNA
のメチル化 パ ターンの変化 によりクロマチンの構造が変わ り, その結果,染色体の欠失,逆位,損失が起 こる133)Q発がん過程におけるメチル化や遺伝子発現の変化 について次のことが明 らかにされている。即ち,腫 蕩の促進段階での軽度のメチル化の関係について,
C3 H,C5 7 Bl / 6 ,B6 C3 Fl
のそれぞれのマウスでの メチル化の研究によって示 された。これ らのマウス はi nv i v o
での肝臓の腫蕩形成に対 して特異な感受 性 を示 し,C5 7 Bl / 6
はC3 H,B6 C3 Fl
に比べ肝が んに対する耐性 を持つ。これより,C3 H
とB6 C3 Fl
では
C5 7 Bl / 6
よ りもC ‑ myc ,c jo s ,C ・ H‑ r a s
のがん 原遺伝子のメチル化が少 ないことが明 らかにされ た134)。 この ように,マウスの系統差 によ り,がん 遺伝子発現 (メチル化の程度)はがんの感受性 と直 接関係 している。 また,これ らの知見は,系統差に よる特異性 と発がんとの間に関連性のあることを示 唆する。 さらに,肝がん誘発物質はメチル化パ ター ンの変化に伴い誘導された異常型の遺伝子の発現に よりがんを顕現化 させる。7.
非過伝毒性的発がんにおける圭的な応答性 非遺伝毒性的な発がん物質によるがんの誘導は, しきい値や作用量に伴 う応答特性に見 られるような 非DNA
反応のメカニズムを通 じて現れる。非遺伝 毒性的な発がん物質が正常細胞に及ぼす影響は幾度 かの修飾を伴い,それぞれの発がん過程で変化 させ てい く。細胞の増殖,酸化的ス トレスの誘導,細胞 間情報伝達の修飾,遺伝子発現の制御に伴って見 ら れるがん化の状態により,細胞の発がんの各過程に おけるそれ らのしきい値がわかる。非遺伝毒性的な 発がん物質による細胞での後成的な影響は可逆変化 である。 また,同様に見 られる細胞での変化の多 く は,細胞内の防御システムの誘導をもた らす細胞内 標的 として含 まれる。例えば,細胞や組織が少量の 酸化的ス トレスに曝露 されると,DNA
修復酵素や 抗酸化系酵素が誘導される。非遺伝毒性的な発がん 物質による遺伝子発現の誘導は,非遺伝毒性 を防御するための細胞の無毒化システムを刺激する。この ことは,肝臓の正常細胞において見 られるい くつか の同種の物質による有糸分裂の抑制作用により示 さ れている。 さらに,シ トクロムP450酵素の誘導は 非遺伝毒性的な発がん物質が多量の場合,有毒な効 果を示すが,少量の場合では解毒剤の効果を示す。
非遺伝毒性的な発がん物質による後成的な影響が, 人体 におけるリスク評価 を行 う上で様々なカテゴ リーのメカニズムに関係することは既に報告 されて いる。げっ歯類に見 られた非遺伝毒性的な発がん物 質による後成的な影響の多 くは,その影響を示す作 用量,作用形態,標的組織の応答性が人体 とでは異 なっている。このため,げっ歯動物実験で得 られた 結論をヒ トに適用できるか否かについての検討は, 医生態学の手法による確認実験により行われている。
緒 言
以上の知見 より,非遺伝毒性に分類 される発がん 物質の作用の様式 とメカニズムやこれによる後成的 な影響については解明されつつあ り,特に,これ ら の発がん物質がゲノム
DNA
に対 し直接的な相互作 用,突然変異,修飾などを行 う発がん物質 とは機能 的に異なった作用 をすることが明 らかになった。ま た,これらは放射線発がんなど低線量放射線の健康 への影響 な どについて研究135)す る上で,重要な知 見 となっていることもわかった。謝 辞
本総説を作成するにあた り,価値ある資料 と情報 をお与 え戴 いたIndiana大学 医学部教授 のJames
E.
Klaunikes博士 をはじめ,関係各位に感謝 します。文 献
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Kiyonori YAMAOKA, Katsumi HANAMOTO, Yasuhiro INAl), Takahiro KATAOKA2), Atsusi KAWABE2), Masanobu SAN02) and Ayako UJIFUKU2)
Abstract
To elucidate the health effects by low dose radiation, we reviewed the recent trend of research on the epigenetic mechanisms of chemical carcinogenesis. The following view were obtained. It has become apparent that chemical and physical agents that induce cancer may do so through different cellular and molecular mechanisms. Investigators, recognizing the apparent differences in the ways com- pounds participate in the carcinogenesis process, coined the phrases "genotoxic" and
"epigenetic" in describing activities of chemicals and physical agents that induced cancer. The term "nongenotoxic" has to some extent replaced "epigenetic" and thus, classification of chemical carcinogens has been frequently delegated to either the genotoxic or nongenotoxic categories. Moreover, while much work remains in the understanding of the modes and mechanisms of action of nongenotoxic carci- nogens and the epigenetic effects of these agents, it is apparent that this category of chemicals are functionally different than those compounds which directly in- teract, mutate, and modify genomic DNA.
Key Words:
chemical carcinogenesis, nongenotoxicity, epigenesis, oxidative stress, gap junction
Department of Radiological Technology, Faculty of Health Sciences, Okayama University Medical School 1) Low Dose Radiation Research Center, Central Research Institute of Electric Power Industry
2) Student of Graduate School of Health Sciences, Okayama University