博 士 ( 工 学 ) 田 中 暁 生
学 位 論 文 題 名
スピネル型二酸化マンガンの イオン交換特性のモデル化と評価
学位論文内容の要旨
ス ピネ ル型 ニ酸 化マ ンガ ンス‑Mr102は ,ス ピネル型リチウム マンガン酸化物LiMn204を前 駆体と して得られる.この前駆物 質は,硝酸溶液中で,その骨格構造を維持したまま格子 マンガン(nDイオン の酸化を伴ってりチウムイ オンを溶出し,ス―Mr102になる.ス―Mn02格子中の,もとりチウムイオンが 位 置し たサ イト は空 孔であり,格子空 孔はりチウムイオンを選択的に取り込む機能を持つ.し たがっ てスーMn02はりチウムイオ ン電池のカソー・ド材料のみならず,海水からのりチウムイオンの回収剤な どへの応用が期待されてい る.水溶液中でス‑Mf102はさらに表面水酸基によるイオン交換機能を持ち,
こ れ に よ る 各 種 イ オ ン の 吸 着 は 選 択 的 リ チ ウ ム イ オ ン 取 込 反 応 の 妨 害 と な る . 本研究では,ス‑Mr;102による水溶液からのアルカリ 金属イオン取込・吸着反応特性を定量的に評価 す るた めに 反応 モデ ルを確立すること を目的とした.ス‑Mr102表面水酸基によるイオン交換反 応は平 衡 論 に よ り , ま た 格 子 空 孔 へ の り チ ウ ム イ オ ン 取 込 反 応 は 速 度 論 に よ っ て モ デ ル 化 し た . 得られた平衡定数と速度 定数により金属イオンのスーMr102親和性とス‑MH02試料のイオン吸着・取込 反応特性を評価した.ス―Mr102表面の水酸基化のメカ ニズムとして格子酸素の水和を提案し,平衡定 数 値に よっ て評 価し た各イオンの反応 性から,水酸基サイトでアルカリ金属イオンは水和イオ ンとし て 吸着 して いる こと を明らかにした. このため吸着イオン間には静電反発や立体障害が生ずる .また 空 孔へ のり チウ ムイ オン取込反応では ,律速段階として溶液中の水酸化物イオンによる表面層 のマン ガン(IV)イオンの還元と格 子空孔へのりチウムイオン取込反応が重要で,ス‑Mn02内部へのりチウムイ オンの拡散は速い過程であ ることを明らかにした.速度定数から求めたス―Ml102試料のりチウムイオ ン 取 込 反 応 特 性 は 同 一 で , 見 か け の 特 性 の 違 い は 表 面 積 の 違 い に よ る も の と 結 論 し た . 本論文は,次の5章にまとめられている.
第1章は 序論 で, イオ ン 交換 材料 とし ての ス‑Mr102においては,表面水酸基によるアルカリ 金属イ オ ン交 換反 応が 格子 空孔によるりチウ ムイオンの選択的取り込みとともに重要であることにつ いて述 べ た. また これ らの 反応のモデル化に よる反応挙動の理解と予測の重要性を指摘し,本研究の 目的を 述べた.
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第2章で は,試料 である ス・Mr102の調製 法を述べ るととも に,そ の基本物性の評価結果について述 べた ,試料 は高温焼 成法と ゾルーゲ ル法によ って合 成し,比 表而積 の人きく興なるスピネル刊こ酸化 マンガン試料を得た.
第3章 で は, ス‑Mr102の表 面水酸基 による アルカリ 金属イ オン交換 反応につ いて述 ぺた,ま ず,A 節で はイオ ン交換サ イトに なるス−Mn02の表面 水酸基の生成過程を検討した.ス‑Mn02をはじめ各種金 属酸化物について,喪而水酸慕密度(帆)をBET比表面積測定とグリニヤーール反応を用いた表面水酸基 量測 定から 求めた. その結果金桜酸化物種によらずNs値が…→定であることが明らかになった,それに 基づ き格子 亠酸素が 水和さ れて水酸 基化する とぃう 新しいメ カニズ ムを提案 した, 次に.B節では ス
‑Mr102表 面水酸基 へのア ルカリ金 属イオン 交換反応について述べた,1価のアルカリ金属イオンは酸型 表面 水酸基 の脱プロ トン化 によって 生じた負 の荷電 サイトヘ 吸着す る.表Iiに吸着したアルカリ金属 イオ ン量を ,酸塩基 滴定法 によって 測定した .吸着 量はpHとと もに増 加したが,その増加量は質量作 用則 が予想 するほど 大きく ならなか った.こ れは吸 着反応が 何らか の効果によって抑制されているこ とを 示唆し ている. 実測の 表面吸着 密度とpHの関係か ら表面イ オン対 問の静電反発や立体障害による 反応 抑制を 考慮した 平衡モ デル式を 導出した .平衡 定数から 評価さ れた陽イオンの吸着反応のしやす さは 水和イ オン半径 によっ て説明す ることが でき, ス‑Mn01表 面でア ルカリ金 属イオ ンは水和 イオン として吸着していることが明らかになった.
第4章で はA ‑Mr102格子 空孔によ るりチ ウムイオ ン取込反 応のモ デル化に ついて 述ぺた. リチウ ム イオ ン取込 反応速度 に対す るpH,ス―Mn02質量濃度,格子Mn(III)含有量,ラジカル捕集剤の添加,試 料の 比表面 積および 反応温 度の影響 を調べた .その 結果,pH,A‑Mr102質 量濃度 および反 応温度が 増 加す ると取 込速度は 増加し たが,格 子Mn(III)含有量が増加すると取込速度は減少した.比表面積の大 きな 試料で は試料lg当 たりの 見かけの 取込速 度は大き くなった .また ラジカル捕集剤の添加によって 取込 挙動は 変化し, 反応初 期を除い て取込速 度は増 加した. その反 応挙動の変化から次の速度過程を 提案した.(1)水酸化物ラジカル生成による格子Mn(IV)の還元と格子空孔の遊離およびその逆反応,(2) 遊離 した空 孔のりチ ウムイオン取込,(3)取り込まれたりチウムイオンの内部への拡散,(4)水酸化物ラ ケ
ジカルの水と酸素への分解. (3),(4)は速い過程で(1),(2)が律速になることを明らかにしてモデル速度 式を 導出し ,実測の データ を当ては めること によっ て速度定 数を得 た.得られたモデル速度式は実測 のデ ータを よく再現 し,取 込速度に よる影響 を与え る上記の 因子を 定量的に説明できた.調製条件の 異な るA ‑Mr102試料 について,同一反応条件で試料表面積を単位とした時の速度定数を求めたところ,
ほぼ 等しい 値が得ら れ,特 性は同・ であるこ とがわ かった. したが って見かけの取込速度の違いは,
表面積の違いによることが明らかになった.
第5章で は全体を 総括し ,スピネ ル型二酸 化マン ガンス‑Mn0つのイオ ン交換反 応では 表面水酸 基に よる イオン 交換反応 と格子 空孔によ るりチウ ムイオ ン取込反 応の双 方が重要であると結論した.また
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これらの反応をモデル化して平衡定数および速度定数を求め,ス.Mr102のイオン吸着および取込反応 におけるイオンのA ‑Mri02に対する親和性の差異が明らかになった.このモデル化により今後海水か らのりチウムイオン分離の応用に対する指針を与えることができた.
学位 論文審 査の要旨
学 位 論 文 題 名
スピネル 型二酸化マンガンの イ、オン交換特性のモデル化と評価
近年、多孔体の微小内部空間の特異な機能を利用した材料の開発が盛んに行われている。
しかし、その特異性の実態は未解明で、材料の開発と利用は試行錯誤と経験に強く依存し ており、今後の理論的、学問的発展が待たれる状況にある。本論文は、トンネル空孔をも つ材料であるスピネル型二酸化マンガン(ス‑Mr102)について、空孔による水溶液からの りチウムイオンの選択的交換取り込み反応と表面水酸基によるイオン交換反応を研究し、
反応量の説明と予測ならびに材料特性の評価を目的として化学反応速度論および平衡論に よるモデルを確立したものである。
本論 文は5章からな り、第1章は 序論で、 イオン 交換材料 としてのス‑Mnozが、表面水 酸基によるイオン交換機能と格子空孔によるりチウムイオンの選択的交換取り込み機能を 持つことを述ベ、これらの特性をモデル化することの重要性を指摘し、本研究の目的を述 べた。第2章では、試料であるスーMr102を高温焼成法とゾルーゲル法で合成し、ゾル‥ゲル 法では高温焼成法より2.5倍大きな比表面積をもつ試料を得た。また得られた試料の基礎 物性の評価結果についても述べた。
第3章では 、ス‑Mn02表面の 水酸基化反応と表面水酸基によるアルカリ金属イオン交換 反応に ついて 述べた。 まずス‑Mn02をはじめ各種金属酸化物について、BET比表面積測定 とグリニヤール反応を用いた表面水酸基量測定から求めた表面水酸基密度が、金属酸化物 種によらず一定であることを明らかにした.それに基づき、金属酸化物ではサイズが大き く分極 の小さい格子酸素が密充填して水溶液に露出し、Lewis塩魅である表面格子酸素が 水和されて水酸基化するとぃう新しいメカニズムを提案した。次に、∴ ‑Mr102表面水酸基 へのアルカル金桜イオン交換反応についてモデル化をォr′jた。アルカリ余桝イオン吸着誼 はpHとともに増D‖したが、その増川ギ.は質都:作川uIJによるr魁よりはるかに小さか′jた。
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授 授
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主 副
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吸 着 イ オ ン 川 の 静 電 反 発 や サ体 障害 の ため に抑 制作 用 が働 くこ とを 考慮 し て1t衡モ デル 武 を導凵!し、データ に当てはめて;F衡定数と反応抑制定数を決定した。゛lf衡定数からォト価さ れ た 陽 イ オ シ の 吸 着 親 和 性 は 水 利 イ オ ン 半 径 に よ って 説明 する こ とが でき 、A ‑Mn0,表 而 で ア ル カ リ 金 碯 イ オ シ は 水 和イ オン と して 吸着 して い るこ とが 明ら かに な った 。本 研究 の モデ ルは 広 いpHおよ び濃 度 範囲 の吸 着デ ー― 夕を正しく説明し、fほ亅兌 することを可能にす るものである。
第4章 で は 、 ス‑Mn01ト ン ネ ル 空 孔 に よ る り チ ウ ムイ オン のj盞択 的交 換 取込 反応 のモ デ ル 化 に つ い て 述 べ た 。 リ チ ウム イオ ン の取 り込 み反 応 は、 酸化 物側 では マ ンガ シイ オン の 4価 か ら3価 へ の 還 元 、 溶 液 側 で は 水 酸 化 物 イ オ ン の 消 費 ( プ 口 ト ン の 遊 離 ) を伴 い、 固 液 両 相 で 電 荷 が 補 償 さ れ る の で 一 種 の イ オ ン 交 換 反応 であ る。pH、ス‑Mn02質 量濃 度お よ び反 応温 度 が増 加す ると 取 込速 度は 増加 した が 、格 子マ ンガ ン(III)含有 量 が増 加す ると 取 込 速 度 は 減 少 し た 。 比 表 面 積 の 大 き な 試 料 で は 試 料lg当 た り の 見 か け の 取 込 速度 は大 き く な っ た 。 ま た ラ ジ カ ル 捕 集剤 の添 加 によ って 取込 挙 動は 変化 し、 反応 初 期を 除い て取 込 速度 は増 加 した 。以 上の 反 応挙 動か ら次 の速 度 過程 を提 案し た。(1)水酸 化 物ラ ジカ ル生 成 によ る格 子 マン ガン(IV)の 還元 と格 子空 孔の 遊 離お よび その 逆反 応 、(2)遊 離空 孔の りチ ウ ムイ オン 取 込、(3)取り 込ま れた りチ ウ ムイ オシ のト ン ネル 空孔 を経 由し た 内部 への 拡散 、 (4)水酸化物ラジカル の水と酸素への分解。(3)、(4)は速い過程で(1)、(2)が律速になること を 明 ら か に し て モ デ ル 速 度 式を 導出 し た。 得ら れた モ デル 速度 式は 実測 の デー タを よく 再 現 し 、 取 込 速 度 に 影 響 を 与 える 上記 の 因子 を定 量的 に 説明 でき た。 本研 究 にお ける ラジ カ ル を 反 応 中 間 体 と す る 速 度 過程 の提 案 とラ ジカ ルの ー つで ある 遊離 空孔 へ の定 常状 態近 似 の 適 用 を 含 む モ デ ル 化 の ア プロ ーチ は 全く 独自 のも の であ り、 海水 から の りチ ウム の回 収 など1二業的応用のた めの分離工学理論として有 用である。
こ れ を 要 す る に 、 本 論 文 は、 スピ ネ ル型 二酸 化マ ン ガン によ るイ オン 交 換に つい て反 応 モ デ ル を 確 立 し 特 性 の 定 量 的評 価を 可 能に した もの で 、リ チウ ムイ オン の 分離 工学 に貢 献 す る と こ ろ 大 な る も の が あ る。 よっ て 著者 は、 北海 道 大学 博士 (工 学) の 学位 を授 与さ れ る資格あるものと認 める。