博 士 ( 理 学 ) 亀 田 貴 雄
学 位 論 文 題 名
A study of transformation processes from snow t01ce in polar ice sheets
( 極域氷床 における雪一氷変化過程の研究)
学 位 論 文 内 容の 要 旨
氷床 表面に堆 積した雪 は、次々 と新たに 降り積も る雪の下になって深部に移動し、
雪自 身の荷重 による機 械的な圧 縮を受け ながら圧 密する。氷床表面付近の雪は、氷と 通気 性のある 空隙との 混合体で あるが、 深度が深 くなり、密度が増加すると通気性空 隙のー部が通.気性のない気泡として氷の中に取り込まれ、最後には全ての通気性空隙 が気 泡に変化 し、雪は 通気性の ない氷に 変化する (部分的に気泡を含むこの雪の層を 本研 究では 雪一氷遷 移層 と 呼ぷ)。 本研究で は、この雪から氷への変化過程を実 験的 に明らか にした。 得られた 知識を利 用して氷 床氷に含まれる空気量の地域変動メ カニズムを説明した。
本論文は、以下の6章から構成されている。
第1章 は序章で あり、極 域氷床に おける雪 から氷へ の変化過程 に関する これまでの 研 究 成 果 と そ の 問 題 点 に つ い て 述 べ 、 本 論 文 に お け る 論 点 を 説 明 す る 。 第2章 では、雪 の密度の 増加過程 を南極氷 床とグリ ーンランド 氷床から 採取された 14本の コアサン プルの密 度ー深度 分布を用 いて調ぺ た。結論として雪の密度とその上 載荷重との関係を示す以下の2本の式が得られた。.
InくP) : ―12.9( (pi‑p)/pi) ー0.0251T十7.602 (1) P = く O. 0326T―10.6) In( ( pi‑p) /pi ― 1. 82 (2) こ こ で、P,T,pi,pは そ れぞれ上 載荷重(bar)、絶対 温度(K) 、純氷の密 度(M g/m°)、雪の密度(Mg/m°)である。(1)式は、雪の空隙率の滅少率が上載荷重の増 加率 のm乗に比 例すると 仮定して 解析を行 なった結 果であり、14本のコア の密度―深 度 分 布曲 線 を 用い る と、m二ニ‑2が最も相 関係数の 高い関係 となった。 (2)式に お
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いては、 雪の空隙率 の増加分 が上載荷 重の増加 分のn乗に 比例すると仮定して解析を 行な った結 果であり 、同じ14本 の密度ー 深度曲線 を用いる と、n=ニ―1〜1で最も相 関係 数 の高 い 関 係と な った 。 (2)式 は、nーOと して解析 した結果で ある。計 算に より求めた雪の密度と測定した雪の密度は、平均でそれぞれ0. 02Vg/m°(3.2%の精度
;(1)式のよる)、0. 03Mg/m3(4.7%の精度;(2)式による)の違いがあった。
第3章にお いては、雪 ー氷遷移 層におけ る気泡の 形成過程 を南極氷床とグリーンラ ンド氷床 から採取さ れた5本の コアサン プルを用 いて、実 験的に調べた。雪一氷遷移 層におけ る気泡の体 積は、新 たに製作した装置を用いて測定した。これは、理想気体 の状態方 程式に基づ き、圧カ と温度の測定により気泡の体積を測定するものである。
5地点で採 取されたコ アサンプ ル中の単 位質量当 たりの気 泡の体積(孤立気泡体積:
Vbm°/AIg)は、試 料の密度 を関数と して以下 の2っの式 で表せる ことがわか った。
In(Vb) = 48. 66p−42. 38, O. 75〈 p〈0.825 ( 3) Vb : 0.7234(l/p−l/pi), 0.825〈p (4)
ここで、pは試料の密 度[Mg/m°] であり、piは純氷の 密度である。Vbの分布をさら に詳 細 に調 べ る と、Vbが急 激 に増 加し 始める密 度(pib)に は地域特性 があるこ と がわかっ た。っまり 、温度の 低い地点で採取されたコア試料ではp ibが比較的大きな 値を取り(O. 785〜O.79¥tg/m°)、逆に温度が高い地点で採取されたコア試料ではpib が小さな値(O. 765〜0.78lfg/m°)を取ることがわかり、pibには以下に示す温度依存 性があることがわかった。
p ib −1.8x10―3 Tc 十 1.22 く5)
ここで、Tcは絶対温度 で示した 雪ー氷遷移層における温度である。また、雪―氷遷移 層の試料 中における 最大のVbは 、試料の密度がO.819〜0.832で達成されることがわ かった。この密度に相当する空隙率はO, 110〜O.097であるが、この空隙率は5っの地 点におい ては温度依 存性や涵 養速度依存性を示さなかった。以上の測定と同じ試料の 非 通 気 性 係 数 (IP) を 吸 引 法 に よ り 測 定 し た 。IPは 、以 下 の式 で 定 義さ れ る。
IP[%] :△Ps/△Pix100
ここで、 △Psは真空ポ ンプに連 結された チュ←ブ (外形18mm、内径6mm)を試料の表 面に密着 させ、チュ ―プ内を 真空ポンプにより減圧させた時の大気圧からの差圧であ り、 △Piは氷 を密着さ せた時の 差圧であ る。IPが100%を 示すと試 料の通気性 が氷と
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同 じで あ る (通 気 性 がな い )こ と を 意味する 。1つの試料 に対して10カ所以上 の測 定を 行い、平均 値、最大 値、最小 値を求めた。試料中におけるIPの最大値が100%を示 すサンプルは、密度O. 813土O.OOlhtg/m3以上であり、IPの測定値が全て100%を示すサ ンプルの密度(p co)は、0.828土O.002Mg/m°以上である事がわかった。この密度に 相当する空隙率はそれぞれO.117土0. 001、O.101土0.002であるが、これ.らの空隙率は 5っ の 地点で ほぼ等し い値を示 した。本 研究では 、以上の2種 の異なる 測定を雪 ー氷 遷移 層の試料に 対して行 い、結諭 として雪 一氷遷移 層が密度pibからp coの範囲とし て定義できる事を示した。
第4章 においては 、第3章で 定義した 雪―氷遷 移層の範 囲を示す密度(p ib〜pco) を利 用して、こ れまでに 南北両極 域および山岳地域で採取された35地点の雪氷コアの 密度 ー深度分布 より、雪 一氷遷移 層の深さ分布を調べた。その結果、氷床の乾雪域で 平均 涵養量が0.2 m/year(水当量)以下である地点については雪の温度の低下ととも に、 雪ー氷遷移 眉が直線 的に深く なることがわかった。また、乾雪域で平均涵養量が 0. 2m/yearを越える地点や浸透域における雪ー氷遷移層は、涵養量が0.2m/ year以下 の地 点よりも深 いことが わかった 。この雪―氷遷移層の温度依存性を雪の圧縮粘性係 数の温度依存性で説明した。
第5章 におい ては、第3章で定義 した雪― 氷遷移層 が終了する 密度(p co) を用い て、 極域で採取 された雪 氷コア中 の含有空気量の地域変動のメカニズムを検討した。
その 結果、密度p coにおける 気泡中の平均内圧(Pc)をその地点の気圧(Pa)で除し た 規格化した気泡平均内圧 (Pc/Pa)に顕著な温度依存性があることが示された。
こ のPc/Paは、密 度pib(雪一 氷遷移層 開始密度 )や雪の 圧縮粘性係 数の対数 とも線 形関 係があるこ とがわか った。得 られたPc/Paの 温度依存 性の式を用いて、現在とは 異な る温度環境 (氷期な ど)にお ける極域の氷の含有空気量の変動を推定する方程式 を導 出した。こ の式を利 用して、 氷期における北西グリ―ンランドのCamp Centuryに おけ る過去の氷 床高度を 推定した 。結論として、最終氷期におけるCamp Century地域 は現 在よりも氷 床が400m土190m程 度厚かったことが示された。これは、従来推定され ていた氷床の厚さよりも平均で10m〜130m低い値である。
第6章 においては 、本論文 において 新たに明 らかにな った知見をまとめ,今後の展 望について述べた。
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学位論 文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 講師
前 野 紀 一 中尾欣四郎 成 瀬 廉 二 成 田 英 器
学 位 論 文 題 名
A study of transformation processes from snow to icc in polar ice sheets
( 極 域 氷 床 に お け る 雪 一 氷 変 化 過 程 の 研 究 )
氷 床 表 面 に 堆 積 し た 雪 は 、 新 た に 降 り 積 も る 雪 の 下 に な り 圧 密 され なが ら深 部に 移 動 し て ゆ く 。 氷 床 表 面 付 近 の 雪 は 、 通 気 性 の あ る 、 氷 と 空 気 と の 混合 物 であ るが 、圧 密 の 進 行 と と も に 、 空 隙 は 切 断 さ れ 、 空 気 は 独 立 気 泡 と し て 氷 の 内 部 に 捕 捉 され 、 全 体 が 氷 へ 変 化 し て ゆ く 。極 域 氷床 の氷 化過 程で 捕捉 され た空 気は 、過 去, の地 球大 気 の 組 成 や 地 球 環 境 を 知 る た め に 極 め て 有 効 な 手 段 と さ れ て い る が 、 そ の 年 代 決 定に は 重 大 な 問 題 が あ る 。 そ れ は 、 空 気 の 氷 中 へ の 捕 捉 が 氷 床 の 特 定 の 深 さ で 突 然 進 行す る の で は な く 、 か な り の 深 さ 範 囲 で 徐 々 に 進 行 す る 点 で あ る 。 そ の た め 氷 中 の 空 気の 実 際 の 年 代 は 場 所 に よ っ て は 数 百 年 か ら 数 千 年 と い う か な り の 長 い 範 囲 に 渡 っ て いる と 考 え ら れ 、 年 代 決 定 誤 差 の 定 量 的 研 究 が 要 求 さ れ て い る 。 本 研 究 は 、 氷 床 中 に おけ る 雪 の 氷 化 過 程 を 詳 細 に 調 べ る こ と に よ っ て 、 空 気 の 捕 捉 メ カ ニ ズ ム を 明 ら か に し、 空 気 取 り 込 み 開 始 密 度 の 温 度 依 存 性 か ら 独 立 気 泡 の 年 代 決 定 の 精 度 を 高 め よ う と した も の で あ る 。
研 究 は 四 っ の 部 分 か ら成 り 立っ てい る。 第一 の部 分で は南 極氷 床お よび グリ 、― ン ラ ン ド 氷 床 か ら 採 取 さ れ た14本 の コ ア サ ン プ ル の 密 度 と 深 さ と の 関 係 を 詳 細 に 調 べ 、 密 度 、 上 載 荷 重 、 年 平 均 気 温 の 間 の 関 係 を 求 め た 。 第 二 の 部 分 で は 雪 ― 氷 遷 移層 に お
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け る 独 立 気 泡 の 形 成 過 程 を 南 極 氷 床 と グ リ ー ン ラ ン ド 氷 床 か ら 得 ら れ た5本 の コ ア サ
ン プルにつ いて調べた 。研究は 氷中に取 り込まれ た気泡の 体積を測定する方法で進め ´
ら れた。そ の結果、独 立気泡は 雪の密度が約0. 75Nlg/m から形成され始めること、
形 成開始密 度には温度 依存性が あり、気 泡形成は 温度が高 いほど低密度から始まるこ とが明らかにされた。気泡形成の終了密度、すなわち氷化密度は0. 828土0.002 ltg/ms でほとんど温度依存性が見られなかった。また、氷の単位質量当たり.の独立気泡体積 は 密度の増 加とともに 増えるが 、雪一氷 遷移層を 越えると 氷の塑性変形による気泡の 圧縮によって減少する。独立気泡体積の最大値を与える密度は0. 819〜O.832 Nlg/ms に 見出され た。研究の 第三の部 分では、 以上の乾 雪域のデ ータに夏期に融解・再凍結 の 起こるグ リ―ンラン ド氷床の デ―タを 加え、雪 ー氷遷移 層の深さが温度の低下とと も に深くな ることを示 した。そ してその 物理メカ ニズムが 雪の圧縮粘性の温度依存で 説 明された 。第四の部 分では、 上の解析 で明らか になった 雪一氷遷移層終了密度を使 っ て、極域 で採取され た多くの 雪氷コア 中の含有 空気量の 地域変動を調べた。その結 果 、独立気 泡内部の圧 カに温度 依存を考 慮する必 要が指摘 され、それによって過去に 一
推 定 され た 氷 期の 氷 床 高度 が 平均 で10〜130m 過大評価 されてい たことが結 論され たご
上 述のよう に、本論文 は、これ まで明ら かにされ ていなか った氷床の氷への独立気 泡 の取り込 みメカニズ ムについ て詳細な 研究を進 め、取り 込み開始密度には温度依存 性 があるが 氷化密度に はないこ とを示す ことによ って、独 立気泡中の空気の年代決定 に おける問題を解決したといえる。 ここで得られた知見は昨年ケンブリッジで開催さ れ た国際雪 氷学会でも 高く評価 され、今 後の極域 氷床の研 究に与える影響は非常に大 きいと考えられる。審査員一同は申請者が博士(理学)の学位を受けるのに十分な資格を 持っものと認める次第である。
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