博 士 ( 歯 学 ) 谷 村 幸 広
学 位 論 文 題 名
金属 イオン修 飾による二酸化チタン光触媒の 可視光応答性付与と歯科応用のための基礎研究
(Visible Light Responsibility of Titanium Dioxide Photocatalyst by Metal Ion Decoration and Basic Research into Its Dental Application)
学位論文内容の要旨
緒 言
近年 ,二 酸化 チタ ン(Ti02)光触媒に関する研究が盛んになり,応用もされている.光 触 媒 作 用 を励 起 す る
Ti02
は , ア ナ タ ー ゼ 型 で , 波 長380nm
以 下 の 紫 外 光 を 吸 収 す る こ とに より ,電 子が 価電 子帯から伝導帯に移動して電子・正孔対が形成され,オ各種の 活 性酸 素を 生成 し, これ らが表 面に 吸着 して いる ほと んど の有 機物 を酸 化分 解す る触 媒 作用 を示 す. 医療 分野 では, 現在 のと ころ 手術 室の タイ ル, 病室 の壁 紙な ど直 接患 者 には 接触 しな い状 態で 主に抗 菌作 用を 期待 して 用い られ てい る. これ らは ,従 来の 紫 外光 によ るTi02
光 触媒 作用を 利用 した もの であ り, 医学 の分 野で は紫 外光 は人 体に 対 して 為害 性を 惹起 する ため, 患者 への 臨床 応用 は困 難で あっ た. この 問題 を解 決す る ため に, 本研 究で はTi02
表面 を修 飾し 金属 を析 出さ せる こと で可 視光 応答 性を 付与 し,メチレンブルー色素分解試験でその最適処理条件を調べた.さらに,Streptococcusmutans
を使 用し た抗 菌試 験と, 抜去 歯を 用い た漂 白試 験を 行い ,臨 床応 用へ の可 能性 を 探索 した .実 験方 法 実 験
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色 素分 解実 験Ti02
粉 末 と し て , 粒 径0.3
ルm
お よ び 同6nm
の ア ナ タ ー ゼ 型Ti02
を 使 用 し , 粉 末l.Og
に 対し て, 原子 吸光 分析用金属標準液(Cu,Ag,Au,Pd,Pt)を適宜希釈して加え,光 析出 法に よル イオ ン修 飾Ti02試料 を作 製し た. 触媒 能は 色素 分解 能か ら評 価し た.
各 試料 をメ チレ ンブ ルー 水溶液 に加 え, 可視 光を 多目 的重合器(波長400〜600nm)によ り 照射 した .色 素分 解能 は,可 視光 照射 開始 から
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分 ごと に吸 光度 を測 定し ,吸 光度 変 化率 から 評価 した .実験2抗菌実験
細菌はS.mutansをBHI培地に接種して用いた.Ti02コーティング液を作製し,ガラ ス板にTi02薄膜をディップコーティングした.実験1と同様にTi02の薄膜にイオン析出 法により金属イオンを反応させた.S.mutansの生菌数を調整し,菌液を作製した.こ れを抗菌試験片のガラス板の上に滴下し,歯科用可視光線照射器(波長400〜520nm)に より,光照射を行った.光照射開始後15分ごとに試料上の菌液を採取しBHI寒天培地 に 接 種 , 培 養 し た 後 , コ ロ ニ ー 数 を 計 測 し 生 残 菌 数 の 比率 ( %) を 求め た . 実験3歯牙漂白試験
可及的に付着物を除去したヒト抜去歯牙を用いた.歯牙を着色用水溶液中に浸漬し,
着色モデ ルとした. 実験1. の方法によ り作製した 粒径0.3ルm Ag修飾Ti02粉末,
Ag/′Ti02量比30(ルg/g)を使用し,歯科用可視光線照射器で光照射を20分行い漂白を完 了とした .歯牙漂白 前後の状態 をデジタル カメラにて記録しAdobe Photoshop上で L*a*b*表色系によりL*,a*,b*値それぞれの平均値を求めた.この値から漂白前後の 色差を算出し,漂白の評価を行った.
結果
1.光触媒能の最適化処理
メチレンブルー色素液を用いた色素分解試験から光触媒能を最適に発揮する条件を 求めた、
1)紫外光析出時間依存性
Ti02表面に金属を光析出させる紫外光照射時間による触媒能の変化は,0.5時間以上 では光析出時間に依存しないことがわかった.
2) Ag/Ti02量依存性
Ti02粉末量に対 してAgイオン溶液濃度が一定の場合は,Agイオン溶液量に依存し て触媒能が変化する.すなわち,光触媒能は処理溶液濃度ではなく,溶液中の全イオ ン量に依存することがわかった.光触媒能の処理条件依存性は,Ag/Ti02量比(ルg/g) で統一的に表すことができた.
3)粒径と金属イオン量依存性(最適量比)
粒 径 の違 い によ る 触媒 能 を粒 径6nmと0.3 umで 比較 す ると 粒 径の6nmの方が約 2.5倍優 れた触媒能 を示した.これは粒径が6nmの方が表面積が大きくなるので吸着 能が良く なるためで あると考えられる.粒径0.3ロmではTi02表面を修飾する際の金 属 イ オ ン 量 は30ルg Ag/0. 3ルiii Ti02が 最 も 触 媒 能 が 優 れ て い た . 4冫金属イオン種依存性
Ti02表 面 を 修 飾 す る 際 の 金 属 イ オ ン の 種 類 に よ る触 媒 能の 違 いを 調 ぺた . Cu,Ag,Pd,Au,Ptの金属イオンにおいては,Agイオンで修飾した場合が最も優れてお
り他の4種につい てはほとん ど変わらな かった.この場合,粒径0.3 umのTi02粉末 に対する 本研究の最 適処理条件 はAg/Ti02比30ロg/g,光析出時間0.5時間で得られ た.さらに触媒を起こす際に効率をより良くする目的で,3%の過酸化水素水を添加し た.過酸 化水素水自 体は分解し て活性酸素 種を生じるため,Ag修飾Ti02の約3倍の 触媒効率の相乗効果が認められた.
2.抗菌試験
光を照射 しない条件ではAgイオン修飾Ti02コートガラス板は銀自体による若干の 抗菌作用がみられた.可視光を照射すると生残菌率が20%程度まで極端に低下した.
3.歯牙漂白試験
L*,a*,b*の各値から色差値を算出すると16.3となり数値的に十分な漂白効果が 得られた・
考察
Ti02光触媒は,T−24細胞,HeLa細胞などの悪性腫瘍細胞に有効との報告があるが,
これらの報告では紫外光を使用しており,その為害性から臨床応用には適当ではない.
可視光応答性の光触媒であれぱ生体に対して安全であり,臨床応用への可能性も考え られる.今回行った実験では,現在歯科臨床で実際に使用されている可視光照射器を 用いて抗菌試験および漂白試験を行い,比較的短時間で十分な効果が得られることが 示された .本研究で 用いたAgイオ ン修飾Ti02はTi02の励 起レた電子 を利用してAg イオンをTi02表面に付着させたものであり,通常の条件では口腔内で使用が可能と考 えられる,
結論
1.従来,紫外光が必須で臨床応用には不適当であったTi02光触媒に対して表面を金属 (Cu,Ag)イオンで修飾することにより,可視光応答性を付与する亠ことができた.
2.イ オン修飾のための光析出処理は0.5時間以内で完了し,光触媒能は金属イオン ノTi02量比に依存した.Agイオンの場合,0.3ルmのTi02粉末に対して最適イオン 量比(Ag/Ti02)は30(ルg/g)であった.
3.金属イオン種(Ag,Cu,Pt,Au,Pd)の中ではAgが最も色素分解能および抗菌作用が優 れ て お り , そ の 他 の 4種 に は ほ と ん ど 差 が み ら れ な か っ た . 4.ソリレーゲル法で作製したTi02コーティングガラス板を用いた抗菌試験では,未修飾 ではほぼO%に対し80%以上の抗菌効果を示した.
5.最適処理したTi02粉末を用いた歯牙漂白試験で視覚的,数値的に十分な効果が確認 できた.
6. 金 属 イオ ン 修飾 に よりTi02ヘの可視光 応答性の付 与と触媒効 率の増大が 確認 され , 抗菌 作 用, 歯 牙漂 白 等の 歯 科 臨床 へ の応 用 の可能性 が示唆され た.
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 戸 塚 靖 則 副 査 教 授 亘 理 文 夫 副 査 教 授 佐 野 英 彦
学 位 論 文 題 名
金属イオン修飾による二酸化チタン光触媒の 可視光応答性付与と歯科応用のための基礎研究
(Visible Light Responsibility of Titanium Dioxide Photocatalyst by Metal Ion Decoration and Basic Research into Its Dental Application)
審 査 は 、 審 査 員 全 員 出 席 の 下 に 、 申 請 者 に 対 し て 提 出 論 文 と そ れ に 関 連 し た 学 科 目 に つ い て ロ 頭 試 問 に よ り 行 わ れ た . 審 査 論 文 の 概 要 は 、 以 下 の 通 り で あ る . 本 研 究 は 、 二 酸 化 チ タ ン(Ti02) 光 触 媒 作 用 の 臨 床 応 用 へ の 可 能 性 を 検 索 す る た め 、Ti02表 面 を 修 飾 し 、 金 属 を 析 出 さ せ る こ と で 可 視 光 応 答 性 を 付 与 し 、 抗 菌 試 験 と漂白試験を行ったものである.
ま ず 、 メ チ レ ン プ ル ー 色 素 分 解 試 験 で そ の 最 適 処 理 条 件 を 調 べ た .Tioz粉 末 と し て 、 粒 径0.3彫mお よ び 同6nmの ア ナ タ ー ゼ 型Ti02を 使 用 し 、 粉 末1.Ogに 対 し て 原 子 吸 光 分 析 用 金 属標 準液(Cu,Ag,Au,Pd,Pt)を 適宜 希釈 して 加え 、光 析出 法に よル イオ ン 修 飾Ti02試 料 を 作 製 し た . 触 媒 能 は 色 素 分 解 能 か ら 評 価 し た . 各 試 料 を メ チ レ ン ブ ル ー 水 溶 液 に 加 え 、 可 視 光 を 多 目 的 重 合 器 ( 波 長400〜600nm)に よ り 照 射 し た . 色 素 分 解 能 は 、 可 視 光 照 射 開 始 か ら15分 ご と に 吸 光 度 を 測 定 し ・ 丶 吸 光度 変化 率か ら算 出 し た . 抗 菌 実 験 に はS.mutansをBHI培 地 に 接 種 し て 用 い た .Ti02コ ー テ イ ン グ 液 を 作 製 し 、 ガ ラ ス 板 にTi02薄 膜 を デ ィ ヅ プ コ ー テ イ ン グ し た . 実 験1と 同 様 にTi02薄 膜 に イ オ ン 析 出 法 に よ り 金 属 イ オ ン を 反 応 さ せ た .S.mutansの 生 菌 数 を 調 整 し 、 菌 液 を 作 製 し た . こ れ を 抗 菌 試 験 片 の ガ ラ ス 板 の 上 に 滴 下 し 、 歯 科 用 可 視光 線照 射器 (波 長 400〜520nmに よ り 、 光 照 射 を 行 っ た . 光 照 射 開 始 後15分 ご と に 試 料 上 の 菌 液 を 採 取 しBHI寒 天 培 地 に 接 種 、 培 養 し た 後 、 コ ロニ ー数 を計 測し 生残 菌数 の比 率( %) を求 め た . 歯 牙 漂 白 試 験 に は 、 可 及 的 に 付 着 物 を 除 去 し た ヒ ト 抜 去 歯 牙 を 用 い た . 歯 牙 を 着 色 用 水 溶 液 中 に 浸 漬 し 、 着 色 モ デ ル と し た . 実 験1. の 方 法 に よ り作 製し た粒 径0.3 彫m Ag修 飾Ti02粉 末 、Ag/Ti02量 比30( ルg/g) 亀健 用し 、歯 科用 可視 光線 照射 器で 光 照 射 を20分 行 い 漂 自 を 完 了 と し た . 歯 芽 漂 白 前 後 の 状 態 を デ ジ タ ル カ メ ラ に て 記 録 しAdobe Photoshl上でL゛a゛b゛表色系 によりL゛,a*,b゛値それそれの平均値を求めた.
この値から漂自前後の色差を算出し、漂 白の評価を行った・
Ti02表 面 に 金 属 を 光 析 出 さ せ る 紫 外 光 照 射 時 間 に よ る 触 媒 能 の 変 化 は 、0.5時 間 以 上 で は 光 析 出 時 間 に 依 存 し な か っ た ・Ag/Ti02量 依 存 性 は 、Ti02粉 末 量 に 対 し て Agイ オ ン 溶 液 濃 度 が 一 定 の 場 合 は 、Agイ オ ン 溶 液 量 に 依 存 し て 触 媒 能 が 変 化 し た ・ す な わ ち 、 光 触 媒 能 は 処 理 溶 液 濃 度 で は な く 、 溶 液 中 の 全 イ オ ン 量に 依存 する こと 、
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