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「絶滅危惧チョウ類保全のためのシカの食害(過剰採食)防止に関わる要望書」の提出について

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Academic year: 2021

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「絶滅危惧チョウ類保全のためのシカの食害

(過剰採食)防止に関わる要望書」の提出について

日本鱗翅学会自然保護委員会  2016年秋の本学会評議員会にて,近年ではシカに よる食害(過剰菜食)で植物,昆虫などが大打撃を 受け,生物多様性が著しく失われているとの議題が 挙がりました.そのため,本会自然保護委員会が各 地区保護委員長の取りまとめで1年を目処に各地区 単位で情報を集積し,レッドリスト対象種を主体と した保全優先種やその地域を選定した上で,本会か ら環境省・農林水産省に要望書を提出することが理 事・評議員会にて決定されました.そこで集積デー タの検討後,2018年12月25日に本学会は次の要望書 を環境大臣,農林水産大臣宛に提出しました. (以下,要望書全文) 環境大臣    原田 義昭 様 農林水産大臣  吉川 貴盛 様 絶滅危惧チョウ類保全のためのシカの食害(過剰採 食)防止に関わる要望書  近年,全国各地でニホンジカ(以下,シカという) が急増しながら分布を拡大しており,農業や林業に 大きな被害を与えております.また,日本の貴重な 自然植生の衰退や生態系への悪影響も多数報告され ています.その他にもシカの激増に伴うヤマビルや ダニ類の増加による人的被害も深刻な問題となって います.  このような状況下,国や地方自治体では主に農林 被害防除のための防護柵の設置や個体数調整のため の捕獲等が各地で行われております.自然保護の観 点からは,環境省主導による防護柵をはじめとした 防除対策の取り組みが進められております.その一 方で,これらの主目的は一部の希少植物の回復や保 全のためとするものがほとんどで,希少昆虫に視点 を向けた多様性保全のためのシカ防護柵は,これま でにほとんど設けられていないのが実状です.  日本鱗翅学会では自然保護委員会を設けて,環境 指標として有用なチョウ・ガ類の推移を調査しなが ら,科学的知見を蓄積した専門家集団として各種の 自然保護活動に取り組んできました.特に日本の生 物多様性保全を検討する上での重要な指針を定期的 に提示しながら,各地での保全活動に寄与したり, 環境省レッドリストの改訂にも情報を提供し続けて います.この活動の一環で,シカ食害により激減す る絶滅危惧チョウ類に関しての緊急を要するシカ防 護柵の設置要請が,複数の地域から持ち上がりまし た.早急に防護柵を設置して,シカの食害から保全 すべきチョウ類と地域は以下の通りです. 1)長野県のミヤマシロチョウ  ミヤマシロチョウ(環境省RL:EN):中部地方 の亜高山帯に局地的ながらも広く生息していたが, 現在の生息地は数カ所のみとなった.特に長野県で の最近の本種の激減は,吸蜜植物や幼虫の食樹の食 害が増加してきたためにシカ食害による可能性が高 く,早急な防護柵の設置を必要としている. 2)長野県佐久地域のヤマキチョウ  ヤマキチョウ(環境省RL:EN):東北~中部の 草原帯に生息していたが,東北では絶滅して久しい. 産地が多かった中部地方でも最近では激減し,シカ による食樹や吸蜜植物の枯渇が原因と考えられる ケースも目立つ.特に長野県佐久地方では保全活動 が進められているが,シカ食害の影響が大きく響い ている. 3)入笠山・仙丈ヶ岳周辺のコヒオドシ  コヒオドシ(環境省RL:未掲載):本州では中部 高地帯にのみ生息する高山チョウであるが,特に南 アルプスでは,シカ害による食草イラクサ類の減少 に伴って本種が激減している可能性が高い.中でも 長野県の伊那市と諏訪郡富士見町にまたがる入笠山

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や仙丈ヶ岳周辺の本種が極めて少なくなっている. 4)長野県各地のコヒョウモンモドキ  コヒョウモンモドキ(環境省RL:EN):関東・ 中部の山地帯の草原で局地的に広く生息していた が,シカ害による食草クガイソウや吸蜜植物の激減 で多くの産地が消滅した.長野県内ではまだ数ヶ所 の産地が残されているが,いずれもシカ害の脅威に 脅かされており,いつ絶滅してもおかしくない状況 である. 5)仙丈ヶ岳周辺のタカネキマダラセセリ  タカネキマダラセセリ南アルプス亜種(環境省 RL:CR,「種の保存法」指定種):本固有亜種は亜 高山帯の沢沿いやカール地形上部の草付きで局所的 に生息していたが,シカ食害による影響で食草イワ ノガリヤスが失われ,日本産チョウ類の亜種レベル の個体群としては,最も深刻な状況に陥っている. 6)大阪府豊能町鴻応山のギフチョウ ギフチョウ(環境省RL:VU):大阪府では北摂地方, 生駒山,大和葛城山・金剛山系に広く分布していた が,現在は鴻応山など数ヶ所のみ.2000年以降はシ カ害が顕著となり,食草ミヤコアオイの減少で本種 は絶滅寸前である.鴻応山の産地は防鹿柵の設置に 有効な地理的条件を備え,早急な対策が求められる. 7)兵庫県豊岡市市街地周辺のギフチョウ  ギフチョウ(環境省RL:VU):近畿の本種は激減 し,特に低地で著しいが,豊岡市は残された数少な い産地で,道路や河川,農地に囲まれて点在する二 次林に生息する.1980年代は豊岡市内に20ヶ所あっ た産地が,主にシカ食害で食草,吸蜜植物が激減し, 現在では上記3ヶ所で少数生息するのみとなった. 8)兵庫県豊岡市のクロシジミ  クロシジミ(環境省RL:EN):この地域は草原 環境が維持され,近年各地で絶滅した植物や昆虫が 残されている.本種は兵庫県内全域に分布していた が(旧29市町),現在でも多くの個体が見られるの はこの地だけとなった.シカの密度は高く,最近で も侵入した形跡があり,迅速な対応が必要. 9) 兵庫県養父市・香美町ハチ高原のウスイロヒョ ウモンモドキ  ウスイロヒョウモンモドキ(環境省RL:CR,「種 の保存法」指定種):シカ食害で2011年ごろから生 息地のススキ草原で食草や吸蜜植物が激減し,2015 年に本種は一時的に野生絶滅に陥った.かろうじて 人工繁殖させた系統保存個体があったために個体群 絶滅を免れているが,危機的状況は脱していない. 10)岡山県恩原高原のウスイロヒョウモンモドキ  ウスイロヒョウモンモドキ(環境省RL:CR,「種 の保存法」指定種):主に中国地方の草原帯にのみ 局地的に産するが,すでに多くの産地が消滅して現 在は数ヶ所しか残されていない.恩原高原ではシカ の影響による大打撃は受けていないが,すでにシカ の食害が起こり始めていることから,早急な対応が 望まれる.  これらの10地域は,一部の私有地を除けば国や府 県の所有地であるところが多く,防護柵の設置に関 する調整も比較的容易と思われますし,設置後の管 理をご協力頂けそうな団体・諸氏もほぼ備えており ます.また,特定の絶滅危惧チョウ類だけでなく, 他の貴重な動植物も多く生息している地域でもある ことから,在来の自然環境を守ることで,同時に多 くの絶滅危惧種を保全することが可能です.必ずし も大規模な防護柵は必要とせず,小面積のものを複 数設置する方がより大きな効果があります.  2010年に採択された生物多様性条約の愛知目標を 受けて,2012年に閣議決定された「生物多様性国家 戦略 2012-2020」では,絶滅のおそれのある種の保 全が国の重要な施策と位置付けられました.また, 環境省では種の保存法の一部改正で「特定第二種国 内希少野生動植物種」制度を創設し,生息地等保護 区の指定による保全も図ることから,シカの防除対 策は生物多様性保全の視点から極めて重要な課題で あり,チョウ類をはじめとする昆虫の保全について も積極的に取り組んで頂くことを強く要望致します.  つきましては,本件に関して貴職におかれまして は何卒ご尽力賜りますようお願い申し上げます.な お,本学会は専門家集団としてご協力させて頂く用 意がございますことを最後に申し添えます.   2018年12月25日 日本鱗翅学会会長 岩野 秀俊 (日本大学生物資源科学部教授) [学会本部]  勝美印刷株式会社内 日本鱗翅学会事務局  〒113-0001 東京都文京区白山1-13-7        アクア白山ビル5F

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[担当]  日本鱗翅学会自然保護委員長 矢後 勝也  〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1        東京大学 総合研究博物館  Tel. 03-5841-8455;Fax. 03-5841-8451   E-mail: [email protected] (本件に関わる連絡の必要がありましたら,上記担 当自然保護委員長宛にお願い致します)  本要望書の提出後,環境省自然環境局野生生物課 鳥獣保護管理室の友岡郁路氏より電話連絡があり, 本省にてヒアリングを実施したい旨の説明を頂きま した.そこで面会の日程調整を進め,2019年1月31 日に八木孝司会長,平井規央自然保護副委員長,そ して自然保護委員長である矢後の3名で千代田区霞 が関の環境省自然環境局野生生物課を訪れて,同課 希少種保全推進室の番匠克二希少種保全推進室長, 松木崇司室長補佐,大門亮介氏,田中里奈氏,さら には同課鳥獣保護管理室の野川裕史室長補佐とお会 いし,要望書の詳細を説明するとともに,追加資料 の提出を行いました(写真).今後は要望した地域 でのシカ防護柵の設置やその後の保全体制などに可 能性について綿密に打ち合わせを重ねながら,実現 に向けて取り組む予定です. (文責:自然保護委員長 矢後勝也) 本会の八木孝司会長が要望書に関する追加資料を環境省 野生生物課希少種保全推進室の番匠克二室長に提出する 様子.

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