77 関東東山病害虫研究会報 第66 集(2019)
1980 年,静岡県のメロン栽培において初めてミナミキイ ロアザミウマThrips palmi Karny の発生が確認された(池田, 1981)。それ以降,メロン栽培では薬剤中心の防除が行われ てきたが,近年は様々な殺虫剤に対して感受性が低下してき たため(石川ら,2016),農薬以外の防除技術の開発が求め られている。最近,赤色光(620 ~ 660 nm)を光強度 1 × 1018 photons・m-2・s-1で植物体に照射することで,本種の 定着を抑制できることが明らかとなった(片井ら,2015; 柴尾・田中,2015;石川ら,2018;Murata et al.,2018)。 今回,内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:生研支援センター) の支援を受け,防除用赤色LED 装置の実用化を目指し,試 作装置を現地慣行栽培のメロン温室に設置してミナミキイロ アザミウマに対する密度抑制効果を検証した。本文に先立ち, 実証試験の実施にご協力下さった静岡県温室農業協同組合の 関係各位に深謝する。 材料および方法 試験には株式会社光波が作製した装置を用いた(第1 図)。 これは赤色LED 電球(ピーク波長約 660 nm)を 6 個並べ た照明器具をコードにより2 m 間隔で配置した装置である (以下,赤色LED 装置とする)。温室内の通路上,高さ約 2 m に針金を張り,針金に本装置を吊り下げた(第 2 図)。設 置後,隔離ベットの畝面から装置の距離は1.6 ~ 1.8 m で あった。 試験は静岡県掛川市内の2 か所の園地で実施した。園地 A は間口7 m ×長さ 20 m の温室 10 棟を有し,アザミウマ防 除は殺虫剤を利用した。園地B は間口 7 m ×長さ 27 m の 温室6 棟を有し,アザミウマ防除はスワルスキーカブリダ ニAmblyseius swirskii Athias-Henriot とカブリダニに影響の 少ない殺虫剤を利用した。これら園地の育苗とアザミウマ防 除の概要を第1 表に示した。 各園地の中で定植時期が連続する温室2 棟を選び,定植時 期の早い棟に赤色LED 装置を設置し(LED 区とする),も う一方を対照区とした。なお,園地A の LED 区において温 室内12 か所の畝面上 0.25 m 高で光強度を計測した結果(コ ニカミノルタ製分光放射照度計CL-500A を使用),平均 0.97 ×1018 photons・m-2・s-1であった。 試験は2018 年 7 月から翌年 3 月まで各園地で 3 作に渡っ て実施した(第2 表,7 月定植を夏作,9 ~ 10 月定植を秋 作,12 ~ 1 月定植を冬作とする)。赤色 LED 装置の点灯は
メロン栽培温室における赤色
LED 照明装置の設置による
ミナミキイロアザミウマの密度抑制効果
(静岡県農林技術研究所・*株式会社光波)Effect of Red LED Lighting System in Commercial Melon Green House
on Control of Melon Thrips Thrips palmi
Haruki K
ATAYAMA1,†, Makoto D
OI, Chiharu S
AITOand Hiroki I
WAZAKI1 Address:Shizuoka Prefecture Research Institute of Agriculture and Forestry, Tomioka 678-1, Iwata, Shizuoka 438-0803, Japan † [email protected] 2019 年 4 月 19 日受領 2019 年 7 月 26 日登載決定
片山晴喜
†・土井 誠・斉藤千温・岩崎大樹
* 摘 要 防除用赤色LED 装置を試作し,現地慣行栽培のメロン温室に設置してミナミキイロアザミウマの密度抑制効 果を2 園地で 3 作に渡って検証した。頂芽の成虫に対する密度抑制効果を確認するとともに,スワルスキーカブ リダニを利用する温室では展開葉の成幼虫密度を抑制する効果も確認し,試作機の有効性を実証した。殺虫剤に 対する感受性が低下しているメロンのミナミキイロアザミウマに対して,赤色光照射とスワルスキーカブリダニ の組合せは,省力的かつ効果的な防除体系となる可能性が示唆された。Key words: melon thrips Thrips palmi, red irradiation, phytoseiid mite, IPM
78 Annual Report of the Kanto-Tosan Plant Protection Society, No. 66 2019 日の出・日の入時刻が記録されたタイマー(パナソニック製 TB4411101)により制御し,夏作では日の出から日の入まで, 秋作および冬作では日の出1 時間前から日の入 1 時間後ま で点灯した。 園地A では各区 20 株,園地 B では各区 24 株を調査株に 選定し,調査は定植7 ~ 22 日後から収穫前日~ 12 日前ま での間に,約10 日間隔で実施した。定植から頂芽除去まで は頂芽と株中位の展開葉1枚を,それ以降は上から2 ~ 4 葉目および中位の展開葉の各半葉を対象に,アザミウマを成 幼虫別に計数した。なお,園地B ではカブリダニ雌成虫も 同時に計数した。計数には2.5 倍のヘッドルーペを用い,計 数したアザミウマ成虫の形体から全てミナミキイロアザミウ マと考えられた(以下,アザミウマとする)。 アザミウマ個体数の統計解析は,頂芽または展開葉1 枚 当りの虫数を対数変換(log(n+0.5))した上で,混合モデル の分散分析を行った。頂芽の成虫数は季節および調査時期を 変量効果として,処理と園地および交互作用の効果を解析し た(園地B の秋作は 1 回のみの調査のため,解析から除いた)。 また,展開葉における成虫または幼虫の発生ピーク日の虫数 について,季節を変量効果として,処理と園地および交互作 用の効果を解析した。なお,統計解析はJMPver.10 を用い, 交互作用が有意な場合はTukey の HSD 検定を行った。 結 果 1.頂芽のミナミキイロアザミウマ成虫に対する効果 園地A では定植から頂芽除去までに必ず 2 回の殺虫剤散 布が行われた。この間に2 回,頂芽を調査したところ,対 照区では全ての作でアザミウマ成虫数が増加したが,LED 区は夏作の試験では成虫数に変化はなく,秋作と冬作では減 少した(第3 図 A)。 園地B では,夏作の LED 区を除いて頂芽除去までに 1 回 殺虫剤が散布された。この間に夏作と冬作では2 回調査し たところ,対照区では両作ともアザミウマ成虫数が増加した が,夏作のLED 区では増加せず,冬作では増加したが,対 照区より少なかった(第4 図 A)。 園地A の 3 回の試験および園地 B の夏作および冬作の試 験を分析した結果,頂芽のアザミウマ成虫数について処理と 園地の交互作用は認められず,処理間に差が認められた(変 量効果を考慮した検定 df=1, F=8.0449, p=0.0061)。 2.展開葉上のミナミキイロアザミウマに対する効果 園地A では,頂芽除去から収穫の間に 4 ~ 5 回殺虫剤が 散布されたが,夏作と冬作では定植40 日以降に,秋作では 収穫直前に,両区とも葉上のアザミウマ成虫および幼虫数が 増加した(第3 図 B,C)。秋作では LED 区のアザミウマ成 虫および幼虫の発生ピーク日の虫数は対照区より少なかった
N
20m
7m
2m タイマー 隔離ベット 1.5m 2.5m 照明器具 電気コード 第2 図 赤色 LED 装置の設置状況(園地 A を例に示す) 第1 表 試験園地におけるメロンの育苗とアザミウマ 防除の概要 園地 育苗場所a) アザミウマ用 薬剤防除回数b) 利用の有無カブリダニ A 栽培温室 6 ~ 7 回 無 B 育苗専用温室 2 ~ 3 回 有c) a) 園地 A では栽培温室内を赤色ネットで 2 等分し, 一方でメロン栽培を行いながら育苗を行い, 育苗中にネオニコチノイド系殺虫剤を1 回散布した. 園地B では育苗中の薬剤防除は実施されなかった. b) 定植から収穫までの薬剤防除回数を示す. 園地B ではカブリダニに影響の少ない殺虫剤が使用 された. c) 定植後 12 ~ 16 日目に石原産業製保護装置付スワル スキーカブリダニ製剤を温室当り100 個施用した. 第2 表 各試験温室におけるメロンの定植日(年 / 月 / 日) 園地 処理区 夏作 秋作 冬作 A LED 2018/ 7/12 2018/10/ 3 2018/12/31 対照 2018/ 7/22 2018/10/11 2019/ 1/10 B LED 2018/ 7/10 2018/ 9/24 2018/12/17 対照 2018/ 7/21 2018/10/ 6 2018/12/2979 関東東山病害虫研究会報 第66 集(2019) が,夏作と冬作では対照区と同等か,多かった。 園地B では,冬作の対照区を除いて,カブリダニ製剤設 置直後から葉上でカブリダニ雌成虫を確認した(第4 図 D)。 頂芽除去後,夏作および秋作には2 回,冬作では 1 回殺虫 剤が散布され,各作とも対照区のアザミウマ成虫数は栽培中 期に最多となった。これに対して,LED 区のアザミウマ成 虫発生ピーク日の虫数は3 作ともに対照区の半分以下とな り(第4 図 B),幼虫発生ピーク日の虫数も対照区より少な かった(第4 図 C)。 2 園地の結果から,アザミウマ成虫または幼虫の発生 ピーク日の展開葉当り虫数は,処理と園地の交互作用が有 意であり(変量効果を考慮した検定 成虫 df=1, F=10.5491, p=0.0014;幼虫 df=1, F=7.1227, p=0.0082),園地 A では処 理間に差は認められなかったが,園地B では成虫,幼虫と もに処理間で差が認められた(第3 表)。 考 察 赤色光照射に関する先行研究ではメロン,ナスへの照射に よりミナミキイロアザミウマの密度抑制効果が示されている (片井ら,2015;柴尾・田中,2015;石川ら,2018)。本研 究でも2 園地の試験結果から頂芽の本種成虫に対する密度 抑制効果が,園地B の試験では展開葉の本種成虫および幼 虫に対する密度抑制効果が示された。従って,本試験に供試 した赤色LED 装置はメロンに発生するミナミキイロアザミ ウマに対して密度抑制効果があると考えられる。 しかし,園地A では展開葉のアザミウマに対する密度抑 制効果は認められなかった。園地A は栽培温室内で育苗す るため(第1 表),本種が寄生した苗を定植したと考えら れる。実際,頂芽のアザミウマ成虫数は園地B より多かっ た(変量効果を考慮した検定df=1, F=47.2102, p<0.0001)。 Murata et al.(2018)は,赤色光照射によるミナミキイロ アザミウマの密度抑制効果は,植物体への成虫の定着を抑制 する効果であり,すでに定着している成虫を植物から引き離 す効果は小さいことを指摘している。試験を実施した地域の 個体群は様々な殺虫剤に対して感受性が低下しているため (石川ら,2016),苗により持ち込んだ本種を殺虫剤で十分 には抑制できず,園地A では展開葉のアザミウマに対して 赤色光照射による抑制効果が現れなかったと推測される。 園地B では,散布回数が園地 A より少なかったが,展開 葉におけるアザミウマ幼虫発生ピーク日の虫数は園地A よ り少なかった(第3 表)。増井・芳賀(2010)は定植時のジ ノテフラン粒剤とスワルスキーカブリダニ放飼の体系により 本種幼虫を抑制できることを示している。本研究でもスワル スキーカブリダニ放飼直後から展開葉上にカブリダニ雌成虫 を確認したことから,放飼したカブリダニによる抑制効果が 100 150 200 0 1 2 3 0 10 20 30 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 6 6 5 3A 15 un 6 15 5 6 5 15 0 20 40 60 80 0 20 40 60 80 成 虫 / 展 開 葉 幼 虫 / 展 開 葉 成 虫 / 芽 5 15 4A+ 5 3A un 6+15 6 15 5 3A un+15 5
3A 15 5 4A+6 3A+5 15+un 6 15 5 3A4A+un 3A+5 6+15 定植後日数
A
B
C
夏作
秋作
冬作
LED区 対照区 頂芽 除去 第3 図 園地 A のメロン3作における頂芽のミナミキイロアザミウマ成虫(A),展開葉の同成虫(B)および幼虫(C)の密度推移に対する 赤色LED 装置の効果 最上段の実線はLED 区,点線は対照区の栽培期間を,◇は LED 区の,◆は対照区の殺虫剤散布日を示す(上の数値は殺虫剤成分の IRAC コード).Aの垂線(点線)は頂芽除去日を,各プロットの垂線は標準誤差を示す.80 Annual Report of the Kanto-Tosan Plant Protection Society, No. 66 2019 現れていたと考えられる。その中で,園地B の LED 区では 頂芽のアザミウマ成虫,展開葉のアザミウマ成虫と幼虫の虫 数が対照区より少なかった(第3 表,第 4 図)。スワルスキー カブリダニはアザミウマ類の1 齢幼虫を捕食するが,成虫 を捕食できない(山中,2014)。LED 区では本種成虫に対 する赤色光照射の定着抑制効果と,幼虫に対するカブリダニ の捕食効果が相加され,本種の成幼虫密度を対照区より低く 維持したと推測される。なお,園地B では 1.9 a の温室に保 護装置付カブリダニ製剤100 個を投入した。今後は,赤色 光照射との併用によるカブリダニ製剤投入量の削減や殺虫剤 散布回数の削減を検討し,より省力的かつ効果的な赤色光照 射とカブリダニ放飼の防除体系を確立する必要がある。 引 用 文 献 池田二三高 (1981) 植物防疫 35: 289-290. 石川隆輔ら (2016) 関東東山病害虫研究会報 63: 65-68. 石川隆輔ら (2018) 植物防疫 72: 85-87. 片井祐介ら (2015) 日本応用動物昆虫学会誌 59: 1-6. 増井伸一・芳賀 一 (2010) 関東東山病害虫研究会報 57: 79-81.
Murata, M. et al. (2018) Appl. Entomol. Zool. 53: 117-128. 柴尾 学・田中 寛 (2015) 日本応用動物昆虫学会誌 59: 7-9. 山中 聡 (2014) 植物防疫 64: 41-44. 0 0.2 0.4 0.6 0.81 0 5 10 15 0 5 10 15 20 0 2 4 6 8 10 0 20 40 60 80 60 80 100 120 0 20 40 60 80 0 20 40 60 80
夏作
秋作
冬作
15 4A 25 25 4A 4A un un 4A un 4A 6 4A 6 29 定植後日数 頂芽 除去A
B
C
D
成 虫 / 芽 成 虫 / 展 開 葉 幼 虫 / 展 開 葉 カ ブ リ ダ ニ 雌 成 虫 / 展 開 葉 LED区 対照区 第4 図 園地Bのメロン 3 作における頂芽のミナミキイロアザミウマ成虫(A),展開葉の同成虫(B)と幼虫(C)およびカブリダニ雌成虫(D) の密度推移に対する赤色LED 装置の効果最上段の実線はLED 区,点線は対照区の栽培期間を,◇は LED 区の,◆は対照区の殺虫剤散布日(上の数値は殺虫剤成分の IRAC コー ド),☆はカブリダニ放飼日を示す.Aの垂線(点線)は頂芽除去日を,プロットの垂線は標準誤差を示す. 第3 表 メロンの展開葉におけるミナミキイロアザミ ウマ発生ピーク日の葉当り成虫および幼虫数 (数値は3 試験の平均値± S.E.) 園地 処理区 生息数/葉 a) 成虫 幼虫 A LED 16.6±2.4 b 72.8±13.5 c 対照 12.2±1.4 b 29.8± 3.0 c B LED 2.6±0.3 a 4.4± 0.8 a 対照 8.1±0.9 b 26.5± 5.2 b a) 数値右の同アルファベットは危険率で有意差のない ことを示す(log(n+0.5) 変換後の Tukey の HSD 検定).